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参考人(
穐山篤君)
穐山です。私は、国鉄あるいはバス、タクシー、トラック、こういった職業
運転者を中心とした労働組合の集合体で、当然、労働組合ですから労働条件の改善という運動もやりますが、安全の確保という問題につきましては私
どもの重要な運動の目標でありまして、そういう立場からこの
法案並びに関連する問題について
意見とそれからお願いを申し上げたいと思います。
最初にこの
法案全体の感想について率直に申し上げさせていただきたいのですが、三十一条に
業務内容が書かれております。大きくいえば三十一条一項の一号、二号というのが
一つの業務であります。それから三号、四号という貸し付け業務、これが
一つになる。そのほか全体が
一つということで三つから成り立っているわけでありますが、
交通遺児の援護救済という新しい発想がありまして、非常にその点につきましては私
どもも
賛意を表するわけでありますが、三十一条一項の一号と二号と三号、四号では、具体的に
業務内容が違うわけです。ですから、
一つの
センターで行なうということにつきまして、少しなじみが薄いんじゃないかという感想を持つのであります。
それからもう
一つは、三十一条一項の三号、四号というものについてそれぞれ御
意見ありましたように、
政治のあたたかい光を当てるとするならば、もっと
金額の面でもあるいは適用の範囲におきましても、あるいは手続についても、もっともっと充実したものでなければ人命尊重といいますか、人間性回復という立場から掲げられました本
法案の
趣旨というのは少し
意味が薄れてしまっているのではないかと、こういう心配をします。
それからもう
一つは、
交通事故をなくすという立場からいろんな
法律があります。交通安全
対策基本法あるいは道交法、道路法、いろいろたくさんあるわけですが、新しくこの
法律をつくり上げて
事故をなくしていく、そういう
考え方だろうと思いますが、はたして大幅に
交通事故をなくしていくことが可能かどうかということになりますと、率直に私
どもとしては疑念を表明せざるを得ないというふうに思うわけです。三十一条一項の一号、二号は、大体が
事業用の車、
運転者を対象にした業務であります。しかし、いま現に起きております
交通事故というものを昨年の実績から具体的に調べてみると、何をやらなければならないかという問題が私は出ると思うのです。去年の
交通事故、
死亡の場合をとりましても、
事故件数一万五千件で、なくなった方が一万五千九百何人。そのうち
死亡事故の件数をそれぞれ調べてみますと、営業用、青ナンバーの車が起こした
事故というのは九%
——バス、マイクロバス、トラック、ハイタク。しかし、マイカーといわれます自家用車、こういうものが六八・二%その他が二二・八%というふうに圧倒的に自家用車による
交通事故というのが比重が非常に高いのです。私
ども営業用の
運転者をかかえておる組合とすれば、当然自分の命を大切にするということもありますけれ
ども、旅客の安全輸送とか荷物の、財産の安全輸送ということを
考えます。あるいは経営者側としても社会的な
責任を
考えるわけですから、年々営業用車の
交通事故というものは減ってきているわけです。しかし、決定的に一万五千何百人となくなっている方の大部分が自家用車によるんですね。「走る凶器」か、あるいは「棺おけ」か、いろいろ
内容はありますけれ
ども、圧倒的に自家用車が多い。ですから、その問題を度外視をして、三十一条の一号、二号が、これで
交通事故がなくなる、あるいは大幅に少なくなるというふうに言われるとするならば、私は重大なこれは問題ではないだろうかというふうに
考えまして、そういう
意味でいきますと、もっと人間性尊重の哲学に、お互いがあるいは
法律をつくられたり、あるいは指導されるそれぞれの分野で哲学をきちんとしなければもうしようがないというふうに思うわけです。
過日、警察庁が、ことしは一万五千人
死亡者が出たけれ
ども、来年はデッドラインとして一万四千人
——まあ死ぬ人は気の毒だけれ
ども、一万四千人台で食いとめよう、こういうことで
全国に指示をされました。そのことは私は歓迎します。しかし、私
どもの調べによりますと、ことし
自動車メーカーが
——大きな
会社ですけれ
ども、十一社が発表しました
自動車の生産台数を見ますと、国内の販売が五百三万台ですね。それから輸出が二百三十三万台。まあ廃車もありますから、結果的に両数がふえるのは三百万台ぐらいふえるんじゃないかと思うんです。それから、昨年一年間で
自動車の新たに免許を取った人が二百八十万人です。これは一年三百六十五日から日曜日を差し引く、あるいは祝祭日をはずすと、毎日一日に一万人の
運転者が量産をされているということになるわけです。ですから、私はお互いの努力あるいは
行政の努力によって、一定のところまでは
事故をなくしたり、あるいは死んだり、けがをしたりする人は減らすことは可能だと思いますけれ
ども、それを一万人に下げるということは絶対にできない。これはもう一万二千とか三千というのは、もう
事故としては起きる問題だと。ですから、ここで抜本的に交通
対策といいますか、人間尊重の具体案を出していかなければ、私はもう
事故というものは減らないと、そういう立場で御
審議をいただきたいと思います。そういう
意味で、若干具体的な問題について
先生方にお願いをし、あるいは
行政官庁に御努力をいただきたいと思うんですが、非常に基本的な
交通事故対策の点で、まあ全く欠けていると言えばしかられますけれ
ども、非常に私は不十分の点が多いということをまず指摘をせざるを得ないと思います。
その
一つは、車が約三千万台ありますけれ
ども、マイカーといわれるものが約二千万台ぐらい。しかし、その中には営業類似行為を公然とやっている
事業者あるいは
運転者がいるわけです。それは白ナンバーの車で営業行為をやっているということなんですけれ
ども、これはまあ旅客輸送についていえば、工員の輸送だとかあるいは旅館の輸送だとか、あるいはトラックにしてみますと、もう
東京都内を走っている大部分の大型トラックは私はもう類似行為をやっていると思うんです。この類似行為をやっている者についての規制というものは十分でない。これは運行管理者がその
会社におって、十分に安全
対策なり企業内教育をやっているわけじゃないんです。ですから、どうしても収入をあげるために無差別にスピード違反をしたり、いろんなことが
事件として起こっているわけです。ですから、この際、類似行為の問題について、車の型でおさえるか、あるいはまあいろんな
方法が
法律的には
考えられると思いますが、何か
方法をとらなければ
事故の絶対数を減らすということにはならないということはぜひ御検討をいただきたいと思っているわけです。
それから、
自動車の免許の問題であります。先ほど申し上げましたように、大体年間通しまして二百八十万人から三百万人の
運転者が量産をされているわけです。この免許の交付について私は少し安易過ぎるのではないか。無免許運転あるいは酔っぱらい運転というのは昨年の実績で二%。これをなくしていけば
事故は一割減ることはもう完全にはっきりわかっているわけです。この間、自衛隊の飛行機が、無
資格者が飛んで
事件が起きた。新聞は相当書き立てました。国会の中でも議論されたんですが、しかし、道路交通における酔っぱらいとか無免許運転というのはまあ二行ぐらいで済まされているわけですね。そのくらい、率直に申し上げまして、車という問題について哲学が非常に不足している。これは
玉井さんが先ほど申し上げましたように「許された凶器」と。そもそも無
資格者が乗るなんということは、あるいは無免許の者が乗る、あるいは酔っぱらいの人間が乗るなんということは、飛行機だとか鉄道という場面ではきわめて少ないです。ところが、
自動車の場合には公然と許されている、と言えば語弊がありますけれ
ども、ある
意味では放置されている。ですから、私は免許を通して、最初に運転をするという問題について徹底的に究明すれば、
事故の一割は確実に減る、こういうことを言いたいわけであります。
それから、私
どものようなところでも過積み、過労運転
——これはトラックのところですけれ
ども、過積み、過労運転があるわけです。私
ども昨年十月に東名、名神で調査をしました。まあ、青ナンバーより白ナンバーのほうが非常に多く走っていたわけですけれ
ども、約半数以上のトラックは過積みであります。その過積みの
程度は二割であるとか三割であるとか、あるいは倍であるとか、あるいは
東京近辺に行きますと、晴海の埠頭に行けばすぐおわかりになるわけですけれ
ども、大体倍積むのはセミプロでありまして、プロは三倍積む。これはもう常識になっております。しかし、常識になっていますけれ
ども、それも放置をされている。この過労、過積み運転は必ずと言っていいくらい
事故を起こし、あるいはもらい
事故も伴っているわけです。で、最近
関係官庁の御努力によってかなり締めつけは行なわれておりますけれ
ども、まだ依然としてある。貨物の需要は相当あるわけでありまして、鉄道だけでは運び切れないこともそのとおりであります。で、最近は大手の職業運転手は、賃金にしろ少しずつよくなったり、あるいは労働時間も短縮されるわけです。しかし、そのしわはどこにいくかといいますと、中小零細企業あるいは白ナンバーのトラックに全部それがしわ寄せされているわけです。ですから、事実上の問題としては、もう過積みはいけないということがすべての
法律に書いてありますけれ
ども、過積みが横行している、過労運転が行なわれている、そのために
事故というのは必ずついている、こういった私は基本的なことについてぜひ
先生方の御検討をいただきたいと思っております。
それから、最近バスなんかの
事故が多いわけですけれ
ども、その
事故の大部分とは申し上げませんけれ
ども、かなりの部分は道路の欠陥という問題にあります。これはまあ飛騨川
事故以来建設省が非常に御努力をいただいて予算配賦をされているわけですけれ
ども、昨年起きました四国の
事件とか長野の
事件、まあ、
運転者に
責任が全くないとは言いませんけれ
ども、その前提条件としてはこの欠陥道路がある。ですから、そういったところについて十分チェックをしていただくということが私は必要ではないかというふうに思います。
それから、この
死亡事故の中にどうしても指摘しておかなければなりませんのは、鉄道あるいは民間の鉄道の踏切の
事故であります。これは年間三千人
死亡しているわけであります。それはいろいろな
理由があります。しかし、根本的にはその踏切道のあり方の問題について抜本的な
対策が講じられるとするならば、私はこの三千人のかなりの部分は将来
事故がなくなると、こういう自信を持つわけであります。ですから、たくさん
法律をつくっていただくこともけっこうですけれ
ども、現在ある
法律を十分に生かして、徹底的にそれを追及していくことによって私はかなりの部分
事故をなくすことができる。しかし、繰り返し申し上げますけれ
ども、道路がどんどんこれからでき上がる。車ができ上がる。免許者がどんどん出てくる。ですから、一定限度以上には、絶対に現在の施策だけでは、
事故は減らないということを基本的に
考えて、まあ私
どもも努力したいし、ぜひ
先生方の御検討をいただきたいと思っております。
それから、今回のこの
事業が特別会計の中から一定の部分出るわけでありますが、先ほどから
参考人が述べられておりますように、私
どもといたしましても、五百万円というのはいかにしても人間の命の値段ではないというふうに思います。ぜひこれは、収支計算でいったら議論の余地はないと思うんです。それは赤字になる見通しは立つわけであります。しかし、私は早急に一千万円というものを
日本の常識にしてもらいたい。
それから、もう
一つ、
昭和四十四年の十月にこの五百万円にしたときに、八項目にわたりまして
審議会が
政府に
答申をしているわけです。これは各省庁にわたってなかなかなわ張りがあってむずかしい問題だと思いますけれ
ども、しかし、
一つ一つ調べてみますと、直ちにやらなければならない問題ばっかしであります。ですから、この
法案の
審議を通しまして、直ちに
昭和四十四年十月の
答申が実施の運びになるようにぜひ御検討をいただきたいというふうに思っております。
それから、最後になりましたけれ
ども、三十一条の四号の適用の
金額の問題とか適用の範囲の問題、いまそれぞれから
お話がありましたように、やっぱり小・中学校の児童、生徒というふうに限られているようでありますが、昨年の道路
交通事故で十六歳から六十歳までの間の年齢の方でなくなっている方が六五%いるわけです。逆にいえば、残された人が、年寄りも、それから生徒も、あるいは幼児もたくさんいるということを
数字は具体的に証明をしているわけだと思うんです。ですから、私は小・中学校の生徒というふうに限らずに、もっと、ある
意味ではそれ以上、六歳以下とか、あるいは六十歳以上と、こういうところが
政治の光を当てなければならぬ時代ではないかなというふうに
考えまして、技術的にはいろんな検討の
方法はあるんでしょうけれ
ども、ぜひ適用の範囲あるいは
金額の問題につきまして充実をする方向で御努力をいただきたいということを申し上げまして、私の
意見と要請にかえます。