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1973-01-29 第71回国会 衆議院 本会議 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年一月二十九日(月曜日)     —————————————  議事日程 第四号   昭和四十八年一月二十九日    午後一時開議  一 国務大臣演説に対する質疑     ————————————— ○本日の会議に付した案件  国務大臣演説に対する質疑    午後一時四分開議
  2. 中村梅吉

    議長中村梅吉君) これより会議を開きます。      ————◇—————  国務大臣演説に対する質疑
  3. 中村梅吉

    議長中村梅吉君) これより国務大臣演説に対する質疑に入ります。石橋政嗣君。   〔石橋政嗣君登壇
  4. 石橋政嗣

    石橋政嗣君 私は、日本社会党を代表し、内政、外交の両面にわたる諸問題について、わが党の考えを明らかにしながら、総理に対し、若干の質問を行ないたいと思います。(拍手)  総理、あなたが庶民宰相を旗じるしに、「決断実行」をキャッチフレーズとしてさりそうと登場してから、早くも半年は経過いたしました。そして、いまでは、戦後最高内閣支持率が取りざたされ、田中ブームとはやされた時期のあったことが、信じられないような状態になってしまっております。(拍手)あなたを包んでいたあたたかいムードは、一体どこにいってしまったのですか。  このたびの総選挙において、保守合同以来最低得票率と議席しか得られなかったのはなぜですか。現在、あなたにとって最も必要なことは、それを静かに考えてみることだと思います。(拍手)その反省なしに、引き続き国政に当たられるならば、お気の毒ながら、巷間でうわさされている田中内閣短命説を裏づけるだけでありましょう。(拍手)  総理内閣支持率が急速に落ち込み、冷ややかな空気があなたの周辺に流れ始めたのは、あなたが短期間の間に、いとも簡単に国民期待を裏切ったからであります。多くの国民は、あなたに何を期待したのかを思い出してください。それは、わが党がスローガンとして掲げ、あなたが盗用した「政治流れを変える」ことなのです。国民は、物価高公害、農業の破壊、住宅難交通地獄等々をもたらした大企業優先、生産第一主義の政治転換し、ほんとうに人間や環境が大切にされる政治の出現を望んだのであります。  それに対して、あなたは、大道ヤシの売るインチキ万能薬のように、これさえあれば、過密や過疎はもちろん、土地問題や公害、そして物価福祉問題までもが、たちどころに解決するかのごとく誇大に宣伝し、日本列島改造論を売り込んだわけです。その報いがいまあらわれつつあるのであります。  このように申し上げれば、あなたは、そんなことはない、問題はすべてこれからだとおっしゃるでありましょう。はたしてそうでありましょうか。それを点検するためにも、これからいろいろとお尋ねしようというわけであります。  政府は、来年度予算案編成にあたって、一つには国民福祉向上一つには物価の安定、そしていま一つ国際協調の推進と国際収支均衡早期回復の三点に留意したということでありますが、総理は、あちら立てればこちら立たずという関係にあるこの三つの目標を、ただ漫然と並列的に掲げて、ほんとうに同時に解決することができると思っておられるのですか。私は、ここで、トリレンマなどということばを使うつもりはございませんが、二兎を追う者は一兎をも得ず、まして三兎をや、とだけは言わせてもらいたいと思うのであります。  私がこのように言えば、今度は、三目標のうちでは、物価の安定、インフレ抑制に一番力を入れたと言うかもしれません。大蔵大臣は、確かにそう申しました。しかし、そのようなことばを単純に信ずるほど、国民は愚かではないのであります。  一般会計十四兆二千八百四十億円、財政投融資六兆九千二百四十八億円という有史以来の大型予算、その上、二兆三千四百億円に及ぶこれまた大型赤字国債、三二・二%増の公共事業費、どれ一つをとってみても、四十八年度予算インフレ促進予算であることは、あまりにも明らかなのであります。  問題は、財政規模国債発行だけにあるのではありません。物価に大きく影響する国鉄運賃をはじめ、健保、電力、電話等公共料金引き上げ私立大学授業料、ガソリン、灯油、牛乳にみそ、しょうゆと、値上げ計画はまさにメジロ押し状態であります。しかも、国鉄健保のごときは、昨年廃案になったものをそのまま再提出するというのであります。国会無視もはなはだしいといわなければなりません。(拍手)  総理、昨年の卸売り物価が八・五%の上昇率を示したことを、もっと重視すべきではないのですか。何を根拠物価の安定に最も重点を置いたと言い、消費者物価を五・五%にとどめることができると言うのでありますか。よもやここであなたは、物価対策関係予算一兆七百三億円なるものを持ち出すつもりではございますまい。この予算がもしなかったら、当然家賃が上がるはすだからという理由で住宅対策費を、この予算があればこそ水道料金国鉄運賃値上げを抑制できたのだというので、厚生省関係水道関係予算を、そして国鉄に対する事業助成費を、あげくの果てには公正取引委員会の職員の給料までをも含めて、まさに風が吹けばおけ屋がもうかる式の物価対策関係予算を、物価安定対策充実根拠となさるつもりですか。そういうことならば、私は、御冗談をと申し上げざるを得ないのであります。  政府が一番力を入れているのは、物価の安定ではなく、実は円対策ではないのですか。物価上昇で輸出を減らし、なしくずしに国際収支を調整し、円の再切り上げを回避しよう、いわゆる調整インフレの道を選ぶというのが本音ではないのですか。(拍手)  自民党政治のもとにおいて、インフレ物価高は完全に慢性化し、昭和三十五年の一万円はいまでは五千円の値打ちしかありません。国民の財産はこの十二年間の間だけでも、その半分は政府に盗まれてしまっているのです。(拍手)この上さらに、政府みずからの手でつくり出した矛盾を、国民生活の犠牲によって処理するなどということは、断じて許すことができません。しかも、このような方法によって円の対策は確立しないのであります。  総理ほんとうインフレを抑制し、物価の安定をはかるつもりなら、あなたも施政方針演説で認めているように、まず第一に、高度経済成長政策安定成長政策に切りかえ、財政規模の膨張を極力押えるべきであります。そして、法人税税率欧米先進国並み引き上げ交際費広告費に対する課税を強化し、租税特別措置法の改廃を行ない、一方において、国債発行額を削減する等の措置がとらるべきであります。また、公共事業費につきましても、工事消化能力の範囲内にとどめるべきであります。国鉄運賃健保保険料等公共料金引き上げを中止すべきことは言うまでもありません。これらの点についての総理のお考えをぜひ承りたいと思うのです。なるほど、物価の安定に真剣に取り組もうとしているのだということが国民によくわかるように、明快にお答えを願いたいと思います。(拍手)  なお、この際、物価上昇と関連を持っている地価対策についてもお尋ねをしておきたいと思います。  総理、あなたは一昨日この場で、「土地問題は、政治が直面している最大課題である」と申しました。ところで、土地問題をしてかくも重大な問題たらしめた責任の一端が、実は総理自身にあることをあなたは自覚しておられますか。(拍手)あなたが日本列島改造論なるものをひっさげ、バラ色の幻想を振りまきながら登場してこのかた、国民の目の前に確実に展開されたものといえば、各種資本による土地の買い占めと、それに伴う地価の高騰だけであります。(拍手)その値上がり幅は、宅地だけでも十兆円に及ぶといわれているのです。  総理、あなたは何一つ予防措置を講ずることもなく、総理自身の著書の中で、たとえば、二十五万都市の候補地のようなものを固有名詞をあげて明記すれば、このような事態を招くであろうことに思い及ばなかったのでありましょうか。それとも、総裁になれるとはつゆ思わなかったとでもおっしゃるのでありますか。私は、この点についてどのように責任を感じておられるのか、とくとお伺いしたいと思うものです。(拍手)  聞くところによると、政府予算編成方針には、当初地価対策が入っておらなかったということであります。総選挙に際してはあれほど声高に強調しておきながら、選挙が終われば一言もなし、これが自民党政治本質とでもいうのでしょうか。  自民党本質といえば、さき税制調査会が答申した土地税制も、自民党税調の手によって、またたく間に九項目の適用除外が設けられ、それこそあっという間に骨抜きにされてしまいました。ただでさえ、この答申に示された程度税率では地価に上積みされるばかりで、これでは地価つり上げ税になりかねないといわれたものなのに、このありさまなのです。このような調子では、政府がいかに土地対策要綱を策定し、総理が、「土地問題は、政治が直面している最大課題であります。」と大音声を発してみても、どの程度実施されるものやら、まことに心もとない限りといわざるを得ません。声は大きいが結局は何もない、それが田中政治だという町の声を、またもや裏づけるだけに終わってしまうのではないかと思います。(拍手)  総理、いまのように無政府的な土地投機をなくし、土地国民の手に取り戻すことのできるただ一つ方法は、土地の売買は絶対にもうからないということを思い知らせる以外にはないのであります。  かねてからわが党が主張しているように、第一に、一定規模以上の土地の取得は、所在市町村長許可事項とすることです。宅地観光等開発は、地方自治体が主体となり、住民の意思を聞いた上で実施するようにすることであります。さらには、公共用地拡大のため、地方自治体先買い権を強化することが必要だと思います。  第二には、固定資産評価額基準として標準価格を設定し、標準地価をこえる譲渡所得に対しては高率の譲渡税を課することであります。なお、土地増価分についても、大幅な分離課税を課する必要があります。  そして第三に、土地騰貴をもたらした元凶でもある日本列島改造論を正式に撤回する旨、いまここで言明することです。(拍手)  これらの諸点についての総理の率直な御意見を、お聞かせ願えれば幸いでございます。  田中内閣が、国民の切実な要望をくみ取ろうとはしていないという点では、社会保障の面でも同じことであります。  確かに社会保障関係予算はふえました。しかし、総予算に占める率は一四・八%、昨年とほとんど変わらないのです。そして、この比率は、アメリカの三六・六%、スウェーデンの三〇%、西ドイツの二九・四%などを引き合いに出すまでもなく、まさに経済大国福祉小国の姿を絵にかいたようなものなのであります。(拍手)  総理、あなたが施政方針演説の中で、わざわざ「国民福祉向上」の冒頭に、「わが国は、戦後驚異的な経済成長を遂げ、国民総生産は百兆円に達しようとしております。昭和三十年の十二倍であります。」と強調したときには、福祉の貧困をひときわひしひしと痛感させられたのは私だけではないと思うのです。時間の関係がありますので、私はこの際、自民党が総選挙にあたって、いわば目玉商品として売り込んだ、五万円年金だけを取り上げてみたいと思います。一総理、あなた方のいう五万円年金誇大広告ではないのですか。なぜならば、四十八年度から厚生年金を受給する資格を生ずる人は約十三万人いるわけですが、このうち、五万円を支給される者はわずか三割程度にすぎないからです。しかも、国民年金受給者に至っては、たったの一人もおらないのです。これでは、誇大広告どころか詐欺ではないのかという声も聞かれますが、そう言われてもやむを得ないのではないかと思います。  それだけではありません。田中総理の口癖でもある受益者負担原則とやらに従って、厚生年金保険料は千分の六十四から千分の七十九に、国民年金保険料も月五百五十円が九百円に、直ちに引き上げられるのであります。これによる加入者負担増は約一千八百九十億円、ところが、実際に新しい制度によって支給される額は約一千二百四十億円にすぎません。高福祉、高負担どころか、高負担が高福祉に先行するものであり、福祉元年のうたい文句が泣こうというものであります。(拍手)  その上、福祉向上のための要件は物価の安定であるべきはずなのに、現実は、さきに指摘したとおりのインフレ指向です。これでは、たとえ給付額が若干ふえたとしても、どんな効果があるというのでありましょう。一事が万事この調子では、多くの国民があなたに裏切られたと感ずるのは当然ではないのですか。  このような羊頭狗肉ぶりを改め、一日も早くヨーロッパ水準に追いつくためにも、直ちに、社会保障最低基準を定めたILO百二号条約を批准するつもりはございませんか。(拍手)そして、積み立て方式賦課方式に切りかえ、四十八年度から、老齢福祉年金を六十五歳以上一人月額一万円、七十歳以上二万円に、国民年金を夫婦で月四万円に、厚生年金平均月額六万五千円、賃金上昇率にスライドさせる制度として発足させる意思はございませんか、あらためて総理の心境を伺いたいものであります。(拍手)  次に、私は公害問題に触れてみたいと思います。  昨年十二月の中央公害対策審議会の報告は、このままの状態経済成長のための開発が続いたならば、昭和六十年には破局的な段階を迎えることになるだろうと指摘しています。さきローマクラブ警告と思い合わせるとき、まさにりつ然たるものがあるのであります。  ところで、政府はこのような相次ぐ警告を一体どのように受けとめているのですか。確かにこの問題についても、施政方針演説の中で、「公害を防除して健康な生活環境と美しい自然環境を確保することは、政治に与えられた現在の至上命題であります。」というりっぱなことばが述べられております。しかし、一たびその裏づけとなる予算を見てみますと、公害対策関係費はわずか一・九%です。総予算の一・九%にすぎないのであります。いま国民が大きな不安を持って注視しているPCBの対策費にしましても、一億九百五十万円の要求に対して、認められたのは一千五百二十六万円、新幹線騒音対策費に至っては、運輸省の要求そのものが二百九十万円、決定額は百七十二万円にすぎません。この程度予算で一体何をやろうというのでありますか。(拍手)この点に関しましては、三木環境庁長官自身が、環境庁単独予算は、要求額が満額認められたとしても百八十億円程度であり、それは道路の一本分にすぎない、しかし、それだけでもあればもっと環境行政は進められる、と言ったという、そのことばがすべてを物語っておると思うのであります。(拍手)  総理公害問題は「政治に与えられた現在の至上命題であります」と幾ら悲壮な声で叫んでも、叫んだだけではどうにもならないのです。ほんとうに真剣に取り組むというのであるならば、いま直ちにむつ小川原、志布志湾、周防灘の巨大開発を白紙に戻し、自然・環境保全の観点をも含めて再検討することを、この場で約束していただきたいと思います。(拍手)  同時に、公害の被害については、よごした企業責任をとり補償するという原則PPP原則を確立する法改正を行なうことを勧告いたしたいと思います。  また、一月十日の中労委の救済命令に示された企業内告発正当性を法的に保障すること。マスキー法のように、自動車メーカーに対し排出ガス有毒物質を除去する装置の取りつけを義務づける措置をとるよう要求いたしたいと思います。これらについての総理の見解をお聞かせください。(拍手)  次は税金です。  庶民にとって腹立たしいものに、いま一つ、重くて不公平な税金があります。政府の見通しによってさえ来年度の自然増収は二兆六千億円が見込まれているというのに、所得税減税は平年度においてわずかに三千七百億円、給与所得分に至っては一千九百四十五億円というのは、一体どういうことでございますか。こんな減税では、物価上昇各種公共料金値上げ等考えればスズメの涙ほどの値打ちもないではありませんか。  総理、あなたは総理大臣に就任した直後には、一兆円の所得税減税を約束したはずであります。(拍手)なぜ実行なさらないのです。大幅な所得税減税所得水準引き上げこそが国内需要の増加となり、最も効果的な円対策となるのではないのですか。福祉優先国民生活向上を口にする以上、相も変わらぬ大企業優先税制を直ちに改めるべきであります。せめて給与所得課税最低限標準家族で百五十万円に引き上げるよう要求いたしたいと思います。総理の決意のほどをお伺いしたいものであります。  以上、私はいろいろと述べましたが、要するに田中内閣は発足以来、国民のために何一つ決断したり実行したりはしていないということであります。たまに決断をしても、そのせっかくの決断は直後にすべて取り消されていることは、私がここであらためて披露するまでもないと思います。(拍手)その例は幾つもあるのです。総理、あなたがこの半年の間に実行したことといえば、四次防の策定であり、米軍戦車輸送の強行であり、自衛隊沖繩と立川への移駐ぐらいなものであります。これらはすべて、日本もしくはアメリカの軍部のたっての要請に基づくものであることに注目したいと思うのです。  四十八年度予算案にも、一般会計において総額九千三百五十五億円、国庫債務負担行為継続費の四十八年度負担分を合わせると、実に一兆二千億円に達する巨額の軍事費が計上されております。この中には、F4EJ戦闘機をはじめ、ミサイル積載護衛艦涙滴型潜水艦等攻撃性の強い装備が含まれており、自衛隊の質の転換が着々と進められつつあるのであります。  私は、昨年十一月、解散直前予算委員会におきまして、FST2改機違憲性を追及いたしました。その際、政府は、「T2改は航続距離が短いので、爆撃装置をつけても攻撃性に乏しく、憲法違反にはならない」と詭弁を弄したのでありますが、この問題ともてもまだ決着はついておらないのであります。  海原前国防会議事務局長が在職中に書いた「日本列島守備隊論」によりますと、日本仮想敵国として明白にソ連をあげております。そしてその保有するミグ17やミグ21のような防空戦闘機といえども、いざという場合の対日攻撃機から除外するのは誤りであると指摘しております。総理、あなたはこの指摘をどのように見るのですか。国防会議事務局長をつかまえて、お茶くみの書いたものなど論外だとおっしゃるつもりでございますか。ソ連のものは要撃戦闘機といえども攻撃用兵器であり、日本のものは爆撃装置がついていても防御用兵器である、こんなへ理屈自民党という特殊な集団以外のどこで通用するというのでありますか。(拍手)  あなた方の従来の解釈からいっても、憲法違反であることが明白なこの種の攻撃兵器開発装備を直ちに中止することを要求いたします。明快なるお答えを願いたいものです。(拍手)  こんな理屈にもならない理屈をこねながら、それこそどこまで軍事力を増強するつもりですか。あなたは、昨年、平和時における自衛力限界を明らかにすると明確に国民に公約いたしました。なぜ施政方針演説の中で堂々と述べなかったのです。いまになって、具体的に数字で示すことはできないと逃げるつもりですか。  総理、あなたは国防会議議長であり、自衛隊最高指揮官であります。そのあなたが、限界数字で示すことを国民に誓い、幕僚に作業を命じたにもかかわらず、制服の抵抗によってその約束が果たせないというのであれば、これはゆゆしい問題であります。(拍手)そんなことをどうすることもできないならば、以後、シビリアンコントロールは健在であるなどというおこがましいことは、絶対に口にしないことであります。あくまでも、わが国においては軍事政治支配下にある、心配は要らないというのであるならば、証拠を見せてください。自衛力限界を、政治家の手で、国防会議独自の作業で策定して、国民の前に示し、国民期待にこたえていただきたいと思います。(拍手)  もともと、このような問題は制服にゆだねらるべき問題ではないのです。政治家の仕事なのであります。決断実行はこんなときにこそ必要なのです。明快な答弁をお願いいたします。(拍手)  ところで総理、あなたが総理大臣の権威をもって平和時における限界を示せといっても、抵抗されたり無視されたりするのは、一体なぜですか。それは、軍事力によって国の安全を確保しようという方針をとる限り、その軍事力はできるだけ強力であるべきで、みずからの手で限界を設け、手を縛るなどはおろかなことだという理論に対抗できないからです。問題は、軍事力に依存するというその考え方、これが間違っているのです。その間違った方針こそ改めるべきであります。(拍手)間違っていないとおっしゃるのならば、この方針を改める気はないとおっしゃるのならば、それこそ、あなたの指示にさからっている人たちを理論的に説得することができるということを事実をもって証明する意味からも、ぜひ平和時における自衛力限界を必ず具体的な数字をもって明示することを約束していただきたいと思います。(拍手)  ところで、昨日、二十八日、十数年にわたりどろと炎の中で続けられたアメリカベトナム侵略戦争が、ようやく終結いたしました。私は、日本社会党のみならず、人類の名においてこの停戦を心から祝福したいと思います。これは英雄的なベトナム人民勝利であり、それを一貫して支援してきた世界の反戦平和勢力勝利であります。(拍手)同時に、このベトナム和平協定調印停戦実現は、一昨年来の、中国国連加盟ニクソン大統領の訪中・訪ソ、東西両ドイツ基本条約調印ヨーロッパにおける安全保障協力会議開催相互均衡兵力削減交渉開始、南北朝鮮の自主的平和統一実現のための話し合い開始などと軌を一にする歴史の流れといえましょう。これらの一つ一つが、いまや軍事同盟の時代は終わったことを物語っているのであります。また、武力武力による威嚇ではなく、話し合いによって緊張や紛争の原因をなくし、平和共存の道を歩もうという意思の表明であるのです。  総理党内各派の動きにばかり気をとられていないで、これら歴史的な事件にもっと重大な関心を払い、その中から多くのことを学びとってください。いまや日本外交は、内外から根本的な転換を迫られているのです。  総理、あの日中国交回復実現したとき、われわれが、すべてはこれからだと強調したのを覚えておられますか。いまのような状態では、あなたの唯一の業績すら無にしてしまうおそれがあるのであります。さらに一歩、二歩と勇気をもって歩を進めてください。すべての国と仲よくするという基本方針を確立して、日中国交回復に続き、朝鮮民主主義人民共和国、ベトナム民主共和国ドイツ民主共和国と平和五原則に基づく国交を樹立すべきであります。その上に立って、すべてのアジアの国々に対して全アジア平和保障会議開催を呼びかけ、アジアにおけるすべての軍事同盟を解体し、核を含むすべての完全かつ全面的な軍縮への道を切り開き、全アジアから不信と対立を生み出す一切の要因を取り除き、平和五原則に基づく恒久的な平和体制を確立するためにあらゆる努力を払うべきであると思いますが、総理のこの点についての御意見を承りたいと思うものです。(拍手)  なお、総理は、ベトナム和平協定の仮調印が行なわれた日に、「ポストベトナムにおける日本責任は重大だ」と述べられましたが、この責任とはどういう意味か、伺いたいのであります。もしそれが、日米安保条約の心と、多くのベトナム人民を殺傷し国土を破壊し尽くしたB52の発進を許したこと、戦車兵員輸送車を修理しては送り込んだことなどを含めて、一貫してアメリカベトナム侵略に協力したことに対する人道上の反省の上に発せられたことばであるならば、私たちは心から歓迎いたしたいと思います。なぜならば、そのような反省であるならば、そしてその反省が本物である限り、それは必ずや従来の方針が改められ、日米安保条約の廃棄、四次防の中止、ベトナム民主共和国との国交樹立、ベトナムの統一と復興への協力という正しい方向に発展していくはずだからであります。(拍手)しかし、そうではなく、ただばく然と経済大国の意識から、もしくはアメリカの肩がわりという側面から口に出されたことばであるとするならば、私は警告を発せざるを得ません。  総理、この期に及んでなお一片の反省もなく、ただ復興だ、援助だというのでは、全く度しがたいといわざるを得ないのであります。戦争に協力してもうけ、終わったら今度は復興特需でもうける、そのような態度は、必ずやアジア各国の反撃を受け、孤立化を促進する結果に終わるでありましょう。(拍手)そのことは、タイにおける日貨排斥運動の現状を直視しただけでも、十分にわかるはずであります。  経済協力は、従来の利潤追求型、植民地主義的進出の姿勢を改めない限り、協力とはいいがたいのであります。それはあくまでも、受け入れる国の経済自立を促し、平和につながる協力でなければならないのであります。いまこそ、受け入れ国の自主性を最大限に尊重するという原則に立って、政府は直ちに海外経済協力の長期計画を策定し、国会の承認を求めるべきだと思いますが、いかがでございますか。この点についての総理の見解も承っておきたいと思います。(拍手)  なお、アジアにおける経済協力、貿易、技術交流の拡大を目的として活動するために、アジア平和経済開発会議を設置することを各国に提唱するよう政府に要望いたしたいと思いますが、この構想についてのお考えも、あわせてお答え願いたいと思います。  最後に、私は、政治の基本にかかわる問題について要望して、質問を終わりたいと思うのです。  総理、あなたは一昨日の施政方針演説の中で、「さきの総選挙を通じて国民政治に対する期待や不満を痛いほどに感じ取った」と述べられました。もしそれが、ことばだけでなく真実のものならば、直ちに政治資金規正法の改正と議員定数の不均衡是正を、決断し、実行していただきたいと思います。(拍手)  国民政治に対する不満、不信の根源は、自分たちの声が政治に正しく反映しないというところにあるのです。それも、公約が履行されたかどうかという以前の問題、最も基本的な問題が少しも改められないところからきているのだと思います。政治は力なり、力は金なりを地でいっている選挙の実態、政治の実態、得票数が過半数に達しないのに絶対多数の議席が確保できるからくり、このような不合理を正すことなく、どうして国民の信頼をつなぎとめることができるというのでありましよう。(拍手)  施政方針演説の最後において、あなたは、「あえて困難に挑戦し、議会制民主主義の確固たる基盤に立って、国民のための政治決断し、実行いたします。そして結果についての責任をとります。」と宣言いたしました。どうか、政治資金規正法の改正と定数是正を決断し、実行してください。そしてこれができなければ、責任をとってください。(拍手)  このことを強く要望いたしまして、質問を終わりたいと思います。(拍手)   〔内閣総理大臣田中角榮君登壇〕
  5. 田中角榮

    ○内閣総理大臣(田中角榮君) まず第一に、内閣に対する御所論に対してお答えをいたします。  さきの総選挙で、自由民主党は、二百八十四という絶対多数の議席を獲得し、引き続き政権を担当いたしておるのでございます。しかし、私は、総選挙を通じまして、国民政治に対する期待や不満を痛いほどに感じ取ったのでございます。これらの期待にこたえていくことが内閣に課せられた政治課題だと考え、懸命な努力を続けたいと考えるのでございます。(拍手)  インフレに対する措置予算その他の御質問にお答えをいたします。  国民福祉向上国際収支の不均衡の是正、物価の安定の三つの課題を同時に解決することはたいへん困難な問題でございますが、全力をあげてこれが解決に取り組んでまいりたい決意でございます。  まず、四十八年度予算案は、国民福祉向上という国民期待に正面から取り組み、財政に課せられた役割りを果たすという立場で編成をしたのでございます。四十八年度経済見通しにおける中央、地方を通ずる政府の財貨サービス購入は一六・六%増となっておりまして、GNPの名目成長率一六・四%とほぼ同程度のものとなっておりますので、この予算インフレ予算といわれるようなものでないことは、これを見ても御理解賜われると思うのでございます。  なお、国債について言及がございましたが、前年度当初予算の依存度は一七%でございましたが、今年度の国債発行高を一六・四%にとどめるなど、経済の動向に十分配慮をいたしておるわけでございます。また、調整インフレ考えは全くないことを明らかにいたしておきます。  対外均衡の達成のためには、輸入の拡大、輸出の適正化、経済協力の拡充などが一そう推進されなければならぬわけでございます。経済活動全体が均衡ある姿で安定した成長を続けることが物価安定の基本であることは申すまでもないことでございます。このためには、財政金融政策の適切な組み合わせが必要でございます。特に、国内の過剰流動性を押えるため、金融面の対策もとられつつあるわけでございます。  当面の物価対策としましては、輸入の積極的拡大をはかってまいりたい、こう考えます。先ほども御指摘ございましたが、四十八年度予算の説明書による広い意味での物価対策費は、一兆三千五百億円ということでございます。流通対策、生鮮食料品対策、交通料金対策地価住宅対策など、特に重点的な対策につきましては三千三百億円を計上いたしておりまして、これが金額は、前年対比五一・二%増という計上をいたしておるわけでございます。これらの対策を総合的に推進することによりまして消費者物価を押えてまいりたい。しかし、これは政府だけの力でできるものではないので、野党の皆さんも含めて格段の御協力を切にお願いをいたします。(拍手)  法人税の税負担を高めるというお話がございましたが、四十八年度の改正におきましては、産業関連の租税特別措置の改廃により、平年度四百億円の増税措置を講じたわけでございます。また、固定資産税につきましても、その負担を高める措置が講じられておりまして、この面からも法人の税負担は加重されることになっておるわけでございます。  四十八年度の国債発行額、先ほど申し上げたとおりでございます。国債発行額二兆三千四百億円のうち、資金運用部の引き受けが四千七百億円ございますので、市中消化予定額は一兆八千七百億円でございまして、四十七年度の補正後の予定額と同額であることを御承知いただきたいと思うのでございます。  公共事業費は、総額二兆八千億円でございますが、この公共事業費が、消化ができないような大幅なものではないかという御説でございますが、対前年度補正後七・六%の伸びでございまして、関係省庁の消化能力を十分勘案をして編成をいたしたものでございます。  公共料金について言及がございましたが、これは極力抑制せられなければならぬことは当然でございます。しかし、人件費等のコスト上昇の中で料金だけを固定化することは困難な面もございます。もちろん、国鉄、地下鉄のように公共性の高い、国民生活に密接な関係のある料金については、財政援助を大幅に拡大をいたしまして、必要最小限の負担増にとどめることといたしておるのでございます。  土地対策についての御提案にお答えをいたします。  一定規模以上の土地の取得は市町村の許可事項にせよという御提案がございましたが、一定規模以上の土地につきまして、市町村を経由して都道府県知事に届け出をさせることにいたし、都道府県知事が、投機的取引と認め、合理的な土地利用を阻害すると認めるものにつきましては、中止勧告をすることを立法化してまいりたいと考えております。  次に、地域開発は、地方公共団体が主体となることが原則であり、その推進にあたりましては、住民の意思が十分反映されるよう、一そうの配意をいたしてまいります。  地方自治体土地先買い権を強化せよとの御提案でございますが、国土の総合開発を進めるにあたり、特に一体として開発し、整備し、または保全する必要のある地域は、特定地域の制度を設けてまいります。この特定地域につきましては、一定期間、特に土地の投機的取引を防止し、開発行為を凍結する必要がありますために、土地取引の届け出、勧告制とあわせて、地方公共団体等による土地の先買い制度を創設してまいりたいと考えます。  また、公有地拡大推進法による先買い制度の対象区域の拡大についても、検討を続けておるのであります。  標準地価をこえる譲渡所得に高率の譲渡税を課せよとのお考えでございますが、土地税制につきましては、今回、総合的な土地対策の一環として、特別土地保有税を創設し、法人の土地譲渡益に重い課税を行なうこととしておるのでございます。  また、御提案によります問題につきましては、税制調査会でも議論をせられたわけでございますが、基準となるべき標準地価として何が適当であるかについて一般的な合意が確立しないままに、その実行をはかることは困難であるという面がございます。税制のみによって土地に対する一種の公定価格制度を推進することは無理がございます。むしろ、利用規制等を含めた税制以外の法制の整備が先決であります。(拍手)  土地の増価分に大幅な分離課税をという御提案でございますが、かりに一定基準土地評価額を上回る部分の土地譲渡益に対して重課せよということでございますれば、何を基準とするかということでむずかしい問題が存在をいたします。また、現に保有するあらゆる土地について強制的に評価、課税するということであるとすれば、最近において投機目的のために取得した土地には税負担が相対的に低く、古くから保有し本来の事業の用に供しておる土地ほど税負担が重くなるといった問題も生ずるのでございます。  いま申し上げた問題は、この国会に法案として提案をするのであります。これは非常に画期的なものであります。(拍手)その意味において、皆さんから建設的御審議と早期成立のために御協力をお願いいたします。(拍手)  なお、列島改造を取りやめろというお話でございますが、一億余にのぼる国民のうち、国土のわずか一%の地域に三二%、三千三百万人が過度に集中をしておるような現況を改めない限り、諸般の問題の解決は困難であります。(拍手)これは、自由民主党内閣でなくとも、社会主義的国家におきましても、都市に集中を抑制しておる現在を考えれば、おわかりになることであります。(拍手)この狭い日本を総合的に利用せずして、いろいろな問題が解決できるとは思えません。(拍手)しかも、公共用地の取得、都市周辺における空港の建設等に対して、一坪地主運動も行なわれておるではありませんか。このような状態考えるときに、列島改造を進めずして諸般の問題が解決しない、とを明らかにいたします。(拍手)  福祉対策について申し上げます。  ILOの百二号条約につきましては、疾病、失業、老齢及び業務災害の各部門において、わが国水準は、条約の基準を満たしており、現在でも一応批准可能と考えておるのであります。しかし、その批准につきましては、基準を満たしていない部門の今後の方向を含め、全体についても将来の見通しを立てた上で態度をきめることが妥当であると考えておるのであります。  各種年金の充実についての御提案がございましたが、政府としても、四十八年度の予算編成の最重点項目として、年金改善を取り上げたわけでございます。  具体的には、厚生年金及び国民年金について、いわゆる五万円年金実現を目途とする年金額の大幅引き上げ物価スライド制の導入をはかるとともに、老齢福祉年金を夫婦月額一万円に引き上げるなど、大幅な改善措置を講ずることといたしたわけでございます。  賦課方式への切りかえの問題等もございますが、被保険者に比べ受給者数が少ない現段階においては、当年度に必要な給付費用をその年度の保険料でまかなうとすれば、当面は比較的に軽い負担で給付改善を行なうことも可能かと思います。しかし、今後は受給者が急増をいたしてまいりますので、給付改善を行なわない場合でも、保険料負担は今後急激に高価なものとなるなど、将来に大きな禍根を残すことになるわけでございます。  年金制度の健全な発展をはかるためには、長期的視野に立った財政運営が肝要でございまして、政府としては、今回の改正にあたって、現行の財政運営のあり方の基本を変更することは適当でないという結論に達したわけでございます。  公害対策について申し上げます。  政府としては、中公審企画部会の中間報告の趣旨を真剣に受けとめ、環境基準、排出基準の強化等を進めますとともに、環境破壊をもたらさないような産業構造への転換をはかってまいります。  また、開発に際しましては、事前に環境に及ぼす影響を十分調査し、環境に悪影響を及ぼさない範囲で開発を進めるなど、環境保全のための施策を強力に推進をしなければなりません。苫小牧東部、むつ小川原等の大規模な工業開発プロジェクトについて、公害を未然に防止し、自然環境の保全をはかるため、十分な事前調査を引き続き実施をしてまいります。開発にあたりましては、これらの調査の成果を踏まえ、かつ地域の住民の意向をただしつつ、各地域の環境制御が可能な範囲内で工業開発規模を定めることとしたいと考えております。  また、工場施設の配置にあたっては、工場環境の整備基準により規制をすることとし、公害に対する常時監視体制を整備してまいります。その意味で、これを取りやめるということは考えておりません。  公害防止費用の原因者負担原則は、公害対策基本法におきまして、わが国においてもすでに確立しておることを御承知いただきたいと思います。  自動車の排気ガスによる公害の防止等についての御指摘がございましたが、従来から段階的に規制を強化しておるわけでございます。さらに、昭和五十年には、米国のいわゆるマスキー法に匹敵するきびしい規制を実施する方針でございます。自動車メーカーは、これらの規制に適合する有毒物質除去装置開発に対して、現に全力をあげて推進をいたしておりますし、政府としても、公害防止技術の開発には懸命に取り組んでまいりたいと考えます。(拍手)  所得減税につきましてのお話がございましたが、初年度三千百五十億円、平年度三千七百億円に及ぶ減税を行なうことにいたしました。これは所得税自然増収額一兆一千五百九十六億円の二七・二%でございまして、このような減税の結果、夫婦、子二人の標準世帯におきましては、課税最低限百十四万九千六十円ということになったわけであります。私は、これが最もいいものだとは考えておりません。しかし、西ドツイの七十七万円、英国の九十三万円、フランスの百万円を比べて、そこまできた努力はひとつ御理解を賜わりたい。(拍手日本の夫婦、子二人の標準世帯百十四万九千六十円は、日本より所得のはるかに多いアメリカが百三十二万四千円であることを、これもひとつ御理解を賜わりたいと思うのでございます。(拍手ただし、これをもって足れりとしておるものではないことを付言いたしておきます。  防衛費と攻撃性の強いT2改機などの問題について言及がございましたが、防衛費につきましては、世界の各国が必ず、自分を守るために防衛費を組んでおります。私も、きょう勉強してまいりましたが、日本以外の国々で、歳出に占める防衛費で日本よりも小さい国は見当たりませんでした。(拍手)しかも、一番大きいのは四〇%をこしている国もございますし、三〇%をこしている国もございます。四次防を含めて、わが国の歳出に占める防衛費は、わずかに七・一%、八%未満である事実も十分御理解をいただきたいと思いまして、私は、やはりこの程度負担は、日本の独立と自由を守るためには必要なものである、こう考えておるのであります。(拍手)  わが国の防衛力は、憲法に許容する範囲内に限られ、侵略的、攻撃的な装備は保有できません。これは、石橋さん御指摘のとおりでございます。四次防もこの制約に従ってつくられたものでございます。四十八年度の防衛予算の中にも、その意味で、攻撃的な装備は一切含まれておりません。  FST2改支援戦闘機につきましても御言及がございましたが、自衛のために必要な装備でございまして、同機の行動半径は短く、攻撃的脅威を与えるようなものでないことは、御専門である石橋さん、十分御理解をいただきたい、こう思います。  どこまで日本軍事力を増強するのか、平和時における自衛力限界なるものについて御言及がございましたが、先ほども申し上げましたように、わが国の防衛力は、憲法の許容する範囲内で、国防の基本方針にのっとり漸進的に整備を進めてきておるものでございますが、昨年四次防を決定しました際、わが国の防衛力は今後どこまでも無制限に増加するのではないということを明らかにできれば、国民の防衛に関する理解を得るためにも幸いであると考え、平和時の防衛力として防衛庁に勉強、研究をするように指示したものでございます。これは非常にむずかしい問題でございますが、防衛庁では真剣に研究をしてくれておるのでございます。先般その考え方につきまして説明を聞いたのでございますが、中間報告の段階でございまして、最終的な説明を受けるに至っておらないわけでございます。現に勉強中と御理解賜わりたいと思うわけでございます。  北朝鮮、北越、東独と国交を樹立せよ、これらの国連加盟に努力せよという趣旨の御発言がございました。  いわゆる分裂国家にはそれぞれ特有の歴史的、政治的な背景と事情があり、当事者間の関係も異なるので、一律に論ずることはできません。政府は、人道、文化、スポーツ、貿易の分野で北鮮との事実上の接触を深めてまいります。南北会談の進展によって北鮮との関係がやりやすくなることを期待をしておるわけでございます。北ベトナムとも、これまであった接触は、今般の和平実現により拡大の余地ができてまいりました。外交関係の設定を行なう前に戦後復興等、北ベトナムとの交流増大のため、やることはたくさんあるわけでございます。  東独等につきましては、東西両独間の基本条約の批准も間近になっておりますので、遠からず東独との外交関係を設定できると考えております。  ドイツ民主共和国国連加盟等につきましては、東西両独間の合意に基づいて近く双方の加盟申請が行なわれ、今秋の国連総会において加盟が実現するものと予想されます。(発言する者あり)とれは分裂国家に対して御説明をしておるのでございます。  朝鮮、ベトナムにつきましては、当事国の意思を尊重する立場から、南北両鮮間の話し合い、ベトナム和平後の進展とにらみ合わせて考えてまいりたいと考えるのでございます。  ベトナム復興、南北統一、わが国の協力態度等につきまして申し上げます。  わが国は、一日も早いベトナム戦争の解決を念願をいたしておったのであります。(発言する者あり)今般和平が合意をされましたことを歓迎をいたします。和平が定着するためにはベトナムの民生安定と生活向上が不可欠であり、わが国としても、戦後復興と経済開発のために幅広い援助を行なってまいりたい、こう考えるのでございます。  日米安全保障条約と四次防の中止の問題について御発言がございましたが、先ほど申し上げましたように、わが国の防衛力は、憲法を守り、必要最小限でなければならないということでございます。また、必要最小限の負担で独立と自由を守るためには、日米安全保障条約が不可欠なのでございます。そういう意味で、日米安全保障条約を維持しながら、最小限の負担日本の独立、自由を守ってまいりたいという悲願を御理解賜わりたい。(拍手)  アジア平和保障会議の問題について御言及がありました。アジアの平和維持は、わが国をはじめアジア諸国共通の関心事でございます。ベトナムに実現しつつある和平を確固たるものにするため、アジア・太平洋諸国による国際会議開催の可能性を現に考えておるのでございます。その方途はいろいろございます。目下鋭意検討中でございます。  タイで起こっておるような事件が世界各地で起こらないように努力をしなければならぬという御指摘でございますが、そのとおりでございます。そのためには、これから日本の経済援助、技術援助、また内容の改善等に対しても格段の配慮をしてまいるつもりでございます。  最後に、政治資金及び議員定数の不均衡の問題等についての御言及がございましたので申し上げます。  政治資金規正法改正の問題につきましては、政党政治の消長、わが国の議会制民主主義の将来にかかわる重大な問題でありますが、幾たびか改正法案が国会に提案されながら廃案になった経緯があることは周知のとおりでございます。(発言する者あり)これを今日の時点に立ってみると、金のかかる選挙制度あるいは政党のあり方をそのままにしてこれを具体化することにいろいろと無理があることを示しておるように思うのでございますが、くふうによっては、その方法も見出し得るものと考えるのであります。今後は政党本位の金のかからない選挙制度実現への動向も踏まえつつ、さらに政党法のあり方なども含めて、徹底した検討と論議を積み重ねてまいりたいと考えます。  衆参両院議員の選挙区別定数の合理化は、もとより重要な問題であることは申すまでもありません。選挙区別の定数をどう改めるかという問題は、両院議員の総定数、選挙区制、選挙制度をどうするかという問題と切り離して結論を出すべきものではなく、選挙制度全体の根本的改善の一環として検討すべき性格の問題であると考えておるのであります。さきの第七次選挙制度審議会でも、選挙制度全般にわたって根本的改善を行なう場合、その一環として各選挙区の定数をどのように定めるかという点から審議が行なわれるという報告を受けております。政府としましては、このような考え方をもとにして、世論の動向、各政党の御意見等も十分に聞きながら、慎重に検討してまいります。  以上。(拍手)     —————————————
  6. 中村梅吉

    議長中村梅吉君) 倉石忠雄君。   〔倉石忠雄君登壇〕
  7. 倉石忠雄

    ○倉石忠雄君 私は、自由民主党を代表して、政府に対し、若干の質問を行なわんとするものであります。  まず、政府外交方針及び安全保障に対する考え方についてであります。  私は、まず全世界が待望いたしておりましたベトナム戦争の終結が一応実現いたしましたことを、国民とともに心から喜ぶものであります。(拍手)しかし、インドシナ諸国は、その長い歴史の経験から、不安と動揺の渦巻く不安定の中に、きびしい戦後を迎えることでありましょう。私は、一日も早く真の平和が彼らの上に来ることを、心から祈るものであります。また、それゆえにこそ、わが国は各国に先んじてベトナムの復興、再建に最善の努力をなすべきであると存じます。内閣総理大臣の申されましたインドシナ地域の復興、建設と和平定着のため、アジア諸国による国際会議開催をすみやかに実現できますように努力せられんことを切望いたすものであります。  豊かで平和な国づくりを実現しようとするわが国外交目標は、何よりもまず平和な国際環境の確保に向けられなければなりません。そしてその前提となるものは、自国の繁栄だけを考えるべきではなく、あらゆる国との提携を深め、世界の繁栄の中にわが国の繁栄を見出そうとする国際連帯の姿勢であります。先ごろの国際通貨調整でも示されましたように、世界各国の相互依存関係はますます強まってきております。この連帯感に基づいた国際協調関係は、これからの世界を特徴づける大きな流れであります。わが国は、国内には見るべき天然資源を持たず、海外にその供給を依存しなければならないのでありますから、海外諸国との友好と貿易が、死活的な重要性を持っておりまするがゆえに、世界の平和と繁栄こそが、とりもなおさずみずからの生存と発展の基本的条件となっていることを忘れることはできないのであります。  この立場から、私は特にこれからのわが国外交の基本的柱の一つとして、対外経済協力を重視いたしたいと存ずるのでありますが、従来の経済協力のあり方をここで再検討すべきではないかと思うのであります。とかくわが国の経済協力がかけ声だけにとどまり、特に政府開発援助の質及びその量の改善がおくれているということについては、各国から批判のあるところであります。政府は、責任をもって開発途上国の要望にこたえるように、具体的施策を進められんことを要望いたす次第であります。  戦後の世界を支配してまいりました国際秩序が大きな転換期を迎えて、多極化に向かっての展開を示しつつある今日、わが国外交は、また世界の四方に目を配った多面的な形で展開されなければなりません。その点で私は、沖繩の返還によって一段とその基礎が固まりました日米友好関係を堅持することを基調とするとともに、日中国交正常化に続いて、日ソ平和条約の締結という具体的な目標に向かって取り組むべきであると存ずるのであります。日中両国がアジアの平和と繁栄にとって重大な責任を有することは申すまでもありませんけれども、日ソ関係についても、両国の親善友好関係の進展が、ひとり日ソ両国にとって利益となるのみならず、極東の平和と安定にとり、きわめて重要であります。わが国民の強い願望である北方領土の問題が、なお未解決のままに残されておりますが、日ソ関係を真に安定的に発展させていくためには、この問題の解決が不可欠であるとの見地に立って、平和条約締結の実現につとめると同時に、通商、経済、文化、科学技術等幅広い分野での両国関係の発展をはかるべきであると考えるのでありますが、政府の御見解を承りたいのであります。(拍手)  私は、また、日米安保体制はすでに定着した状態にあると思うのであります。なぜならば、現在、世界のいずれの国も、日米安保条約について非難をしておる国はないからであります。  私は、この際、日米安保条約締結の歴史を顧みまするならば、われわれが日米安保条約を締結いたします数年前、中ソ両国においては、わが国仮想敵国として、中ソ友好同盟条約というものを一九五〇年に締結しております。われわれがまだ独立を回復する以前に、中ソ両国において軍事同盟条約を締結いたしてありましたアジア状態を踏まえて、日米両国の指導者たち日米安保条約を締結いたしましたという、この賢明なる態度を現在のわれわれがこれを継承いたしておるわけであります。(拍手)こういう状況がいまだ何らの変更を見ず、しかも、国際社会では、中ソ両国は何となく不和の様子であるように伝えられておる今日ですら、なお中ソ友好条約は、これを取り消しておられないのであります。この複雑なる関係をまのあたりにして、われわれがいかなる態度を選択すべきかということを私ども日本政治家は決意をしなければならないのであります。(拍手)・われわれは、外交というものは、その当事国同士の友好を深めるという精神的な役割りを持つ反面、それぞれの国の国益追求という、利己的で冷たい一面を持つという事実を知らなければならないのであります。外交にとって、甘えや楽観は禁物であります。米国が安保条約を自国に有利に利用しようとする場合もあり得るであろうし、中華人民共和国が日本と友好条約を結ぼうというのも、自国に有利な点があるとの判断に立つからでありましょう。米国や中国の思惑がどうであるにせよ、最も肝心なのは、日本もまた相手国を上回る深い思慮を持たなければならないということであります。(拍手)日米間の貿易、経済の問題で、感情のもつれがあるように伝えられておりますけれども、このことは、きわめてわが国にとっても警戒すべき事柄であります。政府は、これらの事情に対して、どのような御見解をお持ちであるか、その御所見を承りたいのであります。  次に、安全保障についてであります。私は、国防問題こそ国の基本問題であると存じますが、このことについては、国民の関心も比較的薄く、たれもがこの問題にあまり触れたがらない傾向がありますが、しかし、関心が薄いということは、防衛政策が不必要であるということとはならないのであります。関心の度合いとは無関係に、防衛力の必要性は常に変わらないのであります。  日本社会党は、非武装中立を主張しておりますが、自分だけがおごそかに平和宣言をして、まる腰になったとしても、相手もそのようになってくれなければ、戦争をしかける可能性が半分に減ったというにすぎないのであります。確かに、各国との不可侵条約を結ぶというのも国防の一つの方策ではありましょう。しかし、これは絶対ではありません。一片の不可侵条約が過去においてどのようにみじめな結果に終わったかを思い起こせば、日本人は、これが絶対ではないことを痛いほど身にしみて思い知らされておるからであります。(拍手)  最近、緊張緩和ということばがしきりに用いられておりますが、このことは、日本を取り巻く情勢に緊張があったということをたれもが認めていたことにほかならないのでありまして、日本はこの緊張の中で幸いにして侵略されなかったのでありますけれども、その安定は人類六千年の歴史の中で見れば、ほんの一瞬であります。この先わが国がどうなっていくかということは保障が何もないのであります。もちろんわが国は、憲法において戦争を放棄し、国民が平和を望んでいることは間違いありません。そうであるからといって、このことは平和の保障には何らならないのであります。  およそ国防は、防衛力だけに限りません、外交政策、社会政策、経済政策等、あらゆる政策がからみ合ったものが国防であります。紛争回避のため、つとめて外交的努力を尽くすのが当然でありまするけれども、それでもなお攻撃される場合に備えるのが防衛力であります。  わが国自衛隊は、おそらく半永久的に戦うことはないでありましょう。われわれもまた、心からそのように願うものであります。けれども、万一他国から侵略された場合には、敵を追い払うだけの防衛力を整備しておかなければなりません。わが国が完全な防衛力を備えることは無理であるから、いっそのこと全部なくしたほうがよいという議論もあります。しかしながら、自国の力だけで完全防衛のできる国は、米国やソ連といえども困難であります。いわんやその他の国々ではとうてい不可能であります。にもかかわらず、各国がどうして軍備を持つのでありましょうか。中立国スイス政府は、一般家庭に「民間防衛」という小冊子を配布しております。スイスが一度外国軍隊の攻撃を受けた場合についてあらゆるケースを想定して、それに対する国民の心がまえや抵抗のしかたを説いたものでありますが、スイスが百五十年以上の平和を守り抜いてきたのは、平和宣言という一片のことばだけではなく、この国民の底知れぬ決意の強さとその準備の結果であります。  国防問題を語ることは平和に対する挑戦ではなく、日本の平和、ひいては世界の平和を守ることにほかならないのであります。(拍手)このことを国民に知ってもらわなければならないのでありますが、この問題から目をそらしたり、避けたりしてはならないのであります。  基地問題などで、時によってはその住民に苦いことも言わねばならないこともありましょう。しかし、その損な役割りは、現実に政権を担当している政府責任である以上、忍ばねばならないことであります。  さらに、基地問題についてお伺いをいたしたい。  およそ民主政治は住民感情を無視してはあり得ないのであります。そうかといって、ただ住民感情だけに従っておればよいというわけにもいきません。  昨年、ある放送会社が在日米軍基地を持つ市町村長を対象に調査いたしましたところ、その八八%が基地撤去を求めていました。ところが、この人たちがすべて安保条約に反対しているかというと、そうではなかった。つまり、自分のところには基地はないほうがよいというのがほとんどでありました。国防という国家的要請はわかるが、自分のところだけは困るというわけであります。基地反対闘争は、こうした住民感情を利用して、安保廃棄という政治目的に結びつけるのがねらいでありまして、そこで政府は、この二つは別個の問題として処理すべきであると思うのであります。  住民が基地撤去を求める最大の原因は、その基地が周辺の地域発展のじゃまになっているからでもありましょう。そのような場合には、できるだけ整理集約すべきでありましょう。その場しのぎの対策や逃げ口上では、根本的には解決しないのであります。  在日米軍基地や、それを引き継いだ自衛隊基地は、二十年前に設けられたものであり、その間に周辺の状況はかなりの変化をしておる地域が多いのであります。一度、この際、全部洗い直して、基地のあり方を再点検し、地域開発上どうしても支障になる基地については、米国側と折衝して、できる限りすみやかに移転するなり縮小するなりすべきであり、また、どうしても必要な基地については、防音対策とか周辺整備に万全を期した上で、その地域住民に国家的要請を説明して、納得してもらうように努力すべきであります。  昭和四十八年度予算案にもこのような基地対策費をかなり計上いたしてありまするが、この点に対する政府の処置は、この際、私どもは大いに敬意を表する次第であります。  これに関連して、自衛隊員の住民登録拒否問題について伺いたいと存じます。  那覇市や立川市では、米軍基地内に日本の主権が及ばないとの理由で、自衛隊員に対し住民登録の受付を拒否しております。住民登録は選挙権など日本国民の権利義務行使の基礎になるものでありまして、これを拒否することは憲法に保障された基本的人権に対する明白なる侵害であります。(拍手自衛隊の基地たると米軍との共同使用の基地たるとを問わず、当該市町村の区域であることは明瞭であり、かりにその場所に行政権限の一部が及ばないことがあるにしても、それをもって住民票への記載を停止する理由にはならないのであります。(拍手)従来、自衛隊の基地はもちろん、米軍専用の基地でも、その中に働いている日本人には日本の法令が全面的に適用されており、市の行政権が及ばないからという理由は、思いつきのへ理屈にすぎないのであります。(拍手)非武装という政治目的のために、隊員の基本的人権までも侵害してはばからない態度は、許しがたいものであります。(拍手政府は、このような卑劣なやり方に対し、すみやかに措置をされなければ、法の権威は失墜し、政府の威信は全くなくなるのであります。この際、国民の世論にも訴え、断固たる措置をとるべきであると思うのでありますが、政府の御所見を承りたいのであります。(拍手)  次に、経済、財政の運営についてであります。  昭和四十八年度予算案が提出されましたが、本予算案を通覧いたしまして、政府が思い切って社会福祉政策に重点を置かれたこと、選挙公約を上回る中央、地方を通じての減税を断行したこと、欧米に比して比較的立ちおくれであるといわれております社会資本の充実と環境整備等に力を入れられたことなど、来年度予算案は近来まれに見る内容の充実した予算でありまするけれども、(拍手)この予算執行にあたって、政府は、物価の安定、国際収支の均衡確保、インフレ防止等に特段の注意を払い、税制、金融政策等適切に活用して、大方国民期待にそむかないよう最善の努力を尽くされんことを切望いたす次第であります。  また、政治に対する国民の信頼をつなぐ根本は、変化し多様化する国民の価値観や欲求に対し、よく対応して国政を迅速に処理し、国民期待にこたえることだと信ずるのであります。  現在、国民が最も求めておるものは何か。それは、物質的な豊かさよりも、人間性の豊かな福祉社会であると思うのであります。また、最も憂えているものは何か。その中の一つは、異常な地価高騰、物価高及び公害環境破壊であろうと思うのであります。このような国民的欲求にこたえる政治の根本姿勢は、人間尊重の福祉優先に徹することであります。そのためには、憲法の許す範囲において、勇気をもって私権を規制することもちゅうちょすべきではないと存ずるのであります。企業がその社会的責任を忘れ、利益追求のためのみに土地を買い占めたり、公害を放置したり、あるいは管理価格で物価をつり上げたりするようなことは、自由経済のもととはいえども、これは許されるべきことではありません。(拍手)現在ほど企業の社会的責任の問われる時代はないのであります。政府がとらんとしている強力な土地対策公害対策はこの趣旨に沿うものであり、高く評価するものでありますけれども、今後さらに、施政全般にわたり一そう公共の福祉優先に徹せられんことを期待いたす次第であります。(拍手)内閣総理大臣の御演説の中にはこの点によく触れられておりますので、私はいまこそ決断実行期待する次第であります。(拍手)  さらに、物価に関連して、賃金の動向についてお伺いをいたしたいと存じます。  昭和四十三年以来賃金の動きは生産性を上回る傾向を示しているのは御承知のとおりであります。その傾向は、結局、賃金が物価にはね返ることになると思うのでありますが、これらの点について政府はいかなるお考えをお持ちでありますか、お伺いをいたしたいと思います。  次に、福祉関係政策についてであります。  四十八年度予算案が人間優先の福祉予算であり、国民福祉に直接つながる社会保障関係費、生活環境施設費、住宅建設費等が飛躍的に増額されたことは喜びにたえないところであります。特に、年金制度の大幅な充実、老人対策、心身障害者対策、遺族、傷痍軍人など戦争犠牲者に対する処遇の改善など、きめこまかい配慮が払われておることを評価するものであります。  私どもは、昭和四十八年を福祉元年として、福祉国家への第一歩を踏み出すべきであると信じます。しかしながら、国民福祉はまだ十分とは申せません。問題も少なくないのであります。  その第一は、長期的計画を欠いているということであります。公共投資の分野においては、わが国でも早くから長期計画が立案され、昭和四十八年度からも、新道路五カ年計画、新漁港五カ年計画、土地改良十カ年計画が発足することになっておりますけれども、福祉についても同様の長期のビジョンに基づく施策の充実が必要であると存ずるのであります。  その第二は、年金をはじめ各種の制度が複雑で、全体のバランスが必ずしもとれていないという点であります。どのような方向に将来整理統合していくかということを考えておくことは非常に重要なことであると存じます。  その第三は、財源面の対策がはっきり確立していないという点であります。次年度以降に大きな歳出増をもたらす政策が十分な検討なしに導入されるおそれがないかということであります。  これらの点を考えますと、すみやかに国民福祉指標を策定し、福祉社会のビジョンを国民に示すとともに、これに向かって総合的対策を推進することが必要であると考えるのであります。真の高福祉社会を実現するためには、それ相応の負担が伴うことは申すまでもありません。このことを行なってまいりますためには、国民の合意を求める努力が何よりも肝心であると存じます。これらの点についての政府の御所見を承りたいのであります。  最後に、私は教育の問題についてお伺いをいたします。  戦後、わが国の教育は、施設の充実あるいは定員の増加など、あらゆる面において目ざましい発展を示しました。教育諸施設の外観がこのように整備充実されてきたにもかかわらず、教育について何かが欠けているのではないかというのが国民の実感ではないかと思うのであります。こういう国民の心配が事実となってあらわれたのが、大学紛争から赤軍派に至る一連の動きといえるのであります。(拍手)申すまでもなく、これらの動きは大学教育の問題だけでなく、現在の教育のすべてが集約され、あのような形となってあらわれたのであるということをわれわれは思います。  そこで、教育の問題について、政府も、われわれ議員も、国民の皆さんも、教育ははたしてこれでよいのかと虚心に考え直してみる必要があると存ずるのであります。学校教育の目標が、青少年に社会生活に適応するための知識や技術を習得させることにあるのは申すまでもありませんが、それとともに、遠い昔から、われわれの祖先がわれわれに伝えてきた日本の文化、伝統を子孫に伝えていくというもう一つの重大な使命があることを忘れてはならないのであります。(拍手)  文化、伝統の重視などといえば、国家主義教育として排斥するのがいまの風潮であるかもしれませんが、現実にわれわれが生きているのは、まごうかたなく日本人として生きているものであって、われわれが平素使っております日本一つとってみても、祖先の文化遺産を継承しているのであります。過去の歴史を全部否定して、われわれの手に残るものは全く無であります。こうした日本の文化、伝統、日本の国家と民族について全く等閑視してきたのが戦後の教育であり、現在のごとく精神の荒廃を招いた根本的の原因であると思うのであります。  現在の教育界では、一定の価値を子供たちに押しつけるべきではないという考え方が風靡しております。確かに全体主義国家のように、政治権力によって価値を一元化して、それを強制するというようなことは好ましいことではありません。その意味から、私どもはファシズムもマルクシズムも、ともにわが国のとるべき道ではないのであります。(拍手)しかし、このこととは別に、万人が守るべき価値がこの世に存在することも事実であります。たとえば友情を大切にすること、勇気をもって邪悪に立ち向かうこと、両親を大切にすること、教師に対して礼節を守ること、祖国に忠誠を尽くすこと、これらはいかなる民族であろうと、いかなる政治体制であろうと、人類が守るべき価値なのであります。  われわれが永遠に守ろうとしている民主主義社会には、民主主義に必要な倫理、道徳があるはずであります。他人の意思を尊重する、あるいは他人の立場を尊重するやわらかな心情ややさしさ、義務を公平に分担する心がまえなど、民主主義社会に欠くことのできない道徳を育てることが必要であります。(拍手)このようなモラルの欠如の結果が、独善的な理想を掲げて、力をもってこれを追求したり、そのために仲間を拷問にかけて殺してしまうというような現象を生むのであります。(拍手)  道徳教育は修身の復活ではありません。新しい社会に適応した国民最低のモラルを教えない国はないのであります。現代の子供は、心の問題について、やさしさが欠けているというのが専門家たちの指摘であります。子供たちが学校で鍛えられるのはただ知識だけであり、親の期待するものも成績だけだということになれば、子供たちの世界は砂漠のようなむなしいものになるのは当然であります。これでは、いかに就学率が世界で第一などと誇ってみたとしても、一体何の意味があるでありましょう。全国民の皆さんが深く心にとどめていただきたいのは、教育の問題であります。私は、この点について内閣総理大臣の御所感をお尋ねいたしまして、私の質疑を終わらせていただきます。(拍手)   〔内閣総理大臣田中角榮君登壇〕
  8. 田中角榮

    ○内閣総理大臣(田中角榮君) 倉石君にお答えをいたします。  まず、経済協力のあり方を再検討し、政府開発援助を量、質の面で拡大をすべしということでございますが、わが国の経済協力は、一九七一年実績におきましては、量的におきまして米国に次ぐ第二位の地位を占めておるのでございます。しかし、質的には、政府援助は約その二四%にとどまっておりまして、DACの平均数字を下回っております。世界第二位の経済力を持つに至ったわが国でありますので、政府開発援助の量的拡大、借款条件の改善、アンタイイングの推進等、重点を置いてまいりたい、こう考えるわけでございます。  第二には、インドシナ地域における復興、和平の定着のためのアジア諸国による国際会議開催等についての御発言でございましたが、先ほども申し上げましたとおり、インドシナ地域の復興と安定に貢献するには、単独で協力をする場合、国際協力を通ずる場合、いずれの方法考えられますが、わが国といたしましては、両面を考究すべきだと考えておるのでございます。至難の事業であるだけに、多くの国々の共同参加が求められることが効率的ではないかと考えております。そのためには、社会体制を異にする国々をも含めた関係各国との相談を重ねてまいりたい、こう考えます。しかし、バンドン会議のようなはでなものは必ずしも考えておらないわけであります。じみちな外交努力を展開することが先決であり、その段取りはかねてから検討しておる次第でございます。  第三は、日ソ関係についての御発言でございましたが、日ソ関係は、経済、貿易、文化の各分野において年とともに着実に進展をいたしておりますことは御承知のとおりでございます。政府としては、今後とも互恵平等の原則の上に立って、隣国ソ連との多面的な関係の発展をはかる方針でございます。  しかしながら、同時に、日ソ関係を真に安定的基礎の上に発展せしめるためには、懸案の北方領土問題を解決し、平和条約を締結することが不可欠でありますので、政府は、引き続きソ連との交渉に一そうの努力を傾けてまいりたい、こう考えます。(拍手)  貿易、経済問題で日米間にある感情のもつれをどうするかということでございますが、日米両国は経済関係の維持、強化が、両国のためばかりではなく、世界経済の発展にとっても不可欠であることを十分認識をいたしておるのでございます。  私は、ハワイでニクソン大統領話し合いをいたしましたときに、日本としては、両三年以内に国際的な均衡を達成するよう努力することを申し述べ、理解を得てまいっておるわけでございます。対米貿易収支の不均衡是正に対しては、政府も、国民の理解を得て、精力的に行なっておるわけでございます。しかし、今年末までの予想をいたしますと、去年よりもなお日本から米国への貿易、俗に言う対米出超が拡大をいたしておるのでございまして、対米貿易是正のために、なお一そうの努力を傾けてまいらなければならない、こう考えておるのでございます。アメリカに対しても、日本に対する輸出の促進等に対して努力をしてもらうよう、要請もいたしておるわけでございます。日米間の友好の基礎を確保していくためにも、日米間の貿易不均衡というような問題は、どうしても国民各位の協力を得て、正常なものにしなければならない、それは焦眉の問題であるといわざるを得ないのであります。政府はこれが解決に全力を傾けるつもりでございますが、国民皆さんの御協力も切に願いたいのでございます。(拍手)  国の安全保障に対する基本的見解について御発言がございました。自国民の生命と財産を守らなければならないことは国の義務であります。そのため、国防の基本方針に基づいて、最小必要限の自衛力を漸進的に整備し、将来、国連が有効な平和維持機能を果たし得るに至るまで、どうしても日米安全保障体制を維持しなければならぬのであります。先ほどもお答えを申し上げましたが、最も合理的な負担において専守防衛の実をあげておる日本としては、日本だけで平和と独立を守れないという状態でありますので、日米安全保障条約とあわせて、日本の完ぺきな安全を保障しておる、これは不可分のものであるということを十分御理解いただきたいのでございます。(拍手)言うなれば、日米安全保障条約というものがもし廃棄されて、日本だけで防衛を行なうとしたならば、いまのような四次防が大きいなどという考え方、そんなものでは日本が守れるものではないという事実を、十分御理解をいただきたい、こう思うのでございます。(拍手)その意味で、国連が有効な平和維持機能を果たし得る日まで、日米安全保障条約を維持してまいる、こう申し上げておるのでございます。しかし、これらの問題だけで解決できるのではなく、国際協調のための積極的な外交、物心両面における国民生活の安定と向上国民が心から愛することのできる国土建設等の内政諸施策を推進して、これらの努力の総合の上に、わが国の独立と安全が保障されると考えるのでございます。先ほども御発言がございましたが、わが国は、平和な島国に閉ざされて、恵まれた四半世紀を過ごしてまいりましたので、ややもすれば防衛問題に対する国民の関心が薄いかもしれませんが、その当否はさておき、国会の内外において論議が重ねられ、国民の合意が得られるように、政府は努力をしてまいりたいと考えるのであります。  基地に対する住民感情の問題等に対しての御発言がございました。しかも、基地に対する住民感情の問題と、安保廃棄というような問題、これは別な問題ではないか、別の問題として取り扱うべきであるということでございました。また、地域開発に支障のないように、支障となるものについては返還を求めたり、周辺整備事業に万全を期すようにという御注意でございますが、全く同感でございます。  現在、いわゆる安保反対という政治的な立場と、地域的な基地問題とが結びつけられているという側面があることは、全く御指摘のとおりなのであります。わが国の安全を確保し、アジアの安定に資するためには、日米安全保障条約体制が必要であり、そのために必要とされる米軍施設、区域は、日本国民全体の安全と平和のために存在をするのでございます。したがって、施設、区域周辺住民の不便や負担は、国民全体でこれを分かち合うということでなければならぬのであります。(拍手政府としましては、地域の福祉と発展にとってできる限り支障にならないように努力を傾けますとともに、周辺対策に万全を期する所存でございます。  先般の日米安保協議委員会において十カ所の施設、区域の整理統合が合意されました。これからも積極的に、地域開発の必要のあるところの基地の周辺整備等、住民各位の期待にこたえられるように整備をしてまいりたいと考えておるのでございます。  住民登録の拒否の問題についてでございますが、自衛隊についての住民登録が事実上拒否されておることは、国民としての権利義務行使の基礎となるものだけに、まさに憲法で保障された基本的人権にかかわる重要問題であって、はなはだ遺憾なことであります。こんなことが行なわれてはなりません。(拍手)こういうことが現に行なわれておって、憲法の基本人権などを論ずるということ自体がおかしいのであります。(拍手政府は、この問題を地方自治の基盤をも脅かす重大な問題であると考えており、地方公共団体の良識を信頼して今日までその是正方を指導してきたところでありますが、今後もとのような認識に立って、すみやかな事態の解決のためにさらに努力を重ねます。(拍手)しかし、これは小さな問題ではありません。与野党とか、考え方の違いではないのです。憲法の基本人権を守るということの第一ページにある問題であります。(拍手)目的のために手段を選ばないというような問題に、かかることが使われることははなはだ遺憾であります。(拍手)  賃金上昇が生産性上昇を上回り、物価にはね返ることにならないかという御指摘でございますが、昭和四十三年以降、賃金上昇率が生産性上昇率を上回る傾向が見られます。これは、物価問題のもととなっておる先進工業国で、賃金が生産性でまかなえない、賃金が生産性を上回るというような問題が続くと、どうしても、西欧先進国にあらわれておりますように、卸売り物価に影響いたします。それはすぐ消費者物価につながるのでございます。そういうことが起こらないようにと、先ほども施政方針演説政府の基本的な考え方を述べたわけでございます。(拍手)  その意味において、長期的に見ますと、わが国においては、両者は均衡がとれて推移をしてきたと認められておるのでございます。しかし、最近、物価や賃金の上昇が目立っておりますので、労使における価格及び賃金の決定が、国民経済全体の中で均衡のとれた形で行なわれることが望ましい、こう考えておるのでございます。  国民福祉の指標を策定し、福祉社会のビジョンを国民に示さなければならないという意味の御発言でございました。全く御指摘のとおりでございます。政府は、今年度を社会福祉の年として、社会福祉拡充を目ざして予算編成をいたしたのでございますが、新しい長期経済計画の最重点項目の一つとして、国民福祉の充実も考え、またこの長期経済計画の中に、長期間にわたる社会保障の位置づけということを答申していただこうということを考えております。  なお、この答申というものをいただきましたら、体系の整備等を含めて、計画的に社会保障の充実をはかってまいりたい、こう考えておるのでございます。  教育の根本に対する所見いかんという問題でございますが、「教育は、次代をになう青少年を育て、民族悠久の生命をはぐくむための最も重要な課題である」と演説で申し述べましたが、私は教育が一番大切な問題であるとしみじみと感じておるのであります。(拍手)お互い人の子の親であります。われわれの生命には限りがあります。しかし、日本民族の生命は悠久なのであります。われわれの子供や孫が国際人として尊敬されほめられるような人になってもらいたいと思わない親はないと思います。私は、そういう意味で、教育というものは、知識を得るところではなく、人格形成の場でなければならない、(拍手)こう真に考えておるのでございます。日本人としてつちかわなければならない心をほんとうに教え込まれるような理想的教育環境を整備するために、政府は思い切った施策を行なうつもりでございますし、国民がこの教育充実のために真に努力を傾けられ、政府の施策に協力されることを心から期待してやみません。(拍手)特に先ほど倉石君の述べられたとおり、教育の任務は民族的伝統の継承と民主社会の規範の体得の上に個人の可能性の豊かな開花をはかることによって、平和な国家、社会の形成者を育成することができるのだという考え方も全くそのとおりでございます。(拍手)お互い、政府を鞭撻していただいて、世界に冠絶した、日本ほんとうに適合した教育環境をつくることに努力をしてまいりたいと思います。(拍手)     —————————————
  9. 中村梅吉

    議長中村梅吉君) 辻原弘市君。   〔議長退席、副議長着席〕   〔辻原弘市君登壇〕
  10. 辻原弘市

    ○辻原弘市君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいまから内政面における基本的な課題、かつ、具体的な問題について、若干の意見と提案を交えながら、総理以下関係各大臣に対し、その所信をただしてまいりたいと存じます。(拍手)  第一の問題は、政府は、これまでの大企業中心の高度成長経済を、どのように国民福祉中心の経済に変えていくかという課題についてであります。  総理は、就任以来たびたび発想の転換を言い、選挙中には、いわゆる日本列島改造論をもって、流れを変えるなどと広言をしてこられたが、いまや、国民の大多数はそんなことばをだれも信用はしておりますまい。(拍手)あなたの列島改造論にあおられて丁土地の投機は収拾のつかないまでも進行し、日本列島総買い占め、日本列島総公害化への危険を国民がはだで強く感じているからであります。(拍手)  田中内閣発足以来おやりになったことは、一つにはアジアの緊張緩和に逆行する四次防の決定とこれが推進であり、いま一つは列島改造論を振りかざした昨年暮れの大型補正予算の成立と、いままたそれに輪をかけた超大型予算編成であります。そこには土地と株の高騰と公共料金引き上げによる激しいインフレの足音が聞こえるばかりで、国民生活福祉優先の影すら見当たらないというのは言い過ぎでありましょうや。功罪相半ばするどころか、せっかくの日中国交回復実現というはなやかな舞台も、いまや、国民の脳裏から消え去りつつあることも、けだし当然といわなければなりません。  四十八年度予算を見ても、また総理の施政方針や答弁を承っても、発想の転換どころか、超過密経済へひた走る高度成長路線を一そう強めていることは明らかであります。事実、政府の経済計画の前提となっているのは、列島改造構想でありましょう。先ほどあなたは石橋書記長の答弁に、開き直って、いたけだかになって答えられておりましたから、あらためて申しましょう。すなわち、昭和六十年のGNPの規模をあなたは三百四兆、言いかえれば一兆ドルの経済にするというのでありましょう。一兆ドルといえば、ちょうどいまのアメリカのGNPとほぼ同額であります。人口がわが国の倍、面積が約三十倍のアメリカと同じ経済規模を四つの島に乗せようというのでありますからたいへんであります。この一兆ドル経済を実現していくためには、鉄は現在の二倍、石油は四倍、工場用地では二・五倍、水は四倍、さらには超大型コンビナートも必要となってくるでしょう。いま国民が願っていることは、こんなタイプの経済大国ではないはずであります。現実に政府自民党や財界が謳歌した昭和元禄経済大国は、国民福祉を保障しないばかりか、生活のあらゆる分野で矛盾を露呈し、ますます住みにくくしているではありませんか。のみならず、世界からはつまはじきされ、孤立化の傾向を深めていることはいなめない事実であります。  大量生産、大量消費の経済は、いやおうなしに大量の廃棄物を生み出すのであります。国内は公害とごみの山、しかも輸出第一主義の経済は、ドルの札びらはたまっていくけれども、世界の資源を食い荒らし、一兆ドル経済のもとでは、世界資源貿易の三〇%を日本が占めることになるのであります。第三の世界といわれる開発途上国では、すでにタイ等に見られるように、資源ナショナリズムが高まりつつあるのでありまして、たとえば一兆ドル経済に見合う八億キロリットルの原油を海外からスムーズに買い得るかどうかだけをとってみても、まことに考えさせられる問題であります。  公害環境破壊、資源の浪費と収奪、これが高度成長の帰結であるという反省が、広く世界にも、国民の間にも高まってきているのも当然であり、わが国の経済のあり方を根本的に考え直さなければならぬことはいうまでもありません。国際経済との調整をなし得るような真の福祉優先の経済への転換を急げというのであります。そのために、経済の計画的運用が必要であります。大企業の野放し的投資のあり方を改めさせるため、主要産業の設備投資計画を国の計画で規制できるようにし、公害防除の義務化、社会的諸施設への資金の確保など、投資内容を生活関連投資に比重を移していくことが不可欠であります。また、石油、電力などエネルギー需給の計画化、効率的利用のための国の管理、さらには私的独占の制限、不公正取引、独占価格の規制、土地、水などの資源利用についての企業の社会的責任を明確にするなど、経済の民主的、計画的運営のため、経済計画法あるいは経済基本法をおつくりになる考えはありませんか、総理にお伺いをいたします。(拍手)  第二は、スピードの速まってきたインフレに対して、どのように政府は対処しようとしているかという問題であります。  本年初頭の新聞は、一斉に、ことしはインフレの年だということを強調しておりましたが、新聞の論調をまつまでもなく、すでにわが国経済はインフレの新たな局面に突入していると見るべきでありましょう。  これまで、わが国物価は、卸売り物価が比較的安定していて、消費者物価が高騰をするという特色を持っておりましたが、昨年からは卸売り物価が急上昇を始め、去る十二月の卸売り物価指数は一一九・一%で、年間上昇率は八・五%をも示しているのであります。これはやがて消費者物価の高騰に発展することは必至でありますが、政府の御認識を承りたいと存じます。  他方、景気は円切り上げにもかかわらず、次第に回復、上昇に転じ、ドルの蓄積は一そう進み、貿易収支は政府見通しでも八十九億ドル、九十億ドル以上の黒字になることは明らかであります。このドルの増加に対して、政府は不況による一時的現象だと説明してまいりましたが、景気回復基調となっても一向に減りそうもなく、四十八年度も八十億ドル以上の黒字が予想されております。このことは、輸出第一主義などの経済構造に由来するもので、根本的に体質を改めない限り、この傾向は続くものでありますが、総理はどのような認識と具体策をお持ちか、承りたいと存じます。(拍手)  総理日本列島改造論の提唱は、政府の大規模な公共投資やだぶついた資金と相まって、土地と株の異常な投機を招き、土地と株による不労所得がいまや数十兆にも達する結果となっております。営々と働く勤労者や庶民は、いまやインフレで苦しみ、一方、大量の土地や株や不動産を持つ企業や人は笑いがとまらない。これでは額に汗して働く者はたまったものではありません。(拍手)  このインフレテンポに一そうの拍車をかけているのが、二兆三千四百億という巨額の国債を財源とした四十八年度の超大型予算並びに財政投融資であることは、先ほど石橋書記長が指摘をしたとおりでありますが、前年に比べ三千九百億増という国債発行は、前年よりわずかに依存度は下がったというものの、諸外国の五%から六%という依存度に比べれば、きわめて高く、インフレ進行に強いプレッシャーとなっていることは疑う余地もありません。(拍手)  政府は、四十八年度予算を「イイヨニハシレ」などと自画自賛をしておるようでありますが、巷間「イイヨニハシナイ」とも言っていることを御銘記願いたい。(拍手)また、私がごろ合わせをいたしますと、「ヒトノヨニハジヲシレ」となりましたが、いかがなものでございましょう。(拍手)  来年度の経済成長率は、政府見通しでも実質一〇・七%と高く、一〇%以上の成長は間違いないでしょう。特に、年度後半には民間設備投資が大幅にふくれ上がることが予想され、再び民間設備主導型の経済拡大が大きく頭をもたげ、日本経済の矛盾と悪循環が増幅される危険が大きくはらんでおるのであります。  私は、これらの観点から、政府インフレ福祉、円のトリレンマなどと逃げず、まずインフレ対策を第一義として、きびしい姿勢をとることをこの際要求いたします。(拍手)  民間設備投資の行き過ぎを抑制していくために、この際、独占企業、大企業法人税率を引き上げるべきではなかろうか。わが国の大企業は、手厚い租税特別措置と国際的にも低い法人税にささえられ、中小零細企業の倒産、破産を横目に繁栄し続けていると言ってさしつかえありません。租税特別措置による減免は、国税だけで三兆円にも達するという計算もあるほどで、先ほどの総理の四百億程度という御答弁には、全く納得がいきません。まさにナンセンスといわなければなりません。法人税率は、基本税率で三六・七五%、地方税を合わせての実効税率四五・〇五%となっておりますが、諸外国のそれに比べると低く、少なくとも基本税率を四〇%程度引き上げる必要ありと考えます。財源の確保と、過度の設備投資抑制という両面の効果をねらい、この際実行すべきだと思うが、総理の御所存を承りたいと思います。  さらに、焦眉の問題である土地対策については、これまた先ほど石橋書記長が詳しく触れましたので重複は避けますが、政府土地対策については、実際の効果を危ぶむものであり、国民期待とはほど遠いものとなったことは事実でありましょう。特に、若干の課税がかえって末端需要者である庶民の購入価格に上乗せせられる危険が大いにありますが、その防止策をお持ちかどうか、承っておきます。  次に、有価証券取引税については税率引き上げが行なわれましたが、株の売買利益、いわゆるキャピタルゲインについては手をつけておりませんが、過度の投機を押えるため、諸外国並みに復活すべきではないでしょうか、承りたいと存じます。  総理の施政方針の中にも、みずから認めておられるように、数次にわたる円対策も、何らの効果があがっておらず、その苦慮のあまり、調整インフレなどという、国民大衆を無視した暴挙が行なわれているのではないかという疑念は、先ほどの総理の否定にもかかわらず、依然として去らないのであります。  機を見るに敏な一部業界においては、再三にわたる再切り上げ否定の政府言明にもかかわらず、すでに実質二百八十円のレートでの取引を行なっており、再切り上げへの時期切迫の感を深めております。私は、いたずらに円再切り上げを断行せよなどと主張するものではありませんが、政府に何らの見通しも対策もなく、結果的に切り上げに至れば、その準備なき中小企業庶民一般は、インフレと切り上げ両面のしわをもろにかぶる結果となり、政府責任は重大であるといわなければなりません。(拍手)したがって、この際、あなたの情勢判断を承りたいと思います。  総理はまた、昨年十一月九日、参議院予算委員会において、わが党羽生議員の質問に答えて、再切り上げという事態を招くならば相当の責任をとる、とあなたは明言をされておりますが、ほんとうにそうお考えですかどうか、承りたいと思います。  一国の総理責任をとるという発言は、きわめて重大であって、私はむしろ、あなたが公約した福祉優先実現されなかった事態について、また国民生活に犠牲をしいるインフレが退治できないことについて、責任をとると言ってもらいたいと思いますが、いかがでありましょう。  インフレ対策との関連において、イタリアと日本だけという三けたの対ドルレートをデノミする考えを、新内閣は持っているのかどうか。また、インフレに対するデノミの効果について、どのように判断せられているか、承りたいと思います。  いま国民は、もろもろのインフレ要因によって押し上げられる消費者物価の動向に最大の関心が集まり、特に家計を預かる主婦は、毎日戦々恐々としております。消費者物価上昇は、四十八年度政府見通しの五・五%をはるかにこえる七%以上になるであろうことは、残念ながら常識化いたしております。特に、政府が予定している国鉄運賃値上げをはじめ、その他の公共料金値上げがその主因となっているのであります。特に国鉄運賃値上げは、現在のインフレ進行下においては他の公共料金物価へのはね返りはきわめて大きくインフレに加速度を与えることは必至であります。この点を一そう重大に考え、国庫負担をさらに投入するなど、運賃値上げにかわる別途国鉄再建策をいま一度衆知を集めて考究し、この際、値上げはとりやめるべきであろうと思いますが、政府にその御決意があるかどうか承りたいと思うのであります。(拍手)  また、かねてから問題となっている各種の工業製品の値下げをはかるために、大企業、独占企業による管理価格、寡占価格について、必要ある場合、公正取引委員会が立ち入り調査、勧告、また特に必要と認めた場合は、原価の公表をも行ない得るような立法措置をとるべきであろうと考えますが、その御用意があるかどうか承りたいと存じます。(拍手)  政府は、口では公共料金抑制、物価対策を言いますが、先ほどの御答弁のごとく何もありません。今回の施政方針を承っても、どこにも断固として行なうという強い姿勢も決意も見当たりません。まことに遺憾でございます。この際、決意を新たにして諸策を実行するよう強く国民の名において要求いたします。  次に、福祉政策について承ります。  総理は、ことしは福祉の年とするということを盛んに強調され、選挙中には、いわゆる五万円年金をつくるということを大いに宣伝されました。ところが予算案からその中身を見ると、ハイは前年対比二四・六%ときわめて大きくなりましたが、福祉は一向に大きく伸びてはおりません。  確かに、社会保障関係費は、昨年の一四・三%から一四・七%と微増はしておりますが、それは二六・四%という予算規模の膨張に比べますると、まさしく微増であるといわざるを得ません。しかも、その内容は、老齢福祉年金月三千三百円が五千円に引き上げられたこと、難病対策に幾ばくの前進が見られたこと程度でありまして、福祉重点などとはどこをつついても言えるものではございません。(拍手)  特に、政府公約の五万円年金に至ってはさたの限りで、羊頭狗肉もいいところであります。国民はあすにでも五万円もらえるものと考え選挙自民党期待を寄せました。ところが五万円もらえるのは、厚生年金では加入者二千二百五十万人、受給者六十四万人のうちわずかに六万人で、受給者の一割にすぎないのであります。また、国民年金では五万円もらえるのは昭和六十一年からとあっては、だまされたと国民が憤慨するのもあたりまえであります。  一方、掛け金だけは容赦なく引き上げられることになりました。厚生年金の場合六・四%から七・九%に、国民年金は五百五十円が九百円と大幅に引き上げられ、まさに高負担、低福祉のモデルとも言うべきでありましょう。このようなごまかし年金をつくらなければならないというのも、賦課方式ないし修正賦課の方式に転換させないからであります。欧米先進諸国のほとんどは賦課方式をとっているではありませんか。なぜ賦課方式がとれないか。先ほどの総理の御答弁では納得ができませんから、いま一度あらためてお尋ねをするのであります。(拍手)  政府は、また財界も、約八兆にのぼる積み立て金運用の魅力を忘れることができないとでも言うのでありましょうか。年金は人生の有給休暇であるという思想がヨーロッパ社会では定着しております。わが国では、早くかくあらしめたいとわが社会党は念願をしております。この立場から考えて、年金の給付開始の時期と定年が食い違っていることは、老後を一そう不安定ならしめており、問題であります。したがって、これに相互の関連性を持たせるために定年を延長させることが必要と思われまするが、積極的に行政指導されるお考えはありませんか、お伺いをいたします。  次に、かねてから非常に苦情の多い所得制限については、この際、年金は権利としての年金であるという立場から、これを撤廃してはどうかと考えますがいかがでありまするか、お伺いします。  無拠出の老齢年金を月五千円に引き上げるとおっしゃるが、どう考えても中途はんぱであります。あめ玉年金から、ようやくお小づかい年金になった程度で、老後保障にはほど遠い。せめて、政府であっても、自民党であっても、生活保護の水準並みくらいには引き上げるのが常識であろうと思うが、いかがなものでありましょうか、承りたいと思います。(拍手)  また、激しい物価上昇の中で老後生活に苦しんでいる多くの退職公務員その他の年金生活者の方々に対し、今回、おおむね四〇%程度の改定が行なわれましたが、今後毎年ベースアップに完全にスライドさせる方式を確立する必要ありと考えますが、実行されますかどうか。  また、厚生年金その他の年金についても、欧米では常識化している賃金に対する自動スライド制を採用すべきでありますが、その御用意がおありになりますかどうかをお尋ねいたします。  わが党は、今度のこの国会に、国民年金厚生年金を中心として、被用者年金の全面的改正案を提案するつもりでありますので、この機会に、その内容の骨子を申し上げておきたいと存じます。  六万円年金実現し、最低保障は月四万円とし、最高時賃金の六割を制度として保障いたします。  また、既裁定の年金を含めて、年金の賃金に対する自動スライド制を確立し、現行の積み立て方式を修正賦課方式転換させるとともに、積み立て金の運用については加入者も参加し、民主的な運用を可能ならしめるため、運営審議会を設けることにいたしておるのであります。  また、積み立て金の使用目的は、加入者の生活と福祉向上に直接寄与するものに限定すべきであると考えているのであります。  次に、年金に関連して、労災補償についてお尋ねいたします。  私は、昨年の予算委員会でもこれらの問題を取り上げましたが、あらためて新内閣にその実現要求いたしておきましょう。  労災問題に対する調査は、昭和四十四年、四十五年に労働省が行なったのが唯一であります。四十四年調査によりますと、職場における公務死に対する労災補償の平均額がわずかに百十五万円、遺族に対する年金額が平均三十万円であります。人間一人の命があまりにも、その代償としては低過ぎるではありませんか。他の各種の補償に比較しても均衡を失しておるのであります。  前田村労働大臣は、「ILO百二十一号条約基準には達しているが、ぜひ再検討したい」と私に答えておりますが、ぜひとも改善をしてもらいたいと考えまするので、労相から明確にお答え願いたいと存じます。  また、労災保険の中には制度としての一時金がありませんが、これは遺族年金と一時金の両建てにすべきであろうと思いますが、いかがなものでありましょう。  いま一つ、労災の問題として提起しておきます。  最近、農業の機械化が進むに伴って、それを使う農民のけがが非常にふえているのであります。そのため、これらの農民の労働に対して、労災の適用を一そう拡大する必要があると考えまするが、今後これをどう扱われますか、政府の御所見を承っておきます。  次に、医療制度の改革について厚生大臣にお尋ねをいたします。  現在の医療制度は三つの大きな欠陥を持っております。  その第一は、予防を忘れて治療本位に堕しているということであります。PCB汚染などに代表されるように、公害病、難病、また成人病などによる健康破壊が進行している現状において、これに対応し得る医療体系の整備が緊急の問題でありまして、予防、健康管理、リハビリテーションなどを含む総合的な医療制度の確立を急がなければなりません。  第二は、保険主義による低医療からの脱皮であります。特に、医師、看護婦の不足をどうして補うか、これまた緊急の課題でございます。  第三は、売薬医療といわれる弊害の除去であります。わが国の総医療費三兆円のうち、四四%は薬代であります。いまの制度のもとでは、ますます薬代の比重は高まり、一そう保険財政を脅かすでありましょうし、薬による公害も広まる危険を内蔵しております。これらの弊害をなくしていくために、今後医師の技術料をうんと高めることによって、医薬分業に進むべきではないかと考えますが、そのお考えがありますかどうか。この点については、去る十二日の党首会談において、わが党赤松副委員長に対して、総理も明言されているようでありますから、あらためて総理からもその方針を承ります。  政府は、以上私が指摘した根本問題に触れようとせず、いまに至るもなおいたずらに保険財政の赤字にのみこだわり、若干の国庫負担保険料引き上げによって当面を糊塗しようとしているのは、医療保障を後退させるものであって、断じて許せません。(拍手)再検討するお考えはありませんかどうか承りたいと存じます。  ここで、私はあらためて総理に伺います。  先ほどから指摘をしてまいりましたように、政府のいう福祉国家、福祉優先というのは全くの口頭禅で、その証拠がわが国国民所得に対する社会保障の給付率に端的にあらわれております。一九五五年の五・三%がようやく六・三%程度になったにすぎず、欧米各国の一五ないし二〇%に比べますると、とても問題になりません。昭和三十七年の社会保障制度審議会の答申に指摘されているように、西欧並みにするためには、社会保障費を倍以上にせねばならないのであります。したがって、この際、老後保障、医療保障、心身障害者保護、母子福祉、生活保護など、社会福祉の諸問題について長期計画を作成し、その実現目標を明らかにする必要があると考えます。  総理は、施政方針、また先ほどの答弁でも、新長期経済計画の中で社会保障の位置づけを考えると述べておられるが、はっきりいたしません。その場合、国民所得に対する給付率はどの程度目標とされるか、考えがあれば明確に承りたいと思います。  要するに、私の言わんとするところは、福祉の長期計画を立てることによって、経済の中で、国民のための福祉を先取りせよということであります。積極的な御見解を承りたいと思います。(拍手)  次に承りたいのは、減税の問題です。いま、勤労所得税を納めるサラリーマンや労働者の税に対する不平不満はまさに爆発寸前にあるといって差しつかえないでありましょう。株や土地や資産に対する税金は安いのに、なぜ働く者の税金は高いのかというのであります。政府減税減税と宣伝するが、一向に減税にはなっていないではないか、むしろ去年よりことしのほうが税金はふえているという素朴な憤りがみなぎっているのであります。要するに、名目的な給与のアップと物価上昇の中で、一向に減税感がわいてこないというのが偽らざる庶民感情であることも総理は銘記すべきであろうと思います。そのとおり、結果的には、減税にはならず、自然増収という形の増税となってあらわれているのであります。本年度の自然増収もまた、勤労所得税だけではむろんありませんけれども、おおむね三兆円が見込まれるではありませんか。その中で、所得税減税は四十八年度わずかに三千百五十億円にすぎず、物価上昇を七%とすれば、三千五百七十億円の物価の調整減税が必要だというのに、これでは物価上昇のカバーすらできないことになります。(拍手)  総理府の統計によれば、勤労世帯四人家族の年間生計費は約百五十万円となっております。生活費非課税原則からいうならば、課税最低限は当然百五十万円に引き上げるべきでありましょう。総理はたびたび諸外国の例を引かれるようでありますけれども、諸外国の給与はどうか、福祉はどうかという比較をやったことはございません。私は、わが国のこの低い課税最低限の問題について、それを含んで直ちに一兆円程度減税を行なう必要ありと考えまするが、いかがでしょう。また、年度内にいま一度減税をやるべきだと考えますが、そのおつもりはありませんか。  次に、住民税についてでありますが、所得税政府も四人世帯百三万円から百十四万円に課税最低限引き上げようとしておりますが、住民税に至っては、八十万円が八十六万円になるにすぎず、所得税との差はかえって大きくなることになるのであります。この差をいつごろまでに解消するつもりなのか、承りたいと思います。  次に、今回、中小零細事業者について、事業主報酬制度を設けて減税措置をとったことはけっこうだと思いますが、それを青色申告者だけに限定したことはいかなる理由に基づくものか。青色、白色とも認めるべきだと思いますが、政府の態度を承りたいのであります。  昨今、富と所得の不平等がますます拡大しておりますが、その中で政府は、高福祉負担などという所得格差を無視した理屈を押しつけてきております。それはやがて、付加価値税あるいは売り上げ税などという大衆課税へ発展させるための下心ではないかという勘ぐりも生まれるのでありますが、いかがなものでありましょう。私は、物価へのはね返り、中小零細企業への悪影響、また大衆課税となる税の性格から、絶対に認めがたいのでありまするが、総理大蔵大臣の御所見を承りたいと思います。  次の問題は、内外から注目を集めている官公労働者の労働基本権の問題について、田中総理の所信を承りたいと存じます。  今日、日本の経済はGNP世界第二位という高度成長を遂げ、よきにつけあしきにつけ、内外の関心と注目を集めております。しかしながら、この成長の背景に、三千五百万人にのぼるわが国労働者の低賃金と長時間労働のあることを見のがすわけにはまいりません。欧米水準の半ばに達しない低賃金構造のために、日本に対するチープレーパーあるいは輸出ダンピングという非難はますます高まり、低コストによる輸出の増大は円切り上げという形で逆流してきていることは、先ほどから申し上げましたとおりであります。  こうした国際的非難のよって来たったゆえんは、歴代自民党内閣の前近代的な労働政策にその多くの原因があるといわざるを得ません。とりわけ、労働基本権に対する政府と使用者の硬直した態度は、ILOという国際的な場で再三批判の対象とされてきているのでありまするが、ILO憲章やわが国憲法をひもとくまでもなく、スト権を含む労働基本権は、近代社会における労働者固有の権利であります。それはまた、労働者の労働条件と密接不可分の関係を持つものであることは言うまでもありません。  わが国労働者の低い労働条件の原因の一つは、政府の労働基本権制約に由来することは、いまや明白な事実であります。  一昨年末の国鉄マル生運動に関連して、ILOの結社の自由委員会は、国鉄労組、動力車労組の提訴を全面的に認め、ILO九十八号条約に明確に違反するとの立場から、国鉄当局並びに日本政府に対して改善の勧告が行なわれたことは周知のとおりであります。また、昨年十一月、総評ILO調査団の提訴を踏まえて、ジェンクスILO事務総長みずからが仲介の労をとり、政府と総評の間に直接協議が行なわれることになりました。  しかしながら、昭和四十年のドライヤー勧告に見られるように、歴代政府の労働権に対する態度は終始硬直したままであります。そのことは、ドライヤー勧告を受けて設置された公務員制度審議会が、過去六年間に何らの前進を見ていない事実をもって明らかであります。特に、労働問題に対する政府の治安対策的な観点に問題があり、こうした考えを改めない限り、政府に対する国際的非難は今後も繰り返し行なわれるであろうことを私はつけ添えるのであります。  そこで私は、決断実行を一枚看板とする田中総理に端的に伺いたい。  その一つは、内外から批判の対象となっている労働基本権問題に対して、この際、その態度を明確に示されたいと思うのであります。  二つ目には、ジェンクス提案に基づく直接協議を成果あらしめるものにする決意ありやいなや。  第三は、六年間の日時を空費している公務員制度審議会を、直ちに労働基本権問題を解決する場たらしめる御意思がありますかどうか。  第四は、ILO労働関係条約について、すべて批准するお考えがありまするかどうか。  以上、明確な御答弁を要求いたします。(拍手)  次に、農業の問題について若干お伺いいたします。  今日、日本の農業は、歴史始まって以来の危機に直面しているといって過言ではないでありましょう。わが党はかねてから、米、畜産、果樹を三本の柱とした均衡のとれた農業政策のもとに食糧の自給体制を確立せよと主張してまいりましたが、いまや、わが国の自給体制はくずれ去ろうとしております。現下の世界の食糧事情から考えてみて、この際、日本農業に根本的な改革を行なう必要があると考えますが、政府の見解を承っておきたいと存じます。(拍手)  次に、当面の緊急問題として、果樹対策のうち、特にミカンの対策についてお尋ねをいたしておきたいと思います。  いままでの政府の無計画な果樹振興策の結果、温州ミカンの栽培農家は、十年前の二十万戸から三十七万戸とふえ、その生産量も、昭和三十五年の九十万トンから四十七年には三百二十万トンと飛躍的に増加しており、おそらく十年後には四百二十万トンにも達するのではないかといわれておるのであります。この生産量の増加は価格の暴落となってあらわれ、いま生産地においてはキロ当たり二十円から三十円という、生産コストを大幅に割る危機的な状態が続いております。  かくならしめた原因は、需給の無計画と価格安定策がないことに基因するのであります。しかも、いまなおパイロット事業などで作付面積の拡大が行なわれていることなどは全く理解に苦しむのであります。特に温州ミカンは、グレープフルーツなどの輸入自由化の影響を大きく受けつつあるのでありまして、まさにダブルパンチといわなければなりません。このままで放置すれば、遠からずミカン農家は壊滅するでありましょう。したがって、この際、価格の安定をはかるために、加工用だけではなく、すべてに価格支持制度をとる考えはないか。また、隔年結果の防止策をどう進めるのか。また、加工比率がきわめて低いが、これを三割以上に引き上げるため大幅な助成を講ずる必要があるが、その御用意があるかどうか、具体的に承りたいと思います。(拍手)  次に、教育問題について文相にお伺いいたしましよう。  政府が教育改革の指針としている、いわゆる中教審答申に対する各方面の批判は、きわめて大きいものがあります。当時平均年齢六十六歳といわれた委員の構成そのものにも問題がありました。特に、過去の郷愁にとらわれた改革への発想は、新時代における人間教育、民主教育とはなじまない多くの面を持っていることは否定できません。特に、詰め込み教育、画一教育の復活であり、人間尊重や創造性をスポイルするものであって、教育改革に向かっての情熱も、発想の転換も、どこにも見当たらないのであります。さらに、中教審の構成についても再検討を加え、答申をやり直してはどうかと考えまするが、御見解を承りたいと思います。  次に、いま一点承ります。  教育の機会均等を国民に保障することは、憲法のもと、政府責任であることは言うまでもありません。これを実現する一つの有力な手段は、経済的な理由から進学が困難な子弟に対して、国が学資を負担、もしくは援助することであります。現在、そのために日本育英会があり、そのもとで育英資金の貸し付けが行なわれていますが、はたして本来的な目的を果たしているかというと、必ずしもそうではありません。  まず第一に指摘しなければならないことは、戦前から続いている育英会、育英資金という名前が示しているその性格についてであります。先ほど申し上げましたように、その目的は、一人の英才を国が援助、養成するところにあるのではなく、広く国民に対して教育の機会均等を保障するためのものであるわけですから、名前からして、育英会、育英資金というのは当を得ないのであります。この際、名称を改め、たとえば奨学会、奨学資金とし、その名のごとくに運営の改善をはかることが必要と思われまするが、総理、文相の見解を承りたいと思います。(拍手)  次に、運営内容を見ますと、対象人員は同年齢層のわずか二%にしかすぎません。イギリスの一三%、アメリカの一〇%など、国際的に見てもいかにも低過ぎ、文化国家、教育の先進国の名を恥ずかしめるものであります。せめて対象人員を一〇%程度に拡大すべきであると考えまするが、文相の御所見を承り、私の質問を終わるものであります。(拍手)   〔内閣総理大臣田中角榮君登壇〕
  11. 田中角榮

    ○内閣総理大臣(田中角榮君) まず第一に、今後の経済運営の考え方について申し上げます。  政府は、従来の成長優先の発想を改め、適切な成長のもとで、わが国経済社会の活力を生かしつつ、福祉優先の政策を推進することといたしておるのでございます。このため、政府は近く新しい長期経済計画を決定し、長期的政策運営の基本的方向を提示することといたしておるのでございます。  第二問は、経済の民主的、計画的運営のため、経済計画法あるいは経済基本法のごときものを制定するつもりはないかということでございますが、わが国経済は、民間の自由経済活動を中心として運営されておることは御承知のとおりでございます。その意味で、経済計画は、経済活動の全分野にわたり詳細にその内容を規定したり、厳格にその実施を強制するというような性格のものではなく、経済政策の基本的方向を示しますとともに、民間企業国民の活動の指針となるものでございます。そういう意味で、経済計画は閣議決定の形式をとっておりますが、これで十分であると考え、現在、計画法を制定するというようなことは考えておりません。  卸売り物価の高騰と消費者物価への波及の問題についてでございますが、四十七年度の消費者物価は四・五%でございまして、いままでに比べてほぼ落ちついておるといえるのでございますが、しかし、昨年来、御承知のとおり、木材、羊毛その他少数の商品ではございますが、卸売り物価の高騰が続きましたので、半年後、一年後には消費者物価へはね返ってくるのではないかという問題が起こってまいっておるのでございます。そういう意味で、卸売り物価の抑制をはかってまいりますとともに、これが消費者物価へはね返らないような努力をしてまいらなければならないわけでございます。その意味では、総需要の適正化、輸入の積極的拡大、競争条件の整備、生鮮食料品の安定的供給の確保、流通機構の近代化等の施策を引き続き行なうことによりまして消費者物価の安定をはかるということでございます。  輸出第一主義の経済構造の根本的改革についての御発言がございました。対外均衡達成のためには、御指摘のとおり、従来の輸出優先の考え方から転換をし、経済構造の転換もはかっていかなければならぬことは申すまでもございません。したがって、今後とも輸入の拡大、輸出の適正化等により貿易構造の是正を促進します一方、国内面で社会資本の整備や社会保障の充実による福祉政策を積極的に推進をいたしまして、資源配分を福祉重点にするとともに、公害対策の推進、産業構造の知識集約化等により、国際的に調和のとれた産業構造へだんだんと転換をしていかなければならない、こう考えておるわけでございます。  インフレを防止するために福祉予算とすべきではないかということでございますが、今度の予算は、演説でも申し上げましたとおり、福祉重点的な予算でございます。社会保障福祉政策の積極的な推進を目途として編成をせられたものであることを御承知いただきたいのでございます。しかも、インフレ防止のためには、不急不要の経費は極力これを削減をしまして、重点的、効率的に資金配分につとめておるわけでございます。そういう意味で、福祉に対しては重点的に配分をいたしておりますが、しかし、インフレは起こさないようにという考え編成をしたものでございます。  一面においては、この予算が大きい大きいといいながら、社会福祉に対してはまだ不足である、こういう御発言がございますが、そのようにむずかしい問題を対象として、その両方ともうまくいくように予算を組んだのでございます。(拍手)  法人税の基本税率を四〇%程度に引上げるべきだということでございますが、先ほども石橋さんにお答えをいたしましたとおり、租税特別措置の改廃等によりまして、平年度四百億円の増税措置を講じたりいたしたわけでございます。なお、固定資産税等の負担も高まる処置が講じられておりますので、この面からも法人の税負担は加重されることになります。  それから、土地税制庶民の購入価格に上乗せされるおそれがあるという問題でございますが、これは先ほども御発言がございましたが、国民が住宅用地として通常必要とする土地等につきましては、免税点制度を設けて土地保有税を課税をしないというようにいたしておりますので、国民が真に必要とする土地に対しては、これらの税制その他によって地価を押え、そして合理的な提供を行なおうという趣旨に出るものであることを御理解賜わりたい。  円の再切り上げについて、参議院で、「円再切り上げの事態を招くならば、相当の責任と存じます。」と、こう私は述べておるのでございます。「円の再切り上げの事態を避けるべく努力をいたします。しかし、努力をしてもそうなったらどうするか。それは相当な責任だと存じます。」こう答えておるのでございます。円の再切り上げを回避しようとする私のなみなみならぬ決意を表明したものでございます。(拍手)この決意はいまも変わっておりません。  通貨の呼称を変えるデノミネーションについての御発言がございましたが、現にデノミネーションを行なうことは全く考えておりません。  それから、国鉄運賃値上げをやめ、別途再建策を立てよということでございますが、本件については、先ほどもるる申し述べましたことでございますし、累積赤字が一兆二千億にものぼっておりますが、地形、地勢上の理由によって鉄道が運行不能になったり、国鉄が再建できなくなったらたいへんなのであります。しかも日本においては、国鉄国民の足であり、動脈であります。それは過去百年の歴史を見れば明らかなとおりでございます。その意味で、ただ税金をもってすべてまかなえといってまかなえるものではありません。予算は小さくしなければならない、社会保障費は拡大しなければならないという要請をしながら、しかも国鉄の赤字は全部税金でまかなえということでは、国鉄の再建は不可能に近いのであります。(拍手)しかもそれを、ただ防衛費をやめてというような観念的なことで、こんなことはできません。(拍手)  管理価格や寡占価格について、公取に立ち入り権及び勧告、原価公表などの権限を与えよということでございますが、自由経済体制のもとにおきましては、自由かつ公正な競争を維持、促進することにより不当な価格形成を防止することを基本とすべきであるとの見地に立ち、独占禁止法の厳正な運用により対処してまいりたいと存じます。  五万円年金についてのお尋ねでございますが、五万円年金実現物価スライドということを今年の予算実現をしたのでございまして、画期的な改善処置であると考えます。(拍手)それは、前の国会において、五万円年金ができるかどうかということに対して皆さんから御質問を受けたではありませんか。その五万円年金ができたのであります。しかも、物価のスライド制はやるのかやらぬのかと言っておったのが、ちゃんと実行いたしたではありませんか。(拍手)そういう意味で、この五万円年金物価に対するスライド制が画期的でないということはできません。しかも、標準報酬の六〇%の水準年金実現するものでありまして、この水準は、国際的に見ましても遜色のない水準年金であるということを御理解賜わりたい。  なお、年金財政方式として賦課方式を採用できない理由につきましては、石橋さんにお答えをしたので御理解を賜わりたい、こう思います。  労働者の生涯にわたる職業生活の充実と不安のない老後の生活への円滑な移行をはかるため、現在の五十五歳定年を延長するよう政府としても行政指導につとめておるわけであります。  老齢福祉年金の増額などについてのお尋ねでございますが、老齢福祉年金の受給者が老齢年金受給者の大宗を占めておることを考慮しまして、四十八年度においては三千三百円から月額五千円への引き上げをはかったわけでございますが、これは四十九年度には七千五百円、五十年度には一万円に引き上げたい、こういうことでございますので、五十年度には目標の一万円老齢年金実現をする、こう考えていただいてけっこうであります。(拍手)  なお、扶養義務者の所得制限につきましても、年収六百万円まで大幅に引き上げ、実質的には撤廃にひとしい緩和を行ないました。  なお、今回の恩給の増額にあたりましては、厚生年金等、他の公的年金制度、現職公務員給与とのバランスなどを考慮して、国家公務員の給与改善率により恩給年額の改定を行なうことといたしました。  物価スライドのかわりに賃金に対するスライド制を導入せよということでございますが、スライド制の導入はわが国年金制度にとって多年の懸案でありましたが、今回、物価を指標とする自動スライド制の導入に踏み切ったのでございます。  健保に対してもっと大幅な国庫補助を導入せよということでございますが、御承知のとおり内容の拡充をはかるとともに、政管健保の赤字補てんとして一〇%にのぼる定率国庫補助を新設することにいたしたわけでございまして、給付改善の費用につきまして被保険者にも応分の負担をいただかなければならぬことはやむを得ないことでございます。  社会党の医療保障基本法に対する所見でございますが、社会党の医療保障基本法案につきましては、国民によりよい医療を提供するという方向において、幾多の示唆が与えられております。しかし、医療に関する制度は、将来の国民の健康にかかわる重大な問題でありますから、さらに広くいろいろな角度からの意見を聞いて、慎重に方向を定めなければならないと考えております。  社会保障長期計画の樹立に対しての御発言に対してお答えをいたします。  社会保障につきましては、かねてより計画的拡充に努力をしてまいりましたが、現在、経済審議会に対して新しい長期経済計画を諮問いたしておるのでございます。近く答申が行なわれる予定でございますが、この長期経済計画の中に社会保障規模とか方向づけが示されることを望んでおるわけでございますので、答申には、政府考えておる社会保障の位置づけが答申されるものと考えておるのでございます。答申が出れば、この答申に沿って長期計画を策定したいと考えておるわけでございます。  一兆円程度減税をしなければならないのにということでございますが、四千六百億円、平年度五千二百億円、国税、地方税を通じての減税を行ないました。今度の減税の中で所得税中心の初年度三千百五十億円、平年度三千七百億円というものは、先ほども申し述べたとおり、過去に例を見ないものでございます。しかし、これをもって足れりと考えておるのではございません。これから減税も年々行なわなければならないと、こう考えております。  私は大蔵大臣在職中から一つ考え方を持っておることは、御承知のとおりでございます。それは、日本が直接税中心主義であるために財源を確保することには容易であるとしても、徴税機構が大きくなったり、また税の負担感が重いというような問題もありますので、もっと直接税と間接税とのバランスをとらなければならないという考えは、確かに個人的に持っております。しかし、それは間接税に移行すること、間接税のウエートを上げることが逆進税制に移行することだというような古い観念や古い考え方にとらわれて、なかなかそこのバランスをとることはむずかしい面もございます。それだけではなく、やはり大衆課税にならないようにするためにはどうするかというような問題も十分研究をし、案を国民に示して、国民の理解を前提としながら税の問題には転換をはかっていかなければならぬわけです。そういう意味で、現行税制下において減税が行なわれておる状態において、今年度の減税に対して政府が努力を重ねておることは、事実だけはひとつ考えていただきたい。税はうんとやりなさい。そうして間接税に移行してもなりません。社会保障はうんとやりなさい、しかも規模は縮めなさい。それはなかなかむずかしいことでございますから、よくお考えをいただきたい。(拍手)  住民税の課税最低限八十万円から八十六万円、これは小さいということでございますが、国民生活水準の推移、地方財政の状況等を総合的に考慮しつつその引き上げを行なってきたところでございまして、今後においても住民負担の軽減をはかっていくつもりでございます。  消費税あるいは付加価値税の問題については、これをどうも政府考えておるのじゃないか。これは学問的には研究いたしております。いま申し上げたとおり、付加価値税とか所得税中心の税負担が重いから、しかも人生において一番高率投資を必要とする三十五歳から五十五歳くらいの人々、しかも子供を全部学校にやらなければならないような人たちは、確かに税負担が重いのであります。そういう意味で、そういうものを思い切って直さなければならないということになると、新しいこれにかわる税制というものはどうなるのかということも考えなければなりません。いまそういう意味で検討はしておりますが、付加価値税を実行するというような決定をしておるわけではないのでございまして、皆さんの御意見も十分聞かなければ実行に踏み出さないということでありますので、現状はそのように御理解をいただきたい。(拍手)  公務員の労働基本権問題につきましては、現在、公労使三者構成の公務員制度審議会において慎重に御審議を願っておるところでございます。政府としては、同審議会の結論を待って対処したいと考えておるのでございます。ジェンクス事務局長の示唆に基づく協議は非常に重要であると同時に、複雑かつ困難な問題を含んでおりますが、政府としては今後とも誠意をもって対処してまいる所存でございます。  ILO関係条約のすべてを批准するのかどうかということでございますが、政府としては、ILOの加盟国となっておる以上、ILO条約についても、可能なものから実情に即しつつできるだけ多く批准につとめるという態度で臨むべきものと考えております。今後ともこの方針にのっとり、批准の検討を促進をしてまいりたいと考えます。  育英事業の拡充についての御発言がございました。育英ということばを使わないで奨学事業その他としたらどうかという問題に対する御発言もございましたが、これらの問題に対してはいろいろ勉強してまいりたいと存じます。  育英奨学事業につきましては、高等教育改革の一環として充実をはかるべき課題であることを考えており、今後その施策について、御意見の趣旨も参考にしつつ検討したいと思います。現に貸与人員は、四十七年度実績で、大学は十九万人、大学院は修士一万二千人、博士一万人、これは博士課程に対しては在学生の八〇%強、修士課程においては在学生の五〇%弱、大学十九万人は在学生の一〇%強でございます。これらの問題等に対しては、これからも拡充してまいるつもりでございます。  少し早口で申しわけありませんが、三十五問の質問にお答えをしなければならないのでありますから、どうぞひとつ御理解のほどをお願いいたします。(拍手)   〔国務大臣愛知揆一君登壇〕
  12. 愛知揆一

    国務大臣(愛知揆一君) 総理からほとんどすべてお答えがございましたから、私からはほんの一言二言補足を申し上げます。  予算インフレ関係でございますが、一言つけ加えて申し上げますれば、国民総生産が百兆円をはるかにこえるような場合に、これに対しまして昨年度と同様の一三%のシェアということは、決して過大なものとは思いません。  また、公債にいたしましても、現在国際的に黒字が累積しております。そして国内的には資金が過剰であります。適度な公債を出して吸収して、財政を通してこれを福祉優先生活環境優先の公共的な資金の配分に充てることが福祉国家建設のために重要なことでもあるし、また過剰な資金を吸収するということにおいてインフレ対策でもあると思います。しかも、公債の発行規模は昨年の比率よりも少ないのでございます。昨年は補正予算を入れれば一九%、これに対して一六・四%でございます。こういうところにトリレンマに対する苦心の存するところがございます。  減税につきましては、総理からお話のありましたとおりですが、所得税について申しますれば、自然増収の二七・二%は減税に当てておるわけでございますし、また中堅階級に重点を置きました。また、平年で申しますならば、最低課税限度は、標準家計で百十四万九千円、ほぼ百十五万円まで参りました。これは前年よりは、最低限が一〇%以上上がりましたから、消費者物価が五・五%上がりましても、そこに税の上でもマージンがあるということを御理解いただきたいと思います。  年金額を賃金にスライドさせるべきと思うが、所見はいかがというお問いに対しましては、総理からお答えがございましたが、御承知のように、厚生年金国民年金については、少なくとも五年ごとに給付と費用のあり方の見直しを行なって、財政再計算を実施することにしておったわけでありますが、今回は、最近の経済変動の状況にかんがみて、年金の実質価値を維持する見地から、財政再計算を待たずに給付水準を調整するように、物価自動スライド制の導入をはかることにしたものでございます。そうして今後におきましては、財政再計算の際に、賃金、生活水準向上、その他の事情の変動をも総合勘案いたしまして、年金額を改定することが適当である、こういうふうに考えております。  以下は総理の御答弁にございましたから……。(拍手)   〔国務大臣小坂善太郎君登壇〕
  13. 小坂善太郎

    国務大臣(小坂善太郎君) 私の場合も、ほとんどすべて総理の御答弁で尽きております。  若干補足させていただきますが、まず、どのようにして生産、輸出第一の経済構造を福祉優先の社会経済構造に変えていくかということでございますが、御承知のように、先ごろ、経済運営の基本方針というのを出したわけでございますが、その中で個人消費、政府消費、政府投資及び民間住宅投資、そういった福祉型の投資をいずれも多くいたしまして、在来型と申しますか、民間設備投資あるいは民間在庫投資、輸出入、そういうような支出を非常に減らしておるわけでございまして、このようにいたしまして、そういう傾向を順守してまいろう、こういうことでございます。  それから物価の問題でちょっと申し上げておきたいと思いますが、経済演説で申し上げたように、私どもは、卸売り物価を二・〇、消費者物価を五・五ということを目標にいたしておりまするが、この十一月ごろ、非常に卸売り物価が上がりました。しかしこの中で、これも辻原君御承知だと思いますが、その構造は、いわゆる非食糧農林物資、たとえば材木、製材あるいは木製品あるいは羊毛、皮革、そういうものが五一・三%を占めております。それから繊維の関係が二二・二%、鉄鋼が八・七%ということで、これだけで七二丁二%というものを占めておりますが、木材は御承知のようにたいへん下がりましたので、全体といたしまして、こういう見通しは貫き得ると思っております。  ただ消費者物価に関しましては、先ほど総理から御答弁がありましたような、いわゆる過剰流動性を吸収したり、総需要の適正化を考えたり、あるいは輸入を積極的にやったり、流通機構の改善、近代化をはかったり、あるいはまた生鮮食料品の安定的な配給を確保したり、または管理価格というものにメスを入れたり、いろいろな点で十分誤りなきを期してまいりたいと思います。  ただ一つ申し上げておかなければならぬと思いますのは、ヨーロッパにおきまして、非常に消費者価格が上がっております。イギリスも、フランスも、西独も、大体七%から八%ぐらいいっておるのでございます。アメリカのほうは、いわゆるインカムズ・ポリシーをやっておりまして、これは三%から四%ぐらいでございますけれども、そうした影響というものをわれわれは受けておるということで、非常に政府国民もともに努力して、お互いの物価を上げないようにしていく必要があるということでございます。  簡単でございますが補足いたしました。(拍手)   〔国務大臣加藤常太郎君登壇〕
  14. 加藤常太郎

    国務大臣(加藤常太郎君) 私の場合も、総理からお答えいたしましたILO並びに基本権の問題は省略いたしますが、国内問題を御説明いたします。  定年と年金の問題でありますが、定年年齢と年金の受給開始年齢が接続していることが望ましいのでありますが、このような観点から、現在定年が五十五歳でありますが、これを六十歳に延長いたしまして、定年と年金関係を大いによくして、そして、積極的に労働省といたしましてはこれを指導していく考えであります。また、これに対する財政的な措置考えております。  次に、業務上労災保険の額があまりに低い、こういう問題でありますが、労災保険の給付については従来から数次の法律改正を行なってまいりましたが、その水準向上につとめており、現在ではおおむねILO百二十一号条約水準にも達している。しかし、遺族補償給付をはじめとする労災保険の給付水準の改善については、多くの要望のあることは承知しているのであります。そこで、労働省としては、先般、労災補償制度全般について再検討を労災保険審議会にお願いいたしているところであります。労災保険の給付の改善についても、その中で十分検討していただきたいと考えております。  次に、労災保険とそして遺族の補償の問題でありますが、これは労災保険の給付の目的とそして趣旨などから現在は年金制度がとられているが、ただ、現状においては、年金受給者の中には、年金制度に直ちになじみにくい人もあるので、遺族補償年金については、前払い一時金支給制度が設けられております。しかし、労働省では、先般、労災補償制度全般にわたる問題についての検討を労災保険審議会にお願いいたしているところでございます。御指摘の問題もこの一環として今後十分検討いただきたいと考えておる次第であります。第四の農業と機械化の問題でありますが、労災保険には労働者と同様の保護を必要とする自営業者等について、特別に加入を認めているところであります。農業従事者については、労災保険審議会の答申に基づき、その従事する作業の実態から見て、労働者の態様に類似し、災害が発生した場合の業務上の判断が容易であるトラクター等の特定機械作業従事者に限定して特別加入制度を設けている次第であります。したがって、この適用範囲の拡大については、本制度の趣旨からして限界があると考えるが、農業機械の種類及びその危険性等の動向を見つつ、今後さらに検討して、大いに拡大いたしたいと思っておる次第であります。  以上のとおりであります。   〔国務大臣櫻内義雄君登壇〕
  15. 櫻内義雄

    国務大臣(櫻内義雄君) これからの農政のあり方についてのお尋ねで、特に食糧の自給率を上げるようにということでございました。政府としては、昨年十月に農産物需給の展望と生産目標を公表しております。その中で、米、野菜、肉、果実等は完全自給ないし八割以上の自給を確保することにしており、これがため、園芸、畜産、畑作等のこれからの需要の増大する農産物の生産振興をはかり、稲作転換をさらに進めて、農業生産の再編成をはかりたいと思います。  農業団地の形成をはじめとする構造、生産、流通等の各般の施策を強力に推進して、農業の体質改善を進め、生産性の高い、高能率な農業の展開をはかるよう努力してまいりたいと思います。  次に、ミカン対策についてお尋ねでございました。ミカン生産農業者の実情については、ほんとうに御同情にたえないところがございます。ことに、ただいまは、価格安定について、価格支持制度のお話がありましたが、直接的に行なうこの制度に仕組むことは困難と存じますので、長期的な需要の見通しに即した計画的な生産の指導、それから御指摘のございました加工対策の拡充等を通じて価格安定をはかってまいりたいと思います。(拍手)   〔国務大臣奥野誠亮君登壇〕
  16. 奥野誠亮

    国務大臣(奥野誠亮君) お尋ねになりました第一は、中教審答申に関する問題でございまして、その答申は一昨年いただいた答申でございます。その後、中教審に対しましては、教育・学術・文化に関する国際交流についてと題する諮問をいたしまして、これをめぐりまして真剣に討議を続けていただいておりますので、さきの答申に対して再諮問ということは考えられないわけでございます。その答申におきましていろいろな問題を提起していただいておりますので、国民の合意を得ながら、実施できるものから着実に実施していきたいということで努力を続けておりますので、ぜひ御協力をいただきたいと思います。  第二は、学資貸与の範囲についてでございます。  能力に応じて教育を受ける機会を均等にさせるという考え方を広めていきますためには、学資貸与の範囲を大幅に広げていくことが必要であると考えます。その場合に、育英という範囲を越えて学資貸与の範囲を広げていく場合には、現行の無利子貸与の制度のほかに有利子貸与金の制度考えてはどうかということも検討の課題になっております。そういう場合には、日本育英会のほかに別な仕組みをつくって、これに担当させることが妥当ではないかという考え方もございまして、これらの検討を通じまして、御提示いただきました問題におこたえをしてまいりたい、かように考えるわけでございます。(拍手)   〔国務大臣齋藤邦吉君登壇〕
  17. 齋藤邦吉

    国務大臣(齋藤邦吉君) 社会保障につきましては、年金その他、総理からたくさんの問題につきましての御答弁がございましたので、二、三私からお答えを申し上げます。  まず最初に、医療制度の問題についてのお尋ねにお答え申し上げますが、医療は単に治療ばかりでなく、健康の増進あるいは疾病の予防のための措置、さらにはリハビリテーションを含むものでなければならないという点につきましては、御指摘のとおりでございます。  政府としては、国民の健康を保護するための環境の整備と並行いたしまして、医学、医術に関する研究開発の推進、医師等の人材の確保、医療施設の体系的整備等、医療供給体制の総合的かつ計画的な整備をはかる必要があると考え、このため厚生省としては、明年度において医療体制の整備の問題を含め、社会保障に関する長期計画の策定に着手することといたしております。  医師の確保につきましては、文部省と協力いたしまして、従来から国立医科大学の新設あるいは入学定員の増員等の措置を講じ、計画的に進めておるところでございます。  また、看護婦の確保につきましては、当面養成数の増加をはかるということは緊急の課題でありますが、このためにも処遇の改善など関連する施策を充実する必要がございますので、明年度予算において所要の措置を講じておる次第でございます。  次に、医薬分業の問題についてのお尋ねにつきましてお答え申し上げますが、医療費の中に占める薬剤費の割合が高率であるというこの事実につきましては、御指摘のとおりでありますが、このことが保険財政の赤字の直接の原因であるかどうか、これはまだ検討を要する問題でございます。医薬分業の推進は診療報酬の適正化とも関係がありますので、この問題を含め、今後とも診療報酬の問題については中医協で御審議いただけるものと考えてもおりますし、なお、医薬分業の推進については、薬局の受け入れ体制の整備状況等を十分勘案しなければなりませんので、慎重に検討いたしてまいりたいと考えております。  最後に、健康保険制度の改正の問題につきましては、総理から一言御答弁ございましたが、もっと補足いたしまして申し上げてみたいと思います。  今回の健康保険の改正は、福祉重点政策の大きな柱の一つといたしまして、家族給付につきましては五割から六割に引き上げ、また、高額な医療費負担について、一定額をこえる部分について償還する、こういうふうな給付改善を行ないながら、また健康保険財政について、その本来の性格である短期保険として単年度収支のバランスをとる、こういう健全な運営ができるように改善を加えようというものでございます。これがために、過去の三千億になんなんとする累積赤字は、全部国の負担において補てんする、こういう思い切った措置を講じますとともに、単年度財政の健全化のために、国の補助を定額二百二十五億の三倍以上の定率一〇%、すなわち八百十一億に一挙に増額いたしまして、収入不足額を補いつつ、被保険者の方にも応分の保険料の増額、すなわち〇・三%、労使折半して〇・一五%ずつの保険料の増率をお願いいたすなど、多年手のつけることのできなかった給付改善等を行なわんとするものでございますので、よろしく御了承願いたいと思う次第でございます。      ————◇—————
  18. 中山正暉

    ○中山正暉君 国務大臣演説に対する残余の質疑は延期し、明三十日午後二時より本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会せられんことを望みます。
  19. 秋田大助

    ○副議長(秋田大助君) 中山正暉君の動議に御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  20. 秋田大助

    ○副議長(秋田大助君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。  本日は、これにて散会いたします。    午後四時二十九分散会      ————◇—————  出席国務大臣         内閣総理大臣  田中 角榮君         法 務 大 臣 田中伊三次君         外 務 大 臣 大平 正芳君         大 蔵 大 臣 愛知 揆一君         文 部 大 臣 奥野 誠亮君         厚 生 大 臣 齋藤 邦吉君         農 林 大 臣 櫻内 義雄君         通商産業大臣  中曽根康弘君         運 輸 大 臣 新谷寅三郎君         郵 政 大 臣 久野 忠治君         労 働 大 臣 加藤常太郎君         建 設 大 臣 金丸  信君         自 治 大 臣 江崎 真澄君         国 務 大 臣 小坂善太郎君         国 務 大 臣 坪川 信三君         国 務 大 臣 二階 堂進君         国 務 大 臣 福田 赳夫君         国 務 大 臣 前田佳都男君         国 務 大 臣 増原 恵吉君         国 務 大 臣 三木 武夫君  出席政府委員         内閣法制局長官 吉國 一郎君      ————◇—————