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1973-08-30 第71回国会 参議院 法務委員会 第19号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年八月三十日(木曜日)    午前十時三十二分開会     —————————————    委員異動  八月二十九日     辞任         補欠選任      小枝 一雄君     青木 一男君      野坂 参三君     渡辺  武君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         原田  立君     理 事                 後藤 義隆君                 中西 一郎君                 佐々木静子君                 白木義一郎君     委 員                 青木 一男君                 木島 義夫君                 鈴木 省吾君                 増原 恵吉君                 吉武 恵市君                 鈴木  強君                 竹田 現照君                 渡辺  武君    国務大臣        法 務 大 臣  田中伊三次君    政府委員        法務大臣官房長  香川 保一君        法務省民事局長  川島 一郎君        法務省刑事局長  安原 美穂君        法務省入国管理        局長       吉岡  章君        公安調査庁次長  渡邊 次郎君    事務局側        常任委員会専門        員        二見 次夫君    説明員        警察庁警備局外        事課長      佐々 淳行君        法務大臣官房審        議官       田邊  明君        外務省アジア局        外務参事官    中江 要介君        大蔵大臣官房審        議官       田中啓二郎君        大蔵大臣官房審        議官       岩瀬 義郎君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○商法の一部を改正する法律案内閣提出衆議  院送付) ○株式会社監査等に関する商法特例に関する  法律案内閣提出衆議院送付) ○商法の一部を改正する法律等施行に伴う関係  法律整理等に関する法律案内閣提出衆議  院送付) ○検察及び裁判の運営等に関する調査  (金大中事件に関する件)     —————————————
  2. 原田立

    委員長原田立君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について報告いたします。  昨二十九日、小枝一雄君及び野坂参三君が委員を辞任され、その補欠として青木一男君及び渡辺武君が選任されました。
  3. 原田立

    委員長原田立君) 商法の一部を改正する法律案株式会社監査等に関する商法特例に関する法律案、及び商法の一部を改正する法律等施行に伴う関係法律整理等に関する法律案を便宜一括して議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  4. 青木一男

    青木一男君 私は、今回の商法改正案の中で、監査制度改正の点について若干の質問をいたします。  まず、法務省にお伺いします。わが国株式会社の現在の総数、その資本別、すなわち一億円以下の会社、一億円から五億円までの会社、五億円から十億円までの会社、十億円以上の会社に分類して、御答弁を願います。
  5. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) 株式会社の数についてのお尋ねでございますが、昨年、すなわち昭和四十七年の九月三十日現在におきまして調べたところによりますと、株式会社総数は百一万五千八百五十二でございます。このうち一億円未満株式会社は百万五千四百八十でございます。それから一億から五億までの会社の数でございますが、七千六百でございます。それから五億以上の会社の数は二千七百七十二でございます。
  6. 青木一男

    青木一男君 十億円以上のやつは分類はないんですか。
  7. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) 失礼いたしました。五億から十億までの会社が千三十三、それから十億以上の会社が千七百三十九、あわせて、先ほど申し上げました五億以上の会社が二千七百七十二ということになります。
  8. 青木一男

    青木一男君 次に大蔵省お尋ねをします。  大蔵省は、証券取引法に基づいて、株式取引所上場株について、有価証券報告書を定期にとっておることはこれは当然でございますが、非上場株につきましても、広く売買されているような株式については届け出をさせ、毎年有価証券報告書を提出させております。この根拠は、証券取引法第二条の定義に基づいて、有価証券の売り出しとは、不特定かつ多数の者に対して均一の条件で有価証券の売りつけの申し込みをすることをいう、こういう定義に基づいて、有価証券を売り出す場合は届け出をせよ、また有価証券報告書を出せと、こういう行政指導をされておるのであります。中には、会社の社員に株式を分けるというような場合でも、この法文を拡張して、届け出をし、報告書を出させるように指導しておりますが、これは法律的には問題があるんです。法律には不特定多数とあるのに、不特定という字はないと同じような解釈のもとに行政指導をしております。これは問題ですが、きょうはその点を聞くのではありません。  要するに大蔵省は、極力広い範囲会社に対して有価証券報告書を徴している、こういう方針であるわけでありますが、いま証券局有価証券報告書を徴しておる会社総数はどのくらいか、上場株と非上場株に分けて、数字を伺いたいと思います。
  9. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) 昨年十二月末の数字でございますが、報告書提出会社数は二千六百二十九、うち上場会社千六百二十七、店頭登録銘柄報告書を提出しているもの八十九社、その他九百十三社——その他は、資本金は小そうございますが、一億以上の増資をいたしまして、その際届け出書を出して、それがそれ以後報告書として継続して報告書を提出している、そういった会社のものでございます。
  10. 青木一男

    青木一男君 法務省お尋ねします。  証券取引法によって大蔵省が審査を行なう会社区分は、広く取引が行なわれるというような、取引形態に基礎を置いているわけであります。今度の商法改正案については、一億円以上の会社と一億円未満会社では全く準拠法を異にして、別の会社のような扱いをしておりますが、一億円という標準はアービトラリーなものでありまして、理論的な根拠を欠き、貨幣価値の変動によって改正の問題が起こってくるのであります。理論的には証券取引法区分のようにすべきものと思いますが、それは実際上むずかしいということでありましょう。法務省が一億円を標準として準拠法を根本的に異なることにしたその根拠、経緯を伺いたいと思います。
  11. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) 今回の法案によりますと、一億円以下の株式会社と一億円をこえる資本株式会社とで取り扱いを異にしておりますことは仰せのとおりでございます。しかしながら、準拠法といたしましては、ともに商法株式会社であります以上、商法関係規定適用される。ただ、一億円以下の株式会社につきましては、その監査役権限等につきまして、包括的に申し上げますと、一般株式会社監査役業務監査を行なうのに対して、一億円以下の株式会社会計監査のみを扱うということにしておるわけでございます。その根拠でございますが、これは御承知のように、株式会社と申しましてもその規模によって非常に大きな差異が出てまいります。一般の人から資金を集めて企業を営むというのが株式会社でございますけれども、その一般の人の関与のしかたも違います。また取引先債権者関係におきましても非常に大きな違いがございます。そこで、大規模会社中小規模会社二つに分けて監査役権限規定することが適当であろうという考えに基づいてこのような措置をとったわけでございます。  そこで、その基準をどうして一億円に置いたのかという問題でございますが、これは非常にむずかしい問題でございまして、一億円でなければいけないという絶対的な理由というのはなかなか困難でございます。まあしいて申しますならば、中小規模会社につきましては、たとえば中小企業基本法というようなものがございます。で、この中小企業基本法適用になる会社範囲を定めるにつきまして、一応一億円というのが妥当であろうというような考えのもとに今国会法案が提出されたというふうにも聞いております。まあ一般にわかりやすいということも必要でございます。したがいまして、一億円というところがおおむね妥当ではなかろうかという見地から、そのような一億円をもって区別するということにいたしたわけでございます。
  12. 原田立

    委員長原田立君) 青木委員に申し上げます。おすわりになって御質問になってけっこうですから。
  13. 青木一男

    青木一男君 法務省お尋ねします。  監査制度改正眼目株式会社運営の適正を期するという点にあることはよく理解できます。しかし、この改正問題の動機をなしたものは山陽特殊鋼粉飾決算事件であったことは、沿革上、法務省の御説明からも明らかであります。会社経理の不正の中で利益を隠すということは多くの会社の意図するところでありますが、これは税務当局の厳重な調査によって是正されているのが現状でございます。利益がないのに利益があるように決算をするのが粉飾決算であって、債権者一般投資家に損害を与える原因となるから、まあ監査制度強化の必要が叫ばれたものと思います。そこで、山陽特殊鋼事件以来、粉飾決算として表面に出てきた事件の件数を年度別に知らせていただきたい。
  14. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) 仰せのとおり、今回の監査制度改正動機山陽特殊鋼事件でございまして、それに引き続いて、相当大きな会社においても粉飾決算がなされているということが判明いたしたからでございます。粉飾決算会社の数というのは、厳密にはなかなかっかみにくいのでありますが、実際に大蔵省などで把握されたその数を申し上げますと、昭和四十一年に五十二社、四十二年に二社、四十三年が三十二社、四十四年が二十三社、四十五年が四十八社、四十六年が十三社となっております。
  15. 青木一男

    青木一男君 商法は、民法と並んで民事法基本であることは申し上げるまでもありません。民法が、すべての人にひとしく適用される法の原則規定したものであると同様に、商法につきましても、たとえば株式会社法は、すべての株式会社にひとしく適用される基本原則規定したものと考えております。少なくとも今日までの商法はそういうものでありました。しかるに今回の改正案によりますると、商法改正案のほかに、株式会社監査等に関する特例法が制定され、その結果、資本金大小によって適用法規を異にすることとなったのであります。私は、特例法商法の一部であると思います。これは商法体系を乱るものと私は思いますが、外国商法でかような、会社大小によって適用法規を異にするというふうな立法例があるかどうかを伺いたいと思います。
  16. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) まず最初法律のたてまえ論でございますが、原則としては、仰せのとおりであろうと思います。ただ、事柄により、場合によりまして、特殊な事項、たとえばその一部について適用することが適当であると認められる事項につきまして、その原則に対する例外としての特例法が制定されるということは、民法商法の分野においてもあるわけでございまして、今回の特例法もそれにならったものでございます。  外国における立法例があるかというお尋ねでございますが、私あまり詳しくございませんので、気のついたものを二、三申し上げますと、たとえば有名なスイス債務法スイス株式会社組織スイス債務法によって規定されておるわけでございますが、その七百二十三条という規定を見ますと、五百万フランまたはそれ以上の資本を有する株式会社、まあそのほかに債務の償還されていない株式会社というようなものも入ってくるわけでございますが、そういう資本金五百万フランまたはそれ以上の資本を有する株式会社においては、独立の帳簿鑑定人をして貸借対照表を検査せしむる義務を負うと、こういうような規定がございます。五百万フランと申しますと、大体わが国の円に換算いたしまして四億程度になろうかと思いますが、四億以上の資本金株式会社に大体当たるわけでございますが、そういうものについてこういう特殊な規定株式会社組織法自体において規定されておるという例がございます。  それから、本年イギリス国会政府提出法案として提出されております一九七三年会社法の案によりますと、これは従業員が千五百人をこえる場合と、それから純資産が五百万ポンドをこえる場合、これは相当大きな会社になろうと思いますが、こういう会社につきましては、普通の取締役のほかに非業務執行取締役、つまり業務を執行しない取締役というものを少なくとも三名以上置かなければいけないと、こういうことを規定することにいたしております。  このように、同じ株式会社でございましても、規模の大きなものにつきましては、それに対応する規定を設けて必要な措置を講ずるということは外国でも行なわれておるようでございまして、わが国の今回の特例法というものもこれと同じ趣旨に出たものであると、このように御理解をいただきたいと思います。
  17. 青木一男

    青木一男君 いま二つの例をあげられたんでございますが、その他一般の多数の国においてはそういう例がないように私も伺っておるわけであります。そしていまの例によりますと、特例と申しましても、今回の特例法の第二章に当たる形をとっておる。つまり一般原則適用したほかにこれだけのものを加える、こういう規定の形になっておるわけですね。
  18. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) まあそういう見方もできようかと思います。この一九七三年のイギリス会社法案で設けようとしております非業務執行取締役と申しますのは、いわばわが国監査役類似業務を行なうものでございまして、御承知のように、イギリスには監査役という制度がないわけであります。ところが、こういう規模の大きな会社について監査役類似の役員を認めるということでございますので、まあほかにないものを設けたという点では御指摘のとおりでございますけれども、組織の上ではかなり大きな変更と申しますか、特色を持つ会社ができるということになろうかと思います。
  19. 青木一男

    青木一男君 例外または特例を定めた立法例は、これはもちろん数多くあります。しかし本件のように、せっかく商法改正しても、監査制度改革眼目である監査役取締役に対する業務監査監査方式法定条文適用を受けるのは、先ほどの御説明によると、きわめて少数、全体の一%か何%か、きわめてわずかでありまして、百万以上の会社特例法によって不適用となっておる。どうも立法の形として、これは特例とか例外という観念に沿わない立法ではないかと思うのです。例外だとか特例というのは、大部分原則どおり施行されて、ごく一部のものが違った規定を置くというのが例外または特例だ。しかも本法の場合は、株式会社の九十何%がその特例のほうに入ってしまう。こういう形は私は特例または例外という観念と一致しないものじゃないかと思うのですが、こういう異例な立法例がほかにあるかどうか、伺いたい。
  20. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) まことにむずかしいお尋ねでございまして、立法例ということを申しますと、なかなか比較しにくいものがございます。ただ、数の上から考えますと、仰せのとおり、非常に多数の会社特例法適用を受け、ごくわずかの会社が本則の適用を受けるという形になるわけでございますが、そもそも株式会社というものはどういうものかと申しますと、御承知のとおり一般大衆から資金を集めまして、そうして大きな企業を興す、そのための法律技術として認められた制度でございます。ところで、実際にそのような形での運営がなされている会社というものは、主として大企業でございまして、わが国には非常に個人企業に類したような株式会社に至るまで非常にたくさんの数の株式会社が現在成立しておりますけれども、その中には、本来の株式会社としてふさわしくない、たとえば株券も発行していない、株主総会も開かないといったような会社も多多あるわけでございます。また、その株式会社がいろいろ一般社会において営業活動を行なっていく場合に、日本の経済なり国民の大衆の中で大きな影響力を持つという点から申しますと、数の上では少なくとも、大きな、たとえば一億円以上の株式会社というもののほうがはるかに大きな比重を占めておるわけでございまして、問題は、こういった会社運営をどのように適正にし、関係者のあるいは関係企業の保護をはかっていくかということに重点が置かれるわけでございます。したがってそういう点を主眼といたしまして今回の改正が行なわれたわけでございまして、これは法制審議会で決定されました要綱におきましてもそういう趣旨になっておりましたし、政府といたしましてもそれと同じ考えに基づいて立案したのでございます。  ちなみに、衆議院においてこの法案の採決の際に採択されました附帯決議の中にも、大小会社の区別について所要の改正を検討せよという項目がございます。こういういろいろむずかしい問題をはらんでおります株式会社制度でありますので、御指摘のような問題はいろいろあろうかと思いますが、私どもといたしましては、今回の改正の方向が一番妥当であろう、このように考えて立案いたした次第でございます。
  21. 青木一男

    青木一男君 私は区別したことについて批判しておるのではなく、立法の、原則例外との立法形式がおかしくはないかということを申し上げたんです。しかし、これは後ほど私、さらにあらためて質問します。  民法商法は私法中の基本法でありますから、簡明に規定されておるのが私は特徴であると思うんです。これはいろいろの行政法域から比べての話でございますが、わりあいに今日までの商法は簡明ということが特徴になっておると思うんです。しかるに、今回の株式会社監査等に関する商法特例に関する法律案はきわめて、まあ何と申しますか複雑であり難解である。たとえば特例法の第二十五条をひとつ見ていただきたい。一条で一ページ以上を占めておりますから、たいへん長い条文ですが、この中に何十という法文が引用してある。この何十という法文適用除外されるのかと思うとそうじゃない。逆なんです。これらの何十という法文を除き、適用しない、こういうのですね。ちょっと私みたいに頭のめぐりの悪い人間じゃ、一体どこが適用されるのかされないのか、これはなかなか読んでみてもよくわからない。おそらくこの原案をお読みになった方は、私と同じような感想を持ったのじゃないかと私は思うんです。除外規定の中にさらにたくさんの除外があるというようなことは、税法等には例があるわけでございますが、こういう民法商法というような基本法に、なかなか一度や二度読んでみても頭に入らないような複雑な規定は、どうも私は適当でないのじゃないかと思うんです。これは法務省も、おそらくこれはわかりにくい法文だということをお認めの上に立法されたと思いますが、どうしてこんな複雑な立法形式をとったのか伺いたいと思います。
  22. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) 特例法の二十五条の規定が非常にわかりにくいという点はまさに御指摘のとおりでございまして、私も、このような規定ができたことについては、あまり好ましいことではないというふうに感じておる次第でございます。ただ、これは従前からの立法形式、それをそのまま踏襲いたしまして、今回の監査制度改正に当てはめますと、こういうような形にならざるを得ない、書き方といたしましては、この反対適用しないという条文を掲げるという方法もあるわけでございますが、この二十五条の書き方は、適用する条文を表に出しまして、それ以外の規定適用がないということにいたしたわけであります。  なぜこのような形をとったかと申しますと、立案の際に、適用のある条文適用のない条文を全部洗い出しまして、どちらの数が多いかということを調べまして、その数の多いほうを表に出さないで書くというのが何か立法のスタイルだそうでございまして、その原則に従ってこのような形にいたしたわけでございまして、まことにわかりにくい規定であるということは、私も率直に認めるわけでございます。何しろ株式会社法というのは、そうでなくても非常に技術的な組織法でございまして、わかりにくい。その上にまたこういう規定ができるということは、非常にわかりにくくするのではないかという点は、仰せのとおりでございますけれども、これは従来の規定のしかたに従ったという点で、やむを得なかったというふうに思っておるわけでございます。
  23. 青木一男

    青木一男君 法務省が数年前に提示された最初原案では、全部の株式会社改正案適用することとなっていたのでありますから、簡明であって体系を乱すようなこともなかったのであります。しかし、わが国株式会社の大部分は小資本のものが多く、多くは個人企業延長あるいは同族会社実体を持っておるものであって、一般の人の資本を集めた株式会社というのはわりあいに少ない。そうして、今日まで世間を騒がした会社不正事件というようなものはほとんど大会社に限られておる。そうしてみると、改正案による監査制度強化というものは、小会社には必要がなく、過重の負担を課するにすぎないではないかという各方面からの反対意見が強く出されておる。私もその反対論者の一人でありましたが、そういう法務省改正原案は、わが国株式会社実情に沿わない、こういう点において、法務省もこれらの反対論に耳を傾けて、原案を大きく修正するに至ったのであります。私はその態度は高く評価するものであります。しかしながら、法務省が、わが国株式会社は、個人企業延長のようなものが株式会社実体である、これは日本株式会社の姿である、こういうことがわかり、そうしてこれらの会社改正案適用することは適当でないというところまで御理解がなった以上は、私は立法の形も根本的に考え直すべきではなかったかと思うものであります。  たとえば、証券取引法はもちろん商法の系統に属する、特別法でありますが、特定の目的から、政府関与を大きく取り入れた特別法である、先ほど例にとられたスイスあたり立法にしても、大きな会社については何か特別な立法をするというような例もあるわけでございますから、私はこの商法自体でなく、特別法の制定で大会社監査制度強化をするということをお考えになったならば、日本株式会社現状に沿う私は立法ではなかったかと思うのであります。もしそういう特別法はむずかしいというならば、さらに一歩根本的に考えて、株式会社というものの性格でありますか、がはっきりするような、一般大衆資本集ゆ会社と、いまの個人企業延長のような会社とは会社カテゴリーを違うことにする、こういうところまで一体検討されれば、法体系を乱すようなこともなく、実情に沿った立法ができたと思うのでございますが、そういう根本的の改正をせずに、商法特例で片づけようと思ったものだから、特例法第二十五条のような非常な複雑な条文を設けなくちゃならなかった。それと同時に、あの特例法第三章によって、小さな会社は、株式会社というけれども一人前の資格はないんだというような観念が第三章に私はあらわれているんじゃないか。そうするよりは、むしろ会社カテゴリーを根本的に別な会社として考えるということまで踏み切れなかったものかどうか。この立法の過程におけるお考えを伺いたいと思います。
  24. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) 私、先生のお考えには非常に同感の点が多いわけでございますが、最初に御質問がございましたように、わが国には百一万の株式会社がございます。これを大小形態に応じてそれぞれに適した規制をしていくというためには、非常に大きな現状の変更というものが伴うわけでございます。それだけに、そういう改正をすることが望ましいということはかなり多くの人々によって指摘されておるわけでございますけれども、現実の問題として、そういう立法を一挙に行なうということには非常に困難が伴うということで、いわば現実との妥協というような面で今回の特例法というものが生まれてきたということが言えようかと思います。もちろん将来の方向といたしましては、現実にさからわない程度で徐々にそういった株式会社の規制の整備を行なっていく、先ほど申し上げましたように、衆議院法務委員会附帯決議にもあるような大小会社の区別といった問題につきましても検討をしていかなければならないというふうに考えております。今回の改正案を作成いたします経緯におきましても、その点はもちろん問題には出たわけでございますが、実際界その他の御意見を伺いましても、いま直ちにこれを行なう、株式会社を二分してしまうということは非常に大きな混乱を生ずるということで、そこまでは今回は踏み切らなかったということでございます。
  25. 青木一男

    青木一男君 まあしかし、法の改定において私の申し上げたことも御考慮に入れられた、しかし実際上むずかしいというのでいまの形をとられたという沿革は、これは理解できます。しかし、もし商法改正以外の立法形式に踏み切ることは困難であったとしても、商法特例法との関係は私はどうもできがよくないと思う。再検討すべきではないかと思います。  私の結論を申し上げますと、商法には、会社大小を問わず全株式会社に共通する改正案だけを提出して、特例法第三章を根本的に改めて、一億円以上の会社適用する監査制度強化規定を設ければよかったではないか、私はこう思うんです。第三章によって商法規定適用しないという表現自体が私は非常に好ましくない、こういうふうに思うんです。むしろ大会社は、その社会的影響から見て、商法一般原則のほかにさらにこれだけの特例法監査制度強化するんだと、こういう立法のほうが正しくはないかと思うんです。  現に、第二章はそういういき方をしておる。それを第三章であんな複雑怪奇なわからない条文をなぜ好んで置くのか。つまり、第二章の会計監査人の規定と歩調を合わして、第三章で一億円以上の会社にはさらにこれだけの監査制度強化を行なうと、こういう規定を置きますれば、特例法の歩調もそろうし、それから、さっき申し上げた第二十五条のような規定は全部必要なくなっちまう。そうして立法形式としても、原則例外が逆になるというようなこともない。私は、いま申し上げたような立法形式をとって、商法改正にはすべての会社適用する分だけを規定して、一億円以上の大会社に関する監査制度強化規定特例法で第二章に合わして第三章でさらに追加するという形をとれば、法体系もくずれないし、あの第二十五条のような複雑難解な規定も全部必要なくなるんじゃないかと思うんです。商法は本来の姿に私は戻ると思うんです。私のような立法形式をとれば、あの難解、不可解な第二十五条のような規定は必要なくなる、この点はお認めになりますか、まず伺いたい。それから、根本的に私の言ったような立法方式をどうしてとらなかったかということについても御意見を伺いたい。
  26. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) まあ先生のおっしゃるような立法形式をとりました場合に、二十五条の規定が必要なくなるということは仰せのとおりであろうと思います。そういう形をとりました場合には、しかしながら逆に大会社特例のほうにかなり複雑な規定が必要になってまいります。おそらくこの二十五条と同じような、いやこれより以上に複雑な規定大会社特例に必要になってくる。そうしますと、現在上場されているような大きな会社はすべてその特例法の複雑な規定適用を受けるという形になろうかと思うわけでございます。そういう意味で、形式の問題につきましてはいろいろ御意見もあろうと思いますけれども、私どもといたしましては、大会社特例と、中小会社特例と、それぞれについての特例を設けるという立法形式を選んだわけでございます。
  27. 青木一男

    青木一男君 私は、いま民事局長の御説明の中で、私の申し上げたような立法方式をとると特例法で非常な複雑な規定を置かなくてはいかぬというのは、私は理解できないんです。特例法の中で、第二章で監査人制度規定を置いたと同じように、あの監査役業務監査の問題とそれから監査方式の法定というような事項を加えておけばそれで済むのであって、一般の、この二十五条のような複雑な規定というものはどこから出てくるんですか、私はどうもわからない。今度の改正の主眼は業務監査とそれから監査方式の問題が中心ですから、そのことを第三章に加えておいたらそれで済むわけであって、どうしていま二十五条のような複雑な規定が必要になってくるのか、私はいまの御説明理解ができない。詳しく説明してください。
  28. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) 特例法の第二十五条の規定でございますが、この中には、先ほどの監査報告書などの規定特例もございます。しかしながらそのほかに、監査役業務監査を行なわないで会計監査のみを扱うという点から生ずるいろいろな違い、これを調整する意味が含まれておるわけでございます。たとえば、今回の商法改正におきましては取締役業務監査を行ないます関係上、各種の訴えの提起権であるとか、あるいは監査役取締役会に出席して意見を述べるとか、その議事録に署名をするとか、そういった規定もございます。差しとめ請求権の規定もございます。そういった規定がいろいろ商法の本則に入ってきたわけでございまして、そういうものを排除するということもこの二十五条の中に含まれているわけでございます。したがいまして、もし商法一般規定を中小会社基本として書いたということにいたしますと、大会社につきましては、各種訴えの提起権であるとか、あるいは取締役会に出席して意見を述べるとか、差しとめ請求ができるとか、それに関連したもろもろの規定が必要になってくるわけでございまして、それを特例法のほうに移さなければならないと、こういうことになるわけでございまして、大会社に関する複雑な規定特例法規定されると、こういうことになるという点を申し上げたわけでございます。
  29. 青木一男

    青木一男君 いまの局長の答弁は私はまだ理解ができないんです。それは、大会社について監査制度強化しようと思えば、その分を、いま商法改正案の中に入っているやつを特例法に移すだけで済むんですから、複雑なことも何もない。私はその点を言っているんです。これは政府もおわかりだろうと思うんですが、それがために複雑になるなんというのは一つもない。いまのように、原案のように、もう商法改正案では一応監査制度強化規定を全部適用するような形にしておいて、特例法で小さな会社除外しようとしたからあんな複雑な規定になった。でありますから、私が言ったとおり、商法改正案はすべての会社大小を問わず適用するものだけを規定して、それで大会社について監査制度強化しようとする分だけを特例法に書けばいい。特例法の第二章は第一そういうたてまえでしょう。監査人制度プラスこれだけ加える。第三章で、一億円以上の会社監査制度についてはさらにこれで強化する、こういう形にすればきわめて簡明である。私の心配している体系を乱すこともないし、複雑にもならない。どうも、局長は私が言った意味はまあおわかりだろうと思うのですけれども、それがために複雑になるなんということは私はどうも理解できません。まあその点はよくお考えいただきたいと思います。  それから、その次にお伺いしたいのは、監査役の新制度の運用がうまくいくだろうかという見通しについて、当局のほうから伺いたいのです。  なるほどいままでは、監査役というのは、取締役をやった年とった人がなるとか、あるいは大株主がなるとか、あるいは会社から見れば第三者的立場の知名の人を頼むとか、そういうようなやり方で来ておるわけでございますが、今度の新制度によると、業務監査までしなくちゃいけない。つまり、取締役業務執行について批判的な責任と権限を持つ監査役になりますから、これは私は、この人選が非常に容易でないと思うのです。まあ監査役の推薦というか、候補者の選定、これがやはり取締役にあるものですから、一体徹底してそういう適任者を取締役が推薦できるかどうかということ、もしそれが取締役理解の非常に深い人であれば、制度改正してみても、どうも会社運営について批判するような立場の人が出てこないのじゃないかと思うし、また、かりにそういうりっぱな人があった、つまり取締役業務執行について批判的な見識を持っている人があったとすれば、これは場合によったら業務運営について会社の内部の意見が対立する原因にもなりはしないか。とにかくこの人選が非常にむずかしいのじゃないかと、こう思うんです。これはやってみなければわからないかもしれませんけれども、第一、どういう方面から監査役を選んだらそういう改正の目的に沿うような監査役が得られるか、こういうこともひとつ法の運用の問題として法務省はどういうふうにお考えになったか、伺っておきたい。
  30. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) 今回の監査制度強化眼目の一つである監査役強化という点につきましては、仰せのように、監査役に人を得ることが非常に必要である。それに今回の監査制度改正の実効をあげるかどうかがかかっていると言っても過言ではないと思うわけでございます。そういう意味において、今後の運用がどうなるかということは私どもといたしましても非常に関心を持っておるわけでございます。  御承知のように、最近、企業の活動というものに対しましていろいろな問題が出てまいりました。それに対する批判というものもございます。そういう中で、私の聞いておりますところでは、経済界におきましては各種の団体がもっと企業の活動について国民の信頼を得るような努力をしなければならないといった点について協議をいたしまして、今回の商法改正につきましても、この改正を機会に清新な、有能な監査役を配置するようにしようと、そういうことを申し合わせ、あるいは検討をしているということを伺っております。これが文字どおりそのように実現することを私どもとしては願っておるわけでございます。  それから、監査役が非常に強力になるために取締役との間にトラブルを起こすのではないかと、こういう御懸念でございますが、制度の上におきましては、取締役はあくまで業務執行の責任者でございまして、監査役はそれを横からチェックする。特に監査役の守備範囲といたしましては、違法性、適法性を審査するということが一つの限界というふうにも考えられておるわけでございまして、そういう意味で、取締役との間の権限の分配につきましてはかなりはっきりしたものがある。そういう点で、ある程度制度的にも衝突という問題は避けられるんではないかと、このように考えておるわけでございます。     —————————————
  31. 原田立

    委員長原田立君) 三法案に対する質疑を一時中断し、検察及び裁判の運営等に関する調査を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  32. 佐々木静子

    佐々木静子君 それでは、前回に引き続きまして金大中事件について重ねて質問をさせていただきます。  昨日、私ども待望しておりました韓国からの捜査報告書がいよいよ提出されて翻訳されたということで、期待しておったわけでございますけれども、非常に簡単なものであって、私も新聞で報道に接しまして、これが全文かと実はあきれたわけなんでございます。で、実はこれは一昨日の夜に、外務省のアジア課長ですね、これは、回答は韓国語の上、長文にわたるのでというふうな説明があったように新聞記事になっているのでございますが、あの回答はあれが全文でございますか。全文であることは間違いないのかどうか、まずそれから外務省に伺います。
  33. 中江要介

    説明員(中江要介君) 昨日の午前十一時三十分に発表いたしましたものが全文でございます。最初韓国語で長文のものという予測をいたしましたのは、第一報で電報で言ってきましたときに、韓国語で書いてあって、三十何ページにわたると、こういうことだったものですから、これは相当長文じゃないかと予想したわけですが、別表といたしまして船舶の調査結果のところがずいぶん長かったので、肝心のエッセンスのところは結果的には短かった、こういうことでございます。
  34. 佐々木静子

    佐々木静子君 法務大臣に伺いますが、このような、全くわが国の要請にこたえておらない誠意のない回答書というふうに私ども受け取ったわけでございますが、法務当局といたしますと、あの回答書がはたして日本の捜査に役に立つのか、あるいは大臣御自身としても御期待なさっておった内容であったかどうか、そうしたあたりについて大臣の御意見を伺いたいと思います。
  35. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 委員長はじめ皆さま、本日は商法の御審議をいただきましてたいへんありがとうございました。  それから、この問題のお答えを申し上げる前にちょっと一言御了解をいただきたいと思うのでありますが、事件はまだ送致されていないのが現段階でございます。事件が送致されて以後でありますと、捜査は私のほう独自で検察が行なうことでありますから、所見も自由に言えるのでございます。送致前では、具体的捜査に関しまして私が発言をすることはいかがなものか。昨日も、ぜひ記者会見をせよと言って、長い記者会見を受けたのでございますが、ついにこの方針はくずさなかった。私がいろいろ言うべきでない、こう考えるのでございます。それぞれの政府の担当当局から御聴取をいただく以外にはなかろう。私が述べ得る段階は事件送致以後の段階でございます。捜査それ自体に関すること以外の事柄については答えるのは自由でございますが、具体的捜査に関しましては、そういう方針でなければ行き過ぎであるかと存じますので、御了承をいただきたいと思います。
  36. 佐々木静子

    佐々木静子君 いまの大臣のおことばでございますので、現実にいま捜査を担当しておられる警察のほうに伺うわけでございます。実は私、私どもの予期に反してと申しましたけれども、実は私も、韓国側は回答する回答すると言っておきながら、まあ形をつくるだけの簡単な、役に立たない回答ぐらいはするかもわからないけれども、これは実質的な回答はしないのではないか、時間かせぎではないかというふうに、私もそういう回答をするのではないかと考えておったわけなんであります。そういう意味で、今度の回答というものがやはり私どもが懸念しておった状態で回答が出されたということについて、ますます私どもが主張しておった、これは非常に重大な国際的な問題ではないか、そうした懸念をたいへんに深めたわけなんでございます、今度の回答を見まして。  実は、警察のほうも早くから捜査に御苦心なさっていると思うのでございますが、ここに——これはいまの韓国の現在の情報部長季厚洛さんですね、この前任者であるところの金炯旭さん、これは六年間韓国の情報部長を季厚洛さんの前にやっておられた方でございますが、この「大地の架橋」というこの本を実は私も入手いたしまして、これは韓国語で書いてあるので急いでお願いして日本語に翻訳していただいたわけなんですが、ここの中に、韓国情報部長としての著述に、政治的に好ましくない人間を国外で拉致拘束する方法、そしてそれをうまく韓国内に持ってくる方法について、詳しいいろんな方法を情報部長として書いておられるわけですね。この本は一昨年にもう発売されておりまして、これは韓国の方々から伺いますと、日本国内でも市販されておったようでございます。もうこれは私ども見ますと、実はこれと今度のケースが全く一致している。拘束のしかた、拉致、それから誘拐、国外に連れ去ってまた韓国に入国させるしかたなどが、これは全くこの教科書どおりに行なわれている、そういうことで、私はりつ然としたわけですけれども、捜査を担当されている警察ではこういう本はいつごろからお読みになっておられましたか、二年前に発刊されているんですが。
  37. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 御指摘の「大地の架橋」でございますが、この本につきましては、まことにたいへん申しわけないのでありますが、昨日の読売新聞で承知したような次第でございまして、読売新聞の記事も全文翻訳という形でなく、邦訳されたものがないという記事になっておりますので、私どもといたしましては、この本につきましてまだ詳細を承知しておらないという段階でございます。
  38. 佐々木静子

    佐々木静子君 これはあまりにも怠慢じゃないですか、それじゃ。これは日本におられる韓国の方々、日本人でも韓国語を読める方はだいぶお読みになったと思いますけれども、これは外国において政治的に好ましくない人間をどうやっておびき出して、どうしてひっ捕えるか、そうして人に気づかれぬようにどうして拉致して国外に脱出さすか、そうしてまた、受け入れる側の本国においてはどのようにしてこれを本国で監禁していくか、これが実に克明に書いてあるんですよ。これだけのページ、これ全部じゃないですけれども。警備に当たる警察当局は、やはりこういう本が発刊されたらすぐにでも担当者は勉強してもらわないと困りますね。これはお話になりません。全くここに書いてあるのと同じなんです。実は一部新聞でも報道されましたけれども、さらに詳しく私は、これ、全部——いまここに持ってきているのはこれだけですが、韓国語のわかる方に翻訳していただいたわけです。これは具体的に全部を読むというとたいへんですので、この金炯旭さんが韓国情報部長、いまの韓国CIAの一番キャップにおられた、いまの李厚洛さんの前任者として仕事をしておられたときの、これは西ドイツにおける政治的に好ましくない人間を誘拐したときのいろいろな作戦計画、これも実に克明に書いてあるわけです。これは初めから読むとたいへんにひまどりますので、ちょっとこれを読み上げて警察当局の御意見を伺いたいわけです。  この西ドイツから誘拐することにきめた対象人員は二十三名とする。これは作戦計画ですね。そうしてこの検挙対象者の三分の一程度がまだ増加することを予想して、検挙から拘引までの計画を立てた。そしてこの拘引要員——拘束して連れてくる要員の教育をどのようにしたか。これはこの拘引要員に一対してAからGまで七項目にわたって特別な教育をその当時やっているわけです。この拘引要員全員に対して施した教育は、拘引する要領、監視する要領、検挙する要領、それから国際法の必要項目を覚えさす、これは西ドイツの場合は飛行機で本国に連れて帰ったので、空港での諸般の活動要領を教え込む、関係機関と接触したとき、たとえば西ドイツの政府の人にとがめられたような場合ですね、そのような場合の処置はどのようにやるかという要領を教育する、それからGは、その他の活動に必要な教育、というふうに、これ、きっちり教科書までつくってあるわけですよ。そうして個条的に何名というふうにこまかい人数の分類までしている。  そうしてその検挙活動という項目を、これ、全部読むとたいへんですので、言いますと、この西ドイツの場合は、検挙した三十人——まず検挙する日をきめる、三十人を一挙に逮捕しているわけですね。このときのこの検挙する人のおびき出す方法、検挙活動、これはこの本にきっちり書いてあります。aとすると、著名人士に対しては、本国政府の行事に参席するよう招請状を発送して、国内に誘致する方法、第二が、家庭環境を利用することが適当と判断される者には、父母きょうだいなどが重病であるので生前に一度会いたいと希望していると言って、本人の帰国を促す手紙を発送する、それでもうまくいかないときは、電報や電話で督促する方法をとるようにする、第三が、このa、bのどちらでもうまくいかないときには、本人の趣味、交友関係などを調査して、国内に影響力のある人を物色して紹介状をもらうなど、対象者以外の第三者に接近して、そういう手段を活用して、第三者に面接せしめ、そうして誘引した後、待機させてある自動車に乗せて、そうして大使館に拘引する、この第三の方法が、韓国ではその第三の方法を中心に進めているということも、これも本に書いてあるわけですね。  私、これは非常に残念に思うのですけれども、この第三のケースですね、これは非常に今回の事件の場合と、そのものずばりとまではいかなくても、非常に似通った点があると思うのです。警察が日ごろからこの警備の問題について、情報を広く求められて、もう少しふだんからの緻密な計画のもとに研究しておられたならば、これはこの事件が起こったそのときにでも、ぱっとひらめくものがあうたのじゃないか、するとこの教科書にちゃんと載っているのですから、まずこの教科書どおりやるということも考えられることですから、それに対する手が打てたのじゃないかと私は思わざるを得ないわけなんですが、警察当局として、その点どういうふうにお考えになりますか。
  39. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 前回の委員会でも申し上げましたように、この種の国際的な規模での要人誘拐事件日本を場として行なわれましたのは、実は初めてでございまして、日本警察にとりましては、いわば初めての体験であったというところから、この処置につきましてはいろいろふなれな点もございました。その点、前回もお答えしたとおりでございますが、海外の事例等につきましての事前の十分なる調査研究、これは私どもは、たとえばハイジャックの問題とか、あるいは人質をとっての籠城事件、まあ私どもは浅間山荘事件という貴重な先訓がございますけれども、そういう事例、あるいはアラブゲリラによりますところのいろいろなゲリラ計画、こういうような当面非常に起こり得べき問題等につきましては、そのつど外務省を通じまして関係国の警察から資料を入手する等、資料入手につとめておった次第でございますが、本件につきましては、先ほど御答弁いたしましたように、勉強不足でまだ入手をしておらないという段階でございます。  第三の手口を伺いますと、なるほど本件に似通ったところが感じられるようにも思われますが、私どもといたしましては、なるべく早くこの詳細を承知をいたしまして、この詳細、資料として生かしてまいりたいと、かように考えております。
  40. 佐々木静子

    佐々木静子君 私もこの本を見まして、こういう面から極力捜査をしていただけば、もっと早くに犯人を、金大中さんが国内にいられる間に検挙できたのじゃないか、そうして日本の警察というものに対する信頼を、まあ国民に対しても、あるいは海外に対しても示すことができたのじゃないか。私は非常に残念に思うわけです。  ただ、ここで注意したいことは、その次の部分の拘引要領、これは西ドイツの場合は主としてボンで、韓国政府から見て好ましくない人間を逮捕しているわけで、逮捕というか、うまく言っておびき寄せたわけですけれども、これはボンの空港から乗せずに、かなり長距離であっても、まずそのときは自動車に乗せる、これもはっきり書いてあるわけであります。ボンの場合は十時間自動車を走らしているわけですけれども、そのほうが見つかりにくいんだというふうなことをこれは書いてあるわけなんでございます。  そういう点なども、もう少しこういう本もごらんになっておられたら、もうすぐにひらめくものが当然にあった、だから私はそれがもう残念でかなわないわけで、実は私、この本は私どもでももう入手しているわけなんです。翻訳も、個人の力ですけど、韓国の方にお願いして、しているわけなんです。それが、ばく大な人員と国家予算を持った警察当局がきのう入手したというんじゃ、もうこれは話にも何にもならぬじゃないですか。一体どういうことなんですか。これは法務省関係ないと言われるかもしれませんけれども、法務省の刑事局は、これ、捜査についての警察を指導する、刑事局の要項の中にも、警察官の捜査の指導というようなことも書いてあったと思うんです、入っていると思うんですが、これは法務省とすると、こういうことについては研究していなかったわけですか。また、警察に対してそういうふうな連絡とか指導とか、そういうふうなことは何もしていなかったわけですか。
  41. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) 御指摘の書物は、法務省では、少なくとも刑事局に関する限りは入手いたしておりませんが、想像でございますけれども、各国の情報活動のあり方という面での貴重な文献として、あるいは公安調査庁等においては入手しているかとも思いますけれども、それはそれといたしまして、指導ということも、まあ警察官の教養訓練ということは検察庁でやっておりますけれども、具体的な、国際的な要人の誘拐事件の捜査のしかたというようなことについては、残念ながら警察を指導した例はないと存じます。
  42. 佐々木静子

    佐々木静子君 いまの公安調査庁が入手していたかもしれずというようなお話ですけれども、この法務省の中でこれほど重大な問題が三週間前に起こっておりながら、公安調査庁が知ってたか知らないかを刑事局長が御存じないんですか。また、知ってたけれども、公安調査庁が刑事局なり法務大臣なりにそういうお話をしないこともあるわけなんですか。どういうことなんですか、一体。
  43. 安原美穂

    政府委員(安原美穂君) お尋ね、やや誤解があるんじゃないかと思いますが、私、その当該御指摘の書物を公安調査庁が情報活動の文献として入手しているかもしれぬということを申し上げたのでございまして、本件に関しまして公安調査庁から法務大臣には報告が、あるいは刑事局に報告が、あるいは連絡があったかどうかという点につきましては、公安調査庁は御案内のとおり破壊活動容疑団体の調査を本来仕事とするものでございますから、本来本件の問題につきましては検察、警察の問題として刑事局が所管でございまして、むしろ公安調査庁から情報をいただくというような筋合いではないと考えております。
  44. 鈴木強

    鈴木強君 関連。  いまのお話はちょっと私には理解できませんね。少なくとも公安調査庁というものがあって、もしこの原本を入手し、翻訳をして、調査庁が知っておったとすれば、これは国際的な関連でもあるし、重大なことでありますから、政府全体としてこの情報に基づいて何がしかの対策をお考えになるとか、そういうことは当然じゃないですか。その辺に対する、われわれが聞いておりまして対応策というものに対して積極性が欠けておるところに、いま佐々木委員のおっしゃるような不幸な事件が起きて、あとから野党に追及されて、そういうこともあったかもしれませんというようなあいまいもこの回答をしますと、国民としては治安に対する、政府に対する信頼感というものがゼロになりますよ。これは重大な私は問題だと思います。ですから委員長ね、公安調査庁を次の委員会にひとつ責任者を呼んでいただいて、この情報を入手しておったのかどうなのか、本をですね。そういうことも明確にこれはこの際国民の前にしたいと思いますから、そういうお取りはからいをお願いしたいと思います。  それから、関連でちょっとお尋ねしたいのですが、まず、警察庁はきのう読売新聞の記事で知ったと、知ったなら、この本についてさっそく入手の手配をして、どういう努力をされたのか、まだ全然そういうことがないのかどうなのか、これが一つですね。  それからもう一つは、いろいろと事件発生以来国会でも両院で質疑を重ねておりますが、どうもこれは全く雲をつかむようなことで、よくわからない。一体どうなっているのだろうかという不安と、それからもう一つは、一体日本の警察というものはそういう点について明確にどういう基本線を持っておったのか、非常にその捜査に対する方針にも疑義を持っておるように思うのです。皆さんが事件発生以来御苦労していただいておることはわれわれも多といたします。そこで、もう日本の警察当局としてはあらゆる手段を尽くして調べることはもう調べてしまったと、いまの段階でね。というのか、あるいは、いままでこういう調べをしたが、こういうところにまだ問題があるというふうに、残っておる部門があるのかどうか。これは捜査のことですからね。ここで具体的な内容について私は質問しようと思いませんが、概念として、まあ大体済んじゃったというのか、それともまだ重要な部門で残っておるのでそれをやっておるとおっしゃるのかですね。その点です。  それは、いわゆるそのきめ手が金大中さんと梁一東さんですね、それから金敬仁さんですか、こういった方々をどうしても日本に再来日していただいて、直接の関係者から聞かない限りはそのなぞが解けないということは私もよくわかるんです。ですから、皆さんがきのう中間報告で示された韓国側のあの捜査の中間報告は、いま佐々木委員おっしゃるように、何が何だかさっぱりわからぬ。急所が全然触れてない。だからせめてその関係者がどういう供述をしたのかですね、そのくらいのことは日本政府として、法的にどうであろうと、日本の領土の中で起きたことでありますから、やはり韓国側にその点は要求をして、そしてその供述書ぐらい取ってですね、こちらに来られないとしても、とりあえずの措置としてはそういう措置をし、基本的にはこれはやっぱり再来日をしない限りはこの本質はつかめないと私は思うのです。そこらについてあなたから述べていただきたい。  それから、法務大臣にお尋ねしたいのですが、一体内閣、政府としてですね、この金大中事件に対してどういう態度であるのか、この点が私にはよくわからない。たとえば各大臣が衆参でお答えになる中でも、外務大臣の御答弁、通産大臣の御答弁、法務大臣の御答弁、率直に言って、ニュアンスというよりも基本的な考え方の中に、私は、強い弱いという表現も出るかもしれませんが、き然たる態度で答えている人と、何か政治的ということをにおわせて、どっちにも都合のいいような、向こうの顔も立てたような答弁をしておる。そこに一体閣内において田中内閣がこの金大中事件をどうとらえておるかということに対する疑義がある。疑問がある。  そこで、私どもは本会議を開いてそこで田中総理から明確にこの問題に対する報告を受けたいと思いましてね、本会議の要求をいたしておりますが、自民党政府のほうではこれにがえんじない。やむを得ずいま両院で委員会をやっておるわけでありますが、おそらくこれは明日ぐらいに衆議院の本会議で質疑をするということに私は落ち着くと思います。したがって、参議院もそれに基づいてやるのでありますが、いませっかくわれわれがここまで問題についていろいろと質疑をしてまいっておりますが、政府のそういう統一したこれに対する確固たる不動のこの姿勢というものがわれわれに受けとめられない。私たち、率直に言って法務大臣がお答えになっておる点は多としております。高く評価しております。そういう日本の国内において起こった事件であり、少なくとももう週刊誌とか外部においていろいろとわれわれが出版物を読んでみますと、具体的に韓国CIAというものがやったと、しかないというようなそういう趣旨で、具体的には人物も書いて、きのうあたりの週刊ポストなんかはもう明確にいっておる。ところが、われわれが国会の中で聞けばその点はまるっきりあいまいもこになっちゃって、これはまあ週刊誌とほかの新聞とということのあれはあるとしても、国民は読んでおりますから、これだけ具体的な話が少なくとも公の雑誌の中に載っておるにもかかわらず、その辺が一つも国会の中では出てこない、こういう国会に対する不信も出てきますよ。だから、私はどうしてもこの点は、内閣がもっとき然たる態度で、主権侵犯間違いなしとわれわれが判断しておるようなそういう問題でありますから、その確証がないということに対してちゅうちょをしておることはわかりますが、あまりにもこの問題を政治的に解決しようとする空気が最近濃厚になってきた。  現に、私は朝日新聞をけさ見ましたが、あなたも、金氏再来日については信じておる、政治的な解決以外にはこれはないということをおっしゃっておる。この政治的解決というのは一体どういう意味なのか国民にはよくわかりませんが、何か本体というものに対して、国際的な日韓の友好関係ということだけを気にして、そしてこの重大な主権侵犯に及ぶ問題がどうかするとカムフラージュされてしまうような印象を受けるんです。だから、やはりやるべきことはやって、かりに、大臣に脅迫の電話があった、それをはねのけてやっておられる、これはりっぱですよ。われわれ政治家は、いまこの瞬間身にどういう危険があるか、これは覚悟の上ですよ。刺されることもあるかもしらぬ。殺されることもあるかもしらぬ。しかし、そんなことをおそれて言論の自由をわれわれは曲げることはできない。したがって、お互いに政治家はそういう信念に基づいてやっておるわけでありますから、何かこの本筋を忘れて、日韓に与える影響だけを気にして政治的な解決なんということであれば、これはもう断じてわれわれは承服できない。ただすべきはただし、要求すべきは要求して、少なくとも韓国が日本国会における議員の発言に対して干渉するがごとき言を弄することは私は絶対に容認することはできない。そういう意味において、もう少し内閣自体がき然たる態度で当たるような方法をとってもらいたいと思うんだが、一体どうなっておるのか。それからあなたの、金氏の再来日については確信をしていると言うのでありますが、私たちもそう確信をいたしますが、何とかそれをやってもらいたいし、そのために何か政治的解決以外にないというような、こういう少しずれたような考え方については——まあ私、あなたの意見を聞かない間に失礼なことを申し上げてはいけませんから、受ける感情ですから、そういうふうに思いますから、この政治的解決ということが、何か田中さんあたりがテレビの放送で言ったような、まあまあまあというようなことで解決するようなことでは私は断じてないと思いますから、そういう危険性がなきにしもあらずですから、政府全体の態度として、その辺についてはき然たる態度で法務大臣はやってほしいと思うんですが、そういう意味を含めてお尋ねします。
  45. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) まず第一点の、この本を入手したか、あるいはするためにどういう措置をとったか、こういうことでございますが、この本に関しまして、読売の記事を引用して恐縮でございますが、「この本の邦訳はまだなく、専門研究者間でもほとんど知られていない。」、こういうことでございましたので、現地で入手をしなければならないかと思いまして、現地に入手するようにしたのでありますが、佐々木先生、日本でも市販されておるということでございますので、さっそくその市販のルートをさがしまして入手いたしたいと思います。  次に第二点でございますが、日本の警察は、この事件についてすでに捜査をこれ以上もうやることがないという段階なのか、それともまだ余地が残っておるのかと、こういう御質問に対しましては、まだまだ十分これから捜査をしなければならない余地が残っておると申せます。なぜならば、先生御指摘のように、最も大事な被害者の公式の調書というものがまだ私どもの手もとに参っておりません。昨日送られました資料につきまして、これは佐々木先生も御質問ございましたのでこの機会にあわせてお答えをいたしますと、私どもといたしましては、決してこれでもって、正直なところ捜査の核心を突くような資料だというふうには考えられないものでございまして、ただ、一つ参考になりましたのは船の捜査でございまして、これは、私どもが海上保安庁と協力をして八日の午前零時から十日の午前零時までの間に韓国に向けて出航いたしました船三十五隻のうち十一隻がこの韓国側の回答によりましてある程度容疑が晴れたと、こういう成果はございましたが、なお、その船舶につきましても、私どもとしてはもう少し納得のいく捜査をしたいと、かように考えておりますが、一応そういう効果があったということは申せます。しかし、まさに仰せのとおり、被害者である金大中氏、この方が最も大事な証人でもあるわけでございますが、この方をはじめとして、金敬仁さん、さらには梁一東さんの三人の供述調書、これは本件捜査にとりましては不可欠なものでございます。これがまだ入手されないということにつきましては、私ども、何としても一日も早く入手したい、かような考えから、昨日夜、正式に外務省に対しまして金大中氏ら三名の再来日を再度——再度と申しましてももう何回もでしょうが、強く要請をするとともに、いままでわれわれが要請をいたしました捜査資料のうちこの三人の供述調書、あるいはその要旨でもけっこうですから、これについて早急にいただきたい。韓国側は、三名の供述が矛盾し合っておるのでということで時間をとっておるようでございますが、矛盾したままでけっこうですからぜひいただきたい、こういう強い申し入れを昨日行ないました。まだまだ捜査をしなければならない問題点はたくさん残っておりますので、われわれは、捜査はこれで行きどまりだとか行き詰まり、あるいは完了したとはもちろん考えておりません。これからだと思います。
  46. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 政府の間に発言のちぐはぐがあるじゃないかというおことばでございます。そういうふうに見えぬこともないのかもしれませんが、私はそうは見ていない。よく注意をしておるつもりでありますが、ニュアンスの違いはある。方針は一貫しておる。それはどんな方針なのかと言うと、いま警察がお述べになりましたように、この捜査を遂行して事件の真相を究明するということに一番大事なことは何かと、こう言うと、これは申し上げるまでもない。警察のおことばのとおり、金大中君をはじめ梁一東君、金国会議員、この三君が現場で犯人を目撃しておる。この三君を日本の国に呼び戻して、自信を持っております日本の捜査当局がじきじきみずからこれを調べるということ以外にない。調べさしてくれれはきっと答えが出る。私は確信を持っております。きっと出る。それを戻さぬのです。  私がけしからぬと言うのはこれを言うんで、ことばが過ぎておると言う人もあるんですけれども、けしからぬ話だ。何で戻さぬ。勝手に行ったんじゃないんです。おのれの意思に基づかずして拉致された。そして、日本におりました者が現に韓国におるという事実だけは疑いがない。これを戻してくれと言うのに戻さない。私はこれをけしからぬと言っておるのでございます。外務省もその決意で交渉しておる。  ところが、先生、一つ困ったことがある。それはどういうことが困っておるのかと言うと、ものがしゃんしゃんいかぬのです、申しわけないんですけれども。どういう理由で困ることが起こっておるかと言うと、国際法に基づけば、この犯人が政府であるということ——政府という抽象的なものではございますまいが、ことばを変えれば、政府の国家機関であるということが明白にならないと国際法上原状回復の要求をする法律上の権限がない。それは戻してくれぬことには明らかにならぬ。明らかにならなければ権利はないと、こういうわけです。ここにおちいっておるのが本件の急所でございます。  そこで、私から政治的解決ということばが生まれる。国際法上、なぜ返さぬのか、けしからぬじゃないかと言うてみる権利はない。返す、返さぬはおれの考えだと、こういうことになると、手のつけようがございません。こんなことをいつまでほっておいたって、ものがむしむししておるだけで解決しない。そこで、私は本件は政治解決でなければならぬということを言うておるのでございますが、それはどういう意味かというと、外務省も、政府の方面においても、国際法上の権利義務というようなことをあまり言うな、相手の言うことをこっちが先言うことはないじゃないか、国際法上義務があろうがなかろうが——国際法上義務があろうがなかろうが、政府日本の要求をのんで両国の合意ができるならば、合意に基づいて引き渡さなければならぬ責任が生ずるじゃないか、その合意をする責任が韓国にあるじゃないか、日本と韓国とはどんな関係と思っておるか、こういう所論が私の根拠でございます。経済援助しておるからどうだなんというそんなけちなことを言うんじゃない。日本と、両国の間においては、現に外人は六十三万人も私はお預かりをしておりますが、その中で韓国はじめ朝鮮出身の同胞の諸君は六十二万人に及んでおる。両国の間の国民は、結婚をして子供が生まれ、孫が生まれ、ひ孫が生まれている、そういう関係に置かれておる、血縁関係ができておる、非常に両国は大事な関係である、どういう事件、どういう事態が起ころうとも、両国の間にみぞがあってはならぬ、亀裂を生じてはならぬという関係に置かれている、それを認識しろ、韓国も。何だ、その認識を欠くような態度は。経済援助をしておるじゃないか——そんなけちなことを言うておりません。そういう考え方から申しますというと、両国の大事な関係というものにかんがみて、日本政府、もともとこちらにからだがあったのが、おのれの意思に基づかずして向こうへ行っておるのだ、それを戻してくれという要求には応じなければならぬ。国際法上の義務などというけちなものでなしに、もっと大事な道義上の責任があるじゃないか。その道義上の責任を認めて戻してくれと。戻してきたら日本の力で答えを出してみる、そういう意味の政治解決以外にない。  うやむやに済ませるというふうに、佐々木先生、おことばが、そういうおことばありませんけれども、あなたはうやむやに済ますのじゃないかというような政治解決というふうにお聞き取りをいただきますというと、私、心外なところがございます。そうじゃないんですね。そういう意味の政治解決、本件は政治解決以外にない、そういう、両国の国民、両国の政府もばかばかりじゃありませんから、両国の政府がこれを認識、この両国の関係を認識すれば、私は必ず——必ず一段落がつけばこのからだは返してくると、こういうふうに私は信じておるのでございます。それを、政治解決で戻るものと信ずるということの——私は要らぬことを言うくせがあるものですから、それを言わいでよかったことをおしゃべりをしたものだから新聞記事に出ておるということですが、真意はそういうことでございます。  こういう考え方に立っておるのでありまして、これらの人々のからだをぜひ日本に再来日を願いたい。国際法上の義務などという冷たいことを言うな、両国はそんな間柄ではないじゃないか、まずその認識に立ってものを言え、こういう態度でこれをやりましたら、必ず私は両国の政治家に具眼の士はあろうと思いますので、返ってくる、きっと返る、こういうふうに私は確信をしております。事件は少し時間がかかるかもしれぬが、からだが返れば、みごと解決ができる、こういう確信を私は持っておるのでございます。  それから、これは委員長にお願いでございますが、公安調査庁を呼んでという御要望がございましたが、幸いここに来ておりますので、どうぞこれでがまんをしていただきまして、答弁をさせていただきますようにお願い申し上げます。
  47. 佐々木静子

    佐々木静子君 簡単に答えてください、持ち時間がないから。
  48. 渡邊次郎

    政府委員(渡邊次郎君) 公安調査庁は、昨年入手いたしました。ただ、公安調査庁は本来国内の破壊団体を調査するのが職務でございまして、この本の内容は権限外——直接の仕事の関係はございませんが、参考文献として昨日入手いたしました。
  49. 佐々木静子

    佐々木静子君 もう時間が、大臣の非常に力強い熱弁を伺っておりまして、ちょっと時間がなくなってしまいましたので、もう一言簡単に申します。これは、公安調査庁もこれは昨日入手された、刑事局は御存じない、警察も昨日というようなことでは、これは全く私は本気になって捜査をやってられたのかどうか。この本があるということを私どもは早くから聞いていましたですよ。だからそういうふうな、おそらく警察の耳にも入っていると思います。私は、これはいま国際法云々という話がありましたけれども、韓国政府に遠慮なさっているから突っ込んだ捜査はなさらないんだと私は思わざるを得ないわけです。ここにいま、時間がなくなりましたのでもうあと省略しますが、これは、うまいことを言ってきて連れてくる係、それから連れてきた者をうまいこと言ってなだめる係、それからそれを港なりどこやらまで護送する係、それから国境を突破するための方法とかまたその分担者、これ、翻訳に誤りがなければ、ちゃんと書いてありますよ。あまりにも怠慢じゃないですか。私は、そのことで大臣がこの問題で閣僚のうちで最も正義感に燃えて、御熱心に取り組んでいただいているということ、さすが法務大臣である、しかも私も弁護士ですが、やはり人権を擁護しようという、この在野法曹としても先輩であるということに非常に敬意を持っているわけですけれども、しかし全体として見たときに、やはり何か韓国政府に遠慮している、もうこのいまの御答弁を、各省の御答弁をお聞きしただけでも、そういうところでひっかかるわけなんです。日本の警察、日本法務省、本気になって持ってるだけの力を発揮すれば、私はこれは国際法云々の問題を述べるまでもなく、これは重大な主権の侵害があったということが、あすにでも立証されると私は思っているわけです。そういう意味において、大臣、最後にもうひとつ御所信を伺いたいと思います。
  50. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) ちょっといやな話でございますが、私、一口申し上げたいのでありますが、公安調査庁といいますと、公安という名前がついておるからね、一般公安もやるのかと、こういうことでおしかりがあるんじゃないかと思います。公安調査庁は、御承知のような破壊活動防止法という法律に基づきまして、暴力主義的破壊活動に指定された団体の行動について、やるおそれがあるのかないのかということを調査することが法律上命ぜられた団体であります。その機関でございます。私の外郭団体で、私が監督をしております。それでございますから、本件のごとき拉致事件、こういう人権じゅうりん、拉致事件というものは公安調査庁に関係はない、何ぼんやりしておるかというおことばは、これはお返しを申し上げておきたいと思います。どうか間違いのないようにこれはひとつしていただきたい。
  51. 佐々木静子

    佐々木静子君 いえ、私のほうから言っているんじゃなくって、法務省のほうから、公安調査庁は早くにこのことをキャッチしていたか知らないけれどもというお話があるから公安調査庁——私のほうから公安調査庁がなぜこれをやらぬかということはちっとも言うてないですよ。そこ大臣間違っていただいたら困ります。(「質問をよく聞いてもらわなければ困る」と呼ぶ者あり)
  52. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) はい、はい。ちょっと弁護もしておかぬとね。(笑声)
  53. 佐々木静子

    佐々木静子君 大臣、最後に何か。
  54. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 公安調査庁がしかられておるというので、ちょっと一口弁護しないと気が済まぬものですから、申しわけありません。  そういう次第、先ほど申し上げたような次第でございますので、振り出しに戻りまして、行き詰まれば初心に返る、出発に返ることが重要なことでございますので、初心、出発に戻りまして、三君の身柄を来日していただきます事柄に全力を尽くしていきたい。それに政治力を発揮していきたい、これで御期待に沿いたいと、これは政府一致の確信で、ちぐはぐはないと、これを申し上げたいと思います。
  55. 白木義一郎

    白木義一郎君 初めに外務省にお尋ねしますが、先日に引き続いてのお尋ねですが、先日五項目の申し入れということで御説明を願ったのですが、現在になってみますと、十項目の申し入れを行なったと、こういうことになっておりますが、当日の御説明と食い違いがある。その点をひとつ御釈明を願います。
  56. 中江要介

    説明員(中江要介君) 確かに、私、前回のこの委員会の席上で、日本政府の申し入れ事項は、基本的にはわがほうの捜査に対する協力ぶりが必ずしも十分でないので、一そう協力してもらいたいという強い要請であって、そのときに例示的に五つの項目を申し入れたと申し上げまして、その第一点がこれまでの捜査内容ということでありまして、これまでの捜査内容というのを現地で、ソウルで申し入れますときに、これをブレークダウンいたしまして、船舶の調査結果、それから押収品の鑑定結果、それから事件に関連して言及をされた人の名前、土地の名前、それから供述内容、それから梁一東氏の血液型、こういうこまかいものがそこで入りまして、それから中間発表の見通し、今後の捜査の見通し、来日の見通し、それから金氏の容疑があると言われているけれども、ほんとうにそういうことなら、容疑内容はどうか、こういうようにして、大きく五項目の中のこれまでの捜査内容というところがブレークダウンして五つあって、それを一々勘定しますと十項になると、こういうことでございます。
  57. 白木義一郎

    白木義一郎君 そこで、当日ですね、この申し入れについて、私たちはどうも従来の進行状況から見ますと、この申し入れについての回答はゆっくリズムで、どうにもあまり期待ができないんじゃないか。法務大臣もあまり確信あるお話でもなかったし、情勢もそういうことでありましたけれども、先日の委員会の晩に回答があったと、そういうことで、私たちも非常に前進した感じを抱いた。ところが内容の発表を見ると、非常にがっかりしたような、とらえどころのないような発表であったと、こういうように受けとめているわけですが、その点について法務大臣、あるいは外務省、あるいは警察当局の、この回答についてどのような御意見を、あるいは感じを持たれたか、あらためてお尋ねしたいと思います。
  58. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 私どもが一番強く希望しておりましたのは、金大中氏ら三名の供述の内容と、それから、これは第七項目でお願いをしてございましたが、韓国での捜査の結果、日本における事件関係者の氏名あるいは日本国内の地名、こういうわがほうの捜査に役に立つ資料がいただけないだろうか、これが一番、さらには金大中氏を運んだと思われる容疑船舶の情報、これにつきまして強く期待をしておったわけでございますが、いま申し上げました船舶の関係、これはある程度詳細な、目撃者等の供述の要旨等も含めましたかなり詳細なものが参りまして、これはかなり捜査の進展に役立ったと考えておりますが、先ほどお答えいたしましたように、供述の内容、並びに何らかの捜査の過程でわかってまいりました関係者の氏名、地名、日本に関する氏名、地名、これが残念ながらまだ入っておりません。血液型につきましてはちょっとおくれましたが、昨日入手をいたしました。A型と判明、梁一東氏の血液型、これにつきましてはちょっとおくれましたが、入手をいたしました。その意味で、私どもといたしましては韓国政府の良識を信頼をして、早急にこの種の捜査上不可欠の資料というものをちょうだいできるだろう、こういうふうに信じて待っておるところでございます。
  59. 中江要介

    説明員(中江要介君) 日本の捜査当局の非常に強い御要求によりまして、再々韓国側に捜査内容の連絡を要求しておったわけですけれども、なかなかはかばかしい回答が得られなくて、非常に断片的なものしかなかったために、一度ひとつまとめて捜査内容を知らせてもらえないかということで強く申し入れましたら、今回の報告が来たわけで、この報告が来るということを予告されましたときは、先ほど佐々木先生も御指摘がございましたように、大いに期待するところがあったわけでございます。この報告によって、あるいは一番いま要求されている真相の究明に役立つんじゃないか、それが国民みんなの疑念を解消するのに役立つのではないかということで期待しておりましたのですけれども、今度の報告を拝見いたしますと、韓国側の捜査に格別の進展があったというようなところが見られない、そういう点では非常に私ども残念に思っております。これを渡しましたときの韓国側の担当官の話では、これはとりあえず八月二十七日までにわかったところをまとめたもので、これが決してすべてであるとも考えていないし、さらに捜査を継続するのである、おいおいまた連絡して結果を報告するけれども、八月二十七日現在ではこの程度である、こういうことでありました。しかし、それを見ましたわがほうの捜査当局のお考えでは、先ほどお話がありましたように、これではとてもわがほうの捜査に対する有効な貢献ができるというものとは思えない点が多いので、まずさらに捜査の内容を詳細に知らせてもらいたい、特にその場合に、先ほどもありましたが、金大中氏ほか三名の供述内容、これが非常に大事だ、その点と、それから、金大中氏が再び日本に来れるように、そうして直接日本の捜査に協力していただけるように、この点は昨夜おそく警察庁のほうから御連絡をいただきまして、すぐに現地のほうに電報で訓令いたしまして、韓国側に強く申し入れております。
  60. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 私がお答えをする段階ではございませんけれども、ただいまの両君の御報告によって、ある程度の心証を得る参考資料は曲がりなりにも出ているわけで、今後政府の要求しております方針をかたく堅持して、特に大事なのは、腰つきをしっかり強力に、あくまでもこれを、要請を推し進めるという態度をとっていきたい、こう考えます。
  61. 白木義一郎

    白木義一郎君 大臣に伺ったのは、非常に私たち国民は韓国の回答を期待していた。ところが、これはおそくなるんじゃないかと思っていたところが、大体期待を裏切って思ったよりも早く回答があった。これは大きな前進だと愁眉を開いたようなところが、中身はいま言ったような中身で、非常にがっかりした。それについて法務大臣はどういう感じを持たれたか、こういうことをお尋ねしたのですが、法務大臣は、いつもことば数が多くてうまくないのだというようなことを−そのとおりだと思いますが、肝心なところになると非常に法務大臣らしい姿勢で御答弁をなさるので、はなはだ遺憾なんですが、端的に、まあ新聞等によれば、大臣も期待はずれだと、あるいは一応の誠意は認めるけれども、一口に言ってしまえば、あの回答は何だといったような談話を読んだような気がするわけですが、あらためてこの委員会でお答えを願いたい。なぜかならば、皆さんもそうだろうと思いますけれども、私たちは、もう会う人ごとに、これは一体どうなんだと、こういう話題が出てくるわけです。一口に言えば、どうもはっきりしないのだと、海の向こうもはっきりしないし、せめてごつちぐらいはもう少し、おまえたちわれわれの代表で出ているのだから、何か委員会でやっているらしいけれども、もう少しわれわれにわかるような話をしてくれてもいいじゃないかと、それはまた全くそのとおりだけれども、そこがそういうわけにいかない。そういうことを毎日われわれ繰り返して、たいへん恐縮をしているんですが、この事件最初からそういったような感じが非常に強い。いまの佐々木先生のこの本についても全くそのとおりで、おそらくもう世界一の実力を持った警察にしてもふさわしからぬ現状だと、こう受けとめざるを得ないわけです。そこで、あくまでもいま腰を据えてと、これはわれわれにおっしゃったんじゃなくて、答弁じゃなくて、大臣自身に、自問自答されたんじゃないかと、こう受け取っているのですが、それはそれとして、一応この回答についての法務大臣としての受け取り方、感じをひとつお答え願いたいと思います。
  62. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) これは白木先生におことばを返すようですが、佐々木先生、鈴木先生、白木先生の御発言を承っておって思うことは、仰せになることはそのとおりよくわかるのです、私が聞いておりましても。よくわかるが、少し時間がなさ過ぎるのですよ。この間のできごと  でしょう。韓国のほうだって、捜査が一段落ついたらもっと誠意のあるものをよこしますよ。それをよこさぬぐらいならば人間は返しませんよ。私はそう思う。必ず両国の深い関係というものに亀裂が生じちゃいけないということを認識するならば、これは政治的判断において、からだは戻さなければならぬ、調書のコピーを渡さなければならぬ、こういうことになってくるものと信ずるのでありますが、日本開聞以来前例のない大事件が起こった。大事件というより、わけのわからぬ事件が起こったわけです。その事件に処してその当局が苦労に苦労を重ねておるわけでございますから、もう少し気長く時間をかしていただきたい。材料が来て、人間が戻ってくる、日本警察の実力から必ず答えを出すと私は確信を持っております。それにひとつ御協力をいただく意味で、おしかりを、少し時間をひとつ延ばしていただきまして、広いお気持ちでこの事件の進み方を、御鞭撻をいただきたい、こう思うのです。
  63. 白木義一郎

    白木義一郎君 別にわれわれ、政府あるいは当局をおしかりをしているわけじゃない。あまりにもはっきりしないから、もう少し腰を据えてはっきり——いま大臣が答弁された意味もわかりますけれども、もう少し刻々進んでいる捜査の状況、事件の解明についての態度、あるいは周囲の状況等があまりにも疑惑に包まれているがゆえに、いろいろな角度からお尋ねして国民の前に明らかにしよう、こういうことで、われわれが大臣やその他をおしかり申し上げることはさらさらないわけです。国民がこれは結論づけるのが日本の体制でございます。その点お断わりしておきます。  そこで、一方、一昨日ですか、われわれが非常に心配していた、金大中氏はおそらく消されるであろう、あるいはもう消されたのじゃないかというような心配が日本じゅうにみなぎっているさなかに、わが国の大使が金氏に面会して、そうしてその安否を、身の安全を明らかにした。われわれはこの上もない喜びを感じたわけですが、いま大臣のお話からいえば、ここまでこぎつけるには政府はなみなみならぬ努力をされまた苦労をされて、この面会が成功されたのじゃないか。したがって、この強い日本政府の、わが国政府の強い要望があれば、このように事件の核心に向かって前進ができると、こういう一つの具体的なあらわれであると、こう思います。とすれば、さらに強力に政府が韓国に解明のための要望を打ち出すことによって、次々と解明のための交渉あるいは捜査が進むのじゃないかと、このように思います。そこでもう、いま法務大臣の確信は、これはこの関係の三氏が日本へ原状復帰すれば明らかになるという確信、これはもうあたりまえなことであって、それをいかにすみやかに実現して、少しでも国民を納得させ、また積み上げてきた韓国との友好関係をできるだけマイナスのないようにしなければならない。言うまでもないことであります。そこで、あくまでもこの三氏を、三人を一緒に日本へ呼び返すということはこれは当然なことですが、せめて、金氏以外の二人をすみやかに日本へ呼ぶ、返してもらうというようなことについて、この大使の面会したという一歩前進の上から、あるいは可能なんじゃないかと、こういう考え方を持つわけですが、その点いかがでしょう。
  64. 中江要介

    説明員(中江要介君) 先生御指摘のとおり、金大中氏と後宮大使との面会が実現できたということは、これはとにかく一歩前進といいますか、顕著な事実であると私どもは思っておりますが、しかし、それがすべてを解決するものでないということも十分承知しておりますし、先ほども申し上げましたように、今度の捜査結果の報告を見ましても、まだまだ究明すべき点が多い。それで、私どもといたしましては、とにかく日本の捜査が満足がいくように進むためにどういうことをすべきかということをあらゆる角度からいろいろと検討いたしまして、打つべき手をその場合に応じて打っていくということでございまして、まず金大中氏との面会が実現した、これを足場にしてさらに韓国政府に強く要求して、その他の面についても、特にいま御指摘の、そして先ほど来話題に強く要請されております金大中氏自身、被害者である金大中氏が日本に来ていただくことが最もいまの場合望まれるんだということもきのうの訓令で強く先方に申し入れるようにしておりますので、ただ、こういう問題は韓国政府との間でしんぼう強く、いろいろと日本の事情、特に国民の疑念、そういった問題をよく説明しながらしんぼう強くやっていくということで、多少御期待ほどのスピードでない場合もあるかもしれませんけれども、私どもとしては、できる限りの努力をしているということを御報告さしていただきます。
  65. 白木義一郎

    白木義一郎君 事件の解決には絶えず前進を心得ていかなければならない、努力していかなければならないということは当然ですが、しかしあまり先へ進んでしまって、出だしがぼやけてまいりますと、ますます不鮮明なことにもなりかねない。そこで警察当局は、最もこの事件の有力な目撃者である梁一東氏あるいは金さんですね、このお二人について、事件が起きた。それからお二人が帰国してしまった。これはいまから考えますと、何かこうさらっとというか、いそいそといいますかね、重大な証人であるべき二人が帰国してしまった。しかし一緒に帰国したわけじゃないですから、その間には一定の日時があったわけです。そうしますと、その間相当な捜査上の参考意見が十分に聴取される機会あるいは時間があったんじゃないか、そういうことを含めて、もしなかなかこの再来日が期待できなければ、捜査官を派遣する、しかし、なかなか韓国も応じないではありましょうけれども、せめてこの金氏を除くお二人に日本の当局が参考人としてのいろいろな参考意見を聴取するというようなことを進めていくことは、あるいは交渉次第によっては可能じゃないかと、こう思うわけです。その前に、事件が起きた当日、それから帰国してしまうまでのこの両氏と当局の取り調べといいますか——について詳細にお聞かせ願いたいと思います。
  66. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 事件当日、前回の委員会で御報告をいたしましたように、十四時四十五分。パトカーが現場に到着をいたしまして、とりあえず警視庁に第一報を入れるとともに、パトカーの乗員四名がまずホテルの二十二階に上がりまして、梁一東氏並びに金敬仁氏両氏からとりあえず事情聴取をいたしました。この事情聴取の内容は、もっぱら緊急配備をするに必要な犯人の人相、特徴、あるいは金大中氏自身の人相、特徴、着衣などの聴取という点にとどまりました。前回御報告をいたしましたようなごく簡単な事実関係のみを聴取をいたして手配をしたわけでございます。  そのあと、麹町署の者あるいは外事二課員も次々と現場に到着をいたしまして、二時五十二分から、梁一東氏、金敬仁氏両氏から事情を聴取をいたしました。この際には、いわゆる金大中事務所の東京支所長でいらっしゃる趙活俊氏や宇都宮代議士先生の秘書の方等も同席をされ、こもごも事情聴取をしたわけでございますが、この段階で新聞記者の会見要求等がございまして、梁一東氏がそちらに行く、あるいは金敬仁氏もそちらに行くということで、残念ながらなかなかまとまったお話を聞く機会がない。また、同日の夕方五時ごろから、さらに両氏について詳しく事情を聞かしていただきたいということで、取り組んだわけでございますが、これもやはりそういう新聞記者会見その他に次々と応じられるということで、まとまったお話が聞けないまま推移をいたしました。  梁一東氏につきましては、御承知のように私ども外務省にもお願いをし、あるいは外務省からさらに韓国大使館等にもお願いをしていただきまして、重要な参考人でございますので、どうしても残ってもらいたい、こういうことで説得につとめたわけでございますが、金敬仁氏のほうは説得に応じて、たしか十五日までと記憶しておりますが、おとどまりをいただいたわけでございますが、梁一東氏のほうは、八月十五日に予定されております独立記念日の諸行事に野党の党首としてどうしても出席しなければならないので、どうしても帰国をする、そのかわり十六日には再び帰ってくる、こういうお約束を捜査本部のものはちょうだいをしたわけでございます。このお約束につきましては、さらに私ども捜査本部が直接伺っただけでは不十分かと思いましたので、外務省にも手配をいたしまして、公式に確認していただくようつとめ、私どもとしては十六日に再度、独立記念日の行事が終わったあと御来日いただけるものと信じて、梁一東氏については説得に説得を重ねましたけれども、出国をしてしまった。法的には私ども、この方々が事件の被疑者であるという何らの証拠もございませんので、身柄を拘束する法的な根拠がございません。出国の自由というものは、私どもどうしても任意の説得以外になかったわけでございまして、梁一東氏はそういうことで出国をし、十分な事情聴取というものがなされておりません。  また、金敬仁氏につきましては、十五日まで御協力をいただき、かなりの供述を得たわけですけれども、どちらかというと、金敬仁氏のほうは当日から飛び込みで参加をされたという経緯がございますし、またそれぞればらばらにされて押えられた、まあ物理的には押えられなかったようでございますけれども、状況をよく見ておられない。それで、また十分お残りをいただいたわけですけれども、もう私は何にも言うことがないという程度にまでお聞かせいただいた。その内容というものは、もう新聞記者発表で出ておるものと大同小異でございまして、特にそれ以上捜査上たいへん参考になるということは、新聞に出ている以外のことはございませんでした。  十六日になりまして、私ども待機をしておったわけですけれども、ついに梁一東氏は来日をされない。この点につきましても再度来日をされるようにお願いしたわけですけれども、今日までおいでにならないという状況でございます。したがいまして、私どもは、ただいま先生御指摘のように、金大中氏についてはなお若干の時間を要するといたしましても、梁一東氏あるいは金敬仁氏につきましては、もしもそれより早い時期に来日が可能であれば私ども大歓迎をいたします。
  67. 白木義一郎

    白木義一郎君 大臣はいまの警察の報告を御存じでしたか。梁一東氏と当局がかたい約束をしていた、必ずまた大会を終わったらすぐ帰ってきて、日本へ来て重要参考人としての供述等、あるいは日本の警察当局の取り調べに応ずるという、まあいまの、かたい約束だと、こういうことですが、御存じだったんでしょうか。
  68. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 承っております。
  69. 白木義一郎

    白木義一郎君 そういう点からも、さらに韓国に対して強い要望のしかたも出てくるんじゃないか、こういうふうに考えお尋ねしているわけですが、そういう点も、まあいま伺っているとさっぱりしないところばっかりなんですね。それから警察のほうも、どうも事件当日は目撃者がないんだからというようなことで発表をされていたようにも記憶があるんですが、少なくともこの現場にいた二人は、韓国の国会議員でもあり指導者の立場にある方が、こういう重大な立場、重要な立場にある人たちが現場にいながらはっきりしない、そういう点もすっきりしないわけです。またエレベーターのあれで目撃した人がいるんじゃないかとか、あるいは女の子が食事を運んでいって見ているんじゃないかとか、そういう人たちはお客さんとして、あるいはエレベーターに乗るところを見たにしてもあるいは病人でも出たんじゃないかという程度でこれを見のがす立場ですよ、目撃者としては。しかし、この二人はもう韓国の指導者でありますから、政情あるいは国内の現状等については当然詳しく心得ていなきやならない、そういう人が現場にいながら、はっきりしない、しかもかたい約束をいまだに守ってもらえない、したがって捜査当局が非常に苦心をしている、こういう点も、これはまあ三人が来ればそれこそはっきりすることですが、できれば一歩一歩解明していっていかなければならないことだと思います。  そこで、時間がなくなりましたから、最後に一つだけお伺いしたいことは、当然日本の首都である東京で、世界各国の要人が滞在あるいは宿泊するホテルについてどのような従来警備体制をしいていたか。当局は当然のことですが、今度はホテル自体としても独自のお客さんに対する警備の体制があったんじゃないか、この点お伺いしておきたいと思います。
  70. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 要人が来日をされましたとき、どのホテルに泊まるかによりまして、またその要人の政治的な背景、国際的な影響力、地位その他によりまして、警察のとります警護体制というのはおのずから異なるわけでございますが、たとえば廖承志一行のような方々がお見えになったときの措置等は万全を期しておるわけでございます。  お尋ねのホテルの側の自主的な警備体制について、このグランドホテルの具体的な例について私どもの承知しておりますことをお答えをいたしますると、ホテル側はガードマン会社に地下一階以上の警備を依頼をしております。現在同ホテルには隊長以下十三名が二交代二十四時間勤務体制で警備に当たっております。交代は午前九時の由でございます。勤務方法につきましては、受付あるいは待機、巡回等を交互に行なっておるわけでございますが、事件当日、事件のあった二十二階は午後一時十五分に一人のガードマンが巡視をした、しかし異常は認められなかったと、こういう報告をしておるようでございます。ガードマンの巡回方法につきましては、事務所から二十三階にエレベータであがりまして、一階ずつ歩いてパトロールをしてだんだんおりてくると、こういう形をとっておるそうでございます。  また地下二階、三階は駐車場でございますが、この駐車場につきまして、ホテル側はパレス交通という、まあこれも駐車場関係会社でございますが、ここに警備を一任しておるそうでございまして、現在毎日七名が午前七時三十分から二十四時の間、交代しながら、主として入口と出口のチェック、あるいは料金の徴収、満車時の交通整理等を中心とした警備に当たっておる由でございます。事件当時は二名が勤務をしておりまして、入り口と申しますか出口と申しますか、これに勤務をしておるようでございますが、この時間帯駐車場から出ました三十台の車について、目撃の有無、特異な車の目撃の事実があったかどうか等十分聴取をいたしましたが、残念ながら現在までのところ有力な目撃者を発見するに至っていないという段階でございます。
  71. 白木義一郎

    白木義一郎君 そうしますと、そういう私設のガードマンをホテルのほうは常時使って警戒に当たっていた。そうしますと警備の計画あるいは時間帯等がいつも一定しているわけです。そうしますと、当然、そこで犯罪を行なうとすれば、このパトロールの時間帯等を調査した上で、その間隙を縫って犯罪を行なう、あるいは何らかの方法によって当日だけこのパトロールの時間を変更して、そして犯罪を行なうというようなことが考えられるわけです。今後の問題もありますし、したがってこういったようなガードマンのあり方、あるいは今後当局としての指導の上から、どこまで、どういう点に捜査をしたか、そういう点、また別な機会にお伺いしたいと思いますけれども、とりあえずこのガードマンの会社名ですね、それから社長等は当然おわかりになっていると思いますので、お知らせを願いたいと思います。
  72. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 会社名、申し落としましたが、綜合警備保障会社でございます。
  73. 白木義一郎

    白木義一郎君 社長さんは。
  74. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 社長名、ちょっと調べておりませんでした。
  75. 白木義一郎

    白木義一郎君 じゃ、もう時間がありませんからこれで最後に、次の機会に回したいと思いますが、どうしても悪知恵というものは非常にすぐれていて善良な人の知恵よりもはるかに進むのが常であります。これは、そういうことは考えたくはありませんが、これだけの世界的な問題を起こす以上、あるいはまた、一方では、いまこういったような本に非常に克明に研究されておるというようなことがあるわけで、そうしますと、当然犯罪者としては、このガードマンに対しては強い研究、あるいは対策を講じなければならない。こうしろうと目にも考えるわけです。その点について、これだけの日時がたったわけですから、もう少し詳しい、たとえばこういう会社だとか、社長はこういう人である、内容等あるいは前歴等、もうとっくにそちらの手元にあるんじゃないか、こう思ってお尋ねしたのですが、これも不鮮明なお答えで残念でしたが、引き続きまた次の機会にいろいろとお尋ねをしたいと思います。
  76. 渡辺武

    渡辺武君 けさの朝日新聞に、法務大臣が、きのうの午後の記者会見におきまして次のようなことを語ったという記事が出ております。それによりますと、「法相は「今後も日韓の緊密な関係を維持するためには政治的解決以外に方法がない」と述べ、韓国側が事件を政治的な観点から処理することを期待していることをほのめかした。法相は、事件の「政治的解決」を見通した理由として「日韓関係はどんな事情があっても緊密な状態を続けなければならないが、金氏の再来日が実現しないと両国間に決定的なミゾができて重大事態になることが考えられるためだ」と述べた。そして、これを避けるためには「主権侵害という問題がはっきりしない以上、韓国には金氏を来日させることについて法的な義務はないが、両国間で政治的な合意が行なわれて処理されるべきだ」」と語ったという記事であります。法務大臣がこのように語られたかどうか、まずその事実を確かめたいと思います。   〔委員長退席、理事白木義一郎君着席〕
  77. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) ほぼそういう発言をいたしました記憶がございます。
  78. 渡辺武

    渡辺武君 この法務大臣のおことばを読んでみますと、事件の真相究明についてはいわば二の次、三の次にしておいて、そして金氏来日その他の問題について政治的に処理していきたいというふうな態度をとっておられるというふうに考えられますけれども、どうでしょうか。
  79. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 先生御不在の間でございましたが、先ほど、同様の事柄で答えをいたしました。大事なお尋ねでございますから、もう一度申し上げますが、そうじゃないんです。政治的ということばはいいことばなんですが、日本では、政治的というとうやむやということなんです。うやむやということを私が言うたのではない、もっと気のきいた政治的という意味でございます。  これはどういう意味かと申しますと、主権の侵犯ということが明らかにならなければ、来日を拒む権利が韓国にある。これだけはもう議論の余地はない。しかし、来日を拒まれたのでは事の真相を明白にはできぬ。何とか来日をさす道がなかろうかということになると、国際法上義務があるとかないとかけちなことを言わずに、日韓両国の緊密なる関係に思いをいたすべきだ。それに思いをいたせば、国際上の法律論を越えて、これは応じなければならぬということになるであろう。それを応じないというそれぐらいな政治判断ができないような相手であるというと、両国の間に重大事態が発生する。重大事態の発生は避けねばならぬ。こうなると、私は、時を得て必ず本人のからだは来日する機会が来る。すみやかに、できるだけ早くこれが行なわれるように政治的解決が必要である。ええ意味でしょう。こういう意味を私は言うておる。説明もしたんです。なかなかぼくの言うておるとおりには記事にしてくれませんからね。ですからそういうふうに、何だ、うやむやに解決することは、法務大臣、けしからぬ——うやむやの解決なんということは、断じてそんなことは、賛成も反対も論外でございます。そういうことはございません。   〔理事白木義一郎君退席、委員長着席〕
  80. 渡辺武

    渡辺武君 その御答弁は私も先ほど伺いました。伺いましたけれども、どうも納得できない。その御答弁自身についてはさらにもうちょっとあとで伺いたいと思いますが、重ねて法務大臣に伺いたいと思いますが、私、先ほど法務大臣の昨日の記者会見でのおことばですね、これは、主権侵害の問題について日本政府が自主的にきびしくみずから究明するということについてはちょっと二の次にしておいて、そうして政治的解決ということに期待をかけているんじゃないかという趣旨のことを伺いましたけれども、きのうの毎日新聞に次のような記事が書かれております。  これは、一部の権威筋では、この事件についてはすでに日韓米三国のトップレベルでは暗黙の了解ができた、という見方もあるんだということを伝えた記事であります。その暗黙の了解というのは一体何なのかといえば、まず第一にはこの真相の公表、この点については米日韓三国に大きな影響がある。したがってこれは一定の冷却期間を設けた上で、いずれこれは公表されることになるだろう。そうして現在問題になっているこの主権侵害の問題については、「すでに犯人グループについては「KCIAなど韓国の国家機関やメンバーは関係せず、金大中氏の日本や米国での行動に反発した極右的な“救国同盟行動隊”という純民間団体による事件」として終結させることが確実視されている。」という記事であります。特に金大中氏来日の問題については、これは「捜査協力という形になるかどうかは不明にしても、金大中氏の再来日も十分あり得るとの観測も出ている。」、こういう記事が出ているわけであります。なお続けて「こうなれば日本での論議の中心になっている「国家主権の侵害」は一応回避され、二国間にまたがる純刑事事件として終結することになる。」こういう記事であります。  私は、きのうの大臣の記者会見における政治的解決なるものは、この毎日新聞に伝えられている日韓米三国のトップレベルでの暗黙の了解、つまり主権問題、これは触れないようにしておいて、そうして結局のところ金氏の来日の問題、これは政治的に実現させる、しかし、そうなっても、結局のところ主権問題というのは事実上これは解消するというその方向と一致しているんじゃないかというふうに考えられます。特に法務大臣が日韓両国の親善の問題を強調して、その立場からの政治的解決ということを主張している以上、私はきのうの毎日新聞の報道の方向、これとまさに一致していやしないかという感じがするんですが、その点はいかがでしょうか。
  81. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 先生、私のきのうの発言と、それから毎日の記事と仰せられる記事の報道の内容とを結んでお考えをいただいている、それは別々に判断をしてくださいよ。私はその記事とは関係ない。実はそういう記事は読んでもいない。いま先生から伺って、そういう記事があったなというような感じがする程度でございます。はっきりした記憶、何日の新聞で朝刊か夕刊か、どんな記事だったか、何面にあったかといったようなことの記憶はございません。記憶は悪いほうじゃないんですよ、悪いほうじやないんですが、私は実際その記憶はない。それは別のものとお考えをいただきます。  それから、先生は主権の侵犯問題は二の次にしてと、こういうおことばがありましたけれども、そんなことできないでしょう。主権の侵犯があったかないのかということを究明するためには、国家機関が、私の第六感でいう某国の国家機関が関係したのかどうかということを究明しなければ、主権の侵犯があったかないかはわからない。それを究明するということは、犯人は何びとかということでございますが、犯人が何びとかを究明するには、金君のからだに再来日をしてもらわなければならぬ。国際法上再来日に応ずる義務があるとかないとか、けちな話ではいけないんです。両国の親密な関係から、日本国がここまで苦労をしておることだから、応じてもらわなければならぬ。これぐらいな義務が韓国にあるということを大きな声で言っておるんです。世論も同意をしている。こういう考え方でこれを立てておるのでありまして、からだを戻してくれぬことには犯罪捜査が進まない。進まなければ犯人はだれかがわからない。だれかがわからなければ主権の侵犯があったかなかったかということの論議ができない。こういう筋が本件の特徴でございます。主権の侵犯云々をほっておいて政治的解決とは何事かということは、少し当たりにくいのではないか。  先生なかなか深刻にものをおっしゃるもんですからね、何か私の言うたこととが合うているような——そんなことないんです、それは。いや、ほんとうにないんですよ、ほんとうに。ほんとうにないんです。そういうことはないんです。きのう私は記者会見するのをどうかと思ったんですけれども、しかしこれ、新聞記者が記者会見しなければ承知しない。それで、記者会見をしても何にも言わぬので、きょうここで言うたとおり、それは警察と外務省に聞いてくれ、わしは事件送致は受けていない。送致を受けていない者が、捜査の急所に触れるような事柄について、いいとか悪いとか論駁ができるもんじゃない。それは慎しむべきもんだ。わしの任務はそんなところにないんだ、送致を受けた瞬間以後においてはこっちのもんだ、責任をもってやるんだと、こういうことを私は言うておるわけで、一口もものを言わなかったんです、きのうは。本件の捜査問題、捜査の回答問題はついにものを言わなかった。ところが、いろんなことを記者が聞くもんですから、聞くとついつられて話をする。ですから偶然な発言でございます。しかし、信念と違うことを言ったんだという無責任なことは申しません、私の信念どおりの発言でございますが、質問につられてつい偶然にこのことを言うたという、そういうチャンスでの発言でございまして、その毎日の記事とは関係はない。  それから、私の政治的発言というものが、主権の問題をうやむやにする発言なんという、そんなことを私という男がするはずはございませんから、それは信用してください。そういうことはございません。
  82. 渡辺武

    渡辺武君 主権の侵害の問題をうやむやにしないとおっしゃいましたんで、その点に立って私伺いたいと思んです。  先ほどの大臣の御答弁は、私は一つの論理の矛盾だと思いますよ。なぜかといいますと、主権の侵害の問題、これを明らかにしなければ金氏の来日を求める権利が出てこないと、こういうわけでしょう。ところが、金氏が来日しなければこの主権侵害の問題も明らかにならぬ。こういう循環論に私は立っていると思うんです。一体、政府としては、金氏の来日を待つまでもなく——私は金氏の来日は必要だと思います。どうしてもこれは一度呼び戻して、そうしてあの事件以前の状態に返すことが必要だと思いますし、また、日本政府の立場でこの事件の徹底的究明のために、金氏にもいろいろ事実を述べていただくということは私は必要だと思いますけれども、しかし、金氏の来日を待つまでもなく、日本政府が、きびしい立場で自主的にこの問題の真相を徹底的に究明するということが必要じゃないかと思いますね。  その点を強調されないで、金氏の来日、いわば政治的な解決にかけるかのような発言をされる。これでは、結局のところ、真相の究明ということは二の次三の次になるんじゃないでしょうか。どうでしょう。
  83. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) それは、先生の仰せになっておることが矛盾じゃないでしょうか。  これは、私は何でも思うことしか言わぬ男ですからそのつもりでお聞きをいただきたいんですが、法律論、国際法上の法律論をやれば、先生仰せのとおり循環論です、これは。何百年たっても解決はしない。循環論が続くのみです。そこで政治解決をせよと。政治解決とはどんなことか。国際法を超越をしなさい。どんな超越のしかたかというと、両国の——世界に類例のない、二国とない国でございます、この関係は。この両国の関係に思いをいたして、両国の政治家が判断をして、日本へこれを返すことに合意をせよと。合意をしてくれと。その合意ができるならばこの循環論は破れるんです。金を取り調べをする、真相はわかる。たいへん自信の強い話でございますが、金を取り調べることができましたら——金君をね、呼び捨てもいけませんから。金君を取り調べることができましたら、答えは出ます。日本の警察の腕にかけて答えは出る。これは、これだけは間違いないです、私は確信を持っている。そういうことでございます。
  84. 渡辺武

    渡辺武君 今回の事件は、これはもう法相自身第六感で感じとっておられるように、また私どもしろうとが新聞記事その他で知ってもすぐわかりますように、KCIA、すなわちいまの韓国人民に暗黒政治を強要している朴正煕反共独裁政権の秘密謀略機構、これによって引き起こされた、日本の主権に対する重大な侵害であるという疑いの非常に強い事件ですよ。そうしてまた、新聞の記事でも、あるいはまた国会の論議を通じても、ほとんど事実と思われている点は、日本にKCIAの要員がたくさん来ていて、そうして実際活動しているということなんです。今回の金大中氏事件は、いわばその一つの問題にすぎない。だとするならば、政府が、日本にいるKCIAの実態、あるいはまた金氏の事件についてのKCIAとのかかわり合い、この点をこそ自主的にきびしく調べる、これこそが必要じゃないでしょうか。それは金氏の来日も必要です。しかし金氏の来日を待つまでもなく、政府が、今回の事件とKCIAとの関係、これを徹底的に追求するということが必要じゃないでしょうか。そうおやりになるおつもりがございますか。
  85. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) これは第一線の捜査当局である司法警察当局がお答えを申し上げることでございまして、私の言うことではございませんけれども、それは先生、徹底的に取り調べる道がございますか。——私はないと思う。金君を戻してもらうこと以外にないと思います。  代議士在職三十年。三十年間を一貫して法務委員でございます。犯罪捜査を含めた法務行政には三十年タッチしております。刑事専門の弁護士たること四十年でございます。その私が、第六感でこう考えると、こう言った。——−私はね、筋といたしまして、金君を戻してくれなければ——戻す根拠は国際法でも何でもいい、合意でも何でもいい、がとにかく戻してくれ、それを戻してくれなければ事件は迷宮に入る——一こういうことばをいまつかうのはどういうことかと私は心配をするのでありますけれども、事件は迷宮に入る。その責任は韓国にある。戻すことに合意をしてくれる熱意と親切があれば戻るんです。犯罪捜査に協力してくれる熱意があれば、戻さねばならぬ。戻してくれなければ事件は迷宮だ。  先生は、ほかに究明する道があるじゃないか、何しておるのだと。おまえらぼんやりしておると言わんばかりのおしかりでございますけれども、それは私は聞けない。それは聞こえません。そのお話は聞こえません、それは。道はございません。それに加うるに、金国会議員と梁一東君と両君が返ってくれる——まあ一応はいろいろなお話を聞かしていただいておりますが、この上捜査の急所に入ったお話を聞くことができてこの三人の捜査ができれば、それでうやむやで先が見えないということなら、日本警察このやろうと言うていただいても私はおじぎする以外にない。そんなことはありません。それを連れて帰っていただけば必ずできる。これ以外に、犯罪の捜査を前進せしめて犯人は何ぴとかを特定する道はない。  それからもう一つ、私は先生に申しわけないのですが、先生は、KCIAということはコリアンCIAということですから、大韓民国情報部ということをいまはっきり仰せになりましたね。たいへん私はおそろしいことをおっしゃったものと思うのですが、私がそれに応じて黙って答えをしておると、お前はそのおことばを承認する前提に立って答えをしておるではないかと言われることは、私に重大責任がある。私はそんなことは言うておらぬ。私は某国のCIA——Kということは言うておりません。コリアンというようなことは言うておらぬ。某国のCIAというふうに表現をしております。某国とはだれかということは、聞く人によって違うだろうが、これは私の責任ではない。こういう立場が私の国会における一貫した立場でございますから、先生の前半のおことばに同意をして、その前提に立ってお答えを申し上げたものではない。これを一口お聞きをいただいておきたいと思います。
  86. 渡辺武

    渡辺武君 そうしますと、いま日本の捜査当局は、これは金氏事件とKCIAとの関係については何も調べてないということですか。
  87. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 捜査官にとりまして、捜査に予断を持つことは禁物でございます。私どもはじみちな捜査を通じまして事実を積み上げ、その事実によって真相を究明いたしたいと考えて、鋭意捜査をいたしております。
  88. 渡辺武

    渡辺武君 その捜査の中でKCIAとの関係は出てきたですか、出てこないですか。
  89. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 現在までの捜査の過程では、この犯人のグループがどういう組織であるのか、これを確定するに足る証拠はまだ発見するに至っておりません。
  90. 渡辺武

    渡辺武君 それでは一、二の点を伺いたいと思います。  まず、事件が起こったときに、現場のグランドパレスホテルにまっ先にかけつけたのが金在権駐日公使だったというふうに言われております。金公使は、現場に残っていた梁一東氏から事情を聴取したけれども、日本の警察への連絡はだいぶおそくなってからで、私服が現場に到着したときはすでに金公使の姿はなかったと言われている。この事実は調査されましたか。  また、事件の四日前の八月四日には、金在権氏はこのホテルに梁一東氏をたずねて会談をしております。この事実も調べましたか。  また、金在権氏の前歴でございますけれども、この方は、駐日公使になる前は、金基完の名前でKCIA第七局長のいすにあった人物であり、さらに、かつて西ドイツの韓国留学生ら拉致事件にも関係した前歴を持っていると言われております。現在日本にいるKCIAの総元締めだという話もあります。政府は、このような前歴を持つ金公使が事件前後に不可解な行動をしているという点についてどう考えておられるか。
  91. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) お尋ねの金在権公使につきましては、事件当日ホテル・グランドパレスに行ったことは事実でございます。この金在権公使より、八月の九日、警視庁の特捜本部、具体的には三井公安部長に対してでございますけれども、事情を説明をしたい、捜査に協力をするという旨の申し出がございまして、捜査本部の幹部が同氏より事情を聴取をいたしております。その聴取した内容によりますと、八月八日の午後一時五十分ごろ梁一東氏から電話がかかりまして、いま金大中氏が連れていかれた、こういう連絡があって、すぐ車でグランドパレスに向かった。ホテルには二時二十分ごろ到着をしております。この金在権氏の話によりますと、自分の国の野党の指導者である政治家から、さらにかつては大統領候補であった金大中氏の事件について通報があった以上、大使館員としては、自国民保護の立場から現場に急行するのは当然の仕事である、こういうことでございます。  また、金在権氏がかつてどういう経歴であったか。私どもは、確証をもって、これがかつての御指摘のような役職の方かどうか存じませんし、またこれを知るすべは、外交身分でもって入国をしてこられた以上、私どもとしては、これをみだりに捜査の対象として事情聴取をするということは、外交特権保持者については許されておりませんので、私どもは承知をいたしておりません。
  92. 渡辺武

    渡辺武君 外交官の一人として来日してきている、外交特権を持っている。ところが、その人が日本にいるKCIAの総元締めだという疑いがある。西ドイツからの学生拉致事件にも関係している、KCIAの重要な部署を占めておった人だ。今度起こっている事件は、日本の主権に対する重大な侵犯行為の疑いがある問題であります。日本政府が自主的な立場でこのような疑惑に包まれた人物の前歴ぐらいははっきりとつかむ、そのくらいのことは責任をもってやるべきじゃないですか。これは日本の主権を守る上に必要不可欠のことです。どうですか。
  93. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 一国を代表いたします外交官、特に公使の身分のある者が、任意で捜査本部に対して協力を申し出てきたその供述というものを、私たちが捜査官の立場で全く頭から否定をしてかかるということは許されないと思います。私どもは、先ほど申しましたように、捜査官といたしまして、予断を排しつつも、あくまでじみちな捜査によって事実を突きとめ、真相を明らかにしたいと考えております。
  94. 渡辺武

    渡辺武君 じみちな捜査で事実を突きとめてないじゃないですか。この人の前身がどういうものか、その事実さえ突きとめられない。結局、KCIAの活動という点を回避しようという前提があるからそういうことになるのじゃないですか。  私は重ねて伺いますけれども、この金大中氏事件の起こった前後に、相次いで不審な韓国人のグループ——これはKCIAの関係者だと言われる。こういう人たちが来日し、また離日している。時間がありませんので、その全部を申し上げるわけにいきませんけれども、ほんの一つ、二つを例として申し上げますと、駐米韓国大使館の朴正一二等書記官——これはKCIAの部員だと言われる。この人が七月の十一日にアメリカから日本に来られて、そして十二日にソウルへ立たれる。そうして八月七日、つまり事件の起こった前日の午後三時十五分に日本に来られて羽田に着く。そうして事件当日の八月八日の午前十時十五分に今度は米国へ向かって、日本を立っている。これは法務省の入国管理局の発表でそういう事実がわかっているわけで、法務大臣自身が金大中氏事件関係しているような感じがするという御発言もあった人物であります。  また、駐米韓国大使館の四人のKCIA部員——これは李公使も含めて、金大中氏がアメリカを立って日本に来られたその翌日に韓国に帰る。そうして、そのうちの一人である林大佐が八月十三日、それから李公使も同日アメリカに帰っておられる。この李公使という方は、一九六七年の西ドイツ韓国人留学生誘拐事件の指揮に当たった人物だと言われているわけであります。  特に米国に亡命中の李前韓国大使館広報部長が、新聞に載った彼の談話によれば、金大中事件は三十人以上のKCIA部員によって謀議、実行されたもので、その中の幾人かは、駐米大使館に配属されている者だというふうに語っている。これらは、もう日本国民たいがいの人は、あの金氏の拉致事件というのは、これはひょっこりできたような反共団体がやるようなものじゃないだろう、白昼堂々と日本の首都東京のどまん中から一人の人間を拉致して、そうして関西のどこかへ連れて行って、そうして小舟に乗せ、さらに大きな船に乗せて、そうして本国へ連れ去る、これは強大な組織を持った機構が動かなければ、こんなことはできないだろうとだれも考えている。そうして、まさに韓国でこういうことをやることのできるもの、過去の実例からしてもKCIA以外になかろう、だれもがそう考えている。その点について、いま私があげたこれらの人たちの不審な動き、これらについて、金大中氏事件との関連、そこに焦点をしぼってお調べになりましたか。
  95. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) ただいま御指摘の韓国公務員の往来の状況に関しましては、私どもも一般情報として承知をいたしておりますが、そのうち、来日が確認をされておりますのは、ただいま御指摘の駐アメリカ韓国大使館の朴正一二等書記官、これにつきましては、法務省入国管理局の調査結果により、私ども承知をいたしております。しかしながら、現在までの捜査では、同氏と本件の関連性についてはこれを裏づける証拠の発見に至っておりません。  また、金大中氏の供述に関しまして、私ども新聞記事を通じて金大中氏がこう語ったと、こういう供述内容を承知をいたしておりますが、先ほど来たびたび申し上げますように、金大中氏の公的な、いわゆる捜査機関の取り調べによって公的に裏づけられた事実関係に基づく調書というものの入手に至っておりません。それなるがゆえに私どもは、肝心の被害者である金大中氏、特に連行をされた際に目撃者でありますところの金敬仁氏も、あるいは梁一東氏も、五人という犯人の数字が出ておりますけれども、先般の法務委員会で申し上げましたように、そのうちの三人しか見ておらぬわけです。その三人の人相、特徴もこの前申し上げた程度であって、一番事実を知っておる、犯人グループの顔を見、その人たちのことを覚えておるのは金大中氏自身でございます。その意味で、私どもは金大中氏及び金敬仁、梁一東両氏の来日が本件捜査にとって不可欠であるというふうに繰り返し申し上げておる次第でございます。  繰り返して申し上げますが、来日の必要性というものは、本件真相の解明にとって不可欠のものとして、私ども切に希望をしておるところであります。また、先ほど白木先生の御質問に対しまして、三人のうちお二人先においでいただくのはどうかというお話がございましたが、このお二人が先に来て、帰ったあとで金大中氏ということになりますと、捜査上いろいろ支障がございますので、先においでをいただくとともに、梁一東氏、金敬仁氏が御在日中に金大中氏に御来日がいただければと、かように考えている次第でございます。
  96. 渡辺武

    渡辺武君 時間が来ましたので、二、三点まとめて伺いますけれども、金大中氏の来日が必要だということは私もちろんそうだと思いますけれども、金大中氏の来日を待たずして、KCIAとそして今度の事件との関係、これについては何も調べてないということですか、その点まず第一に確かめたいと思う。
  97. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 本事件がKCIAによって行なわれたということを示す証拠が、先ほどから申しますように現在までのところ捜査的に確認をされておりません。事実関係につきまして予断を持たず、じみちに捜査を続け、今日までそういう基本的な姿勢であらゆる関係の関連人物についての捜査を続けております。
  98. 渡辺武

    渡辺武君 捜査しているんですかね。きのうの、一昨日ですか、衆議院で江崎国家公安委員長の御答弁がありましたが、その中で、KCIAが関係しているかどうかは捜査中でいまは言う段階でない、こういうことを言っておられる。つまり関係しているかどうかということを捜査中であるという意味も含めてのことだと私ども理解しましたが、そうでないんですか、やってないんですか。重ねて確かめます。大問題です、これは。
  99. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 本件に関連をいたしますあらゆる可能性のあるものについて捜査中でございますが、現在捜査中でございますので、その詳細については差し控えさせていただきます。
  100. 渡辺武

    渡辺武君 先ほども申しましたように、いま日本に来て、在日KCIAの総元締めだと言われている人についてさえもその前歴も十分確かめていないというような状態じゃ、これはろくにやっていないと考えざるを得ない。そうしておいて、金氏が来なければ問題わからぬ、わからぬと言っておる。一方で韓国政府調査の結果を聞きたい、聞きたいと言っている。その韓国政府の捜査経過報告書なるものは、これは肝心かなめのところはみんなおっことしたものだということはいまさら私が申し上げるまでもない。こんな状態では事件の真相がうやむやのままでもって過ぎてしまうというのは、これは火を見るより明らかじゃないですか。これで責任を持って日本政府がこの主権侵害という重大な問題について取り組んでいるというふうに考えることはとうてい私はできないと思う。  そこで伺いたいと思うのですけれども、私は、日本の捜査当局が今度の問題についていわゆる初動捜査のミスだなんていうことを言われておりますけれども、事件の真相についていまだに確たるものをつかんでいないというその原因の一つに、むしろKCIAに日本の警察当局が協力しているということがあるのじゃないかと思います。フランスのル・モンド紙の日本への特派員のロべール・ギランという記者が、世界で一番完備した警察機構を持っている日本でこういう事件が起こって、しかもだれの目にも触れない形でもって金氏が本国へ連れ去られた、日本の官憲がこれに協力したというふうに考えざるを得ないというような趣旨のことを言っているそうでありますけれども、私は、先ほど佐々木委員も問題にされましたもとのKCIAの責任者であって、いまアメリカへ逃げて行っております金炯旭さん、この人の「大地の架橋」というのを翻訳された一部分を手に入れて読んで見ましたが、その中にこういうことが書かれている。この金炯旭氏が、西ドイツの留学生その他を韓国に拉致したその経過の中で、朴大統領と話し合って、朴大統領からやれと言われて勇気百倍してこの問題に取りかかったんだと言っている。これは明らかに朴大統領が最高指揮者としてこういう事件が引き起こされたということを物語っておりますけれども、私、見落とすことのできないのは、この計画の中で彼がこういうことを言っている。西ドイツから留学生を拉致するにあたって、航空機はどの路線をとったらいいかということで、こういうふうに言っている。大使館で拘引の組を編成して、ハンブルグ空港まで車両で拘引、ハンブルグ空港から北極回りすること、東南ア経由では経由地が多く、逃避の危険性が高いから避けること、東京を経由してソウルに護送すること、アラスカでは米国関係機関の保護を受け、日本では捜査要員の協力を得ることと、こうなっております。明らかにこれは日本の捜査要員がKCIAに協力するということを前提としてこのような拉致計画が立てられているということをはっきりと証明している。これは重大問題だと思うんです。一体こういうような事実があったのかどうか、これをまず伺いたい。
  101. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) ただいま先生御指摘の西独の誘拐事件について日本警察が協力したかのごとき記事を私どもも昨日拝見をいたし、この関係につきましては絶対にそういうことがなかったという点をこの席で申し上げたいと思います。KCIAがこういう計画をし、日本経由ではたして西独の誘拐された人たちを送ったかどうか、この事実関係についても、私どもは現在つまびらかではございません。しかしながら、当時の関係者等に当たりまして、この点事実確認をいたしましたが、日本の警察が西独の誘拐事件関与をし、あるいは積極的に協力したというような事実は絶対にございません。また、前段の御質問の、日本警察がKCIAと協力をしているのではないか、この金大中氏事件について協力をしているのではないか、こういう御質問につきましても、絶対そういう事実はございませんとお答え申し上げます。
  102. 渡辺武

    渡辺武君 絶対ないと言われても国民は納得できない。なぜかといえば、これは二十三日のこの委員会で、わが党の星野議員の質問に対して田中法務大臣もこの事実を認められた事件がある。これは公安調査庁が、先日、朝鮮人総連合会を破防法の適用団体として情報収集をするためにKCIAとの情報交換をしている、こういう事実がある。さらにまた、警察当局は定期的にソウルを表敬訪問をして、韓国での情報機関や警察当局との情報交換をしている。これらは、なるほどあなたは西ドイツからの拉致事件について日本の当局が、捜査要員がこれに協力したという事実はありませんと、いまこの国会ではっきりと答弁されましたけれども、しかし、その答弁自身を疑わせるに足る事実だと見なきゃならぬ。こういう事実があるわけでしょう、どうですか。
  103. 佐々淳行

    説明員(佐々淳行君) 御質問の後段について、警察関係の御質問でございますので、まずお答えをいたします。  このKCIAと警察の関係につきまして、本国会のほかの委員会でも御質問が出、政府委員におきまして同様のお答えをしていることでございますが、ときたま韓国の中央情報部という肩書きで来日をすることがございます。その際には表敬訪問を関係官庁に対して行なうことがございます。私どもも、相手が正式な政府機関でございますし、国際儀礼上この表敬は受け、国際過激派の動き等につきましてもし質問があれば状況を説明するということはございます。また、わがほうから、警察が御承知のように韓国に駐在官を派遣をし、先方の内務省治安局等と密入国問題その他の問題につきましての情報交換等がございますので、韓国には警察幹部が定期的に出張をすることがございます。その際の表敬訪問、これは答礼訪問として実施した事実はございます。しかしながら、業務上、KCIAは情報機関でございまして、私どもとは関係ございません。
  104. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 私がいつかの機会に、情報としての交換がKCIAとの間にあるかもしれぬという発言を確かにいたしました。その後の調査により、そういう事実は全くない、それは、公安調査庁は任務が違う。暴力主義的破壊活動のおそれありやいなやを調査をしておるものであって、KCIAのやっております活動との、諜報関係は必要がないということが明らかになりましたので、これを御了承をいただいておきたいのでございます。  なお、ここに次長が来ておりますので、一言これに対して発言をさしていただきます。
  105. 渡邊次郎

    政府委員(渡邊次郎君) ただいまの点は、去る二十四日の衆議院法務委員会で公安調査庁長官から御説明申し上げましたように、公安調査庁としては終始当庁独自で調査を行なっておりまして、朝鮮総連の調査にあたっても、韓国中央情報部と連絡をとって調査するというようなことはいたしておりません。
  106. 渡辺武

    渡辺武君 その御説明については、きょうはもう時間がありませんので、いずれの機会に反論したいと思います。そんなことはないですよ。  ところで、いま法務大臣もKCIAというのは諜報機関だという趣旨のことを言われた。しかし、KCIAはただ単純な諜報機関じゃない。これは、韓国の反共法を守り現政権を擁護することが絶対至上の使命だというたてまえに立って、もちろん諜報活動もやるけれども、場合によっては、今度の金大中氏事件のように、人を拉致する、そうしてまた暴力的にこれを監禁もすれば調査もする、こういうことをやっているのです。アメリカのCIAに至っては、これは韓国CIAの元締めだと言われているそのアメリカのCIAに至っては、これはあちらこちらで反政府転覆活動まで組織し、実行している組織じゃないですか。これは単純な諜報機関じゃない。しかもそういう国家機構そのもの、秘密警察機構そのもの、これが日本にやってきて、その数は二千人とも言われ、三千人とも言われ、秘密裏に活動していると言われている。もうすでにこのKCIAが関係して起こした事件と見られるものが、今度の金大中氏事件の起こる以前でさえも、この日本の国内ですでに十五件くらいは起こっている。  一、二を申しますと、一九六七年の六月、金載華氏逮捕事件、六八年、沈載玉事件、これは大阪で起こった事件、六九年の四月に尹酉吉氏蒸発事件、六九年の五月、金圭南事件、同じく六九年、朴大仁事件、一九七〇年の七月に萬博保安事件、一九七〇年、在日韓国人運動切り崩し事件、一九七一年の四月、徐勝、徐俊植君事件、一九七二年、具末模事件、一九七二年、林清造事件、一九七二年、韓弼花きょうだい事件、七三年の三月、沢本三次逮捕事件、七三年の六月、金鉄佑、グァンチョル事件、一九七三年の六月、鄭勝渕事件、七三年の七月、夏谷進逮捕事件、いろいろ起こっている。今度の問題が、これが日本の主権に関する重大な侵害事件じゃないか、国民ひとしくこういうふうに見ている。しかし今度の事件の解明をまつまでも、この日本の国に韓国の国家権力が及んできて、そうしてこういうような事件を次から次に引き起こしている。この逮捕された人たちの中には、すでに日本国籍に変わった人までが含まれている。日本の国法によって保護さるべき日本人であるべき人たち、これがこういう韓国の暴力機構によって逮捕され、拉致されている。たいへんなことです。こういう事実こそ日本の主権に対する重大な侵害じゃないですか。この点について法務大臣の御見解を伺いたいと思う。  同時にまた、このような危険な状態を許していたならば、日本の国民の生命財産の安全さえも保障できないような状態だと言って差しつかえない。政府は、この在日韓国CIA、これの実態を徹底的に調査して、このような危険な機構、これを国外に追放処分にすべだと思う。これをおやりになる意思があるかどうか。  同時に、最後に、先ほど来何回も強調しておりますが、今度の事件、これがKCIAによって引き起こされた事件である濃厚な疑いがある。金氏の来日を待つまでもなく、まさにこのKCIAと金氏との関係、ここに焦点をしぼって、日本が自主的な立場で徹底的に捜査すべきだと思う、それをおやりになるおつもりがあるかどうか。  以上の点を伺います。
  107. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 仰せになるおことばはそのままよくわかるのでございます。よくわかるのだが、法治国家の行なう行動としましては、法律的、制度的筋が立たねばならぬ、申し上げるまでもないことでございます。けしからぬというだけではやれない。そこで、どういうやり方をやらなければならぬかというと、法制的、法律的には、外国の情報機関が日本国内においていろいろ活動しておる。その活動が単なる諜報活動、情報活動、こういうものであります限りにおいては、わが国憲法上取り締まる道はない。これを取り締まる法律日本にありません。行動自由であります。ただし、それらの行動が一つ誤ってわが国の刑法はじめ刑罰法規、罰則に抵触するような事態にまで行き過ぎてまいりましたときに、初めて捜査上のチェックができる。そこにも一つ難関があるのでございます。どういう難関かと申しますと、刑罰法規違反があればチェックはできるのだが、直ちに逮捕ができるかというと、外交的特権を持っておる者が情報機関を兼任をしております場合においては、特権者に対して逮捕はできない。かようかようの事情があり、これはわが国の刑罰法規を侵犯するものである、違反をするものである、すみやかに国外退去をさしてもらいたいという外交の機関ルートを通じまして退去の命令をするということが道でございます。しかし、そのやろうが——やろうがじゃない、その人が、外交特権を持たない者であります場合においては、直ちに逮捕する。この場合は先生仰せのごとくに直ちに逮捕をいたしまして、警察、検察にかけまして、厳正、公平な裁判を仰いで刑務所にたたき込む、そうしてわが国の治安を回復する、こういう道に出る以外にない。これ以外に日本の法制的にやれるものはございません。幸か不幸か——ということばは誤解を招くのでありますけれども、私はこういうふうに申し上げていい——外国のように防諜法はございません。そんなこと言うまでもないことです。それから、もう一つ問題になります機密保持法、ございません。韓国にあるような国家保安法、ないんです。そのもとにおきましては、単なる諜報しばらく待った、情報収集ちょっと待てということは言えない。なければ自由であります、憲法上自由にさしておくべきものである。これが日本憲法上の特徴である。それはよいことか悪いことか、ということまではお聞きになっておらぬのに要らぬことを言うようですが、私はこのほうがいいと思う。刑罰法規に触れる段階に来てぴしゃり取り締まる。それ以外は自由でいい、こせこせ言わぬでいい、こういう判断をしておりますので、新たなる取り締まり法規をつくって、そうして外国情報機関の活動をセーブする、チェックするというようなことをやろうとする意思は政府にはございません。
  108. 渡辺武

    渡辺武君 ちょっと私の伺った点にお答えがないんですが。
  109. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) どんな点です。大体言っておるでしょう。
  110. 渡辺武

    渡辺武君 いいえ、言っていないから……
  111. 原田立

    委員長原田立君) 渡辺君にちょっと申し上げますけれども、だいぶ超過しておりますから。
  112. 渡辺武

    渡辺武君 すみません。伺った点を御答弁求める意味で——。  一つは、単なる諜報機関じゃない。だからこういう外国の権力が直接日本に来ていろいろ秘密活動をやって、人を逮捕して連れていったりなんかしている。これこそが主権侵害じゃないかというのが第一点。  第二点は、こういうKCIAの日本における要員、これの組織を徹底的に調べるかどうかという問題、そうして危険な人物については追放すべきじゃないか。さらに、今回の事件についてKCIAとの関係に焦点を置いて徹底的にお調べになるかどうか、この点です。
  113. 田中伊三次

    ○国務大臣(田中伊三次君) 前段のほうは、そういうことにはなりません。  後段のほうは、そういう取り調べはできない。現行法規のもとにおいては、そういう取り調べは間違いである、こういう判断でございます。
  114. 原田立

    委員長原田立君) 本件に対する質疑は本日はこの程度とし、午後二時三十分まで休憩いたします。    午後一時五十六分休憩      —————・—————    午後二時三十六分開会
  115. 原田立

    委員長原田立君) これより法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、商法の一部を改正する法律案株式会社監査等に関する商法特例に関する法律案、及び商法の一部を改正する法律等施行に伴う関係法律整理等に関する法律案を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  116. 青木一男

    青木一男君 引き続き監査役業務監査についてお尋ねしますが、これは法務省でも大蔵省でもどちらでも御答弁はけっこうでございます。  いままで問題となった粉飾決算その他の大会社不正事件を見ると、取締役会の決定に基づくというよりも、社長その他代表取締役の独断専行に基づくものが多かったと思いますが、実情はどうなっておるか伺いたいと思います。
  117. 田邊明

    説明員(田邊明君) 法務省で把握しております限度は、いわゆる粉飾決算事件が刑事事件に進展したものでございますけれども、おっしゃるように、その粉飾決算の主導的な地位を演じた者は代表取締役という例が多いようでございます。しかし、必ず一応は取締役会の決定によってそのような不正な決算が組まれたという形になっておりまして、その種の事件で刑事責任を問われた者は、取締役の主として経理を担当した者、それから社長あるいはまれに監査役も含めて刑事処分を受けているのが実際の例でございます。
  118. 青木一男

    青木一男君 会社粉飾決算その他不正事件の火元は常に取締役にあるわけであります。火消し役の監査役の機能を強化することを考える前に、火を出さないように取締役制度について改革をまず考えるべきではなかったかと思うものであります。  商法は「会社業務執行ハ取締役会之ヲ決ス」と規定しておる。取締役会という合議体が真に会社運営の中心であるならば、多くの不正事件は防止できると思うのであります。商法は、総会の招集その他特定事項については取締役会の決議によることを規定しておりますが、そういう形式的のことでなしに、一番大事な業務の執行という部面について見ますると、その方針をきめる取締役会の決議の実行ということについての規定が非常に不備であります。取締役会を定期に開かない会社もたくさんある。また、法律できまった事項を決議するために取締役会を開いたとしても、一般業務方針の決定その他のことはあげて社長その他代表取締役の専行にまかせて、取締役会の議題にしないというような会社が非常に多いのであります。商法取締役会の運営や代表取締役業務執行との関係について規定しておらないのは、会社の自治にまかせたものと思うのでありますが、今回のように、監査役業務監査を義務づけ、監査の実行方法にまで法が干渉するという段階におきましては、取締役についても、取締役会の機能強化、特に代表取締役業務監査、つまり取締役会が代表取締役業務を監査するということ、これらについて立法すべきではないか。私は、火を消すことよりも火を出さないことにまずくふうをすべきであると思いますが、今回の改正案において、この取締役会の機能発揮、それから取締役会と代表取締役との関係について全然触れてないのはどういうわけでありますか、理由を伺いたいと思います。
  119. 川島一郎

    政府委員川島一郎君) まあ、不正を行なうのは執行機関でありますから、執行機関について改正考えてはどうかという御意見も、私、ごもっともな御意見であろうと思います。現在の商法のたてまえにおきましては、会社業務執行は取締役会がきめることになっておりまして、そしてその決定したところに従って代表取締役業務を行なうという形にならなければならないはずでございまして、多くの会社はそういう形をとっておると思いますけれども、   〔委員長退席、理事白木義一郎君着席〕 もしそういう形をとってない会社があるとすれば、それはすでにその点において商法に従っていないということになるわけでございます。  そこで、今回の改正作業におきましては、当初、法制審議会二つ考え方を検討いたしました。その一つは、現在の商法をよりよく守らせるために、取締役会の権限をさらに強化して、その構成などにも業務の執行を担保するような規定を設けるという方法、それからもう一つは、今回の改正案でとりました監査役のほうの権限強化していく、それによって粉飾決算等の、あるいは不当な業務執行が行なわれることを防止していこうと、こういう考え方でございます。この二つ考え方を一応それぞれの案にまとめまして、そして学界あるいは経済界、その他関係のところに示しましていろいろ御意見を伺ったわけでございます。その結果、私が申し上げました二つの案のうちのあとのほうの案、この考え方のほうがわが国実情に適しておるという御意見が大多数でございましたので、まあ、今回のような改正に踏み切ったわけでございます。  もとより、現在の株式会社法におきましても、取締役会というものが厳として存在して、それが業務執行権を持っておる。したがって、代表取締役の行動に対しましても、それを監督するといいますか、監査するといいますか、そういう権限を持っておるわけでございます。しかしながら、現実に会社がいろいろな問題を起こすという場合には、それがうまく行なわれていないとか、あるいは取締役会自体も適切な業務執行をしなかったということに帰するわけでありまして、制度の問題と運用の問題というのが微妙にからみ合っておるという気がいたすわけでございます。で、会社不正事件が行なわれます場合には、法律とか会計に対して取締役会が知識が不十分であるという場合もございますし、それからまた、モラルに欠ける、会社業務が非常によく行なわれているように示そうとするために、正しい、法律の要求するような決算書をつくらない、そういったモラルに欠けた行動が行なわれるというようなこともあり得るわけであります。これを正していくためにどうしたらいいかと申しますと、取締役自体が十分な知識を持ち、そして間違わないような行動をとるということも必要でございますけれども、何と申しましても取締役の主たる任務は会社の営業を行なうことでございます。それだけに、どうしてもそちらのほうに重点がいってしまって、会社の活動に対する反省というものが十分でないという面が出てくるのは、まあある程度やむを得ないことかと思います。  そこで、今回の改正におきましては、専門的に会社の行為の適法性を監査する、そういう職務を持った機関というものをしっかりと置いて、それによって、   〔理事白木義一郎君退席、委員長着席〕 会社が適正な業務を遂行するようにさせていこう、つまり監査役業務監査権限を与えて、そして取締役会にも出席させて意見を述べさせる、そうして会社が適法に業務を行なうということを監視する、そういう職務を持たせる、そういう監査役を配置することが最も適当であろうというふうに考えて、このたびのような案をつくったわけでございます。
  120. 青木一男

    青木一男君 いまの御答弁の中で、会社の中には、業務執行の基本方針というものは取締役会できめて、それに基づいて代表取締役業務を実施すべきであるが、そうしておらない会社もあるかもしれないという御答弁だった。私はそういう会社が多いということをひとつ法務省は御認識にならなくちゃならないと思うのです。監査役制度については空文であって、ろくろく監査もしないという、これはよくお調べになると、事実上はそうなんですね。監査役についても、相当、その能力によっては突っ込んだ会社の監査もできる、それに関係して若干やっぱり業務にも触れて、いろいろ意見を言う機会も人によってはできるのです、やろうと思えば、それが実行されてないから今度の改正になった。私は取締役制度についても、従来の商法は、これは申し上げるまでもなく、取締役、カッコに執行機関みたいな形になっておったのを、それを改正商法取締役業務執行中心機関と規定された。そういう立場から言えば、新しい商法取締役会中心の精神が実際生かされておるかどうかということをもっとお調べにならなくちゃならないはずだ、せっかく商法改正したのですから。その立場から言うと、私は先ほど申したのですけれども、世間では代表取締役にまかせっきりの会社が多過ぎるのです。そういう点の改革をまずやるべきではないか。監査役制度改正に手をつける前に、そういう取締役会の機能発揮についてまず手を触れるべきではないかという意見を申し上げたのですが、民間団体その他そういうところが、監査役制度強化のほうがいいという意見が多かったからそれに従ったという御意見ですけれども、私はどうもそれは順序が逆ではないかという印象を依然として強く持っておりまして、ただいまの法務当局の御答弁にはどうもまだ納得しておりませんが、その点はこの程度にいたします。  次に、子会社の監査について伺います。  つまり監査役が子会社の監査もできるという規定についてでありますが、子会社といいましても、やはり独立の法人格を持つものであるから、私はやはり独立性を尊重するのが当然じゃないかと思うんです。民法では、申し上げるまでもなく、民法改正して親権を否定して子供の独立性を確立したという因果関係みたいに、法人について親会社権限をむやみに強化するということはどうも私は納得のいかない点があるわけなんであります。子会社の支配は役員等の選任、すなわち人事権を通して間接に行なうのが私は本来の姿であって、法が直接監査に立ち入るということまで規定するのは行き過ぎじゃないかと思います。この立法の由来、先ほどは、取締役制度の改革よりも監査役制度強化によって経理の妥当を期するという意見のほうが多かったというお話でございますが、この子会社の監査についての規定というものは、法務省の理論構成から一体出てきた結論なのか、それとも実業界その他の注文があって、その要望に応じた立法であるか、その経緯を伺いたいと思います。
  121. 田邊明

    説明員(田邊明君) お尋ねの子会社調査権の立法の経緯でございますけれども、結論から申し上げますと、実際界がこの制度を望んだものではございません。つまり立法趣旨が、親会社であるものが子会社を利用して業務運営上不正なことをする事例が非常に多い。これを防止しようとするのがそもそもの立法動機であったわけでございます。その例は、一般に言われますように、押し込み販売などと申しまして、親会社の経営成績が非常に上がっておって、そしてその売り先は一手に子会社が引き受けて買い受けているというふうな事例、親会社はなるほどそれで利益をあげている形でございますけれども、子会社を調べてみると、製品が子会社の倉庫に山積みになっておるというふうな例が引かれるわけでございます。今度の調査権を与えた趣旨も、実はこのような方法によって子会社を利用して不正を働く、そうしますと、親会社を監査する監査役なり会計監査人の立場から、その任務を適正にやろうとすれば、親会社を調べていくうちに、いま申し上げたように非常な売り上げが立っているけれども、あげて子会社に製品が行っているというふうな場合には、これは当然にその子会社を調べてみて、はたして親会社の売り上げが商業取引上正当な売り上げとして考えられるかどうかということを確認いたしませんと、親会社業務運営が適正だという判定はつかない、こういうところが立法動機でございます。  したがって、先生がおっしゃるように、実は子会社調査権は、調査でございまして、子会社の独立した法人格に干渉するような、監査ではない。つまり子会社にも監査役がおりますし、大きい子会社でございますと、今度の会計監査人もついておるわけでございます。その監査をしようというのではなくして、親会社を監査するうちに、はたして子会社の帳簿上どういう結果になっているかということを調べるという範囲のものを規定したわけでございます。したがって、法文にもございますように、親会社の監査をするうちに、必要があるという場合に、その必要の限度に限って、まず子会社に照会を発する、直接に出ていくことを予定いたしておりません。これについて子会社の回答がないというふうなとき、あるいは回答をよこしましても、それが回答にならないような不確かなものであれば、初めて出かけていって、先ほど申したような製品が在庫するかどうかというふうなことを調べる。その場合に調べる範囲は、最初に尋ねた範囲に限定されておるわけでありまして、その機会に子会社をいわゆる監査するような仕事は一切できない、こういうたてまえの立法になっておるわけでございます。したがってこの種の制度を実際界から直接に要望したものではございません。
  122. 青木一男

    青木一男君 いまの御説明だと、子会社の形をもって、何と申しますか、業務運営が不当に拡大するとかいろいろ弊害があるからというようなことでございますが、私は、監査役の子会社の監査というものの目的は、どうもそういう事柄とはぴたり合わないんじゃないかと思うんです。やはり経理の不正とかその他のことが子会社についてあれば親会社にも影響するから、それで子会社の経理も監査するということじゃなかったかと思いますが、いまの御説明は若干私の考えと違っております。しかし、これはあるいは意見の問題になるかもしれませんから、これ以上は重ねてお尋ねしません。  それから次に法務省お尋ねしますが、子会社を持つ会社というものは大会社だ、これは常識上当然ですが、ところが一億円以下の小会社については、一体子会社を持っているというものがそんなに多いかどうか私は疑問だと思いますが、業務監査も監査方式の法定も適用しないことになっている、一億円以下の会社には。それだのに子会社の監査の規定をやはり適用することにしているのはどうも権衡を得ないように思うが、この理由を伺いたい。
  123. 田邊明

    説明員(田邊明君) お尋ねの中小会社の持つ子会社の問題でございますが、実際に実態調査をしてみた結果非常に驚いたことは、一億円から下の会社が案外に子会社を持っているという例が非常に多うございました。業種で申し上げますと、たとえば出版業というふうな業種は、子会社に印刷会社を持って経営をなすっているというふうな例が適例でございます。その数は予想外に多かったわけでございます。そして、お尋ねのその種の小さい会社監査役については、会計監査権限をとどめておりますけれども、事、株式会社の同じ監査役として、仕事の範囲が会計か業務全般かの区別はありましても、会計の監査というものが依然として株式会社にとって大切なものだとすれば、大会社と同じようにその種の子会社を通じた不正な会社経理というものを防止する必要がある。そこで、資本金一億円以下の会社監査役に関しても、全く同じ子会社調査権を認めたということになっているわけでございます。  これは午前中から御意見もございました点でありますが、監査役は大と小において機関たる性格は変わらない。ただ仕事の範囲が、業務全般の監査と、会計に限っての監査という区分はございますが、今度の立案では、小さな会社についても監査は大切である。したがって、その身分は大小全く同じの立案になってございます。たとえば任期を延ばしているような点、あるいはその他、監査役を選任いたします手続を現行法から改めて、取締役と同じように総会の定足数をきめるというふうな措置をとっておりますのも同じ趣旨でございます。
  124. 青木一男

    青木一男君 今回の特例法によって、大会社会計監査人の監査を受けることを義務づけられておるわけであります。私の記憶によれば、今日まで粉飾決算事件として問題になった会社は、ほとんどすべて証券取引法に基づき会計書類について会計監査人の監査証明を受けた事件であったと思うが、まずこの点をひとつ伺いたい。これは法務省でも大蔵省のどちらでもけっこうですが、伺いたいと思います。
  125. 田邊明

    説明員(田邊明君) 先ほど局長答弁いたしました粉飾会社数の事例も、おっしゃるように、証券取引法に基づく監査に関して摘発された粉飾決算の事例でございますから、おっしゃるとおりの対象会社を中心にした問題でございます。
  126. 青木一男

    青木一男君 会計監査人の監査証明を受けてなおかつ粉飾決算その他の事態が起きたということは、会計の監査制度の権威もいままで疑われたものと私は思います。今回、特例法によって会計監査人の監査を義務づけた以上、その権威について私は政府に責任があると思うのです。今度の特例法によって、会計監査人の罰則はあるいは若干強化されたと思いますが、証券取引法に基づく監査と異なり、今回の特例法に基づく監査は間違いなく行なわれると信じてよき根拠を伺いたいと思います。
  127. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) 従来までの商法監査は事後監査でございまして、決算確定後におきまして、確定決算について会計監査人が監査証明をしたというわけでございますが、今回の改正によりまして事前監査をすることになりまして、そしてその監査証明があって初めて会計が確定するわけでございますから、従来に比べまして、公認会計士ないし監査法人は、事前に当該被監査会社の会計についてずっとフォローアップできますし、新しい特例法によりまして十全の監査を行なうことができるわけでありまして、先生の御質問に対しましては、従来以上に公認会計士のモラルなり、あるいは職務意識を高める、そして従来行ないました公認会計士の責任向上のための措置と相まって、そもそも事前監査をするものについては全く十全の監査を行なえるということになるものと考えております。
  128. 青木一男

    青木一男君 どうもいまの御説明の、いままでは事後の調査だから粗雑にした、今度は事前の調査になるから間違いなく行なわれる、この説明は私はよくわからない。事後の調査であろうと事前の調査であろうと、会計監査人は、もし正当に調査すれば、かりに事後のものといえども、私は間違いが発見できたと思うのです。どうもいまの御説明だと、事前の調査だから間違いなくいくという説明ではまだちょっとわからないのですけれども、あるいは罰則が強化されておりますか、その点をひとつお伺いします。
  129. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) 私が申し上げましたのは、事後の監査でありますので、株主総会で確定したものを、監査の結果、不適正であれば、そこで粉飾ということが起きるわけでありまして、しかし、今度の改正によって事前監査になりますので、事前に粉飾と思われるようなものは、最終の段階で株主総会ではとても通らないということでございます。したがって、公認会計士の監査の結果、その内容が不適正と思われ、粉飾と思われるようなものがあれば、株主総会を通らないであろうという意味において、従来とは非常に違った形になるということを申し上げたわけでございます。
  130. 青木一男

    青木一男君 私は、その事後と事前の違いは、先ほどお話のあったモラルの問題ということは非常に影響があると思うのですが、今度の改正の非常な重点の一つですから、今度は会計監査人の監査というものは間違いないのだというひとつ実績を与えないと、国民はやっぱりいままでどおりじゃないかという印象を必ず持つと思うんです。その点については、これは監督官庁である大蔵省のひとつ責任が重くなったことをお考えいただきたいと思います。  今度の改正法の二百八十一条の三の規定に基づいて、監査役は四週間内に監査を行なって結論を出さなくちゃいけないということになっておる。大会社——全国に店が広がっているような会社、あるいは外国にまで店の行っているような会社、こういう大会社について四週間内に監査を終了するということは容易なわざではありません。法務省は、監査役がいかなる補助機関を使用してその任務を果たすことを期待しておるかを伺いたいと思います。
  131. 田邊明

    説明員(田邊明君) お尋ねのように、監査役の監査期間は最低は四週間を法律で保証しようという趣旨のものでございますから、非常に大規模会社の監査に関しましてはとうてい四週間内に全監査を終わるということは考えられないわけでございます。そこで、監査役の一連の権限規定に出ておりますように、監査役は期中から監査をなしているという一応たてまえを考えております。同じことが公認会計士である会計監査人についても考えられておりまして、期中からすでに監査を委嘱されて仕事にかかっておる、そういうたてまえで仕事をいたしますので、最終の答案をつくる期間は四週間ということになりますけれども、作業としては期中から仕事をしている。ただ、ぼう大な、大きい企業につきましては、それぞれの監査役がこの法律に定めた会計監査人以外にも会計の専門家というふうな人たちをそれぞれの手足としてお使いになるということは十分考えられるわけで、大規模会社についてはそういう運用がなされるだろうというふうに考えております。
  132. 青木一男

    青木一男君 私は、監査役がこの重大な任務を完遂するための補助機関のこともお伺いしたいんですが、目的から見て、取締役の支配下にある会社使用人を使用するということでは、どうも目的に沿わないように思う。結局外部の専門家を雇うことになって、公認会計士等を雇うことになる場合が多いと思いますが、法務省もそういうことを期待しておるのかどうか、あらためてもう一度お伺いします。
  133. 田邊明

    説明員(田邊明君) 監査役の補助機関に関しましては、現在の商法のもとでも、相当の会社では内部監査室というふうな監査機構を持っております。これは先生の御指摘のとおり、取締役業務執行の一端としてなされている取締役のなす内部監査の仕事を持っている人たちでございます。改正法で監査役が行ないます一般業務監査というものは、取締役業務執行そのものを監査いたしますので、おっしゃるように、取締役の使う人を使って監査するというところに法律上は問題がございますけれども、それは、監査役といえども内部の機関でございますので、内部のその種の監査機構をお使いになる場合も十分考えられると、こう思っております。それは、監査役は、取締役に対して業務に関して報告を求める権限を持っております。したがって、そういう報告を求める権限の行使として、取締役を介して内部の監査機構を補助的にお使いになる場合もあるだろう、それはあながち違法視されるものではないと考えております。大事なことは、監査役の意見形成が監査役の機関としてみずからの判断によってなされること、これさえ保証されるなれば、内部の方々をお使いになって資料を集めるということも違法視されることはないと思います。ただそのほかに、その内部監査機構以外に、監査役も公認会計士をはじめとする会計の専門家たちを独自にお使いになって仕事をなさるということも法律は当然考えているだろうと、このように思うわけでございます。
  134. 青木一男

    青木一男君 特例法によって、監査役のほかに取締役は計算書類について会計監査人の監査を受けなければならないということになっております。ところが、いま問題になっているように、監査役はこの会社の経理について監査の方法を、どういうふうにして監査したかということをやはり明らかにしなくちゃいけませんし、責任がきわめて重大でありますから、やはり専門家を頼んでやるということに私はなると思う。それから大会社については、会計監査人が会社に提出する監査報告についても監査役がこれについて意見を加え、そして判断を加えて取締役に提出するということになっているわけですね。そうすると、その会計監査人の監査報告について判断を、批判を加えるだけのこれは専門的の力がなかなか監査役個人としては私は持ちにくいと思うんで、どうしても会計監査人の能力に劣らないスタッフを持たなければ批判できないはずなんですね。私はそういう点から見て、監査役はおそらく取締役の任命した会計監査人に劣らない公認会計士その他を雇うことになるだろうと思うんです。どうもそこで非常に何というか、重複したというか、会計監査人を二通り雇うような結果になるんじゃないかと思いますが、そういうことはけっこうなことだと法務省はお考えになるかどうか。まずおそらくそういう結果になると思うが、その点の法務省の見るところを伺いたいと思います。
  135. 田邊明

    説明員(田邊明君) 非常に実際的な御指摘でございますが、立案の経緯を少しく御説明いたしますと、お尋ねになりました監査役が公認会計士の監査結果を監査するというくだりは、特例法の十四条に、監査報告書の記載事項として出てくるわけでございます。十四条の二項に、監査役が監査報告書を書きますときに、まず、一号にございますように「会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときは、その旨及び理由並びに自己の監査の方法の概要又は結果」、こう記載してございます。  そこで、先生御指摘なさるように、このように専門家のなすった監査の結果を見てその当否を判定するという意味での能力は、たいへん高い能力が必要だということはおっしゃるまでもございません。ただ、立案の趣旨といたしましては、大会社に関しましては、いわゆる会計の監査という専門的な部門には専門の会計職能人を導入してこれを活用しようという考えでございます。そこで、選任の資格に関しては非常に厳格な資格がきめてございますように、国の厳正な、非常にむずかしい試験でその資格を与えた公認会計士、あるいはその法人化された監査法人というものを信頼して、その監査結果というものは専門家の監査としてはきわめて高く評価されるだろうという前提でこの法案が仕組まれているわけでございます。  よりはっきり申し上げますと、おおむね通常の監査役としては、事、会計の監査に関しては、その専門家の監査結果を信頼すれば、通常はその過失を問われることはなかろう。しかし、監査の対象が適法あるいは違法という判定の問題になりますから、もちろんこれにめくら判を押すことではなくして、監査結果の当否については目を通していただきます。そこで、違法とされておるけれども、監査役が独自に取締役会等に出席して得ておられる知識から見て、結論を異にするというときには、初めて、積極的に意見が違うということを書いていただく。多くの場合は会計監査人の監査結果と同意見として、おそらく監査の事項監査役のほうは省略して、書かなくてもいいという趣旨条文になっているわけでございます。そこで、理想としては会計監査人と同等以上の知識を有する監査役がその任につかれることは望ましいことでございますけれども、すべてについて公認会計士以上の会計上の知識を有する人を必ず置かねばならないというふうには立案当局としては考えていなかったわけでございます。そういう点から、先生のおっしゃるように、二重重複という点はそう心配をしていないというふうに申し上げておきたいと思います。
  136. 青木一男

    青木一男君 いまの御答弁は新しい商法の運用上非常な影響の大きな点に触れてくるのですが、取締役が雇った会計監査人の報告書を信用して、会計についてはいいというような結論になるのでありますが、しかし、どうもいまの、今度の改正法を読むと、そう簡単に読めないのです。監査人の報告が妥当かどうかということをどうして判断をするかという問題なんです。いまでも監査役取締役から提出した計算書類は正確のものと認めましたという報告を総会でするわけです。それと同じような一体報告で済むものかどうか。私は、今度の新しい規定にある監査役の監査報告というものは、やはり自分が自分の手で、すなわちスタッフを使って自分の手で調べて、取締役の提出した書類が正しいかどうか、また、会計監査人の出した報告書が正しいかどうかということをやはり判断する責任があるように私は今度の改正案を読んで見ているので、これは非常に今後の運用に影響があるのですが、どうも私は、いまお話しのように簡単に会計監査人を信用したからということだけで済むように思えないのですね、今度の法律を読んで見て。その点をひとつもう一度確かめておきたいと思います。
  137. 田邊明

    説明員(田邊明君) この問題、おっしゃるとおりでございまして、監査役も独立の機関として、その監査結果について責任を負うわけでございます。いま申し上げました事柄は、会計に関する監査の結果を信頼して監査役が監査報告書をまとめた場合の責任の問題を申し上げたわけでございますが、会計監査人である公認会計士の監査の結果を特に疑うに足るような特段の事情がなければ、その専門家の監査を信用したということによって即時責任を負うということはまず少なかろう、こういう考えを申し上げたわけでございます。  もちろん独立の責任を持っておることには間違いございませんし、申し上げておることは監査役の責任に関する一つの解釈上の考え方でございます。要するにこの両者は、監査役会計監査人の両者は、規定にもございますように、監査の過程において常に連絡をとっていく、そういうたてまえで、決算期を迎えて取締役から出された計算書類を双方が監査している、ただ、専門家のほうをまず先に、監査報告書を作成させてこれを監査役に提出させる、監査役も並行して監査報告書を作成しているという作業の過程でございますけれども、それを見て自分の結論と異なるところがなければ、会計に関する部分の報告はこれを省略して専門家のものを引用してよろしい。ただ、それ以外の業務監査の結果は独自に、法律にございますように監査人が報告書を作成するというたてまえになっているわけでございます。
  138. 青木一男

    青木一男君 一億円から五億円までの資本会社の監査についてはどうですか、その点は。
  139. 田邊明

    説明員(田邊明君) 一億円を超過し五億円に満たない資本金会社におきましては、監査役業務全般の監査権限を持っております。しかし、いわゆる公認会計士である会計監査人というものを選任する義務づけを受けておりませんので、監査役は独自に会計を含むすべての業務の監査をして監査報告書を作成する、そういうたてまえでございますから、公認会計士との関係が出てこないということになります。
  140. 青木一男

    青木一男君 五億円以下の会社については、取締役会計監査人を雇うということはないわけですが、私は監査役の非常な重大な責任を果たすためには、やはり専門家を雇うことになると私は思います。それでまあ私は、その点は、自己の責任において会計監査をやはりしなくちゃいけないという点は、私は五億円以上の会社についても同じだと思うのです。しかるに、先ほどの御説明だと、会計に関する限りは取締役の雇っておる会計監査人の監査を信用して済めばそれでもいいという、そこが私は重複することになるということをお尋ねしたのだが、そうすると、重複しないように見えるけれども、しかし法のたてまえは、やはり五億円以上の会社といえども監査役として会計監査をしなくちゃいけないし、また会計監査人の報告書について意見を加えなくちゃいけないということになっているから、どうも、会社の雇った会計監査人の報告を信頼したという程度で済むという先ほどの御説明はどうしても私は納得できないのです。この点はしかし、あるいは見解の相違になるかもしれませんが、とくとお考えいただきたいと思います。  それから、大蔵省お尋ねします。証券取引法に基づいて上場会社その他の広く株の売買されているような会社について大蔵省に提出する有価証券報告書、計算書類について会計監査人の監査を受けていると思いますが、その範囲を、どういう会社についてこういう報告書会計監査人の監査がついておるか、伺いたいと思います。
  141. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) 証取法監査会社の提出する報告書ないし届け出書に関しましては、すべて公認会計士の監査意見がついておりまして、監査証明がつけられております。
  142. 青木一男

    青木一男君 いまの大蔵省説明のあった計算書類についての会計監査人の監査証明というものは、内容においては商法規定する計算書類と大体同じものを扱っているのじゃないかと思うのです。その点はどうですか、ひとつ伺いたい。
  143. 田中啓二郎

    説明員田中啓二郎君) これは監査証明に関する省令に基づいて監査を行なうわけでございますが、現在におきましては、片や商法による計算書類は若干異なっている面がございます。したがいまして、今回商法監査を監査人によって行なうことになれば、その辺の基準と商法による基準との調整が当然行なわれなければならないということになるわけでございます。それから、先ほど報告書提出会社についてはすべて公認会計士の監査証明が付せられていると申し上げましたが、ただ金融機関につきましては、当分の問その証明は免除されているということを付加さしていただきたいと思います。
  144. 青木一男

    青木一男君 先ほど来、法務省大蔵省から伺いまして、会計監査人の監査というものがどうも二重、三重になるように思うのです。それは大会社は金があるから幾ら手数がかかっても平気かもしれないが、国の制度としてあんまり同じような義務を課するということは、これは私はあまり好ましくないんじゃないか。一方で出ている監査報告書がほかで使えたらばそれで私はいいんじゃないかと思うんですが、こういうような会計監査人の監査について商法及び証券取引法を通じて簡素化ということが考えられないか、どうも重複の余地が多いように思うが、その点のひとつ見通しを伺っておきたいと思う。
  145. 田邊明

    説明員(田邊明君) お尋ねの点は、商法改正案が成立いたしますと、同一会社につきまして証券取引法に基づく公認会計士の監査と商法に基づく公認会計士たる会計監査人の監査が重複するという問題でございます。しかし商法の立案の過程から、その問題は実際界からも強い要望がございまして、理想としては、実質的には同一の公認会計士が一つの監査報告書を作成して、これを株主総会証券取引法に基づきます大蔵大臣、証券取引所に提出すれば足りるという簡素化を考えておるわけでございます。そのためには、商法関係いたしております株式会社の計算書類規則と証券取引法の規則でございますいわゆる財務諸表規則というこの二つの規則を実質的に調整いたしまして、いま申し上げましたような一つの監査結果が三者に提出されるという形に近づけるように現在法務、大蔵両省の間で規則調整の作業を進めております。そこで、先生のおっしゃるような実質的に簡素化された形でこの商法監査と証取監査が運用されるようになるだろうと、こういうふうに期待しているわけでございます。
  146. 青木一男

    青木一男君 簡素化についてお考えを願います。  それから、時間も来たようでございますから、最後に銀行当局にひとつ伺いたい。特例法規定によって銀行も会計監査人の監査を受けることになるようであります。銀行は国民経済上特殊な使命を持っておるのであって、大蔵省の特別監督下にあり、常時報告を徴し、検査官をして実地に検査をさせております。銀行自体としても、信用を生命とする業務であるから、その営業の適法、正確を期することは当然全力をあげており、外部に迷惑をかけるような不正事件の起きたことはあまりないと思います。私は大蔵省の監督、検査は公認会計士の監査よりも権威があると思うのであります。世間でも一般にそう信じておると思いますが、しかるに大蔵省が今回会計監査人の監査の規定を銀行にも適用することに同意された、それは大蔵省の監督、検査ではどういう点が足りないからこの会計監査人の監査を銀行に適用することになったのか、その理由を伺いたいと思います。
  147. 岩瀬義郎

    説明員(岩瀬義郎君) 御指摘の点でございますが、大蔵省の検査につきましては、先ほど先生が御指摘のように、大蔵省は銀行の持っておる社会的な信用保持の特殊性という点から、検査について厳重な内容の検査をいたしておりますけれども、この主眼といたしますのは、何と申しましても、第一に預金者保護のたてまえをくずしておらぬかどうかということと、それから信用秩序の維持確保という観点、そういう点から銀行の検査をいたしておりますけれども、これは随時、検査計画に基づいて検査をいたしておりますので、毎年これを行なうというような実績になっておりません。実績から申し上げますと、大体二年に一回大きな検査を行なうというような形になっております。したがいまして、今回特例法によりまする検査というものが、大蔵省の検査が不十分であるからそれにつけ加えてこういうものが出てくるのが適当だというふうに判断するよりも、今回の商法改正の目的から見ますと、これは私どもが銀行を監督する——いわゆる銀行の公共性、あるいは信用の保持というたてまえから監督している、検査をしておるたてまえとはまた別の観点から、たとえて申しますれば、株式会社である銀行の株主の保護、あるいは債権者の保護、あるいは取引者あるいは従業員の保護と、こういうような観点から見た検査、監査であるというふうに考えまして、しかも、それが毎会計期ごとに定期的に行なわれるということであれば、これは重複にはならないのではなかろうかというようなことが、私どもとして同意をいたした第一の理由でございます。
  148. 青木一男

    青木一男君 銀行業務というものは、ほかの商売と違って、預金を預かってこれを貸し出し、あるいは有価証券を持つというような、きわめて形としては単純な営業業務であり、ただ数量的に大きいだけなんですね。そしていまお話しのように、検査はそれは毎年できないかもしれませんが、報告書はちゃんととっておられるはずだ。私はどういう点においてやはり会計監査人の監督が必要かと、どうもこういう制度を採用したために、むしろ銀行の信用が一体加わるのかマイナスになるのか、私はむしろ非常に疑問に思って、それは大蔵省監督下にある銀行というものは間違いないんだという印象のほうがむしろ好ましいんじゃないかというふうに思って、会計監査人という私企業の個人的なものがタッチするという制度がむしろプラスになるかマイナスになるか、私は非常に疑問に思っている。この点は立法の際にお考えになったと思うが、そのときのお考えをできたら説明してください。
  149. 岩瀬義郎

    説明員(岩瀬義郎君) ここはなかなか見方と言いますか、見解の相違と申しますか、そういうことに結局なるのではなかろうかと思いますが、私ども、検査に対しては絶対な自信を持っており、かつそれは今後も自信を持ってやるべきである、それから銀行というものは、社会公共性の立場から見て信用が第一の機関であって、まさに財務内容につきましては会社の財務内容とは違うものを持っておりますので、そういう点で、銀行局の検査がその専門的な立場において把握するということについては、今後ともそれは自信を持ってやるべきであるし、必要なことだ、しかし、何せ先ほども申し上げましたように、検査の主眼点という点につきましては、これは同じものを見るわけでございますけれども、立場が違った場合に、角度が違った場合に、あるいはまたそれは定期的に行なうという検査の場合に、それが決して重複し、むだであるというふうには解釈しなくてもよろしいのではないか、むしろ信用を保持する機関であるがゆえに、そういう監査を受ける機会を与えるということは、決してマイナスではないのではないかというふうに考えておるわけでございます。
  150. 青木一男

    青木一男君 これで質問を終わります。
  151. 原田立

    委員長原田立君) 三法案に対する質疑は本日はこの程度といたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後三時四十五分散会