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参考人(
牧野昇君)
三菱総合研究所の
牧野でございます。今回の
総合研究開発機構法案につきまして、簡単に私の
意見を述べさしていただきます。
この
法案は、
シンクタンク的な
総合研究を実施し、助成し、あるいは
情報を集め、
人材を教育する、そういうような
研究活動をする
機構というふうに私、この
法案を見て内容を理解したわけでございますけれども、原則的には
賛成でございます。私も
シンクタンクを三年ばかりやっております。
シンクタンクの成立の
意義というのは、大体
三つの
条件でささえられているというふうにわれわれは見ているわけでございます。その
三つの
条件というのは
三つのIN、これが基本的な
条件になっているわけでございます。
第一の
インというのは、
インターディシプリナリーということでございまして、
専門領域を越えた
協力研究といいますか、
総合研究ということがまず基本にあるわけでございます。総合的な
研究開発の
立場はどうして必要かということを
二つばかり例をあげて御
説明をしたいと思います。
皆さんも御存じだと思いますが、有名なアスワンハイ
ダムというのがございます。これはいわゆるいままでのアスワン
ダムの南につくりました
世界最大の
ダムでございまして、
ナイル川です。
ダムの
建設に約四億ポンドを使いまして、ナセル・アラブの
連合政府がこれをやりまして、九年かかっております。私も
建設中に行ってまいりまして、非常に大きな期待が世界じゅう、あるいは
ナイル地区の人から集まっていたわけでございます。これによりまして
農地がかんがいいたしますから、大体
農地が三〇%ふえるんだと、そして、八十億キロリットルアワーの電力が出るためにこれで
肥料工場ができるんだと、そしていわゆる
国民所得というのが何と二〇%ふえるのだと、非常にいいことづくめであったし、確かにいいことが多かったわけです。ところが、これが実際に稼働した
状態においてどういうことが起きたか。昨年の有名なスウェーデンでやりました、いわゆる国連の
人間環境会議の中にこれについてのリポートがあるわけでございます。
どういうことが起きたかというと、まず、いわゆるいままでの
状態といろんな
条件で変わってまいりますので、
保菌性を持ったカタツムリが非常に増殖いたしまして、
流行病、
風土病がはやったということがあるわけでございます。それから、地下の水脈が当然のことでございますけれども変わってまいります。これによってあの周辺の何と一五%の人々のいわゆる
飲料水というものが枯渇した、手に入らなくなった、こういうことが起きたわけでございます。それから、当然土砂の堆積、あるいは
デルタ地帯の海岸の変形が起きまして、いわゆる全くエコロジー的な
バランスがこわれてきた、こういう
報告が出されているわけでございます。
それから、カール・ジョージのやはりこれに対する
報告によりますと、
沿岸の
イワシが
——あの辺では毎年一万八千トンの
イワシがとれた。これがあの
地方の全水産物の四八%をまかなっていたわけでございます。これが全く壊滅してしまったということでございます。言いかえますと、
二つの理由があるわけです。
一つは、あの辺でとれる
イワシというのは、
洪水期に流れた水があの
沿岸の塩分を薄めて、そのときにいわゆる卵を生む、こういうことがあるわけです。二番目に、豊富な
ナイル地区の
栄養物というのが
洪水で川に流れ込んで、これが非常にえさといいますか、いわゆる養育に役に立った。この
二つがこわれたことによって
イワシが壊滅してしまったわけでございますね。
これで見てもわかりますように、実は
研究というのは、いままでは
土木屋さん、
建築屋さんが
一つの
専門領域から最も効率的な
建設物を建てるという
研究でよかったけれども、いまはそうはいかないのだ。
一つの
専門領域を越えた
地質学者、
海洋物理学者あるいは
水産学者、あるいはお医者さん、そういう
人たちがこれに参加して
研究活動をしていく、こういうことが現在非常に重要なこととしてあげられてきているのだ、こういうことが言えるわけでございます。
二番目の例としてあげるのは、
政府に関することなんで、あるいは私の
民間から見た
意見として適切でないかもしれませんけれども、いま
インフレが非常に進んでいる。
インフレというのは幾つかの
要因があるわけでございます。その
インフレの
要因の分析は現在いたしませんけれども、その
一つの
要因に、いわゆる需要と供給のギャップ、
バランスを失っているということが
一つあるわけでございます。
セメントが足りない、鋼材が足りない、
木材が足りない、これがどうして起きたかというと、昨年の
政府の出資を見ると非常によくわかります。昨年、
政府が、
大蔵省では
公共投資をどんどん出していたということですね、対前年度比率で二九%、三〇%近く出しておる。それから、住宅の
補助金融資が対前年当たり七千億円よけい出している。
大蔵省では
お金をどんどん出している。しかし、
通産ではそのときにどういうことをやったかというと、
通産では、鉄鋼のカルテルをやって生産をとめているわけです。
木材の
輸入量も調整しているわけです。あるいは
セメントに対しても調整している。
片方ではどんどん出すが、
片方では調整しているという、いわゆる各省間のばらばらの
一つの操作といいますか、そういうものがあった。私がここで言いたいのは、実は
省庁を越えた広い
分野からの
研究開発、あるいはそれに対する
調査活動というものが現在どうしても要請されているのだ、こういうことがいわゆる
インターディシプリナリーという
一つの基本的な現在の
研究態度の
条件という形でいわれるわけでございます。
実は、私
たちの
三菱総合研究所は
日本で一番大きな
シンクタンクといわれているわけでございまして、約三百五十名の
研究員がおります。この三百五十名の
研究員というのは非常に広い
分野でございまして、エンジニアもおりますしエコノミストもいる、あるいは
海洋物理学者もいるし、曹洞宗の坊主からいわゆるカトリックの神父さんまで集めているわけでございます。現在そういうような広い
分野からのアプローチといいますか、
研究活動というのが、これがいわゆる
インターディシプリナリーといいますか、総合的といいますか、いわゆる境界、
領域を越えた
研究開発の
必要性、そういうような
一つの形でこういうような
研究所の
必要性というものが実は出ているわけでございます。そういう
意味では、縦割り的な局地主義的な
専門だけにこだわった
研究開発についてはかなりいま
問題点が出ているのだと、こういうことが言えるのじゃなかろうかと思うわけでございまして、そういう
意味で総合的な
研究開発ということを
条件とした、そして、
研究機関の
交流調整というものを
一つの
役割りとしたこの新しい
研究開発の
機構法案について、私は
賛成する次第でございます。
さて、二番目の
インでございますが、これは
インデペンデントということでございますね。言いかえますと、独立的な自主的な
立場を持たなければ
研究というのは非常にむずかしいだろうということでございます。
シンクタンクというのは、
特定の
官庁に付属しているとか、あるいは
特定の
企業に付属しているということは実はまずいわけでございます。なぜかといいますと、これは
一つの
企業で、このあき地を一千坪あるから
開発しろと、
開発しろということはさまっているわけですね。それに対していかにうまく経済的にもうかるように
開発したらいいかということが、これは
研究所に下ってくる命令であり指示であるわけですね。そういう形では、もう
ノーとは言えないのですね。
イエスであるけれども、
イエスの中でどうやるかということを、実は
一つの
企業の中あるいは
一つの
官庁でいえばこういうことがきまったのだと、
知識集約産業というものはきまった、それに対して、いわゆるいかにそれをうまく
説明するかということにその
研究所の
一つの
役割りというものが規定されてしまうのだ、実はそうじゃまずいのですね。実は、
イエスということも自由だし、
ノーということも自由だという自主的で独立的であるということが非常に大きな
条件なんです。
言いかえますと、われわれが
研究開発において
一つの与えられたものをいかにうまくやるかということではなくて、それがはたしていいことかどうかという基本的な
立場に立って、それに対して
ノーでありゴーでありストップでありということを言えるような、そういう
立場のいわゆる
インデペンデント、自主的な独立的な
研究機関というものがいまは非常に必要になってきている。したがって、
アメリカの
シンクタンクでも全部そうでございます。
プロフィットであれノン・
プロフィットであれ、独立的な
一つの
運営というものが第一の
一つの
条件としてあげられているわけでございます。そういう
意味で、いわゆる
総合研究開発機構というものが
官庁にも
民間にも属さない独立的な中立的な
立場の
運営をとると、こういう形では非常によろしいのでございますけれども、ただ問題は、私も
シンクタンクをやりまして非常に感じるのは、自立的である、独立的であるということは、言いかえますと非常に
経済基盤が弱いということですね。
一つの
省庁に予算をとってもらう、あるいは
一つの
企業の
一つの
附属機関ということでは、これは
運営はかなり楽でございますけれども、独立的であり、
相手の気にいらないことも自由で言うという
立場は、言いかえますと、かなり経営的には、経済的には
基盤が弱いということが当然出てくるわけでございます。そういう
意味で、この
機構が、いわゆる
無色の
研究資金というものを投じて
シンクタンクというこの
一つの独立的な自由な
立場でものを言える
研究機関の助成をはかる、こういう形ではたいへん
意義があるのじゃなかろうか、こういうふうに思っているわけでございます。
さて、三番目の
インでございますけれども、
インフォーメーションオリエンテッドということでございまして、いわゆる
情報を商品、製品あるいは成果として産出するところの
機関である、こういうことが
一つの
条件になるわけでございます。この
情報というものの
価値というものが、
日本ではまだ
評価が低いわけでございまして、
情報に対する
評価というのは
日本では、物は
お金を出してもいいけれども、
情報というものに対しては
お金は要らないのじゃないか、
知恵や
お金は要らないのじゃないか、これは
日本の
一つの
風土でございまして、たとえばここに
コップがある。
コップを持っていくことについては非常に
罪悪感を感じるわけでございますけれども、
コップのデザ
インについては自由にまねをしてもいいのじゃないかと、そういう
一つのしきたりがあるわけでございますね。いわゆる
一つの
知恵というものはただ、物は
お金払うのだ。ところが、これからは
情報というものの
価値が上がり、
情報化社会だということをいわれておりますけれども、なかなか
日本ではまだまだ
情報に
お金を払うという習慣は定着していないわけでございます。
私のところの
三菱総合研究所、いま
最大の
シンクタンクとして
運営しておりますけれども、ざっくばらんに言いますと、第一年度は三億数千万の
赤字でございます。二年度において約一億ちょっとの
赤字になった。だんだんと
情報を
価値と認める、そういう傾向は強くなってはおりますけれども、やはり
情報産業はこれから育成していくものであるというふうに考えるわけでございます。これは現在の
市場風土というものは、
情報を金で買わないということもございますけれども、逆に言うと、われわれ
シンクタンクの
人材というものが不足して、
相手が
お金で買うというような、そういう気持ちを起こさせる
情報を出してない、こういうわれわれのほうの当然弱みなり欠陥なりがあるわけでございます。
これは
情報をつくっていく、そしてそれを
相手が
価値ありと認めるような、そういう
情報をつくり出せるような
人材というものが
日本ではまだほとんどない、不足しているんだ。物をうまくつくる人は非常に大ぜいいるけれども、
価値ある
研究として
相手が対価を払うような
情報を加工し、そうしてそれをリファイニングして出すという、そういう
人材というものがほとんど
日本では育っていなかった、こういうことだと思います。そういう
意味では、今後こういう
分野における
人材というものをどんどん養成していかなければならない。この
総合研究開発機構法案の中に
人材の養成、特に
地方のこういうことに対する
人材、これはいわゆる
情報都市 東京でも不足しておりますが、
地方ではもっと不足している。そういう者を教育していくというような
一つの
役割りもこの中に入っておりまして、そういう
意味では私はたいへん
賛成でございまして、
情報化時代における
一つのトリガーといいますか、引き金としてこういうような
法案というものの
価値というものを私は
評価したい、こういうふうに思っているわけでございます。
ただ、
一つだけ
条件を申し上げたいのでございますけれども、私、
シンクタンク評議会という、現在、
日本の代表的な
シンクタンクが集まっている
シンクタンク評議会の
代表幹事としてこの二年間これを運用したわけでございますけれども、非常に感ずるのは、まだ
基盤が弱い。
基盤が弱いところに
政府が
かなり金を出す、そうして
民間も金を大きく出した、そうしてかなり資金豊富な
研究機関というのができて、それが
コンペティターとして、せっかくわれわれがいままで苦心惨たんして育ててきた
シンクタンクの
基盤を脅かすような、そういう形でこれが発展することについては非常にわれわれとしてはこわいわけでございます。したがって、この
シンクタンクというものは、いまある
民間企業の
コンペティターとしての
役割りよりも、むしろそれの総合的な
調整機関という形でこれが発展することを願うわけでございます。
私の
説明、以上で終わります。どうもありがとうございました。