○瀬野栄次郎君 私は、公明党を代表して、ただいま
報告のありました
昭和四十七年度農業の動向に関する
年次報告並びに
昭和四十八年度において講じようとする
農業施策、いわゆる農業白書について、田中
総理並びに関係各大臣に対し
質問を行なうものであります。(
拍手)
このたび提出されました第十二回目の農業白書は、
政府みずからが農基法農政の失敗をほぼ全面的に認めざるを得ないことを如実に物語っております。さらに、今回の白書は、全体的に農業の現状と問題点を提起したにすぎず、その問題
解決への具体的な方途は何ら述べられていないという、まさに反省白書そのものから一歩も出ないものであるといわざるを得ません。
よって、私は、
わが国農業が当面している幾つかの
基本的問題を明らかにしつつ、
政府の見解をただすものであります。
第一に指摘したい問題は、
農業基本法の目的と、これに対する
政府の農業
政策の行き詰まりについてであります。
昭和三十六年に制定を見た農基法は、言うまでもなく農業と他産業との生産性の格差を是正し、
生活水準の
均衡をはかり、そして、自立
経営農家の
育成をはかることを
目標として、農民に未来の明るい夢を持たせるのがその目的であったわけであります。
しかしながら、白書が如実に物語っているとおり、目的とした自立
経営農家戸数のシェアも、
昭和四十二年度の一二・九%をピークに、その後は年々減少し、四・四%にまで低下しております。さらにこれと並行して、農業粗生産額も三五%から二一%へと落ち込むとともに、兼業農家の進展が依然として著しく、ことに農業を従とする二種兼業農家は、総農家戸数の五八%を占めるに至り、稲作生産額並びに耕地面積のそれぞれ約四割のシェアになっております。
このような現状を見るとき、農基法の示した
方向がまさに空文化に終わっているといわざるを得ないのであります。また、高度成長
政策の道を歩み始めて以来、
日本の
政府には完全に農業
政策がなかったことを実証しておるのであります。いな、あるとするならば、それは高度成長
政策への奉仕であったのであり、そのための農業
政策であったと断ぜざるを得ないのであります。ここに農基法農政の挫折がまことに浮き彫りにされていることを、指摘せざるを得ないのであります。
また、これらの現実をさらにこのまま看過していくならば、
日本の農業者にはヘビのなま殺し同様の仕打ちとなるでありましょう。
このような現状に対し、
総理はいかに反省されているのか。また、この際、真に
わが国農業を
確立し、農村の福祉向上を盛り込んだ
方向で農基法自体を再検討すべきであると考えるが、
総理並びに農林大臣の所信を承りたいのであります。
第二に、国際的な食糧危機の到来に対応し得る
日本の総合的な食糧供給
政策の
方向についてお伺いします。
今年の白書はこうした農産物需給事情の不安定性を強調するとともに、国内農業による安定的供給の維持を主張し、安易な国際分業論を批判しております。
このたびの世界的な農産物価格の高騰は、異常気象による一時的現象によるものか、構造的要因によるものかという議論がかわされておりますが、いまだに世界の食糧供給体制が、このような異常気象によってもたらされる凶作を克服でき得なかったことは事実であり、今後の見通しにしても、FAOやローマクラブ等も指摘しておりますように、人口急増、地球自体の寒冷化、
環境汚染、破壊等の要因によって、はなはだ暗いことを無視することはできません。
おそまきながらも、いまこそ
政府は、こうした最悪の事態を想定し、いついかなる事態が発生しても、
国民の生存にとって最も
基本的かつ不可欠な食糧供給が安定的に
確保できる方策を講ずべきであると主張するものであります。(
拍手)
昨年秋農林省が発表した
昭和五十七年度を
目標にした「農産物需給の展望と生産
目標の試案」は、単なる理想論であり、国会答弁用の安易なものにすぎないといわざるを得ません。
そこで、
政府は、単にFAOやローマクラブ等の予測にたよるのみでなく、
政府自身による独自の国際的な農産物の長期、短期にわたる需給の予測を各品目ごとに作成すべきではないか、また、それに沿って国
内需給見通しを立てるべきではないかと考えるが、これについて
総理並びに農林大臣の答弁を求めるものであります。
次に、農畜産物の自由化についてでありますが、この問題が、国際通貨不安とうらはらの日米通商調整とからんで再び表面化しつつあります。
これは、一九七二年のアメリカの貿易収支の赤字六十四億
ドルのうち、
日本との貿易による赤字が四十一億
ドルにのぼっている事実から、
わが国を第一に意識しての通商攻勢といえる
国際経済に関する大統領
報告を、先ほど
ニクソン大統領が議会に送っておりますが、これに対し、
政府は、
通商面でも応分の
負担を約束することで輸入制限
措置の緩和をはかろうと考えており、農産物の自由化促進を、そのための肩がわりとしてやむを得ないとの考えがあるようであります。現在の二十四残存品目の輸入自由化は、
日本農業を壊滅に追い込むものであり、今後、安易な農畜産物輸入自由化と輸入
ワクの
拡大は断じて行なうべきでなく、特にオレンジ、果汁の輸入自由化並びに
ワク拡大については、果樹農家を根底から崩壊させるもので、このことについては私も
委員会において再三にわたり農林大臣に答弁を求めましたが、農林大臣はそのつど、農相としては自由化はしないと
言明しておられますが、農家の不安を取り除くために、田中
総理自身の見解を承りたいのであります。(
拍手)
次に、米の備蓄
制度並びに生産調整、買い入れ制限等の問題でありますが、昨年来の世界的な穀物不足は、アメリカの過剰農産物で何とか救われましたが、穀物、大豆などの大幅な値上がりという後遺症を残したのであります。
いま、各国とも食糧増産に力を入れておりますが、地球的規模の異常気象が取りざたされているだけに、まだ安心はできないのであります。
加えるに、このたびの食糧不足の背景には、人口増とともに、食糧消費の高度化という構造的要素が加わっている様相を強くしており、今後も天候次第では、いつ世界的食糧不足に見舞われるかもしれないのであります。
こうしたときに、二百五万トンの生産調整を行なわんとする
政府のとる
態度は、まさに見通しのないものといわざるを得ないものであります。
先日来日した、FAO事務局長バーマ博士からも、
日本政府に対し生産調整の中止の要請があったと報じられ、さらに国内においても、各県で生産調整が形骸化されていることが見のがせない事実となっております。このような現状に対し、農林大臣は、先ほど、画一的なものにならぬよう、きめのこまかい
指導をすると言われましたが、いかなる
指導をされるのか、また、今後とも生産調整を続行される考えであるのか、見解を承りたいのであります。
さらに、先ほども述べました、今後起こり得るであろう世界的穀物不足に対し、自給率一〇〇%を保っている唯一の農産物である米に対しては、買い入れ制限
制度を撤廃し、備蓄
制度をより一そう充実してまいるべきだと主張するものでありますが、これについて、農林大臣の見解を明らかにしていただきたいと思うのであります。
次に、今年二月、大豆に端を発した価格暴騰の背後に、大手
商社等の大量買い占め等、投機が大きく左右したことは、今回強制捜査を受けた丸紅等の例を見ても明らかであります。その後、生糸、モチ米、アズキ、さらに米にまで波及し、実にゆゆしき社会問題、政治問題となり、
国民のひとしく批判するところとなっています。
このことは、農産物の国内自給を放棄し、もっぱら外国農産物に依存する
政府の農政そのものが、このような農産物の投機現象をもたらしたと言っても過言ではありません。
国内農業の自給度を安定させ、農業生産性を高め、外国農業に太刀打ちできるような農業の発展をはかることが、農産物の投機を防止するために急務であると考えますが、この点、
総理はどのように考えておられるのか、所信を承りたいのであります。
さらに、今国会に大手
商社の買占め及び売惜しみを規制する
法案が提出されておりますが、農業者、消費者を守る立場から、食管法を再評価し、米に対する物統令の適用の復活をはかるべきであり、さらに、自給率の向上が要請される飼料、小麦、大豆などに対する価格補償
制度を
拡充し、生産条件の
改善をはかるべきだと考えますが、
総理並びに農林大臣の見解を伺いたいのであります。
次に、農業白書は、今後の
わが国の食糧供給体制に大きな支配権が
確立されると懸念されるインテグレーションについて、ごく簡潔にしか触れていないが、これに対しては、専門家の中でも論議がかわされているところであり、近い将来には、こうした大
商社を
中心にしたインテグレーションで生産された商品が
市場の大半を占めるようになるであろうともいわれています。利潤追求を優先する生産、流通、販売の系列化が、すでに今日までも大きな問題を提起しつつありますが、何よりも懸念されることは、今日の
商社の買い占め等のごとく、
市場での占有率を高めた段階における価格操作であります。
政府は、このインテグレーションをどのように評価し、以後いかなる
方向に誘導していかれるのか。将来誤りを起こさないためにも、農林大臣に明確なる答弁を求めるものであります。
第三に、農業生産基盤整備の観点からの農地、農業用水の優先的
確保と地力の維持保全についてお尋ねしたい。
政府は、
日本列島改造計画に基づき、工業の地方分散を促進していますが、その結果、農地、農業用水という制限された資源の利用をめぐり、農業と工業が競合関係を深めることは言うまでもありません。加えて、最近の大
企業による仮登記
制度などを悪用した優良農地や山林原野の投機的な買い占めはすさまじく、農地の分断と減少、農地価格の高騰をもたらし、農業
経営規模
拡大のブレーキともなっています。
さらに、このたび、列島改造関係
法案の主柱と目される国土総合開発
法案が、国会に提案されておりますが、これによると、土地利用計画の権限についても、
総理に大きな権限が与えられるようもくろまれております。改造論に見られるように、都市、大
企業優先の思想を持つ田中
総理が、こうした強権を手中におさめられることを憂慮しているのは、
国民の中に数多くあることを知るべきであります。
さらに、将来の食糧危機を想定するとき、
日本の人口の過密性にもかかわらず、農地がきわめて狭小であることを考慮し、農地周辺の山林原野を含めて農用地域の設定をはかるなど、現在の乱開発からの転用規制をよりきびしくし、農業用水も含めて、農地の優先的な
確保にもつとめるべきだと思うのでありますが、
総理並びに農林大臣の答弁を求めるものであります。
また、地力の維持保全についてでありますが、戦後の農業は、化学肥料と農薬の過度の投入をはかる一方、機械収穫の普及や、出かせぎ等に見られるような近年の労働力の流出が、堆厩肥料の投入量を急激に減少せしめたこと等によって、
日本では過去千年にわたって、ほぼ変わりなく維持し続けられてきた土地本来の有機的生命力を少なからず低下せしめ、フェーン現象、低温、病虫害に対する抵抗力も著しく弱める結果となっているほか、無機質化したところの土壌は、一部に食品公害の問題すら惹起させつつあることは、ゆゆしき問題であります。農業白書によれば、この重大なる問題に対する
解決策については、ごく簡潔で抽象的にしか述べられていないが、はたして、この深刻な問題をいかにして
解決されるのか、農林大臣の具体的かつ根本的な
対策をお伺いしたいのであります。
最後に、出かせぎ農業者に対する救済策についてお伺いしたい。
これまでもるる述べてきたとおり、永年にわたる
自民党政府による
高度経済成長政策が農業にもたらした矛盾には、さまざまなものが列挙できますが、中でも典型的なものは、出かせぎ農業者問題であります。すなわち、農畜産物への十分なる価格保障も
確立されず、米の減反
政策や買い入れ制限が強行され、安易な農畜産物の貿易自由化が
実施される中で、
政府の打ち出す構造
改善政策に未来を託し、忠実に実行したにもかかわらず、
経営規模
拡大、機械化、土地改良、基盤整備等によって多額の負債を背負い、やむなく妻子と別れて出かせぎにまで出なければならなくなったたくさんの労働者がいるのであります。
現在、出かせぎ農業者は全国で百二十万人いるとさえいわれていますが、出かせぎ自体、本来あるべき姿ではありません。ましてや、非人間的な悲惨な就労体制は、断じて早急に解消さるべきでありましょう。
政府は、みずからの
責任において、現在やむなく就労している出かせぎ農業者に対する
労働賃金の遅払いまたは不払い、有給休暇並びに労働災害補償等について、緊急
特別措置の
制度化をはかり、あたたかい救済の手を差し伸べるために、抜本的な
救済措置を講ずべきであるが、農林、労働大臣の心ある答弁を求めるものであります。(
拍手)
以上、当面の重要かつ緊急な農政問題についてお尋ねいたしましたが、
日本の基幹産業である農業の
実態が、一日も早く明るい白書となって
報告されるよう、田中
総理並びに関係各大臣に、農業
政策の一大
転換に対する所信の表明を
要求して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣田中角榮君
登壇〕