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1973-07-13 第71回国会 衆議院 法務委員会刑法改正に関する小委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年七月十三日(金曜日)    午前十時二十八分開議  出席小委員    小委員長 中垣 國男君       大竹 太郎君    小島 徹三君       谷川 和穗君    福永 健司君       古屋  亨君    稲葉 誠一君       横山 利秋君    青柳 盛雄君       沖本 泰幸君  出席政府委員         法務大臣官房長 香川 保一君  小委員外出席者         議     員 横山 利秋君         議     員 青柳 盛雄君         議     員 沖本 泰幸君         最高裁判所事務         総長      安村 和雄君         最高裁判所事務         総局総務局長  田宮 重男君         最高裁判所事務         総局刑事局長  千葉 和郎君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 本日の会議に付した案件  刑法の一部を改正する法律案横山利秋君外五  名提出衆法第三三号)  刑法の一部を改正する法律案青柳盛雄君外一  名提出衆法第五一号)  刑法の一部を改正する法律案沖本泰幸君外一  名提出衆法第五二号)      ————◇—————
  2. 中垣國男

    中垣委員長 これより刑法改正に関する小委員会を開会いたします。  この際御報告申し上げます。  去る十一日の小委員会における協議に基づき、議長に対し、一、去る六月二十八日の法務委員長に対する刑法改正問題についての検討善処方要請について、議長はまず法務大臣善処要請すべきではなかったか。法務委員会における検討善処要請された際、社会党提出刑法改正案について、どう考えておられたのか。二、最高裁事務処理規則による正本送付について送付を受けた国会としてはどうすべきと考えられたか。また、参考送付意味。以上の点につき、昨十二日私から議長意見を求めましたところ、次のように回答がありました。  一、議長としては、最高裁から国会に対し違憲判決について正本送付があったので、院の機関である法務委員会委員長善処要請するのが筋であると考えた次第である。  二、善処要請した際、社会党から刑法改正案提出されていることは充分承知しており、それをも含め、併せ検討善処要請した次第である。  三、法律憲法に違反するとの最高裁判決があり、最高裁事務処理規則によって正本送付されたことは、今回が始めてであることに鑑み、議長はその取扱いについて議運理事会諮問し、判決全文を掲載した官報号外を全議員に配付するとともに、特に、判決正本法務委員会参考送付手続きをとることとしたものである。  以上であります。     —————————————
  3. 中垣國男

    中垣委員長 横山利秋君外五名提出刑法の一部を改正する法律案青柳盛雄君外一名提出刑法の一部を改正する法律案及び沖本泰幸君外一名提出刑法の一部を改正する法律案、以上三法律案一括議題といたします。  質疑の申し出がありますので、これを許します。横山利秋君。
  4. 横山利秋

    横山委員 ただいま委員長から御報告のございました、小委員会で私が委員長を通じて、衆議院議長のとられた措置につきましてただしていただいたわけでありますが、その問題に関連いたしまして、まず最高裁から伺いたいのであります。  私がこの質問をいたしますのは、違憲判決という初めてのことでございますから、国会側としても、それを受け取ったものとして慎重にこの種の問題のルールを、後世のためにも確立をしていきたいのにほかなりません。  最高裁にまず伺いたいと思います。  最高裁規則をおきめになります際に、これが政府及び国会関係のあることにつきましてはかってにおきめになるわけでございますか。それとも、政府国会意見を聴取されておきめになるわけでございますか。
  5. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 規則制定は、憲法によりまして最高裁規則制定権を持っておるわけでございます。もちろん、いま御指摘のように、それぞれの関係機関に影響があるというようなものについては、十分その意見をお聞きいたすというふうなことをしておりますし、また、特に重要な規則につきましては、最高裁判所規則制定諮問委員会というのがございますので、そこに諮問をして、その規則制定諮問委員会にはそれぞれ各関係機関等からも委員として出席いただいて、そのような手続規則をつくっておるわけでございます。
  6. 横山利秋

    横山委員 規則制定諮問委員会ですか、そこには政府関係も入っておりますか。
  7. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 規則制定諮問委員会にもいろいろな委員会がございまして、一般規則のほかに刑事手続に関するもの、民事手続に関するものといったようなそれぞれの分野に応じて規則制定諮問委員会がございまして、それもその際に諮問いたすところの規則内容によっては関係機関の方にも委員として参加いただいておる次第でございます。
  8. 横山利秋

    横山委員 今回問題の焦点になります規則十四条「国会にも」というのはどこの委員会でおきめになりましたか。
  9. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 実は、いま問題になっておりますところの最高裁判所裁判事務処理規則制定されましたのは、昭和二十二年の十一月でございまして、御承知のように、最高裁判所が発足いたしましたのは昭和二十二年の四月ころだったと思います。そういうような次第でございまして、最高裁判所発足当時、まあいろいろな事務もございましたので、最高裁判所規則制定諮問委員会というものを設ける必要があるということはあったわけでございますが、直ちにそれを発足させるという時間的な余裕もなかったと思いますが、そういうような次第でございまして、この規則ができましたのは十一月一日、それから最高裁判所規則制定諮問委員会に関する規則ができましたのが十一月十三日ということになっておりまして、この最高裁判所裁判事務処理規則ができました当時におきましては、規則制定諮問委員会がまだ発足いたしておらないということで、その規則制定諮問委員会にかけた上でつくられた規則ではないというふうに記録では載っております。
  10. 横山利秋

    横山委員 事務処理規則十四条は、違憲裁判の公告として「第十二条の裁判をしたときは、その要旨を官報に公告し、且つその裁判書正本内閣送付する。その裁判が、法律憲法に適合しないと判断したものであるときは、その裁判書正本国会にも送付する。」、こうあります。「国会にも送付する。」という意味についてただしたいのでありますが、この十四条は法修正を求めているか、または法の修正を期待しておるか、どうなんですか。
  11. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 この点、この前の委員会におきましてもお答えしたとおりでございまして、このような判決がありましたときは、それぞれ政府なりもしくは国会等立法措置もしくは行政措置をする必要も何らかある場合もあるのではなかろうかというような観点から、このような判決があったということをお知らせするということでございまして、それはあくまでも便宜上そういうふうな計らいをするというだけのことでございまして、この判決送付することによって、最高裁判所として何らかの措置をとられたいというような要求は何ら含んでおらない、こういうふうに解釈しております。
  12. 横山利秋

    横山委員 期待もしておらないというわけですか。
  13. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 そのような立法もしくは行政措置というものをなされるのは、それぞれ政府なり国会のほうでおきめになることでございますので、その点について特に最高裁判所として期待するとか要求するとか、そういうふうな立場にないというふうに考えております。
  14. 横山利秋

    横山委員 しからば、政府正本を送り、「国会にも」ということばの使い分けなんでありますが、これは政府がまず第一義的に法律改正が必要とあるならば責任を持つという解釈をとっておられるのか、参考のために国会にも送るというのであるから、第一義的に政府にある。立法府として国会法律制定する権能を持っておるとするならば、なぜ政府及び国会にとしなかったのであるか。
  15. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 その辺は、結局条文書き方の問題だろうと思うわけでございまして、第十四条は第十二条の条文を受けておりまして、第十二条では「法律命令規則又は処分憲法に適合しないとの裁判をするには、」云々とありまして、その十二条を受けて条文が書いてありますので、この十二条には法律以外にも命令規則または処分の問題を掲げておりますので、これらを一括しますと、まず内閣のことについてうたって、さらに法律につきましては当然国会のほうにも関係がございますので、法律関係裁判については裁判書正本国会に送るということで、これは結局のところ条文書き方の問題でございまして、ただいま横山先生指摘のように、もしこの条文を書き分けまして、命令規則または処分憲法に適合しないときは、その裁判書正本内閣送付する、それから、法律憲法に適合しないとの裁判をしたときは、その裁判書正本内閣及び国会送付するという形になる、それと全く同じだろうと考えます。
  16. 横山利秋

    横山委員 そういたしますと、通俗的に見まして、「国会にも」というのが私ども第二義的にとられるおそれがあると思うのですが、あなたの解釈をもってするならば、それは「にも」という「も」をつけたのは、第二義的に考えたわけではない。政府及び国会を同等に考えているのだ、こういうふうに解釈してよろしいのですか。
  17. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 御指摘のとおりでございまして、あわせてとか、その両者にといったような趣旨だろうと思います。
  18. 横山利秋

    横山委員 一応あなたの言うように政府及び国会にという解釈が正当であるといたしましょう。それならば、一体最高裁として法律制定国会が第一義的であるか政府が第一義的であるか、立法権限はどちらにあるのか、その点はどうお考えになっておられるのでありましょうか。
  19. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 その辺につきましてはお答えする限りではございませんので、それぞれ法律につきましては国会政府ともども議案提出権と申しますか、そういうものがございますので、どちらがということについて私どものほうとしてここで意見を申し上げるわけにはまいらないわけでございます。
  20. 横山利秋

    横山委員 判決の多数意見の中で、私はその判決をどうのこうのと言うつもりはありませんけれども、多数意見の中で、「したがつて、尊属殺にも刑法一九九条を適用するのほかはない。」こういう文章がありますね、御存じだと思います。この意味は一体どういうふうに政府及び立法府として理解をしたらいいのであろうか。もう一回言いますと、「したがつて、尊属殺にも刑法一九九条を適用するのほかはない。」ということば解釈であります。つまり、二百条は違憲である、重罰であるから違憲であると断定をした。そうであるならば、ほかをさがしたところ百九十九条しかない。だから今日の段階においては「一九九条を適用するのほかはない。」「ほかはない」という意味はどういう意味に解したらいいのであろうか。審議をする際において考えなければならぬことだと思います。つまり、百九十九条しかないからしかたがなく百九十九条を適用するほかはない、そういうニュアンスがくみ取られるわけです。で、しかたがなくという意味ならば、一部の意見にあるように重罰だから、重罰はいかぬから軽罰にしたらどうなんだ、そういう余地を残しておるのかどうかという疑問が生ずるわけであります。この点を最高裁にお伺いすることが適当かどうか、それは疑問はあります。疑問はありますけれども、この違憲判決の精神というもの、違憲判決理由というものにひっかかるところが理論的にも二、三ございます。で、もう一度言いますが、「したがつて、尊属殺にも刑法一九九条を適用するのほかはない。」「ほかはない」という意味はどう考えたらいいんでありましょうか。
  21. 千葉和郎

    千葉最高裁判所長官代理者 お答えを申し上げます。  おそらく多数意見の部分だと思いますが、刑法規定といたしましては普通殺人罪原則でございまして、尊属殺人罪が特別の規定になっているかっこうになります。それで特別の重罰規定のほうが最高裁判断するように違憲であるということになりますと、おのずから原則に戻りまして普通殺人罪が適用される、それだけのことだろうと思っております。
  22. 横山利秋

    横山委員 その書き方というものがあなたの言うとおりであるとするならば、この書き方について別な解釈、別なニュアンスを生ますのであって、もしそうであるならば、したがって、尊属殺にも刑法百九十九条を適用するべきである、それが当然なんだ、適用するべきである。それを「ほかはない」といえば、いやいや不承不承何かほかにニュアンスを残したような書き方なんですよ。そう思いませんか。
  23. 千葉和郎

    千葉最高裁判所長官代理者 それはまあニュアンスとしてはそういうふうに受け取られるかもしれませんが、この考え方としては特別法がすでに無効である以上は普通規定が適用されるんだ、それをやや強めて言っているのかもしれませんですが、それだけのことだろうと私は思っております。
  24. 横山利秋

    横山委員 あなたが書いたわけでもなかろう。あなたに聞いてもそれはしかたがない。しかたがないということはほかはない、ということになろうかと思いますけれども、この点についてはこれは私の意見です。最高裁判決を書いた人にどうのこうのと言うつもりはありませんが、私の意見としては、ややほかに解釈の生まれそうなことが、実はいま国会において論争の一つの焦点になりかけておる。その焦点論争——修正案といいますか、そういう人たちの気持ちがここにあるとは必ずしも私は思いませんが、それのよりどころになる文章感じられるという点でありますから、私の意見として申し上げ、あなたの解釈として適用するべきであるというふうな解釈だというあなた個人の意見議事録にとどめておきたいと思います。  それから、その次に最高裁としては四月四日判決の後、四月十五日に判決確定したから四月十六日に国会正本をお送りになった。そうでございましたね。
  25. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 そのとおりでございます。
  26. 横山利秋

    横山委員 この間法務大臣は四月五日最高検通達を出した。現在刑法二百条で起訴している者はすべて起訴適用条文変更して一般殺人とするように指示し、このとおり行なわれました。この間の違い、日付の違いをどう考えるべきかということであります。最高裁としては判決確定が四月十五日であるから、十六日に国会送付をした。つまり四月十五日までは効力が生じない、こういうふうに考えていらっしゃるわけですか。
  27. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 刑事訴訟法条文がございまして、刑事訴訟法の四百十五条でございますが、最高裁判所上告裁判所として判決をした場合には「その判決内容に誤のあることを発見したときは、検察官被告人又は弁護人の申立により、判決でこれを訂正する」ということになっておりまして、同条の二項等によりますと、訂正申し立て期間を経過するか、もしくは訂正申し立て等があって訂正判決もしくは訂正申し立てを「棄却する決定があったときに、確定する。」というふうに条文上なっておりますので、本件につきましては検察官被告人または弁護人のほうから訂正申し立てというのはございませんでしたので、条文に従いまして、訂正申し立て期間でございます十日間を経過したときに確定をするということで、確定を待って裁判書き正本をお送りいたした次第でございます。
  28. 横山利秋

    横山委員 これも最高裁に聞くのが妥当であるかどうかわかりませんが、少なくとも最高裁としては四月十五日までは不確定要素を含む期間である、こういう解釈のようであります。この不確定要素のある期間にかかわらず、政府はきわめて敏速に通達を出して、先ほど申しましたような起訴理由変更をするよう指示し、それが敏速に行なわれたわけであります。これは一体適当であるかどうかという疑問が生じます。この点について最高裁意見ありませんか。
  29. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 その点につきましても、これはやはり政府のほうでおきめになることでございまして、裁判所の側としてこれについてどうこう申し上げる立場にないことを御了解いただきたいと思います。
  30. 横山利秋

    横山委員 少なくとも、あなたの口から四月十五日までは不確定期間であるという御答弁があったことを留意します。  それから、その次に昭和三十七年十一月二十八日大法廷判決関税法違反未遂被告事件がございました。この場合は関税法百十八条の規定により第三者所有物を没収することは、憲法第三十一条、第二十九条に違反する、こういうことの判決で、実質上行政処分違憲であった、こういうふうに理解されるわけですね。行政処分であるから最高裁政府だけに正本を送られたわけですね。
  31. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 そのとおりでございます。  なお、その際に記録によりますと、参考送付という形で国会のほうに、特にこの事務処理規則の十四条に基づくものではございませんが、参考送付しておるという記録が残っております。
  32. 横山利秋

    横山委員 それは参考送付規則に基づいたものではなくて、全くの参考である、こういうことですね。
  33. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 御指摘のとおりでございます。
  34. 横山利秋

    横山委員 ところがその取り扱いに際して政府は、刑事事件における第三者所有物没収手続に関する応急措置法並びにその規則を三十八年七月で制定をしたようであります。つまり、そのことは、行政処分違憲であってもそれが法律改正を必要とするという結果としてそういう内容を含むとするならば、十四条だけではこれはいけないのではないか、こういう考え方が生まれますがどうお考えですか。
  35. 田宮重男

    田宮最高裁判所長官代理者 当該裁判処分違憲であるという判断でありますならば、やはり規則の十四条により内閣送付するということになっておりますので、内閣送付した次第でございます。ただ、その処分違憲であるということで内閣のほうに送付いたしましたけれども、その際に政府側として立法的な措置をとるか、それとも行政的な措置をとるかということは、これは内閣のほうでおきめになることでございますので、私どものほうといたしましては、あくまで当該裁判内容処分に関するものであるということであるなれば、この規則に従って内閣のほうにだけ送付するということになろうと思います。
  36. 横山利秋

    横山委員 事務総長にお伺いします。私が最高裁にただしたいと思いましたのは、大体以上のことでございますが、あなたの御意見を伺いたいと思いますのは、処理規則というものはいまのお話のように終戦直後にできたものでございまして、必ずしも政府なり関係機関の議を経たものではないというお話がございました。そしてまたなるほど解釈としては、十四条は「国会にも」ということは、何も二義的に扱ったわけではないという解釈はあります。しかしながらこれをすなおに読みますと、一体何か政府が第一義的に立法責任を負っておるという解釈にとられやすい「にも」であります。したがいまして、この最高裁裁判事務処理規則につきまして、この際適切な改正をすべきではないかという感じがいたすわけでありますが、ほかの部面もずっと読んでみましたけれども、その点についてどうお考えでございましょう。
  37. 安村和雄

    安村最高裁判所長官代理者 先ほど総務局長が御説明申し上げましたように、法律処分等ひっくるめての表現と、それから法律に関する表現とであのような立言になっておりますので、法律的にすなおに読んでいただきますならばそれで十分かと存じております。しかし御質問でもございますので、なおわれわれとしては十分検討はいたさねばならないと思っております。
  38. 横山利秋

    横山委員 たいへん恐縮でございますが、委員長が先ほど御説明になりました衆議院議長からのお答えにつきまして、委員長に一言お伺いをしたいと思います。  議長は、国会正本を送られたのであるから、関係委員会である法務委員会にこれを送付をした、こうおっしゃっておられるのでありますが、議長はその意味ではこの立法国会において第一義的になすべきである、こういう解釈をとられたのでありましょうか、それとも、私の聞きたい焦点は、法務大臣を呼んで法務大臣一体政府としてはどういうおつもりか、政府案提出をする意思はないのかということをまず伺われるべきではなかったかという感じがするわけでありますが、それをなさらないということは、立法責任国会にあるから政府に言わなくてもいい、こういう判断でなさったのでありましょうか。議長にお会いになりましたときの委員長の感触をお伺いしたい。
  39. 中垣國男

    中垣委員長 私からお答えいたします。  議長は、最高裁から正本送付を受けてもう五十日にもなっておるのに政府からは案が出ないようであるから、これは立法府として何らかのお答えをしなければならぬと思う、担当法務委員会検討善処をしていただきたい、そう判断をされまして、その旨議運理事会におはかりになったようであります。そうして、それがよかろうということで、私にあのような要請をなさった、こういう順序でございまして、政府関係なく立法府というふうにお考えになったのは、政府が出していないようであるからというたてまえに立ってお話をされた、こういうふうに私は受け取っております。
  40. 横山利秋

    横山委員 政府が出していないようであるからという前提がつくようでありますが、そういたしますと、議長も、まず政府が第一義的に立法責任を負うべきであるが、政府が出していないならば国会でやるべきである、簡単にいうとそういう解釈議長はおとりになっているのでありましょうか。
  41. 中垣國男

    中垣委員長 私がそう判断して受け取って帰ってきたわけです。議長がそう考えておるというふうに私が実は判断をしたわけであります。
  42. 横山利秋

    横山委員 これは本来ならば、私は議長にここに来ていただくのはいかがかと思うのでありますが、事務総長においでを願って、今後のためにもこの解釈はどうあるべきかという点を実はただしたいと思うのであります。最高裁に聞くわけにもいきません、政府に聞くわけにもこれはいきません。われわれの解釈はどうあるべきかということなんであります。国会として、お互いに意見があるわけでありますが、少なくとも国会として国会責任者ないしは責任ある法律解釈担当者、その方にどなたかお出ましを願いたい、国会法制局の方でもいいと思うのでありますが、そういう手続をしていただけませんか。
  43. 中垣國男

    中垣委員長 次の小委員会懇談会のときにその話を議題といたしまして、結論を出したいと思います。
  44. 横山利秋

    横山委員 政府側来ていらっしゃるんですか。官房長いらっしゃいますね。最高裁のいらっしゃる場で政府側お答えを願わなければなりません。判決当該事件に限られるか、それとも法律全般を無効とするかというきわめて素朴な問題でありますが、言うまでもなく当該事件に限られるという個別的効力説政府はとっておられると思いますが、いかがでございますか。
  45. 香川保一

    香川政府委員 法務省といたしましては、いろいろ説ございますが、いま御指摘個別的効力説をとっております。
  46. 横山利秋

    横山委員 先ほど最高裁にお尋ねしたのでありますが、最高裁は、四月十五日までは不確定期間である、こういうふうに解釈をとられました。しかし、政府はすみやかに、直ちに、四月の五日でございましたか、最高検通達を出して、起訴理由変更をしろと通達を出されました。一体何の権限、何の法律に基づいてこれを行なわれましたか。
  47. 香川保一

    香川政府委員 いま御指摘通達は、最高検察庁から出されたものでございますので、問題とされる点の真意はまだ聞いておりませんけれども、察しますのに、今回の違憲判決はいわば動かしがたいものである、検察といたしましてもそれに服する、さような意味から、以後係属事件あるいは今後起訴すべき事件について最高裁違憲判断を尊重して処分をするそのような趣旨から確定を待たずに通達したものと考えられます。
  48. 横山利秋

    横山委員 私の質問に答えておらないのでありますが、不確定要素があるときに確定的な通達を出すということはおかしいではないかということが一つ。  もう一つは、何の権限で、最高検がどういう法律に基づいて、どういう権限でそれが行なわれたのか。ただあなたは、たぶんあれはあれだけの判決だからもう変わることはないだろう、重大なことだから早くやっちゃえということらしいのですけれども、それは最高検はどういう権限でそれをおやりになったのか。あなたの話だと、法務省、法務大臣に何らの相談もなかったのですか。
  49. 香川保一

    香川政府委員 さような御質問があることを予期しておりませんので、手続的にどのような処理をされたか、いまちょっと自信を持って申し上げかねますけれども最高検検事総長は一般的に、一般的なかような事件処理の関係で指揮する権限がございます。さような権限に基づいて通達されたものと思います。  不確定要素があるのにという御質問でございますが、検察といたしましては、先ほど問題となりました訂正申し立ての余地は全くないという判断に立っておりますし、確定を待たずにすみやかに最高裁判決に従った検察運営をするということがより大事だ、かような御判断から出されたものと思います。
  50. 横山利秋

    横山委員 納得できませんね。この種の裁判裁判遅延が問題となっておるときでありますから、急ぐ気持ちはわからぬではない。しかし、事は重大で、私が質問しておりますのも、この種の問題について各政府関係機関のルール、国会のルールはいかにあるべきかということで議論しておるのでありますから、この点大事なことでありますから、不確定要素があるにかかわらず急遽、まさに急遽、翌日最高検がこの起訴理由変更をしろというほどの緊急性というのは一体どこにあるか。これが十日たったらもう確定することがわかり切っておる。まさかとは思うけれども、もし万一この異議の申し立てなり何なりあった場合には一体どうなるのかという論理的な、私は事実問題じゃなくて論理的な矛盾がそこに存在をする。事実関係としてはおそらくなかろうと思うけれども、論理的な矛盾がそこに存在する。それにもかかわらず、もう即日、最高検が指示を出す。そういう緊急性というものは何ら、切迫した緊急性がなくてはならぬのであるが、それほどの緊急性ははたして現存しておったのかどうか、疑問を感ずる。
  51. 香川保一

    香川政府委員 理論的に申しますと、確定いたしましても、先ほど申しましたように、法務、検察といたしましては個別的効力性と申しますか、当該事件に関する最高裁判断が示されたにすぎない、法律解釈としてはさような見地に立っておるわけであります。したがって、極端なことを申し上げますと、確定いたしましても、その判決自身に対して疑問があるというふうなことでありますれば、検察としては、なお刑法上存在する二百条の適用を求めても、理論的には差しつかえないことだろうと思います。しかし、検察といたしましては、二百条の最高裁判決というものは十分承服できるものであり、さらに二百条の適用を求めるといたしますと、重ねて違憲判断最高裁でされる経緯をたどらざるを得ない、かようなことは訴訟経済からいってもむだではなかろうか、かような意味で、できるだけすみやかにさような、まあ検察から申しますれば、むだな議論の繰り返しを避けるという意味で、確定を待たずに通達した、かような趣旨だろうと思います。
  52. 横山利秋

    横山委員 だろうと思うでは困るし、あなたの推測を含めた説明では困るのであります。これはあなたが、質問を予期していなかったとか責任ある答弁ができないとなれば、これは委員長にお願いして、大事なことでございますから、私が質問したい趣旨を官房長もひとつ御理解を願わなければなりません。  もう一ぺん申しますと、第一には、不確定要素がある中で確定的な起訴理由をすることは適当ではないと思われるが、いかがであるか、これが第一。  第二番目には、一体、最高検は何の権限をもって、何の法律に基礎を置いてそういうことが行なわれるのであるか、それは権限があるのであるかどうか。  第三番目に、それは法務大臣は了承をしておられるのかどうか。法務大臣が次の委員会において説明をされたことは十分承知の上の説明のようでありますから、法務大臣、黙ってなさったとは思いませんけれども法務大臣と法務省と最高検との関係はどういうふうに事実関係が行なわれたのであるかどうか。そういうことを聞きたいのであります。  いまのあなたの御答弁は、どうもその点はっきりしないので、もしあなたが時間をかしてくれとおっしゃるならば、ひとつ次回にそれを政府側から確定的な御答弁をいただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。
  53. 香川保一

    香川政府委員 通達を出した最高検検事総長権限は、これは検察庁法の七条にございます……(横山委員「ちょっと読んでください」と呼ぶ)  検察庁法の七条一項でございますが、「検事総長は、最高検察庁の長として、庁務を掌理し、且つ、すべての検察庁の職員を指揮監督する。」この規定でございます。一般に指揮監督権といわれておるものでございます。
  54. 横山利秋

    横山委員 法律というものはそういうところに抜け穴といいますか、いろいろなことをきめておいても、最後にそれで全部網をかぶせてしまう、まあいわゆる指揮権発動で、都合のいいもんですね。しかし、そういうことで何でもやれるということになりましたら、これは立法府としていろいろ考えなければならぬと思いますが、それはさておくといたしまして、それだけは根拠がわかったのでありますが、あとのことはあとにしますか、それともいま御答弁願えますか。
  55. 香川保一

    香川政府委員 正確を期する意味でしばらく御猶予願いたいと思います。
  56. 横山利秋

    横山委員 それではこれも、大体きょう大臣が出ていらっしゃらないのは言語道断だと思うのでありますが、政府は自民党の同意が得られなくとも法案を国会提出すべきじゃないか。違憲判決について政府の正式な態度表明は、すでに最高検通達、それに対して政府の了承、法務大臣の了承があったと見るのが私は適当だと思うのであります。そうであるとするならば、政府の正式な態度表明は事実行為としてもう行なわれている。行なわれているのにかかわらず、じんぜん日をむなしゅうして今日もなお政府法律提出しないということについては、きわめて遺憾なことだと思いますが、いかがですか。
  57. 香川保一

    香川政府委員 検察庁の態度は、立法措置として法務省の態度表明というふうに受け取るべき筋合いでないと思います。つまり二百条が違憲無効と言われれば、今後尊属殺人に対する刑法上の適条をいかにするかという立法措置がされるまでの措置としてやむを得ないことでございますので、さようなことから申しますれば、まさに百九十九条を適用するほかないわけでございます。さような措置をとっただけでありますから、これによって法務省の立法についての態度表明ということとは関係ないことだと思います。法務省としまして、この問題の刑法改正につきましては、法制審議会の議を経まして目下いろいろ検討しておるところでございまして、まだ国会提出するに至らない点は問題が非常にむずかしい、できるだけすみやかに措置すべきことではございますけれども刑法の殺人罪の規定改正でございますので、おのずからやはりいろいろ問題があり、慎重に対処しなければならぬというふうなことは当然でございまして、さような意味からいまだ提出するに至ってないという点を御了承願いたいと思います。
  58. 横山利秋

    横山委員 了承できません。政府の事実行為があって、その事実行為というのが最高検意見具申を了承して通達を出すことを了承した。そうすると百九十九条適用で進んで、現に東京高裁のアル中父殺し懲役が二年判決になりました。この事例をとりますと、検察側が五月十七日に一般殺人起訴理由変更し、六月七日判決を行ない、一審で懲役五年が懲役二年となりました。この事例を例にとりますと、最高裁違憲判決前は五年、最高裁違憲判決があって、起訴理由変更があって二年になったわけですね。判決がここで確定したわけです。ところが、いまのお話のような解釈をとって削除になるか修正になるかそれはわからぬという感覚をそらっとぼけておっしゃっているわけでありますが、もし修正になりますと、この判決はもう済んでしまった、確定してしまったのでいいのでありますけれども、この同種の事件がさらに修正後は三年になるかもしれない。同じ事例で違憲判決前は五年、違憲判決後は二年、そして修正があって、たとえば参議院自民党の案ですが、四年以上ということになりましたら、まあ四年ということになる。同じ事例で三つの結果があらわれるということを法務省としても差しつかえはない、そういうことになってもいたしかたがない、こうお考えでありましょうか。
  59. 香川保一

    香川政府委員 現在の法律関係と申しますのは、先ほど申しましたように検察庁としては二百条の適用を求めないということでございますので、百九十九条で判決がなされる、将来この点の立法がされて百九十九条をもってまかなうという立法がされますれば御指摘のような問題は全くないわけでございますが、かりに二百条を存置しまして四年以上あるいは五年以上というふうなことになりますと、それ以後の裁判はその規定でなされるということになりますので、事案によっては結果的に見ましてでこぼこができるというふうなことはあり得ると思うのであります。さようなことはできるだけ避けるべきことではございますけれども違憲判決がありました場合には大なり小なりさような問題の生ずる余地は理論的にはあるわけでございまして、万一さようなことになりましたときにいかようにするかという問題は、これはやはりその立法措置考えるとか、あるいは恩赦等の措置考えるとか、いろいろなことが考えられると思いますけれども、おそらくかりに五年以上あるいは四年以上というふうな立法措置がされたといたしましても、実質的には科刑上弊害があるというふうなことにはならないのではないかというふうにも思いますけれども、これはやはりいまからさようなことを申し上げるのもいかがかと思いますが、できるだけすみやかに立法されるということがいずれにいたしましても必要だと言えようかと思います。
  60. 横山利秋

    横山委員 官房長は自分の感想を含めてなかなか御親切に御答弁なさるのでありますが、法務大臣に御出席を願いませんと、このルール確立の私の目的が達せられませんので、質問をこの辺で保留しながら、終わりたいと思います。  官房長にお願いしたいのでありますが、いきなりの質問でありますから御調査がなかったかと思いますから、ひとつ調べておいていただきたい。それは、先ほどの関税法違憲判決の際、私が先ほど投げかけた不確定のまま何かの措置をとったか、それとも改正するまで何の措置もとらなかったかという、違憲判決が出ました際の政府法律制定するまでの措置は何であったかという点について、いまおわかりになるならばよろしいし、わからなければ次回に御報告を願いたい。  以上で私の質問をひとまず終わります。
  61. 香川保一

    香川政府委員 十分調査いたしまして御答弁いたします。
  62. 中垣國男

    中垣委員長 それでは提案者を代表しまして、横山利秋君、青柳盛雄君、沖本泰幸君、答弁席に御着席を願います。  大竹太郎君。
  63. 大竹太郎

    ○大竹小委員 それでは提案者三人おそろいでありますので御質問いたします。  大体この提案の趣旨は同じようでございますからどなたからお答えをいただいてもよろしいように思うのでありますが、どなたかがお答えをいただいて、それが間違っておれば訂正を別の方からしていただくし、また補足すべきものがあれば補足していただくということでお願いをいたしたいと思います。  第一番目にお聞きいたしたいことは、いずれのこの提案趣旨を見ましても、最高裁判決、いわゆるこの少数説によっていられるように思うわけであります。この判決、もう皆さんよく御承知だと思いますから詳しくは申し上げませんが、十五人のうち八人はいわゆる無期、死刑だけの刑しか持ってない二百条は、なるほど子の親を重んずべきという趣旨においては必ずしも二百条は憲法十四条に違反していないと思うけれども、どんな情状酌量すべき余地のある案件についても執行猶予を言い渡すことのできないほどの差別をつけておくことはいけないのではないかという趣旨だったと思います、八人は。六人は御承知のように刑法二百条そのものがいわゆる憲法十四条の法のもとに平等という大原則に違反しているという趣旨において二百条は無効だというわけであります。お一人は御承知のように二百条そのものは違憲ではないという御趣旨だと思います。そういう意味にいたしますと、お三人とっていらっしゃる今度の改正案は、いわゆる六人の少数説を根拠としての改正でないか。ことに御承知のようにいずれも尊属傷害致死に関する刑法の二百五条二項あるいは尊属遺棄の二百十八条二項、あるいは尊属逮捕関係に関する刑法二百二十条二項、これらもあわせて削除するという御趣旨からいたしましても、どうも少数説によっての改正趣旨でないかというふうに思うのでありますが、それについてお答えをいただきたいと思います。
  64. 横山利秋

    横山議員 お説のとおり、少数意見に基礎を置いて起案をいたしております。
  65. 青柳盛雄

    青柳議員 全く簡単に申し上げるとそのとおりでありまして、私が提案理由の説明の中で特に言及しておりますのは、多数意見が間違っている、法定刑が著しく不合理な差別的取り扱いにならなければこういう条章を温存しても憲法違反にならないというふうな趣旨に理解されるような多数意見は間違っているという立場でございます。
  66. 沖本泰幸

    沖本議員 私の勉強したところでは、日本国憲法は個人の尊厳と人権の平等を基本権利として、その合理的説明のつかない差別行為は立法の面であれ、成立したあとの法の適用の場面であれ憲法は法のもとの平等に反するものと、こういうふうにしておると解釈すべきであります。ですから、いわゆる民法においてはすでに家の観念からの制度というものを平等の面から反しておるということで廃止されたわけであり、刑法の面では前の忠に関する面から廃止された、こう解釈していきますと、これは少数意見のほうが正しいのである。私はそういうふうに解釈いたします。
  67. 大竹太郎

    ○大竹小委員 それでは、それだけ確かめました上で、もとへ戻ってお聞きをいたしたいと思いますが、先ほど横山委員のほうから最高裁あるいは検察庁に対していろいろ御質問があったわけでありますけれども、やはり基本的な問題は、一体この最高裁判所憲法八十一条に基づく違憲判決というものはどういう効力を持っているのかということから私はきめてかからなければならないと思います。具体的に申しますと、違憲判決があったときには一体立法府はどういうことをやらなければならないのか、あるいは行政府、ことに検察庁に対してどういう効力を、力を持っているのか、これから私はきめてかからないと、先ほどの問題はなかなか解決できないと思うわけであります。これは失礼な話でありますけれども、どうも学問的な問題になると思いますので、来週参考人をお呼びになって、もちろん私は参考人の方々にもその問題をお聞きしたいと思っておりますが、こういう改正の法案を出された以上、そういうことについてお考えの上お出しになっていることだろうと思いますので、基本的なことでありますのでお聞きしておきたい。
  68. 横山利秋

    横山議員 先ほど政府側最高裁との間に私が質疑応答をかわしてある程度私の意見質問の形で出しておるわけでありますが、まず第一に違憲判決当該事件に限られる個別的効力説をとっておるわけでありますが、しかしさはさりながらそれが同種の事件に対して広範な重大な影響力を与えるものでありますから、すみやかにその措置がとられなければならない。すなわちすみやかに刑法二百条及びそれに関連する条文の削除を私どもは主張しておるのですが、立法措置をとらなければならない。その立法措置をとる第一義的責任は一体いずれにありや、つまり国会側にあるかそれとも政府側にあるか、それとも両者に存在するかという点が第一に議論の対象になっておるところ御存じのとおりであります。  今日までの経緯から私の意見を申し上げるならば、従来まず政府側立法をして国会提出するのがまずまず順当な措置であろうと私は思うのでありますが、しかし先ほど私が委員長にも議長の態度をお伺いしたのでありますが、政府側においては意見がきまらず、私に言わしむればすでに政府の態度は決定しておるのにかかわらず、御質問される大竹委員の所属される自由民主党の中において意見がきまらず、そのために政府の態度がじんぜん日をむなしゅうしておりますことはまことに遺憾なことであり、同時に私が指摘しましたように、もう不確定的条件があるにもかかわらず政府及び最高検起訴理由変更をせしめるごとき電光石火の措置をとる。それにもかかわらず立法がそれと逆にずいぶんおくれておるということはたいへん遺憾なことでありますから、私、社会党といたしましては、まさにこれは重要なことだというわけで、議員提案として国会提出をした、こういうことでございます。
  69. 青柳盛雄

    青柳議員 お答えいたします。  私の立場から申しますと、最高裁判所がある法律について違憲であるという判断を下した、その場合、国会はこれに絶対服従をして、最高裁判所判決どおりに立法しなければならないという義務を負っているかどうかということになりますと、国会は三権分立でありますから、独自の立場をとってよろしいわけで、あえて最高裁が何か違憲審査権というものを持っておるから国会はそれに従わなければならないのだというふうにのみいえるかどうかという点は疑問を持っております。やはり今度提案をいたしましたのは、かねがね尊属殺人等の規定憲法に違反していると思っておる、しかしこれを議員立法として提案する機が熟さなかった。従来は十四名しか衆議院の議員がおりませんでした。しかし今度三十九名になりましたので提出ができることになったわけであります。時たまたま最高裁判決も出まして、情勢は熟したということで出したわけでございまして、最高裁が出たからこれに盲従するような立場でやったのではございません。また、政府が必ずこれに対して最高裁の思うとおりの法案を提出する義務があるかどうかということになりますと、政府も三権分立の立場にありますから必ずしもそれに拘束されないのじゃないか、たとえば最高裁判所が私どもから見て非常に反動的な立場で、国会のほうが進歩的であるというようなこともなきにしもあらずじゃないか、国会でせっかく憲法に沿う意味立法したにもかかわらず最高裁判所のほうが反動的で、これは憲法違反だからだめなんだということで無効にされてしまう、そしたらそれに従わなければならぬということになりましたら、国会が国権の最高機関であるというその権威を失墜することにもなりかねない、かように私ども考えておりますので、いまのような状況のもとでは往々にして自民党が多数決でいろいろの法案を出します、私ども野党側の反対を押し切って出される、そういうものが非常に多いような状況のもとでは最高裁はそれを違憲、違法であるとされることに対しては歓迎はいたしますけれども、そういうことだから何でも歓迎する、あるいはそれに盲従する、そういう立場ではございませんので、つけ加えておきます。
  70. 沖本泰幸

    沖本議員 私のほうの法律案を提案した一つの考え方といたしまして、いろいろな方の意見をいろいろ伺ってみました。そういう関係からも、いま青柳先生がお話しされましたとおり、最高裁からあったから、それをすぐ受けてこちらが応じなければならないというふうには考えていないわけですけれども、少なくとも立法府として違憲判決があった以上は、その問題が、先ほど横山先生の御質問になりましたときにあらわれてきましたとおりの経過をわれわれも考えた上でございますが、あくまで議論を十分に尽くして、そして国民的な立場からこの法律を律すべきであるという結論を国会で出していき、立法府のほうで独自にその問題を検討すべきである、こういう考え方から、国会も間もなく閉会に近い、こういう時期にこれをはずしますと、そのままになってしまうというおそれもありますので、以上の考えをもとにして提案したわけでございます。
  71. 大竹太郎

    ○大竹小委員 多少お三人のニュアンスが違いますが、先ほども横山先生もちょっとおっしゃった、いわゆる個別的案件について最高裁憲法に適合しないという個別的無効説とでも申しますか、お三人ともそのようなお考えと受け取ってよろしゅうございますか。横山先生は明らかに個別的無効説だとおっしゃったのですが……。
  72. 横山利秋

    横山議員 私が先ほど政府に対して質問いたしましたのは、判決というものについて一般論を申し上げたわけです。それから今回の違憲判決刑法二百条はということになっておる、そういう点をお含みおき願いたいと思います。
  73. 青柳盛雄

    青柳議員 具体的なケースを通じて判断が出るのは裁判でございますから、個別的であることはその限りにおいては間違いありませんけれども、しかし、そういう判断というものは一つの法の解釈運用の先例となって一つの判例法というようなものもでき上がってくるわけでありますから、そして、最高裁判所の判例というのは将来変更される可能性はもちろんあります。ありますけれども変更されるまでの間は、一応下級審の判決最高裁に来た場合には、これに矛盾した場合には取り消される、そういう力を持っていると見てよろしいわけでありますから、個別的なものであっても一つの法的な効力を持ち得る場合があるということを考えております。
  74. 大竹太郎

    ○大竹小委員 そこで、私は先ほどの横山先生と官房長との間の質疑応答が非常に問題になると思うのでありますが、あくまでも個別的に憲法に適合しないということでありますと、もちろんあの事件は三つありましたけれども、これから問題になりますのはほかの事件であることは間違いないのでありますから、検察庁は事件確定する、しないにかかわらず、まだ立法措置としてなされていない二百条を適用するなというような指令を出すことは非常におかしいと実は思うのであります。と申しますことは、多数説、少数説によって違いますけれども、あれは軽く処罰をするという案件であったからあるいは無効だ、こういっているのでありますけれども、具体的事件として無期、死刑に当たる事件であるならば、二百条の適用も一向差しつかえないのであります。そういう見地に立ちますと、個別的無効説からいたしますと、同じ親殺しでも、無期、死刑に当たる事件について、二百条について検察庁が取り扱っても、最高裁においても、これは多数説から言うと、違憲だということはちょっと言えないのじゃないかというふうにも私は考えるのでありますが、その点どうお考えになりますか。
  75. 横山利秋

    横山議員 二百条は違憲であるという判決であります。したがって、起訴理由として二百条でやっておるものに、裁判進行中のものについては、これは明らかに重大なる事情の変化があったということは客観的に何人もうなづけることだと思うのです。したがって、私は先ほど意見を含めて質問をしたわけでありますが、少なくとも判決があって確定をするまで何らかの措置をとるとするならば、最高検は、まあ言うならばちょっと待て、ちょっと待てという措置だけはしなければならないが、直ちに起訴理由変更ということについては確定を待ってすべきではなかったか。それを確定するまで待てないという緊急の問題は何であったかということを、実は先ほど聞かれたように質問を続けておって、政府の正確な答弁がまだない、こういう状況なんであります。  それから、大竹委員のおっしゃるように、重罪なるがゆえの違憲という問題の判決解釈をどうとるかということについての、まあ判決解釈をお互いにかってにするわけにはいきませんが、少なくとも、重罪なるがゆえに違憲であるから、軽罪なら違憲ではないというものの考え方もある。しかし私は先ほども最高裁に問うたのでありますが、百九十九条によるほかはない。いやいやかと言ったら、いやいやではない。これはするべきであるというふうに解釈するのが正当である、こういう御説明がございました。したがって、私ども解釈は、その違憲判決が軽罪を目標にしておるのではなくて、軽罪もあり得る。あるいは場合によればこの百九十九条、つまり削除もあり得るが、結論としては最高裁判決みずからが百九十九条が適当であるというふうに判断を最終的にしておる、こう考えているわけであります。  それから、現状においても、極悪非道な者については死刑もやれるではないか、これもお説のとおりなんです。問題の焦点になりますのは、二百条では死刑または無期懲役しかほかはない、そういうことについて、これはあまりにも不公平である。そしてさらに発展をいたしまして、お二人の提案者からもお話がございますように、私ども提案理由の中にありますように、そもそも一体刑法二百条というものの歴史的な経過、新憲法における精神等からいいますと、いまに始まったことではなくて、改正刑法準備草案の中にもあるいはまた最近の改正刑法草案の中にも一貫してこれが削除ということになっておるのであるから、この違憲判決があったのを機会にして削除をするのが適当である、こういう判断をいたしておるわけです。
  76. 青柳盛雄

    青柳議員 大竹委員の御質問は、その趣旨はわかります。要するに八人の多数の意見は、重過ぎるからこの事件にはちょっとぐあいが悪い、だから事件が別ならばこの二百条でも一向にかまわない、いわゆる死刑にも無期にもできる。それを有期懲役にする必要がないような案件である、死刑あるいは無期以外ないという場合なら二百条でもいいわけだから、そういう場合には違憲にならないのだ、こういう、要するに逆に八人の意見解釈されているのじゃなかろうかと思いますけれども、やはりそれは八人の意見考え方の弱さというものをあらわしていると思うのです。一人の絶対反対の意見のほうがその点は徹底しているわけであります。  大体尊属に対する犯罪を特に重くするということの合理性なるものを支持する、つまり憲法にはそういうこと自体は違反しないのだ、ただ著しくなった場合には違反になってくる。だったらいままでのように軽く罰するときは違憲だから百九十九条でやる、それから重く罰するときは二百条でやる、こういうことでいいんじゃないかという疑問が出てくると思うのですけれども、私は、これは八人の意見が正しいという前提に立てば、そういういわば悪いことばであげ足とり的な議論が出てきてしまって、どうにも収拾がつかなくなると思うのですけれども、この点はやはり八人の意見が六人の意見のようにしっかりしておらない。民主主義というものあるいは憲法の条章というものを正しく理解してない、結論だけは六名と一致したというような、そういう弱さを持っている。そういうところにあると考えます。
  77. 大竹太郎

    ○大竹小委員 私はいまの点もお聞きしたかったのでありますが、青柳先生の先ほど最高裁判決にとらわれる必要がないということから導きますと、少なくとも法律改正立法府においてはっきりなされないうちに、検察庁のお手盛りで二百条を、ほかの事件についても百九十九条をすぐ適用するように起訴理由自体を変えること自体おかしいのじゃないか。さっきおっしゃったように、判決があってもそのとおりにする必要はないという御意見からすれば、当然立法府意見がこの問題についてはっきりしないうちに、行政府法務省がそういうことをやったということ自体がおかしいのじゃないか。いまの青柳先生の御議論、どうも私はおかしく、これはもちろん改正になった場合には私は一向差しつかえないと思いますけれども、反対の結論が出るかもしれない時期において、たまたまこの時期が非常に進歩的な御意見を共産党としてもおとりになっているからいいですけれども、さっきおっしゃったようなむしろ反対したいような事件については、おかしくなるのじゃないですか。
  78. 青柳盛雄

    青柳議員 たまたま検察庁が現在係争中になっている尊属に対する罪の案件で一定の指示を出されたということが問題になっており、それが何かおかしいのじゃないかという議論のようであります。私が先ほど申しましたのは、政府が、最高裁がある法律の条章を憲法違反だと宣言した場合に、直ちにその削除にとりかかる意味での法案の提出義務を負うかということになると、必ずしもそうじゃないのじゃないかということを申し上げただけのことでありまして、実務的に訴訟の当事者になっている検察庁が、そういう判例が出た、そうすればいま残っている案件についてもおそらく同じような判決になるだろう、そういうことで混乱を招きたくないという、そういう意図のもとに、罪状を変更するということは、必ずしも政府法律を出すか出さないかということとは同じ問題ではない、矛盾はしないというふうに考えています。
  79. 大竹太郎

    ○大竹小委員 私は非常に矛盾をすると思うのでありまして、それは先ほど横山先生もおっしゃったように、三べんも変わるということになりかねないわけであります。ちゃんともとの二百条というものがあるのですから、その途中でまだ法律がどう改正されるかわからぬうちに一つの指示を出して、それでやり、そうしてまた青柳先生の意見のように、立法府は必ずしもそれにとらわれないで、別な判断でその法律を取り扱うということに今度はっきりきまったときには、それならまた別な指示を出さなければならぬか。中間において一つの混乱がむしろ一つだけよけい起きるというふうに私は思うのでありますが、その点はどうですか。
  80. 横山利秋

    横山議員 私が先ほど質問した趣旨と同じことを大竹委員が言うておられるのですが、私も全くその点については同感なんであります。つまり違憲判決前とそれから違憲判決後において行政当局のとった手段とそれから国会側立法をした場合の手段と三段階に分かれては、これは好ましくないという点については何人も首肯できることだと思う。しかしそれはいまちょっとど忘れしましたけれども法律的には刑の軽いものをもって処理をするという一般規定がございますから、それはそれで理論的にはおかしなことであれ、実質上には解決のめどがないわけではありません。しかし立法府のわれわれとしては、そういうことをすることは好ましいことではないと思う。  しからばどうあるべきかという点でありますが、私は少なくとも先ほど質問いたしましたように、違憲判決が出たあとにおける政府としてなすべき手段は何かという点について先ほど疑義を提出をいたしました。それは先ほどの官房長の説明をもってするならば、最高検が出したものなんですという説明には私は納得しないと言っているわけで、政府が最高責任者をもってその処理を、責任ある措置をすべきである。その責任ある措置とそれから立法府においてわれわれが立法いたしますものとの違いがないとはそれは言えません。それはもういたし方ないことではある。しかしながら、そうだとするならば、政府としても緊急措置といいますか、責任ある緊急措置については仮処分的なものもあり得るだろうと思いますし、あるいは国会意見も聞いて、そして国会立法するであろうと思われる線に最大限の努力をしてその食い違いをなからしめるような措置をとるべきであろう。そういう立法国会提出をすべきであろう。そういう最大限の努力をすべきであろう。  その違憲判決国会政府の三者の関係につきましては青柳さんから説明されました意見について私も同感でございまして、何も違憲判決が出たから、そのままにしなければならぬというつもりもありません。また逆に大竹委員が御質問になるように、この違憲判決が、きわめて反動的な違憲判決が出たときに、一体政府がやったことについてどうなのかとなれば、これはもしそういう反動的な違憲判決が出たときに、政府がそれに追随をする措置をとったときに、われわれ国会側はどうあるべきか。特に野党としてはこういう立法について反対をするということはこれは当然なことでありますから、理論的に三段階があり得る。あり得るということについては理論的には私も同感で、さればこそ、そういうことがあり得ないようにわれわれがいま法案を提出をしておる、こういうふうにお考えを願いたい。
  81. 大竹太郎

    ○大竹小委員 最後にいま一つお聞きして、あとは参考人の御意見をお聞きしてからまたお聞きするかもしれないことにしていただきたいと思います。  最後にお聞きしたいことは、お三人ともこの二百条はいわゆる親族とかあるいは家とかというものを刑法の上で特別に取り扱うというものの考え方憲法の法のもとに平等だという大原則に反しているじゃないかという御意見だったと思います。したがって、先ほども申し上げましたように、二百条を削除するほか、これに類似した尊属の傷害致死その他を削除している。そこでお聞きしたいのでありますが、家とか親族というものを刑法の上でほかにも考慮している条文があります。たとえば現在の刑法二百四十四条、親族相盗の規定といわれている規定がございます。これをちょっと読んでみますと、「直系血族、配偶者及ヒ同居ノ親族ノ間」で窃盗が行なわれた場合には「其刑ヲ免除シ其他ノ親族ニ係ルトキハ告訴ヲ待テ其罪ヲ論ス」、こういうことになっております。これは「同居ノ親族」などということばを使っているのは、明らかに私は家の制度を認めた規定だと思うのでありまして、これの削除を考えられなかったのかどうか。考えられても、これはいわゆる生命、身体じゃない、財産権の問題だからこういうものはいいとお考えになったのかどうか、この点について御意見を伺いたい。
  82. 横山利秋

    横山議員 私どもは一貫してこの二百条に対して削除の説をとっておりますし、歴史的にも、先ほど申しましたように、改正刑法準備草案、改正刑法草案等これが本命的な立場で推移をしております。新憲法、新刑法ともに、新憲法の精神に沿って敗戦後の日本の状況に適して改正されたのでありますが、しかしどうしてもこの刑法二百条のように、まだ封建制度の残りかすというものが幾多の法律の中にあるわけでありまして、お説のように、確かにこの二百四十四条についてもそういう御議論がないとはいえません。しかしながら、今回われわれが直面しております違憲判決を正しく議論し、そしてそれを中心にして新しい一つの今日の日本における法律と道徳との関係というものを議論いたしますためには、あまり広げますとやはり問題が希薄になって、そして問題の整理が困難になると思いまして、お説のようなこともございますけれども、この際、刑法二百条に関連する関係条文にしぼったわけでありまして、ほかに問題がないかとおっしゃるならばないとはいえません。民法におきましても、そのほかの法律におきましてもこれに関連する問題がございまして、今後ともわれわれとしてはさらに努力をしてまいりたいと思います。  それからこの機会に、いま家族制度についてお話がございましたので、ちょっと私ども意見を申し上げておきますと、ごらんになったと思いますが、今朝の新聞にごみための中へ赤ちゃんを捨てた、それから捨て子と言って警察へ自分の子供を届け出た、あるいはまた駅の箱の中へ赤ちゃんを捨てたといみじくも三件がきょうの朝刊をにぎわしています。親殺しの数よりも、子殺し、子捨ての数のほうが最近は非常に多くなっておりますし、親殺しのほうはどういう部面に多いかと申しますと、御存じだと思いますけれども、核家族化している都市よりも、まだ核家族化していない農村のほうに親殺しが非常に多い。同居の二代、三代合わせておるところに問題が多い、こういうふうに考えられるわけであります。この親殺しと子殺しと関係をつけて考えてみましても、親殺しだけに対して重罰を科しておるということについて私どもは矛盾を感ずるわけでありまして、また私どもが提案をしておる趣旨というものは、親を殺してもいいのかという素朴な質問があると思うのでありますが、親なるがゆえに重罰をするというならば、逆説的にいいますと子を殺しても一般殺人か。最近のように非常に多い子殺し、子捨てに対して親殺しが認められ、重罰であるならば、子殺し、それから奥さん殺し、御主人殺し、そういうことに発展をしてまいりますので、この機会にわれわれは法律というものと道徳、倫理という問題についてお互いに共通の基盤を持って、共通の意思統一をしてこの問題に対処しなければならぬのではないか。道徳というもの、倫理というものが、強制によって道徳を守る、倫理を守るということではとても解決がしないのではないか。何のために子を殺すか、何のために親を殺すかという問題の根底を探ってまいりますと、法律が過酷であるから親を殺せないという気持ちというものはない。重罰だから、親殺しがなくなるという問題ではない。もっと問題の所在は別なところにあるのではないか。いわんや新憲法の精神、徹底した人権主義、平和主義それから民主主義の思想からいうならば、問題の次元は違ったところにある。いわんや新憲法の精神から言うてもこの刑法二百条は間違っておる、こういう立場をとっておるわけでございまして、その点については、提案をいたしました気持ちは同僚諸君は十分御理解を願いたい。
  83. 青柳盛雄

    青柳議員 御質問の前提に、私どもが親族というものの概念を刑法の中に入れてくること自体に問題があるんだというようなことのようにとれたわけでありますが、私どもは、親族というものがどういう社会の中で人間関係を形成しているか、その実態を法がどうとらえるかというようなことについて、親族なんというものはもう無視してよろしいんだ、そういう道徳なんということはもう無視してよろしいんだなどという単純なものの考え方をしておるわけではありません。たまたま大竹委員の御指摘になりました刑法の二百四十四条親族相盗の規定を見ますと、これは直系血族ということばが使ってありまして、卑属とか尊属とかいうようなことばはこの中には見られません。全く平等、対等の関係でこういう親族関係を律しているわけであります。親族の間でお互いに盗んだとか盗まないとかいうようなことを、公権力が積極的に乗り出して混乱を巻き起こす、家庭のプライバシーの侵害ということになってはいけないというところからこういう規定があるわけでありまして、この改正刑法草案の中にもやはり同趣旨の規定が三百三十八条という形で親告罪になってあります。これはいま私どもが二百条その他いわゆる尊属に対する犯罪を違憲であり、不合理であるという主張と何ら矛盾しないと私ども考えております。尊属とか卑属とかいう概念自体が、いまの新しい時代に生きてきた人たちから見ると、幾ら法律語だといいながらおかしなことばであるというふうに思うと思うのです。確かに私は卑属とかいうことばなどには抵抗を感じます。また尊属というのは、確かに卑属に対応することばとして存在しているわけでありますが、これは上下の段階を前提にしているわけです。尊属というのは一体何かというと、血縁関係を基礎に置いて、そして親、要するに簡単に親子という関係にしますけれども、親を上に置き子を下に置く、それで親は尊属であり子は卑属である。上下関係を厳然と認めているわけです。確かに親は年上であるということでは上下があります。しかし養子なんかの場合は、年上の者は養子にできないということがありますから、これは年齢の関係で上下の区別はありますが、配偶者の尊属が必ずしも配偶者よりも年上であるとは限らない、私はあり得ると思うのです。ブランデージさんのような、ああいう年齢で結婚した人のおとうさんがずっと自分よりも下である、そういうような場合もこれは尊属ということにならざるを得ない。年は下でも尊属である、こういうような上下の関係を前提にする概念というものは、明らかに封建的な時代に主従の関係が社会秩序を守る非常に重要な道徳であり、また法律であったと思います。その最も典型的なのが天皇は国民の最高の父であるから、国民は君には忠でなければならないということになってきておりますし、また親には孝を尽くさなければならぬ、こういうことになってくるわけでございます。したがってこういう上下関係を社会生活の秩序を守る一つの重要な要素とする道徳、したがってそれをまた法律化する、これが民主主義に反すると私ども考えております。趣旨説明の中でも家父長制ということばを使いましたけれども、家父長制の最大のものは私は旧憲法下の天皇制であったと思うのです。またそれをささえるものが民法の家族制度であり、結局は上下の差別というものを前提にしている。だから新憲法ではこういう人間関係はあってはならない。たとえば主殺しというようなことがもし刑法で定められるとしたら非常に時代錯誤的なものになると思うのです。労働者が雇い主を殺した場合には、これは尊属殺人と同じように重く罰していいのだなどと言ったら、ほんとうに労働者が笑い出してしまうくらいこっけいなことだと思うのです。しかし、封建時代にはこれはきわめて当然のことでありました。主人にさからう者は切り捨てられてもしかたがないというようなことで、やはりその典型的なものは大逆罪というようなものであったと思うのです。結局この親孝行というのが非常に美徳であるということがあって、それはだれも異説がない。そこで、美徳である以上は、それを尊重し、法制化するということは美徳を強制するということにはならないのだ。それはただ人間感情からいって、美徳をおかすようなものの背徳性に対して重い制裁を加えるということが当然のことであり、その反映として道徳が守られるということになるにすぎないのだという反論も出ておりますけれども、私はこれは親孝行というものを裏から尊属に関する罪に欺瞞的に導入さしてきたものであって、尊属とか卑属とかいうのは単純に、先ほど申しましたように血のつながりだけできまるそういう法律概念、ですから、産みっぱなしにして捨て子にして、そして他人がこれを育てた。その子供に対して血のつながりから言えば、産みっぱなしにして全く親としての道義に反するような態度をとった者であっても、なおかつ血のつながりから言えば上にある。したがって、二十年もたって親としてあらわれてきて、そして暴虐なことをやる。それに対して反抗して、捨てられた子が何か危害を加えた。これは親孝行の道義に反するというようなことを言ったら、非常にこっけいなことになると思うのです。大体親孝行というのは、産んでくれて育ててくれたというところに合理的な根拠があるのです。育てもしない、ただ産みっぱなしにしたことに対して報恩の気持ちが出るかということになりますと、それはおそらく出ないのが常識じゃないか。もっとも、ものは考えようでありますから、自分がこの世に生きているのは親が産んでくれたせいだ、産んでくれなかったらこの世の中に出ることはできなかったから親にも感謝しなければならないという、そういう哲学をもってするならば、産んでくれただけで感謝して、そしてこれに対しては尊重しなければならない。そこまでいくのはちょっと、幾ら親孝行の道義を強制される方でもそこまではいくまいと思います。そうだとすると、どうもこの親孝行が尊属、卑属の関係で律しているのじゃなくして、まさに尊属、卑属の関係というのは血の上で上にあるのか下にあるかという、そういうことだけで、愛情の問題でもないですね。愛情の問題ならば親を虐待する場合、今度は子供を虐待する場合、これはいずれも愛情に反するわけでありますから、平等に扱われていいわけであって、もし尊属に対する何かの特別な規定があって、それに合理性があるというならば、愛情を前提にする限りにおいては卑属に対する犯罪というのも同じに置いてもおかしくない、しかしそういうものはないわけであります。だからどこまでいっても、この制度は家父長制というものを前提にして初めて合理的根拠がある、しかしそれはもう新憲法のもとでは成立しない制度でありますから、これが私どもの廃止を求める基本になっているということを申し上げておきます。
  84. 沖本泰幸

    沖本議員 私の意見も大体横山先生がお述べになったことと一致するわけでございますけれども、ただ後段に御質問になった点については、これはまだあと刑法の全面改正がいろいろな点で議論されていくところであり、そういう結果を待ち、われわれの意見も加え、大いに議論しなければならない問題ではないかと思います。ただ、この尊属殺の特別規定というのは結局親子を結ぶきずなは重罪を科することによって成立するのではなく、これは青柳先生がいまお述べになったところですけれども、自然的な愛情の中から成立することであるわけですから、すべて平等の点であるとか、人格を尊重していくという点では一つに考えていくべきことであって、特別に規定を設けて罰するということには当てはまらない、こういう考え方を私たちはとってきたわけでございます。そういう観点からあくまでもこれは法律改正すべきである、こう考えておるのであります。
  85. 大竹太郎

    ○大竹小委員 それでは先ほども申し上げましたように参考人から御意見をお聞きした上で、また質問があればさせていただくことにして、きょうはこの程度にいたします。
  86. 中垣國男

    中垣委員長 次回は、来たる十七日火曜日午前十時から委員会を開会することにし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時十七分散会