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説明員(磯崎叡君) ただいまの
先生の御
質問、数回にわたりまして、私申し上げましたが、もう一ぺんひとつ詳しく御
説明させていただきます。
国鉄におきます運賃体系と申しますのは、約百年間になりますが、これは沿革的に客貨を合わせまして、また全国にございます二百数十路線を合わせまして、全体の原価を全体の収入でまかなう、こういうやり方でやっておりまして、客貨別の原価あるいは線区別の原価あるいは列車別の原価というふうな、個別の原価に基づいた計算に立脚した運賃の立て方になっておりません。これが第一点でございます。
しからば、一体旅客運賃、貨物運賃の水準は何できめていくということを申し上げますと、これはまず一番大事なことは全国一律であるということ、すなわち東京でも北海道でも九州でも同じ運賃であるということが
一つの原則である。したがって全体の収入で全体の経費をまかなうという
意味で、その局部局部で申しますれば、旅客のサービス、あるいは貨物のサービスの面と運賃とは必ずしも一致しないということは、これは全国一律
運用をやる以上は、やむを得ないことであるというふうに考えておりますし、したがって、こういうようなことは国鉄に限らず、全国一律の運賃、料金等をとっている場合におきましては、いわゆる企業の中における内部補助というふうに申しておりますが、内部補助的なものが出てくるのは当然なことでございます。
いまお示しの客貨別の原価でございますが、これは、それを発表いたしましたときにも、ずいぶん気をつけまして、その前提を非常に詳しく御
説明いたしたんでございますが、結果の数字だけが出てしまいました。実は結果の数字は、私のほうではこれを時系列的に見まして、そして今後の投資問題あるいはその他の客貨の全体の営業
方針等をきめる際の参考資料として、実は十年ほど前からとっておるわけでございますが、まず、これはきわめてわかりやすいかと思いますが、客貨別の原価と申しますのは、これは世界の鉄道どこにもございません。また
日本の私鉄におきましても、御
承知と存じますけれ
ども、いまほとんどの私鉄が貨物輸送はやめましたけれ
ども、私鉄の若干の鉄道会社はまだ貨物をやっておりますが、私鉄の貨物運賃と申しますのは、これは国鉄の貨物運賃と全く同じ運賃制度をとっております。もし客貨別原価というものがどうしても鉄道輸送上必要であるとすれば、最もそういうことに鋭敏な私鉄が、全く自分のほうの原価に
関係のない貨物運賃というものを、国鉄の貨物運賃をそのまま使うということはあり得ない。その点から申しましても、客貨別原価というものは、非常に出しにくいものであるということが、これは世界のどの鉄道をとりましても、それが実態でございます。
まず国鉄から申しますと、やはり国鉄の現在に至るまでの営業
方針というものは、どうしても旅客優先でございます。これは当然とは思いますけれ
ども、鉄道は独占時代からやはり旅客輸送というものが主でございます。明治の初年の鉄道開闢以来、やはり通勤輸送あるいは
都市間の輸送という旅客輸送というものに重点を置いていた。そうして旅客輸送の、非常に極端な言い方を申しますれば、合い間を使って貨物輸送をやっているというような感じでやっております。
たとえば、新しくダイヤを引く場合におきましても、まずまっ先に旅客の特急、急行群の筋を入れます。それから朝夕の通勤通学列車の筋を入れます。そうして余ったところに貨物の筋を入れるというふうなことになりますので、貨物輸送としては、やはり夜は走って、昼間営業活動、商業活動を行ないますので、夕方貨物を集めて夜走るということが、これはほんとうの貨物の本体でございますが、その夜の一番いい時間帯は、やはり寝台列車に回すというようなことになりまして、どうしても貨物輸送というものの、特に列車の
関係から申しまして、非常に貨物がいわば虐待を受けざるを得ないというようなことが、まず営業
方針としてございます。
あるいは、たとえば災害あるいは事故等によりまして、列車が
相当とまるというような場合にも、復旧する場合には、まず旅客列車から復旧いたします。場合によりましては、災害あるいは順法闘争等によりまして、輸送が混乱いたします際には、どうしても旅客輸送を犠牲にするわけにはまいりません。場合によりましては、貨物輸送を五日、一週間痛めても旅客輸送をやるというのがたてまえでございます。その間の貨物のロスというものを原価的に、あるいは収入的に見て、それを旅客にかけることはできませんので、したがって、それは全部貨物の経費の増あるいは収入減となってあらわれてくるわけであります。
そういう
意味の、営業
方針として旅客優先である、これはよしあしの問題ではなくて、
現実にそういうことをやっております。逆にアメリカのように、ほとんど旅客輸送のないところは、あくまで貨物優先でやっております。これは世界の鉄道が、おのおのの鉄道の置かれた事情によって違ってくるわけです。そういう
意味で、
日本の鉄道は、営業
方針として旅客輸送が主である。したがって、その面における客貨の扱い方というものが同列でないということが前提になるわけでございます。
それから、その次に申し上げたいことは、ごらんのとおり、二万キロの鉄道の中で、ほとんど大部分が旅客列車と貨物列車が同じ線路の上を走っております。全然分かれております新幹線は別でございまして、ああいうふうにはっきり、線路も車も全然別であるという場合には、これはわりあいはっきりいたしております。すなわち新幹線でもうかっているということははっきり申し上げられます。しかし旅客列車と貨物列車が同じ線路の上を走っているという場合には、まずどういう線路をつくるか、あるいはどういう保安装置をつけるかということは、全部旅客列車を主体にして考えなければならないわけでありまして、その
意味では、貨物列車を走らす設備から申しますと、
相当ぜいたくな設備になっているということは言えると思います。たとえば速度も貨物列車は八十五キロから九十キロしか出さないのに、百二十キロ出せる線路をつくっております。したがって線路の投資も、あるいは保守費も全部これは百二十キロの列車が走っていいような設備にいたしておりますが、その分をやはり貨物列車が
負担しなければいけないということになります。これをじゃあ八十キロ分は貨物で、
あとプラス四十キロ分は旅客だという計算のしかたは、いかにコンピューターを使いましてもインプットができないようなむずかしい要素はたくさんございます。あるいは信号設備にいたしましても、貨物列車だけでございましたら、いまのような完全自動信号というものは必ずしもなくてもやれるというようなことにもなります。
そういうことで、非常に客貨共同して使う部分が非常に多い。約五〇数%が客貨共同して使うコストでございます。それを単に機械的に、列車のキロ数で割るとか、あるいはパンタグラフのキロで割るとかというような、簡単に計量できるもので分割するわけでございますので、いわば貨物列車のコストというものは、その数字にあらわれております貨物列車のコストの中には、当然旅客列車がもっと
負担しなければならない分が入ってきている、これを排除することができないというふうな計算であります。
その二つの前提を置きまして時系列的に見ると、そういう計算になりますので、私
どもといたしましては、その客貨別の原価計算というものは、運賃に直結するものではないということを、これは初めから申しております。昭和三十何年代に始めたときも、これは部内の管理指標といたしまして、時系列的に見るところに初めて
意味があるというふうに考えております。
こういう前提でございますので、客貨別原価というものは運賃に直結するものではない。客貨別原価即運賃ではないということが、大体おわかりになったと思うのであります。しかしながら、やはりこれを時系列的に見ましても、貨物のほうは悪くなっております。これはいなめない事実だと思います。その理由は、やはり最近の、独占企業でございませんで、競争機関の面から申しますと、一時マイカーの伸びその他で、旅客列車は
相当な打撃を受けましたけれ
ども、新幹線の力でその打撃を徐々に克服し、また航空機の発展に対しましても、大体対処しつつあるわけでございますが、貨物につきましては、道路の整備によるトラックのふえ方あるいは最近のカーフェリーによります沿海輸送への転化あるいはカーフェリーによらないまでも、沿岸航路への転化というふうな、競争機関が非常に伸びてきております。しかも、これには先ほど
先生おっしゃったように
相当国家的な資本も入っております。
その
意味で、鉄道の貨物輸送の競争力が非常に弱くなっておるということと、もう
一つは、これは私
ども内部の問題でございますが、昭和三十年代における投資を反省いたしてみますと、やはりどうしても旅客
中心の投資をしてきたというふうに考えます。これは通勤輸送の上から申しましても、あるいは新幹線の投資から申しましても、これはどうしても三十年代から四十年代にかけては旅客輸送に重点を置かざるを得なかったというふうに思いまして、結果的に見ましても、貨物輸送のほうは
相当旅客輸送のほうの割りを食ったような投資をされております。
したがって、百年間やってきたような古い形の輸送から脱却しきれておりません。まあ、脱却するどころではない、まだ半分、感覚的には
相当大部分がまだ古い形の貨物輸送をやっておる。いわゆる鉄道しかなかった時代の貨物輸送をやっておる。すなわち鉄道の能率をあげることによって、設備を少なくする。設備を少なくするが、その反面鉄道の能率をあげる。その分だけ荷主に迷惑をかけるということになります。したがって競争機関ができれば貨物の出荷者は当然鉄道を捨ててほかの輸送機関にいくという、これはあたりまえのことでございまして、そういう現象が三十年の末から四十年代にかけて起こってきたということが
一つ。
それからもう
一つは、やはり運賃制度そのものもございます。これは私
ども非常に古い従価等級制度、いわば税金のような運賃制度をとっておりますので、一級、二級という等級の高い貨物の運賃はトラックよりも自然に割り高になります。したがいまして、その部分はトラックにいってしまうというふうなことになってしまって、運賃制度そのものにも問題がございます。いま申しました輸送のやり方にもいろいろ問題ございます。そういう
意味で、ハード面から申しましてもソフト面から申しましても、いま私
どもやっております貨物輸送は立ちおくれておる。いまの
日本の全体の経済発展のペースに乗り切れてないということもいなめない事実だと思います。
したがって、いまの御
質問の趣旨にございますとおり、やはりもっと貨物輸送をよくしていかなくちゃいけないということ。これは当然のことだと思います。たとえば新幹線、これは一応第一の
目的は旅客輸送でございますが、これをつくることによりまして、
相当実は貨物輸送がよくなっているということを申し上げました。これは一例を申しますと、たとえば東海道新幹線をつくりまして約四十本近い列車を在来線から消しました。その消した
あとは朝の通勤輸送とそれから深夜の貨物輸送に使ったということで、新幹線ができますればそれと並行いたしております在来線につきましては、
相当貨物と通勤を
中心にダイヤを組みかえることができるというふうな
意味におきまして、今後新幹線網が全部にできてまいりますれば、いま東京−岡山間だけでございますので、それほど大きなあれはございませんが、これが全国的なネット網が組まれますれば、全国的な貨物輸送力については、
相当大きな増強ができるというふうに期待いたしております。その他全体のコンテナ化の問題あるいはターミナルの整備の問題等いろいろございますが、そういった貨物輸送に対する今後の投資をいたしまして、そして貨物輸送をよくする。
一方自動車のほうは労働問題
公害問題等でなかなか問題もあるようでございます。私
どもといたしましては、一応十ヵ年間に、何とか現在の輸送量としては倍近いものを、倍以上のものを輸送するような設備にしなければいけないというふうに思っておるわけでございまして、そういう
意味でもって、今後の十ヵ年
計画の中では、貨物輸送に
相当重点を置いて、そしてトラック
中心の輸送からやはりコストの安い、速い、しかも正確な鉄道輸送に切りかえるという
方向に持っていかなければならないというふうに思っておるわけでございます。