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塚本三郎君 去る二十四日の
春闘出発の夜は、首都圏で荒れに荒れて、予想され、おそれられていた乗客の怒りの爆発、それがとうとう火を吹いて山手線、京浜東北線沿いの主要駅に相次ぎ起こる群衆の怒声、罵声、たたき破られる電車の窓、こづかれ逃げまどう駅員。興奮しきった群衆は、駅の売店や地下のショーウインドーを次々に襲って品物を奪うなど、半ば暴徒と化し、あちらこちらで火を放ちながら、電車をよこせと叫んでおります。
やむことのない順法闘争に乗客の忍耐はついに限界を突き破ったのか、
史上空前の
ゼネストを控えた
春闘は、幕明け初日の夜から激動の暗黒を予告いたしております。
二十四日午後十時半ごろ、新宿駅西口の料金精算所を襲った群衆は、駅員を追っ払い、ガラス窓をたたき割り、ロッカーや机をひっくり返し、定期券や切符を、血に飢えたけもののようにさがし回る。地下街のショーウインドーのガラスや電車の発車時刻を書いたプラスチックの板も、あとかたもとどめぬほどで、よし、これをこわせと、十人余りが地方物産即売店を襲い、とびらをたたき破ると、ウニやスルメ等を次々に道路に投げ出す。そのかたわらで、サラリーマン風の二、三人が、コーラの自動販売機を横倒しにし、コーラを引き出そうとする。どの顔も善良そうな市民である。群集心理とはこんなにもおそろしいものだろうか。二百人余りの機動隊は、約五千人の暴徒化した乗客に圧倒され、西口派出所を守るのが精一ぱいであった。
これは、昨日朝刊の記事の一部であります。差し迫った
交通ゼネストの二十七日を前にして、動かない国電、動かなくなる国鉄に対する民衆の怒りが暴徒と化したことは、疑う余地がありません。(
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わが
民社党は、このことあるを危惧し、再三にわたって、
政府にこれが善処方を具体的に申し入れてまいったことは、総理並びに運輸大臣も御承知のはずであります。にもかかわらず、その危険を
回避することができず、今回の暴動を招き、さらに明日の違法
ゼネストを迎える最悪の事態に直面したことは、まことに遺憾といわなければなりません。(
拍手)
私は、この機会に、
民社党を代表して、これら最悪の混乱を避けるために、
政府の所信をたださなければなりません。(
拍手)
質問の第一点は、すでにひんぱんに行なわれているいわゆる順法闘争なる行為についてであります。
政府は、これを違法ストだとしばしば言明し、そのつど、国労並びに動労に対して中止勧告をしてまいりましたが、一向に中止されたことがありません。違法ならば、なぜ違法者に対して法的制裁が加えられないのでありましょうか。(
拍手)まさか、
一定の政治目的を持つ労働組合の政治行動に対して、
政府が中止勧告という精神訓話をなさっておられるとは思われません。
およそ法治国家においては、相手方を違法と断定する以上は、確たる法の裏づけと、それを守らせる強制力の発動がなければなりません。(
拍手)
さらにまた、それ以上に、現行
法律によって守られている国民大衆が違法によって受ける損害を防止するために、被害者の立場に立って事態を解決する姿勢がなければならぬことは、当然過ぎる事柄であります。(
拍手)
しかるに、
政府の国鉄に対する態度は、およそ法治国家としてはまことに恥ずかしい限りであり、優柔不断であり、あいまいであり、その上、これを解決する見通しさえ持ち合わせない。国民のいら立ちと不信感がいつ、どこででも爆発する飽和状態になっていることを知らなければなりません。(
拍手)
一体、
政府は、この順法闘争なるサボタージュを事前に中止させる手だてがあるのかどうか、
政府の確たる所信のほどをお伺いいたします。
質問の第二は、去る二十四日夜のすさまじい破壊力は、一体何に向けられているとお思いでありましょうか。
当面は、何でもこわせばよい、憎いのは国鉄であり、国労であり、動労であったといたしましても、この種の怒りは、この日だけのものと受け取ってはならないと信じます。連日、満員電車にすし詰めにされ、その上に、わけのわからない順法闘争というサボタージュにゆさぶられ、それに恨みつらみが重なっていると見なければなりません。日常生活の中で、みんないらいらしどおしであり、過密都市、過密電車、住宅難による通勤地獄、それに加うるに
物価高、何とかならぬかという思いにかられた群衆は、爆発寸前の状態に置かれております。民衆のえたいの知れないエネルギーが、怨念という怒りをたくわえて交通一揆となりつつあります。
事件は、すべてこれで終わったわけではありません。二十四日の事件は、上尾駅事件にさらにスケールを
拡大され、さらに、国民の不満のエネルギーをさらにさらに蓄積されたものと見なければなりません。
今回の事件はともかくとしても、一体このように、不満の上に政治目的が加わったことを想定するとき、それが右翼であろうと左翼であろうと、革命への導火線とならぬとだれが保証できるでありましょうか。(
拍手)
いまや民主政治の危機的様相であると心配することは、はたして杞憂と言い切れるでありましょうか。これら一連の暴動的世相に対処する
政府の
施策がどのようなものであるか、所信のほどを伺わねばなりません。
質問の第三は、国民の財産である国鉄を私物化して、これを闘争の具に供し、年間の三分の一は順法闘争と称するサボタージュや違法ストに終始している国労、特に動労の不法行為への
政府当局の対処のしかたについてであります。
一昨年来の生産性教育の挫折から、それら労組の暴走を放任し、一部暴力集団の狂気のような威圧に屈して、職場における法と秩序を根底から崩壊せしめた国鉄当局の責任は、きわめて重大であります。(
拍手)なかんず好戦的集団に迎合して、職場の管理能力までも失わしめ、ひより見的態度で国鉄の将来の方向を誤らしめた国鉄当局の無責任体制が、いわゆる順法闘争を助長させてきたものと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
よって、この際、国鉄
経営陣の人心一新の時期と考え、国鉄最高首脳の責任を明らかにすべきだと思いますが、総理の所信をお伺いいたします。(
拍手)
質問の第四は、
政府は去る二月十日の
スト権回復スト、四月十七日の年金スト等の政治ストを容認するがごとく、何の対応策も持たず、政治ストを解決するため労働大臣などが労組と会見して、国政や法秩序を飛び越えて、当面を糊塗するがごとき優柔不断な解決策を改め、正は正、邪は邪と明確に区分をなし、信賞必罰の精神をもって、法秩序の確立に全力を尽くすべきが当然でありましょう。(
拍手)
国鉄労働者の中には、民主的労働運動の発展を通じ、国民のための国鉄再建を念願しているまじめな労働者や管理職がたくさんいることを忘れてはなりません。(
拍手)それらまじめな労働者は、左翼労働運動のたび重なる暴行、脅迫、いやがらせに耐え忍び、悪法といえども法は法としてこれを順守し、鋭意国鉄再建のために努力を続けてきております。その
諸君までが、一昨日のごとき激高する国民からは、同じ国鉄労働者として批判され、ののしられるという事態に立ち至っております。
政府は、これらまじめな労働組合運動と、違法を承知しつつあえて国法に挑戦する不当な労働運動との取り扱いについて、どう区別し、対処していかれるおつもりか、明確なる答弁を求めるものであります。(
拍手)
質問の第五は、およそ官公労働関係における正しい秩序の確立は、国民全体の利益
擁護と、官公労働運動の正常な発展の双方にとって欠くことのできない重要課題であります。
そこで、この際、公務員法並びに公労法を抜本的に改正し、官公労働関係の正しい秩序を
制度的に確立することが絶対に必要だと考えるものであります。
されば、現行の公務員法並びに公労法は、公共の福祉を強調するあまり、必要以上にこれら労働者の労働的基本権を規制する結果となり、ために官公労働者は法そのものに対して不信感を抱き、順法の精神を欠く結果となっております。同時に、この法に対する不信の態度が
政府当局に対する不信感となってあらわれ、労使の円滑なる話し合い及び解決の基盤がそこなわれているものと見なければなりません。したがいまして、労働基本権の規制については、これを最小限にとどめ、官公労働者が持つ不信感を一掃することがすべての前提でなければなりません。
わが国における公務員法、公労法上における労働基本権の制約の度合いは、西欧諸国の水準に比べ、またILOの国際的水準に比べても、下回っていることは否定できません。近代国家たる
わが国の労働基本権が、国際水準を確保することは当然といわなければなりません。
労働基本権の
拡大は、すなわち公共の福祉を阻害することになるとする
政府の判断は、誤っておるといわなければなりません。それは、労働運動の現状と相対的関係において判断すべきものであります。労働基本権の行使は、国民世論の支持なくしては有効に行使し得ないものであり、公共の福祉はこの面で十分にカバーされるものと考えられるものであります。
最後に、今回行なわれんとしている
ゼネストは、交通関係のほか、日教組、全林野、全逓なども参加し、ベースアップのみならず、政治的要求から公務員の
スト権回復をも目的としている模様であります。
わが
民社党は、公務員の
スト権回復及び労働基本権の
拡大については、以上の見解を述べて
賛成の意を表し、それが決して公共の福祉に反しないという論拠と限界をも明らかにしてまいりました。しかし、だからといって、現行
法律に違反し、挑戦する違法ストには、断じてくみするわけにはまいりません。(
拍手)悪法もまた法なりとの精神は、現行
法律によって生きており、かつ、働いておる数知れない大衆の利益を守ることが公党としての責任であるからであります。(
拍手)また、これを破壊することによって犠牲を受ける人々を見捨てるわけにはまいらないからであります。
あえて申し上げます。労働者の権利を狭めている公務員法並びに公労法は、良識あるわれら国
会議員の手で法改正を行なうべきものであり、かつ、憲法違反のそしりは、最高裁を通じ違憲立法
審査権で争うべきものとわが党は主張いたします。(
拍手)それが議会制民主主義を貫く真の革新の道であり、労働者に味方をする親切でもあると信ずるからであります。(
拍手)
政府は、この際、公務員
制度審議会の
審議を促進し、公務員、公共
企業体職員の要求に沿うよう積極的に働きかけることを要求いたします。
今年二月以来、たび重なる争議によって、すでに百数十名の重軽傷者を出し、さらに今回予定される大規模なる
ゼネストによって、国民一般に空前の被害を与えるものと心配されております。それは単に通勤、通学の足を奪われる被害にとどまらず、
物資不足による
物価上昇に拍車がかかり、日常の食生活に欠くことのできない農産物の輸送に対する混乱の結果とその被害は、ことごとく弱い庶民大衆にはね返ることを憂えないわけにはまいりません。(
拍手)
いまや無
政府状態とさえいわれる国鉄労使間の乱れと輸送の危機は、
物価高とやるせない国民の不満やうっぷんを上乗せして暴走しつつある現状を
政府は冷静に受けとめ、いまこそ決断と実行の実をあげられることを要求し、
政府の所信をただして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣田中角榮君
登壇〕