○岩垂寿喜男君
日本社会党を代表いたしまして、いわゆる
昭和四十六年度の
地方財政白書と、それに関連する若干の問題について、総理並びに関係閣僚に質問をいたします。
昭和四十六年は、不況とドル・ショックによって、さなきだに慢性的赤字に悩んできた
地方財政が、深刻な危機にさらされた年であります。
そこで、私は、この白書の中から指摘し得る二、三の特徴と問題点について、最初に触れておきたいと考えます。
まず、決算収支を見ますと、
都道府県の実質収支が、全体として初めて赤字となり、単年度収支に至っては、四十五年の二十五億の赤字から、一挙に五百七十八億の赤字にふくれ上がっており、市町村、特に大
都市の実質収支の赤字が増加しています。
これは国の
経済事情の悪化、国の政治における失敗が、直ちに
地方財政にしわ寄せされるという今日の
地方財政の構造的な問題を如実に示しているということができます。(
拍手)
また、一般財源の
状況は、四十五年度に歳入総額中の五六・一%を占めていたものが、四十六年には五三・一%に落ち込み、逆に国庫支出金と地方債が増加し、特に地方債は、六・四%から九・二%と急増しているのであります。これは地方税、地方交付税の落ち込みを主として地方債でまかなうという、むしろ
地方財政の不安定性を一そう拡大する
措置によって当面を糊塗してきたといわなければならないと思います。
さらに、一般財源の比率が五三・一%といいましても、国庫支出金の裏負担を考えれば、地方団体が実際に自由に使える金は三〇%以下となり、地方団体が独自に事業を行なうことが制約されてきました。
国庫支出金の
状況も、児童保護費、老人保護費など、社会
福祉関係の伸びが下回っているのに、普通建設事業費関係のみが、前年度の一八・一%の伸びから一挙に三〇・三%の伸びとなり、これに対応して、歳出の普通建設事業費中の補助費の伸びは、一九・六%から三一・六%と急増し、逆に単独事業費は激減しているのであります。
このことは、一方に歳入の落ち込みによる窮乏があるのに、他方で国庫支出金をふやして
公共事業支出を増加させるというかっこうで、地方団体の自主性とその
福祉政策がそこなわれてきたことを意味します。補助事業費についても、
道路橋梁費や港湾費が二倍近くふえているのに、住宅費の伸びは三五・三%から一六・四%に激減しています。
これらのことは、あくまで
産業基盤投資が優先し、
生活基盤関係の投資が犠牲にされ、
地方財政がいよいよ追い詰められていることを物語るのであります。
加えて指摘しなければならない問題点は、この白書に示された決算額と、この年の財政
計画とのあまりにも大きな開きであります。
国会に
報告された四十六年度の
計画は、歳入、歳出それぞれ九兆七千百余億でありますが、実績は、普通会計純計決算額は、歳入で、いま自治大臣から御
報告がありましたように、十二兆千七百億、歳出は十一兆九千億余となっており、何と三兆をこえる差が生じているのであります。
このような
計画と決算との乖離は毎年度のことであり、その差はむしろ拡大する傾向にあります。これは、自治省が言うような技術上の問題ではなく、
計画策定上の
基本姿勢に原因があると言うべきであります。(
拍手)
そこでは、自治体の自主性を基礎に、その積み重ねとしての
計画とするのか、単に国の予算の投影としてそれをとらえ、自治体統制的にそれを策定するかの
基本的な問題がそこにはあると思われます。言うまでもなく、
政府の策定態度は後者であり、
地方財政計画はすでに形式になっているばかりか、国の予算の投影そのものでしかないと批判せざるを得ないのであります。
以上申し上げた特徴と問題点は、単に四十六年度のそれにとどまらず、
基本的には
地方財政の構造として今日に引き継がれていることを強調せざるを得ません。
円の切り上げをきっかけとして、
経済成長優先の政策から、
国民福祉重点への転換が唱えられてきましたが、そのためには、まず住民の
生活、とりわけ、
福祉に密着した地方自治体の
役割りを重視することが不可欠であり、
地方財政が抜本的に強化されなくてはなりません。しかるに、今日なおその具体的
措置が十分でないことは、きわめて遺憾であります。
そこで、総理に伺いますが、
福祉優先の施策を推進するため、景気の動向に安易に左右されないような
地方財政計画を確立するために、どんな対策をお持ちか。憲法と地方自治法の原点に立っての対策をお答えいただきたいと思うのであります。
東畑税制調査会会長は、
現行の国から地方への交付金ではなくて、地方財源を充実して、地方から国への逆交付を考えるくらいの対策が必要であると指摘しておられるようですが、総理は、この指摘をどうお考えか、承っておきたいと思うのであります。(
拍手)
言うまでもなく、
地方財政を充実するためには、行政事務の再配分を前提として、国の税源を大幅に地方に移譲し、地方交付税の大幅
引き上げとそのあり方に再検討を加えるべきであり、また、国税の法人税率の
引き上げだけではなくて、地方税についても、住民税、事業税の法人関係分の税率の累進度を高める
措置が必要であると考えますが、この機会にあらためて御見解を承りたいと考えます。(
拍手)
同時に、地方団体の自主性を尊重するために、地方税のあり方について、地方自治体の発言を生かす手だてを講じ、国庫支出金の一括交付方式化をはかり、地方交付税は需要の把握を中心とする積み上げ方式に改革する方針はないかと伺っておきたいと思います。
地方債についても、さきに指摘しましたように、それを歳入不足を補うために用いるのは問題であります。逆に、地方団体の自由な財源として、その発行を地方団体の判断にゆだねるべきだと考えますが、自治大臣の御所見を承りたいと思います。
法人に対する租税
特別措置が、
地方財政収入に大きな影響を及ぼしていることは多言を要しません。税負担の公平を期すために、また、
福祉政策への転換を現実に裏づけるためにも、もはやその撤廃を打ち出すべき時期だと考えますが、大蔵大臣のプログラムをお聞かせ願いたいと思います。
次に、大
都市財源の確保について自治大臣に伺います。
この問題については、国会でもたびたび決議され、
政府自身もその必要性を痛感されてきたと理解しておりますが、との点については、昨年九月、九大
都市が行なった大
都市財政の実態に即応する財源の拡充についての要望、また本年一月、東京都新財源構想研究会の
報告書などを尊重し、すみやかにその解決をはかるべきだと主張しますが、
政府の具体的な対策をお示し願いたいと考えます。
次に、当面の
地方財政にとって、その対策を急がなくちゃならない問題についてお尋ねをいたしたいと思います。
円のフロートによって、
政府の
経済見通しが根底からくずれたわけでありますから、
地方財政についても、本来、根本的な再検討がなされてしかるべきであります。しかし、
政府は、
調整インフレ予算によって国庫補助事業におおばんぶるまいを行ない、地方自治体はすでにその消化にきゅうきゅうとしております。しかも、昨今の
開発ブームは列島改造論によってさらに拍車をかけられ、地方
都市のすみずみに至るまで大企業の
土地買い占めが行なわれ、地価の騰貴が続いています。その上にセメント、木材など、建築資材の買い占め、売り惜しみによるものすごい値上がりがあります。
かねてわが党が主張してまいりましたように、
公共事業の執行がもはや不可能となりつつあり、現に多くの自治体において、大手建設業者の入札手控えが、学校建築、住宅建設において顕著であります。
こうした事態を放置しておくとすれば、住民
福祉の
向上はますます遠のき、地方自治が根底から脅かされることは必至であります。こうした事態を招く大きな原因となった「日本列島改造論」を謙虚に反省し、自治体の用地費、建築資材の値上がりに対し、何らかの緊急
措置をとる必要があると考えますが、総理並びに自治、建設両大臣の答弁を承りたいと思います。(
拍手)
第二は、
国民健康保険会計についてお尋ねをいたします。
地方自治体は、
政府の医療政策の
欠陥と立ちおくれを自主的に埋める努力を、乏しい財源の中で行なってきました。老人医療の無料化などは、住民の切実な要求を、国にかわって自治体が実施してきたというべきであります。しかし、この努力は、
政府の
基本的な財政対策の欠除によって、国保会計を危機的
状況に追い込む結果を生んでいるのであります。市町村が一般会計から繰り入れるやりくりは、もはや限界に達しているといわなければなりません。こうした国保会計の現実にかんがみ、四〇%の補助率と五%の
調整交付金を大幅に
引き上げるべきだと考えますが、厚生大臣の御答弁をわずらわしたいと存じます。
最後にお聞きかせ願いたいことは、先ごろ、自民党都連が発表した、都議会選挙の政策、別称「東京ふるさと
計画」についてであります。
この
計画は、総理、いや、田中自民党総裁も了承済みであると発表されているわけですが、それは事実かどうかを、まず伺っておきたいと思います。
この
内容を拝見しますと、美濃部都政を、硬直したイデオロギー都政と攻撃していますが、総理も真実そうお考えかどうか、この際、ぜひ御見解を承りたいと考えます。
実は、そこで個々の政策を読ませていただくと、それはあまりにも美濃部都政のそれと共通点が多いことに驚くわけであります。
また、その中には、住宅敷地百坪、住宅三十坪までの固定資産税の免除という公約があります。これは、現在地方行政
委員会で
審議中の地方税法の
改正案に対するわが党の
改正案に同調をしていただければ、すぐこの公約を生かすことができると思いますが、その点はいかがでございましょうか。(
拍手)
さらに、別の項目の中には、地方債の積極的活用についても、地方自治法を
改正し、国による認可限度ワクの撤廃、利子補給の強化を行なうと書かれていますが、これは先ほど私が質問した立場が、自民党の政策としてすでに公約されていることに注意を喚起しておきたいと思います。
さらに、交通通勤対策の中には、自動車の新規登録を二年間凍結するとあります。これらは、
都市の交通緩和、公害の防止のためにも重要な政策であり、
国民にとっては歓迎すべき政策であります。
田中総理は、このような公約を、単に都議会選挙用のアドバルーンとしてではなく、直ちに
実現するために、決断と実行ぶりを発揮されるよう要求をいたします。
言うまでもありませんが、日本の民主政治は、地方自治の
発展なくしては存在し得ません。田中総理の友人であるニクソン大統領は、年次教書で、「戦争やインフレによって荒廃し悩める
アメリカを救う道は、地方自治の確立と市民権の復権しかあり得ない」と指摘しています。ベトナム侵略を行なってきたニクソン大統領が、この教書のとおりの政治を行なっているかどうかは、もはや検証を要しないとは思いますが、しかし、その指摘は正当であります。
田中総理は、平和憲法に基づく地方自治の確立、とりわけ、住民参加と自治を保障する
地方財政の確立について、抜本的な方針を示されるよう要求をいたしまして、質問を終わります。(
拍手)
〔内閣総理大臣田中角榮君
登壇〕