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松永忠二君 今回、日本社会党から提出いたしました
学校教育法の一部を改正する
法律案、
公立障害児教育諸
学校の
学級編制及び
教職員定数の標準に関する
法律案並びに
公立障害児教育諸
学校にかかる
経費の
国庫負担に関する
法律案につきまして、その提案の理由と
内容の概略を便宜一括して御説明申し上げます。
憲法第二十六条及び
教育基本法第三条が定めているように、すべての人間が、心身に障害を有しているかいなかを問わず、適切な
教育を受け、その個性、能力の伸長と人格の完成をはかることは、国民の基本的権利であります。と同時に、国家、社会がすべての
子供に
教育の機会を十分に保障することは、人間尊重の精神を基礎とする近代国家の義務といわなければなりません。
しかるに、わが国における
教育の現状を見ますと、いわゆる普通
教育における
義務教育の就学率はほぼ一〇〇%を誇っているに対して、心身に障害を有する
子供たちの
教育の機会はきわめて不十分にしか保障されておりません。すなわち、憲法、
教育基本法、
学校教育法等が制定されて以来四分の一世紀以上を経過した今日においても、就学の猶予または免除の
制度のもとに、全く
義務教育の機会を奪われている
子供が約二万一千人を数えているのであります。さらに、心身に障害を有する
児童・
生徒のうち、後述のような障害児
教育諸
学校または障害児
学級において、障害の程度に応じて適切な
義務教育を受けている者は全体の三一・九%にすぎないのであります。まして、幼児及び後期中等
教育段階の
生徒の就学率は一そう低い現状であります。
したがって、早急に心身に障害を有するすべての
子供たちに十分な
教育の機会を確保するため、
養護学校の義務制の
実施と障害児
教育のための
学校または
学級の新増設などその条件整備をはかることは緊急の課題といわなければなりません。
このほか、現在の障害児のための
教育が解決を迫られている課題はきわめて多いのであります。すなわち、第一には従来の障害児のための
教育を普通
教育に対して例外的、特殊的な
教育として分離する考え方を反省し、すべての
子供の個性、能力を伸ばすための
教育として一体的に考える立場から、障害児
教育の理念を確立し、その
教育的意義について父兄や社会の
理解を深めること、第二には施設設備の充実をはかること、第三には各種の
教職員の養成
制度の確立、
教職員の増員とその待遇改善により人材を誘致すること、第四には障害の多様化等に対処するため、
教育の
内容、方法の研究改善を行なうこと、第五には父兄負担を軽減するため、就学の奨励
措置の充実をはかること、第六には障害の原因究明と予防対策の充実、障害の早期発見とその受け入れ体制の確立などをはかること、第七には社会的自立をはかるための
教育、訓練
制度等を確立すること、第八には
教育と福祉、医療との協力体制を整備確立することなどであります。
したがって、これらの問題について一貫して
計画を進める抜本的な立法が必要と考えられますが、当面
教職員の充足に関し、法改正を必要とする問題に限ってここに三
法律案を提出するものであります。
まず、
学校教育法の一部を改正する
法律案について申し上げます。
第一は、特殊
教育ということばについてであります。
学校教育法においては、心身に障害のある
児童・
生徒に対する
教育を特殊
教育と称しております。しかしながら、特殊
教育ということばには、普通
教育との対比で、普通ではない、例外的な
教育と考えられる傾向を持っていることは、否定できないところであります。
すべての人間は、それぞれ異なった個性、能力を持っており、それらを正しく伸ばし、人格を形成する活動が
教育であり、普通
教育、特殊
教育の差別があってはならないものと考えます。したがって、心身に障害を有する
子供に対する
教育を特殊
教育と呼ぶのは、
教育の観点から適切ではないと思うのであります。
また、心身に障害があるということを、正面から受けとめ、みずから進んでその障害を克服し、積極的に生きる態度の育成こそ、障害児の
教育の基本というべきでありましょう。そこで、特殊
教育という言葉を障害児
教育と改めることとしたのであります。
第二は、寄宿舎及び寮母の重要性についてであります。障害児のための
学校においては、小・
中学校などと異なり、寄宿舎は、特別の
事情のある場合を除いて、必要欠くべからざる施設であります。
学校における
教育と、寄宿舎における
教育と相まって初めて、十分な成果をあげ得るものであります。その意味で寄宿舎における
子供の
教育に主要な役割りを果たす寮母の重要性はきわめて大きいものがあります。しかしながら、現行法では必ずしもその重要性が十分に認識されておらず、その明確な位置づけが行なわれておりません。そこで
学校教育法に寄宿舎の必置と、寮母の職務を明確に規定しようとするものであります。
次に、法案のおもな
内容について申し上げます。
第一は、「特殊
教育」「特殊
学級」を「障害児
教育」「障害児
学級」に改めるとともに、関係
法律の「特殊」をすべて「障害児」に改めております。
第二は、盲、ろう、
養護学校には、特別の
事情のない限り、寄宿舎を設けなければならないことといたしております。また、寄宿舎を設けるそれらの
学校には、寮母を置かなければならないこととしております。
第三は、寮母は、寄宿舎において幼児の保育または
児童、
生徒の
教育に従事するものとして、寮母の職務を明確にし、さらに、
教育公務員特例法の
教員に寮母を加えることといたしております。
次に、
公立障害児教育諸
学校の
学級編制及び
教職員定数の標準に関する
法律案について申し上げます。
現行法は、公立の障害児
教育のための
学校の
学級編制及び
教職員定数の標準について、小学部及び
中学部については公立
義務教育諸
学校の
学級編制及び
教職員定数の標準に関する
法律に規定し、高等部については公立高等
学校の設置、適正配置及び
教職員定数の標準等に関する
法律で定め、幼稚部については何らの規定を設けておりません。しかし、幼稚園、
小学校、
中学校または高等
学校の場合と異なり、障害児
教育のための
学校の場合は、幼稚部、小学部、
中学部または高等部を併置することが多いばかりでなく、相互の緊密な連携のもとに一貫した
教育を行なう必要性がきわめて強いのであります。
また、障害児
教育においては、早期
教育の必要性が特に高く、幼稚部
教育の重要性から見て、幼稚部についても
学級編制及び
教職員定数の標準について定める必要があります。
したがいまして、本
法律案は、幼稚部から高等部に至るまでの各部の
学級編制及び
教職員定数の標準について、改善充実を行なうとともに、これを包括的に規定しようとするものであります。
以上が提案の理由でありますが、次に法案の
内容について、主として現行法との差異を中心に御説明申し上げます。
第一に、従来、盲
学校、ろう
学校または
養護学校は特殊
教育諸
学校と称しておりましたが、本
法律では障害児
教育諸
学校ということにしております。
第二に、
学級編制の標準については、小・
中学部及び高等部について現行どおり八人または十人と定めておりますが、高等部の専門
教育を主とする学科にあっては、新たに十人を八人とするようその改善を行なっております。また、幼稚部については、一
学級五人を標準とすることといたしております。
第三に、
教職員定数の標準について、現行法は
学校規模に応じて教諭等の数に変化を持たせ、一
学級の部の場合は一
学級当たり二人とし、部の規模が大きくなるに従ってその数を減少させておりますが、本
法律案では、障害の程度に応じて集団指導や
個別指導など充実した
教育が行なえるようにするため、学様規模の大小にかかわらず、一
学級当たり小学部においては二人、
中学部においては二・二七人を基礎の数といたしております。高等部については、現行法は
生徒五人に一人の教諭等を置くことを基礎としておりますが、本
法律案は一
学級当たり二・二七人を置くことを基礎としております。
機能訓練関係の
教員については、大体現行法と同様でありますが、肢体不自由
養護学校については、その特殊性にかんがみ、
学校当たり小、
中学部三人、高等部一人としていたものを、幼児、
児童及び
生徒数八人に一人を置くよう改善をはかっております。
なお、現行法による高等部の専門
教育関係についての
教員の
増配措置については、
学校規模あるいは
学校種別により
教員数に大きなアンバランスを生む原因にもなっておりますので、これを廃止し、上述の基礎数の改善
措置によって対処することといたしております。
第四に、寄宿舎関係の舎監兼任の
教員の増員については、現行法の一
学級当たり一人を四人に充実することといたしております。
第五に、
養護教諭については、現行法どおり一
学校当たり一人としておりますが、肢体不自由または病弱の
養護学校については、特に二人を置くよう改善
措置を行なっております。
第六に、
学校司書を新たに本
法律の
教職員の中に加え、一
学校当たり一人を置くこととしております。
第七に、寮母について、現行法は、小、
中学部について
児童、
生徒五人に一人肢体不自由関係は四人に一人、高等部については
生徒数六人に一人を置くこととしておりますが、本
法律案は、寮母の障害児
教育における重要性にかんがみ、男女別に、小、
中学部については
児童生徒数五人に二人、高等部は
生徒数三人に一人をそれぞれ置くこととしております。また、幼稚部についても、新たに幼児数五人に三人の寮母を置くこととしております。
なお、すべての寄宿舎に最低限八人の寮母を置くことを保障いたしております。
第八に、実習助手については、現行法は専門
教育を主とする学科と、
養護学校の高等部にそれぞれ二人を置くこととしておりますが、本
法律案は専門
教育を主とする学科に二人、理療科については六人を置くほか、高等部を設置するすべての
学校に二人を置くよう
措置しております。
第九に、
事務職員について、現行法が小、
中学部について各部当たり一人、高等部については二人を置くこととしているのを、一
学校につき二人、幼稚部、小学部、
中学部及び高等部の各部当たり一人、その設置する寄宿舎当たり一人の合計数を置くことを標準とするよう改善を行なっております。
最後に、
公立障害児教育諸
学校にかかる
経費の
国庫負担に関する
法律案について申し上げます。
現在、公立の盲
学校及びろう
学校の小、
中学部にかかる
教職員給与費及び教材費については
義務教育費
国庫負担法によって、また、公立の
養護学校の小、
中学部にかかる
教職員給与費及び教材費については公立
養護学校整備特別
措置法によってそれぞれその二分の一を国が負担することとしております。
御
承知のように、障害児
教育においては、小、
中学校に比べて多様かつ多くの
教職員が必要であり、その運営にあたっては多額の
経費を要するところであります。
しかるに、国が小、
中学校と同様に、障害児
教育諸
学校にかかる
教職員給与費及び教材費の二分の一しか負担していないことは不合理であるばかりでなく、障害児
教育に多額の
経費を要することが地方公共団体における障害児
教育諸
学校の整備の隘路になっているところであります。
したがいまして、これら
経費に対する国の負担割合を三分の二に引き上げることが緊急であると考え、ここに本
法律案を提出した次第であります。
次に、本
法律案の
内容について御説明申し上げます。
第一に、国は、公立の障害児
教育諸
学校にかかる
市町村立
学校職員給与負担法第一条に掲げる職員の給料その他の給与に要する
経費等について、その実支出額の三分の二を負担することとしております。ただし、特別の
事情があるときは、都道府県ごとの
国庫負担額の
最高限度を政令で定め得ることとしております。
第二に、国は、
公立障害児教育諸
学校の施設設備の整備等に従事する技術職員、給食に従事する栄養士、
子供の療養上の
世話に従事する看護婦、スクールバスの運転手、
子供の介助に従事する介助職員、スクールバスに乗務し
子供の乗降等を助ける添乗員、給食作業員、
学校警備員及び用務員の給料その他の給与等に要する
経費について、その実支出額の三分の二を負担することとしております。ただし、その負担額は、職員の種類ごとに、この
法律が定める一定の数に別に政令で定める額を乗じて得た額の三分の二を限度としております。
第三に、国は、公立の障害児
教育諸
学校における教材費の三分の二を負担することとしております。ただし、その負担額は、政令で定めるところにより、幼児、
児童または
生徒の心身の故障の区分に応じたそれぞれの数を基礎として、各
学校ごとに算定した額の合算額の三分の二を限度としております。
なお、以上三法案は、いずれも
昭和四十九年四月一日から施行することとしております。また、
公立障害児教育諸
学校の
学級編制及び
教職員定数の標準に関する
法律は、五年間の年次
計画により
実施いたすことといたしております。
何とぞ、十分御審議の上、すみやかに御賛成くださいますようお願い申し上げます。