○中曽根国務大臣 われわれは、自由経済のシステムをとっておる
考え方でございますから、企業が
自分の危険負担で一生懸命働いて利益をあげた場合に、これを
相当数税金で国家に納め、また株主に配当し、また企業の内部を充実さして、いろいろな積み立て金を積み立てる、公害等に備える、あるいは不況等に備える、あるいは賃金アップに回して従業員を喜ばしてあげる、そういう非常な弾力性のある自由を持った企業の運営というものが私は望ましいと思って、それを拘束するという意図はありません。しかし、鉄綱のような場合は、実はカルテルがかかっていたわけです。それで、十二月まで三カ月間、
行政介入によってカルテルという形によって、鉄鋼の価格の下落を防いでおった。
上昇というよりも、その下落を防ぐという不況カルテルでございますから、そういう
意味があったわけです。そして、その後、景気が急速に回復して
相当な増収になった。今度の増収はカルテルの力もさることながら、その後の景気回復による増収、販売量がふえた、それから
生産量がふえた、それによるところが非常に多い。多いけれ
ども、われわれは鉄綱価格が暴騰することは好ましくない。いまの現状を見ればわかり切ったことです。そういう
意味で、価格の引き下げ、
物価政策に協力してくれということは強力に鉄鋼業界にも申し入れいたしまして、そのためにフル操業して、大体二千八百万トンぐらいいま四半期にやってもらっている。今回さらに三十万トン増産してもらって、その分は
一般市中の中小土建に回してもらって、
セメントが上がっておりますから、その
セメントの分だけでも、せめて鉄鋼でカバーして引き下げてもらうように
行政指導をやって、そのとおりいま実行してもらっております。ですから、棒鋼とか小棒という、主として市中の土建屋さんがほしいものは四万円で、かつて六万円、七万円まで暴騰したときから見れば、かなりそういう点では協力してもらっているわけであります。だから、鉄鋼のマヌーバーが悪いということではないのです。しかし、いま御指摘のように、三倍、五倍と利益が上がって、そしてその中にはカルテルが三カ月かかっていたという
行政介入の事実も
考えてもらって、この際、鉄鋼会社の
社長さんとしてはひとつよく
考えて利益金処分をやってもらいたい。
鉄鋼のようなものは、
一般的に申し上げると、産業の米のようなものです。これが上がれば全産業に響いてきますし、これが暴落すれば、また全産業の従業員に、鉄鋼関係では響くこともございます。だから、わりあいに安定していて、あまり暴騰、暴落がないというのが、産業の米である鉄鋼等については好ましい形であります。だといって、政治権力で介入して、
生産性とかあるいは企業の自由とか創意くふうとか、公正競争というようなものがそこなわれずにうまくいくかというと、この点もまた疑問な点もあります。
それで、六〇年代においては、過剰設備が非常に問題になって、鉄鋼会社の
社長さんがシェアの問題でずいぶん論争したりしておりました。そのころ通産省も非常に
心配して、鉄鋼業法みたいな単独立法の
考え方もなくはなかったわけです。しかし、そういう過剰施設をかかえておっても、苦しい企業が必死の
努力をして資金を手当てし、あるいは公害
政策も進めて、ともかく現在のこれだけの大きな鉄鋼需要に備えるだけのキャパシティーを持った、これはやはり評価すべきものでございましょう。だから、長い目で見てみると、自由競争、公正競争、創造力というようなものは、非常に大事なバイタリティーであって、これがスポイルされるということは避けなければならない。短期的に見ると障害が起きることがありますけれ
ども、長期的に見ると、そのために
日本の鉄鋼業というものが世界的に伸びていった大きな導因もなしているわけです。
私は、そういう長期的観点で
日本の業界全体を見る必要があるので、苦しいときだけを
考えてもいかぬし、価格が上がったときだけを一時的に
考えてもいかぬと思っております。
しかし、先般は和田議員から御
質問がございましたし、その前に受田議員からも御
質問がございまして、国会で御答弁申し上げました。それは、いまのような実情を述べて、こういう時代であるから、鉄鋼は不況のときに全部海綿の水をしぼり出すようにしぼり出して、それを利益配当とか、あるいは従業員の賃金に充ててだいぶやせているはずだ、だからこの際、海綿の水を吸収して、不況に備えるとか公害に備えるとか積み立て金を充実させておくとか、そういうことをまず
考えてもらって、それから価格引き下げに協力してもらう、そしてカルテルがあったという事実を
考えて、近ごろは経団連でも企業体でも社会的責任ということを非常に言っておるのであるから、実践してもらったらどうかという
意味で、そういう要請を
一般的に各社別に、この間、重
工業局長をして行なわせました。その結果、各社の
社長さんは社別に、わかりました、当社の株主とも相談をして協力したいと思います、そういう返事がありまして、具体的に結果かどう出るかということは、会社が自由な立場でやっていただくことですから、それ以上私たちはやりませんけれ
ども、社会的にこたえるようないい結果が出ることを私は期待しております。
しかし、鉄鋼業法というような
法律は、前に通産省に思想がありましたけれ
ども、いまのような長期的観点から見るとまずいのです。将来を
考えてみると——メーカーから蔵出しする
値段はわりあい低いのですね。ところが、それが中間段階で、
問屋とか
商社とか小売店に来る間に抱かれたりして値がかなり上がってくるということがあるわけです。その点を押えないと、鉄の暴騰を押えられない。それをやるためには
法律を必要とするかもしれぬが、現在は
行政指導でやっているわけです。しかし、これはメーカーがやると再販指示になって、公取法違反になります。そこで、そういう部面を何とか
考える余地はないかという
意味において、その立法はどうかということを
考え、また議員から
質問がありましたから、研究に値するということを申し上げた。やると言っているのじゃない、
考えてみますという
意味で申し上げておるので、問題点として受け取って検討していきたい、こう
考えておるわけでございます。