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参考人(
梅原衛君)
北方地域六カ村と、もう
一つ、本土に本村を持つ
歯舞離島、この
地域の元
住民関係者をもって結成しております
千島歯
舞諸島居住者連盟、略称
千島連盟と申しますが、そこの常務
理事をしております
梅原でございます。
私事を差しはさんで、はなはだ恐縮に存じますが、終戦当時の
色丹の村長でありましたので、敗戦の結果とは申しながら、
色丹島を含めて
北方領土を私の在任当時に失ったことに大きな責任を痛感しておるものでございます。不徳のいたすところで、反ソ分子、スパイ容疑で実は二十年の刑を科せられてシベリアの強制労働の刑を受け、
日ソ共同宣言の妥結によって、あと五日で三十二年になるという時期に
日本に帰って参りました島民の一人でございます。
共同宣言以来十七年、
日ソ間の
関係改善となる
平和条約の締結に、ただ
一つ残されている
領土問題の
解決が、この秋首相訪ソによって最高首脳会談が公式に行なわれる重要なこの時点にあたって、国政のきわめて御多端な特別
委員の先生方におかれましては、私どもつたない島民団体の
意見をお聞き取りくださいますことを、私はもとより、
千島連盟としてまことに光栄に存ずるわけでございます。深く感謝申し上げます。
北方地域の終戦当時の住民は約三千百世帯で、人口は一万六千七百余人でございましたが、全員強制引き揚げを余儀なくされ、
北海道に八五%、本州に約一五%が散在しており、現在
千島連盟の会勢は二千九百六十五世帯という現況でございます。
千島連盟の結成の動機とも申しますのは、
日ソ交渉開始の前後、
ソ連に対して
領土要求の範囲等について
世論が騒然たる昭和二十九年の末ごろから始まったわけでございますが、その目的としては、郷土
北方地域の復帰
解決の推進と帰島までの元居住者の援護対策の推進など、島民団体の
意思の発言機関たることであったのであります。
私ども
北方地域の引き揚げには、
ソ連の力の政策の強行と
領土帰属の不明確なためによる幾つかの特別な災いを背負わされて異常な
状態にあったのでございます。すなわち、三年ないし四年の抑留によって、あの一日を争う
日本経済の混乱期に一切の財貨を没収されて、一人の携行品がわずかに十キロの制限を受け、正当な労働によって得たルーブル、
日本貨幣はもちろんでございますが、そのほか預貯金等も全部没収されて、
樺太経由で一カ月余り、すぐ目と鼻の先にあるあの水晶の島からも
樺太経由で帰されたのであります。在島当時は七三%の漁業者が、現在はわずかに一三%に没落し、本来の生業である漁業に復帰することができずして、約六〇%はあすの安定のない自由労務者に転落したことが、いまなお引き揚げの後遺症として生活に苦しんでおる現状なのであります。その日の生活にも事欠くみじめさが、われわれ島民団体の結成の立ちおくれた
一つの原因でもあったのであります。なお、戸籍の異常な取り扱いなども実害の一面かと存じます。また、
沖繩、小笠原島民には、日米両
政府による救護の措置も行なわれたところでありますが、
北方にはそれがなく、ことに本土の漁民には、漁政改革に際して旧漁業権の買い上げによる補償措置が行なわれたわけでありますが、
北方にはそれすら除外されている現状にあるのであります。
時間の
関係がありますので、当面の問題であります
日ソ平和条約の締結に関する事項外一件について、実はお手元に差し上げてございます要望書を通じてごらんをいただきたいと存じますが、このことは、去る五月二十五日の
千島連盟の通常総会において満場一致の決議によるものでありますので、よろしく御高配を賜わりますよう要請申し上げます。なお、このような趣旨の決議を従来
千島連盟は繰り返し
関係方面に要望してまいりました。
特にくどくどと申し上げますことははなはだ恐縮とは存じますが、
日ソ平和条約の締結に際しては、
国際法上
日本に正当なる要求権があると確信いたします
択捉以南の四島の同時完全復帰を
平和条約の締結の最大要項とせられたいことでございます。この実現のない
平和条約の締結はかたく留保すべきだということでございます。このことは、
ソ連共産党ブレジネフ書記長が強調するアジアの集団安全保障
条約の締結についても同じ意味であります。
国内においても、
歯舞、
色丹の二島説、
択捉以南の四島説、全
千島説等、いま
交渉に臨んで必ずしも
国論の一致していないことは、対ソ
交渉の最大の欠陥でなかろうかと信ずるものであります。われわれ国民は、対ソ
交渉に
世論を結集して国益を守ることが連帯の責務かと存じます。面積比にして、
歯舞、
色丹は百分の七、
国後、
択捉が百分の九十三であります。
歯舞、
色丹は海藻類が主産でありますが、
択捉、
国後は、サケ、マス、ホタテ、クジラ等の比較的金目のものが生産されており、民生百万の安定も私は不可能ではないと思うのであります。年々先細りになる北洋の漁業
交渉も、南北三百五十キロに延びている
国後、
択捉の
両島があってこそ将来の漁業権、漁獲割り当てに対する発言権が残ることであり、これらの二島を失いますならば、
北方海域における将来の漁業は壊滅に瀕することではなかろうかと危惧するものでございます。それだけではありません。現状のままでは、
北海道の安全を脅かす重圧を感ずるのは私一人ではないと
考えます。
北方地域が復帰しても非武装地帯とすることにやぶさかでないと容認しているわが国に対し、
世界六分の一の広大な
領域を持つといわれる大国
ソ連が、
択捉、
国後の二島になぜこだわるのか、これがブレジネフ政権すなわち
ソ連政府の平和政策の真偽を問われる点ではないでしょうか。先月の二十七日の新聞によりますと、
日本の対外政策をさぐるとして、
領土問題の項で領有権か
外交の利益かとのアンケートがつのられてあったのであります。私は強いショックを受けたのであります。
領土は民族の母胎、民生安定の最大要素と理解しております。
領土を切り売りして繁栄を求めても、それが国家将来のための恒久的な利益になるのかと、はなはだしく悲嘆した次第でございます。
千島連盟にも、
歯舞、
色丹の元住民が四〇%、
国後、
択捉が六〇%の割合になります。個人的には、あるいはまた
地域的利害
関係からすれば、いつ戻るかわからない
国後、
択捉を道連れにして、
ソ連が戻すという
歯舞、
色丹の復帰をたな上げにするのかとの島民の仲間割れの懸念をお持ちになる方もあろうかと存じますが、しかし、私たち島民は、
千島連盟は国家利益を最優先に
考え、結成以来四島完全復帰を主張して、終始一貫その
考えを変えたことは一度もないことを明言してお誓いするものであります。
戦争による
領土問題は
平和条約によって
解決される国際通念からするならば、もしいかなる正当な
理由をかざそうとも、四島のうちいずれの島かが
平和条約に取り残されるとするならば、現状承認ということで、その後の要求の
根拠を失う結果となることを島民は深く憂慮して、国家千年の不幸として強くおそれるものであります。西独ブラント政権との調印、あるいは
アメリカとの提携に自信を強めたブレジネフ書記長としては、わが国が食指を伸ばしているシベリアの経済提携をえさにすることにより平和友好
条約の締結が可能として、これまでの不法占拠の罪名を一気にして
平和条約の締結によって合法化しようというような意図をしておるのかもしれないと思います。国連中心主議のわが
日本国としては、ウルップ以北の島々については放棄させられた事実は否定できないだろうと思います。これらの返還要請は、
帰属決定権を持つ
連合国を対象とすべきであろうと存じますが、現実に
ソ連が占拠しているといっても、
ソ連単独の
交渉で
解決すべきであるかどうかということは、われわれには理解に苦しむところであります。
どうぞよろしく御高配を賜わりますよう強く要請申し上げまして、私の説明といたしたいと存じます。御清聴まことにありがとうございました。(
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