○川俣健二郎君 私は、
日本社会党を代表し、
政府提案の
厚生年金保険法等の一部を
改正する
法律案、すなわち、
政府・自民党の言う五万円
年金なるものについて、いかにまがいものであるかを明らかにしながら、内閣総理大臣
並びに関係閣僚に対し、所信をただしたいと思います。(
拍手)
まず、この案によれば、
厚生年金の
受給者は約八十万人で、そのうち五万円に達するのはわずかに八万五千人、一割五分、一体これでどうして五万円
年金と言えるのだろうか。世にこれを羊頭狗肉と言う。やはり大道ヤシのしわざかとまず断ぜざるを得ません。
ここで、もらえる
厚生年金が低い人の場合を
政府案に従って試算してみると、二十年かけてきた人でも、わずか二万二千円にしかなりません。まだまだ不満足な
わが国の
生活保護基準ですら、四十八年度で六十歳の一人身の場合、低いほうで二万三千円、高いほうになると、三万二千円となり、
政府案による二十年の
年金に比べて千円から一万円
生活保護のほうが高いレベルにあるという
計算になります。つまり
政府案によれば、
生活保護を受けなければならない
年金受給者が一部に発生するという結果になります。
年金と
生活保護費は併給されないことから、この二万二千円の
年金生活者は何と
生活保護費からの差額で救済されなければならないという、まことに奇妙な現象が起こるのであります。(
拍手)
年金は人生の有給休暇とさえいわれ、
所得保障がその
目的であります。ところが、このように
生活保護費から保障の一部を借りなければならないような
年金制度を
所得保障の
制度とは、私は断じて容認できないのでございます。(
拍手)
さらに、
国民年金に至っては、
昭和六十六年度、つまりいまから十八年先でなければ
夫婦で五万円にならないという。
年金を楽しみにしているお年寄りは、月五千円の
老齢福祉年金か、あるいは月一万二千五百円の十年
年金しかありません。その
対象者実に四百八十万人、平均して月六千二百円
程度の
給付ということになるわけでございます。
総理、あやまちを改むるにはばかることなかれ。五万円
年金とはまっかなうそ、実は六千円
年金だったと頭を下げてもらえませんか。いかがでございましょう。私
たちは、昨年の総選挙で一同ともに戦った者として、ここであえて田中総理
並びに齋藤厚生大臣にお尋ねしたい。あなた方のつくられたあの五本指のポスターの五万円、これは五千円ということだったのか、それとも十八年先が五万円になるということだったのか。私は怒りを込めて、選挙民にかわって内閣総理大臣
並びに齋藤厚生大臣を告発したいと思うのであります。(
拍手)田中総理、あなたの御母堂はたいへん偉いお方と聞いております。越後の自然をたよりに、土地を相手に
老後農耕にいそしむその御母堂の前で、きっぱり答えられるように、ここで釈明されたいと思うのでございます。
このように、故意か過失か、うそ偽りの結果になったのはなぜだろうか。それは、第一の理由として、いわゆる最低保障
制度を
導入しなかったからであります。
そもそも
年金とは、
国民年金法第一条に見るとおり「
憲法第二十五条第二項に規定する理念に基き、老齢、廃疾又は死亡によって
国民生活の安定がそこなわれることを防止する」とあります。言いかえるならば、
国民のだれもが
老後、
年金で一応の暮らしができるようにするということでありましょう。だとすれば、われわれが長年主張してきました最低保障、すなわち拠出
期間にこだわらず、また過去の
賃金高を問わず、すべて
老後は少なくとも最低
生活だけは保障するという、いわゆる最低保障
年金制度を打ち立てることが必要不可欠であり、ここで初めて
福祉国家と言えるものと私は思います。
問題の第二は、
厚生年金において五万円
年金になる人は二十七年間かけてきた人である、ここを基準にしてきたことであります。
なるほど、二十年以上かけた人の平均
期間は二十七年でありましょうが、
受給者のすべてが二十年以上ではありません。四十八年度の
受給者約八十万人のうち、二十年以上になる人は約四十八万人、残りの三十二万人、すなわち、全体の四割は二十年以下であります。厚生大臣、この三十二万人の
人たちを除いて平均
期間を出したのは、いかなる理由によるものでありますか。全体の平均
期間は、
政府当局によれば、おおむね二十年になるのではありませんか。したがって、モデルというならば、二十年の人が五万円になるようにするのが、ものの道理というものではありませんでしょうか。(
拍手)どうです、大臣。それとも、五万円を
公約した手前上、さがし求めて二十七年を基準にとったのとは違うでございましょうか。
さらに第三には、過去の報酬の扱い方であります。
すなわち、
年金額の中で
報酬比例部分でありますが、過去十五年間に、平均幾らの報酬があったかで積算の基礎となるわけであります。そこで、各種の公務員共済
年金の場合は退職前の三年間、公共企業体は退職前一年の平均報酬を基礎としているのに比べて、その五倍に当たる十五年間の平均とはどういうわけか。
なお、十五年たてば、平均
賃金が五倍半になるのではありませんか。これに対して答えるでありましょう。「それは読みかえました」と。しかし、ここですなおに五倍半に読みかえているならば、私は何も問いません。これをかってに
修正して三・八倍に押えられているから、その根拠をしつこく質問いたしたいのでございます。
また、今後、この過去の報酬の読みかえは、年々の
賃金上昇にならって、逐年
修正すべきと考えますが、
政府の方針を承りたいと思います。
第四に、厚生大臣にお尋ねしたいのは、この高度成長のもとでは、
年金額に
スライド制の
導入は申すまでもありません。だが、しかし、
政府案は、
賃金スライドを採用せず、
物価スライドを採用しようとしているが、その論拠を示してもらいたいと思います。
御承知のとおり、共済
年金の
改定の場合は、公務員給与のベースアップ率そのものによるのでありますが、しかるに、厚生大臣、なぜ
厚生年金だけを
物価スライドでよしとするのか、お尋ねしたいと思います。
ちなみに、
わが国の
昭和四十七年度の例をとれば、
物価上昇率五・七%に対し、
賃金上昇率は一五%であります。先ほど野党四党の共同
提案が教えておるように、
国民の
生活水準を示す端的な指標は
賃金であり、
政府案の
物価スライドでは、せっかくの
年金生活者の
水準が一般よりも年々低く、次第に離されていくことは自明の理であり、それを
政府が容認することになりますが、そのように理解してよいかどうか、お尋ねしたいと思います。(
拍手)
第五の問題は、
わが国年金制度は、現在掛け金を出している
人口に対する
受給者の割合がきわめて低いということであります。
国民年金では、
受給者は
保険料を納めている人のわずか一%、
厚生年金でも二・七%、いわゆる未成熟といわれるわけであります。
ところが、皆さん、
厚生年金制度発足以来三十年になります。それで未成熟とは一体なぜだろうか。だれがこんなに未熟児にしてしまったのだろうかと問いたいのであります。(
拍手)おそらく次のように答えるでありましょう。「脱退一時金をもらって契約を解除する女子
労働者が多過ぎて」などと。しかし、これは何もこの
制度だけに見られることではなく、
被用者年金一般に見られる実態でありますから、理由にはなりません。
これについて、私は思います。すなわち、最大の理由は、
わが国の
年金には、掛け金を払い込まなかった過去の勤務
期間を
年金受給資格としての年数に通算する
制度、すなわち、過去勤務
年金制度がないため、法定
期間に達しないうち、いわゆるかけ捨てになる人がきわめて多いということだと思います。これでILO条約批准ができると言われますか。はたしてGNP二番目と誇る
わが国の
年金制度が国際
水準に達しておると思われるのか、お尋ねしたいと思います。諸外国でいわれる過去勤務
年金制度、バースト・サービス・ペンション、この
制度を
わが国にも
導入する意思がありやどうか、明瞭な答弁を求めたいと思います。
さらに、
政府案の最も許しがたいことは、いわゆる谷間の
人たちに対し、何ら配慮のかけらもないということであります。
たとえば、
被用者年金の
対象者でない農民、商店、家庭の主婦など、六十七歳から六十九歳の
老人は、
国民年金の十年
年金からも、
老齢福祉年金からもはずされており、いわゆる
年金制度の谷間に落とされているのであります。一つ年下の六十六歳の人が十年
年金を受け取っているのに、隣の年上の人に
年金がないなんて、全く血も涙もない冷酷無比な仕打ちをするものだと慨嘆にたえないのであります。(
拍手)
最後に、大蔵大臣にお伺いいたします。すなわち、いま世間で疑りの目で見られている
年金積み立て金の
運用についてであります。
政府の
運用のしかたは、
保険料を払っている
国民の側から見ると、疑わないほうがよほどおかしいやり方になっております。そうでしょう。当該年度に積み立てられた分の貸し付け先はある
程度明らかにされたとしても、貸した先から返済されたあと、その後どうなっているのか、皆目見当がつかない。また、返済状況さえ明らかにされていないこと。また、たとえば
年金積み立て金は大蔵省の資金
運用部資金として、郵便貯金などほかの資金と込みにして使われているために、
国民は、自分が入っている保険の
積み立て金がどうなっているのか、だれしも知ることができません。さらには、
国民は、自分
たちで積み立てている金の
運用に直接タッチすることができない仕組みになっておるのではございませんか。これでは疑惑の目で見られるのも当然だと思います。
そこで大蔵大臣、あなたは、さきの
参議院予算委員会で、わが社会党議員の質問に対し、返済分の
運用状況等を隠しているわけではないとか、ほかのものと一元的に集めてこれを
運用するほうが
国民的にベターであるとか、また
年金積み立て金の自主
運用の主張を否定して、もちはもち屋にと言われた。
それならお伺いします。回収金の
運用を秘密にしないと言うならば、ここで、過去三十年間の積み立て額と使途など、その全貌を明らかにしていただきましょうか。(
拍手)
二つには、一元的に集めて
運用すると言われるが、
国民がかけた金の行くえがわからないようにされておいて、
国民的にベターとはどういう意味でありますか。
三つには、野党の共同
提案にあるごとく、被
保険者を
中心とする
運用審議会をつくって、明朗で有効な
運用をすべきであり、このように
国民が自主管理、自主
運用を希望しているのに、もちはもち屋にというのはどういう意味なのか。それとも大蔵大臣、八兆円という膨大な金をいますぐ返せと言われても困るということなのか。ここではっきり明言していただきたいと思うのでございます。(
拍手)
わが社会党の田中寿美子議員があなたに迫ったではないか、「シーザーのものはシーザーに返せ」と。これに何と答えられるか、この本
会議場ではっきりしていただきたいと思うのでございます。
皆さん、結局こういうことであります。現在までの積み立て総額は八兆円であります。
政府案の
保険料値上げが通れば、この一年間に新たに一兆二千億円たまります。そして、この一年間の
給付額は、何とたった五千億であります。
ところが、であります。この八兆円に対する利子が、毎年五千億円以上黙っていてもたまるわけであります。いわば、銀行利子分だけを
給付額に回しましょうというわけでございましょう。それとも、この簡単な算術が違うというならば、厚生大臣、田中総理や大蔵大臣の前で、一度それは違うと否定してみてください。
〔
議長退席、副
議長着席〕
もうがまんならんたい。哲学もなければ、何ら定見を持たない田中内閣に、
社会保障制度の根幹を問いただすこと自体が無理だと思います。しかし、これだけは、以上の点だけは、
国民の前に明らかにされたいと思うのでございます。
最後の
提案であります。この
年金制度は、この時間に、この瞬間に、単にお年寄りばかりでなく、
老人の扶養に当たる
国民全体が注目と期待をしておる前向きの
法案であるだけに、あらゆる
法案に先がけて審議されんことを強く訴えまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔内閣総理大臣田中角榮君
登壇〕