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説明員(
鈴木義男君) この
法制審議会は、御承知のように法務
大臣の諮問機関でございまして、
法制審議会の総会と申しておりますけれ
ども、その親
会議と申しますか、そこには、刑法だけではなくて各
法律いろんな分野の
専門の方々が集まっておられるわけでございます。したがいまして、たとえば刑法の全面改正という問題を総会だけで議論するということはできませんので、それぞれの分野の
専門家を集めた部会というものをつくっておるわけでございます。
この刑法の全面改正につきましては、刑事法特別部会という部会をつくりまして、そこで昭和三十八年以来全面改正案の
審議が行なわれてきたわけでございますが、その結果が、ただいま
佐々木先生からもお示しのございました
法制審議会刑事法特別部会改正刑法草案というものでございます。先日六月二十二日の
法制審議会の総会の
会議で採択されました案は、この刑事法特別部会の改正刑法草案の案どおりのものが六月二十二日の総会で採択になったわけでございます。
内容を簡単に申し上げますと、
保安処分と申しますのは刑罰とは違いまして、刑罰というのは、過去に悪いことをしたために、その悪いことをしたことに対して非難すると申しますか、あるいは、刑の目的はいろいろございますけれ
ども、とにかく悪いことをしたということに対してそれを非難するという
趣旨で刑が言い渡されるわけでございますが、これに対しまして
保安処分というのは、悪いことをしたからこらしめる、処罰するということではございませんで、過去に犯罪となるような行為をした者がさらに将来同じような行為をするおそれがたいへん強いという場合に、そういうことがないようにという角度でいろんな手当てを考えていこう、こういうのが
保安処分というものでございますが、この
保安処分につきましては、大体従来は二通りの制度がございまして、
一つは、改正刑法草案もそうでございますが、精神障害者であるとかあるいはアルコール、薬物の中毒者であるとかそういう
人たちに対して主として医療的な処置を施すことによって、そういう
人たちに医療的な処置を施しましてそういう精神障害あるいは中毒というものをなくすることによって、もうそういう
人たちが再び犯罪を犯さないようにしようということを主としてねらったものと、それからもう
一つは、これは外国では相当使われておりますけれ
ども、何回も何回も罪を犯す普通の常習犯と申しますか、そういう
人たちに対して、もう再びやらないようにある期間閉じ込めておくという——これはちょっと閉じ込めておくというとたいへんことばが悪いんですが、社会から隔離してそういう
人たちが罪を犯さないような措置をとっていこうと、こういう二つの考え方があるわけでございますが、改正刑法草案では、そういう、正常な者でなおかつ犯罪を繰り返す者に対してただ社会から隔離しておくだけというような意味での
保安処分は適当でないということで、精神障害者に対する治療処分、それからアルコール中毒あるいは麻薬その他の薬物中毒者に対する禁絶処分と、こういういずれも医療的な処置をとるという二つの処分だけを認めることになったわけでございます。
それぞれの
内容を簡単に申しますと、まず、精神障害者の場合でございますが、精神障害でかつその程度が相当にひどく、刑法で申しますと心身喪失あるいは心身耗弱、
責任無能力あるいは限定
責任能力という程度でございますが、そういうような状態にまで達した者が犯罪となる行為をした場合において、将来またそういうことをするおそれがある、それから
本人に治療あるいは看護を加えなければまたそういうことをしてたいへん世の中にとって危険であるというふうに判断された者に対しては、治療処分という
保安処分の言い渡しをするようにしております。この治療処分の言い渡しを受けました者は、
保安施設と呼んでおりますが、そういう特別の
施設に収容して治療、看護の処置を施すわけでございますが、収容の期間は三年でございまして、もし三年の間に十分な成果があがらないという場合には、さらに二回だけ更新する、二年ずつ更新することになっておりますので、原則としては七年まで収容することが——原則と申しますか、それでなおらない場合には七年まで収容することが可能になっております。ただ、こういう精神障害者の中に非常に危険な人があって、たとえば殺人とか放火、強盗、強姦というように重大な犯罪を犯すことが非常にはっきり、そういう犯すおそれのあることが非常にはっきりしておる者もございますので、そういう者については、場合によってはそれ以上収容しておくということもできるようになっております。
ただ、三年とか七年とか申しましたけれ
ども、これはいずれも最高限の期間でございまして、その期間が来る前でありましても、もし精神障害者の現在の
状況から見て、これは
施設の中で処遇するよりも
施設の外で処遇したほうがいいというふうに判断されます場合には、いつでも、仮退所と申しまして
施設から外へ出して、そのかわり今度は何と申しますか、現在行なわれております保護観察という制度が
一般の犯罪者については定められておりますが、その保護観察を、医療的な意味での保護観察ということで療護観察ということにいたしまして、普通の保護司さんではなくて、
精神医学に造詣のある人、特に精神科ソシアルワーカーというようなことばも使われておりますが、そういう
人たち、そういう医療的な
専門家を中心にしたアフターケアをやっていこうと、こういう考え方でございます。
それから、アルコール中毒あるいは薬物中毒におちいった者が犯罪を犯した場合につきましても、要
件等は大体治療処分の場合と同じでございますが、この中毒者に対する禁絶処分は、期間が限られておりまして、原則として一年、場合によっては
あと二回更新できる、すなわち三年までは収容できると、こういうことになっておりまして、期間が非常に制限されておりますけれ
ども、その他の点においては大体治療処分と同じでございます。
それから、なおこの改正刑法草案等は、前の国会のときに、たしか衆議院、参議院のほか、
委員会にはお
届けしたと思いますけれ
ども、
委員の方方も、
先生方もおかわりになったようでございますので、あらためてまた提出さしていただきたいと思います。