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1973-11-16 第71回国会 衆議院 法務委員会 第48号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年十一月十六日(金曜日)    午前十時七分開議  出席委員    委員長 中垣 國男君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 谷川 和穗君 理事 福永 健司君    理事 古屋  亨君 理事 稲葉 誠一君    理事 横山 利秋君       井出一太郎君    植木庚子郎君       早川  崇君    増岡 博之君       保岡 興治君    日野 吉夫君       正森 成二君    沖本 泰幸君  出席国務大臣         法 務 大 臣 田中伊三次君  委員外出席者         警察庁警備局長 山本 鎮彦君         防衛庁防衛局調         査第一課長   島本耕之介君         防衛庁人事教育         局人事第一課長 吉田  實君         法務大臣官房司         法法制調査部長 勝見 嘉美君         法務省民事局長 川島 一郎君         法務省刑事局長 安原 美穂君         法務省入国管理         局長      影井 梅夫君         法務省入国管理         局次長     竹村 照雄君         外務省アジア局         外務参事官   中江 要介君         外務省条約局長 松永 信雄君         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 委員の異動 十一月十六日  辞任         補欠選任   住  栄作君     増岡 博之君 同日  辞任         補欠選任   増岡 博之君     住  栄作君     ————————————— 九月二十七日  一、裁判所司法行政に関する件  二、法務行政及び検察行政に関する件  三、国内治安及び人権擁護に関する件 の閉会中審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  法務行政及び検察行政に関する件  派遣委員からの報告聴取      ————◇—————
  2. 中垣國男

    中垣委員長 これより会議を開きます。  先般、本委員会は、裁判所法務省関係施設整備状況等調査のため、富山石川福井愛知県の各県に委員を派遣いたしましたのでありますが、この際、派遣委員から報告を求めます。大竹太郎君。
  3. 大竹太郎

    大竹委員 去る十月二日より六日まで大竹委員を団長に七名の派遣委員を編成し、富山石川福井愛知四県の調査を行ないましたので、この際、私からその概要を御報告申し上げます。  派遣委員は、当委員会の決定に基づき、裁判所法務省関係施設整備状況等に関する実情を調査することとし、関係地方におもむき、各方面の意見聴取し、懇談を行ない、あるいは関係施設を視察するなどの方法により調査を行ないました。  まず、裁判所関係について申し上げますと、各管内とも一般通常事件数そのものは、おおむね横ばいないしやや減少傾向でありますが、各管内とも交通事故による損害賠償事件及び交通関係業務過失致死傷事件は、民、刑事ともそれぞれ著しい増加を示しているのが注目されます。  また、本年に入ってから特に覚せい剤取締法違反事件が急増するという特異な傾向があらわれております。  民事刑事事件内容も次第に複雑化し難解な事案が多く審理日数を要するものも少くないようであります。  おもな事件としては、民事では飛騨川(損害賠償事件名古屋放送地位保全、仮処分)労働事件、医師による医療過誤損害賠償事件等刑事では、大須(騒擾)事件不動信用組合(背任、経済関係罰則違反事件東亜合成業務過失傷害事件、武豊町一家三人殺害(強盗殺人死体遺棄窃盗等事件中日スタジアム商法違反事件等がそれぞれの裁判所で現在審理中であります。  次に、家事事件について申しますと、調停事件受理件数はほぼ横ばい状態で、種類別では、夫婦間の調整問題が最も多く、次いで婚姻外の男女間の事件等が続いております。なお、金沢家裁では試験的に夜間調停を実施しているとのことでありました。  また、審判事件受理件数はわずかながら増加傾向にあり、種類別では、相続放棄申述事件や子の氏の変更事件が最も多く、この傾向は従来から続いてきたものでありますが、ただ、最近精神障害者に対する保護義務者選任事件が急増してきましたことは特に注目されます。  庁舎整備状況につきましては、名古屋高地裁庁舎がいまだ未改築であり、そのほか支部簡裁庁舎富山の小矢部、福井小浜の各庁舎が未整備状況にあり、早急の新、改築が望まれます。  検察庁関係について申しますと、北陸全般一般犯罪横ばいないしやや減少傾向でありますが、自動車の増加に伴い業務過失致死傷事件が著しい増加を示しております。また、金沢地検管内には中部圏最大温泉地があり、県内外暴力団は、この温泉地資金源を求めて勢力拡大に意を注ぎ、既存暴力団との対立抗争があとを断たない状況にあります。そのほか、各管内とも覚せい剤取締法違反事犯が急増しているのが特に注目されます。  庁舎関係については、金沢地検庁舎及び富山地検砺波支部、同区検朝日区検の各庁舎が老朽し、狭隘のため早急に改築が必要であり、そのほか福井管内小浜、大野両支部区検国設宿舎設置名古屋高検検事長官舎改築要望がなされました。  次に、法務局関係について申しますと、管内の各行政事務とも逐年増加傾向にありますが、中でも登記事務において着しいものがあります。これは国家経済の発展を反映するものと考えられますが、国土総合開発土地改良事業等の国や地方公共団体重要施策に基づく特殊事件増加がこれに拍車をかけ、近年特に増加傾向が著しくなったものと思われます。今後ますます急増するこれら事務処理は大幅な職員増員能率化をはからなければ社会の要請に対応できないのではないかと思います。  また、各管内とも職員宿舎が不足しており、配置がえのときなどの障害ともなっており十分考慮してもらいたい旨の要望がなされました。  矯正関係については、その運営方針として一、収容者処遇充実、二、職員人事管理の改善、三、保安警備充実に力点を置いた方針のもとに現在これを実施しており順次成果をあげつつあるとの報告がありました。  なお金沢刑務所及び冨山刑務所移転地を視察いたしました。  中部地方更生保護委員会関係につきましては、保護観察官の大幅な増員及び更生保護会に対する委託事務費の増額について特段の御配慮をお願いしたい旨の要望がありました。  最後に、名古屋入国管理事務所関係について申し上げます。  近年、中部圏開発構想が積極的にされており、管内各地において新港開発既設港の拡張、広域化の現象が著しく、東海地方においては豊橋港が昨年五月開港し、将来三河港として周辺の港を吸収発展する勢いであります。  また富山県においては、富山新港石川県においては金沢港がそれぞれ整備拡大され、入港船舶が次第に増加してきており、第七十一回国会において法務省設置法の一部改正案が成立したことにより本年十月一日から金沢出張所として業務を開始いたしました。  福井県の若狭湾には、原子力発電所を建設するなど工業化計画が具体的に推進されており、木材輸入港としての内浦港における入港船増加は、特に著しいものがあります。来年度において豊橋港及び内浦港に出張所設置するよう本省に上申中とのことでした。  また、管内唯一国際空港である名古屋空港出入便増加の一途をたどっており、このような新情勢に対応し、円滑適正な出入国管理行政の推進をはかっておるとのことでした。  以上、簡単でありますが、御報告申し上げます。(拍手)
  4. 中垣國男

    中垣委員長 これにて派遣委員報告は終わりました。  派遣委員各位にはまことに御苦労さまでございました。      ————◇—————
  5. 中垣國男

    中垣委員長 法務行政及び検察行政に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  6. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 大臣が閣議で十一時ごろからでないと来られないというものですから、差しつかえない範囲というとことばは悪いのですけれどもお聞きをしていきたいと思います。  金大中事件、これは警察のほうにお聞きするわけですが、何か一般的に紅葉の終わった山へ行くような感じがするのは、これは私だけかもわかりませんけれども、本件警察としては一体どの程度のことがいわゆる終わったか、まだ未解決というか終わらないというかそういうふうなものはどの点があるというふうに考えておられるのか、そういうことからお聞きしたいと思うのです。
  7. 山本鎮彦

    山本説明員 事件発生以来、われわれとしてはできる限りの努力を続けてまいったわけですが、御承知のとおり九月五日に本件に関与した嫌疑がきわめて濃いということで、金東雲一等書記官任意出頭を求めたわけでございます。そのほかわれわれとしては、被害者である金大中氏に日本に来ていただいてのいろいろの事情聴取、これも最初からお願いをしておったところですし、また現場に居合わせた梁一東氏あるいは金敬仁氏、これの来日も強くこれまで要請してきたわけでございますが、そういう関係者の方の来日が実現できないということについては、捜査上非常に大きな障害になっている点はおわかりのとおりでございます。しかし、そういう点を克服いたしまして、現場状況のしさいな検討、遺留品調査、そういうものを通じての金東雲一等書記官以外の共犯者の割り出し、それから誘拐連行の経路、それから手段、すなわち車なりあるいは道順、それから休息のアジトあるいは船舶、そういう関係捜査をずっと継続をいたしておるところでございまして、車のほうはある程度この車ではないかというきわめて疑いをかけられ得る車の発見までに到達いたしておりますが、まだこれも断定というわけにはいかない状況でございます。しかし、八月の事件でございますので、現在は事件発生以来時間的にもまだそう多くを経過したということでもございませんし、われわれのやるべき多くの問題点が残っておりますので、粘り強くこの真実の追求ということで努力をいたしておる状況でございます。
  8. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 金大中氏がアメリカへ行く途中に来日するということが伝えられておる。真偽のほどはよくわかりませんが、そのことに関して警察としてはどの程度の情報というものをつかんでおられるのかということが第一点。  それから来られたときにどういう方法でその金大中氏を参考人としての供述調書といいますか、そういうふうなものを作成するというのか。  それから、こういうことについてある程度の感触というか、あるいは了解というか、そういうようなものが現時点で、相手がどなたかは別として、どういうルートかは別として、とれているのかどうかという点ですね、こういう点をお聞きしたいと思うのですが。
  9. 山本鎮彦

    山本説明員 金大中氏の訪米というのは新聞報道承知いたしましたので、すぐ外務省のほうに連絡してその事実の確認につとめておりますが、現在まだ正式に旅券の申請があったとかあるいは日本へ滞在するというようなビザですか、そういうような申請もあるという話は聞いておりません。したがいまして、もしそういうことになれば、外務省を通じてあらかじめ御本人日本滞在捜査当局としていろいろ事情を聞きたいということを具体的に申し入れて、その実現をはかりたい、このように考えております。
  10. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、金大中氏が来日する——来日というか、途中ちょっと寄るという程度かもわかりませんが、そのときに警察としては同氏に会って被害者としての供述というふうなものがどうしても必要だ。だから、そのためにはあらゆる方法を講じてその供述調書作成をしたいという熱意なのかどうか。どうしてもそれがないと困るというとことばは悪いですけれども、どうしても金大中氏に会って被害状況等を聞き、供述調書をとりたいという熱意かどうか。それはまた捜査上どうしても必要欠くべからざるものであるかどうか、こういう点についてはあたりまえのことですけれども、どうでしょうか。
  11. 山本鎮彦

    山本説明員 それはこれまでわれわれが何度も表明しておる点ですが、この件のいわば被害者である方のこまかい具体的な事情聴取、これは捜査の進展上きわめて大きなプラスになると思います。これなくしてはやはり本来の事件解明はできない、こういう考え方ですので、ぜひ何としてもその事情を聞きたい、こういう気持ちです。
  12. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私どももよくこれはわからないので、この委員会ではちょっと聞くのがあるいは的はずれかもわかりませんけれども、田中総理なりあるいは大平外務大臣なりが韓国金首相と会われた、この問題について外交的に話がついたというとことばは悪いかもわからぬけれども、つかないままについたというのかどうかわかりませんが、外交交渉外交問題としてはこれは終わりだというふうに話が、高度の政治的判断かもわかりませんが、ついたということが伝えられておるわけですね。そういうふうなことを警察としてはどういうふうに受けとめておるかということですね、これが第一点。  それからそれが一体今後の捜査というふうなものにどういう影響を及ぼすんだろうかということ、これが第二点ですね。
  13. 山本鎮彦

    山本説明員 われわれ外務省のほうからの連絡で承知している点は、いわばこの問題に関しての外交上のいろいろな話し合いというものは一応これで終結したというふうに承知いたしておりますけれども、刑事事件としての本件解明はまだ終わっていない。したがって、両国とも本件刑事事件解明にはこれからも努力するというふうに了解している、こういうふうに聞いております。したがいまして、われわれはたとえば、具体的にいいますと、金東雲一等書記官の容疑については任意出頭を求める、これについては向こう本人を解職にして十分調べた上で通知するということでございますので、その向こうの誠意に信頼してその内容の回報を待っておるということでございますが、その他の問題点については、やはりわれわれとしては捜査は先ほど申し上げましたこれまでの方針に従ってどんどん進めていくということでございまして、特にこの間の両首相会談によって捜査上の支障があるとかストップするとか、そういうことはございません。
  14. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは形の上ではそのとおりだし、またそういうふうな会談があって外交交渉打ち切りだがら、それが警察捜査影響があるなんという答えが出るわけないんで、そんなことが出たらたいへんな騒ぎだから出るわけないんで、わかってはいるんだけれども、現実問題としてそういうふうになってしまえば、事件としてかりにある段階でのものは出たとしても、もうそれ以上の追及ということは実際問題としてはなくなっちゃうんじゃないですか。やろうと思ったってできなくなっちゃうんじゃないですか。そういう大きな力によってこの事件捜査支障がないということは、それはことばとしては、答弁としてはそのとおりですけれども、現実には、あなた、それはある段階終止符が打たれていくんじゃないか、こう思うわけですね。  そこで、問題はこの事件——いまあなたに聞くのはぼくはほんとうに失礼だと思う、一生懸命にやっているときにこういうことを聞くのはどうも水さすようで悪いんですけれども、どういう段階になったらこの事件刑事事件として終止符が打たれるんですか、そこですね、問題は。ちょっと答えにくいかもわからぬけれども……。
  15. 山本鎮彦

    山本説明員 非常にむずかしいあれでございますので、ある程度個人的なあれになるかと思うのですが、結局ただいま申し上げましたように、この事件については韓国政府で十分調査して、しかるべき犯罪があれば刑事事件にのせて処罰する、こういっておるわけでございますので、しかもその内容についてはこちらへ回報するということでございますので、その回答内容がきわめて具体的、細微にわたり、しかも犯罪事実なりがはっきりして、何と申しますか、日本国民並びに韓国国民が納得する形で回答が寄せられるということになれば、捜査もある程度そこで見通しがつく、このように考えております。
  16. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 まああまり聞くのも、いま一生懸命やっているときにあれですからこの辺にしておきますけれども、もう一つ裏返しのことから聞きますと、どういうときというと語弊があるかな、刑事事件として立件して検察庁へ送る見込み、これは実際問題としてはないのじゃないですか。そこのところですよ。警察としては捜査をする。捜査の結果はこうなったということは発表する。それによって国民が納得するかしないかは別として、いずれにしてもある段階で発表せざるを得ない。これはむずかしいですね。ぼくも発表の時期が非常にむずかしいと思うのだ。終止符の打ち方というのは非常にむずかしいですよ、この事件警察もよくやったと思うけれども、ある段階でかなえの軽重を問われる。といって、それはまさか田中総理大平外務大臣やその他に責任を負わせるわけにもいかぬということになってくれば、なかなか発表しづらいところもあると思うのですね。そうすると、事件として検察庁へ送る見込みが一体あるのかないのかということですよ。だからもう送検しないとはいまの段階ではまだ言えないけれども、いずれにしてもそういうふうな形で送検はしないで、警察としては結果を発表して、ここまでやったのだ、もうこれ以上は無理だというふうなことで終わってしまうのじゃないですか。送検ということはできないのじゃないか。
  17. 山本鎮彦

    山本説明員 お答えいたします。  被害者である金大中さんの被害届けなり、あるいは犯人処罰に関する意向、そういうようなものも必要でありますしそれから被疑者の特定という形の捜査がきちっとしないと、御承知のとおり送致することは非常にむずかしいわけでございます。繰り返すようでございますが、韓国政府からのきわめて具体的な回答があれば、その点ではある程度可能性は出てくると思いますが、しかしわれわれとしては何とかいろいろな手段方法捜査の技術、努力を積み重ねて被疑者を特定して送致をしたい、こういう熱意でおるわけでございます。
  18. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはよくわかります。いまのお話の中で金大中氏の意向というのがちょっと出てきました。これはおそらく金大中氏を参考人として調べたときに、金大中さんとしては事件として立てないでほしい、これ以上もう荒立てないでほしいということを言うに違いないですよ。そういうふうな約束があって初めてアメリカへ行き、途中日本に寄るのだ、こうぼくは思うのだ。これはぼくの推測ですからあなた方のほうから答えを聞きたくありませんが、金大中さんはおそらくこの事件はこれで終わりにしてくれとぼくは言うと思うのです。そうなってくると、この事件被害者である金大中さんの意向というものが大きくものをいって、事件としては送検できなくなる、そこで終止符を打つ、そういう形にならざるを得ないのじゃないでしょうか。あまり将来の見通しのことを聞いては私も悪いような気もするのですけれども、ここまできちゃったからちょっと聞いただけなのです。
  19. 山本鎮彦

    山本説明員 それは御承知のとおり、そういうことになれば非常にむずかしい問題も出てくると思います。それは送致とは関係なくて、起訴とか公判請求、そちらのほうの関係じゃないかと思います。われわれとしてはそういうことがあっても、一応これだけ捜査したのだからぜひ送致したいと考えております。
  20. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 非常に微妙な段階の問題ですし、いまここで警察が一生懸命やっているのに何か士気をそぐようなことになってもまずいから、これはこの程度にしておきます。  外務省の方、来ておられるのですか。ちょっと通告しなかったので悪かったのですが、本来ならばこれは当然外務大臣に聞くのですけれどもね。いま警察の話だと、田中大平韓国金首相との話で、本件については外交的には打ち切りだというふうに話があった、こういうことですね。これはなぜそういうふうに外交的には打ち切りになっちゃったわけですか。あなたに聞くのもどうも悪いような気もするけれども、あまりこっちが紳士的でもいけない。もう少し。
  21. 中江要介

    中江説明員 おっしゃいますように、なぜいま外交的に決着をつけたかという疑問は残ると思います。それは当初から政府が一貫して言っておりましたように、真相究明して筋の通った解決をするんだという意気込みでやっておったわけですが、今回の外交的決着の中で、真相究明というところがまだ十分達成されないままで決着をつけられた。で、それから先は政治的な判断の問題でございますので、私ごとき者がとやかく言えるものじゃないのですけれども、察しまするに、真相究明最後まできわめていくには、現段階におけるわがほうの持っている資料、証拠その他のいままで捜査当局の御努力ではっきりした点と、それから韓国側がわがほうにいろいろ言っております内容と彼此勘案いたしますと、真相究明最後まで待つということになると非常に長期間だらだらと続くのではないかという見通し一つ立てられた。他方日本韓国とは直接の隣国で密接な関係がございますし、当初から外務大臣が繰り返しておっしゃっておられますように、本件は非常に不幸な事件であるけれども、本件が起きたからといって対韓基本政策の基調は変えないという態度で臨んでまいっておるわけでございますので、そういう対韓基本政策の遂行という要請と、他方真相究明にいまの状況では相当長期かかるのではないかということで、ここで外交的には決着をつけて、残された真相究明は双方で鋭意継続するということで、一応両国間のわだかまりを除去する、こういう考慮からなされたもの、こういうふうに了解しておるわけでございます。
  22. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、世間的なことばで言うと、高度の政治的判断が優先をした、こういうふうに俗的には聞いてよろしいのでしょうか。
  23. 中江要介

    中江説明員 高度の政治的判断で政治的、外交的決着をつけるにあたりましても、その時点において明らかになっていることを踏まえた上で、国際法上また国際慣行上恥ずかしくない程度のことは韓国からしていただくという点を日本側では強く主張して今回の決着になった、こういうふうに思います。
  24. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 まあこの問題はいずれ通常国会の中で、総理なり、外務大臣なり、法務大臣なり、そういう人たちの、田中内閣全体の基本的な問題として——しかもそれか相当間違ったといいますか、国民に対して、欺いたと言うとことばがあれかもわかりませんが、そういう形での問題の解決ですから、いずれそういうところでしっかりとしてやるということになると思います。その問題はこれで一応終わりにいたします。別の問題に移ります。  大臣が来ないものですから順序を変えて、刑法の改正問題については大臣が来てからやりたいと思います。  そこで、民事局長来ておられるのですが、この前から話題になっておった例の実子特例法の問題がありますね。これについてはまず私自身が率直に言うとよくわからない。あまりにもむずかし過ぎてというか、意見が私自身は固まっておりません。それから、いろいろな意見がありまして、率直な話、党としても立場はきまっておりません。そのことを前提として質問をしないと、誤解をされるといけませんので、そういうことをお断わりしてから聞きたいと思います。  いわゆる実子特例法というものの制定について、こういう問題が出てきた一つ経過。これは今度問題が出てきたという意味じゃなくて、前に法制審議会に一ぺんかかりましたね。そのことを中心に言うわけですが、それと今度のあのお医者さんの問題からもありますが、その経過とこの実子特例法制定というようなことに関する法務省——法務省考え方と言うとまたまとまっていないと言われると思うから、そうでなくて、法の制定に関連して、どういう点でのプラスが考えられるのか、それからマイナスがまた考えられるかという点ですね。これはぼくは法務省だけにこの問題を聞いて解決する問題ではない、こう思うのですけれども、きょうは法務委員会ですから、このことを民事局長から少しく法律的というかあるいは技術的というかこういう面を含めてお答えを願いたいと思うわけです。
  25. 川島一郎

    ○川島説明員 いまの稲葉先生実子特例法と言われましたが、われわれは養子特例舎法、特別養子というふうに言っておるわけでございますが、この制度がどうして問題になったかと申しますと、御承知のように戦後民法が変わりまして、そのあとその変わった民法の実施状況を見ながらもう一度再検討してみようということで、昭和二十九年から民法の身分法に関する再点検というような形の審議を行なうことになったわけでございます。この審議は、法制審議会の民法部会が中心となって行なったわけでございますが、その審議の中で、養子制度につきましては現在の養子制度のほかに特別養子という制度を設けてはどうかということが一つの議論として出てきたわけでございます。これは御承知のように、フランスなどにおいて養子を実子として扱うというような制度がございますし、日本の実態から申しましても、成年を養子にとる場合とそれから未成年のごく小さい子供を養子にとる場合とでは考え方が違うのではないかというようなところから、養子制度を二つに分けて規定するということの合理性についていろいろと検討がされたわけでございます。その点につきましては、結局法制審議会の民法部会における審議では留保ということになって最終的な結論は得られなかったわけでありますが、これを採用したらどうかという考え方の根拠といたしましては、わが国の養子の中には、自分の子供として育てたい、こういうものがかなりある。その最も極端な場合が戸籍上虚偽の届けをして他人の子供を自分の子供であるというふうに届け出てそれを実子として育てる、こういう例が脱法的ではございますけれども間々あるわけでございます。そういった社会の実情というものにある程度こたえるというようなことで、こういう制度を採用する実益があるのではないかということが考えられたわけであります。これに対しまして、法律でもって他人の子供を実子として扱うということは行き過ぎではないか、第一これは虚偽の戸籍をつくることになるので、それを法律が認めるということは法律制度として好ましくないし、戸籍制度の信用にもかかわってくる問題である。それからこまかい問題といたしましては、たとえば近親婚の禁止というような民法の規定があるわけでありますけれども、これが実効か期せられなくなるあるいは胎児の相続権というようなものがあるわけでありますが、そういうものとの規定の関係ではどうなるのか。それからまた道義的に見て、むしろ子供の人権というものをそういう形で考えることについては、子供の人権を無視することになるのではないか、こういった議論もあったわけでございまして、結局賛否両論ありまして、いずれとも決し得なかった、こういう実情でございます。
  26. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは前の法制審議会のときの議論はそうでしたね。その後昨年あたり、ことしでしたか、またそういう議論が現実問題としていろいろ運動としても出てきたわけですよ。それはその子供を実際には堕胎で生命を奪ってしまう、そのことよりもむしろそういう形で産んだほうが子供のしあわせあるいはヒューマニズムの立場からもいいじゃないかというような意見だ、こう思うのです。いずれにいたしましてもなかなかあれだと思うのですが、東京高裁の岡垣さんがこれに関して認める方向の論文を書いたということがちょっと出ていたのですが、私ちょっとさがしたのですがわからなかったのです。  それから中川さんが、これは前に法制審議会のときどういう意見だったのですか、いまではこれに賛成だというふうな意見がちょっと新聞に出ておったのですけれども、こういうことについては法務省としてはどういうふうにその点はお調べになられたのでしょうか。その点はどうですか。
  27. 川島一郎

    ○川島説明員 実は私も詳しいことを承知しておりませんが、聞くところによりますと、岡垣判事の論文は「法曹時報」に最近出ておったということでございます。  それから中川先生の御意見は、これは新聞に出ておったということでございますか、それも直接のお話ではないようでございますので、先生の真意のほどがどうであるかということは承知しておりません。
  28. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私は中川さんのは、真意のほどが詳細な論文でないとちょっとわからないものですからあれですけれども、岡垣さんのはまだ読んでいないものですからよくわかりませんが、岡垣さんは現職の裁判官ですが、裁判官が論文を書いていいわけですけれども、いろいろな角度から養子特例法の制定に踏み切るべきだというふうな意見なんですか。どういう理由をあげているのでしょうか。私もちょっとさがしたのですけれどもわからなかったのですよ。そこまであまりこまかく通告していなかったから、きょうわからなければきょうでなくてけっこうです。私も論文を読んでから質問したいと思います。わかっていればあれですけれども……。  それから法務省としてはこの問題について、現在これは法務省だけできめられる問題ではないと思うし、厚生省なりその他ともあれしなければならぬ、こう思うのですが、法務省としてはこの養子特例法、普通実子特例法といって養子特例法ともいうのですが、これについて現在のところ法案として立案し、それを法制審議会に再度諮問をするという気持ちが現在あるのかどうか、そこら辺のところをお聞かせ願いたい、こう思うわけです。
  29. 川島一郎

    ○川島説明員 法務省として法案を立案する気持ちがあるかということでございますが、先ほど申し上げましたように、民法の改正につきましては法制審議会に全般的な諮問かなされておりまして、法制審議会で、民法部会でございますが、審議がされておるわけでございまして、この問題は留保事項ということにもなっておりますので、またあらためて検討される機会もあろうかと思います。そういう意味で、現在その法制審議会とは別個に法務省がこの問題について立案を計画するということは、いまのところ考えておりません。
  30. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは最初にお断わりしましたように、私自身も、いろんな面があるものですからなかなかわからないというか、結論が出ないのです。党としてももちろん結論は出ておりません。私どもよく研究をして、各方面の論文なり各方面の意見なりをお聞きする機会があればお聞きして研究してみたいと思います。  いま言ったようなことですが、そうすると、結局法務省としては積極的にこれを立案する考えはいまのところはない、大体こういうふうに承ってよろしいわけですか。
  31. 川島一郎

    ○川島説明員 法制審議会に諮問している事項の中に含まれておるわけでございますので、法務省が独自にそれを考えるということは気持ちとして持っておりません。
  32. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 土地の問題、特に農地の問題で、千葉の法務局ですか、そこで登記官が逮捕されている、こういう事件がございますね。あのことの大ざっぱな概要でいいのですがお聞きして、そうして、農地の場合に職権で雑種地というような形で登記するように登記法に出ておりますね。そこら辺のところにどういう問題があって、法務省としてはこれにどう対処するかということをお聞かせ願いたい、こう思うのです。というのは、不動産業者としては農地で買ったところで、おそらく仮登記してあるんでしょうが、これはそのままでは全然転売できないしもうからないわけだから、これはもう登記官を抱き込んでというとことばは悪いけれども、職権登記のあれを活用させて、そうして雑種地にして売買してしまったほうがうんともうかりますから、このままの状態でほうっておくと、各地でこういうふうな問題が起きる危険性もあるというようにも思うものですから、そこでこれはどういうふうになっているのか、今後この問題についてどういうふうに取り扱っていくのかということが聞きたいわけです。
  33. 川島一郎

    ○川島説明員 千葉地方法務局の八街出張所職員が農地の地目変更登記の事件に関連して収賄を行なったということで逮捕されたという記事が新聞に出ておりましたし、事実逮捕されて取り調べを受けているようでございます。その事件内容は、まだ捜査中でございますし、私も新聞報道以上のことは承知していないわけでございますが、いずれにいたしましても、こういうことで法務局の職員が逮捕されたということはたいへん遺憾なことで、申しわけないと思っております。  それから、なぜこういうことが問題になるのかという点でございますが、現在、農地が農地以外の土地になっていくという現象はかなり全国的に多いのではないかと思います。そういった事件が地目変更登記として登記所に申請されてくる。これは不動産登記のたてまえから申しますと、地目というのは、土地の主たる用途による区分でございまして、現況が農地になっておりますれば、田とか畑とかそういう地目を付することになりますし、建物が建っておる敷地であれば、宅地というように法律的にきまっておるわけでございます。  そこで、農地が農地以外の土地になる場合、これは農地法によれば都道府県知事の許可でございますか、必要でございまして、それをその許可を得ないで転用いたしますと、罰則もあるということになっているわけであります。しかしながら不動産登記のたてまえから申しますと、これは土地の現状を判断して地目を設定するということになっておりますので、以前農地であったものが現在はほかの用途に使われておるという場合には、現在の用途に応じた地目を設定する、また設定しなければならないというたてまえになるわけでありまして、そこにいろいろむずかしい問題が出てくるわけであります。非常に問題になりますのは、農地を使わないでほっておく、そうしますと荒れ果てた土地ができるわけでありまして、これを農地と見るか、農地以外の土地、たとえば原野とか雑種地とかそういうものと見るかということになりますと、非常に判断がむずかしい状態になります。そこで、こういうことによって農地法の違反が行なわれるということを十分警戒する必要がございますので、農地の地目変更につきましては、前々からいろいろ法務局に対して注意もし、慎重に扱うように通達などいたしておったわけであります。現在の取り扱いがどうなっておるかと申しますと、昭和三十八年に通達がございまして、これによりますと、農地であるかどうかという認定につきましては、これは十分慎重に行なうように、それからその認定を行なうにあたって必要がある場合には、市町村の農業委員会意見を聞いて、その意見を参考として認定をせよと、こういうことにいたしておるわけであります。  それから、実際には農地でありながら農地以外の地目が付せられている土地がございます。こういう土地につきましては、登記官が発見いたしますれば、職権で地目をもとへ戻すということもできるわけでありますけれども、都道府県あるいは農業委員会のほうでそういうものを発見いたしました場合には、これを登記所のほうへ通知して、登記所がさらに事実を調べた上で、なるほど間違いであるということを認めた場合には、職権で地目をもとへ戻すというようなこと、これは本年の五月にもそういう趣旨の通達を出しております。そういうような取り扱いによりまして地目が正しく登記簿に反映されるように指導しておるわけでございます。  こういう事件が起きましたので、今後さらにこの趣旨を徹底いたしまして、再びこういうことが起きないように十分に対策を講じたいと考えております。
  34. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 あまり答弁が懇切丁寧で、非常に慎重でりっぱなものですから、眠くなってしょうがない。要点だけでいいですよ。もっとぴしっとやっていただきたい。  もうすぐ大臣来るそうですから……。いまのは実際問題としては、これはあれじゃないですか、不動産会社が農地を買うでしょう。買って仮登記をしておきますね。仮登記にいろいろな種類があるが仮登記をしておきますわね。問題は、本来は不動産会社は農地を買う資格はその状態においてはないのじゃないですか。将来知事の宅地変更許可か何かあれば、そういう前提条件として買っているわけでしょう、所有権移転は。それに仮登記をどんどん許しちゃっているわけですね。これは現行の登記法としてはしょうがないのですか、これがまず一つ問題ですね。  それから実情は、不動産会社や大手のいろいろなそういう関係会社が農地を買って、悪いのになるとわざとほったらかしておいて草ぼうぼうにさせるんじゃないですか。草がぼうぼうになっちゃうと今度はそれが雑種地だという認定を受けるとそうすると地目変更が職権登記できるでしょう。そうすると今度は売買ができるわけです。許可が要らなくなっちゃうわけだ。それでだいぶ知恵を働かして活用しているんじゃないか、こう思うのですが、そこら辺のところはどうなんですか。  それからもう一つ、不動産業者が買うでしょう。買って今度はほかへ売るでしょう。農地の所有者が甲、それから乙の不動産業者が丙に売るでしょう。売ったときに仮登記を抹消しちゃって甲から丙へ直接の中間省略で登記しちゃう傾向があるんじゃないんですか。そうすると中間省略というのはどうも乱用されているんじゃないか、脱税の手段に使われているんじゃないか、こう思うのですが、中間省略が認められている一つの根拠というかそれが現実にどういうふうに作用しておるかということをお聞かせ願えれば、こう思うわけです。
  35. 川島一郎

    ○川島説明員 まず農地のままで売買をして仮登記をする、これが許されるかという問題でございますが、これは売買の効力は生じませんけれども、将来その売買についての許可がありますと、そのときに売買の効果が発生するという意味ですでにある種の法律関係が形成されておることになりますので、これは仮登記できる状態であり、登記所としてはそういう仮登記の申請を受け付けざるを得ないというふうに思います。  それから、仮登記をしておいて、その後農地を耕作しないでほっておくという場合でございますが、これは先ほど申しましたように、農地であるかどうか非常に判定の困難な土地になってくるわけでありまして、こういう点につきましては農業委員会意見等を聞きまして十分慎重に判断をするということにいたしておるわけでございます。  それから中間省略が脱税その他に乱用されていないかというお話でございますが、中間省略登記というのは、これは判例によっても認められている正当な登記の方法でありますし、それを登記所の面でチェックするということはできないと思います。
  36. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 千葉の県議会で不動産登記法と農地法との関係の矛盾というか、それを直してほしいとかなんとかという形で意見書ですか、これがたしか来ていると思うのですが、この内容とそれに対する法務省側の見解というのはどういうふうなものですか。
  37. 川島一郎

    ○川島説明員 これは農地に関する地目変更の登記を登記所のほうで安易にやられますと農地法が統制しておる許可制度というものが潜脱されることになる。したがってその点について厳重にやってもらいたいし、場合によっては立法措置を講じてもらいたい、こういう趣旨のものでございます。それに対しましてこちらの考えといたしましては、現在の制度のままでは農地が農地でなくなった場合にちょっと登記の面でチェックする方法はない。ただ、実際に農地であるかどうかの判定をもっと厳重に行なう必要があるということで、その点についての取り扱いはさらに慎重を期したいというふうに考えておるわけです。  なお、千葉におきましては、千葉の地方法務局とそれから県当局と協議をいたしまして、地目変更の登記が申請された場合にはこういう形の取り扱いをするという話し合いをいたしまして、それが最近では実行に移されておりまして、かなりの成果をあげているというふうに聞いております。
  38. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 農地の場合いま言った不動産業者や何かが買って仮登記しているでしょう。ああいう仮登記をして年限が一年なら一年、二年なら二年たってもそれが本登記になる見込みがない、知事の許可がおりないという場合には、その仮登記を何か抹消するというか効力を失わせるというふうな立法措置、これは技術的になかなかむずかしいと思うのです、いろいろな内容がありますからそう単純に言えないと思うのですが、そういう点も十分考えられていいんじゃないかと思うのですがね。これは非常に悪用されているんじゃないか。おかしいですよ。不動産業者が農地を買って仮登記して順位保全してそれで五年も十年もほったらかしておく、こういういき方というのはぼくはちょっと理解できないのですがね。そういう点についての考え方をちょっとお聞かせを願いたい。これはまあ研究課題だと思うし、なかなかむずかしいと思うのですがね。
  39. 川島一郎

    ○川島説明員 権利に関する登記は原則として当事者から申請がない限り登記所がかってにいじらないというのがたてまえでございまして、仰せの問題、非常に研究の価値があるいはあろうかと思いますけれども、なかなかむずかしい問題であろうと思います。
  40. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 大臣がおいでになったので刑法改正問題に関連してお聞きするわけですが、まず、現在法制審議会で刑法の全般改正が諮問されてずっと進んでいますね。で、大体いつごろどういうふうになって、その後大臣としてはどういう経過をたどって、たとえば各方面の意見を聞くとかいろいろありますわね、そういうものを通って国会なら国会に提出できるのは大体いつごろの目安になるのかという点の大ざっぱな答えと、これは私の考え方を先に言っては恐縮ですけれども、この刑法改正案というものは、諮問があって答申がありましても、おそらく立法作業の中で非常に困難になってきて、非常に大きな問題点がありますわね、だからぼくはおそらく法案としては国会に提案するということはなかなか無理なんじゃないか、こう思うのですがね。これはある新聞によると、内閣の命取りになるようなものを含んでいる、とても提案できないんじゃないかということもちょっと出ておったのですけれども、いずれにいたしましても今後の全体のスケジュールについておおよそのものをお聞かせ願いたいと思います。
  41. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 御承知のとおりに刑法改正の問題は十年前、三十八年の中垣法務大臣当時の諮問でございます。それで今日までに特別部会を設けまして部会三十回そして小委員会七百回をちょっとこえておるぐらい開きまして、先生仰せのように大体の結論が出かけております。この審議会の結論をえらい私が急ぐようでまだ言いにくいのでありますけれども、大ざっぱなねらい、大ざっぱな見通しを申し上げますと、大体来年の春三、四月ごろまでには結論が出るのではなかろうか、大体の傾向でございます。それが出ましてそれが直ちにそのまま立案されてその内容国会に付議される、一般にはこう思っておるようでございます。そういうことであれば、なるほど上から下へひっくり返るような問題が起こる余地もなしとしないことでございます。しかし、法制審議会の答申というものは、中垣法務大臣の諮問によって大臣あて答申が出る結果でございますから、極力この答申を尊重して立案をしていくということ、これも申し上げるまでもない当然のことでございます。当然のことでございますが、その答申に加うるに、わが国各層、各界の御意見というものも何らかの形で慎重にこれを聞いてみて、ことに大事なのは世論の具体的な動向などというものも慎重にこれを取り入れまして、そうして政府案というものを立案をいたしまして国会に提出をするという手順を踏まなければならないのでございますから、何としてもやはり、大体どんなに早くとも一年を要するのではなかろうか、まだこういう数字を言うのは今回が初めてでございますが、大体一年ぐらいかかるのではなかろうか。そうすると四十九年の春答申が出ましても、実際その政府案を立案をいたしまして閣議を経てこれを国会に提出をいたしますのは再来年春以降になるのではなかろうか、こう考えております。出すことができないような事態に立ち至るんではなかろうか、そんな要らぬ心配はしてもらわぬでも、出すことができないほど大反対のあるようなものはつくりません。世論の動向というものを見きわめて盛り上げていくのでございますから、そういう法案はつくらない。それで、それは御心配がないのではなかろうかと考えております。
  42. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私は、まだ答申が出ない段階ですから、そのこまかい内容についてお聞きするのは、きょうの段階は避けたいと思うのです。ただ、大臣として、改正案の中で、いままで答申が出てきた中で、国民がどういう点について問題視しているところがあるだろうか、こういう点、たとえば騒乱予備罪ですか、だとか、それから公害罪だとか、いろいろありますね。こういう点については国民各層が非常に大きな関心を持っている。だから、その点についての意見は十分聞きたいということの答えになるかと思うのですが、どういう点、どういう点、どういう点が国民各層が非常に大きな——反対とは言いませんよ、反対はかりじゃないかもわかりませんから。関心を持ってこの問題の注視をしておるという点はどの点、どの点、どの点ぐらいがなるのでしょうか、内容的に。こまかいことはいいですけれども。
  43. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 まだ答申をやっております最中に、法務大臣が答申を受けてもおらぬのに、この点、この点、この点はおれは関心があるのだというようなことを、これ、先生なかなか大事過ぎて、御質問が大事過ぎる御質問で答えがしにくい。しかし、まあ差しつかえがないように常識的な意味でぼうっとしたことを申し上げますと、第一、いまの刑法は明治四十年にできた刑法で、六十数年を経過しておる。私の生まれる前後にできたものが今日ものをいうておるというわけで、時代は激変をして今日に至っておる。たとえて言うてみると、犯罪傾向でも、あるいはハイジャックであるとか公害罪であるとか、あるいは国の機密漏洩罪であるとか、もっと大事なのは企業の機密漏洩というような問題をめぐっても一つ考えられますように激変でございます。激変に応ずる改正ができておらぬ。こういうものは好むと好まざるにかかわらず、答申の有無にかかわらず——必ず答申してくるものと信ずるのでございますが、その有無にかかわらず、こういう点は熱意をもって政府案を盛り上げる上に考えなければならぬのではなかろうか。  それからもっと大事なことは、大体日本の刑法、私は読んでみてむずかしい。法学博士が読んでむずかしいと言うておるんですから、一般に読んだらむずかしい。何が書いてあるのやらわけがわからぬ。むずかしい字を用いてある。こういうふうな表現はやめて、民主主義時代の刑法という一番大事な刑事基本法でございますから、この法律はおじいさん、おばあさんが読んでわかるように、少なくとも——おじいさん、おばあさんということばはおかしいのでありますけれども、義務教育、日本の教育は義務教育が根幹でございます。義務教育を経た人であるならば読んで意味がわかる、こういう表現、口語体のそういう表現に変えるべきものである、こういうことを私は第二に強く思っております。  それから第三には、刑罰刑罰といって日本の国の刑法は刑罰が過ぎるところがあるのではなかろうか。刑罰刑罰といって、刑事罰、懲役、禁錮の体刑罰に傾き過ぎておるところがあるのではなかろうか。たとえば精神の障害等を原因として、何回外に出しても同じ事柄を繰り返して刑務所に入ってくるといったようなものは、本人のためにも社会のためにもとるべきでございません。こういうものはやはり保安処分、いまやかましく検討されております保安処分によって解決をしていくように新たなる刑罰の方向というか、刑罰から医療、治療という方向にこれをやはり持っていく、新しい方向として持っていく必要があるのではなかろうか。  いま申し上げるのは三点でございますが、大体そういう方向にぜひいきたい。答申の有無にかかわらずいきたい。これは私は大きな声で言いまして法制審議会からおしかりが出るようなことはないと思います。これは当然なことでございます。そういうふうに考えておるのでございます。
  44. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私は個々のことよりも、この法制審議会のまず人選の問題、ここに一つ問題がある。いいですか。それから審議のしかたにも問題があるんじゃないか。それから考え方にも問題があるんじゃないか、ぼくはこう思っているんですよ。  そこでお聞きするのですが、法制審議会の刑法のこの改正の委員の中でやめられた方がいらっしゃいますね。そのやめられた方の、どういう事情でやめられたのかというその経緯をぼくはお聞きしたいんですよ。お聞きしてから、それに関連して質問をしていきますけれどもね。
  45. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 大事な人事のことでございますから事務当局からお答えをいたします。
  46. 勝見嘉美

    ○勝見説明員 先生お尋ねの委員の方はおそらく平野先生と平場先生のことだろうと思います。平野龍一東京大学法学部教授は、昭和三十八年七月五日から法制審議会刑事法特別部会委員をされておられたのでありますけれども、四十五年六月十八日辞任願いが提出されましたので、同年の七月六日付で退職をされております。  それから平場安治京都大学教授は、昭和三十八年七月五日から同部会委員をされておられたのでありますが、再任を辞退する旨の申し出がございましたので、昭和四十六年八月十九日、任期満了ということで退職されております。私どもといたしましては、以上申し上げましたように、いずれも御本人の御意思により退職されたというふうに承知しております。
  47. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 御本人の御意思であることは間違いないと思いますけれども、ではなぜそういう御本人の御意思がそこで出てきたかということですよ、問題は。  まずお聞きしたいのは、戦争中の刑法の改正仮案がありますね。仮案に基づいて逐条審議をやっているのですか、これは。三十五年のやつかな、仮案ね。これはどういうのでしょうか。
  48. 安原美穂

    ○安原説明員 現在の法制審議会の審議の対象となっておりますのは、刑事法特別部会が全面改正の必要ありとし、そして改正するとすればこの要綱によるべしという、改正刑法草案という四十六年十一月に答申のあったものによってやっておるわけでありますが、この刑事法特別部会が参考の資料といたしましたものは、昭和三十六年の十二月にできました改正刑法準備草案でございまして、その準備草案はその数年前から法務省の特別顧問でございました小野清一郎博士を中心として、実務家、学者を中心として構成されました研究会によって発表されたものでございます。したがいまして、いまおっしゃられました古い仮案を対象としてやっておるものではございません。
  49. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、ぼくはあまり失礼なことを聞いてはいけないと思って私の発言もセーブしてお聞きしているのですけれども、大臣、まず刑法の理論で応報刑主義と教育刑主義という二つの考え方がありますね。それから法と道徳との考え方、両者の関連とか差異とかということに対する考え方、これについてヨーロッパ流の考え方と東洋の考え方とちょっと違うわけです。そうすると、今度の法制審議会は応報刑主義の考え方を中心としてやられておるというか、それがリードをされておる。それから法律と道徳との関係についても、それを峻別するという考え方ではない考え方、そういうようなものに立ってやっておられる。きわめて国家主義的なそして治安主義的な性格が強いというふうに俗に言っている人もあるのですよ。俗に、とぼくは言いますよ。そういうふうなところの意見の分かれ方、ということは、法制審議会の刑法部会の委員の方、いろいろな方がいらっしゃるし、だれがだれだということをぼくは一々メンバーをだれとも言いません。そんなこと失礼ですから言いませんし、その方の個人のあれは言いませんけれども、そういうようないわゆる旧派的な考え方、しかも非常に明治時代の教育を受けられた方、まあ明治生まれというかな、いわゆる戦前の考え方を持たれた方が非常に多いわけですよ。そういう考え方で刑法の改正をやろうとしておられる。やろうとしているというとことばが悪いかもわからぬけれども、そういう立場に立っておられる。だから新しい憲法的な感覚でやっているのじゃなくて、旧憲法的な感覚で、非常に治安主義的な、いま言った国家機密の問題あるいは保安処分の問題とか、その他騒動の予備罪の問題なんかいろいろ出てくると思うのですが、そういう考え方の上に立ってやっておられる方が多過ぎるのじゃないか。しかもそういう考え方がこの法制審議会をリードをされておられる。学者としての非常にりっぱなお考えですから、私がここで云々すべき筋合いのものではございませんけれども、そういうことの新旧の考え方の衝突が平野さんたちが席をけってというか、席をけってというのはオーバーかもしれませんけれども、おやめになった一つの大きな原因ではないですか、私の聞いている範囲では。間違っていたらお許し願いたいけれども。だからちょっと法制審議会のメンバーというのは、考え方が応報刑主義、そして国家主義というか治安主義というか、そういう考え方に片寄った人が集まり過ぎているのじゃないですか。だから、まだやめたいと言っている人もいるわけですよ。やめたいということを言っている方もおられるけれども、やめたのではあれでだめだから、内部に入ってその法制審議会の中で戦うということばは悪いかもわからぬけれども、そういう傾向を是正すると言ってがんばっておられる方もいらっしゃるのですよ。そういうことが平野さんたちがおやめになった一番大きな原因ですね。だから、ぼくが変なことを言っては語弊がありますけれども、小野先生と団藤さんと平野さんとの刑法なり刑事訴訟法に対する考え方は全く違うわけですから、新しい考え方、新憲法的な人権主義を中心とする考え方の人はみな法制審議会の中からオミットされてしまっているのではないですか。あるいは自分から引かざるを得ないような状況に追い込まれているのではないですか。ここら辺のところはここでこれ以上答弁できないかもわからないけれども、どうもそういうふうにぼくらには考えられるのです。一番大きな問題は、外国元首の罪に対するものを残すか残さないかの問題がありましたね。そこでの大激論がありましたよ。そのほかにもたくさんありました。そういう中で新しい考え方の人はみなオミットされてしまっているのじゃないですか。オミットされざるを得ない状況に追い込まれているのではないですか、この法制審議会から。そして応報刑理論の上に立った人ばかりががんばって、実際は治安主義的な考え方の刑法に改正しようという動きじゃないですか。そんなことはありませんという答え答えとしては出てくるでしょうけれども、なぜ平野さんがおやめになったのかという点をぼくは平野さんに話したわけじゃないから、こんなことをかってにしゃべってしまってあとでおこられるかもわからないけれども、よく考えてください。片寄っていますよ。だから片寄った刑法改正案が出てくる危険性がある。だから国民の間に非常な危惧が出てきているとぼくは思うのですが、どうでしょうか。
  50. 安原美穂

    ○安原説明員 御指摘のように、平野教授を中心といたします刑法改正研究会という学者のグループがございまして、この方々が、稲葉先生御案内と思いますけれども、いま法制審議会で審議の対象になっております改正刑法草案の対案をつくるということで鋭意御研究をなさっております。その御研究をなさっております平野教授あるいは平場教授らを中心とする改正刑法研究会の考え方から基づくこの改正刑法草案に対する御批判の根本は、先ほど御指摘のように、これは絶対的な応報刑主義の国家権威主義の刑法であるということを批判なさっております。しかしそれはそれなりの批判でございまして、先ほど大臣が申されましたように、法務省が提案いたします改正刑法というものは、各界各層の意見を聞きながら最終的には政府の責任においてきめるわけでございますので、いま平野教授らが批判されている草案にそういう批判があるということだけをもって、直ちに法制審議会あるいは刑事法特別部会が小野先生の支配下にある絶対応報刑主義者だけの集まりであって、そういう片寄った刑法であるという御批判は私は当たらないものだと思います。と申しますのは、改正刑法草案自体が決して小野先生の御意向通りにはさまっておらないわけです。小野先生の指導力、説得力というものが影響を与えておりますけれども、小野先生自体の考えとは違うところが相当ございますし、それからまた改正準備草案、先ほど申しました昭和三十六年十二月の準備草案につきましての各界の意見を聞きながら、刑の重過ぎるところは軽くしたいというようなことで、いろいろ準備草案から見れば改正草案は各界の意見を取り入れておるという点は多々あるわけでございます。  それからもう一つ。いま法制審議会のメンバーが非常に片寄った応報刑主義者の集まりだという御批判、これはまた的はずれといいますか違っておりまして、法制審議会の総会は御案内のとおり、民法学者もおりますれば商法学者もおりますし、弁護士会の方もおられまして、それこそ各界各層の意見が十分に戦わされておるわけでありまして、小野さんの独裁のもとに審議会が進んでおるということは間違いだと思います。
  51. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ちょっと私の質問と、だいぶ答えがエスカレートし過ぎちゃっている。私はそんなこと決して言ってないですよ。学者としてりっぱな方なんです。だから、そういう学者ですから、学問的な見解はいろいろあるわけですから、それは御自由なんであって、これはもうりっぱな世界的な学者ですから、それを私がここでかれこれ申し上げる筋では決してございません。何も独裁にやられたとかなんとか、そんなことは決して私は言ってないと思いますが、そんなこと言いましたかな。もし言ったらばくは撤回しますけれども、ぼくはそんなことは言ってないつもりですがね。なかなか注意してしゃべったと思うのです。(「改正刑法をもう一回再検討しろ」と呼ぶ者あり)ええ、それはそれですけれども、いま私のことばも過ぎたかもわかりません、だけれど私もやはりある程度問題提起というものを込めましてお話ししたので、一流の学者に対して礼を失したことがあれば、私はおわびいたしますけれども、どうもこれはちょっといろいろ問題があり過ぎるのですよ。A教授、B教授、C教授、いろいろ考え方が違いますよね。それはそれでいいわけですけれども、どうも旧派理論というか——旧派というから古いという意味じゃないですよ、これは刑法学上の旧派だからね。応報刑だから何もすぐ因果応報で、何というか刑罰を重視しなければならぬという議論だとは単純には言えないのでね。そういうふうな単純な議論でぼくは言っているつもりじゃないのです。だから何も——ぼくは小野先生という名前を言ったかな、言わなかったような気がしたがなあ。言いましたか、私は。(「言わぬ、言わぬ」と呼ぶ者あり)言いませんね。私は注意してしゃべっているから言わなかったと思うのですけれども、そういう考え方で決して言っているわけじゃないのでね。ただ、出てくるものが、どうもそういう考え方のものが出てきている。片りんがあらわれているわけですよ。だから、これは今後非常に大きな問題になるから十分注意をしてほしいということを言っているので、きょうはこれはこの程度でやめますけれども、いずれ私もいろいろな方の御意見なども聞きながらこの問題を研究していきたい、こう思います。だからいま言ったような、今後大臣も各方面の意見を十分聞かれて、国民のあれを聞かれて、十分やってほしいということだけを最後要望し、それに対する大臣答えを願って、私の質問は終わります。
  52. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 お説はよくわかります。結論を申し上げますと、先生の御心配のような事態が起こることのないように今後の人選の上で十分ひとつ考えてやっていきたいと思います。  ただちょっと、法制審議会の名誉のためにも一口申し上げておかなければならぬのは、何しろ法制審議会の各メンバーは、わが国学界、実際界、ことに法曹会の一流の人材を集めてあります。一流の人材といいますと、経験に富んだ学識の高い人ということになりますので、比較的年齢の高い人が多いという傾向になるのですね。そこが先生の御心配にちょっとひっかかってくるところです。ところが、同時にこの法制審議会で非常に大事な仕事をしてくれておる幹事、この幹事という立場におります人は、新進気鋭の学者、実際家を招いてあることは御承知のとおりでございます。これは新進気鋭である。そこでこの二つを合わせていただきますと、法制審議会の構成全体として、何か古くさい人ばかり寄っておるのではないか、古い思想に寄っておるのではないかという御心配は当たらないのであります。古いものも大事なところがある。新しいものが大事なところもありますので、この両者を合わせますと法制審議会はたいへんよく構成ができておる。自分が言うんだからおかしいようなことですけれども、私はそう思っておりますが、しかし先生仰せのようなことは深く私は今後人選の反省資料とすべきものである——そういう不都合があるというのではございませんけれども、仰せになったことを十分の反省の資料といたしまして、よい人事をやっていきたい、御心配のないようにしていきたいと思います。
  53. 中垣國男

    中垣委員長 次に、横山利秋君。
  54. 横山利秋

    ○横山委員 先ほど、大臣が来られない前に、金大中事件について稲葉委員からいろいろ質問がございました。あらためて大臣に伺いたいと思うのであります。  金大中事件の中で田中法務大臣がユニークな存在で、そしてしばしばの発言の中で国民の中から非常な期待が出ておった、あなたの言動と解決について非常に期待があったことは、これは事実であります。しかし、さて、きょうお伺いするについて、その期待は守られたか、また今後守られるかという点が、またこれは国民が、率直に言って、あなたの顔色を見ておるような気がするわけであります。  そこで第一に伺いたいのは、法務大臣であり閣僚である田中さんが考えておる金大中事件の真の解決というのはどういうことなんですか。どういうことをもって金大中事件の真の解決といえるのかという点についてまずお伺いをしたいと思います。
  55. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 先生お尋ねの、私の答えは二つございます。一つは、金大中の自由、人権というものをあくまでも回復し、守り通したい、これが一つ。もう一つは、韓国という国家自体がわが日本国の主権を侵害したと、歴然とかくごのごとく侵害しておるではないかということを捜査の上でこれを明白にして、その結果を外交交渉に乗せて両国関係を鮮明にしたい。この二つが金大中事件で私が朝な夕なに心配をしております二点でございます。
  56. 横山利秋

    ○横山委員 その二点について、現状は、政府側の答弁によりますと、外交問題としては解決した、刑事問題としては解決しておらない、こういう言い方について、大臣はそれで了解をしているのですか。
  57. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 了解をしておりません。そういうふうには了解しておりません。外交問題としても全面的、最終的な解決ではない、これは中間的な、部分的な解決である、こういう解釈をいたしまして、その解釈を確かめた結果、おまえの言うこと、そのとおりの見解、間違いがないということになりまして、私は初めて了解をしておるということになるわけでございます。  それから捜査の点につきましても、捜査はこれで終わったものでない。終わったということであれば、そんなことはたいへんなことです。捜査は終わったものではない。捜査は今後継続する。継続いたしまして、主権の侵犯が明白になりました暁にはそれを外交交渉にあらためて乗せて外交交渉を新たに展開するものである、こういうたてまえに間違いがないという、そういうことが明白になりましたので、私はやむを得ず了承しておる、こういうことが真相でございます。
  58. 横山利秋

    ○横山委員 先ほど外務省から御答弁があったことと違いますね。いろいろなてにをはの言い方はあるだろう。あるだろうが、外交折衝はこれで終わった、残るところは刑事問題としての引き続きの捜査の展開である、こういうふうに警察庁並びに外務省から御答弁を得ているわけです、稲葉委員に。いまの法務大臣の答弁のあとで外務省のお役人の答弁をいただくというのはちょっといやなことですけれども、しかし外務省としてもう一回ひとつ御答弁を願いたい。
  59. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 ちょっと私の舌が足らぬのではないかと思うので、ちょっともう一言申し上げますと、外務省の言うことと私の言うことと違っていないのです。
  60. 横山利秋

    ○横山委員 いるんです。
  61. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 いや、いないのです。意味は違いはないのです。外務省の申しておりますのは、現段階においては一応外交交渉はこれで結末をつけたんだということを言っておる。そうなければならぬ。新たなる事態が発生をするかどうかは捜査の結果わかるわけで、捜査は政治に影響はされないで一人歩きをするわけでございますから、その捜査の結果新たなる事態が発生をすればあらためて外交交渉をするという権限を留保をして今日に至っておるのでありますから、私の言うておることと、私は聞いておりませんが、外務省答えたこととはちぐはぐはない、こう御理解をいただきたい。
  62. 横山利秋

    ○横山委員 外務省、答弁をひとつしていただきたい。
  63. 中江要介

    中江説明員 ただいまの法務大臣の御答弁の中にあります、わがほうが、将来、捜査の進展に応じて新事実が出てくれば、それに基づいて新たな外交交渉をする権能を留保するという部分がございましたが、その留保した部分に重点を置いて考えるか、それともいまここで外交的に決着を見たということで、日韓両国のわだかまりをはずして、対韓政策の基調を変えないという姿勢で日韓両国の友好親善に新たな努力をするか、その点に重点を置くかの違いで、先生があるいは違ったようにお受け取りになったのではないかと思いますけれども、外務省の考えは累次申し上げておりますように、いまの段階日本政府が、あるいは日本の当局が解明し得た事実と、それから、いまの段階韓国政府がとっております態度とこの両者を勘案いたしまして、いまの段階外交的に両者間のわだかまりをとることがよしという政治的な判断で今回の外交決着をつけたわけでございますが、その外交的決着をつけます最終段階田中総理と金鍾泌国務総理との会談の場で、これは田中総理大平外務大臣両者から、将来捜査結果の事実の中で新たな進展、特に公権力の介在というようなことがはっきりした場合にはこの点はもう一度取り上げることになりますよという点は留保してございます。その点をつけ加えて、現段階では外交決着をつけたというのが外務省の立場だ、こういうふうに私は了解しております。
  64. 横山利秋

    ○横山委員 法務大臣金大中事件真相究明するには二つの手段がある。一つは、警察庁が行なう刑事的な捜査、もう一つは、外交折衝によって真の解明をやる、この二つがきちんと結び合ってやらなければ、だれが考えてもこれはできない問題である。その重要な外交折衝について、真相究明について決着を一応してしまった。そこの穴はふさがれた。そこで今度は警察庁としての仕事だけが残った。それで捜査は壁にぶち当たった。だれが考えるのもそういうことではありませんか。留保するということはまことに作文にしかすぎない。政府のメンツを、体面をつくろう作文にしかすぎないということがあなたにはおわかりにならないんでしょうか。わかって、おれの顔を立ててくれというふうに留保ということばが入ったんじゃないんですか。きわめて常識、素朴な見解ではありませんか。
  65. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 横山先生、あなたのおっしゃることに私がおことばを返すようになりますけれども、この捜査それ自体が行き詰まっておるということ、初めから行き詰まっているんですよ。被害者がおらぬ、加害者がおらぬ、目撃者がおらぬ、参考人がおらぬ。全部彼らは本国に引き上げた。そして帰ってこない。初めから行き詰まっているんです。一つ外交交渉によって捜査を助けてもろうたことがない。外務省に悪いけれども、一つも助けてもろうたことがない。今回の、外交上の決着がついて初めて行き詰まったんじゃない。初めから行き詰まっておる。一つも効果はない。だれ一人戻ってきて日本捜査に協力した者はない。こういう現状から出発をしておるのでありますけれども、この捜査が行き詰まったとお考えになることは早計ではないでしょうか。私はそうは思っておらぬ。たった一つしかないホテルの二二一〇号室の監禁をされた部屋の中から鮮明な金東雲君の指紋が出てきた。やがて外務省決着をつけて、二、三日たってから発表をいたしました捜査本部の発表をごらんになりましても、運んだと思われる車も出てきておる。そうしてその車の目撃者も出てきておる。外交交渉の結果向こう日本捜査に協力する態度は何にもとってこないのでありますけれども、だんだん職務行為が明白になり、韓国の国家が日本の主権を侵犯したんだという、その侵犯の気配がだんだん濃厚に進んできておる。これは日本捜査当局がしっかりやっておる証拠です。このとおり進めていく。やがてもう少し展開が起こりそうですね。それをここでしゃべることは金大中君の身辺の上にも重大影響がもたらされると思うから、ここで私は具体的にしゃべりませんけれども、やがて新たなる展開ももう少し起こってくるものと思われる。これは有無を言わさず韓国国家が日本国の主権を侵犯した証拠ではないかといわれる事態が出てくる。私信じておるのですね。ですから、捜査はこれでとまっておる、そんなことを思わぬでおってください。捜査はとまっておりません。また、捜査をとめた、そんなことで承知しませんよ。両国外交機関が外交側面から捜査をとめた、とめる結果になった、とめざるを得ないような結果になったなどということは断じて許すべきものじゃない。日本政府はそんなことは考えていないです。総理も、外務当局の代表者である大平外務大臣も、国務総理がやってきたときに、その面前で明瞭にいま外務当局から御説明があったようにくぎが打ってある。将来捜査の結果明白になったときには新たなる外交交渉をするんだよ、これで終わったんじゃないぞということは明白に言うてある。また、そんなことが言えぬようではどうにもならぬ。それはちゃんと言うてある。ですから捜査が終わったとか、捜査が行き詰まったとか、そんなことをお考えにならぬように。捜査におまかせをいただきたい。これは捜査当局が言うことで、法務大臣の言うことじゃないのですけれども、しかし捜査は指揮する立場におります。やがてこの事件関係者が尋問を受ける立場に立とうが立つまいが、いずれこの一件書類は法務当局に、検察当局に送致が行なわれる。やがて私の責任でやらねばならぬ事態になるのでこれをあらかじめ言うのでありますが、捜査は行き詰まっていない。非常な難局でございます。国始まって前例を見ないような困難はあるけれども、やれるんだ、やってみせるんだということを強く信念として捜査当局は持って、これをやっておると私は信じております。私もそういう考えを持っております。どうかそういうふうに御理解をいただきたいと思います。捜査は済んだ済んだというようなことは、言わぬようにしてもらいたい。済んでおらぬのですから。現に外交決着がついた後にも捜査捜査結果を発表しておるでしょう。前進をしておりますから、どうぞそれを信じていただきたい。
  66. 横山利秋

    ○横山委員 大臣はこういうことわざを御存じでしょうか。こじきのおかゆということわざです。まあ日本にいまこじきはおりませんけれども、こじきのおかゆは、米がないのです。ですから湯ばかりということわざなんです。たいへんな皮肉で恐縮でございますけれども、いまいたけだかに、言う、言わない、言わぬでくれとおっしゃるのだけれども、私ともか——私とものみならず、国民がいま全般的に受け取っておるのは、外交的な決着がついたということの中に、これで終わりかという心配と憤りなんです。しかし、いま大臣があれほど声を大にしておっしゃったことを私は信じたいと思うのですが、私は、さっき言ったように、留保するということばが実際は日本政府並びに、特に大臣の顔を立てるための作文ではないのか、作文に終わりはしないのかということを国民を代表して聞いている。あなたは断じて作文に終わらせない、結果を見てくれ、近い将来に必ず結果が出るだろうということなんですね。そういうことを信頼してよろしゅうございますか。
  67. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 遠からず結論が出せるものと——捜査は非常な難局ではありますか、この捜査の難局は最初からである、これを継続していけば、結論がきっと出せるということを信じておること、先生お説のとおりでございます。
  68. 横山利秋

    ○横山委員 真の解決の第一の問題である金大中氏の生命、活動の自由、そういうものをひとつ求めたいということなんですね。伝うるところによりますと、金大中氏は最近アメリカへ行くという。その途中で、できるならば日本に寄りたいという希望があるという。そのことについて伺いたいのでありますが、自由な意思をもって金大中氏が日本に来れる条件下にあるか、そして日本政府はまた金大中氏と会って事態の真相解明に協力を求める意思があるのか、その点はどうなんですか。
  69. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 これは先生、外務省からお答えを……。私の答えることでない。ただちょっと一口、私は心配していることがあるのですが、いま先生のお尋ねのような事柄が新聞に出る。それに対する答えが新聞に出る。それが韓国に響く。響いた結果は、金大中、東京に行けばこれこれの方面と接触が行なわれていくのだなどということが想定される事態になりますと、私の心配は、韓国の本国を本人が飛び立つことがむずかしくなるのではなかろうかという心配を持っておる。本日御出席をいただいておる記者の皆さんにもお願いをしたいのでありますけれども、この論議がどこまでできるか、これは外務省答えをさすわけでございますけれども、外務省もしゃんとしておらぬといかぬのは、あまりこれをしゃべり過ぎて、そんなことになるのならばやらぬほうがいいではないかということは重大事態だ。とりあえず韓国を離陸するまでは静かに、私はこう思っているので、記者の諸君も御協力をいただきたいと思うのですが、大事なことですから。何でも私にお聞きになりますけれども、これは外務省答えさせます。どうぞ……。
  70. 中江要介

    中江説明員 金大中氏の自由につきましては、御承知のように十月二十六日でございましたか、金大中氏御自身が記者会見をされまして、いまから自分は自由になった、こういうふうに宣言されたわけでございます。その後、韓国政府首脳の発言によりますと、金大中氏は出国を含めて自由が保障されている、こういう表現で田中総理と金鍾泌国務総理の会談においても、その点がはっきり先方から保障されたわけでございます。したがいまして、あとは出国を含めて自由を保障されております金大中氏の意思いかんであるということで、韓国政府はその金大中氏の自由意思に従って、処理が必要なら処理をしていく。たとえば外国に渡航したいという意思があれば、これは普通の自由な韓国人と同じ手続を踏んでいただくことになるだろうというところまでが、公式に韓国政府が私どもに言っていることでございます。  外務省といたしましては、新聞報道その他いろいろ最近情報が出ておりますけれども、基本的には韓国の最高責任者である金鍾泌国務総理がわが国の最高責任者である田中総理に言われた、出国を含めて自由が保障されているということを基本といたしまして、金大中氏のその後の自由意思の表明、それに対して韓国政府がどういうふうに事務的に処理されていくかということを、その進展を見守っているというのが現状でございます。
  71. 横山利秋

    ○横山委員 外交交渉決着がついたというその意味をちょっと聞きたいと思うのでありますが、外務省金大中事件について、これからは一切何もしないという意味でございますか。その決着がついたということと金大中事件との関係については、外務省としてはこれからは積極的に何もしないという意味なのか、それともかりに金大中氏が日本へやってきた。そしていろんな事態の進展があったとする。あって、その結果が出てあらためて外交折衝するならそれは留保の意味がわかるのでありますが、結果が出るまでに一つ外交の必要性が捜査上できてくる場合があると思うのですが、そういう過程における外交折衝は、この決着がついたという意味から阻害されるのですか、どうですか。
  72. 中江要介

    中江説明員 外交的に決着を見たということの意味は、金大中事件という国際刑事事件のために両国間にひびが入った。つまり両国間にわだかまりができて日韓友好親善関係を従来どおり続けていくことがむずかしくなったという悪い雰囲気が生まれたということが一つと、その事件にからまって韓国政府にある程度の国際責任があるのではないかという問題と、この二つについて現段階における、先ほどから申しておりますように、わがほうの持っております事実と韓国政府のとっております態度とにかんがみまして、そういう問題を外交的に決着をつけるということでございますので、その直接の効果は、日韓両国間に不幸にして生じたわだかまりをこれでなくして、対韓基本政策の基調を変更することなく両国の友好親善関係を進めていこうということに、これから向かうわけでございます。  ただ、それならばもう金大中事件について外交的に何もしないのかというと、そういうことでは絶対ございませんので、これは先生がおっしゃいますように、捜査外交的措置が必要となった場合には、これを韓国政府と話し合うということも妨げられておりませんし、その他金大中事件についてのいろいろの問題について、日韓両国政府で話し合うという道は決して完全に閉ざされているとは私ども思っておりません。
  73. 横山利秋

    ○横山委員 もう一つ決着の意味について伺いたいのですが、主権の侵害ということがあったけれども遺憾の意を表示したから了解をしたというのか、主権の侵害はなかったということで決着がついたのか、それとも主権の侵害があったかなかったかわからないけれどもこれは捜査の結果を待つというのか、どちらですか。
  74. 中江要介

    中江説明員 その点では、日本側では主権の侵害があったのではないかという強い疑いを持っておりましたけれども、現在までのところ韓国政府のほうでは、主権の侵害、つまり公権力の介在があったということは全く認めないという立場で一貫しておるわけでございます。しかしこれを公権力の介在があったというふうに認める段階にまでいきますには、それだけの確たる証拠をわがほうが提示するか、あるいは韓国側捜査の結果そういう事実が新たに出てくるか、何らかの捜査上の進展がないとなかなかむずかしいという現状でございますので、その点につきましては、いまの段階では遺憾ながら公権力の介在があったということを前提としての外交的決着ではなくて、その点は先ほどからございますように、これからの捜査の進展の結果、そういう事態が出れば、それを踏まえて新たな外交交渉に入るわけでございますけれども、いまの段階では公権力の介在を前提として、これで外交的に決着をつけたというふうには、私ども考えておらないわけでございます。
  75. 横山利秋

    ○横山委員 そうしますと法務大臣、あなたの真の意味の国家主権の侵害ということについて、日本側は疑いが強い、向こう側はそういうことはない。そういう基本的な問題が解決しないままに外交折衝を決着をした、こういうことに相なりますね。大臣もそう御理解ですか。
  76. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 同じようなことばですけれども、捜査外交上の決着とは関係がないんだ。理論的関係はない。捜査の途中で外交決着とは何事か、こう仰せにならずに、捜査は困難な捜査を初めから今日までずっと継続しておる。中断はしていない。中断をしていない捜査が進められておる結果、外務省が言っておるのは、困ることがあるのだ、それはなかなか時間をかけなければ捜査決着はつきそうにないのだが、その間両国の親善友好関係が停滞をしていくことはまことに困るから、外交的決着をつけて、親善友好は進めていこう。進めていくのだが、現段階を一歩前進をして、新たなる証拠が出てくる事態が起こったならば、新たなる外交交渉をやるのだよ。こういうことでございますから、そう割り切って御判断をいただき、捜査の途中で外交交渉が介入した、こう言わずに、捜査捜査で進んでおって、捜査の現段階は、捜査の目的を達しておらぬのだ。一方、外交関係はどうかといえば、捜査の面と外交の面とを分けるのだ。外交の側面をとらえて考えてみるというと、このままほっておいては両国の親善友好のじゃまになるので、ここで決着をつけておこう、こういう外務省の苦労なんですね。外務省の苦心というのもようわかるでしょう。(横山委員「さっきけなしていて、またそのような……」と呼ぶ)いえ、初めから、私はこの間から言っておる。外務省のおやりになったことに対しては一歩前進だと新聞でも大きな声で言っておりますし、この間からも参議院へ行って説明をしておる。前進です。この前進を見て、よいと思わざるを得ない、外交側面からの交渉というものは。それをあなた、金大中の自由人権が問題でありますが、その金大中の自由人権問題というものは一歩前進をしてきたじゃありませんか。確かに前進です。これは、離陸してみなければわからぬ。わからぬと言うと外務省には悪いけれども、私は離陸してみなければわからぬと見ておる。離陸して、なるほど、外交交渉をしてくれたように、からだは自由になったな、こういうふうに私は判断をしたい。離陸するまではどうかなと思って、心配しておる。けれども、前進しておりますよ、外務省のやりました外交交渉は。何か知らぬけれども、指紋が出てきて、指紋を存じません、知りませんて、全世界でそんな国はありませんよ。鮮明な指紋をとらえておるのにかかわらず、知らぬ存ぜぬと言うのでしょう。それが外交交渉によって一歩前進をして、金東雲を免職をして、今後は刑事被告事件として取り調べる、その結果、処罰をするということまで言明するに至っておる。確かに、外務省のやったことは前進でございます。それから、大体、いままで韓国日本をなめ切っておりますよ、やっておること、なすことを見ておるというと。こんなになめられていいものじゃないというのが、私が憤慨をしておることなんですが、そのなめ切っておった韓国が、国務総理が日本へやってきて、田中総理にお目にかかって釈明をして、陳謝をしておる。何が目的の釈明で、何が目的の陳謝かということは別にしましよう。とにかく出てきて、陳謝を行なっておる、釈明をしておる。外交交渉は前進じゃありませんか。そういう前進、三点の前進はすなおに評価をすべきものである。しかし大事なことは、捜査のじゃまをするな、外務省のやったことが捜査のじゃまになるというなら承知せぬぞ、こういう態度を強く持していく必要がある。捜査当局を引き続き激励してやっていただきたい、こう思うのであります。
  77. 横山利秋

    ○横山委員 田中さんは、なかなか話がうまくて、あっちへ行ったかと思うと、今度はこっちへ来て、外務省をけなしたかと思うと、今度は外務省をほめて、韓国をなめておると言うかと思えば、総理大臣日本までやってきてやったのはなかなか評価すべきだ、こういうふうにあっちこっち話が発展するわけでありますけれども、私がいま確認したかったのは、国家主権というものが侵害されておる、おらない、そういう事実はないという、一番真の解決の基本問題が、意見対立のままに外交問題が決着をした、こういうことなんですよ。それをどういうふうに私ども国民が理解したらいいのか、あなたはどういうふうにそれを答弁なさるかということなんですかね、端的に言って、国家主権問題については、まだ解決しておらないとおっしゃるならば、それはそのように理解をするわけです。そう理解していいのですか。
  78. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 国際法的には、先生仰せのように、まだ解決はしていない。私は、これを二つに分けて言うておるのであります。常識的に——あえて言えば、常識的に、政治的には主権の侵犯は明白だ。指紋が出ておるじゃないか、その指紋は、りっぱな国家機関じゃないか、外交官としての一等書記官じゃないか。ただそれは一等書記官の職務行為でなかった、こういうことを仰せになるなら証拠をあなたがお出しなさい、それを主張することによって利益を受ける韓国自体が証拠を出しなさい、日本が証拠を出すべき筋合いのものではない、このことばは初めて言うことばなんでありますけれども、私はそう信念を持っておる。常識的、政治的には主権を侵犯しているじゃないか、しかし国際法的に原状の回復をしろ、あやまりに来い、そうしなければ承知せぬということを国際法的に言うためには、常識的な、政治的な判断の上に、もう一歩あらゆる角度から捜査を積み重ねて、職務行為ではないか、たとえて具体的に言うてみれば、韓国の何名かいらっしゃった当時の外交官は、全部、辞令はもらわず、経費はもらわぬけれども、当然にKCIAの任務を兼ねておった——兼ねなさいという辞令はないが、事実は兼ねておった。全世界そのとおりではないか、日本だけ兼ねておらぬわけがないではないかなどということがかりに立証されてくる、これはぐうの音も出ない。あらゆる角度から捜査を積み重ねて、一つの部屋の中から指紋を取り出した、その熱意努力をしてくれるならばぐうの音も出ない。捜査は完遂のしようがある。そんなことはできぬはずがない。こう私は考えておりますので、先生にお願いしたいのは、捜査の側面と両国外交の側面というものを区別してください。一方は、時期的には途中にあったのだけれども、何も影響はないのだ、こういうふうに両側面を分けて、御判断をいただいて、御理解をいただいて、捜査を激励、協力をしてやっていただきたい。外務省もどんなことでもやると言うておるのです。あれで済んだんじゃないと外務省も言っておるのです。そのとおりです。捜査上必要ならば人を呼ぶことも、熱意をもって交渉してもらわなければならぬ。外務省にお願いするよりほかに道はございません。そういうことはございますね。どうか、両側面というものを頭に置いて、捜査の側面の中途で、一方の側面の解決をしたのではあるけれども、影響はないのだ、こういうふうに御理解をいただきたい一と思います。
  79. 横山利秋

    ○横山委員 それは大臣、あなたが声を大にして言えば言うほどそらぞらしく聞こえる。国民の常識というものは、捜査外交が一体になって立ち向かうところに真の解決がある。外交上の決着は同時に捜査上の決着でなくてはならず、捜査上の決着は同時に外交上の決着でなくてはならぬ。そんなことは国民の常識ですよ。それを分けて考えてくれというようなむずかしい説明が、国民の中に通るとあなたはほんとうに思っていますか。今日の政治的な状況からいってもうやむを得ないのだというふうに、外交捜査も割り切って答えられるなら別だ。しかしながら、捜査捜査外交外交、区別をして考えて、外交上の決着はしたけれども捜査上の決着はしてないからこれからもやるのだ。それはまあ、あなたが先ほどおっしゃったように新しい進展があれば、また国民も認識も新たにしましょうけれども、今日の段階においてはそうはまいらぬ。あなたは外務省は何にもしてないと先ほどおっしゃったけれども、国民がかっさいを送ったのは、捜査の進展と同時に日韓援助を一たん中断し、日韓閣僚会議を無期延期したときですよ。捜査外交が一体になったときに国民が初めて十分納得し、政府を督励をする気持ちになったわけですよ。今回の、いまの現状と、すでに人口に膾炙されている西ドイツのあの事件との対比がまざまざと国民の中に焼きついておるわけです。西ドイツが、捜査外交とがまさに一体になって、十七人の人を全員西ドイツに連れ帰ったことと、いま日本が、外交決着捜査は続いておる、金さんが来るか来ぬかは実際問題としてはわからぬ、こういうことで一体どうして国民が納得しておると思いますか。あいまいもこたる政治の黒い霧に囲まれて、そしてもやになってしまっている。私どもが承知しておるのは、この外交上の決着の閣議の中で、三木副総理が、金大中氏の生命、金大中氏の自由、そういうものがきちんと確保されておらないのにこの決着をつけることはいかがであるかということが、あとで新聞にも報じられておる。閣僚の中の副総理がそういうことを言っている。そのことはあなただって三木さん以上に——今日までのあなたの政治姿勢及び議会答弁等からいって、当然あなたが最も強く言うべきことであろう。同時に、あなたならそういうことがあるであろうそういうふうに思っていたのです。もっと国民にわかりやすい説明をしてもらわなければ困る。素朴に、常識的に言ってもらわなければ困る。
  80. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 たいへん強いことばでおしかりでございますが、国民に対する説明は、どこに行っても、私は、この両側面は別だ、外交交渉にあたって別だということが明白になってある、これを理解してくれ、これ以上言いようがないのですね。何ぼ力を入れても、それ以上は言いようがないのです。外交交渉で両側面を別扱いにして、一方で新しい結論が出るならば、それに対して外交交渉をやるということを留保している。両国外交交渉で両側面を分けておるのです。ですから、そう御理解をいただくほかに言いようがないのです。そういうことだから理解をしてくれということを言っておるのでありますから。わかりにくい、それはまあ、捜査の途中で、外交側面で解決した、何だ、話は済んだじゃないか、そうか、それなら捜査をするまでもないじゃないかというふうに思われるのは一応の常識でございますが、捜査捜査で続けるのだということがちゃんと出ておるわけですから、それで御理解をいただく以外にない。参議院でも同様のことをお願いをしたわけです。
  81. 横山利秋

    ○横山委員 まあ押し問答のような状況になりましたが、きょうあなたが声を大にして、見ておってくれ、近いうちに進展があると言うことがどんな結果になるのかですね。それから、金大中氏が向こうをほんとうに飛び立って日本へ来るのか来ぬのか、そして来た場合に、この件に関してもまたどういうような進展があるのか、ということを期待をしたい。  この機会にもう一つ、私が日本人として感ずることなんですが、あのホテルの駐車場管理の守衛さん、名前は明らかにしませんけれども、あの人にしたところで、エレベーターの中で会った人にしたところで、驚くべきKCIAに対する恐怖心、情報を提供するすべての日本人が驚くべき恐怖心というものを持っているのが今回の特色だと思うのです。私ども政治家として、これはえらいことだ、こういうことでは困るということを痛感をしておる。こんなばかなことが、国家的な重大事件がKCIAをおそれるの余り、もっと早く言うてくれたならば、また名前も明らかにして堂々と言うてくれたならば、もっと早い解決があっただろうと思うのですけれども、捜査に当ったってこの日本人の、あの人たちばかりじゃないと思うのですが、KCIAに対する、韓国に対する、報復処置に対する警戒心、恐怖心というものをどう考えたらいいのか。それは韓国及びKCIAの報復と同時に、日本警察に対する期待の薄さということも意味しておると私は思うのであります。これはなおざりにできない問題であると思います。  この金大中事件についても、まだほかの人の情報を持っておる人があるかもしれないが、ことごとくと言っていいほどそれが名前を公表されるのを拒み、そしてその適切な、間髪を入れず情報提供をすることをちゅうちょしておる。そのために本問題が非常な遷延と難関に逢着をしておるということについて、一体どう考えたらいいのか。一つには、日本警察というものがかかる問題について、日本人の生命、財産を守ることについて、日本人がまだ十分な期待を持っていないということを意味します。同時に、韓国並びにKCIAの報復が、ああいう人がそう考えるほどちまたにそういう事実が潜在的にある、あったということも私は意味しているのではないかと思います。この点についてどうお考えでございましょうか。
  82. 安原美穂

    ○安原説明員 横山先生御指摘のとおり、捜査につきましては、その完ぺきを期するためには国民の協力を得なければならぬわけでございますから、その協力してもらえる国民が何ものかをおそれて、不当にその協力をすることを妨げられているという事態は鋭意避けなければならないことは申すまでもないところでございますが、これは法務省といたしましての問題よりも、むしろ国民の生命、財産の保護にあずかる警察のほうで、そういう点の恐怖の除去に御努力を願うべき筋かと思いますので、警察御当局からお答えをいただきたいと思います。
  83. 山本鎮彦

    山本説明員 まあ、暴力団事件その他と同様に、やはりこういう証人あるいはそういう見た人のいろいろな協力についての警察の処置というもの、これに対する一般的な不信があるのじゃないかという御批判はあろうかと思いますが、われわれとしてはやはり、そういう証人保護、これについては日ごろから一般的に十分注意いたしまして、そういう証人に迷惑がかからないように、またもしそういうものに対しての報復処置等があれば、これは徹底的にこれを取り締まっていくという姿勢については変わらないわけでございますが、本件について、特にKCIA云々というお話がございますが、KCIAというものの実態その他については、一般国民もいわば本件を契機にしてある程度ばく然とわかってきたような感じがするわけでございまして、特にKCIAの報復ということで云々というふうにはわれわれとりたくないのでございますが、そういう特殊なあれでなくて、一般的にわれわれとしては、積極的に協力してくださる方の申し出の条件、名前を出さないでくれ、これについては十分保護してくれという御要望についてはできる限りの処置をとって、そういう方に迷惑のかからないようにやっていくこと、そういうことを一つ一つじみちに積み重ねることによって、そういう証人になることの消極性、不安性、こういうものを解消していく以外ないというふうに考えております。
  84. 横山利秋

    ○横山委員 暴力団と一緒にしてもらっては困るのです。暴力団に対する恐怖はすべてよく知っておる。どうすればいいかということも知っておる。町ぐるみの運動ももちろん存在している。ところが、今回の問題については、どうしたらいいかわからない、そしてばく然たる暗い何かの報復処置があるというふうに感じておる。あなたもおっしゃるように、KCIAの実態というものはいままで明らかでなかった。私どもも十分な知識はなかった。それにもかかわらず、国民の中に隠然として、情報協力が乏しくて、時期を失するような、あとになってからもうこれならいいだろうとして情報提供があるということについて新たな角度で考えなければならぬのではないか、こういうことを言うておるので、暴力団の問題と事件の性格が違うということをお考えを願わなければならぬ。  大臣にこの機会に、あまり時間がございませんけれども……。先ほどは金大中事件における真の解決を伺いましたけれども、この金大中事件日本と朝鮮についての真のあり方がやはりあらゆるところで議論がされています。本来、日本は将来南北朝鮮を含めてどういう関係にあるべきか、その目標を見詰めながら、今回の金大中事件についてもその目標を見失わないように一歩一歩進めなければならぬのではないかという議論が、金大中事件を中心としてずっと各方面で議論がされているわけです。このことを金大中事件の議論の中でないがしろにするわけにはまいらないと思うのであります。本委員会は長年にわたって出入国法案を討議をしてまいりましたが、出入国法案についても、やはり日本と南北朝鮮のあるべき姿を見詰めなければ、およそ解決ができないというふうに私どもは考えています。大臣をはじめ法務省の皆さんは、直面する現実問題の出入国の暫定的ともいうべきことだけに限定して考えられておるようでありますが、その間においては議会側と政府側とかみ合わない、いつまでたってもかみ合わない、そして朝鮮問題は非常な流れの中にある、南北朝鮮の統一問題が南北朝鮮の間で議論がされておる、こういう大きな流れの中にあるがゆえに、よけいに南北朝鮮に対する基本的な姿勢という、基本的な政府の目標というものがなければ、金大中事件の議論も十分かみ合わないし、出入国問題についても十分かみ合わない、こう考えているわけであります。それは法務大臣としての範囲外かもしれませんが、出入国という問題をとらえましても範囲外とは言わせませんし、閣僚の一員として、本来あるへき——今後、南北朝鮮の問題、朝鮮と日本とのあるべき姿についてあなたの抱負をひとつ聞かしておいてもらいたい。
  85. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 お尋ねのことは、おことばの中にありますように、内閣総理大臣ないし外務大臣が言うことであろうと思って、私の所管するところでございません。ただ、お説のように、出入国関係というものからは私に関係がございます。そういう関係から一言申し上げますと、わが国の外交方針というものは、まずアジア、極東の平和、これに貢献をしまして、それを通じて世界平和に尽くすのだということがわが政府の基本方針となっております。アジア、極東の平和を口にする以上は、アジア、極東に存在する朝鮮民主主義人民共和国という、一口に申しまする北に対しまする考え方もこの線に沿うて判断をしていかなければ、旧来の考え方ではいけないのではなかろうか、こう考えまして、私、就任以来その方針をとってきておることは大体において御承知をいただいておることと思います。したがって、北から日本に入国を希望せられる向きがありました場合には、まず一番大事な人道ケースないし人道に準ずる準人道ケース、こういうもの、これはひとつ入国はでき得る限り許す方針をとってみてはどうであろうか。さらに一歩前進して、人道ケース、準人道ケース、それを前進をせしめまして、政治ケースでないものはひとつ積極的に考えてみようではないかというような方向に向かって前向きの姿勢で検討をしておるということでございます。  そういうことでございますから、朝鮮南北をどう取り扱うかという大問題をひっさげての私の答弁にはなりかねるのでありますけれども、わが国は、何としても北に存在をするこの国をこんりんざい無視する態度、そういう態度をとるべきものてはない。事情の許す限り——事情とは何だというと国益でございます。南とは外交関係を持っておるものでございますから、南の関係というものも考えてみて、わが国の国益に相反せざる限りにおいては、具体的にいえば、政治ケース以外のケースであって、人道ケース、準人道ケースに近いものであるならば、これを招き入れておいでをいただくという方向に、まず人的交流、文化の交流、スポーツの交流、学術の交流、そういう交流を北との間にもはかっていくべきではなかろうか、こういう考え方を持って、たいへん強くこれを推進してきておるつもりでございます。なかなか思うにまかせぬものがございますけれども、一生懸命にそういう考えでやってきておるわけでございます。
  86. 横山利秋

    ○横山委員 私が言及いたしました中の一つが出入国法案なんです。先ほど申しましたように、出入国法案を討議する土俵場が政府側と私どもとは違う。内容の問題でなくして、それを取り巻く四囲の情勢展望について土俵場が違う。だから、これは何回も廃棄のうき目にあっておる。しかも、なおかつ、朝鮮の南北の政治情勢というものは非常に激動をしておる。それは容易なことではないにしても、南北の統一というものが両国とも条件つきではあるけれどもいわれておる。そして国連においても朝鮮問題の討議がいよいよ俎上にのぼりつつある。われわれとしては、すぐ近国である朝鮮、そして日本にある六十万の朝鮮人の諸君、したがって、朝鮮問題は国際問題であると同時に国内問題であると私どもは考えておる。そしてこの国内におる六十万の朝鮮人諸君が南北に二つに分かれて相争う、国際問題を国内まで持ち込んでくるような可能性日本にとっては重大問題だと思う。したがって一刻も早く南北の和解が行なわれ、在日朝鮮人六十万が一つの祖国のもとに国内において友好的な活動をしてくれることを衷心望みたい。その望みというものは私は射程距離にあると思うのです。そしてまたその射程距離にあると思うものを日本は阻害をしてはならない。つまり国連において二つの朝鮮に分ける、国際的に分けることに日本は加担してはならない。いま確かに南と北との二つの国家があるけれども、その国家が融合し統一をされることを日本としても促進をしなければならない。その意味で、日本における六十万の朝鮮人諸君のその法的地位、出入国のあり方、そういう点についてまず平等の立場にすることのほうが大事なことではないか。それを現状を、政府側に言わせるならば若干の前進とおっしゃるけれども、前進によってそれをまた固定してしまう。いまつらいことあるいは多少の無理なことがあっても、その大きな流れにわれわれがさおさすような方向にわれわれ自身努力をする必要があるのではないか。つまり出入国法については法律の内容でなくて、国際的な視野で、日朝の基本的なあるべき姿にさおさしたものの考え方で処理をしなければならぬのではないか。それを私はくどく言っておる。公式にも非公式にもくどく言っておる。その点については与党の中にも基本的には賛成者がある。野党はほとんど皆さん同意見であると私は思う。こういうような情勢を、私どもの判断をくみ入れてくださるならば、出入国法についてはもう一ぺん基本的に再検討をなさるべき必要があるのではないか。何回も廃案になったものをまた次の通常国会に出すという愚をなさるべではないのではないか。この法案通過のために事務的な努力をされる法務省のお役人の諸君も、このことは私はわかっていると思うのです。むだな労力をするよりも、むしろもしお出しになるとするならば、その内容においてもあるいは日朝の基本的なものの考え方においても閣議で十分討議をして考えられるべきではないか、そう私は衷心思っておる。まあ通常国会で先の国会に出された法案をそのままむぞうさに出されるということについては、これは決しておとりになる策ではない、こう考えますが、いかがですか。
  87. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 出入国法について行き届いた御意見をいただいてたいへんありがとうございます。閣議で十分練ってというお話でございまするが、閣議で練りましてもなかなかものになるまい。どこで練るのか。野党の皆さんと御相談をしたい。  仰せのとおりに、三度出していけないものを四度出したってしようがない。二度出していけないものを三度目に私が大臣になったので、朝鮮出身の同胞六十二万人もおる中で五十九万人まで政治活動を解除をしてしまって在留活動を自由にして、あと三万人分だけを残して思い切って大削減をいたしまして改正して出したんだけれども、一向お取り上げがない。私の努力は水泡ということになった。  そこで、これは通常の行き方じゃあかぬ。政府法務省が何ぼ相談して出したって取り上げる気がない。悪いけどね。ひどいもんですよ。そこでこれをやりますにはやっぱり委員長に御相談を申し上げて、そうして委員長の御同意もいただき、理事の皆さんの御同意もいただいて、こういう内容でいかがでしょうかということで野党の皆さんひとつ相談をしてみる。野党と相談をしてみて、むちゃくちゃな話になって出さぬほうがいいというんならほっておいたらいい。野党の皆さんと相談してみて、出したらよかろう、これならば出させてもらおうということになれば、その内容のものを閣議決定をする。こういうふうに、野党の皆さんにもたれて出させてもらおうということで、閣議練るというような考えはありません。それは練ったってだめですよ。また国会運営の方針だって、野党がうんといわぬものは取り扱わぬのだ。無理に議決して持っていっても本会議に上げないのだというようなことを言うておる。国会法がどっち向いておるかという話にもなるわけです。  そういうことでございますから、私はまあ何でも思うておるとおりを言う男ですからね、ちょっとさわるところもあるかもしれませんけれども、野党の皆さんとまず相談する、まとまったところを私が拝見する。これならば全世界に対して申しわけが立つ。世界の人々が相手の法案ですからね。日本国内の法案じゃございませんから、これならば世界の入国者に対して申しわけが立つと思えば出す。で、こんな内容のものなら出してもしかたがないというんなら出さぬ。それは私が判断する。そして事務当局に、七重のひざを八重に折って野党の責任ある皆さんと折衝をして御意見を聞いて回りたい。そういうやり方で——そういうことをここで言うていいのかどうかと思うが、まあ私が思うていることですから、そういう方針でこれをものにしていきたい、こう考えております。
  88. 横山利秋

    ○横山委員 さわるところもあったんですけれども、しかしお気持ちはよくわかりました。まあ付言をしておきますと、いまあなたのおっしゃるように野党との合意なくばやってもむだだからやらないという点については、私どもも別の角度で了承をいたします。  ただ、私が先ほどから言うておりますのは、問題は、一つはもちろん内容にもあるだろうが、もう一つはその土俵場の問題があるよ。日朝の基本的なあるべき姿へのその道筋に合致をしなければ、つまりあなた方がいままで考えておられた土俵場、法律を事務的に、いまの出入国関係の事務を改善するというだけの土俵場ではだめですよ。先ほど言うたとおり、日朝の基本的な関係について私どもがいろいろ考えておるそういう土俵場まで少しいらっしゃいよ、その土俵場がもし合意があるならばということを私どもはもう一つ申し上げているんですから、その点をひとつお含みおきを願っておきたいと思います。  時間が参りましたから、以上で私の質問を終わります。
  89. 中垣國男

    中垣委員長 次に正森成二君。
  90. 正森成二

    ○正森委員 最初に外務省に伺いたいと思います。  衆議院の外務委員会での質疑によりますと、外務大臣は、主権の侵害については両国が認めなければだめだ、韓国は執拗に主権の侵害を認めない、わがほうには証拠になるきめ手がない、したがって主権の侵害といえないのだ、こういうことをおっしゃり、また大平外相も高島アジア局長ですかも権利として原状回復は言ったことはないし、これからも言わないというように私が聞いたところでは明言しております。これが外務省の態度ですか。
  91. 松永信雄

    ○松永説明員 ただいま御指摘がございましたように、外務省の立場といたしましては、主権侵害という事実を判定する証拠がないというのが日本政府の立場でございます。また韓国政府は公権力の行使はなかったという立場をとっているということでございます。原状回復につきましては、主権の侵害がなかったという場合において原状回復の主張をするということは困難であろう、こう考えておるところでございます。
  92. 正森成二

    ○正森委員 原状回復の請求をすることは困難であるというような、ややあなた微妙な表現に変わりましたが、しかし私が九月十一日、二十五日当委員会でも質問しましたように、原状回復を権利として国際法上請求するということは主権侵害とイコールには結びつかない。国際違法行為があれば国際法上の権利としての原状回復、陳謝、責任者の処罰等々は十分請求できるということは一般論としてあなたもお認めになったとおりであります。いまもあなたはこの私に対する答弁を維持されますか。
  93. 松永信雄

    ○松永説明員 一般論といたしまして国際違法行為があり、それに対する責任の解除についての二国間の、関係国間の交渉が行なわれます場合において、その解除の手段といたしまして、いま言われましたように陳謝とか将来の保障とか原状回復とか損害賠償というものが外交交渉の主題となり得るということはそのとおりでございます。
  94. 正森成二

    ○正森委員 交渉の主題となり得ることは事実でありますというようなこれまた微妙な表現になりましたが、国際法の教科書では、国際違法行為があれば、いま言われたような手段は、違法行為を働いた国家は国際責任としてそれが解除されるためにはしなければならない義務である、こう書いてあります。義務であるとすれば、それを請求する側は権利であるというのがこれまた国際法上の常識であります。そして本件によれば、捜査当局の御努力もあって、金東雲一等書記官というはっきりした駐日韓国大使館の一等書記官が事件に関与しておる。そうなればこれは国際違法行為であることは明らかです。したがって韓国に対する責任解除としてあなた方は原状回復を権利として請求できる、これは一般論としてもそうであり、この事件としてもそうであることは明らかであります。しかるになぜ権利として原状回復を請求せずにこの事件解決をしたのか。
  95. 松永信雄

    ○松永説明員 具体的な事件、事案につきましてその責任を解除するための手段を相手国と交渉いたします場合には、その責任に対応する手段と申しますか救済と申しますか、としてのいろいろな項目が出てくるというのが私は当然ではないだろうかと存じます。したがいまして今度の事件について申しますと、金東雲の行為が私的な行為であったという前提をとります場合には、韓国政府としては自由の公務員、しかも大使館員が外交官としてあるまじき犯行、行動を行なったということについては非常に重大な責任があると私は思います。あると思いますけれども、その私的な——私的なという前提に立った場合でございますけれども、私的な犯行自体について韓国政府の責任というものはないのじゃないか、こう思うわけでございます。したがいまして、原状回復の問題について言いますると、韓国政府がとるべき責任に対応するものとして原状回復の主張を行なうということは妥当ではないと考えておるわけでございます。
  96. 正森成二

    ○正森委員 いまの答弁を聞いて私は二つの点を指摘したいと思います。  あなたは私人としての行為だということを前提としてということを言いながら、私人としての行為の場合には韓国政府に国際責任としての原状回復を請求できないととれることばを言いましたが、しかしそれでは九月十一日の私とあなたとの質疑が全くむだになってしまいます。職務行為として公権力の介在としてやった場合には、ずばり主権侵害になるので、論戦をする必要はない。それが職務行為としてということを否定して私人の行為としてという場合でも、それはたとえば高野雄一教授の学説、これは通説ですけれども、当該違法国家は無過失責任を負うというのが、これが学説でしょう。少なくとも私人としての行為であるというならば、当該国家が相当な注意をしておったけれども事件を発生したということを言わなければならない。証明しなければならない。それを証明しない以上は、当該国家に公権力の介在と見られてもしかたがないという責任を生ずることは、寺沢一教授あるいは田畑茂二郎教授等々が言っておられるとおりであります。そういう点からいえば、この事件では一点の疑いもないではありませんか。私人としての行為だということを韓国は合理的な疑いを残さない以上にわが国に対して証明しましたか。それは私どもは命令、指示しておりません、公権力は介在してませんと一般的、抽象的に否定しても、何人も納得することはできない。それならば、あれだけ大がかりな事件金東雲一等書記官が何日間も職務を放棄して約二十人近いグループを動かして、どういう謀議をして、船はどうしたのか、それについて全く公権力が介在せず、私的な行為であるということを納得のいくように説明して、初めて日本に対する責任を果たしたということができる。そのことを法務大臣も挙証責任というのは韓国にあると、こう言っているんです。何にもされていないじゃないか。そうだとすれば、国際法の一般原則に返って、韓国政府が少なくとも原状回復を国際責任としてなさなければならない義務がある、日本政府は請求する権利があるというのが、本件に具体的に適用した場合の結論ではありませんか。そうでしょう。それだのに、なぜあんな解決をしたのです。
  97. 松永信雄

    ○松永説明員 公権力の介入ということがなかったという場合において、国際責任を解する手段として原状回復を主張することは妥当でないと考えております点は先ほど申し上げたとおりでございますが、他方、いま御指摘がございましたように、韓国側は公権力の介入はなかったのだという立場を表明はいたしております。表明はいたしておりますけれども、これについての証明と申しますか、立証をして十分私どもが納得する証拠を提出して説明をしているということはないのが現状だろうと存じております。
  98. 正森成二

    ○正森委員 いま松永条約局長は、私的行為であるということについて納得のいく説明、証明はない、こう言っておられます。そうだとすれば、証明、納得がなければもとへ戻って、あとに残るのは金東雲一等書記官というのが韓国大使館の外交官であるという公的身分を持っておる人物である、したがって一般的にはその職務行為は公の職務として行なわれたという推定、これが残るだけであります。そうすれば、日本政府は、そのことに基づいて当然権利として言えるじゃありませんか。そういう理屈になるでしょう。法務大臣、あなたは挙証責任というのは韓国にあるのだということを前に参議院の法務委員会でも一言おっしゃいましたし、いま現に横山委員の質問に対しても言われました。そうだとすると、それは一般的、常識的、政治的にいえるのだという議論にとどまらず、国際法的にも私的行為だということについて挙証責任が韓国にあり、その証明を尽くしていないということになれば、権利として日本が原状回復を請求できるということに落ちつかざるを得ないではありませんか。
  99. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 私がくどく申し上げておりますように、常識的考え方からいいますと、これはだれが見たって主権の侵犯ですよ。これは日本国内ばかりじゃない、どこへ持っていっても通る。  それから常識的に見て、それは私の私的行為なんだ、個人の行為なんだ、公権力は関係ございませんというんなら、りっぱな官吏のやったことじゃないか。ことにKCIAの兼任ともいわれている官吏の行動ではないか。にもかかわらず、これが私的なものだというならば、私的だという証明を韓国側がしなさい。挙証理論からいえば、それを主張することについて韓国に利益があるでに」ないか、常識的には、私が参議院でも言い、本日ここでも申し上げたとおり、言うておる。しかしその常識的なわが国の妥当な主張を、わかりました、悪かったといって合意をすれば、それはそれで問題の解決がつくのです、この常識で。常識ほど大事なものはないのですよ。ところが知らぬと言うのです。知らぬと言ったってあなた——指紋が出ても知らぬという国だから。知らぬと言うんですよ。そうすると国際法的に出ていかなくちゃならぬ。国際法的に出ていくには、向こうが存じ知らぬというのに日本がおのれの主張を貫くために主張をしていくのでありますから、日本側が法律的に立証をせざるを得ない。その立証の道はどういうやり方かというと、あらゆる角度から捜査を積み重ねてものを言わす以外にない。だんだんそれに捜査の結果は近づいてきておるのは御承知のとおり。それを一段と立証する必要がある。国際法的には一段と日本において立証して、今度はどう言おうが有無を言わさぬ、どうだというところへこれを一方的に持ち込む。それがためには日本が立証をせねばならぬ、こういうことに私が分けてお話をしておる。ちょっとわかりにくいところもありますけれども、しかしようわかるでしょう、この話は。そういうふうに私は考えて、信念を持っておるのです。常識というものを大事に考えてくれる国ならわからぬならぬ。
  100. 正森成二

    ○正森委員 いま大臣が非常に懇切におっしゃいましたが、私は、国際法の理論からいいますと、先礼ながら大臣のお考えは必ずしも正鵠ではない。つまり向こうが私的行為だということについて挙証責任を尽くさない、こちらが納得されないという場合に国際法上どうなるのかということになれば、挙証責任が転換されて、わが国が証明し切れなければ向こうに対して請求できないというものではありません。その場合には依然として挙証責任は韓国にあり、韓国が挙証責任を尽くさない場合には、公務員の職務行為として行なったという、そういう法的効果が残るだけであります。  その場合には、韓国国際法上十分責任がありますから、わが国は相手国の行為を主権侵害行為、少なくとも明白な国際違法行為として扱い、これに対して第七回日韓閣僚会議は断じて開かない、金東雲書記官の出頭を求める、金大中氏の原状回復を権利として求め続ける、それがいれられない限りは韓国と正常な国際関係は結べない、こういうわが国の主権の範囲内で行なわれる行為を行なう、これが国際法上の帰結であります。そうではなくして、向こうが挙証責任を尽くさなければ、今度は挙証責任がこっちに返ってくる、そういう国際法はない、いかなる教授の書物をひもといてもそれはない、こう私は考えます。大臣一つの政治論であります。  その点について私は大臣に指摘して、松永条約局長が、本件の具体的事件については、原状回復を交渉することは適当ではないという意味のことを先ほど言われましたが、それは国際違法行為であるとしても、それにはものごとの程度があり、損害賠償というのが適当な事件もあれば、そうでなしにほかのことで済む場合もある。本件の場合には原状回復を言うことが適当ではない、こうとれるかもしれませんが、私はその考えは根本的に間違っておる。たとえば法務大臣のおことばを引用しますと、法務大臣はなかなか人気がおありとみえて、サンデー毎日の九月十六日号によると、「田中伊三次法相に独占インタビュー」「某国をめぐる“第六感大臣”の確信」と、こういうでかでかとした見出しで、大臣が縦横に放談しておられる。それを見ると、大臣は、「私が乗り込みたいくらい……」という大きな見出しで、こう言っておられる。「金大中氏の自由意思に従って処理をするということが人道ですから、その人道に基づく処理をしてやるためには返してもらわねばならん。捜査はもちろん最初の振出しが大事なんだから、振出しの事情はこいつが知っておるんだから返してもらわなければならんということになっておるんです。」「こいつ」なんてあまりいいことばじゃないですけれどもね。「とにかく日本に自由意思で滞在しておられた金大中氏が、おのれの意思に基づかずして拉致されて韓国の自宅に帰ったということだけは間違いない。この事実をとらえてこれをもとに戻す。これをもとに戻して日本に協力するという態度がとれんはずはない。強腰かつねばり強くこれを主張して、韓国の同意を求めることに全力を尽くす以外にない。そうしていうことを聞いてもらわないと両国はメチャメチャになってしまう。」こう言っておられます。どうですか。少なくもわが国の治安担当大臣の九月十六日当時の認識とはかかるものであります。それに対して外務省は、この事件について原状回復をするのは適当でないとか、そういうぐあいに考えておられるのですか。法務大臣、あなたは前に天下に発行されておるサンデー毎日でおっしゃったことを取り消されることはあるまいと思います。そうだとすれば、金大中氏を連れて帰るということがもう人道上きわめて大事で、そういうことを聞いてもらわないような場合には、両国はめちゃめちゃになってしまう、こう言うておられるでしょう。ところが原状回復について、少なくとも十一月二日段階では確たる保障がないのに政治解決をしておられる。つまり両国がめちゃめちゃになるようなことを、大臣も一員である田中内閣はおきめになったということにほかならない。なぜ金大中氏の権利としての来日も保障されないのに、そういう解決をされたのか。——あとで松永さんも答えてください。
  101. 松永信雄

    ○松永説明員 私が申し上げましたのは、韓国の国際的な責任の解除につきまして、公権力の介入という事態がなければ、その責任の解除を求める交渉において原状回復の主張を提起することは妥当でないと考えているということでございます。それでこのことは外務大臣も外務委員会で言明しておられますけれども、私どもといたしましては今後公権力の介入があったということを立証するような事実が出てまいりました場合は、当然それに基づいて韓国に申し入れをすべき権利を留保しておるわけでございます。また捜査のために金大中氏の再来日が必要であるという点、この点は外務省も同じように考えているわけでございまして、韓国に対してはそのことを通報している、その日本政府の立場は現在でも変わっていない、こういうふうに了解しております。
  102. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 正森先生、あなたは金大中のからだがもとへ戻らぬのに、途中でそういう解決をするとはけしからぬというお話がありましたね。(正森委員「戻る保障がないのに」と呼ぶ)保障がないとおっしゃるけれども、外務省の行なった側面解決というものは、保障を取りつけたきっかけはできたんじゃないですか、飛行機で出るというんだから。私は、飛行機で出た瞬間に外務省の側面解決は実を結ぶんだ、こう見ておるのです。私は、まだ韓国を出発するまでは心配をしておるのです。この側面解決をおしかりになるようですけれども、ちょっとそこのところの検討はいかがでしょう。私はこの側面解決はよかった、こう考えるのですがね。評価するとかいうと、いかにも私が総理大臣みたいなことを言うておるけれども、そうでなしに、とにかく金大中のからだを自由にするということが本件、大問題、大騒動をしておる問題の一つの目標なんですから、その一つの目標はまさに達成されんとしている、その外交交渉を取りつけてくれたというのでありますから、外務省御苦労さんということを私は初めて言うた。いままで、何しておるか何しておるかといって文句ばっかり言うた。このときに初めて御苦労さまということを記者会見でも発表をいたしましたようなわけで、これは先生のおことばを返すようでいかがと思うのでありますけれども、私はそう思わぬのですよ。うまくいっておると思うのです。  ただ、これは理想からいえば、主権の侵犯を証明して、さあどうだと国際法上堂々と権利として要求する、向こうは義務として応ぜざるを得ない、こういう形でからだを返してもらうことができれば、先生仰せのとおり満足はいくのです。そういう道は、そこまではいかなくとも、とにかく内容、実質的には自由なからだとなるということのきっかけを外務省がつくってくれたということは、私は、できはいい、これはうまくいったらうまいものだ、こう見て、飛行機でいつ立つかいつ立つかと思って気にしている、そういう状況です。
  103. 正森成二

    ○正森委員 いま大臣がそうおっしゃいましたので、私はあとで聞こうと思った質問を少し繰り上げて聞きたいと思いますが、大臣が、金大中氏が来られるというのはライシャワー教授が韓国に行かれるとか、あるいは出国申請に二十五日を出発日というように書いて出しておるとかというようなことから言われておることであろうと思います。私は、もしそれがほんとうに実現されれば、日本へ来て捜査に協力するということについても留保条件なしに、それならば一定の成果になるというように思いますが、しかしそれがほんとうにそうなるのかどうかということについてはきわめて微妙であり、日本政府がそれにどれほど積極的に関与したのかということも明らかではありません。  そこで私は申したいのですが、大平外務大臣は、出国も含めて金大中氏は十月二十六日以来自由である、こういう意味の答弁をしておられます。金大中氏がほんとうに自由だというなら、当然本人来日を希望し、言明し、申請までしておるわけですから、だから来日ができるはずであります。しかしわれわれが非常に心配なことは、金溶植外相が十一月一日に、金大中氏が帰国前、日本に滞在中に行なった言動については、本人が反省し、今後反国家的言動を再びしないならば、それに対する責任を問わない、こう言明していることであります。  外務省関係に聞きたいわけですが、金溶植外相がこういうように公式に十一月一日言明した、それは事実でしょうか。
  104. 中江要介

    中江説明員 事実でございます。
  105. 正森成二

    ○正森委員 そこで私は外務省にも、また法務省の特に安原刑事局長にも聞きたいわけですが、一体反国家的言動を再びしないというけれども、再びしないなどということを韓国政府はどうして確認し、保障を得るのですか。われわれ裁判でも、悪うございましたとして反省することはできる。再びしないと口では言えるかもしれません。しかし再びしないということをどう保障するのですか。安原刑事局長は検察官として公判にもお立ち会いになったと思いますけれども、再びしないということが保障されるなら求刑はこういうようにする、そんなことできますか。先のことはわからない、そうでしょう。
  106. 安原美穂

    ○安原説明員 むずかしいお尋ねでございますが、一般論といたしまして、それはいわゆる検察官ないしは裁判官と被告人あるいは被疑者との信頼の問題だと思います。
  107. 正森成二

    ○正森委員 いまの信頼の問題だと言われましたが、金溶植外相は、信頼の問題としてではなしに法的効果を発生する問題として、今後反国家的言動を再びしないならばそれに対する責任を問わない、こう言っているのです。べらぼうな国家じゃないですか。このことは結局金大中氏を永久に国外に出さずに国内で監視下に置くか、そうすれば再びしないということは保障できます、すればがぼっとやればいいのですから。あるいはそれとも金大中氏を完全に屈服させて、政治生命を奪うような念書を作成させて、かつ違反した場合の報復措置、今度国外でも出て悪いことをやったら、今度は拉致するくらいでは済まぬぞ、こういう報復措置を申し渡した上でなければ国外に出さない、この二つのうちのいずれかでなければ保障はできないじゃないですか。そういうことを外相たる者が言うておる。もってのほかじゃありませんか。大体本件では金東雪五等書記官というのは外交官であります。したがって、その責任を負うという意味からいえば、金溶植外相は監督者として責任を負うべき人物です。日本なら当然辞任すべき人物だ。その人物が被害者である金大中氏にこういうことを言うというのは、日本ことばで言えば大臣、ちょっと態度が大き過ぎるのじゃないですか、この男は。自分が辞任して責任を負うべき男が逆にそういうことを言う。もってのほかだと思う。こういうことを外相は言うておるから、私は金大中氏がほんとうに出国できるのかどうかということについて危惧の念を持っておるのです。大臣はどう思われますか。
  108. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 先生。妙な理屈を言うのですけれども、いやしくも韓国外交最高責任者の外務大臣、この人の言うたことをけしかるとかけしからぬとか、日本国会の公の席上で日本の法務大臣が言明した、これは逆に明らかなる主権の侵犯ですね。ですから、これはこの席上であなたとわたしと二人だけなら言うことはたくさんあるのです。この席でそれを言うて新聞にでも書かれてごらんなさい、えらいことが起こるよ、この話は。私があやまらなければならぬことが起こってくるから。それで、そのことは私はここで申し上げかねるのでありますけれども、まああの金君だってばかじゃないから、賢い男です。ですから、こういう条件がつけられたということはよくわかっています。おそらく本人に徹底して反省を求めるために、こういう条件をつけておるものと思います。また全世界に心配をかけたんだから、当分の間政治活動は慎しむという心に当然なるでしょう。それで学問に専念して、学者としてもなかなか一人前の人ですね、著述の一部も私は読みましたが、あれは一人前のものです。そこで、一定の時期は学問に精進をする、こういう考えに本人がなってくれれば、この外務省の取りきめはきれいにものを言う。これは何が一体どこが保障かと、こう仰せにならずに、しばらくからだが自由になるのをひとつ見てやっていただきたい。こういう気持ちでただいま拝聴をいたしました。
  109. 正森成二

    ○正森委員 多少禅問答に近い御答弁でしたが、私も禅が全然わからないというわけではありませんから、非常に微妙な時期ですから、これ以上詰めないで、二十五日が過ぎて一定の時期にまた申し上げるというようにいたしたいと思います。  しかし外務省にちょっと聞かなければならないのですけれども、後宮大使という大使がおりますね。この大使というのは新聞の報道されるところによりますと、二十六日に、原状回復というのは金大中氏が軟禁状態から釈放された、それをもって原状回復と考えるのだという、外務省、新聞によっては条約局というのまで出ておりますが、そういうことを韓国側に伝えた。そこで、韓国側日本政府とも考え方が一致しているのだということが各紙に載っております。特に朝日新聞の十月二十七日付朝刊を見ますと、外務省事務当局は「後宮発言が無用な混乱を招きはしないかとにがりきっている」こう出ておるわけですね。どのくらいにがい顔をなさったか一度ここでやっていただきたいのですけれども、一体なぜこんなことを言うのか、一体言えというようなことをあなた方が訓令を出したのかどうか、外交交渉のまっ最中に。それについて責任ある御答弁を伺いたい。
  110. 中江要介

    中江説明員 まず事実につきまして、後宮大使にそういうことを言わせたかという最後の部分につきましては、私どもはそういうことを訓令したようなことは毛頭ございません。それから条約局の見解云々という部分につきましては、あるいは条約局長から御答弁いただいたほうが適当かと存じます。
  111. 松永信雄

    ○松永説明員 ただいま御指摘になられましたようなことを後宮大使に私どものほうから申したことはございません。
  112. 正森成二

    ○正森委員 それならばますます事は重大です。朝日新聞だけでなしに、わが国の新聞は、すでに後宮大使が話をしたということが載っております。中には後宮大使の話を取材している新聞もあります。いやしくも一国の交渉で、本国政府から訓令もないのに、本件の最も微妙なことについてきわめて国際法上特異の考え方日本から連れていかれた人間が、連れていかれた国で一応何か軟禁が解かれたというだけで原状回復なんて、そんなことを言うような大使は罷免ものじゃありませんか。あなた方は訓令していないというなら、後宮大使にその事実を確かめて、彼は韓国大使としてこういう微妙な段階では不適任である、適格性を欠くということで更迭をするように外務大臣意見具申をされましたか。これがもしあなた方があまりお好きでない社会主義国との間の交渉で、外務省のごく一部にある見解を日本政府はこう考えておるというようなことを言って、相手国の外務大臣日本政府も同じ解釈だなどといって事件解決しようとしたことなどが新聞にでかでかと載ったら、ただでは済まされないでしょう。あなた方は韓国ならそれが許されるのか。外務省は綱紀がほんとうに弛緩しているのじゃないか、それとも後宮という男はよほど大使としての適格性を欠いた男じゃないか、こう思わざるを得ない。明確な答弁をお願いします。
  113. 中江要介

    中江説明員 御指摘の後宮大使の発言がどういう雰囲気のもとで行なわれたかにつきましては必ずしもはっきりいたしておりませんけれども、これはソウルに駐在いたします日本人特派員の方々との、金大中氏が自由になられた直後の会見の席上で話題になったというふうに伝えられておりますし、あるいはそういうこともあったかと思いますが、そこで後宮大使もおっしゃっておられると思うのですけれども、これが政府の見解というようなかっこうではなくて、こういう考えもあるというようなことでおっしゃったのではないかと私ども見ておるわけです。しかし、ただいま先生もおっしゃいましたように、そういう考えもあるということすらも、かりそめにもこの機微な段階で大使が言うことは適当であったかどうかということについては、私どもも適当ではなかったとは思っております。したがってその大使の発言が、いまおっしゃったような非常に重大な影響といいますか、反響が出てきて、それが日本政府が考えているような本件の納得のいく解決をするための妨げになるようなことならば、これは重要なことであると思いますけれども、現在までのところ、私どもから大使を更迭するというようなことまでも進言するほどのものとは考えてないわけであります。
  114. 正森成二

    ○正森委員 いまの発言で、はしなくも後宮大使がそういう意味のことをソウル駐在の日本人特派員に言っておるということは間接的にお認めになったと思いますね。あなたはその発言が外交交渉に重大な影響を及ぼさなかったかのように言っておられますけれども、主権者たる国民から見れば影響を及ぼしておる。まさに十一月二日の解決はその線に沿ってなされておる。二十五日にどうなるかわかりませんよ、しかし十一月二日にはそういう線で解決されておるということになれば、きわめて重大なことです。金溶植外相が日本政府考え方とも一致するはず、こう言っていたことは各紙に載っておるじゃありませんか。  後宮大使についてはまだもう一、二私は言いたいことがある。八月十三日に金大中氏が初めてソウルの自宅にあらわれたときに、真夜中に、直ちに、日本政府に御迷惑をかけていると思って後宮大使のところに電話をしております。一度ならず二度、三度しております。それに対してふろに入っておったとかなんとかいって出てこなかったということが当時のすべての新聞に載っております。いやしくもこういう重大事件が起こった大使としては、どんなことがあってもその安否を確かめ、経過を聞くというのは当然の任務であります。しかるにそれをやっていない。後宮大使は電話がかかったことについて外務省に訓令を仰いで、電話があったけれども出るべきかどうかというようなことでも言うてきたのかどうか、それとも言わないで独断でやったのか、それについて答弁していただきたい。
  115. 中江要介

    中江説明員 この件につきましては、そのことが新聞で報道されましたあとの、たしか衆議院の外務委員会で私一度御説明したことがあると記憶するのですけれども、電話がかかったことは事実だそうでございますが、それは一回だったそうでございます。その電話がかかったときは後宮大使は入浴中であったということ、これも事実で、実際入浴しておられた。したがいまして、公邸の留守番といいますか、使用人である日本人の人がその電話を最初に受けております。これは韓国語で最初話があったものですから、どうも要領を得ないというので、公邸を警備しております韓国人の警備員の人に電話に出てもらって、そうして通訳といいますか、内容を聞いた。そうしましたら内容は、金大中氏が自宅に戻ったという知らせだということだったものですから、後宮大使は、それはもちろんふろから上がってからそのことを報告を受けられた、これはたいへんなことで、当時の状況からちょっと想像できないような話で、いろいろな情報が入るものですから、これがほんとうのものかどうかということで、自分が入浴中であったので、次席の前田公使のほうにも連絡がいったかと思って、前田公使のほうに電話したのだそうです。そうしましたら前田公使のほうには、別途、金大中氏が自宅に戻ってこられたということが確認されたという情報がありましたので、後宮大使としては、それでは先ほどの電話は事実であったのだなということをまず確かめられまして、金大中氏がソウルにあらわれられたということによって、この金大中事件についてどういうふうに今後対処していくかということについてはさっそく請訓がございました。ただ電話に出るべきかどうかというような請訓ではございませんで、金大中氏がソウルにあらわれたということを踏まえて、今後どういうふうに本件を取り扱うかということについては請訓がございました。したがって大使としては、一回だけの電話がたまたまタイミングが悪くて直接出れなかったけれども、その電話の内容を次席の前田公使を通じて確認されたので、それ以上、次のステップは、これは訓令を仰いでその指示に従う、こういう態度をとられたというふうに詳細報告を受けているというのが実情でございます。
  116. 正森成二

    ○正森委員 いまそういう説明を伺いましたが、私は一国の大使として、次にどういうステップをとるかということは本国政府に訓令を仰ぐべきで、あり、あなた方が指示すべきことだと思いますけれども、しかし前田公使から金大中氏が韓国にあらわれたということを別途確認したからそれでいい、そんな理屈はないと思う。後宮大使にいろいろ話をしたかったからこそ電話をかけてきているに違いない。したがって、そういうことを入浴から上がって聞いたならば、金大中氏が日本語がたんのうなこともよく知っているのだから、電話をして、金大中氏がどうしてソウルにあらわれ、金大中氏が電話で何を当該日本国の大使に言いたかったのかということは詳細に聞いて、そうしてそれを本国政府に伝えますということを言うのは当然じゃないか。予供でもそれぐらいのことはする。しかるにはれものにさわるように何にも連絡していないということでは、金大中氏に対しても日本政府はきわめて冷淡であると思われる。また、四方に使いして君命をはずかしめないという大使のとるべき態度ではない。少なくも私ならそういうことはしない、こう思います。ところが外務省ではそういうことがまかり通っておる。いかに金大中氏に対して当初から冷たい態度であったかということは、これ一つでも証明できる。  さらに後宮大使というのは、八月二十九日の各紙に載っておるけれども、あらわれてから二週間もして、やっと金大中氏の健在であるかどうかということを確かめるために会っておる。これについて、会ってよいかどうか、会うときにどういう状況で会うかということについて、大使館に対し外務省は訓令をしましたか。
  117. 中江要介

    中江説明員 後宮大使に対する訓令は、一般的に、金大中氏がソウルにあらわれたという事実のあと、金大中氏の身辺について、事実上は軟禁状態ではないかとかあるいは非常に健康を害して外出もできないようになっているんではないかといういろいろの報道がなされておりましたので、後宮大使に対しては、もし自分の目で確かめて金大中氏の健在がわかれば、それは日本の心配している人たちにとっては非常に貴重な情報だから、そういうことができるなら試みてみてはどうかという一般的な指示は与えておりました。
  118. 正森成二

    ○正森委員 当時の各紙によると、後宮大使は警察署長も同席して、検察官の若い事務官と書いてある新聞もありますが、そういう人と立ち会いの上で約二十分会った、こう書いております。後宮大使はこういう感覚で会うておるのか。九月十三日号「週刊現代」がありますが、そこで健筆をふるっておられる大森実氏が、「本人と会うのに、相手方の検察官立ち会いでそれが出来たという話は、寡聞にして聞いたことがない。後宮大使は、韓国検察権の立ち会いを絶対に排除せねばならなかった。そうでないと「外交の礼」は失せられる」、こう書いておられますが、私もそのとおりだと思う。一国の大使が会うのに、しかも日本から無法に連れていかれた人物と会うのに、犯罪者でもないのに警察署長や検察官の立ち会いで会うとは一体何事か。普通国内で、弁護士でさえこういうことはしない。そういうようなことを次々と行なった後宮大使、この人は外交感覚がやや麻痺しており、日本という一国を代表する、自分が主権の存する国民の代表であるというそういう自覚に欠けており、一体駐韓日本大使なのやら韓国大使なのやらわからない、こういう人物ではないか。こういう人物だから原状回復についても釈放をもって足りるんだということを、ついうっかり一番重大な時期に口をすべらすのだ。私がこう言っておったということを大平外務大臣に厳重に伝えて、この人物は一国を代表する大使にふさわしくない、こういう意見があるということを伝えなさい。
  119. 中江要介

    中江説明員 私ども事務当局といたしましては、後宮大使は非常に困難な状況のもとで訓令に基づいて種々御苦労いただいたと思っておりますし、また先輩を批判することもできませんので、ただいま先生の御意見は御意見といたしまして、忠実に上司に報告しておきます。
  120. 正森成二

    ○正森委員 忠実に上司に報告する。それだけでなしに、あなた方も同じ外務省に席を置く者として、こういうことはあなた方外務省の役人の間では通用するのかもしらぬけれども、日本国民としては通用しないんだ、感覚を変える必要があるということを申し上げておきます。  そこで、時間が迫ってきましたので防衛庁のほうに伺いますが、ミリオン資料サービスというところが七月一日に開所され、ここの坪山晃三所長及び江村という職員、両方とも自衛隊員であり、自衛隊をやめた人。江村というのは、まだ自衛隊を有給休暇をとっておる状況だったそうですが、本件について七月下旬見張りをしておったということは新聞に報道されたとおりであります。これについてその後何か調査をして、いかなる事情に基づいてこういうことをやったか、あるいはその後どうしておるかについてわかっておりますか。いかなる事情に基づいてやったかは新聞にも報道されていますから、簡単でよろしい。
  121. 島本耕之介

    ○島本説明員 ただいま先生から御質問のありました件につきましては、事件に関しますことは警察当局にすべておまかせしておりますので、私どものほうではその事件捜査の妨害にならない範囲内におきまして、防衛庁長官が国会においてお約束されました調査を実施いたしております。  まず長官は、陸上自衛隊に対し、本件関係の関連事項の調査を命ぜられました。また陸上幕僚監部あるいは調査関係の責任者から種々関連の問題について事情調査がありました。さらに退職いたしました——名前はいまだに警察捜査に協力する意味からも差し控えさせていただきますが、A、Bの元自衛官二名につきましては直接事情聴取して、その間の事情を知るように、長官名で陸上自衛隊に指示が出されました。また報道されたいろいろな自衛隊関係の人物の身上事項その他につきまして、人事当局その他からの調査も行なわれました。  ところが、まずA、Bの元自衛官二名につきましては、両名に対して協力を依頼しているのでございますが、いまだに連絡がとれておりません。また長官が御指示になりました陸上自衛隊その他関係者に対する調査に関しましては、現在のところ防衛庁長官が国会において答弁されたときと比べまして、新しい事実は出ておりません。
  122. 正森成二

    ○正森委員 坪山、江村という二人は、いま現在夜自宅に帰っており、昼ミリオン資料サービスに出勤して仕事をしておりますか。
  123. 島本耕之介

    ○島本説明員 防衛庁が現在のところ承知いたしております報告の範囲内では、A、Bの両名につきましては昼も夜も事務所あるいは家に連絡をとることができない、こういうことでございますので、おそらく昼は事務所に行っておらず、夜は家に帰っていないものと判断しております。
  124. 正森成二

    ○正森委員 私はさっきから黙って聞いておったら、新聞にも公表されておる人物をA、Bなんて白々しいことを言うな。新聞でも全部発表しておるし、名も各紙も知っておるじゃないですか。それをAだとかBだとか、私は坪山と江村以外にまだA、Bという男がおるのか、こう思って聞いておったら、そういうことを言う。もう少しもっともらしく答弁したらどうです。大体こういう男を出したというだけでも、防衛庁調査隊というのは重大な国民の疑惑のもとに包まれておる。だから国会に来てもらっているのだ。一説によれば、防衛庁とKCIAはぐるになってやった、こういう疑惑さえ起こっておる。それが国会で追及されて、山中防衛庁長官も詳細に調べると言っておるのに、警察がどうだとかこうだとか、AだとかBだとか、何ですか、一体。  そこで警察に伺いますが、いまA、Bという公称をしましたが、坪山と江村にきまっておるのですが、夜は家に帰らず昼は仕事場に出ておらない、こういうように言っておりますが、警察庁ではその事実つかんでいますか。またそれはなぜですか。
  125. 山本鎮彦

    山本説明員 この二人の方の現在の状況ですね、これはわれわれ全然承知いたしておりません。その理由は、いま捜査に必要がないということです。
  126. 正森成二

    ○正森委員 捜査に必要がないと言われますが、七月のある一定の時期に金大中氏を見張っておった、これだけでも非常に大切なことだのに、それだけで済まない。もっと長期にわたって見張っておったか、あるいは事件にもっと深く関与しておったか、その横のつながり、こういうものについて国民は非常に疑惑を持っております。法務大臣も言っているように、あなた方は捜査を継続し、どんなことがあっても真相を追及するんだと言っておる場合に、重大な一つの手がかりじゃありませんか。それについて国民は、なぜ電話帳にも載っておらないところへ金東雲が頼みに行ったのか等々、わからないことがいっぱいあるのに、それをつかんでいないとは一体何ですか。それで警察庁は、私は捜査についてある部分でよくやったと思いますけれども、国民捜査はよくやっておりますということはできますか。ぽんとうに全然知らないのですか。調べてもいないのですか。
  127. 山本鎮彦

    山本説明員 そのお二人の方からは当時詳細にわたって伺っておりますし、それから証人の立場で名前も伏せてもらいたいということであるし、いざという場合にはもちろん協力いたしますということで、すべての関係について詳しく協力していただいたわけであります。われわれとしては現在の段階ではそれだけの協力をいただいておれば、われわれの捜査上の資料としては一応満足できる、こういうように考えております。
  128. 正森成二

    ○正森委員 それでは警察官は、もし坪山あるいは江村という二人をさらに聞きたいと思ったときにはどこへ連絡するのですか。この二人に連絡するのですか、それとも防衛庁のしかるべきところへ連絡して二人に出頭してもらうようにするのですか。
  129. 山本鎮彦

    山本説明員 それは御本人のほうに連絡をいたすことになります。
  130. 正森成二

    ○正森委員 そうすると防衛庁、この二人の人物は、夜は家に帰らず、昼はミリオン資料サービスに出てきておらない、こう承りますが、奥さんに連絡すればどこにおるかということはわかるようになっておるのですか。それとも奥さんに言えば、奥さんが防衛庁のしかるべきところへ連絡してどこにおるかということがわかるようになっておるのですか。防衛庁はどこにいるか知っているのですか。
  131. 島本耕之介

    ○島本説明員 このお二人がどこにいられるか、防衛庁は承知いたしておりません。残っておられる家族の方に友人その他が連絡をとっておると思いますが、その線からもわかっておりません。
  132. 正森成二

    ○正森委員 お聞きのとおりです。家にはおらず、職場にはおらず、防衛庁は知らない。それじゃ、警察がいざというときになったって、やれそれの間に合わないじゃないですか。私はある人から、どうも行くえがわからないということを聞いて、念のために私も関係者にお願いしてミリオン資料サービスへも行ってもらったけれども、部屋にはかぎがかかっておって、だれもいない。あのことがあってから、二人とも来ておらない。家賃は奥さんが持ってくる。家へ電話すると、夜も帰ってこない、こういうことが確かめてわかっております。  もし七月の下旬に三日間見張りをしてお茶ひきをしたというだけならば、女房子供も養わなければならないだろうに、なぜ長期にわたって、ほとんど三カ月近くも職場には行かず家には帰らず、どこにおるかわからない。いわば蒸発、そういうことをやるのですか。だれが考えたって、わからないでしょう。それはこの人物がただ三日間関与したというだけではなしに、もっと幅広く関与し、新聞記者やその他の国民からいろいろ聞かれた場合にぼろが出るのをおそれて身を隠したか、あるいはKCIAとの間に何らかの関係があって、KCIAから逆に消されることをおそれたのか。何らかの事情があるとしか常識的には考えられません。これこそ、常識的にはそれ以外に考えられない。こういう重大な疑惑が、防衛庁、起こっているのです。  あなたはそれに対してどう思いますか。こういう人物は少なくとも所在は明らかにして、いつでも調べに応じる、国民の疑惑を解く。仕事はどんな仕事か知らぬけれども、きちんとするというのがあたりまえじゃないですか。仕事には全然寄りつかない、家には帰らない。こんなおかしなことがありますか。これだけでも、これら元自衛隊員がきわめて不明朗な関係をこの事件に持っておったということを例証するものではありませんか。そう思われてもしかたないですよ。何らかの措置をとりますか。あるいは警察でもいい。
  133. 吉田實

    ○吉田説明員 先生御質問の件に関しましては、確かに退職自衛官が退職直前に休暇をとって金大中の所在確認を担当しておったということでありまして、休暇中であるとはいいながら、自衛隊に籍を置いていたということで、妥当な行為とは言いがたい。したがいまして、今後このようなことのないように、自衛隊全体の問題としての規律の振興をはかると同時に、これは一方におきまして、すでに本人は退職しておりますので、これについて協力を依頼するという以上の措置は自衛隊としてもとれませんので、その点につきましては引き続き努力をいたす所在でございますけれども、この点も御了解いただきたいと思います。
  134. 正森成二

    ○正森委員 引き続き協力をお願いするためには、少なくとも所在がわかっていなければなりません。その所在を知る努力をされますか。
  135. 島本耕之介

    ○島本説明員 先ほど先生にお答えいたしましたように、長官の御指示がありましたので、陸上自衛隊におきましてはその努力をし続けております。
  136. 正森成二

    ○正森委員 いやしくも警察から何か必要があった場合に行くえがわからないというようなことのないように、厳重に協力体制をとっておきなさい。そうでなければ、国民からもの笑いになります。もの笑いだけでなしに、自衛隊が疑いの目で見られます。そういうことのないことを切に望みます。  そこで、山本警備局長に伺います。  あなたは、週刊読売の九月二十二日号だったと思いますが、「水爆対談!! 山本警察庁警備局長にきく 六万人を動員した“絶対自信”の捜査網」こういう大々的な見出しで、水爆対談だそうでありますが、あなたが水爆だとは知らなかったけれども、そういうのが載っております。ここで言われたことは、あなたがおっしゃったことでしょうか。
  137. 山本鎮彦

    山本説明員 その雰囲気全部は伝えておらないと思うのですけれども、大体のところを……。
  138. 正森成二

    ○正森委員 そこで、私は田中法務大臣外交的には不十分だけれども、三つくらい前進したのだ。もし捜査に否定的影響があるというなら今度の解決はよくないけれども、それはないんだからということを繰り返し参議院の法務委員会でおっしゃったと思います。田中法務大臣、間違いございませんね。
  139. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 そのとおりでございます。
  140. 正森成二

    ○正森委員 私もそのことを切に望んでおりますが、しかし本件解決によって捜査は一定の影響を受けたし、また受けざるを得ないというのが、こういう道について多少でも知っておる者の常識ではなかろうかというように思います。そもそも、あの解決が行なわれる以前でも捜査外交が介在し、非常に困難があったであろうし、知り得たことを公表するについても制約があったであろうというように私は推測します。あなたはこの週刊読売で、金東雲の関係です。「捜査の過程で、捜査上の手段によって顔写真を入手することができました。はじめに名前が出てきて、それから写真を入手して、詰めているときに証人が出てきて写真を見せたわけです。そのあとの段階で指紋が入手できた。指紋というのはご承知のとおり、事件直後すぐ取ってありますから、それと対照したらピタリだったということです。」渡辺さんが、「三十八年の外人登録の際の指紋を使われたわけですか。」答え、「まあ、そうははっきり言えない面もあるんです。捜査上のいろいろな方法によって、入手したということで……。」こうなっております。これはそのとおりですか。
  141. 山本鎮彦

    山本説明員 大体そういうことだと思います。
  142. 正森成二

    ○正森委員 そうしますと、私が持っておりますのは、九月五日の朝日ですが、当時「相手が外交官ではどうやって対照する指紋を手に入れるかが、指紋捜査の焦点になった。三井公安部長は「ある方法で照合することができた」と微妙ないい回しでそのあたりを表現している。」ということが載っております。これはあなたのお話とほぼ符合しております。そこで、私は、入管の竹村次長に伺いたんですが、金東雲氏の二二一〇号室における指紋というのは残留指紋だから早く採取されたんでしょう。そこで、新聞記者として入国したときの指紋、これはこの前の私の質問では、十指全部とる人もあるし、左の人さし指一指だけの場合もある、こう言われましたが、金東雲氏の場合は左手の人さし指一指だけでしたね。
  143. 竹村照雄

    ○竹村説明員 そのとおりであります。
  144. 正森成二

    ○正森委員 警察庁からその指紋をホテルの二二一〇号室から検出された指紋と対照するために照合したいという申し出があったのは何月何日でしたか。
  145. 竹村照雄

    ○竹村説明員 九月五日に警視庁のほうから照会がございまして、回答いたしました。
  146. 正森成二

    ○正森委員 九月五日ですか。四日の誤りではありませんか。
  147. 竹村照雄

    ○竹村説明員 誤りです。九月四日でございます。
  148. 正森成二

    ○正森委員 そこで、山本警備局長に伺います。諸新聞の報道によれば、あなたは九月四日早朝午前六時三十分ごろといわれておりますが、高橋警察庁長官と一緒に田中総理大臣を目白の私邸におたずねになったことがありますね。それは事実ですか。
  149. 山本鎮彦

    山本説明員 九月四日の月曜日だと思います。
  150. 正森成二

    ○正森委員 四日というと、火曜日になりますね。あなたは月曜と御記憶ですか。
  151. 山本鎮彦

    山本説明員 九月の四日でございます。
  152. 正森成二

    ○正森委員 そこであなたはどういう話をされて、どういう指示を受けましたか。
  153. 山本鎮彦

    山本説明員 私はついていっただけでございまして、何も話はしません。
  154. 正森成二

    ○正森委員 それではあなたのお耳に高橋警察庁長官と田中総理大臣の話はどのように聞こえましたか。
  155. 山本鎮彦

    山本説明員 やはりこの事件について、これまでの大体の経緯、捜査状況、これはお話いたしました。ほかの問題もいろいろ出たと思います。一つの問題はそれでございます。
  156. 正森成二

    ○正森委員 警察庁長官と警備局長が、朝の六時半といえば私生活の時間でありますが、そういう時期に田中総理大臣、あるいは何総理大臣でもよろしいが、たずねるということはちょくちょくありますか。きわめて異例のことではありませんか。
  157. 山本鎮彦

    山本説明員 時間は私詳しく知りませんけれども、総理の御都合を伺って、この時間というふうに指定されたものだと思います。時間は向こうの御都合によるものだというふうに承知いたしております。
  158. 正森成二

    ○正森委員 ですから、そういう時間をわざわざ指定してでも会おうというのは異例のことではありませんか。
  159. 山本鎮彦

    山本説明員 私、長官がいつ、何回そういう形でお会いしたか、つまびらかには存じておりませんけれども、(正森委員「警備局長としては」と呼ぶ)警備局長としては……。(正森委員「初めて」と呼ぶ)初めてではございません。何回もお会いしておりますけれども、(正森委員「朝そんなに、六時半に」と呼ぶ)いつも向こうの御都合で、何時がいいかということで、たまたま朝であったというふうにわれわれは了解しております。
  160. 正森成二

    ○正森委員 そこで申し上げますが、新聞の報道するところによれば、九月四日には金東雲の指紋もはっきりしたということで、いよいよ九月五日に相手方に出頭を要請するという最後の断を田中総理にお願いに行ったというように新聞も書いてありますし、時間的経過から見てもおそらくそうであろうと思います。そうだとすれば、金東雲一等書記官が明確に犯行に関与したという確信が警察庁になければなりません。それは指紋の一致以外にはありません。ところが、いま竹村次長が答えられたように、新聞記者として入国したときの指紋を警察庁が照合したのは九月四日である。あなた方が総理のところに行かれたのは九月四日の六時半という早朝であるということになれば、答え一つ。あなた方は指紋の一致がないのに総理にそういう重大決断を促しに行ったのか、それともそれ以前に指紋の一致があって確信を持っておったのか、そのいずれか以外には考えられません。前者は考えられない。後者だとすればあなた方は新聞記者としての左手人さし指一本の指紋ではなしに、それ以外の何らかの方法で照合すべき指紋を金東雲氏から得ておったという推理にならざるを得ません。そのとおりでしょう。
  161. 山本鎮彦

    山本説明員 その際に、全部総理の最後の決断を促したという前提に立ってのお話というふうに伺っておりますが、われわれとしては必ずしもそういう断定にはくみさないわけでありまして、いろいろと捜査の過程についてしさいに御報告申し上げたわけであって、そういうふうな断定でとられてはちょっと困るわけであります。
  162. 正森成二

    ○正森委員 山本さんがにこにこ笑いながらそう言われると、総理との間のことだから非常に苦しいだろうとは思いますが、しかし後宮大使が三十一日から一日にかけて本国政府の訓会に基づいて帰ってまいって、二、三日間きわめて密度の濃い打ち合わせがあなた方と行なわれたということは、すべての新聞が書いております。したがって、そのときに金東雲一等書記官についてのきめ手がなかったとは考えられません。  そこで竹村さんかあるいは入管の局長でもよろしいが、こまかいことですから次長でよかったら次長でけっこうです。金東雲氏が八月八日の事件以来、日本を出て、また入ってきてまた出たと思います。この間、渡辺委員が参議院の法務委員会でも質問をして、答えてもらっておりますが、念のためにもう一ぺん、いつ出て、いつ入ってきたか、それを答えてください。
  163. 竹村照雄

    ○竹村説明員 金東雲一等書記官は八月十日に出国しまして、次いで八月十七日に入国、その次は八月十九日に出国しております。
  164. 正森成二

    ○正森委員 八月十九日以来は再び入国しておりませんね。
  165. 竹村照雄

    ○竹村説明員 しておりません。
  166. 正森成二

    ○正森委員 そうだとすれば、三井公安部長が、「ある方法で照合することができた」と言い、山本警備局長は、「三十八年の外人登録の際の指紋を使われたわけですか。」「まあ、そうははっきり言えない面もあるんです。捜査上のいろいろな方法によって、入手したということで……。」こういう捜査上のいろいろな方法で入手する機会は八月十七日から十九日までの以外にはありません。そうだとすると、あなた方は何らかの方法によって金東雲氏の鮮明な指紋をこの期間に入手され、それを二二一〇号から出てきた指紋と対照された、こう断定せざるを得ません。断定されても困ると言われるかもしれませんが、弁護士としてはそう断定せざるを得ない。この推理が正しいとすれば、あなた方は八月十九日ごろにはすでに金東雲一等書記官について捜査上確証を持ちながら、外交上の配慮によって、政治上の配慮によって九月五日までその発表を国民から隠しておったということになります。つまり、十一月二日の解決を待つまでもなく、それ以前にも捜査外交や政治が関与していたということにならざるを得ません。そうではありませんか。
  167. 山本鎮彦

    山本説明員 八月の中旬のときに指紋をとったのじゃないかというお話ですが、そういう事実はございません。
  168. 正森成二

    ○正森委員 そうだとすれば、三井さんやあなたが新聞記者としての外人登録の指紋だとだけ言い切れない点があるんですねというようなことを一度ならず二度ならず言っておられるということは理由がないじゃありませんか、新聞記者の外人登録のとき以外にないのだから。そして、八月八日以前には金東雲氏がそんなことをすると思ってあらかじめ指紋を収集しておくということは不可能なんだから、そうと以外に考えられない。ですから、あなたがそういうことはありませんと公式の席上では幾ら否定なさっても、われわれはそう思う。  私は九月十一日にも二十五日にもこの事実を指摘しようと思ったけれども、外交解決の微妙な前に申し上げるのはどうかと思ってわざと控えておりました。しかし、十一月二日にああいう不明瞭な解決が行なわれた以上、質問せざるを得ない。そういうのが事実だとすれば、あなた方が、捜査というものが外交と密接に関係づけられながらやっておる。十一月二日のカッコづき解決というものは、やはりあなた方の捜査影響を与えることになるんじゃないか。たとえば金大中氏がかりに十一月二十五日に離陸されたとして、アメリカへ行かれる前に日本へやってこられたとして、あなた方は金大中氏から事件の真実についてどういうように捜査上協力してもらいたい、あるいはいろいろ聞きたいと思っておられますか。
  169. 山本鎮彦

    山本説明員 これはまだ外務省と十分話し合いをしておりませんけれども、これまで外務省を通じて金大中さんの訪日といいますか、われわれの事情聴取に協力願いたいということを何回も申し上げておりますので、やはりそういうことがはっきりすれば外務省を通じてぜひ日本に立ち寄ったときに協力していただきたい、これを強くお願いしております。
  170. 正森成二

    ○正森委員 金大中氏は、あなた方はいろいろ事情を腹蔵なく聞かしていただくのに何日くらい日本におられたらいいと思いますか。
  171. 山本鎮彦

    山本説明員 十分完全にといいますと、かなりの期間が必要なんですが、これは御本人の意思もございましょうし、あるいは御本人のいろいろの記憶力その他もございますので、非常に端的、明快にポイントをつくお話が得られれば短時日で可能だと思いますが、そこいらはそのときの状況によって違ってくると思います。われわれとしてはなるべく長い間滞在を願いたい、こういう希望です。
  172. 正森成二

    ○正森委員 九月二日の読売新聞によりますと、あなた方は金大中氏については最低二十日間滞在が必要である、こう新聞に載っております。また、山本警備局長の例の週刊読売の「水爆対談」でも、あなたは「二、三週間は必要でしょう。」「三、四日とか、四、五日ではとても無理ですね。」こう答えておられます。この見解は依然として維持されますか。
  173. 山本鎮彦

    山本説明員 原則的にはそうでございますが、しかし、いろいろな事情を勘案して、これはやはり御本人の意思を尊重してきめられるべき問題だと思います。
  174. 正森成二

    ○正森委員 私が弁護士として少し考えただけでも、金大中氏にはホテル・グランドパレスについてあるいはその駐車場から出ていくときの状況について現場検証を含めて詳細に聞く必要があります。また、金大中氏は一人だけは顔を覚えておる、しかし、それは金東雲氏ではない、こう言っておりますから、その顔を覚えている一人が何びとであるかということについては詳細な写真による照合をしなければなりません。また声を聞けばわかるという人物がおる、こう言っておりますから、それがどんな声であったかということも科学的に調べなければなりません。また、高速道路を通ってどうやら大阪、兵庫のほうに連れていかれたようでありますが、大津のインターチェンジを含めてそれの走行について現実に金大中氏に実検してもらわなければなりません。海岸については背負われていったといいますが、少し坂のあるようなところを歩いたといいますが、それがどこの海岸であったか、アンの家というものについても、検証してもらわなければなりません。それらを考えれば、とても二日や三日ではできないことはきわめて明らかであります。  もし、大臣が今度の解決によって捜査影響を受けないのだ、こう言われるならば、九月二日時点であなた方がおっしゃったことが変更なく維持されるのでなければ、捜査影響があったということになります。その影響をなくすために、あなた方は金大中氏について、意思は自由だといわれているとすれば、その自由な意思に基づいて協力してもらうということを捜査当局として、法務省として、また外務省はその要請を受けて十分に活動をされる決意がありますか。それについて法務大臣警察庁及び外務省当局から一言ずつ決意を伺いたいと思います。
  175. 中江要介

    中江説明員 金大中氏の身柄につきましては、再三申し上げておりますように、出国を含めて自由だということが保障されております、ということが最高首脳の間ではっきり約束されておりますので、それを前提としてどういうふうに進展いたしますか、それを見ながら処理していくわけでございますけれども、それにあたりましても、捜査当局の御要望は従来どおり十分尊重していきたい、こう考えております。
  176. 山本鎮彦

    山本説明員 捜査上の要望は十分外務省に伝えて実現をはかってもらうように努力したいと思います。
  177. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 両君の答弁のとおりであります。
  178. 正森成二

    ○正森委員 法務大臣、特に大臣には、いろいろ第六感大臣などといわれながら、国民の声をある程度反映した御発言をなさって、閣内でもいろいろお立場もあったと思いますが、まことに御苦労さまでございましたと、非常に僣越ですが、思いますけれども、大臣が今度の解決捜査に悪影響があるというようではたいへんだということを繰り返し言われたことを思い起こしますならば、大臣としてなし得る限りの影響力を行使して、金大中氏が捜査当局が十分に可能な程度来日をし、滞在をしてもらうということをはかられることがぜひとも大事だと思うのですね。万々が一にも、一日だけおられて、ぴゅっとそのままアメリカに行ってしまわれたというようなことになれば、これは日本のメンツもないというように言ってもいいと思いますね。それについてもう一度所信を聞かしていただきたい。
  179. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 来日をいたしました金君の滞在と滞在期間中の接触でございますが、法務大臣たる私のやることには限界がございます。立場がございます。しかしあらゆる努力をいたしまして、捜査に協力ができますように苦心をしてみたい。しかしこれは本人の御意向によることでもあります。このたびの来日がいけない場合は、後にまた打つべき手があろうと思いますが、とにかくおいでになりました際には極力ひとつ御協力いただけるように側面の苦心をしてみたい。
  180. 正森成二

    ○正森委員 最後に一言外務省に伺いますが、外務省として、金大中氏が二十五日に飛行機に乗るとかいうようなことまで新聞に載っております、あるいは乗りたいと思っておられるということまで載っておりますが、その前に、ぜひ金大中氏は来日していただきたいんだということを、何らかのルートで金大中氏に確実に伝えるということを保障できますか。これは十一月八日の参議院法務委員会と外務委員会での討議の模様を聞きますと、あなたは、あの事件解決要請はしていない、こう言い、高島さんは、いやいや十月三十日か何かに要請しておる、こう言って、食い違っておるということが話題になっております。速記録ができておりませんから、私は多くは言いませんけれども、そういうことでは困る。しかも金大中氏は正式には聞いていないということを何回か言っておられますから、日本政府も、ぜひ来てほしいんだ、こういう意思が金大中氏に伝わるように、いろいろむずかしい問題があるかもしれませんが、確実にするということ、あるいはしたということ、どちらでもいいですが、ここで、公の場で言明できますか。
  181. 中江要介

    中江説明員 先日私が法務委員会で申し上げましたのは、外交的決着のあったあとで再来日の再要請をしているかという御質問に対して、私はしておらないと答えたわけでございまして、アジア局長が外務委員会でお答えになりましたのは十月三十日でございまして、外交的決着以前の問題で、そこは別なことを言っておったということにすぎないように思うのですが、それはそれといたしまして、本件についてどのようにしてわがほうの希望を金大中氏に有効に伝えるかという問題は、非常にむずかしい側面がございますので、どういうふうにするのが実効があがるかということについて、ただいま鋭意検討しておる段階でございまして、必ず伝えるということを保障しろといまこの場で言われましても、私としてははっきり一〇〇%保障できるという自信はちょっとございません。
  182. 正森成二

    ○正森委員 いまそういうたよりない話がありましたが、しかしそれはきわめて大事なことであります。あなた方は、十一月二日の解決でも、何か田中法務大臣がにおわしておられるところでは、公式に発表された以外の非常に微妙な外交折衝もあったし、これからもあるかのごとき発言であります。それぐらいの芸当をされる外務省なんだから——言い方については、いろいろ方法はあるでしょう。また本来なら主権侵害もしくは国際違法行為に基づく国際責任の解除として堂々といろいろ言えるべき筋合いのものであります。それを言わないで自己規制するとしても、何らかの意思が金大中氏に伝わらないというようなことで、伝わらないからアメリカに行ってしまったんだというようなことでは、国民外務省は何と言われるかわかりません。そういうことのないように上司にも伝え、大平外務大臣にも言っていただいて、国民捜査当局や法務大臣の希望がかなえられるように、また後宮大使がへまをやらないように、あなた方が厳重に対処されるということを望みます。よろしいか。それについて答えを聞いて終わります。
  183. 中江要介

    中江説明員 鋭意努力いたします。
  184. 中垣國男

    中垣委員長 沖本泰幸君。
  185. 沖本泰幸

    ○沖本委員 委員長はじめ大臣、答弁の方々には昼食もとらずに恐縮でございます。私で終わりでございますから、御協力いただきたいと思います。  先ほどの正森議員の御質問に引き続いて、同じ金大中氏が渡米の途中日本に寄られる、こういう問題から入っていきたいと思います。  先日金大中氏にお会いになった方のお話によりますと、日本政府の方には会いたくない、お世話になった方々にお会いしたい、おっても二、三日だ、金大中氏からそういうふうなお話があったそうです。ということは、先ほど正森さんの御質問、相当詰めたお話であったのですけれども、全然うらはらの話になっておる。なぜかというと、金大中氏は全然日本政府に対して信頼を置いていないということだそうです。それを裏づけるわけではありませんが、この「金大中事件三つのナゾ」とか、あるいは週刊朝日の中にも出ておりますけれども、ひとつ読んでみますと、「表向きは朴政権のペースで動いている形ですが、うしろで日本がリードしているわけでしょう。朴政権のイメージダウンを恐れる日本政府が幕を引いたということでしょう。こんどの事件日本民族と朝鮮民族の友好ではなく日本政府と朴政権の友好を願う人たちの打った芝居でしょうから。親が子どものわがままに折れたようなもの、とでもいいますか」こういう表現もあるわけです。同じような表現をして、朴政権のほうが幕を引いたとか、あるいは解決に決断をしたとか、日本政府がそれを促したとか、裏にアメリカが介在しておるとかいう、らしいらしいという御意見はたくさん出ておるわけです。それと同じように、金大中氏は、日本政府に信頼を置けない、だから日本へ寄った場合にはお世話になった方にお礼は言うけれども、政府の方と会うつもりはない、こういうことをおっしゃっておったということなんです。ということになりますと、その捜査に関して協力を得られるはずがないということになるわけです。ですから、外務省のほうでも一〇〇%自信がないというような——一〇〇%どころか、ゼロに近い状況であるといい得るわけですけれども、この問題を結局は外務省がはかることなんですから、どういう形で協力を得るようになさるおつもりなんですか。そこからまずお答え願いたいと思います。
  186. 中江要介

    中江説明員 これは先ほど法務大臣からも触れておられました問題でございますが、金大中氏は出国を含めて自由になられたということであります以上、金大中氏の個人の意思といいますか、御意向、御希望というものは尊重しなければならない、こう思います。しかし同時に日本側では捜査に協力していただくために再来日していただきたいという希望を引き続き持っておるわけでございまして、そのことを全く自由な私人となられた韓国におられる韓国の人にどういうふうに日本政府が伝えるかというのは、問題が非常に微妙なデリケートな側面がございます。これは当初金大中氏は調査中であるのでいまは日本に行けない、こういう韓国側意向が伝えられたことがございます。その場合は韓国側政府当局のもとで調査が行なわれておりますので、政府当局を通じて強く金大中氏に再来日要請するという方法がとれたわけでございますけれども、いまは私人となられたわけでございますので、この自由な私人に対して日本における捜査に協力していただくために日本に来ていただきたいという希望を伝える方法は、これはよほど慎重にしないと無用の誤解を招きはしないかというようなことも含めましていま検討しておる、こういうのが現段階でございます。
  187. 沖本泰幸

    ○沖本委員 ですから、先ほど来大臣が二十五日に出発したい、こういうことを漏らしておるから、それまでは発言なりこちらの動きを注意したい、いろいろな配慮をしていきたい、こういうお気持ちはわかるのですが、韓国を出られてから後の問題は大臣が御期待なさるほどの結果は得られないというような裏話もあるわけなんです。そういう点があるわけですから、大臣にお答えを求めたところで、当然、未知数のものですから、極力努力をするというお答えになると思いますけれども、その辺のことを十分踏まえていただいて御検討をいただきたいし、捜査当局のほうもその辺を十分お考えになっていただきませんと、先ほど二つお話が出ておりましたが、このたびがだめであればさらに次の機会を選ぶ以外にない、こういうふうなことで、そのあとのほうの結果のほうがメリットが大きいような感じがするわけです。そういう点を十分お考えになっていただいて、われわれとしては、金大中氏が軟禁状態を解かれたといっても、ぶじに国外へ出られて生命、財産の安全をはかっていかれる、自由な言動ができるような状態に置かれるという点を喜んでいく以外にいま道はない、こういうふうな状況です。  そこで、先ほどのお話を蒸し返すようでございますけれども、外務委員会でもお話ししたのですが、これは新聞にも出ておりましたが、被害者が加害者のほうの都合を一生懸命心配しておる、こういうニュアンスでとらえておるのですね。日本の首都で向こうの大統領候補であった人が白昼公然と連れ去られたということで、日本政府被害者です。そして大臣のおことばをかりれば、常識上からいけばこれは明らかに主権を侵害されておるという内容被害者が加害者のほうの都合を一生懸命心配しておる。先ほど申し上げた週刊誌にいろいろ出ておることも、やはりそういうふうなものを裏づける内容のことをいっているわけです。国家主権を持つ独立国である以上はこのままの状態で済ますわけにはいかないと思います。法治国家として、独立国として、主権を持つ国として、日本に数多くおる在留外国人の生命、財産の安全をはかっていかなければならない。いま非常に不安全な状態をかもし出してしまっており、そしてそれは未解決の状態にあるわけです。そうすると、よその国が同じことを起こした場合に一体どういうふうな歯どめがあるのか。また同じ事件が起きないという保障もないし、起きる可能性もある。いろいろ具体的な対策をお立てになっているとは思うのですけれども、韓国以外の国々の人たちに対しあるいは政府に対して、日本はどこからでもお越しになって在留していただいても生命、財産の安全は完全にだいじょうぶです、こういうふうな具体的なものをどういう形でお示しになりますか。その点についてお伺いしたいと思います。
  188. 中江要介

    中江説明員 各般にわたっておりますので一つ一つ整理して申し上げたいと思うのですが、まず韓国につきましては、将来再びこういうことを起こさないためにできるだけの努力をして保障するということを最高首脳の間で話し合ったことは御承知のとおりですが、その場合に、今回の解決にあたって具体的に名前の出ました金東雲一等書記官というのが外交官でございましたので、在日韓国大使館の館員のモラルについては特に取り上げて、大平外務大臣から金鍾泌国務総理に対して注意を喚起され、向こうも大使館員のモラルについて厳正にやっていくべきことは当然のことであるということで反省の意を表された、こういうふうに聞いております。  それからほかの国についてどうかということなんですが、ほかの国についてはこの韓国との間で起きた事件日本がどういうふうに解決していくかということが一つの参考として将来の問題に影響があるのじゃないかと思うのですが、そういう観点からは日本は当初から真相究明して筋の通った内外に納得のいく解決をしたいということで努力をしたわけですけれども、遺憾ながら現時点までの双方の立場からいたしまして、その真相をきわめることができない時間が長過ぎる、まだ続くという見通しのもとで外交的な決着をつけたわけでございますが、その外交的決着をつけた時点において双方ではっきりしていたこと、特に日本側ではっきりつかんだ事実につきましては、これは一応国際慣行その他に照らしましても、相手、つまり加害者のことを気にして被害国である日本が適当なことをしたというふうに見られるものとは思っておりませんし、むしろ日本が持っておる事実に即してみますと、韓国政府が思い切った措置をとった、こういうふうに評価されてしかるべきではないかというのが私どもの考え方でございます。
  189. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いまのお答え、ちょっとひっかかるところが出てくるのですが、いろいろな外交慣例、そういうものの中でいま日本が行なっている外交上のいろいろな交渉なり韓国がお示しになっている外交上のあり方、そういうものが諸外国の目に映って、たとえば一番例に出されるのが西ドイツの解決した問題そういう問題を例に合わせてみて、諸外国が国際慣例上なりあるいは国際法規なりいろいろなものを合わせてみて、日本のとった措置が妥当である、これが最高のやり方だ、これ以上のことはないんだというふうに外国は評価しているのですか、していないのですか。いまは評価していらっしゃるような口ぶりのお答えであったわけですけれども。  さらに将来起こさないと最高首脳の話し合いできまったということなのですが、それはどこかで確認をしているのですか。何かの文書交換をやっておるのですか。  それから、たとえば金東雲一等書記官はこれは確かに犯人である、その後の捜査の結果によって処罰するということになっているわけですね。それで職務を解任しているわけです。これは先ほど大臣もおっしゃったわけです。ところが金鍾泌首相が帰って国会で謝罪していないということを言っているわけです。あやまった覚えはないということを言っているわけです。日本の国に来て言ったこととお帰りになっておっしゃったことは内容が全然違うわけです。それが一向にクロであるというものの内容も出していただけないわけですし、あるいは金溶植外相は国連に出発の前にあたって本人に聞いてみたらシロだ、こういうふうな御発言があるわけです。こういう内容から見ると、外交的な決着をつけたけれども、その後の具体的な、いわゆる外務大臣がおっしゃっている国民の納得のいく解決の方向とは全然違うような内容、そういうものが諸外国の目にどういう形で映っているか。あるいは今後再び起こさないということは、ことばの上でとったのですか、外交公文でおとりになったのですか。どこかに再び起こさないという保障があるのでしょうか。  これは現実に韓国人の方に私よく会っていますから聞いてみますと、いまだにKCIAのおそれは十分あって、身の安全をはかるのにきゅうきゅうとしている、こういうことなのです。私も大阪の国民会館へ話に行きましたら、帰りに韓国の方のボデーガードがついて帰りました。大阪におるのですから、私の地元ですから心配要りませんと言ったら、KCIAがあぶないのです、こういうふうに言って送ってくれたわけなんです。その後にもそういう現実があるのです。そうしたら、向こうがおっしゃっている大使館員のモラルをちゃんとするとかあるいは厳重に言ったとかという何かの形の歯どめも何もないわけなんです。ただことばの上のやりとりに終わっているということになるわけですが、その点についてはっきりした内容のものを外務省はきちっと文書なら文書でお持ちになっているのか。ただ約束事だ、信用する以外にない、こういう形になるのですか、どちらなんですか。
  190. 中江要介

    中江説明員 その点につきましては、過般日本に来ました金鍾泌国務総理が携行いたしました朴大統領の親書というものがございまして、その中で再びかかる事態が生じないよう最大の努力を傾けるという趣旨が書かれております。もし書いたものがあるかと言われますれば、この朴大統領の親書があるかと思います。それと同時に、その親書を携行されました金鍾泌国務総理と田中首相との間の話し合いの中で、田中総理及び大平外務大臣から将来こういうことのないようにということについては口頭で念が押されている、こういうのが現状でございます。  それから先ほど私が今度の外交解決が諸外国によって云々と申し上げましたときに、決して私どもはこれがベストのものだとは思っておりませんし、これ以外になかったというわけではないと思うのですけれども、これは西ドイツと韓国との関係日本韓国との関係、そういう外交的な国際社会におけるかかわり合いから見まして、いずれにいたしましてもこれは外交的決着でございますので、そういう政治環境その他を配慮に入れますと、この間も申し上げましたように、朴大統領の親書を携えて国務総理が謝罪にやってきた。それから金東雲一等書記官については、直ちに免職してこれを捜査して法によって処断する。それから金大中氏につきましては、その数日前に身柄が自由になって出国を含めて自由であることを保障する。また将来の保障につきましても、ただいま申し上げましたようなことを先方はやって、これは主権侵害ということを前提としない、つまり、それがきわめ切れない段階での外交解決としては、これは納得をしていただけるものではないかということの御趣旨を申し上げたので、これがベストであるといばって言えるようなものであるとは私どもも思っていないことは当然でございますので、つけ加えさせていただきます。  それから陳謝という点について御付言がございましたが、これは陳謝ということばを使ったか使わなかったかということは別といたしますと、遺憾の意を表するということは親書の中でもあるいは両首脳の会談の中でも繰り返し言われていることで、これを陳謝という意味で見るか見ないか、それはことばを使ったか使わないかということなら別でございますけれども、内容はこれは陳謝である、こう認識して差しつかえないと私どもは考えております。
  191. 沖本泰幸

    ○沖本委員 話を少しそらしますけれども、先ほど御質問したので、警察当局なりあるいは入管のほうで再びこういうことの起きないような具体的な対策なり、この事件を通して御反省がいろいろあったと思うのです。そういうものを通して今後こういうことが起きない、日本に在留する外国人の生命財産はもうああいうことは絶対ないのだ、おそらく起きないというふうな何か具体的なものができておるのか、ないのか、その点についてお答え願いたいと思います。
  192. 山本鎮彦

    山本説明員 警察といたしましてはこういうケースは初めてでございます。したがいまして、いろいろと不行き届きな点もあったわけでございまして、これを反省して特殊国際事件対策委員会、こういうものをつくりまして、いろいろと具体的に問題を詰めて検討して、逐次できる問題から実施に移しておるわけでございます。たとえば広域にわたってすみやかに緊急配備をして手配をする、そういう体制ですね。それからたとえば外務省あるいは法務省なりと連絡をして、非常に具体的にいえばある人を誘拐するというような政治的な意図を持った動きがあるかどうか、そういうものを早くキャッチしてそれに対する対策を立てて犯罪を起こさない、こういうことですね。まあ各般にわたってそういう観点からいろいろと対策を立て、すでに実施をしているものもございますが、再びこういう事件を起こさないように、起こした場合にもよりすみやかに手配できる、こういうことにつとめておる状況でございます。
  193. 沖本泰幸

    ○沖本委員 だんだんに席をはずしていただこうと思うのですが、法務省刑事局長はもうけっこうですから。大臣は、申しわけありません、もう少しおつき合いいただきたいと思います。  そこで外務省のほうに……。これでベストではないということなんですが、いま警察庁がお答えになった同じ内容ですが、外務省のほうでこういう問題が起きないという内容についてどういう具体策があるかという点と、それからこれは私見的なものの言い方になりますけれども、もし逆にこの事件と全く逆のことが起きた場合にどうなさいますか。全く逆のことが起きた場合、ないとは言えないんです。と同時に、外交官の外交特権とはどういう内容を持つものですか。で、日本外交官は外国においてどういう外交特権のもとに活動をしていらっしゃるのですか。
  194. 中江要介

    中江説明員 先生のおっしゃいますように、将来こういうことが韓国に限らずほかの国で、日本で起きないためにどういうことができるかという点を外務省の立場からいたしますと、いま後段でお触れになりましたように、在日外交官、領事官というものが国際法上認められた権限を国際法に従って行使しているかどうかということについてより関心を持ち、またそれの特権の乱用とかあるいは職権外行為とか、そういったものについて注意を怠ってはならぬという反省をしておるわけでございます。  日本外交官につきましては、これは御承知のように世界各国に多数の外交官がおりますけれども、いずれも外交官は国際法に認められた権限を国際法に従って行使するということはかたく守っておりますので、こういう事件が起こることはまずないというふうに確信しております。  もし何かが起こったらということでございますけれども、不幸にして何かの間違いがございましたら、わが国としては国際法に従って恥ずかしくない措置をとっていきたい、こういうふうに思います。
  195. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いまのお答えでちらちら出るのですが、事韓国に関して非常に歯切れが悪いわけですよ、お伺いしておって。何か詰まったような歯切れの悪い感じを受けるのですがね。  じゃ韓国の在日外交官あるいは韓国大使館、領事館に所属するあるいはその職務の中に入っておる韓国人はどれくらいいらっしゃるのですか。どれくらい把握していらっしゃるわけですか。
  196. 中江要介

    中江説明員 在日韓国大使館の館員は外交リストというものにございまして、それに登録しておりますのはたしか八十名前後おると思います。そのほかに領事館、総領事館の館員がまた相当数在勤しておられるわけですが、その職務内容は、韓国の国内法がどういうふうに定めておりましょうとも、外交官につきましては外交関係に関するウィーン条約というもので外交官の職務というものは規定されてあるわけでございますから、それ以外の職務をすることについては日本——本件の場合ですと日本の許可を得た上でなければできない。外交関係に関するウィーン条約に規定してある外交官の職務は、あらためて日本政府の承認なり許可を得なくてもできる、この一線ははっきりしておるわけでございますので、その点を逸脱するようなもの、あるいはまた外交官にはその職務が遂行できるように、または自分の国にかわって行動する、その尊厳を認めるために、ある程度の特権と免除が認められておるわけでありますけれども、その特権、免除をいいことにしてこれを乱用することのないようにということは、引き続き注目していきたいと思います。
  197. 沖本泰幸

    ○沖本委員 その特権、免除なんですが、どの範囲内で許されるものですか。いま日本に在留する韓国人あるいは朝鮮人、こう両方呼ぶわけですけれども、その人たちは六十万ないし七十万ということがいわれております。少なくとも密入国者でない限りには日本に在留することを認められておるわけです。ところがその人たちの生命、財産の安全は日本が守らなければならないわけです。日本に責任があるわけです。これは非常にむずかしい問題はあると思いますけれども、韓国のほうから親書の中でも再びかかることは起こさないようにということが述べられており、また金国務総理がことばの上でもそういうことを述べられたということが明らかになっている以上は、かかることが起きないということに対する何らかの歯どめがなかったらそうはいかないと思うのです。ただ外交上の問題として相手を信頼する以外にないというものもありますけれども、事が日本国内における問題なのですから、日本の主権の及ぶ限りの中でその内容を考えていくときには、これこれこれだけの者がいま韓国政府の仕事をやっております、それはいまこういうことをやらしておりますからこの範囲内は秘密に属する問題だけれどもというような内容が明らかにされてしかるべきだと思うのです。トップのほうは首脳会談で、再び起こさないということがあるにしたって、大使館なり何なり外務省が接触する中身の中では、そういうこまかい内容の話し合いなり何なりが詰められていかないと、それこそことばの上を信用するだけで何の歯どめもないということになるわけです。その辺はいかがなんですか。
  198. 中江要介

    中江説明員 これは非常に官僚的なものの言い方になるのかもしれませんが、日本における韓国人全体の問題は日本政府が連帯して責任を負って対処するわけでございますが、その中の外交官、領事官がどういうふうになっているかということについては、外務省が第一次的に責任を負っておるわけでございます。その面につきましては外交官、領事官は全員把握しております。しかしその人間が何をするのか、また過去においてどうであったかということをせんさくするということは国際慣例に反するものでございますので、その公館長である大使につきましては、アグレマンという制度で事前にわがほうでノーという余地は与えられておるのでございますけれども、館員につきましてはそういうことは許されていない。したがって、本件の場合ですと韓国側の自主的なモラルの厳正化ということに期待するよりしかたがない、そういう意味では、大統領及び国務総理が約束していることを信用していくということ以外にはなかろう、こう思います。
  199. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これはただことばの論議をやっているだけのことなんですが、要は、この問題が解決して、そして並行して、しかる後、かかることは再び起こさないということで初めて話が並行するわけなんです。事件は未解決のまま、法務大臣一生懸命になってお答えになっていらっしゃるわけですけれども、たらいの中で一生懸命言っているわけなんです。そこから向こうへは話は全然出ないわけなんです。そういうことなんですね。お互いに言い合っても平行線をたどっているだけなんです。だから、問題が解決して、しかる後こういうことが明らかになったのでこういう処分をしたとか、いやこれは絶対シロだったとかなんとかということがはっきりしてから、今後かかる問題は起こさないということになっていくと思うのですね。かかることは起こさないということは、あったということを認めていることなんですよ。それを認めていらっしゃりながら、うちはシロだ、本人に聞いたらシロだった、こういうところが話が全く矛盾しているわけです。たとえば李厚洛情報部長ですか、一人でも政府機関の職員事件関係しておった場合には直ちに職を辞するということを公言していらっしゃるわけです。そして、むしろそういうことを言う日本のほうが主権侵害じゃないかということをおっしゃっているわけです。その辺もあいまいもことしているわけです。これは向こうの国内の問題ですから、こちらはどうしようもないかもわかりませんけれども、こういうことがつながって重なっていくから、疑惑、疑惑、疑惑となっていっているわけです。  そこで、これは大臣にも聞いておいていただきたいのですが、あとで本はお渡しいたしますけれども、外務委員会でも出たことなんですが、手のひらで空をおおうようなものだという表現で出ています。今度はもう少し詳しく読んでみます。鄭一亨、「五〇年に国会議員に当選後、軍事クーデターによって一時追放された以外は連続して当選しており、野党の長老議員である。」学生革命後に成立した張勉政権の外務部長官でもあったという方なんです。この方が二十六日午後、国会——九月二十二日に韓国国会で、むしろ主権侵害は日本だという議論があった後に、質問しているわけです。飛ばして読みますけれども、  日本の首都東京で白昼に金大中氏を拉致して、ソウルのまん中に連れてさておいた犯人たち韓国人だよ!  事件内容から見るか、規模から見るならば誰も犯人になることはできない!  また事件発生日本政府当局者たちが、犯人たちにたいする科学的根拠を提示している!  それにたいして、わが政府は二箇月になるまで科学的反証を提示しえずに、無実な金大中氏だけ軟禁しおきざりにしている!  西ベルリン事件の時の前科もある!私の考えではわが中央情報部を始めとした捜査機関がそれほど無能ではない!これぐらいだったら常識問題だよ!三尺童子も分るぐらいじゃないか!  外国では勿論のこと、多くの国民たちがこの事件を中央情報部の仕業と断定している!私の考えにもそのように見える!  金総理も肯んじたように、この事件のために世界の輿論がわれわれを糾弾している!韓日関係はいわずもがなであるが、韓米関係までも最悪の状態だよ!特に今度の国連総会では韓国問題が討議される時、この事件が間違いなくあげられる!どうするつもりかね!押し通す所まで押し通す腹だろうが国のみえは何んになるのかね!  掌で空を覆う考えはやめなさいよ!金総理は時間がかかっても犯人さえ捕まえればいいじゃないかと言うだろうが、金総理よ!犯人をつかまえようと苦労しなさるな!犯人はすでに捕まえられている!わが国民たちも捕まえておいたし外国人たちも捕えておいたし、私にも誰かがわかるよ!  いま問題は、犯人を捕えるのにあるのではなく、わが政府が科学的反証を提示して嫌疑から逃れるか、さもなければ捕えられている犯人の名簿を発表するだけで事件は一段落つくのさ!  すべての耳目の焦点が犯人たちに集っているのではなく、わが政府の態度に集っているという話です。今からでも事件真相を発表し、金大中氏と梁一東氏そして金敬仁議員を日本に行って来られるようにしなさい。それでなくてはわが政府が豆で味噌を作るといってもそのまま信じてくれないようになっているのだよ。  金総理が金大中氏にあって解決策を捜して見る段階は過ぎたという話ですよ。いろいろずっとあるのですけれども、これぐらいの内容のことが国会で議論されておる。法務大臣が先ほど触れられたのと大体似たようなことを国会——この部分は削除されたそうです。そういうことになるし、いまむしろ韓国内ではいわゆる学生の反政府運動がだんだん起きてきている。内政の問題にからんで申し上げるつもりもないわけですけれども、そういう問題が起きている根本は何かというと、金大中事件内容を、真相を明らかにしろということと、日本の経済的侵略を非常に疑いの目をもって見ているという内容にあるわけです。そういうものがどんどんどんどんいま盛り上がっていっている。日本国民もこの事件を通して、そして政治的解決をはかったという一言でこの二日に済んでしまったというかっこうにしてしまっておりますけれども、日韓関係に対してはまだまだ事件解決してないというふうにとられてもおるし、そういう関連から、韓国に対する日本の経済政策については一つも疑問が晴れているわけじゃないわけです。そういう点を今度は政治的に配慮していくときに、このままでこの問題を押し通してしこりをそのまま残せば、先ほど週刊誌で読んだように日本政府韓国政府だけの友好に終わってしまうんじゃないか、国民同士は不信だらけになっていっている、その上妓生観光だという非難もどんどん持ち上がってきているというような、非常にまずいものが双方の間に持ち上がっている。日本のほうは主権侵害という気持ちを多分に持っている。向こうは経済侵略のほうを多分に持っている。そういう中で日韓閣僚会議を急いで十二月十八日にやらなきゃならないということはないはずなんです。十二月十八日にやらなければならないのは、結局一月から韓国国会が始まって予算を組まなければならない、韓国に焦点を合わしてこの事件とは切り離して問題を考えている。で、日韓閣僚会議をやめたのは納得のいく解決をはかるために無期延期したわけです。国民一つも納得していない、事件解決されていないということは外務大臣もおっしゃっているわけです。そして再び閣僚会議を開いて、この問題をおざなりにして、そのまま耳をおおうようなことがあっては大きなしこりを将来に残してしまって、そして反日運動がどんどんどんどん出ていくということになるわけです。金大中氏も日本の経済援助が韓国の民生安定に使われるなら問題はないということを言っているわけです。そういうふうな内容をいろいろはらんで、これからまだまだ問題がふくそうしていくような中にあるわけです。そういう中から金大中氏がアメリカに行くということも起きてきている。行かれるか行かれないかはまだ疑問的な段階にあるわけです。こういう点を踏まえて考えていただくと、これはもう簡単なことで済むものじゃないということはだれもが容易にわかると思うのですね。  大まかなことばかり申し上げました。もう議論してみたってこれは平行線なんですから、ほんとうにたらいの中で大臣と議論するに終わってしまうということ、ただ、将来にもっと発展したものが出てくるということを大臣は予告をおっしゃっていらっしゃるから、それに大きな期待をかけてみますけれども、そういう段階にあるわけですから、こういう問題を一括してお話ししましたけれども、大臣から、いずれ私には発言の場でないものもあるとおっしゃるかもわかりませんが、閣僚会議の御一人でもあるし、この問題に対しては大きな責任をお持ちの立場でもあるわけですからお答え願いたいと思います。
  200. 田中伊三次

    田中(伊)国務大臣 同じことを繰り返して申しわけがないのでありますが、このたびの外交側面の決着は、これは捜査の面とは直接には関係がないのだ、捜査捜査で進めるのだ、しかし、いつまでも両国関係をこのまま不安定な状態に長引かせておくわけにはいかぬので、ここで外交の面だけの決着を暫定的につけたのだ、これも全面的、絶対的の結着ではない、新事実が出てくれば、それに対してはまた外交ルートで話し合いをするのだ、こういう立場を留保をしながら外交面の決着をつけたということをどうかお願いを申し上げたいのでありますけれども、事実をありのままに、ひとつ両面は交差はしないのだ——政治的、常識的には交差はあるのですけれども、理論的交差はないのだ、これはどこまでも進めていくのだということに御協力をいただきまして、これから難関がまだまだあると私は思うのです。これを主権侵害を証明するところまで捜査の実をあげるにはなかなかの難関があるものと思いますけれども、全力をあげて、苦心に苦心を重ねております捜査当局に御協力と御同情をいただくということでひとつおまかせをいただきたい、こう考えます。
  201. 沖本泰幸

    ○沖本委員 あまり多くを質問するつもりはありませんけれども、番最初に申し上げましたとおり、金大中氏の考えの中には、先ほどこの週刊誌をお読みしたとおり、この事件の裏には日本政府も枚かんでいるのだ、どういう証拠を持ってかということは私たちにはわかりませんよ、具体的なことを握っているわけじゃありませんからね。だけれども、この事件の演出なりその後の演出については日本政府も枚かんでいるのだ、日本韓国か、どっちかの政府が幕を引いたのだ、それて政治的な解決をはかった——大臣は応の中間的な解決を見たのだから、こういうことなので、そういうことに対しての日本政府のやり方に信用ができないのだ、信用ができないから政府に会って話をする気はないのだ、お世話になった方々の友人にはお礼を言ってアメリカへ行くつもりだ、こういうことを韓国に行って金大中氏に会った方に漏らしているというのです。会った方から私はじかに聞いているわけです。そういう点があるわけですから、大臣は、まだまだいろんなものがこれからあるだろうということなのですけれども、これはもう、すぐに解決する問題ではないという点、それからこういう問題ですね、ただ中間的解決で応解決の道を得たのだと言うのですから、これから前進的な解決をはかっていく、後退するはずはないということになるその前進は、うやむやに前進していくか明らかにされていくか、明らかにされていくと、どこかでまた衝突が起きてくるか、こういうことになっていくわけです。どっちにしたってそういう内容があるわけですから、国民的な立場から考えると、これは絶対になおざりにしていただきたくないし、日韓関係あるいは経済援助の問題、すべての問題についてこれからもう度やり直していただかなければならない。その中で金大中氏のいわゆる原状回復、生命の安全、身体の安全、それから自由な活動、そういうものをば、いわゆる日本にいらっしゃったときのそのままの原状に返れる状況に持っていかなければならない。そこまで、われわれ日本人とし、あるいは日本政府とし、すべての者が責任があるということになるわけです。その点を踏まえていただいて、今後の御解決をはかっていただきたいということでございますから、そのつどわかった問題なり何なりを持ちながら御質問を続けていくという考えでございます。  警察庁のほうにはそのままおっていただいて申しわけありません。どうも長い間ありがとうございました。
  202. 中垣國男

    中垣委員長 本日は、これにて散会いたします。     午後二時五十分散会