○倉成
委員 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となっております
昭和四十八
年度予算三案につきまして、
政府原案に賛成し、四党
共同提案の組みかえ動議に反対の討論を行ないます。
本年一月二十二日のイタリアリラの二重相場制導入、習二十三日のスイスフランの
変動相場制移行を契機として国際
通貨に危機が訪れ、ついにはドルの一〇%切り下げと、
日本の
変動相場制への移行等という事態を迎えたのでありますが、ドル不安をはじめとする国際
通貨問題の
解決は依然として残されたままであります。
このような中にあって、
わが国経済は、社会保障の充実、社会資本、とりわけ生活関連資本の整備、物価の安定、対外黒字の縮小による国際収支の均衡の達成という未曽有の課題に当面しておりますが、問題
解決への道、必ずしも平たんではありません。
今回の
わが国の
変動相場制への移行は、
ヨーロッパにおけるドル売りを契機に、
通貨不安が増大し、
アメリカがドルを一〇%切り下げたことに起因する、いわば外的条件により生じたのでありますが、その原因の当否はともかくとして、これによって
国民生活に与える影響を最小限に食いとめ、
中小企業対策等に万全の施策を講じなければならないことは当然であります。それとともに、この機会に、これまで生産、輸出を推進してきた
わが国の経済社会構造を福祉中心型構造に転換する等、災いを転じて福となす諸般の施策を一そう着実に推進することが望まれるところであります。
他面、
変動相場制への移行により、やや過熱ぎみであった景気が適度に冷やされ、
貿易面では、輸出がますます抑制され、輸入が増大する結果、
貿易収支の黒字が減り、内外不均衡の改善が促進されるという効果も期待されるところであります。
国民福祉の向上、物価の安定、国際収支の均衡化という、
わが国経済の直面するいわゆるトリレンマを同時
解決するためには、やはり政策手段の多様化をはかる必要があります。財政支出政策が主として
国民福祉の向上に充てられることを要請される現段階において、金融政策、租税政策、
貿易為替政策等総合的施策の一そうの活用が期待されるところであります。これにより、従来の経済構造は徐々に転換され、経済社会基本計画の想定するような均衡のとれた安定成長、高福祉型の経済社会が実現されるものと確信いたします。
この場合、財政政策も大きな転換が必要とされることは言うまでもありません。財政機能も、従来の景気調整型から資源配分型にその機能を変え、公共部門主導のいわゆる財政主導型経済への移行をいたさなければなりません。
わが国の財政は、いままでもきわめて高い増加を示してきましたが、経済全体の成長も早かったため、
国民経済に占める財政のウエートは、欧米諸国に比べ相当低い水準にとどまっております。すなわち、
昭和四十四年度においては、欧米諸国が三〇ないし三五%となっているのに対し、
わが国は一八%であり、財政政策の積極的展開が目ざされている
昭和四十八年度においても二二%程度にしかなりません。もちろん、財政の拡大が直ちに
国民福祉の向上に直結するものではなく、その内容が大切でありますが、いずれにしても、
わが国においてはまだまだ財政のウエートを高め、公私経済部門間の不均衡是正をはかる余地があるといえます。
このように福祉社会の建設を目ざして財政政策の積極的展開をはかろうとする場合、次のようなことに留意する必要があると
考えます。まず、財政主導型経済といっても、すべてに
政府が関与することが
国民福祉の向上に寄与するわけではありません。
政府、
企業、個人がそれぞれ適切な分野で円滑に活動することが、均衡のとれた
国民福祉の向上に資するゆえんであり、財政がどの程度の経済活動まで分担すべきかについては、
国民的コンセンサスに基づき、これを明らかにすることが必要であります。
次に、財政主導型経済政策の運営にあたっては、単に欧米福祉国家の模倣ではなく、
わが国の実情に適合した独自の福祉社会のビジョンを描き、これを
長期的な計画のもとに、着実に実現していくという姿勢が必要であります。このような
意味において、
政府が四十八
年度予算と並行して経済社会基本計画を明らかにしたことは、まことに適切と存じますが、今後ともその具体化に一そう
努力することを要望する次第であります。
また、財政が福祉社会の建設に積極的に取り組むためには、それに応じて負担がある程度高まることはやむを得ないところであります。福祉は天から与えられるものではなく、
国民が協力してつくり出すものであります。現に、欧米福祉国家における租税及び社会保険負担率の水準は、
わが国より格段に高くなっており、今後
わが国においても、財政支出の効率化、租税負担の公平化につとめつつ、負担の上昇に対する
国民の
理解を得る必要があると
考えます。国際収支の黒字が大幅で、かつ輸出を押え、内需の拡大をはからなければならない現段階においてこそ、福祉政策のおくれを取り戻す
意味も含め、相当思い切った福祉充実策がとられるべきであり、そのためには、いままでのように、景気が回復すれば財政が縮小するということではなく、引き続きある程度財政規模を拡大することが必要かと存じます。その
意味では、四十八
年度予算において社会保障関係の支出をふやすとともに、生活基盤に関連する社会資本の整備を積極的に行なうことは、まことに時宜に適したものと
考える次第であります。このため、四十八年度の財政規模はかなりの伸びを示しておりますが、対内均衡等経済全体の動向にも十分配慮していることがうかがえるところであります。
すなわち、国、地方を通ずる
政府財貨サービス購入の伸びは一六・六%と、経済成長率一六・四%と、ほぼバランスがとれたものとなっており、また、公債依存度も一六・四%にとどめられているので、これにより経済全般の安定的成長は確保されるものと
考えられます。
以上、内外の
情勢及び
わが国経済の現状と課題について触れてまいりましたが、このような背景のもとに編成されてまいりました今次
予算の
最大の特色は、
国民福祉の画期的向上であります。
その第一は、社会保障を中心として
国民福祉に関係の深い経費を大幅に増額したことであり、二兆一千百数十億円に及ぶ社会保障費の中において、特に社会福祉費及び社会保険費を対前年比それぞれ六五・三%、三二・〇%と大幅に伸ばし、五万円年金制度の実現、年金に対する物価スライド制の導入、福祉年金の月額五千円への引き上げ及び扶養義務者の所得制限を二百五十万円から六百万円までに大幅緩和、寝たきり老人の医療の無料化を六十五歳まで拡大、被用者医療保険における家族給付率六割への引き上げ、政管健保に対する国庫補助率の一〇%への引き上げ、難病、奇病対策費の充実、心身障害者対策費の大幅増額、生活扶助基準の一四%引き上げ、看護婦の夜間手当の引き上げ等をはかっておりますことは、高く評価されるべきであります。
第二には、社会資本の整備であります。
国土の総合開発を環境保全につとめながら計画的に実施し、各種の社会資本を充実させていくことは当然でありまして、欧米に比し社会資本のストックの少ない
わが国にとりまして、これらの充実が急務とされております。したがって、本
予算におきましては、かかる
立場から資源配分に留意され、公共事業における道路整備の構成比を前年度の三九・六%から三六・六%と少なくし、反面、生活環境施設、住宅のウエートを高くし、特に下水道、環境衛生、公園等の対前年伸び率をそれぞれ大幅にふやし、生活環境施設全体を対前年比六一・四%と伸ばしておりますことは、
政府がいかに
国民の生活環境の整備に意を注いでおるかのあらわれであります。
さらに、今日
国民の
最大の関心事は土地問題であります。限られた国土の有効利用をはかり、
国民が豊かな生活ができるためには、土地問題に対する強力な施策が必要であります。
政府においてとられようとしておる全国的な土地利用計画の策定、土地取引の許可制及び開発の規制と土地保有税の新設等一連の土地税制の強化は、金融措置と相まって、地価抑制に大きな効果を持つものと期待され、特に
政府が土地問題について、私有財産権を公共の福祉のため、憲法上可能の
最大限まで制限し、あえてこの難問
解決に立ち向かわんとする姿勢を評価するとともに、さらに各種の施策を組み合わせ、
国民のために土地が有効に利用されることができるよう今後一そうの
努力を期待するものであります。
なお、財政投融資と
国会審議との関係につきましては、従来からの
国会における経緯等を尊重し、四十八年度から
国会の議決を求められたことは、財政民主主義に忠実たらんとする
政府の姿勢のあらわれと評価さるべきであります。
今日求められているものは、発想の転換であり、戦後体制のつくり出した経済の流れを変える施策であります。今日、
わが国をめぐる経済
情勢はきわめてきびしく、国際社会の中にあって、
わが国経済が福祉志向型経済として安定的成長を続けてまいりますためには、国際協調を指向した経済構造、特に
中小企業を中心とした産業構造の再編成に取り組むことが必要であります。同時に、限られた資源を適正に配分し、
国民的ニーズを満たしていくための
努力として、財政硬直化の要因となっているものを取り除き、思い切った既定経費の見直し等、財政政策の転換も当然必要でありまして、まさに
わが国の経済運営、財政政策が歴史的転換期にあると申せましょう。
田中総理の決断と実行が強く期待されるところであります。
本
予算は、叙上のほか、教員給与の改善、
国鉄再建、健保をはじめ各般にわたり、時代の要請に即した政策が数多く含まれ、まことに時宜を得たものと
考える次第であります。
今回の円
変動相場制移行に伴い、経済見通し、歳入見積もり等を改め、
予算の組みかえを行なうべきであるという主張もありますが、第一に
変動相場制下でのレートの水準、
変動相場制の
期間等流動的な要因が多いので、現段階で年度を通じた経済全般に及ぼす影響を的確に把握することは困難であり、したがって、税収を中心とした歳入の見積もりについても、いまこれを変更することは妥当でないと
考えられます。
また、最近の経済の実勢を見ると、経済の上昇基調がかなり明確になってきているなど、
変動相場制移行による影響はかなりの部分吸収されるものと見られる
状況にもあるので、歳入
予算に計上されている税収は確保し得るものとも見られます。
さらに、歳出
予算については、
外貨建ての支払いにかかるものであっても、
変動相場制のもとでは歳出
予算額を減額すべきでないものも多く、輸入価格の低下等により一部不用を生ずることが予想されても、どの程度の低下となるかを予測することが困難なものもあるので、いまこれを減額することは適当でないと
考えます。
このような事情を
考慮すると、むしろ
変動相場制移行に伴う国内経済への影響等を極力回避するためにも、この
予算をできるだけ早く
成立させることが必要と
考えます。もちろん、この場合、
変動相場制移行に伴い、大きな影響をこうむる輸出関連の
中小企業等に緊急の対策を必要とする場合には、財政投融資の弾力的運用や予備費の使用、場合によっては、補正
予算等によって対処することが必要でありましょう。
なお、本
予算の執行にあたっては、内外の
情勢の変化に対応し、機動的、弾力的な運営を
政府当局に期待するものであります。
野党四党の編成がえを求めるの動議は、国債の発行の取りやめのほか、多くの重要な提案を含んでいるにもかかわらず、財政規模を幾らにするのか、また歳入、歳出の各項目についての具体的数字も明らかでありません。いやしくも
国民生活に重大な影響のある
予算の編成がえを求めるならば、かかる抽象的な表現ではなく、説得力のある数字をもとにした提案をされることを期待いたすものであります。
なお、
予算委員会の
審議のあり方について一言すれば、今日ほど社会経済の変化の激しい時代はありません。
予算委員会の
審議は分科会を含めて三百十五時間に及んでおります。時代の変化におくれないためにも、その
質疑時間の長短というよりもより能率的な、より密度の高い
審議の方法を与野党の協力のもとに見出していくことが、
国会が
国民の期待にこたえるゆえんのものであることを痛感するものであります。
以上申し述べました理由により、私は、
政府原案の
予算三案に賛成し、四党
共同提案の組みかえ動議に反対して、討論を終わります。何とぞ
委員各位の御賛同を賜わらんことを要望いたします。(拍手)