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参考人(
佐々木直君) 第一点は、外貨準備の減少の
状況、事情につきましての御説明でございますが、ただいま御
指摘がありましたように、三カ月間で三十二億ドルの外貨準備が減少いたしております。四月の段階で、季節調整済みの貿易収支の黒字がなお四億ドルもあるわけでございまして、そういう点から
考えますと、こういうような大幅な外貨準備の減少は異様に感ぜられます。
これは、どうも、振り返って見ますと、去年の秋ぐらいからことしの二月にかけまして、国際通貨情勢の不安定から、
日本の業界——それから外国の、対日取引をする人々もそうであったかと思いますが、
日本の立場からいいますと、輸出急ぎ、輸入の繰り延べ、これは、
一般的に申しますと、
海外から受け取るものは早く受け取り、払うものはできるだけおそく払う、これは専門家のことばではリーズ・アンド・ラッグズと呼んでおりますけれども、それが意外に大規模に行なわれたのではないか。それが、二月から三月にかけましての国際通貨の変動、それから、それに伴いました主要国のフロート移行ということによる小康状態をきっかけといたしまして、そういう特殊な状態がほどけてきた、それが逆に直されてきた。その点で、輸出は落ち、また
海外からの
一般的な受け取りは減少し、輸入はふえ、
海外に対する支払いもふえるという形で、今度の外貨準備の減少が出てきたと思います。
そのほかにありますのは、最近の
日本のいろいろ企業の立場もございますし、それから外国からの
資金需要もありまして、本邦
資本の長期投資、これが
増加してきております。この中には、ユーロダラーマーケットで外貨を調達して貸しておるものもございますので、表面的に、長期
資本の流出が増大しているほどの
影響は実態的にはございませんけれども、この両者が外貨準備の減少の
理由になっておると思います。したがいまして、貿易収支の黒字がまだ四億ドルあるわけでございますので、ここで完全に黒字基調が直ったと見ますのには、そういう特殊な事情を
考えますと、もう少し時間が要るのではなかろうか、こういうふうに思われます。ただ、アメリカとの貿易収支につきまして、黒字幅が非常に大幅に減っておることは、これは事実でございます。
それから次は、輸入品の
価格が、当然これだけの大幅な円の切り上げがあった後において、それが低落して、
国内の
物価の
上昇に鎮静の
役割りを果たすべきである。その点は、確かに、われわれとしても非常に期待しておったんでございますが、現実には、主要な
日本の輸入品の
海外価格があまりに急速に
上昇しましたために、それが消されております。この点は、しかし、各国の中央
銀行でもいろいろ私ども話し合っておりますが、どうも、為替相場の変更が
物価の引き下げに具体的に役立つということはなかなか現実に期待しにくい例が多いようでございまして、ドイツなどは、数回にわたりますマルクの切り上げによっても、やはり輸入品の
価格はあまり下がっておらない。向こうが上げてくるということが事実のようでございます。
それから、第二次の円の切り上げが、
日本の
国内にどういう
影響を及ぼしたかという点でございますが、確かに、ちょっとお話がございましたように、最初のとき、第一次に比べますと、第二次の受け取り方は非常に冷静であったということが申し上げられるかと思います。たとえば新潟県の燕の洋食器の例でございますが、これは、第一次のときには、一時、全く壊滅的な
影響を受けるんではないかと言っておりましたが、非常に苦労をして立ち直りましたが、第二次の場合には、そのときの経験を生かしまして、いろいろ、高級品への転換等々で、相当うまく切り抜けております。
それと、もう
一つは、先ほど
指摘がありましたように、
海外における
インフレ傾向から、
海外の
物価高、そのために、
日本の輸出品
価格を向こうの通貨建てで上げることがわりあいに楽にできた。ですから、円の手取りの面ではあまりふえませんけれども、外貨手取りをふやすことによりまして円の手取りの減少を防いで、それによって企業としてのむずかしいところを切り抜けた、こういう点がございます。ただ、クリスマス電球のような、もうとうてい競争になりませんものは、
国内の仕事に切りかえた。そういうことで今度の打撃をどうやら切り抜けてきておるように見ております。
それから、最後の金の問題でございますが、最近のドルの信用の動揺、これから起こります国際通貨の問題の特徴は、
投機的な資金が特定の通貨に向かいませんで、金に向かっているということが特徴でございます。特定の通貨に向かいましたたとえばことしの二月のような場合には、マルクがたいへん買われてドルが売られたわけでございますが、その後にきめられました変動相場制、これの——変動相場制には、いい面も悪い面もあると思いますけれども、そのいい面が今度の動揺では発揮されて、要するに、
投機をする者にとっては、相場がどう動くか見当がつかないという変動相場制は、なかなか
投機がしにくいという面があるようでございます。それで、そういう資金が金市場に向かっておるのが現状でございます。
ところが、金の取引量というのは非常に限られておりまして、そこにまとまった金が入りますと、非常に値が飛ぶわけでございます。そういうことで、最近の全く意外な金
価格の
上昇になっておると思いますが、いまの
状況では、各国とも、金とそれぞれの国の通貨とを直接には結びつけておりませんので、この
動きが非常に大きくはございますけれども、それが直ちに各国通貨に直接的な
影響を及ぼすという事態ではない。ただ、私どもの心配しておりますのは、こういう特定の物資ではありますけれども、そういうものの値段が非常に大幅に上がるということ、またそれに非常にスペキュレーションが伴っているということは、世界的な商品
価格に対して心理的な悪
影響がある。その点はわれわれとしては警戒しなければいかぬのではないか、こう
考えておるのでございます。