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戸叶武君
捜査の第一歩、一番最初のきっかけが手おくれするとたいへんなことになるという御認識は正しいと思うんです。
事件はやはり、いつ、どこで、だれが、何を、この問題をすぱっとやはり明確に私は握って立ち上がらなければならない。確かに一時間なり二時間の手おくれがあった。あったけれ
ども、手おくれなら手おくれしても、その手おくれを取り返すだけの配置をやるのが
警察の応急処置であって、時間的なズレがあったから間に合わなかったでは、子供が学校へ遅刻したのと違うから、それは弁解には私はならないと思うんです。
私のやはり経験をもってしても、私は
新聞記者としては必ずしも適格者ではありませんでしたが、
昭和七年の二月九日に、井上準之助が本郷の駒本小学校で射殺されたときに、朝日
新聞のデスクにいての第一報は、井上準之助にピストルを撃った者があるという知らせで、デスクの秋山安三郎君という軟派の記者の受けとめ方は、ピストルを撃ったというだけじゃニュースにならぬと言って、それを
電話を捨てたのですが、そのときに私は、だれがそのニュースを入れたのであるか、いや、
新聞配達の青年が政談演説を聞きに行ったら、だれかピストルを井上準之助に撃ったのを見たというだけだが、それだけじゃニュースにならぬと思っているって言うから、それはいけない、なれた
新聞記者ならば、通報員でも、何発撃たれたとか、倒れたとか、どうしたとかというようにするけど、その現象形態を見てわあっと撃たれたというだけのニュースだから、そういうときには、
電話での問答じゃなくて、直ちに現場を踏まなければならない。現場を踏んだ。現場を踏んだところが、もう片方は東大の病院だから、東大の病院。片方は
犯人は駒込署だと。で、駒込署に行く。行くと、途中の雑踏している民衆の中で、何か檄文みたいなものがまかれている。その檄文は何かと、やっとデカをつかまえてみると、それはいわゆる血盟団の、財閥なり
日本の政界の要路のやつをみんな殺すという檄文。これは単独犯行でない、
一つの単純なテロリストの行動じゃない、何かこれは連鎖反応が必ず起きると思ったら、それ以後において、團琢磨の
事件、あるいは軍に波及して、五・一五
事件で犬養さんが総理大臣官邸で殺されたというような、ファッシズムの台頭期におけるテロの挑戦でした。
私はことしから今後三年間というものは、断言してもいいですが、非常な危険な
状態がかもし出されている。これはいままで前代未聞の
事件であるという形において受けとめているが、前代未聞の
事件がこれから続々と起きる危険性がある。こんな手ぬるいところの治安体制のもとにおいて、
日本が絶好の踊り場だというので、これはイスラエルやアラブあたりでまごまごしていることはない
日本が絶好の踊り場だということにおいて、ここへ殺到する危険も私はあると思うんです。いろいろな国際的な関心を引く点においても、こういう
事件というものは連鎖反応を起こす点においても、私は警戒に値すべきものだと思いますが、問題は、今後こんなような手ぬるい、そうして敏速を欠く、それから回転のにぶさ、こういう点において、一時間おくれたら一時間をどうやって取り返すか、二時間おくれたらどうやって取り返すか。それは新幹線に対して、あるいは港に対して、どういう配置を行なうか、これは
捜査の私は第一歩だと思うんですが、この全部が、かご抜けするやつが名人じゃなく、抜かれるようにちゃんとできている
日本の治安当局の
捜査体制っていうものに非常な私は欠陥があるんじゃないか。問題は、起きたときからでは、火事が済んでから半鐘を鳴らすのも興味のある
一つのあれですが、間に合わない。いまからでも、私は今後においてこういう不祥
事件が起きたときに、それに対してどう対処するかというかまえがつくられなけりゃならないと思いますが、どんなふうに
公安委員長はお考えですか。それに対して具体的な心がまえはどんなふうに持っておりますか。