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1973-01-27 第71回国会 参議院 本会議 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年一月二十七日(土曜日)    ○開 会 式  午前十時五十九分 参議院議長衆議院参議院の副議長常任委員長及び議員内閣総理大臣その他の国務大臣及び最高裁判所長官は、式場に入り、所定の位置に着いた。  午前十一時一分 天皇陛下衆議院議長の前行で式場に入られ、お席に着かれた。    〔一同敬礼〕  午前十一時二分 衆議院議長中村梅吉君は式場の中央に進み、次の式辞を述べた。    式 辞   天皇陛下の御臨席をいただき、第七十一回国会開会式をあげるにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。   昨年十二月十日衆議院議員の総選挙が行なわれ、同月二十二日をもつて特別国会が召集されたのでありますが、われわれは、この際、決意を新たにして国政を議し、議会制民主主義機能を十分に発揮し、内にあつて国民生活の安定、福祉向上、外にあつては諸外国との平和と友好維持増進に、たゆみ内努力をかさね、わが国が当面する諸問題の解決をはからなければなりません。   ここに、国会は過般の総選挙による新議員を迎え、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もつて国民の委託にこたえようとするものであります。  次いで、天皇陛下から次のおことばを賜った。    おことば   本日、第七十一回国会開会式に臨み、衆議院議員選挙による新議員を迎え、ここに、全国民を代表する諸君と親しく一堂に会することは、わたくしの喜びとするところであります。   国会が、世界の平和とわが国の反映のため、たゆみない努力を続けていることは、深く多とするところであります。   現下の内外情勢は、きわめて多端であります。この間に処して、さらに国民生活の安定と文化発展をはかるとともに、諸外国との友好親善を深めていくためには、なお、いつそうの努力を要すると思います。   ここに、国会が、当面する諸問題を審議するにあたり、国権の最高機関として、その使命を遺憾なく果たし、国民の信託にこたえることを切に望みます。    〔一同敬礼〕  衆議院議長はおことば書をお受けした。  天皇陛下参議院議長の前行で式場を出られた。  次いで、一同式場を出た。    午前十一時八分式を終わる 昭和四十八年一月二十七日(土曜日)    午後三時八分開議     —————————————議事日程第二号  昭和四十八年一月二十七日    午後三時開議  第一 国務大臣演説に関する件     ————————————— ○本日の会議に付した案件  議事日程のとおり      —————・—————
  2. 河野謙三

    議長河野謙三君) これより会議を開きます。  日程第一 国務大臣演説に関する件  内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、小坂国務大臣から経済に関し、それぞれ発言を求められております。これより順次発言を許します。田中内閣総理大臣。    〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手
  3. 田中角榮

    国務大臣田中角榮君) 第七十一回国会の再開にあたり、施政に関し所信を申し述べます。  世界が注目し待望していたベトナム和平は、明日を期して実現することになりました。これは、長かったベトナム紛争が解決に踏み出したというだけでなく、新しい平和の幕あけであります。人類が恒久平和と社会正義に基づく繁栄の実現に向かい、新しく進むべき第一日を迎えたものと思います。  第二次大戦後、四半世紀余の歳月が過ぎました。国際政治は、力による対立の時代を経て、話し合い、協調へと移行してきました。これは、緊張と混迷の中で多くの経験を積んだ人類の英知の勝利であります。  わが国は、戦後、世界に例のない平和憲法を持ち、国際紛争を武力で解決しない方針を定め、非核三原則を堅持し、平和国家として生きてまいりました。これは正しい道であったと思います。  今日、大きな経済力を持つに至ったわが国は、国際政治国際経済の転換期の中で、平和の享受者たるにとどまることなく、新しい平和の創造に進んで参画し、その責務を果たすべきであります。この際、平和を一そう確実なものとするため、核をはじめとする全般的な国際軍縮に貢献してまいりたいと考えます。  東西問題のあとを受けて大きく浮かび上がってきたのは、南北問題であります。地球上における富の偏在を改め、南北問題を合理的に解決することなくして、真の平和を確保することはできません。  敗戦ですべてを失ったわが国も、四半世紀前はゼロから出発し、経済の復興に取り組んだのであります。その後、お互いが汗水を流し、一所懸命に働いたかいあって、IMF十四条国から八条国へのステップを踏み、わが国は、いまや国際社会に大きな影響を及ぼす国に成長したのであります。南の開発途上国が経済的な自立、社会的な安定を達成できるよう、わが国経済力と技術の力を提供し、援助することは、わが国に対する世界的な要請であり、国際社会に対するわが国の責務でもあります。わが国の援助は、量的には、国際的目標である国民総生産の一%をほぼ達成いたしております。しかし、政府援助の拡大、借款条件の緩和、ひもつきでない援助の推進など、質の面ではOECD加盟諸国平均水準を下回っております。援助の質の改善については、国連貿易開発会議において表明した基本方針に従って最善の努力を続け、相手国にほんとうに役立つ援助をしてまいります。  わが国が直面している緊急課題は、ベトナムに実現しつつある平和を確固たるものにするための貢献であります。戦火に荒らされたインドシナ地域の復興、建設のため、できる限りの努力を尽くすとともに、ようやくできかけた和平を定着させるため、アジア諸国をはじめ太平洋諸国を網羅した国際会議の開催の可能性を検討したいと考えております。もとより、アジア国際政治はヨーロッパに比べてはるかに複雑であり、新しい安定の基盤を築くことは容易なことではありません。戦後の復興とインドシナ半島の平和維持のため、真剣な討議の場が設けられ、よりよい方策が見出されるならば、平和はやがてアジア全体の安定につながっていくのであります。  政府が、長い間の懸案であった中華人民共和国との関係を正常化したのも、アジアの平和と安定に寄与すると考えたからであります。今後は、互恵平等の精神で両国間の親善友好関係の基盤を一そう固めていかなければなりません。近く大使を派遣し、多くの実務関係の円滑な処理に当たらせたいと考えております。  同じく隣国であるソ連とは、平和条約の締結が懸案となっておりますが、すでに軌道に乗っております両国の関係は、経済、文化の分野で年々着実な発展を遂げております。特に、シベリアの開発協力については、日ソ両国にとって長期にわたり有意義なものとなるよう実現に努力したいと思います。  わが国が、政治信条社会体制を異にする諸国との間に対話を進め、平和な国際社会の建設に積極的に参画していくためには、わが国と同じ自由と民主主義を奉ずる諸国との友好関係の維持が基本であり、実際的であることは言うまでもありません。その中で、特に日米関係が重要であることは、私が就任以来一貫して強調してきたところであります。  この機会に、わが国の防衛について一言いたします。  わが国必要最小限自衛力を保持することは、独立国として平和と安全を確保するための義務であり、責任でもあります。しかし、自衛力の保持とあわせて、日米安全保障体制を維持しつつ、国際協調のための積極的な外交の展開、物心両面における国民生活の安定と向上、国民すべてが心から愛することのできる国土と社会の建設、これらがしっかりと組み合わされる中に、わが国の平和と安全が保障されることを強調したいのであります。  いまから二十年前、二千八百二十四カ所もあった本土の在日米軍施認区域は、いまや九十カ所に整理統合されました。加えて、さきに開かれた日米安全保障協議委員会において、本土及び沖縄を通じ十カ所の施設区域整理統合が合意されたのであります。これは、本土では関東平野の首都圏、沖縄では県都那覇という国民にとって社会的、経済的に最も重要な地域での整理統合であり、その意義はきわめて大きいと思います。政府は、わが国の独立と安全のため必要な施設区域は今後とも提供を続けてまいります、同時に、急速な都市化現象などによって引き起こされている基地問題と真剣に取り組み、その整理統合を検討するとともに、基地と周辺住民の間に無用な摩擦が生じないように万全の対策をとっていく考えであります。  わが国は、いま、内外から国際収支改善対策を迫られております。資源に乏しく、狭い国土に一億をこす人口をかかえるわが国は、海外から原材料を輸入し、これに付加価値を加え、製品として輸出するという貿易形態をとっております。貿易の振興を国是としてきたわが国は、自由世界第二位の経済力を持ち、二百億ドルに近い外貨準備を持つようになったのであります。しかし、わが国がいままでのように大幅な国際収支の黒字を累増させていくことは、国際的な理解を得られないだけではなく、国際社会において最も大切な信頼を失うことにもなります。このため、昭和四十六年十二月、多国間通貨調整の一環として円平価切り上げを行ないました。さらに、輸出の適正化、輸入の拡大、経済協力の拡充、国内景気の振興による輸出の内需への転換などに総力をあげて取り組んでまいりました。さきの臨時国会で、過大ではないか、との批判を受けながらも六千五百億円の補正予算を編成したのは、このためでありました。しかし、このような努力にもかかわらず、なお所期の目的を達成しておりません。輸入は増大しておりますが、輸出もなおかなりの高水準を続けており、昭和四十七年度を通じ、貿易収支の黒字は、八十九億ドルと見込まれておるのであります。このような状況のもとで、一部に円の再切り上げ論が唱えられております。しかし、一昨年の平価調整の効果はまだ完全にあらわれておりませんし、円の再切り上げわが国経済に与える影響を考えれば、切り上げ回避のためあらゆる努力をいたさなければなりません。貿易立国を国是としているわが国は、自由貿易が阻害されるような事態を避けるため、全力を傾ける必要があります。現に、国際間には保護主義が台頭しつつあります。このような事態が進む場合、広い意味では南北問題を解決するための大きな障害ともなりますし、わが国経済の発展を阻害することにもなります。わが国がガットの場においてケネディ・ラウンドを積極的に推進し、現に新国際ラウンドを提唱しておるのはこのためであります。  国際収支の均衡をはかることは、緊急の課題であります。このため関税の引き下げ、輸入・資本の自由化を一そう推進しなければなりませんが、国内には自由化に耐えられない分野があることも事実であります。しかし、政府としては、この大目標を達成するため、国内対策に万全を期しながら自由化を進めていかなければならないと考えるのであります。  わが国は、戦後驚異的な経済成長を遂げ、国民総生産は百兆円に達しようとしております。昭和三十年の十二倍であります。一人当たり国民所得も増大し、イギリスの水準に近づいてきました。社会保障制度西欧先進国に劣らない制度を持つに至っております。しかし、その容内はまだ十分とは言えず、これを整備して国民福祉を充実しなければなりません。すべての問題を同時に解決することはできませんが、新しい長期経済計画のもとにおいて社会保障の位置づけを考えており、計画的に内容の整備をはかってまいります。  昭和四十八年度予算においては、社会保障費二兆一千億円を計上いたしました。理想には遠いかもしれませんが、最善の努力をいたしました。すなわち、老齢福祉年金については、当面夫婦一万円に引き上げるとともに、厚生年金及び国民年金についても、いわゆる五万円年金を実現し、あわせて年金額物価スライド制を導入することといたしたのであります。また、老人医療無料化を六十五歳以上の寝たきり老人にまで拡大するほか、心身障害者をはじめ援護を必要とする人々についても、収容施設整備充実をはじめ血の通った援護の手を差し伸べてまいります。さらに、難病・奇病について、原因の究明、治療費公費負担及び医療体制の計画的な整備などの施策を推進いたします。  国民共同の負担としての公費負担については、国民の要望が強くかつ重要なものから一つでも多く実現するため努力していることを御理解願いたいのであります。  社会保障は、国民各層連帯感にささえられ、経済成長の成果が社会のすべての階層に対して行き渡るものでなければなりません。私は、引き続いて社会保障の充実に努力してまいります。  また、働く人々がゆとりと潤いのある生活ができるよう、勤務条件の改善をはかるとともに、余暇を活用するための勤労者いこいの村の建設、余暇情報の提供などを行なってまいります。  物価の問題は、先進工業国に共通する現代の悩みであります。わが国の場合、消費者物価は過去数年来平均五%台の上昇を続けてきましたが、幸い卸売り物価はほぼ横ばいに推移してまいりました。ところが、昨年来、卸売り物価が高騰し始めております。羊毛、木材、鉄鋼など一部の商品を中心としたものではありますが、このような現象をそのままにしておくことはできません。欧米先進国においては、 コスト圧力生産性の向上によって吸収し得ないような事態が生じておりますが、わが国においてこのようなことが起きることは避けなければなりません。  当面の物価対策としては、まず輸入の積極的な拡大をはかることであります。昨年、対外経済政策の一環として、関税率の一律引き下げ、輸入割り当てワクの拡大など、輸入増大政策を実施しましたが、今後も、国民生活と密接な関係のあるものを中心として、関税率をさらに引き下げるとともに、輸入の自由化輸入割り当てワクの拡大を推進いたします。また、生鮮食品など生活必需物資の価格安定をはかるため、生産対策流通対策について格段の予算措置を講じました。独占禁止法の厳正な運用によって、適正な価格形成が行なわれるよう競争条件を整備することも必要であります。さらに、労働力不足を緊張するため、中高年齢層、婦人などを対象とする職業訓練職業転換対策など、労働力流動化を推進いたします。また、長期的な構造対策として、農業、中小企業サービス業などの低生産性部門の高能率化及び輸送面における隘路の打開につとめます。このような物価対策を総合的に推進するため、経済企画庁に物価局を設置することにいたしました。  私は、これだけで物価問題が解決するとは考えません。物価安定の基本は、経済活動全体が均衡ある姿で安定した成長を続けることであります。このためには、供給の円滑化をはかるほか、総需要の動向を注視しながら財政の運営に慎重を期するとともに、金融政策の適時適切な組み合わせが必要であります。外貨の累増などに関連して、企業の手元資金が潤沢となり、土地などに対する投資に向けられたという事実は否定できません。過剰流動性は吸収されなければなりません。このため、すでに、預金準備率の引き上げや窓口規制など、金融面の措置もとられつつあります。物価の安定は、国民が最も求めている政治的課題であり、私は、今後とも必要な施策を果断に実施してまいります。  土地問題は、政治が直面している最大の課題であります。土地は財産であり、財産権は憲法によって保障されております。しかし、財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律で定めるものとされ、また、正当な補償のもとでは、私有財産を公共のために用いることができることになっております。私は、憲法が認める範囲内で、最大限に公益優先の原則を確立し、土地が広く公正に国民に利用されるよう努力いたします。これが土地政策の基本であります。全国的な土地利用の混乱をなくし、土地の値上がりによる社会的な不公正を改めるには、長期政策と、緊急に必要な政策があわせて必要であります。このため、国十の総合的な利用によって土地供給の増加をはかるとともに、全国的な土地利用基本計画を策定し、あわせて土地取引届け出制、取引の中止勧告開発行為の規制などを行なってまいります。都道府県知事が指定する地域については、一定の期間、特に、土地の投機的取引を防止し、開発行為を凍結するため、土地取引届け出制の拡大、先買い制度の創設、土地所有者から地方公共団体などに対する買い取り請求権の付与などの措置をとってまいります。  公的な用地取得宅地供給を促進するため、地方公共団体などによる土地の先買いを推進するとともに、住宅公団の機能の充実を行ないます。また、宅地の供給を促進するため、大規模な宅地開発事業、特に都道府県市町村などによる事業の推進をはかってまいります。さらに、休耕田の活用をはかるとともに、農業協同組合などを通ずる土地賃貸方式も早急に導入する考えであります。  政府は、土地に対する投機的な需要を抑制し、土地の供給を促進するため、法人の土地譲渡益について重く課税する一方、特別土地保有税も創設することといたしました。また、投機的な土地の取引に対する融資を抑制するため、金融機関に対する指導を強力に進める方針であります。  戦後の高度成長と今日の繁栄をささえてきた人口や産業の都市集中の結果、公害問題が深刻になってきました。生命と健康が何よりも大切であることは言うまでもありません。その意味で、公害を防除して健康な生活環境と美しい自然環境を確保することは、政治に与えられた現在の至上命題であります。このため、生産第一から生活優先経済政策を転換し、地域の住民や職場で働く人々の生命、健康を害することのない産業と技術を開発していくことが緊急に必要であります。景気の回復に伴い、産業界には新しい設備投資に向かう動きが見られます。しかし、これまでのような民間の設備投資主導による経済成長を改め、公害防除のための設備投資、工場が過密都市から地方へ移転するための投資などに重点を置いていくことが必要であります。このため、金融当局とも協力して適切な指導を行なってまいります。  政府は、全国の自然環境保全基本方針を樹立し、国土の総合開発の施策との調整をはかりながら自然保護対策を展開してまいります。また、汚染者負担の原則に立脚しながら汚染物質の減少をはかるため、環境基準をきびしく改め、排出規制における総量規制の導入など規制を強化するとともに、無公害コンビナート技術の開発をはじめ、公害防止技術の開発にも一そう努力したいと考えます。新しい技術の開発や導入にあたっては、それが人間や自然に弊害を及ぼさないよう、その内容を総合的に把握し、技術の再点検を進めてまいります。  公害被害者に対しては、救済に万全を期するため、新たに公害被害者損害賠償を保障する制度を創設することとし、成案を得次第今国会に法律案を提出いたします。  さらに、交通事故、危険な商品、労働災害、新しい職業病などに対して、国民の安全を確保するため、必要な施策を講じてまいります。  以上のほか、環境問題をはじめ現代社会における広範な問題に対処して、実効性のある研究開発を助け、育成するため、シンクタンクの機能を持つ特別の機関を官民共同で設立することとしております。  現在、わが国の総人口の三二%に当たる三千三百万人の人々が、国土面積のわずか一%にすぎない地域に集中しております。しかも、わが国はアメリカのカリフォルニア州よりも狭いのであります。したがって、こうした過密地域においては、公害、物価、土地不足などの問題が生じ、深刻になるのは必然であります。特に、過密化している大都市では、都市の改造、再開発を急がなければなりません。しかし、人口や産業の大都市集中を無制限に放任したままその改造を行なうことは不可能であります。  このような現状を改め、国民が健康で豊かな生活ができるようにするためには、片寄った国土利用を改め、国土全体の均衡のとれた発展をはかり、きれいな空気と水、緑に恵まれた住みよく暮らしよい地域社会を計画的に建設することが必要であります。私が、人と物と文化の大都市への流れを大胆に転換し、日本列島の改造を提唱してきたゆえんも、ここにあります。(拍手)  政府は、今後、大都市の再開発、生活環境施設を中心とする社会資本投資の拡大、教育、文化環境の整備などを含めた総合的な施策を強力に進めます。また、交通・通信ネットワークの整備、工業の全国的な再配置、地方都市及び農村環境の整備などを実施してまいります。工業の全国的再配置の促進のため、地方へ移転していく工場に対しては、環境保全施設整備のための補助金移転資金低利融資、税制上の加速償却などを行なってまいります。また、工場を受け入れる市町村に対しては、緑地などの整備のために補助金を交付してまいります。さらに、移転した工場のあと地は、公園などの公共の目的のために有効に活用してまいります。  これらの施策を強力に推進するため、十分な企画調整権限を持った総合的な行政機構として国土総合開発庁、その実施機関として国土総合開発のための公団を創設することにいたしました。  この際、特に申し上げたいのは、国土の総合開発を進めるにあたって、地域住民の意向を尊重するため、地方自治体などの意見を反映した政策を実現したいことであります。  沖縄の振興開発については、沖縄の特性を生かしながら環境の保全を優先させ、新しい時代に即した豊かな地域社会を実現するようつとめます。このため、昭和五十年に開かれる国際海洋博覧会のための施設の整備をはじめ、沖縄振興開発計画の実施を推進し、沖縄県民の長い歳月にわたる労苦に報いてまいります。  また、高能率農業の育成、生産と生活とを一体とした農村環境の総合的な整備をはじめとする農業の近代化政策を進めるとともに、中小企業については、これまでの施策に加えて、小企業を対象とした無担保、無保証の経営改善資金融資制度を創設することにより、その近代化をはかってまいります。  国鉄は、国民の足であり、輸送の大動脈であります。わが国の輸送は、その地形、地勢上の理由からいって、道路、鉄道、内航海運が有機的に一体となって組み合わされてこそ、はじめてその機能を十分に発揮できるのであります。現在国鉄は、その経営努力にもかかわらず、累積赤字が一兆二千億円に達しております。国鉄経営健全性が維持されなければ、国民生活に重大な影響を及ぼすことになります。国鉄自身合理化経営努力だけでは国鉄の再建は不可能であります。このため、政府は、国鉄に対し思い切った財政援助をすることにいたしました。国鉄財政再建十カ年計画を策定し、一兆五千億円余の出資を行なうほか、工事費補助再建債に対する利子補給などを行なうことにしておりますが、これらの国の一般会計による助成は、国民全体の税金によってまかなわれるものであります。財源にはおのずから限度があります。社会保障など欠かすことのできない支出の拡充が要請されるとき、国鉄の場合、必要最小限の負担は利用者に求めざるを得ないのであります。国鉄運賃の改定を提案するのは、このためであります。  医療保険制度も、抜本的な解決をはからなければなりません。来年度においては、家族医療給付率を五割から六割に引き上げ、家族高額療養費の支給など、給付内容の改善を行なうことといたしております。同時に、累積赤字二千八百億円に達する政府管掌健康保険に対しては、定率一〇%の国庫補助の導入により八百億円の財政援助を行なうことにいたします。このように、政府は、できる限りの対策を講ずる一方、保険料率を改定して、被保険者にも応分の負担を求めてその改善をはかってまいります。  教育の振興が重要なことは申すまでもないことであります。戦後行なわれた教育改革からすでに四半世紀の時を過ごし、その制度は定着しましたが、なお改革を要する問題は数多くあります。国際人としてだれからも尊敬され、信頼される新しい日本人を育てるための教育制度の確立のために、私たちはたゆみない努力を払うべきであります。人間形成の基本が小・中学校で定まることを思えば、義務教育を充実し整備することは、何よりも大切な問題であります。小・中学校の校長が退職後再び町に職を求めなければならないような現状を改めるため、定年の延長について真剣に検討をいたしておるのであります。今回、これらの教員に対して給与の増額予算を計上いたしましたのは、子供を導く先生によき人材を得て、先生がその情熱を安んじて教育に傾けられるような条件を一日も早くつくりたいと願ったからであります。この措置は、たとえささやかなものであっても、やがては大きく実を結ぶものと考えております。(拍手)  大学は学ぶところであります。世の親たちは、子弟が大学生として広く高い知識を吸収し、よき社会人として世に出ることを期待しております。しかし、いまだに学園に紛争が絶えないのは遺憾なことであります。かつてはよい環境の中にあった大学も、急速な都市の過密化によって大都市内の教育環境が破壊されているのも一つの原因であります。また、管理運営にとっても、過密は大きな支障をもたらしておるのであります。  諸外国の大学に見られるように、山紫水明の立地条件のもとで理想的な教育環境をつくるごとができないはずはありません。大学の地方分散と新しい大学の設立を考え、新たに調査費を計上したのもこのためであります。私学の振興は重要な課題であり、助成措置の拡大をはかっております。  教育は、次代をになう青少年を育て、民族悠久の生命をはぐくむための最も重要な課題であることを思い、理想的な教育の条件と環境の確立にたゆみない努力を傾ける所存であります。(拍手)  以上申し述べましたように、本年の重点的な政治目標は、平和外交の推進、国際収支の不均衡の是正、社会保障の充実と生活環境の整備、物価の安定、国土総合開発の推進などであります。私は、これらの課題を解決するために最善の努力を傾ける決意であります。  もとより新しい政策は、長期的な視野に立ち、国民的な支持と理解を得ながら総合的かつ計画的に実現していかなければなりません。このため、わが国経済社会の発展の方向と政策体系は、新しい長期経済計画をもって明らかにしてまいります。  現代社会は、大きく深い変化を経験しつつあります。内に外に変革期の課題は山積をしております。私は、さきの総選挙を通じて国民の政治に対する期待や不満を痛いほどに感じ取りました。  人間性を回復した平和な新しい日本をつくるには、古い制度や慣行にとらわれることなく、産業や経済のあり方を大胆かつ細心に変えていかなければなりません。しかも、当面しておる難問を解く処方せんは、わが国の歴史に先例を求めることができません。他国にその例を見出すことも不可能であります。  新しい時代の創造は、大きな困難と苦痛を伴うものであります。しかし、私は、あえて困難に挑戦し、議会制民主主義の確固たる基盤に立って、国民のための政治を決断し、実行いたします。そして、結果については責任をとります。(拍手)国民各位も積極的に発言し、ともに日本の将来を切り開く歴史的な事業に参加してほしいのであります。  私たちは、これまでもお互いに多くの障害を乗り越えてきました。こうした日本人の英知と、日本経済の活力は、いささかも衰えてはいないのであります。一億をこえる私たち日本人が、ひたすらに平和の道を歩み、物心ともに豊かな社会を建設するため、総力をあげて国内の改革に進むとき、外に平和、内に福祉の新時代のとびらを開くことは、必ずできると確信をいたします。(拍手)  国民各位の御理解と御支援をお願いいたします。(拍手)     —————————————
  4. 河野謙三

    議長河野謙三君) 大平外務大臣。    〔国務大臣大平正芳君登壇、拍手
  5. 大平正芳

    国務大臣(大平正芳君) 第七十一回国会の冒頭にあたり、わが国をめぐる国際情勢を概観し、わが国外交基本方針につき所信の一端を申し述べたいと思います。  ここ一両年の間に、米中の接近が実現し、米ソ間におきましては、戦略兵器の制限に関する合意に加えて貿易協定等の締結が行なわれ、宇宙その他若干の分野においては、具体的な協力も進められております。ヨーロッパにおきましては、東西両ドイツの和解が成立し、欧州安全保障協力会議、相互均衡兵力削減交渉など、平和維持のための新たな動きが見られます。  ベトナムにおきましては、当事者の忍耐強い努力の結果、ついに停戦が実現し、第二次大戦後初めてアジアから戦争の劫火が消えることになりました。また、これまで典型的な冷戦状態にありました朝鮮半島におきましても、南北の間に自主的な統一を目ざした真剣な対話が進められております。さきに達成を見ました日中国交の正常化も、アジアにおける対話の道を大きく開いたものであります。  このように、体制の垣根を越えていろいろな形の緊張緩和への動きが見られます反面、アジアには、民族的、宗教的、政治的要因に基づく紛争の種が各地に根強く残存しております。ベトナム停戦後におきましても、インドシナ半島に真の安定が確立されるためには、なお幾多の曲折と相当の歳月を要するものと考えられます。また、世界の各地には、経済その他もろもろの困難をかかえて、国内に緊張が高まっているところもあります。中近東の情勢はいまなお不安定であり、中ソ間の対立も依然として緩和のきざしを見せておりません。  しかしながら、このような不安定要因が随所に存在しているにもかかわらず、世界全体の趨勢は、平和を求めて対決から対話に向かい、他動的な低迷から自主的な選択を指向する方向に移りつつあるものと見ることができます。  一方、わが国は、戦後、幸いにいたしまして国際的な紛争の圏外にあって、みずからの国力をつちかい、いまや国際社会の平和と繁栄をささえる主要な柱の一つとして応分の役割りと責任を果たす立場になりました。  政府としては、このような認識に立ちまして、急速に拡大した外交基盤を固めつつ、新たな構想と決意をもちまして、責任ある外交を進めてまいる考えであります。  このため、私は、次の諸点に外交政策の重点を指向してまいりたいと思います。すなわち、まず、日米友好関係を基軸とし、日中並びに日ソの関係につきましてはそれぞれその発展への努力を重ねつつ、アジアにおける緊張緩和への動きを促進し、平和を強固ならしめるために積極的な外交を展開すること、次いで、国際経済の秩序ある発展に寄与し、かつ各国との経済関係を円滑にするため、対外、対内の諸施策を精力的に進めること、第三に、開発途上国への援助拡充すること、第四に、文化外交推進に一そう力をいたすこと、がこれであります。  以下、わが国実施すべき具体的施策について申し上げます。  まず、アジア太平洋諸国との関係について申し上げます。  日中国交正常化後の日中関係は、順調に進められております。政府間においてはもとより、民間の交流も活発に行なわれ、相互の制度、慣行及び考え方についての理解が深められつつあります。政府は、近く大使の相互交換を実現し、実効ある実務諸協定と平和友好条約の交渉を順を追って進めてまいる所存であります。  朝鮮半島については、われわれは、南北間の自主的な対話により、半島における緊張緩和が一そう促進され、南北間の関係が平和的な統一に向かって改善されていくことを希望するものであります。われわれは、韓国が今後とも経済の自立と民生の安定を達成することを期待しつつ、同国との協力関係維持してまいる方針であります。他方、北朝鮮との接触については、きめこまかい配慮を行ないつつ、これを漸進的に広げてまいる考えであります。  わが国は、ベトナム和平交渉の妥結により、インドシナ地域に永続的平和への道が開けたことを歓迎し、この地域の真の安定が確保されることを心から念願するものであります。そのため、わが国は、アジア諸国はもとより、関係各国とともに同地域復興開発計画を含む諸般の方途を探求し、進んでその実現に向かって努力してまいる所存であります。  インドシナ地域の難民、戦争犠牲者の救済等の問題は、緊急を要する問題でありますので、迅速に援助の手を差し伸べることができますよう、すでに必要な予算措置を講じております。  近年、アジアには、ASEAN諸国の動きに見られますように、地域協力による自助と自主性追求の意欲が顕著になりつつあります。政府としては、かかる地域協力の進展を高く評価いたしまするとともに、できる限りの支援と協力を惜しまない考えであります。  他方、一部のアジア諸国におきましては、わが国経済影響力が過大になることを危惧する声も聞かれ、摩擦が発生しているところもあります。政府としては、アジアの諸国民との心のつながりを強めつつ、長期的視野に立って相手側の立場と利益を考慮し、経済協力推進と片貿易の是正に一そうの努力をいたす所存であります。  インド亜大陸におきましては、関係諸国の間で平和回復への努力が行なわれ、状況は漸次鎮静に向かいつつあります。わが国としても、これら諸国経済の自立に応分の協力をいたす考えであります。  豪州及びニュージーランドは、かねてよりアジア諸国との連帯強化を求めており、特にわが国との関係をますます重視しております。カナダもまた、わが国をはじめアジア諸国との関係を強めつつあります。わが国としては、これら諸国との協力関係拡充強化し、相携えてアジア太平洋地域の平和と繁栄に貢献してまいりたいと考えております。  次に、日米関係について申し上げます。  米国との間の緊密な友好協力関係は、わが国外交の基軸であり、わが国が広く多角的な外交を積極的に推進する場合の基盤ともなるべきものであります。したがって、わが国と米国との間におきましては、信頼と理解を一そう深めるため、政治経済はもとより、その他あらゆる分野にわたりまして、政府間のみならず、学界、経済界、言論界等の間に、幅広い接触を行ない、間断なき対話を続けてまいらなければなりません。  日米間における目下最大の懸案は、申すまでもなく大幅な貿易収支の不均衡の是正であります。われわれは、日本経済の健全な発展のためにも、また日米友好関係維持増進のためにも、対外経済面で思い切った施策を講じ、わが国国際収支の多角的均衡をはかる中で、対米収支を大幅に改善することが肝要であると存じます。  米国との相互協力及び安全保障条約は、わが国の安全と繁栄を確保するために不可欠のものであり、アジアの平和の維持のために必要な条件の一つでもあります。また、これは、いまや日米間の相互の信頼と協力の関係を具象する紐帯にもなっておると思います。したがって、政府としては、これを軽々しく改廃することなく、手がたく維持してまいることが重要であると考えております。しかし、同時に、在日米軍の基地のあり方につきましては、都市化の進展等もあり、米国側との話し合いを通じ、その整理統合を積極的に進めておりますことは、御承知のとおりであります。  日ソ両国関係は、年とともに着実な進展を見せております。政府としては、今後ともその発展に鋭意努力する考えであります。特に、シベリアの資源開発に関する諸計画は、これらが両国相互の長期的な利益に合致するような形で実現することを期待しつつ検討を進めてまいる所存であります。  他方、懸案の北方領土問題は、遺憾ながらまだ解決するに至っておりません。政府としては、この問題を解決して日ソ平和条約を締結すべく、引き続き忍耐強く交渉を継続してまいる所存であります。  ヨーロッパにおきましては、本年一月より拡大欧州共同体が発足し、欧州は世界政治経済にますます重要な立場を占めるに至っております。わが国と欧州との貿易関係も、とみに活発化してまいりました。政府としては、共同体を中心とする西欧諸国との関係を一そう緊密化するよう、積極的な外交を多角的に推進してまいる考えであります。  また、東欧諸国との関係も一そうの発展をはかってまいりたいと考えます。  中南米、中近東及びアフリカ諸国との関係は、わが国経済規模の拡大に伴いまして、貿易、資源開発経済協力等を中心に、今後ますます深まってまいるものと思われます。政府としては、これら諸国との間に、ひとり経済面のみならず、広く政治文化の面におきましても友好関係を増進してゆく考えであります。  本年は、世界の通貨、貿易体制がそのワク組みの再編成に向かって一段と大きな前進を見る年であると期待されております。従来、わが国は、世界経済のワク組みをとかく外から与えられたものとして受けとめがちでありました。しかし、わが国経済は、いまや世界経済の動向を左右できるほどの実力を備えるに至りました。したがって、わが国は、よりよき世界経済秩序建設のために積極的に貢献し、その中でみずからの繁栄を享受するという姿勢に徹することが肝要であると考えます。特に、わが国経済が二、三年中に国際的な均衡を達成することは、喫緊の重要事であると思います。過度にわたる貿易収支黒字の累積は、わが国経済の構造自体にも由来するところがあるといわなければなりません。したがって、これが是正のためにわが国経済福祉型の経済転換する諸施策を果断に実施し、関税の軽減、非関税障壁、なかんずく輸入制限の整理と縮小、資本自由化等を一段と推進してまいることが肝要であると考えます。このように、まずみずからなすべきことをなし、みずからの姿勢を正しつつ、国際通貨改革、新国際ラウンド等の交渉に積極的に参加し貢献してまいりたいと考えております。  なお、石油を中心とするエネルギー資源の需給問題は、世界的な関係になりつつありますが、資源に恵まれないわが国にとりましては特に切実な課題になってまいりました。政府としては、資源保有国、消費国等との国際的な協調をはじめ、諸般の措置につき、長期的構想のもとに鋭意検討を進めてまいる考えであります。  わが国経済協力は、あくまでも開発途上国の自助努力に根ざした経済的自立と、均衡ある経済的、社会発展に寄与することを主眼として推進すべきであると考えます。  わが国は、その方向に向かって、かねてから開発援助改善拡大につとめてまいりましたが、政府開発援助のGNPに対する比率、援助の条件、贈与の比率等、多くの点において現状は決して満足すべき状態であるとはいえません。  政府としては、今後、政府開発援助の対GNP〇・七%目標の達成のため最善努力を続けますとともに、OECD開発援助委員会等の場における国際的要請を考慮しながら、援助条件の改善ひもつき援助の廃止などに努力してまいる所存であります。同時に、援助形態の多様化、開発途上国社会開発部門への援助拡大等の措置もはかってまいらなければなりません。さらに、アジア諸国はもとより、中南米、中近東、アフリカの諸地域に対しても、それぞれの地域的特殊性に見合った経済協力を進めていく一方、わが国援助体制自体の整備も進めてまいる考えであります。  わが国は、戦後一貫して国連に対する協力を外交政策の主要な柱の一つとしてまいりました。この間に、国連は、地球上のほとんどすべての国を網羅する普遍的な国際機構にまで成長いたしました。他方、その取り扱う問題も経済社会開発、人間環境改善、宇宙・海洋の開発利用等の分野にまで広がってまいりました。政府としては、今後多面的な外交を展開するにあたり、その重要な場の一つとして国連を一そう積極的にもり立て、これを活用してまいる所存であります。そのためにも、政府は、国連がその機構と機能の両面にわたり、この四半世紀の間に生じた国際社会の変化を十分反映できるよう強化される必要があると考え、その推進に当たる所存であります。特に、核軍縮を中心とする軍縮促進のため、軍縮委員会等の場を通じて積極的に貢献してまいることは、当面の要務であると考えております。  次に、文化外交推進について申し上げます。  従来の外交は、主として政治及び経済分野に重点が置かれておりましたが、いまや、われわれは、視野を広げて各国との間に一段と文化交流を活発にし、特に、幅広い分野にわたる人的交流を進めなければなりません。かくして、われわれは、諸国民との間に心のつながりをつちかうとともに、人類の知的、文化的資産の増大に一段と寄与することができると思います。  かかる観点に立ちまして、政府は、昨年十月、国際交流基金を設立したのでありますが、基金の設立は各国から多大の好感と期待をもって迎えられ、わが国のイメージを改める契機になりつつあることは慶賀にたえません。政府としては、今後、この基金を拡充強化して、人物の交流、日本研究等を中心とする幅広い文化交流を進めていくことができるよう、引き続き努力する所存であります。  以上、私は、国際社会の現状を概観いたしますとともに、わが国外交実施すべき諸施策につきいささか所信を申し述べました。  わが国存立の前提が何よりもまず世界の平和と安定にあることに深く思いをいたし、われわれは、みずからの持つ実力の評価とその行使に誤りなきを期しつつ、静かな勇気をもって責任ある外交を展開し、国際協調の実をあげますとともに、国際的信用の向上につとめてまいりますことが、わが国外交の要諦であると信ずるものであります。  国民各位の一そうの御理解と御支援をお願いいたします。(拍手)     —————————————
  6. 河野謙三

    議長河野謙三君) 愛知大蔵大臣。    〔国務大臣愛知揆一君登壇、拍手
  7. 愛知揆一

    国務大臣(愛知揆一君) ここに、昭和四十八年度予算の御審議をお願いするにあたりまして、その大綱を御説明申し上げますとともに、今後における財政金融政策基本的な考え方について、私の所信を申し述べたいと存じます。  わが国経済は、いま三つの課題に直面いたしております。一つは、国民福祉向上であり、一つは、物価の安定であり、一つは、国際協調推進国際収支均衡の早期回復であります。  これらの課題を相互に調和させながら、同時に解決をはかることは、まことに容易ならざるものがありまして、これまでに例を見ない財政金融政策に対する新たな試練であると考えます。私は、この試練に正面から取り組み、一そうの創意とくふうをこらしてその解決に当たる決意でございます。  このような見地から、昭和四十八年度の財政金融政策は、次の三点を眼目として運営する所存であります。  その第一は、国民のすべてがみな生きがいを感じ、未来に明るい希望と期待を持てるような、豊かで健全な福祉社会建設推進することであります。(拍手)  戦後四半世紀にわたり、わが国経済はたくましい成長を続け、昭和四十八年度の国民総生産は、ついに百兆円の大台を越えると見込まれるまでに至りました。この間、高度の雇用水準の達成、国民の所得水準の向上など、目ざましい成果をあげてまいりましたが、いまや、新たな決意をもって、均衡ある経済社会の創造のために、この充実した国力を活用して、福祉充実に対する国民の強い要望に積極的にこたえていかねばなりません。  私は、福祉社会建設推進するためには、まず、国民各層経済成長の成果をひとしく享受し、健康で快適な生活ができるよう、社会連帯感というあたたかい心のきずなでささえられた社会保障拡充していくことが肝要であると存じます。  また、住宅及び上下水道、公園、緑地等の生活環境施設社会福祉施設、体育施設などを中心として社会資本を一そう整備するとともに、公害の防除と自然環境保全を積極的に推進し、わが国の全土にわたり公害のない住みよい生活環境整備する必要があります。  もとより、これらの福祉政策推進するにあたり、財政の果たすべき役割りはますます増大するものと予想されますので、国及び地方を通じ、財政の効率化を推進しつつ、その資源、所得の配分機能をより一そう活用していかなければなりません。同時に、長期的な展望のもとに、国民の税負担等のあり方について本格的な検討を加えてまいる所存であります。  公債政策につきましては、景気調整政策の見地からのみではなく、公私両部門の資源の適正な配分をはかるため、民間資金を活用して社会資本整備推進するという観点からも、建設公債、市中消化の原則を堅持しつつ、一そう適切な運営を進めてまいりたいと存じます。  第二は、物価の安定であります。  最近の物価動向を見ますると、消費者物価は比較的落ちついた動きを示しておりますが、従来安定していた卸売り物価は昨年後半から騰勢に転じ、その先行きは必ずしも楽観を許さないものがあります。  成長維持し、経済構造の転換を進めながら、物価の安定をはかることは、ひとりわが国のみならず、先進諸国のすべてが当面する困難な問題であります。  しかしながら、消費者物価の安定は、国民生活基盤であり、その動向は国民福祉に大きな影響を及ぼす重大な問題であります。政府といたしましては、総需要の水準を適正に保つとともに、円滑な供給体制を整備し、生産、流通、消費の各面にわたってきめこまかな総合的施策を一そう強化し、物価の安定のために全力をあげてまいりたいと存じます。  地価の安定をはかることは、現下の急務であります。もとより、地価問題を解決するためには、土地制度整備等を含む諸施策を総合的に推進しなければなりませんが、財政金融面からもあらゆる施策を講じてまいる所存であります。すなわち、後に申し述べます土地税制とともに、金融面において、適切な措置を一そう徹底してまいりたいと存じます。  第三は、国際協調の実をあげ、国際収支均衡をすみやかに回復することであります。  近年、わが国力の著しい充実に伴い、いまや、わが国の決意と行動は、国際社会の大勢に少なからざる影響を及ぼすに至っております。わが国としては、その増大しつつある国際責任を認識して、諸外国との相互理解をさらに深め、国際協調を一そう推進して、世界経済の安定的発展に貢献しなければなりません。  まず、国際通貨、貿易体制の新しい秩序づくりに進んで寄与していくことが当面の重要課題であります。国際通貨面におきましては、通貨体制の長期にわたる安定をはかるため、新しい国際通貨制度の確立が不可欠の前提となっておりますが、この問題につきましては、現在、二十カ国委員今を中心として具体的な検討が進められておりすす。また、国際貿易面におきましては、本年からガットの場で次期国際ラウンドが開始される予定となっております。  わが国としては、あくまで、自由かつ無差別を原則とする「一つの世界」——ワン・ワールドの実現を目標とし、世界経済のブロック化や、保護主義の台頭を避けるべきであるという基本的態度を堅持して国際的討議に積極的に参加し、これを成功に導くようつとめてまいりたいと存じます。  また、開発途上国に対する経済協力拡充は、先進工業国としてのわが国責務であり、同時に、これら諸国経済発展は、わが国を含めた全世界の平和と繁栄に貢献するものであります。わが国としては、今後とも、援助拡充、特恵関税制度改善等を通じ、その発展に寄与するよう、国力にふさわしい役割りを果たしてまいります。  ひるがえって、わが国国際収支の動向を見ますと、通貨調整後もかなり大幅な黒字が続いております。  通貨調整の効果が国際収支面に浸透するまでにはかなりの期間を要することは、各国共通の認識となっておりますが、わが国が長期間にわたってこのような黒字を続けておりますことは、世界経済の安定した発展にとって大きな問題であるばかりでなく、国民福祉向上させるための資源の有効活用という見地からも好ましくなく、これを適正な水準に戻すためには、引き続き格段の努力を払わなければなりません。  政府は、かねてより、対外経済政策推進するため、関税の一律引き下げ、輸入割り当てワク拡大等の措置を講じてきたのでありますが、国際収支均衡を達成するためには、基本的には、輸出優先の経済構造を改めることが最も肝要と考えます。この意味におきまして、福祉経済への転換を進めるとともに、関税の引き下げをさらに推進し、輸入及び資本自由化等を勇断をもって実施に移す必要があると考えます。  金融市場は、昨年来、引き続き緩和基調を維持し、景気は順調な上昇過程をたどってまいりましたが、最近に至り、卸売り物価の上昇等、留意すべき動きも出てまいりましたので、先般、過剰流動性の是正をはかるため、準備預金制度の準備率の引き上げが行なわれたところであります。  今後の金融政策の運営にあたりましては、なお一そう内外経済情勢に深甚な注意を払いながら、財政と相補い、相助け、両者一体となって経済の安定成長を確保したいと考えます。  同時に、わが国資本市場の国際的地位の向上、金融環境の変化等に対応し、引き続き資本市場の整備育成に配慮してまいりたいと考えます。特に、昨年来の株価の上昇動向につきましては、かねて格段の注意を払ってまいったところでありますが、長期資金調達の場としての株式市場の重要性が高まりつつある現状にかんがみ、市場をより秩序あるものとするため、今後とも適時適切な措置を講じ、もって株式市場の健全な発展に資する所存であります。  昭和四十八年度予算の編成にあたりましては、以上申し述べました財政金融政策基本的方向にのっとり、わが国経済の国内均衡と対外均衡の調和をはかりつつ、長期的視野のもとに、国民福祉充実向上につとめることを主眼といたしております。  その特色は、次の諸点であります。  第一は、予算及び財政融資計画を通じ、社会保障充実社会資本整備をはじめとして、福祉充実を求める国民各層の期待と要請に積極的にこたえ得る規模のものとしたことであります。  その結果、昭和四十八年度一般会計予算の総額は十四兆二千八百四十億円となり、前年度当初予算に対し二四・六%の増、また、昭和四十八年度財政融資計画の規模は六兆九千二百四十八億円となり、前年度当初計画に対し二八・三%の増になっておりますが、昭和四十八年度の経済見通しによれば、中央、地方を通ずる政府の財貨サービス購入の伸びは、国民経済全体の成長率とほぼ同程度となっており、経済の安定的な成長を保つことができるものと考えております。  また、公債につきましては、社会資本充実の見地からこれを適切に活用することとし、一般会計における公債発行規模を二兆三千四百億円といたしておりますが、公債依存度は、昭和四十七年度当初予算における一七%を下回り、一六・四%となっております。  第二は、租税負担の軽減合理化をはかったことであります。  昭和四十八年度におきましては、中小所得者の税負担の軽減を重点に、所得税及び住民税の減税を実施することといたしました。一方、最近における社会経済情勢の変化に即応して、産業関連の租税特別措置の改廃を行なうことといたしておりますが、国税、地方税を通ずる昭和四十八年度の減税額は、全体として初年度約四千六百億円となっております。  第三は、国民生活の質的向上をはかるため、いろいろの施策充実とその総合的推進につとめることとしていることであります。そのため、社会保障関係経費につき大幅な増額を行なっていることはもちろん、社会資本整備にあたっても、国民生活環境整備に重点を置き、また、公害の防止、環境保全物価の安定等についても特段の配慮を加えるとともに、国民生活に密接に関連する分野中心政府関係金融機関、事業団等の貸し出し金利の引き下げを行なうことといたしております。  以下、政府が特に重点を置いた施策についてその概要を申し述べます。  まず、税制改正におきましては、所得税について、中小所得者の負担軽減をはかるため、課税最低限を引き上げるとともに、特に給与所得者に重点を置いて、給与所得控除の大幅な拡充を行なうことといたしております。すでに、わが国の課税最低限は、欧米諸国に比肩し得る程度に達していたところでありますが、さらに今回の改正によって、夫婦子二人の給与所得者の場合、前年に対して一〇・七%引き上げられ、百十四万九千円に達する水準となったのであります。  また、相続税の減税、物品税の軽減合理化及び入場税の減税を行なうほか、有価証券取引税の税率を引き上げることといたしております。  租税特別措置につきましては、重要産業合理化機械等の特別償却制度、価格変動準備金制度産業関連の諸制度について、改廃を行なうことといたしました。他方、福祉対策公害対策、勤労者財産形成・住宅対策等に資する措置を講ずるとともに、事業主報酬制度を創設することといたしております。  また、土地に対する投機と地価の騰勢を抑制するため、法人の土地譲渡益に重課することといたしました。この措置が、地方税として実施予定の土地保有税と相まって、土地に対する仮需要を抑制し、あわせて土地供給の促進に資するよう期待しておる次第でございます。  次に、歳出について申し述べます。  第一は、社会保障充実であります。  わが国が、欧米諸国に例を見ない速さで高齢化社会を迎えようとしている状況に対処し、年金制度の飛躍的な充実をはかることといたしております。すなわち、厚生年金及び拠出制国民年金について、五万円年金実現するとともに、物価スライド制導入するほか、老齢福祉年金についても年金額の大幅引き上げ、扶養義務者所得制限の緩和等の措置を講ずることといたしております。このほか、老人福祉対策につきましては、寝たきり老人について六十五歳以上まで医療の無料化拡大する等、きめこまかい配慮を行なうことといたしております。  また、社会福祉施設整備障害福祉年金及び母子福祉年金改善生活扶助基準の引き上げ、身体障害者、児童、母子等の福祉対策及び難病奇病対策充実、看護婦夜間手当の引き上げ、戦没者の妻及び父母等に対する特別給付金国債の増額再交付などの措置を講じ、福祉の質的向上に遺憾なきを期しております。  医療保険制度につきましては、家族給付率の五割から六割への引き上げ、高額医療費の給付等、給付内容の大幅な改善を行なうとともに、健康保険財政の健全化のため、所要の改善合理化措置を講ずることといたしております。  第二は、社会資本整備であります。  国土総合開発を計画的かつ着実に実施するため、各種の社会資本を積極的に充実していく必要があることはもちろんでありますが、その際、交通通信網の整備工業の再配置地方都市開発整備農村環境整備等に配意して、国土均衡ある発展をはかっていかなければなりません。これらの施策推進をはかるため、国土総合開発に関する企画調整権限を持つ国土総合開発庁を新設するとともに、事業の実施機関として、工業配置・産炭地域振興公団を改組拡充して、国土総合開発公団を発足させることといたしております。  社会資本整備にあたりましては、特に、住宅及び生活環境施設整備につとめるほか、青少年の教育環境となる文教施設充実国民各層生活を豊かにする体育、社会教育関係施設等の整備に配意いたしております。このほか、治山、治水等の国土保全のための施策や、道路その他の交通施設整備についても、それぞれ大幅な増額をはかっております。  なお、道路整備、漁港整備土地改良の各事業につきましては、それぞれ昭和四十八年度を初年度とする新規の長期計画を策定することといたしております。  また、日本国有鉄道の財政再建のために、経営の徹底的合理化を進めることはもとより、国からの助成を強化し、あわせて所要の運賃改定を行なうことといたしておりますが、新幹線鉄道等の建設を強力に推進するため、その事業規模を大幅に拡大することといたしております。  第三は、公害の防止及び環境保全のための施策推進であります。  健康で豊かな国民生活実現をはかるため、下水道、廃棄物処理施設等の生活環境施設拡充、大気汚染、水質汚濁、騒音等に対する対策の強化、自然保護の充実をはかることといたしております。なお、税制面におきましても、無公害生産設備特別償却制度の創設、低公害車の物品税の軽減等を行なうことといたしました。  第四は、物価対策推進であります。  物価の安定をはかるため、昭和四十八年度におきましても、低生産性部門生産性向上、流通機構の合理化労働力流動化競争条件整備等の施策推進することといたしておりますが、特に、総合食料品小売センターの拡充、生鮮食料品小売業近代化資金の充実等、小売り部門の近代化合理化を促進するなど、消費生活に対するきめこまかい配慮を行なっております。  第五は、農林漁業及び中小企業近代化であります。  需要に即応した農林漁業の振興生産性向上をはかるため、その基盤整備、構造改善推進、金利の引き下げを含む農林漁業金融の充実農業団地の育成、農畜水産物の流通改善などの措置を講ずることといたしております。  また、米については、需給の実態に即応した生産調整を行なうこととし、米価水準は据え置きとして、所要の経費を計上いたしております。  中小企業対策につきましては、中小企業近代化を促進するため、中小企業振興事業団、国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫等の融資規模の拡充中心に、その充実をはかるほか、小企業経営改善資金貸し付け制度を創設することといたしております。  第六は、文教及び科学技術振興であります。  文教につきましては、教員給与の改善のための財源措置、教員の海外派遣の大幅拡充、私学助成の強化、公立文教施設整備拡充社会教育施設及び体育施設整備、医科大学創設等国立学校の充実、さらには芸術文化振興及び文化財の保護の充実等の措置を講じております。  科学技術振興につきましては、ウラン濃縮技術開発、宇宙開発、電子計算機技術振興等の施策推進することといたしております。  第七は、海外経済協力推進であります。  国際経済社会におけるわが国の役割りが一そう期待されていることにかんがみ、開発途上国経済開発等に対する援助充実につとめるほか、アジア開発銀行、国連開発計画等に対する拠出の増額を行なうなど、国際機関を通ずる経済協力についてもその拡充をはかることといたしております。また、このたび、ベトナム和平交渉の妥結を見たことは、まことに喜ばしいことであり、政府としては、インドシナ地域における民生の安定及び向上に資するよう、積極的な配慮をいたしております。  第八は、防衛力の整備と基地対策推進であります。  防衛関係費につきましては、さきに国防会議の議を経て決定した第四次防衛力整備計画に基づき、防衛力の整備をはかるほか、基地の整理統合を積極的に推進するとともに、基地周辺対策事業等を重点的に行なうことといたしております。  最後に、地方財政対策について申し述べます。  昭和四十八年度の地方財政につきましては、地方税、地方交付税等の一般財源の相当な伸びが予想され、順調に推移するものと見込まれますが、この状況を考慮しつつ、地方交付税交付金について、昭和四十七年度の特例措置がなくなること等による影響を緩和するため、昭和四十八年度限りの特例措置として、交付税及び譲与税配付金特別会計において資金運用部資金から九百五十億円を借り入れますほか、超過負担の解消、児童生徒急増市町村における小中学校校舎整備費の補助率の引き上げ等による地方負担の軽減、地方債の増額等を行ない、地方財政の適切な運営を確保することといたしております。  以上、昭和四十八年度予算の大綱について御説明いたしました。  わが国は、いまや、きびしい試練と転換のときを迎え、わが国財政の新しいページが開かれようとしております。  今後の財政は、充実した福祉社会建設するため、国民経済の資源をより重点的かつ効率的に配分するという積極的な役割りを果たさねばなりません。このことは、民間設備投資輸出に主導された経済成長の姿が、より財政に比重を置いた成長の姿に移っていくことを意味するのであります。  私は、長期的な展望のもとに、国民福祉充実基本として、物価の安定をはかりつつ、国際収支均衡を回復するため、財政金融政策に課せられた使命を果たし得るよう、最善努力を払う所存であります。  国民各位の御理解と御協力を切にお願いしてやまないのであります。(拍手)     —————————————
  8. 河野謙三

    議長河野謙三君) 小坂国務大臣。    〔国務大臣小坂善太郎君登壇、拍手
  9. 小坂善太郎

    国務大臣(小坂善太郎君) 第七十一回国会にあたり、私は、わが国経済の当面する課題とこれに対処する所信を明らかにいたし、国民の皆さまの御理解と御協力を得たいと存じます。  わが国経済は、景気後退下の大幅な円切り上げという試練に耐えまして、昨年以来景気上昇の過程をたどっております。個人消費、住宅投資財政支出などの需要の増大を背景として、生産は増加を続け、企業収益の面においても改善が見られております。  しかしながら、このような景気上昇下において、わが国経済は、大きな試練に直面しつつあります。すなわち、地価、株価及び商品相場に端的にあらわれているインフレ機運を解消するとともに、国際協調推進する上での障害となり、また、国内では過剰流動性の一因ともなっておりまする大幅な国際収支黒字を縮小し、さらに、基本的には、生産輸出に傾斜した経済社会構造を福祉中心型の構造に転換するという課題であります。  政府は、わが国経済福祉指向型の安定した成長路線に定着させるよう、財政金融政策をはじめとする機動的な経済運営を行なっていく考えでありまして、これにより、四十八年度の実質経済成長率は一〇%余、国民総生産は百十兆円程度をこえるものと思われます。  昨年の消費者物価は、野菜、くだものなど季節商品の価格の安定や一昨年の不況の影響もあって、比較的落ちついた動きを示しておりました。しかしながら、最近に至りまして卸売り物価の騰勢が強まっており、それがやがては消費者物価にはね返るおそれが出ておりまするので、今後の物価動向には十分な警戒をする必要があると存じます。政府は、このほど決定いたしました四十八年度経済見通しの中で、消費者物価の上昇率を五・五%と見込んでおります。これは単なる見通しの数字ではなくて、政府国民がともに努力することによって初めて達成される政策目標であります。  物価の急激な上昇は、経済社会に大きな混乱をもたらすものであり、とりわけ、年金生活者、あるいは母子家庭等、成長に取り残されがちな人々生活基盤をおびやかすものであります。したがって、政府は、特にこの点に留意し、今後の物価の安定に最大の努力を尽くしたいと考えております。  このため、まず、生活必需物資の価格の安定をはかりまするために、生鮮食料品について、卸売市場の整備、総合食料品小売センターの増設、大規模冷蔵施設の設置などの流通機構の改善努力するとともに、特に、日常野菜につきましては、生産合理化、価格安定の施策を強化いたします。また、生活関連物資を中心関税を引き下げ、輸入ワクを拡大し、さらには、輸入自由化計画推進をはかるなど、安い物資が豊富に消費者の手元に届くように極力努力をいたします。  公共料金につきましては、物価全般に及ぼす影響、特にそれが低所得者層に及ぼす影響を考慮いたしまして、極力抑制する方針でありますが、同時に、公共サービスの低下を来たし、国民福祉が阻害されることのないよう配慮いたしていくことも必要であります。  最近における土地問題、とりわけ地価問題の重要性にかんがみ、政府は、全国的な土地利用計画の策定、土地取引届け出制開発行為規制を行なうことによりまして、限られた国土の有効利用をはかるとともに、土地税制を強化して、法人などの投機的な土地取得を抑制し、適正な地価の形成が行なわれるようつとめる考えであります。さらに、企業による土地取得に対する過当な融資を抑制するため、金融機関に対する指導を強力に推進してまいります。  なお、経済が全般的にインフレ傾向に向かうことのないよう、政府といたしては、不断の努力と監視を続け、財政金融政策一体的に運営してまいりたいと考えております。また、いわゆる過剰流動性との関連におきましては、先般、日本銀行により預金準備率の引き上げが行なわれたところでありますが、今後とも、金融面におきまして、適切な措置を機動的に講じていく考えであります。  政府は、物価対策を一そう強力に推進いたしまするため、経済企画庁に物価局を新設することといたしました。これによりまして、物価に関する企画調整機能充実し、物価安定のため関係各省庁と緊密に連絡いたしまして、国民の声を反映させながら物価問題に取り組んでまいります。  さらに、物価の安定とあわせて消費者のための行政にも特に力を入れることとし、PCBなどの有害な化学物質の規制、家庭用品の安全性の確保等、消費者保護対策を一段と強化いたします。  多角的な通貨調整実施後一年余を経過いたしましたが、わが国をめぐる国際経済環境は、依然きびしいものがあります。輸入は、景気の回復に伴いまして、特に昨年の夏以降急速な増加を示しておりまするが、輸出も、国際的インフレ傾向の影響もありまして、依然強含みに推移いたしております。このため、国際収支黒字はなおかなりの水準にあり、その均衡化を促進するためには、引き続き格段の政策努力を払うことが必要であります。  こうした見地から、昨年末、わが国は、いわゆる第三次円対策を策定し、輸入拡大輸出適正化資本自由化、海外投資の促進等をはかっておるのでありまするが、今後とも一そう強力にこれらの施策推進するとともに、その基盤となる産業構造、貿易構造のすみやかな転換をはかってまいりたいと考えております。  本年、新たな国際ラウンドが発足しようといたしておりますが、わが国は、世界保護主義の潮流に巻き込まれることのないように、みずからも開放経済へのきびしい努力を進めながら、世界貿易発展国際交流の推進に積極的な役割りを果たしてまいる所存であります。  また、わが国が、今日達成された経済力にふさわしい開発途上国援助を行なうことは、国際責務であると考えます。政府は、今後、政府開発援助の量的拡大に一そう努力をいたしまするとともに、援助条件の緩和、いわゆるひものつかない援助拡大等によりましてその質的な改善をはかってまいる考えでございます。  また、待望久しかったベトナム和平協定の発表は、まことに喜びにたえないところでありまして、政府といたしましては、インドシナ地域復興建設のため、できる限りの努力をいたしてまいりたいと考えております。  政府は、近日中に、国民福祉充実国際協調推進を軸とした新しい長期経済計画を決定いたします。この計画は、長期的な展望を踏まえつつ、四十八年度に始まる五年間につきまして、わが国経済社会発展の方向と政策体系の具体的あり方を明らかにいたしまして、活力のある福祉社会実現を目ざして、従来の生産輸出優先の政策福祉優先に転換していこうとするものでございます。  これからの経済社会発展は、国民生活の安定向上に結びつき、それぞれの創意くふうが発揮され、社会的公正が尊重されるものでなければなりません。こうした基本路線に立ちまして、この計画は、公害を排除し、自然環境が豊かに保たれるように配慮し、教育社会保障充実にも意を用いつつ、国際社会との協調を保ちながら、長期的に発展を続ける経済社会実現をいたしまする方途について、国の長期的な計画を示すものであります。  このような福祉社会を目ざしました政策転換な行なうにあたり、従来のGNPという経済活動の指標のほかに、国民福祉を直接に把握し表現し得るもろもろの指標の開発、研究につとめてまいりたいと存じます。  最後に、三百、考え方について申し上げます。  過去四半世紀にわたりまするわが国経済の歩みは、まさに成長の歴史でありました。これを可能にいたしたものは、とりもなおさず、わが国民のすぐれた資質と旺盛なエネルギーであります。狭い国土の上に、一億の国民が営々として働き、競い合い、今日の繁栄をもたらしたのでありますが、その急激な成長の反面、公害、過密過疎、海外市場での摩擦など今日のさまざまなひずみを生んでおるのであります。いま、われわれは、これまでわれわれの活動をささえていた貧困の中の闘争の哲学を、豊かさを分ち合う協調の哲学に切れかえる必要があると思うのであります。(拍手)  われわれは、いま、海外からの反響について謙虚に耳を傾けつつ、輸出に秩序をもたらし、輸入の増大と援助推進につとめまするとともに、資源や環境の有限性に配慮しつつ、設備投資競争と使い捨ての経済から、物を大切にし、浪費をしない、環境をよごさない経済転換していかなければならないと思います。そして、戦後の経済復興発展をささえておりました経済合理性の論理の上に、人間尊重と調和重視の理念を打ち立てなければならないと思います。単に物質面ばかりでなく、精神面につきましても、豊かな心情がみなぎり、連帯感にあふれた社会を築くことが必要であると思います。すべての国民が生きがいある社会をつくるように、そして人間としての可能性を発揮できる社会をつくらねばなりません。  このような意識の変革を通して、内に高度福祉社会を築き、外にアジア世界の平和と繁栄に貢献する道が開かれるのであります。  今日の試練に耐え、これを乗り越えて、真に豊かで潤いのある社会を築くために、政府は十全の努力をいたします。同時に、国民の皆さまもまた、しあわせを求めるためには何をなすべきか、国家の持つ苦悩をみずからの問題として取り組んで考えていただきたいと思うのであります。  国民の皆さまの御理解と御協力を切にお願いいたします。(拍手
  10. 河野謙三

    議長河野謙三君) ただいまの演説に対し質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  11. 河野謙三

    議長河野謙三君) 御異議ないと認めます。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時四十六分散会      —————・—————