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政府委員(林信一君) 法令を平易に表現するという点につきましては、実は明治八年の太政官布達がございまして、非常に古いのでございますが、「諸布達ノ儀ハ事理弁知シ易キヲ旨トシ可成平易ノ文字相用候様注意可致此旨相達候事」という非常に古いものがございます。これは明治の初めでございますが、その後明治二十六年の「民法ノ編纂
方針」、これを法典調査会で定めまして、そこでも「民法ノ文章用語ハ其意義ノ正確ヲ欠カザル限り通俗平易ヲ旨トスベキコト」ということがございます。またさらに、
大正十五年でございますが、若槻
内閣の当時の「法令形式ノ改善二関スル件」、
内閣訓令というのがあります。
戦後になりましてから、御
承知のように、新しい憲法は口語ひらがなで表現しようということになりまして、そうできておるわけでございますが、それと並行いたしまして、国の国語政策といいますか、これがまた昔からいろいろ議論のあったところでございますけれども、やはり民主主義の趣旨にのっとりまして漢字を制限していく、いわゆる当用漢字表というものを昭和二十一年に定めております。さらに二十三年には音訓を制限する、漢字の読み方を制限しております。あるいは、二十四年には漢字の字体、形を制限していくというようなことによりまして、文章、特に公用文における表現は
内閣が告示をもちましていろいろ指定してきたわけでございます。法令におきましては、ただいま申しましたように、憲法をそういう形で新しいスタイルで表現するその前に、すでに昭和二十一年の五月当時でございますが、そのころから、当時旧憲法下ですから勅令なんですけれども、憲法の公布が十一月三日、それより前の二十一年の五月には口語ひらがなで表現するということにしておりました。
仰せのように、われわれといたしましても、かたかなとひらがながまざるというのは確かに読みづろうございますので、必ずしもそれでいいと思っているわけじゃございません。しかしながら、かたかな文語の文章、このかたかなの部分だけを直ちに口語ひらがなに直せばこと足りるかというと必ずしもそうまいらないわけでございます。いま申し上げましたように、漢字自体の使用の
範囲も制限されておるわけでございます。古い漢語調あるいは漢文調の文語体の法文を口語に移します場合には、そういったような問題もございますし、のみならず、これはどうしても全部の
改正ということになりますので、形式だけではなくして実体についての問題が伴う。長い間、古ければ古いほど判例、学説、あるいは
行政上の先例なんか積み重なりまして、これらをこの際全部
改正するならば中にくみ込みたい。
先ほどからいろいろ
建設省全部
改正の用意があると仰せになっておりますが、御
指摘のようにいろいろ問題もございます。そういった問題が全部解決されませんと、なかなかかたかな文語を直ちにひらがな口語に変えるというわけにはまいりません。
先ほど例にあげられました当
委員会に
関係ございます都市計画法、これは昭和四十三年に制定されておりますが、旧都市計画法、その前の都市計画法、
大正八年でございますが、これは条文は二十六カ条、本則がございました。いまのとしては九十七カ条になっております。この前の昭和三十九年にできました河川法、これは旧河川法、明治二十九年でございますが、本則六十三カ条のものが百九条というふうに伸びております。なぜそういうふうになるかということでございますが、ただいま申し上げましたように累積いたしました判例、学説、
行政の先例等をこの際
法律の形に取り込むということが民主的である、それから昔の法令はとかく勅令あるいは命令に委任いたしている
範囲が広うございましたけれども、これらの事柄もできればなるべく
法律に格上げして、
国会の御審査を経た上で
法律という形にしたいというようなことで
法律の
内容がふくらんでくる、あるいは憲法の趣旨からまいりますところのデュープロセスと申しますか、適正手続というようなことで
行政手続につきましても手続規定をいろいろ付加していく、というようなことで条文がどうしてもふえるわけでございます。そのほかいろんな原因がございますが、いずれにいたしましても横文字を翻訳して縦にするというように単純にはまいらないというところが私たちの悩みでございます。
先ほど御
指摘になりましたひらがなの分、これは第一条の第三項についてのあるいは
お話かと存じますが、
法律の題名はわれわれ固有名詞と
考えておりますので、これは形式どおりに
法律の中へ引用していくということで、新しくできましたひらがなを使った題名の
法律、これはどうしてもひらがなで入ってくるということにならざるを得ないわけでございます。
それから「ベシ」というのがはなはだおかしいではないかという御
指摘でございますが、文語体の法令におきましては「ベシ」 「ベカラズ」あるいは「得」、「スルコトヲ得ズ」といったようなことば、これは、いわゆる
法律というものが規範であって
権利義務を主体とする
一つのものであるということからいたしまして、いわば文語体の法令においてはきまり文句といいますか、むしろきわめて重要な表現でございまして、むしろ「ベシ」という義務規定があることによって
法律のていさいをなしておると言ってもいいぐらいでございまして、
二宮委員の御年配で「ベシ」ということばが非常にかちんとくるといいますか、
先ほどお話ございましたけれども、私たち民法、刑法あるいは民事訴訟法、これら基本的なものがまだかたかな、文語のままで残っておりますし、そういった基本のものがまだかたかななものですから、御
指摘のように「ベシ」が非常におかしいというふうに感じておらないわけでございますけれども、文語体の法文をなるべく今後少なくしていかなければならない、これは当然でございます。ただ、それは
機会がございまして、いま申し上げましたように全面
改正の
機会、これが一日も早く来るようにということを願っておるわけでございます。