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加藤シヅエ君
外務大臣に、ただいま非常に問題になっております
韓国の
金大中氏の
事件につきまして、
外務当局がその後おとりになっていらっしゃいます
態度、それがどういう御趣旨で、どういうふうな
態度をおとりになっていらっしゃるのか承りたいと思うのでございますが、時間がございませんので、私、かいつまんで申し上げたいと思いますが、いままでの
大臣のおとりになっていらっしゃいました
態度は、非常に慎重な
態度であったと思います。それは、もっともなことでございますけれ
ども、その慎重さというのが、はたして結果によいことになるのか、あるいはその反対になるのかということを私は心配いたすわけでございます。
私は、この
日韓の問題につきましては、ずいぶん古くからいろいろと深い
関心を持ちまして、特に
隣国ではございますし、三十数年にわたって
日本が支配しておりました国、その国が独立をして全く対等な
態度で、過去のような、一種の
日本が
優越感を持つというような
態度でなくて、
ほんとうの
隣国としての
友好関係を樹立していかなくちゃならない、その間に朝野のいろんな
苦心があったと思います。
私も、
参議院の
外務委員会に所属している者といたしましては、これに対しましてずいぶんと
苦心を重ねまして、今日ここに
昭和三十二年四月三十日の
参議院外務委員会の
議事録をちょっともう一度持って読み返してみたのでございますが、その当時は、
韓国と申しますと、
韓国の方というのは、もう
日本人に対してぬぐうことができないほどの冷たい憎悪の観念で満ち満ちておりました。それはまことにもっともなことでございまして、それを
日本側としてはどうにかやわらげて、過去の
植民地のような、支配したあの
関係を少しも早く忘れてもらいたい、
日本はこれからはそういう
態度ではなくて、
ほんとうの近隣の国として対等につき合っていきたいし、過去の
いろいろ支配をしていた
関係に対する償いもいろんな形で、精神的にも物質的にでもこれをあらわしていかなきゃならない、こういうふうにみんな考えたわけでございます。
そこで私は、その当時
外務委員会で非常に問題になっておりました、
韓国の方がどうしても
日本に対して
日韓会談を順調に進めることのできない
障害になっておりました
二つの点を、当時の
内閣総理大臣兼
外務大臣岸信介先生に質問をいたしました。それは、
二つの点と申しますのは、
一つは例の
久保田発言でございます。これは正式の
政府の
発言ではございませんけれ
ども、やはり
政府の
外務省の
久保田さんとしての
発言でございましたから、非公式にほとんど
政府がそういうふうに考えているように思われて、
韓国の方にとっては非常にこれは侮辱的な、許すことのできない
発言というふうにとられておりました。しかし
日本人は、それほどにこれが悪い
発言であるというふうには思っていなかった。けれ
ども、
韓国は、もう非常に問題を
解決するのにこれがデッドロックの
一つになっておりましたので、私は、当時の
岸総理大臣兼
外務大臣に、
久保田発言の撤回ということがまず
一つ。
それからもう
一つは、
在外財産の
請求権、これは
日本が
韓国にいろいろの、あそこにたくさん行って仕事をしたり居住していたりしていた時分の
財産権というものを、いわゆる
国際法上の権利その他に基づいてこれを請求するということは当然であるというふうに考えられた方もあったようでございまして、こういうような問題に対しても、これは実情、たびたびの戦争によって、もうその
財産がどういう形で残っているかということも、
あとをトレースすることもむずかしいような
状態になっている、そういうようなことに特にこだわって、これが
障害になって
日韓関係の
感情がいつまでたってもほぐれないということは残念だから、これもひとつ善処していただきたい、この
二つの点を私は取り上げまして当時の
外務当局、
大臣に伺いました。
岸総理大臣は、これに対しまして、両方とも法律上の問題はいろいろあるとしても、この際、
日韓の間の
感情の問題をはっきりすることは非常に優先的に大事なことであると考えて、非公式であっても、この
久保田発言というようなものが今日存在している以上は、これははっきりとそういうものは撤回したい、
在外財産の
請求権問題もこれも考え直してみたいと、これは
二つとも事実上撤回なさるという御
答弁があって、この古い
議事録に載っているわけでございます。こんなふうにいたしまして、
政府あるいは民間、いろいろな
交流関係の中で
日韓関係をよき隣人としての
つき合いにまで戻そうという
努力がずっとなされました。その後、いろいろの
経過を経て、今日ではたいへんに
日韓関係の
状態は表面よくなっていたようにみんな思っておりました。
そういうふうになときに、突如としてこういう
金大中事件というのが起こりましたので、
外務大臣としては、
日本の
政府としてどういう
態度をとったらいいのか、
相手国をやたらに
刺激をすることもできないし、
事件の
真相がはっきりしていないことを何と言っていいかわからないし、また、
日本の
国民感情をどういうふうにして満足させるような行動に出たらいいのか、これは
事件の
真相がはっきりしていないだけに非常に
外務当局としては御
苦心のあるところだということは察せられます。しかし、いろいろの問題がどうも――
外務大臣のいままでおとりになっていた
態度というのはあまりにも一貫した
方針が少しもなくて、ただ外部から見ているとたいへんに軟弱というようなもので、
一つの
方針というものがそこに
一つも見られない、こういうことは私非常に残念に思うわけでございます。
二、三日前の
新聞の
漫画にも、
外務大臣が大きな氷嚢を頭に乗せていらっしゃいまして、いろいろなことを言われている、その中で
盲目的だんまりというのがあったんですけれ
ども、これは非常に
漫画家というのはうまいことを言うもので、
盲目的だんまりというのはうがっているじゃないかというふうに一般の人は思うわけでございます。
これは
一つの例で、私まず伺いますが、
日韓定期閣僚会議の
延期ということをどういうふうに
日本は
向こうへ通告なすってこれを
延期なすったか、その
理由というものをどういうふうにおっしゃったのか、
新聞などの
報道を見ますと、まるで、
田中総理が
訪ソをなさる、いろいろそういうようなこちらの
事情があるので、頼まれてしかたがないから
延期したんだといわんばかりのことを
向こう側では
発表していらっしゃるのです。こういうことが
向こうで
発表があるということは、われわれ
日本国民としてはずいぶんいいかげんなことを言うというふうにしかとれませんので、どういうふうにしてあの
会議を
延期なさるという
理由を
向こうへ通告なさったのか、
ほんとうの
理由は何であったか、ここではっきりと承りたいと思います。
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