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1973-07-11 第71回国会 衆議院 物価問題等に関する特別委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年七月十一日(水曜日)     午後一時二分開議  出席委員    委員長 山中 吾郎君    理事 稲村 利幸君 理事 木部 佳昭君    理事 坂村 吉正君 理事 竹内 黎一君    理事 井岡 大治君 理事 松浦 利尚君    理事 野間 友一君       上田 茂行君    高橋 千寿君       羽生田 進君    三塚  博君       山崎  拓君    金子 みつ君       中村  茂君    渡辺 三郎君       神崎 敏雄君    有島 重武君       石田幸四郎君    和田 耕作君  出席政府委員         経済企画政務次         官       橋口  隆君         経済企画庁物価         局長      小島 英敏君  委員外出席者         参  考  人         (日本銀行総裁佐々木 直君         参  考  人         (物価安定政策         会議議長)   中山伊知郎君         参  考  人         (経済団体連合         会副会長)   堀越 禎三君         参  考  人         (日本労働組合         総評議会議長) 市川  誠君         参  考  人         (全日本労働総         同盟会長)   天池 清次君     ————————————— 七月九日  大手商社の反社会的行為取締りのための法律制  定に関する請願(近江巳記夫君紹介)(第八三〇  六号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  物価問題等に関する件      ————◇—————
  2. 山中吾郎

    山中委員長 これより会議を開きます。  物価問題等に関する件について調査を進めます。  本日は、参考人として、日本銀行総裁佐々木直君、物価安定政策会議議長中山伊知郎君、経済団体連合会会長堀越禎三君、日本労働組合評議会議長市川誠君、全日本労働同盟会長天池清次君、以上の方々の御出席をいただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位には、御多用中にもかかわらず本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。  御承知のとおり、本委員会は、目下物価安定対策について鋭意調査を進めている次第でございます。申し上げるまでもなく、物価の安定は国民生活にとって最も重要な問題でありますが、残念ながら最近の物価動向は依然として騰勢を続けております。本日は、各界の指導的お立場におられる各位から、物価安定対策について忌憚のない御意見を承り、調査参考にいたしたいと思います。  なお、議事の進め方でございますが、最初に、佐々木参考人中山参考人堀越参考人市川参考人天池参考人の順序で、お一人約二十分前後御意見を承り、その後、懇談に移りたいと存じます。  それでは最初に、佐々木参考人
  3. 佐々木直

    佐々木参考人 物価問題につきましては、中央銀行といたしまして非常に重大な責任を持っておる問題でございます。したがいまして、日ごろからこの問題につきましては、いろいろ考え方をいろいろな機会に申し上げておりますし、金融政策の面でも弾力的に対策を講じてきておるのでございますので、きょうここで新しく申し上げる点はあまりございません。したがいまして、本日申し上げますことは、いままでやってまいりましたこと、その背景に対するわれわれの判断、こういうことについて申し上げることになろうかと思います。  御承知のとおり、わが国卸売物価は、昨年の夏に急速な上昇に転じましてから今日まで、ほとんど衰えを見せない騰勢を続けております。この十一カ月間の上昇幅は一三・五%にも達しました。  従来、卸売物価の安定はわが国経済一つの大きな特徴でございまして、三十年代以降は、好況期でも年度平均で三%をこえる卸売物価上昇はほとんど見られなかったのであります。ここ二、三年の動きを見ましても、卸売物価は、四十五年度に三・六%の上昇あと、四十六年度には〇・八%の低下を見ておりますが、昨年の夏以来の上昇はそうした下落のあとに生じたものでございまして、一部には、不況期における低落分の取り戻しという要因もあったと思われます。  しかし、その後今日までの根強い騰勢を過去の推移と比べてみますと、やはり最近の物価騰勢は異常なものがあると申し上げざるを得ないのであります。  このような卸売物価上昇は、当然消費者物価にも影響を及ぼしつつありまして、特に本年春ごろから消費者物価への波及が早まってまいっております。もちろん消費者物価は、生鮮食料品価格サービス価格などの動きにも大きく影響されますので、卸売物価影響ばかりではありませんが、いずれにせよその騰勢は著しく、六月の前年同月比上昇率は一一・五%に達しておるのでございます。  このような最近の物価上昇には、きわめて複雑な要因がからみ合っております。たとえば、海外インフレーションや世界的な物資不足影響経済構造変化過程で起こりがちな特定部門への需要集中影響ども無視し得ないところでありまして、昨年夏から秋にかけて見られました木材羊毛などの一部品目急騰中心とする物価上昇は、こうした要因によるところが大きかったように思われるのであります。しかし、昨年末以降は、これらの要因が依然強い影響力を及ぼしている中で、さらに総需要の急速な拡大という要因が加わってまいりまして、物価上昇の一般的な背景として特に重要性を増してきたものと判断されるわけであります。  最近の複雑な物価上昇要因に対処いたしますには、いろいろな方面からできる限りの手を打っていくことがぜひとも必要でありますが、このような状況にかんがみまして、私どもといたしましては、各種対策の中で総需要抑制が当面最も大切と考えておりまして、金融面からそうした方向に全力をあげて取り組んでおる次第でございます。  振り返ってみますと、昨年前半までのわが国経済が当面する課題は、景気回復を促進し、国際収支黒字幅縮小をはかるとともに、国民福祉重視経済への転換を促していくことにありました。私ども金融政策運営もこうした観点に立ちまして、財政面施策と相まって、停滞した経済を一刻も早く立ち直らせるという方向努力してきた次第であります。幸い、昨年夏ごろから景気回復が軌道に乗り、需給ギャップも解消に向かいましたが、それと同時に物価上昇も目立つようになってきましたので、私どもといたしましては、昨年半ば以降、金融政策運営を次第に警戒的なものへと切りかえてまいったのであります。  ただ、この時期における卸売物価上昇は、主として木材羊毛など一部特殊品目急騰によるものでありまして、まだ総体として景気が過熱に向かっているという情勢ではありませんでした。また、昨年半ばには英ポンドがフロートに移行し、それから年末にかけましては絶えず円再切り上げ不安が底流していたことは御承知のとおりでございまして、このような不安定な通貨情勢のもとでは、はっきりした引き締め政策を打ち出すことは実際問題としてなかなかむずかしい点があったのであります。  その後の景気上昇は、御承知のとおり予想以上に著しいものがあります。その限りでは、景気回復の促進という昨年初めの政策課題一つは達成されたわけであります。しかし反面、こうした急速な経済拡大物価騰勢を強め、また、この間、地価、株価の高騰も目立ってまいり、これらにつれまして一部に物価の先高を見越しました投機的な動きも見られるなど、一そう警戒すべき段階に立ち至ったのであります。  一方、この間、本年二月から三月にかけまして大きな国際通貨情勢の動揺がありました。わが国もそうした中で二月には変動相場制に移行し、当初は、これに伴う円高相場景気物価に対する抑制的な効果も予想されたのでありますけれども国内の強い総需要拡大海外物価上昇のために、そのような効果は、今日に至るまで、ほとんど表面にあらわれないまま推移しているのであります。  以上のような状況にかんがみまして、日本銀行は、まずこうした経済動向の背後にある過剰流動性を是正することが急務と判断いたしまして、本年一月に預金準備率引き上げましたが、その後三次にわたり公定歩合引き上げを行なうとともに、預金準備率追加的引き上げもあわせ実施いたしまして、本格的な金融引き締めによる総需要抑制努力を払ってまいったのであります。また、これらの措置に加えまして、都市銀行中心窓口指導を期を追って強化し、貸し出し抑制につとめますとともに、銀行等株式取得に対する指導商社不動産業向け貸し出し指導も併用してまいったところであります。  こうした金融引き締め効果が、企業投資抑制などの面ではっきりその姿をあらわしてくるまでには、ある程度時日を要するのはやむを得ないところであり、現在はその効果浸透過程にあると見られますので、やや長い目でこれを見守っていく必要があると思われますが、すでに心理的な効果はあらわれており、本格的な引き締めへの決意を表明いたしました四月の公定歩合引き上げ直後二旬にわたりまして卸売物価が下落したことに反映しておりますように、それまで一部の商品取引に見られた投機的な動きはほぼ鎮静してきたと言ってよいかと思われます。また、一時のような企業による土地取得も控えられるようになり、引き締め効果浸透につれて企業手元余裕も、商社などを中心にだんだんと取りくずされてきているような状況にあります。  ごく最近、七月二日に実施いたしました公定歩合引き上げは、今次引き締めにおける第三回目のものであり、前二回と合わせまして、これで公定歩合は一・七五%引き上げられたことになりますが、わずか三カ月という短期間でのこのような大幅な引き上げは、過去において全くその例を見なかったのであります。  すでに市中貸し出し金利は、前二回の公定歩合引き上げに伴いまして相当なテンポで上昇しつつあります。特に最も新しい計数であります五月の全国銀行貸し出し約定平均金利は〇・一三二%の上昇と、月間の上昇幅としては既往最高上昇を示しております。このような市中金利上昇傾向は、今回の公定歩合引き上げによりさらに一段と促進されるものと思われ、今後金利面から企業投資抑制効果を発揮していくものと見込まれております。  また、七−九月の三カ月間の銀行等貸し出しに対します窓口指導につきましては、四−六月に比べましてこれをさらに強化しておりまして、こうした措置によりまして企業手元資金圧縮がさらに進むものと見込まれますので、貸し出し金利上昇による資金需要抑制効果と相まって、企業投資活動は次第に落ちつきを取り戻し、総需要抑制の実効があがるものと期待しております。もちろん、今後とも情勢推移を十分注目しつつ、必要とあればさらに機動的に金融政策運営してまいるべきことは申し上げるまでもございません。  金融政策は、このように企業投資への影響を通じ総需要を適切に調節していくものでありますが、財政支出などの総需要に占めるウエートが大きくなっている現状からすれば、金融政策だけで総需要抑制効果を十分おさめていくことは困難でありまして、財政面からの措置があわせ実施されることもぜひとも必要と思われます。この点につきましては、私どもとしてはかねがね政府にお願いしているところでありまして、政府といたしましても、すでに四月に公共投資の下期への繰り延べ措置を実施に移され、今般さらにこれを強化されたところでありますが、今後とも情勢推移に応じ、必要な場合には引き続きこうした方向に沿って施策を拡充されるようにお願いしたいと存じております。  また、さきに述べましたように、現在の物価上昇につきましては、総需要の急速な拡大という面のみならず、いろいろ複雑な要因が介在しておりますので、総需要抑制をはかっていくだけではなく、各種個別物価対策を動員して事態に対処していくこともきわめて重要と考えておるのであります。  たとえば海外の安い物資輸入の増大につとめることは、引き続き物価対策一つの柱をなすものと考えられ、また輸入品国内品を問わず流通機構の整備をはかり、海外価格生産段階価格をできる限りそのまま消費者が支払う値段に反映させていくことも、きわめて有効な物価対策と考えられますので、引き続きこれらの面での政府の御努力を期待しているものであります。  以上、主として国内面動き中心に申し述べましたが、物価高騰わが国だけの問題ではなく、海外主要国にほぼ共通の問題でありまして、現在アメリカ、フランス、イタリア等卸売物価は、いずれも前年を一〇%以上上回っている状況であります。  こうした物価上昇に対処するため、各国ともに強い金融引き締めを実施しており、金利も大幅な上昇を示しております。また、各国それぞれに、金融面からの対策だけではなく、いろいろな手段を駆使して事態に対処しておりまして、たとえば西独では投資税安定付加税の形で増税を実施するとともに、道路建設支出の一〇%を繰り延べる等の措置をとってきております。またアメリカでは、いろいろ修正を加えておりますが、一昨年八月以来すでに二年近くにわたり所得政策を実施してきたのに加え、最近では、国内での需給緩和のために、一部商品につきまして輸出規制を行なっている状況であります。  このような状況でありますので、私どもといたしましても、現在実施している強い金融引き締め政策は、世界的な規模での物価安定のための戦いの重要な一翼をになって行動しているものと考えておる次第でございます。  繰り返して申し上げますけれども日本銀行といたしましては、今後の情勢推移に十分注目いたしまして、引き続き金融政策の機動的な運営努力し、これによりまして総需要の適切な調節につとめ、物価の安定に力を尽くしてまいりたいと存じておる次第でございます。  以上でございます。
  4. 山中吾郎

    山中委員長 ありがとうございました。  次に、中山参考人にお願いします。
  5. 中山伊知郎

    中山参考人 中山でございます。  本日ここで申し上げますことは、先ほど委員長から御指名がありましたように、物価安定政策会議議長という資格が中心のように思われますので、まず、そのような意味で、何がいままで行なわれたかということからお話を申し上げたいと思います。  物価安定政策会議の前身になりますものは、御承知のように第一次の物価問題懇談会、第二次の物価問題懇談会、それから次に物価安定推進会議、この三つ過程を経まして、そして現在の物価安定政策会議というのが、四十四年の五月に成立いたしまして今日に至っております。第一次物価問題懇談会ができましたのは昭和三十八年九月でございますから、現在の物価安定政策会議まで、すでに十カ年を経ているわけでございます。  その間に、第一次の物懇では十四回の会議をいたしまして、三十八年十二月までに、当面の物価対策についてという包括的な報告を行なっております。第二回の物価問題懇談会は、四十一年の一月から同じ年の十二月まで一カ年間十七回の会議をいたしまして、十一の提案を行なっております。次の物価安定推進会議といいますのは、昭和四十二年二月から四十四年五月まで約二カ年続いたものでございますが、十一回の会合をいたしまして十一の提案をしております。  現在の、四十四年五月に出発いたしました物価安定政策会議は、今日までに約十件の提案を行なっておりますが、これは総合部会という全体の会議のほかに、第一から第四までの調査部会を持っております。そして、そのほかにさらに特別の部会というのを持っておりまして、全部で五つの部会をもって運営されておりますが、第一調査部会生鮮食料中心とする部会、第二の調査部会は特に工業製品、寡占問題その他を取り扱う部会、第三の調査部会財政金融部会、第四の部会国際部会という名前で特に輸入政策その他を取り上げております。それから最後に、特別部会と申しますのは、たとえば最近の例では、酒でありますとか新聞でありますとか、そういう値上げが発表されましたときには、即時にその当事者から事情を聞いて、できるならばその値上げを延期してもらったり、あるいは抑制してもらうということを勧告している。もちろん権限は、特に法律的にはあるわけではございませんけれども、そういう会議を通じて勧告をしているというような部会でございます。  こういう部会でそれぞれ提案されました、あるいは審議されました事項をここで一つ一つお話しするのは、非常にたくさんの時間を必要といたしますし、また皆さんの御趣旨にも合わないと思いますので、それを省略いたしまして、全体で何をしたかということを大づかみに申し上げたいと思います。  三つのことがいろいろな提案の中に含まれておるのでございますが、そのうちの第一は、一口に申しますと生産性向上ということでございます。たとえば第一次の物価問題懇談会で、農業中小企業のような生産性向上が急速にははかりがたいところ、そのところでできるだけひとつ資金を豊富にし、それから技術的な開発を援助して、値上げをしなくても生産拡大ができるような、そういう部門にこれをしっかり育てていただくようにという勧告をしております。それから同じような時期に都市交通国鉄などの問題に対しましても、これは生産性向上という名前ではございませんが、合理化という名前で同じような趣旨勧告をしております。  それから、第二の大きな柱は競争原理の貫徹ということでございまして、これは、たとえば再販売価格のあの規定をもう一度洗い直しまして、そうして必要でないものにそういう再販価格というような独占価格を保障することはできるだけやめてもらいたい、それから特に再販価格と結びついておりますリベートの非常な悪用については、それを避けるようにしてもらいたいというようなことを勧告しておりますし、それから大企業競争阻害要因というのをできるだけ防ぐようにしてほしい、同時に、その逆の面で消費者行政を強力に行なってほしい、こういう勧告をしております。それから、直接に競争効果あらしめるための流通過程合理化、たとえば中央青果市場の改善というような形でたくさん問題がございますが、流通過程を円滑にすることによって競争効果が十分に出るようにしてもらいたい、こういうことを勧告しております。これが第二の大きな柱。  第三の柱は財政金融でございまして、どういうことをいたしましても、やはり金がたくさん出過ぎるということになりますと、物価騰貴を防ぐことはなかなかむずかしくなりますので、そのときどきの景気状況に応じてではございますけれども財政規模経済成長率を上回って大きくなるようなことはできるだけ避けてほしい、あるいは金融の場合におきましても、できるだけ過剰流動性が生じないような配慮をしてほしいというようなことを、大きな柱として勧告しております。  要するに、第一には、そもそも物を生産する場合の能率をあげるということ、これがやはり経済的には需要供給の法則からいきましても非常に重要なことでございますので、その点に焦点を当てる。第二には、せっかくそういうことができましても、流通過程が十分に円滑に動かないようになっておりますと、その効果が出ませんので、効果の出るように流通過程を、特に日本の場合には整備する必要があるということ。第三には、そういうことをいたしましても、源泉になります資金が不当に膨張することになりますと、どうも物価騰貴を避けることができないという意味で、できるだけそちらの配慮をしていくということが第三の柱。こういうことで、ずっとこの仕事を続けてまいりました。  私は、今日でも、ただいま申し上げました三つの柱の意味というものは、そのまま存在しておるのでございまして、根本的には少しも変わっていないと思います。ただ、この十年の間にいろいろな変化がございまして、その変化の中の最も大きなものを申し上げますと、一つは、だんだんに物価を安定する、あるいは物価騰貴抑制するための必要度というのが増加してきた、緊急度がだんだんに増加してきたということ。  これは、この十年間のいろいろな勧告をずっと並べて見ておりますと、最初の間には、農業とか中小企業とか、そういう生活物資の中に入ってくるものの生産性を上げることが大切だということを言っておるのでございますけれども、やがてだんだんそれを言わなくなってしまった。言わなくなったというのはことばが非常に悪いのでございますけれども、間に合わなくなった。重要には違いないけれどももっと緊急なものがだんだん出てきたということで、そういう基本対策というのが残念ながらだんだんあとのほうにいって、緊急やむを得ない対策が目の前に出てくるということになりました。そのきっかけをつくりましたのが、私は土地価格の問題であると思うのでございます。これが出てまいりますと、目の前の最も大きな問題が土地問題ということになりますと、どうも落ちついて基本的な農業中小企業生産性向上をはかっているということが、何かこう手ぬるいような感じが出てきたということ。したがいまして、そこから出てまいりますいろいろな要求の中で特に今日の問題との関連で重要に思われますことは、公共料金をはじめ大企業料金その他をストップせよという要求が出てくるわけでございます。  今日、そういう公共料金につきましての同じような議論が出ておることを私も承知しておるのでございますけれども、実はこれが出てまいりましたのは、十年ではございませんけれども、八年ぐらい前を振り返りますと、同じような状況が出ております。昭和四十二年の一月に、佐藤内閣のもとで第一回の大きな選挙があったのでございますが、そのときのスローガンというのをずっと振り返って調べてみますと、まず第一に主婦連が、佐藤総理に対して、諸物価一年間ストップという要求を突きつけております。それから社会党は、公共料金値上げ阻止独占価格引き下げというスローガン選挙のときに使っておられます。それから民社党は、一年間公共料金ストップ、こういう要求を掲げておられます。共産党は、独占価格公共料金引き下げという同じようなスローガンでございますが、これを掲げておられます。公明党は、管理価格引き下げ公共料金引き上げ反対、こういう二つのスローガンを掲げておられます。  これは昭和四十一年でございますから、いまを去ること七年前なんでございますけれども、同じような要求が出ているということは、実は三十八年ごろからスタートしたこういう物価安定の会議におきまして、だんだん緊急度というのがそういうところに集中してきている、つまり物価騰貴の勢いというのが非常に急速に進んでいるということを証明しているのではないかと思うのでございます。  ついででございますけれども、そのときの政府のほうのお答えというのが、今日とは少し違うのでございますけれども、よく似ておるのでございます。政府物価対策という中に、第一は、消費者米価は当分据え置く。それから第二は、国鉄、たばこ、電信電話は四十二年度中料金引き上げない。これはちょっと今日とは違っておりますけれども、大体同じような趣旨でございましょう。それから第三に、公共料金を、いきなりストップすることはできないけれども、経営の合理化低利資金の貸し付けによって、原則として四十二年中は引き上げないつもりである、こういうお答えをされております。  この状況をあわせて申し上げますのは、決して私が政治的な問題に関心を持っているのではございませんので、物価問題としてこのような緊急事態に属するような提案のしかたが、すでに七年前に起こっているということを申し上げたいためでございます。  それで、そういうような形で物価安定に対する緊急度が強くなってきたということが一つの特徴でございますが、第二のもう一つの大きな特徴は、国際関係というほうで非常な変化が起こったということでございます。  この国際情勢における変化は、簡単に申しますと、ドルの基本的な力というのがだんだんにあぶなくなってきたということ。これはもうここ数年来、いろんな事態を重ねて今日まで来たのでございますけれども、ニクソン・ショックに至るまでにすでにたびたびそのような危機を繰り返して、だんだんにドルの体制が弱まってきた。そのことが、具体的に申しますと、アメリカの赤字をドルでまかなってそれを世界に振りまいたということなのでございまして、これは非常に簡単な表現でございますが、要するに、アメリカの赤字を補給するためのドルで世界がインフレになったというような言い方をしても、私はそんなに間違いではないのじゃないかと思うのでございます。  とにかく世界じゅうがインフレになった、こういう事態は非常に珍しいのでございまして、もちろん大きなインフレーションをわれわれは近代、つまり二十世紀の中で経験をしておるのでございますけれども、第一次大戦のあとの大インフレーションでも、あるいは第二次大戦の後の日本のインフレーションでも、実はみな局地的なものでございます。一国あるいは一地域の問題であって、世界じゅうがくつわを並べてインフレーションに入っている状態というのは非常に珍しいのじゃないかという気がするのでございますが、不幸にして、IMFを支持しておりましたドル体制というものが、内容的にそのように変化してまいりました結果、世界の先進諸国がくつわを並べてインフレの中で生活をするということになったのでございます。  しかし、別に悪いことがないということも言えるかもしれません。インフレの中で成長しているのです。成長の割合というのは、実質面に直しましても、つまりインフレのこういう上積みをとって勘定しましても、正確にはできませんけれども、大ざっぱな計算では、戦前の成長率の倍ぐらいの成長率が、戦後にはどの国にも出ておるのでございます。そういう成長率のほうを考えますと、インフレはむしろ付加的なもののように見えるのでありますけれども、しかし、現にインフレの中でどの国も成長をしているということ、日本もそのとおりなんでございます。  そういう世界インフレの中にわれわれがいるということ自体が、これが第一には、輸入をずいぶんたくさんしても——普通ならば、そういう物資輸入効果というのは物価引き下げに非常に大きな役割りをするはずなんでございます。ところが、輸入する物資の値段がその外国で上がっておるものでございますから、せっかく輸入の量を多くいたしましても、あまり消費者物価引き下げには効果をあらわさないというような妙な事態が起こってまいりました。これが一つ非常に困った事態なのでございます。  第二には、これはまた今日の政策に非常に影響があると思うのでございますけれども、インフレの中で成長している同じような国の中で、日本だけがインフレをとめて多少の不景気を覚悟するということが非常にむずかしくなった。ほかの国は安定しておりまして、日本だけがインフレで困っているというような状態の場合には、よその国はちゃんとしているではないかということを言いますと、日本のいままでの例では、それはたいへんだというので、わりあいに早くインフレ対策というのが実ることになるはずなんでございますけれども、不幸にしてよその国もインフレの中で成長している、日本もそうかもしれないけれども、なぜ日本だけが一番先に不景気をしょってこの問題を処置しなければならないか、ここに非常な迷いがあるわけであります。  これは非常に問題を簡単にして申し上げておりますので、同じ不景気といいましても、リセッション程度のものもございますれば、その他の大きな問題もございますので、一括しては申し上げられませんけれども、とにかくどっかで先にそういう見本をつくっていただくと一番都合がいいのでありますけれども、見本がありませんと、日本だけがなぜ先がけて不景気にならざるを得ないか、不景気を覚悟しなければならないか、インフレもきらいなんですけれども、国民全体として不景気もきらいなんで、どちらが一体大切かということを判断することが実は非常にむずかしい。そのことが私は、大蔵省にせよ、あるいはそのもっともとにあります政府全体にせよ、あるいは金融政策を担当されている日本銀行にせよ、そういう政策機関が具体的な政策をおとりになる場合に、最も判断に苦しまれている点ではなかろうかと思うのであります。もしもそのような苦闘が、何といいますか、そのために政策の時期を誤るというようなことがあったといたしますれば、それは私は、日本の直面している非常に不幸な困難な状態だと申し上げるほかにはないのでございます。これが第二の大きな変化。  つまり、いままで物懇以来十年間やってまいりました物価安定政策の柱をずっと考えてまいりますと、いつの間にか緊急度が、目の前の緊急の問題にだんだん移っていったということ、そういうことを助長して、しかも思い切ったインフレ対策がとれなかった一つの大きな理由は、世界じゅうがインフレの中で成長しているという事実、この二つにあるのではないかと思うのでございます。  それでは、一体いまどうしたらいいのか、これが最後の第四番目の問題になるわけでございますが、私は、やはりどうも個別的物価対策、たとえば米をどうするかとか、運賃をどうするかとか、牛乳をどうするかとか、酒をどうするかとかいうような個別的物価対策は非常に重要でございますけれども、残念ながらいまの状態というのは、個別的物価対策よりももっと根本的な対策をとらざるを得ないところにいっているのではなかろうか。もし、個別的物価対策の中で最も重要なものは何かといわれますれば、むろん土地問題でございますけれども、私は土地に関しては、この勧告の中にもうたっておりますけれども、単に公有地を増加するとか、あるいは土地に付随して起こりましたそういう利益の還元というような問題のほかに、もう少し、現在すでに考えられております土地対策を強力に推進することが必要ではないかと思うのでございますが、それを除いてと申しますか、それを一方に置いて考えますと、いまの物価対策というのはどうしてももっと一般的な、通貨、財政、そういう政策に向かわざるを得ないのではなかろうか。  先ほど総裁は、総需要対策というのが当面の一番大きな問題であるということをおっしゃいましたが、確かに現在の日本が直面しておりますインフレギャップというものを押えていきますためには、やはり総需要が完全雇用にちょうど当たる所得水準を越えている部分を何とかして押えていくという対策をとらざるを得ない。もっとも、完全雇用に対応する所得水準というのがはっきりきまっておればいいのでございますけれども、これは理論的にも実際的にも、そう簡単にはきまらない。したがって、その間にいろいろな迷いもあるわけでございますけれども、いずれにしても長年の経験で、この辺までいったら総需要のほうが、最も基本的な完全雇用に対応する所得水準、これはまあ一番実質的に伸びられる水準の最高のものですけれども、それを越えているか越えていないかという判断は、いろいろな民間の投資状況、あるいは在庫投資の動き方、あるいは日本財政のあり方、あるいは外国貿易における黒字の消長、そういうところで大体わかるものでございますから、その意味から申しますと、私は、現在の日本物価情勢というのは依然として大きな超過需要、総需要の過大というところにあるのじゃないかと思いますので、その点については、やはり大きな決断を持って引き締め的な政策を行なわなければなるまいと思っております。  一番心配されておりますことは、これがこのごろよくいわれますようにオーバーキル、つまり景気を冷やし過ぎるのではないかということなんでございますが、その判断というのは、これはやってみなければ、どの辺がオーバーキルになるかということはわからないのでありまして、私は、それをおそれて何もしないということでは、今日の物価騰勢というのはなかなかおさまらないということになるのではないかと思うのであります。  それと同時に、また先ほどの問題に返るようでございますが、公共料金以下の、そういう政府の関与する力の範囲内の物価を即時ストップせよという要求をどう考えるかという問題でございますが、私は正直に申しまして、そういう時期が来ないことを望みたいのであります。と申しますのは、公共料金オールストップという考え方は、これはぎりぎりのところなんでありまして、ですから問題は、現在の物価情勢というのをそういうぎりぎりのところと考えるか、それともなおかつ若干の余裕がある——余裕というと悪いのでありますけれども、なおそこまでいかなくても、総合対策でもって乗り切ることができる状態にあるかどうかという、判断の相違になるわけであります。  実は、公共料金の一部のストップにつきましては、物懇の時代に政府にわれわれが勧告をいたしたことがございまして、そして事実それが行なわれました。行なわれましたが、その結果は必ずしもよくなかったのであります。その翌年に、押えた公共料金が倍以上に上がったということはないのでございますけれども、それにしても、翌年には必ず公共料金値上げを認めざるを得なかった。そういうことを繰り返しております間に、公共料金ストップというものは、もしそれだけでもって安心してしまって、それ以外の、先ほど申し上げましたような三本の柱というようなものがほんとうに実行されません場合には、実は効果が逆になる。つまりサービスの低下というようなことになる危険もあるのであります。  そういうことを考えますと、簡単に申しますと、これは最後の手段ではないか。いま最後の手段を使うときになっているのか、それともそこまでいかなくても何かできるのかというところで、一番基本的な問題の悩みがあるのではないかと思うのでございますけれども、そういうどちらの道かを考える場合に、私は、オーバーキルをおそれないで思い切った財政金融政策をとっていただきたい。そうした後に初めてどちらかという選択が正式にできるのではないだろうか。もし、それも何にもしないで、まだ将来物価はたぶん安定するだろうというようなことでおりますれば、不幸なことでございますけれども公共料金ストップというようなそういうラジカルな、そしてせっぱ詰まった政策が唯一の政策にならないとも限らない。そして、それは必ずしも成功の可能性があるとは私は考えないのでございます。  これだけを申し上げまして、終わります。
  6. 山中吾郎

    山中委員長 ありがとうございました。  次に、堀越参考人にお願いいたします。
  7. 堀越禎三

    堀越参考人 きょうは、私のほうの植村会長出席せよというお呼び出しがあったのでございますが、会長ちょっと所用がございます。その上に、経団連に物価問題懇談会というものがございまして、これはだれも引き受けてくれませんので、私が責任をとりまして委員長をいたしておりますので、経団連における物価問題の責任者といたしまして私が出席いたしましたので、あしからず御了承願いたいと思います。  それから、最初にお断わりしておきたいのでございますが、最近、経団連は財界総本山といわれて、何か非常に権限を持っているようにいわれているのでございますが、私のほうは大体百くらいの経済団体が寄りました連合会でございますが、経済団体というのはなかなか会費を払いませんので、ほかに大企業中心にいたしまして七百人くらいの会員、この会員から会費を取ってまかなっておる次第であります。したがいまして、すでに石坂前会長が言っておりましたように、一つの業界の利益は代表しない、また一つの会社の利益は代表しない、全部の、いわゆる全体を総合した利益を代表して、日本の国の経済について誤りのないように政府その他にも意見を申し上げるということを申しております。  私は、事務総長として、事務局員百五十名を預かっておるのでございますけれども、この間の商社買占め問題などというようなものが出ましたときに、私のほうで商社を弾劾でもいたしまして——私のほうは入会、脱会が自由でございますので、これがみな脱会いたしましたりいたしますと、この百五十人は明日から路頭に迷わなければならぬというような弱点のあることは、ひとつ御了解おき願いたいのであります。  したがいまして、先般総会で、企業の社会的責任ということを強く決議いたしましたので、それのアフターケアといたしまして、この間、各団体の長に集まっていただきまして、その団体を通じまして、企業に社会的責任を担当する重役をつくってもらいたい。さらに経団連といたしましては、どういうふうにして社会的責任を果たしておるか、いわゆる公害あるいは環境保全、また地域社会とのコミュニケーション、そういうことについてどういう具体的なことをやっておるかというアンケートを近く出します。そして、そのアンケートを集めた上で、またこの業種団体の長に集まってもらいまして、さらに具体的に進めていこう、こういうことをいまやっております。そういうように、常に業界の団体を通じて仕事をいたしておることもまた、御了承おき願いたいのであります。  ところで、私が預かっております物価問題懇談会でございますが、たびたび開いていろいろ率直にみな話し合ったのでございますけれども、なかなか名案が出てまいりません。したがいまして、これといって、経団連は物価問題にはこう対処すべきであるというような意見もついにまとまらなかったのでございますが、ただ一つ、流通問題を取り上げてやりましたときに、これは主として水産関係の方でありますが、たいへんおもしろいお話が——おもしろいといっていいか、ユニークといっていいのですか、そういう御意見がございましたので申し上げますが、いま産地直結論、産地と直結するとか、あるいはスーパーが市場だというような議論があって、いずれも流通段階を切り捨てろ、中間段階を切り捨てろというような意見が強くいわれておるようだけれども、これは大きな間違いであって、やはり流通というものは、一つのシステムとしてその機能を無視しては大きな誤りをおかす。自分のすすめたいことはむしろ食品であれば現地加工、食品を現地で加工して持ってくる。さらに消費者教育、消費者がすべて生鮮食料品を小売店の負担にまかせてしまっておる、つまり売れ残りの危険は全部魚屋にまかせてしまっておるようないまの消費者の態度、これらについて消費者がみずから冷凍ものを買ってたくわえるといったような点、そういう点をもう少し教育していけばもっと値が下がるのではないかというような話。また東京の中央卸売市場が、東京の人口が三百万人の時代に五百万人を想定してつくったのが、あの中央卸売市場であります。今日一千万人になって、なおそのまま放置されておる。これらを近代化するということが一番大事な問題であって、いわゆる流通段階における近代化その他について政府が十分補助もし、またそれらについても指導していくというようなことがまた大事な話ではないかというような話がございました。御参考までに申し上げておきます。  いま佐々木さん、中山先生からいろいろお話がございまして、私から、いまの物価がどういう段階にあり、どういうものであるかということを申し上げることもないと思うのでありますが、ただ一つ、経団連といたしましていささか反省いたしておりますのは、これは佐々木総裁が言われましたように、一昨年、昨年来の景気の不振が続きまして、例のスミソニアンの円の切り上げがありました後も輸出がどんどん伸びまして、この調子でいくと日本は世界のにくまれものになるということから、そういう点非常に危機感を持ちまして、景気浮揚策、いわゆる金融大幅緩和、大型補正予算というような意見を具申いたした次第でございますが、いまから考えますと、それがやや行き過ぎて景気の非常な過熱を招きまして、それが卸売物価上昇を来たした。この点、卸売物価につきましては、経団連といたしましては非常に責任を感じておる次第でございます。  はなはだ具体的なことを申し上げて恐縮でございますけれども、ところが最近聞きますと、鉄の需要が非常にふえております。これは鉄鋼業界から聞きましたが、いろいろ聞きますと、昔は材木を使っておった建築を、最近ほとんどみな鉄にかえた。それから自動車でも、昔は鉄板でやっておったところを、その後ポリエチレンですか、何か合成樹脂か何かにかえてやってきたが、最近その材料が手に入らないというので、またこれも昔の鉄板に戻っておるという、いろいろな面で鉄の需要が非常に強くなってきておる。これはやはり今日の卸売物価上昇一つの大きい基盤をなしていやしないかというような感じがいたします。それを何か手を打つべきであります。  先般、通産省で鉄の増産を命令されたのですが、鉄の増産を命令されるとみな急いでくず鉄を買いつけるものですから、アメリカのくず鉄が値が上がったというようなことで、これはまた悪循環のような結果を来たしたような状態でございます。  それから、今日の物価につきましては、佐々木総裁の言われるとおりで、いろいろな手段を使わなくちゃならないのでありますが、金融政策のみではとうてい解決がつかないと思います。われわれも、この間からの公定歩合引き上げにつきましては率先して賛成してまいりました。この際はどうしても総需要の緊縮、いま中山さんがおっしゃいました、いささかオーバーキルになってもやるといったぐらいの覚悟は必要じゃないか。したがいまして、財政の切り詰めにおきましても、いまかなり契約率の引き下げをやっておられるようでありますが、いまのような縦割り行政になっております場合に、予算を減らそうとするならば、むしろ各省に一定率の予算返上をさせるぐらいの決意が必要じゃなかろうかというふうにさえ、われわれとしては感じておる次第でございます。  次に、設備投資でございますが、この間、企画庁の長官がおいでになりまして、瞬間風速で、現在設備投資が年間四五%というような高い率にあるというお話がございました。実はびっくりしたのでございます。  実は私は、通産省の産業構造審議会の産業資金部会というのを最初からお預かりいたしまして、ずっと毎年、設備投資の調整をやってまいりました。ことし二月現在で通産省所管の会社の設備投資の計画を集めてみますと、昨年に比較いたしまして二一・四%という高い伸び率を示しておりましたので、非常にむずかしい自動車業界の設備拡張まで減らしてもらいまして、大体年間一七・九%というところまで押えることにいたして、先般答申いたしました。この一七・九%というところまで押えれば経済企画庁の計画とも合致するし、また物価対策上も、操業率の面から見て必要であるという答申をいたした次第でございます。  それから、企画庁長官のお話がそういうことでございましたので、急遽事務局で、この四十八年の一月から三月の間のGNPの伸びに対しましてどういうものが大きく寄与しているかというのを調べてもらいましたところが、個人消費支出が四四%、やはりこれが一番大きく寄与しております。そうして政府支出は二四・五%、民間の設備投資が二九%。これについて私はあ然としたのでございまして、こんなに大きく伸びておるとは思わないのでございますが、現在非常に需要が強い。この需要の強いときには、やはり経営者はとかく強気になりがちでございますので、通産省は全部の業界を監督しておるわけでもございませんし、通産省は通産省関係の業界だけをこうして調整をいたしたのですが、まだほかのいろいろな設備、ほとんどサービス業のほうははずれております。これは確かにこの調子でいきますと、やはり設備投資は少し行き過ぎるのではないか、大いに反省をしてもらわなくちゃならぬというような感じをいま持っておるような次第でございます。  次に、先ほど中山先生がおっしゃいました土地の問題でございますが、これは確かに、土地を買ったものが業界には非常に多いと思います。最近の決算を見ましても、土地を売って利益を計上している会社がかなりあるようであります。ただ、デベロッパーは土地を自分のところの商品としておるわけでございますので、デベロッパーがどの程度土地を持っておるのが適当かということは、判断が非常にむずかしいのではないかと思います。それからまた私鉄につきましては、鉄道そのものがもうからない、料金が抑えられておってもうからない。したがって、昔からの私鉄は、沿線の土地を買ってこれから利益を得ておるということもあり、最近は特に土地を売ってはじめて決算ができるというような私鉄が非常に多いという点からも、これらは考えてやるべき点があると思うのでありますが、その他、ただ余裕資金があるから買っておけというような態度でいる経営者があるとすれば、これは私は、大いに反省をしてもらわなければならぬと思います。  したがいまして、土地の問題につきましては、これは私個人でありまして、経団連でコンセンサスをとりますとおそらくそういうことにはならぬかと思うのでありますが、やはり相当思い切った強権を政府がお持ちになる必要があるのではないか。いわゆる行政訴訟では負けるかもしれぬというような心配をしながら土地の所有権の制限をやっておるようなことなく、思い切ってその制限がやれる、土地所有権についてはかなり思い切った制限をやれる——一つの案といたしましては、売買につきまして届け出制なんかをつくってやるとか、これは前に税制調査会におきまして、ある方が提案されました。これはデベロッパ一のある重役の案でございますが、つまり、まとまった土地を買おうとする場合には、こういう目的でこの土地を買いますということを政府に届け出る。そのときにその土地代金の一割を供託する。そしてそれを三年間やるか五年間やるか、その辺はまだ検討しないとわかりませんが、その約束をして、その期間に自分が申し出たとおりの、目的どおりの処理ができない、いわゆるデベロップができなかったというような場合には、その供託金は没収されるというような、これは私は割合にいい案ではないかと考えたのでございますが、税制調査会では全然取り上げられずに無視されてしまったのでございます。こういう面も、土地の問題では一つのやり方があるのじゃないかというふうな感じをいたしております。  そこで、あえて所得政策の問題に触れて申し上げますと、私は、まだ日本においては所得政策を導入するのは早いという感じをいたしておりますし、また所得政策というような政策は、あのイギリスのヒース首相のような、あれだけの決心を持ってやる人が出てこない限りなかなか容易にできるものではなし、また日本の土壌にはやや向いていないのじゃないかという感じがいたしますし、また、現在はまだインフレというほどのひどいものではない、むしろいわゆるデマンドプル、いわゆる超過需要というものが物価引き上げておるのだと私は考えておりますので、むしろ、先ほど中山さんのおっしゃいましたような、オーバーキルぐらいの覚悟をして一応やってみるということがやはり一番大切な問題じゃないかというふうに考える次第でございます。  これは佐々木総裁も言われましたように、世界的なインフレでございますので、国際の協調でやっていくべきでありまして、この間私たちは日米財界人会議に参ったのでございますが、そのときに、最後にガースタッカーが、日本人に対しましてこういうことばを使ったことを申し上げておきます。これは、われわれとして非常に反省しなければならぬ点でございます。いままでオーダリーマーカッティングということをいわれておった。そして最近はオーダリーパーチェーシングということがアメリカでいわれておる。日本はもう少しオーダリーパーチェーシングをしていただきたい。私は、もう一つその上に加えて、オーダリーインベストメントを申し上げたいということを申しました。これはおそらくハワイの問題だと思いますが、そういう話があったということを、よけいなことでございますが申し上げておきたいと思います。  以上でございます。
  8. 山中吾郎

    山中委員長 ありがとうございました。  次に、市川参考人にお願いいたします。
  9. 市川誠

    市川参考人 まず初めに、私は、労働者を代表してこの委員会に要請をしたいのでありますが、それは、国会は現在のインフレーションをどう見ているかということなんです。すなわち、一〇%程度の持続的な上昇状態だと見ているのか、それともスパイラルを引き起こしていると見ているのか、この点を国民の前に明らかにしてもらいたいと思います。  なぜかといいますと、田中総理は、現在はインフレとは言えないと述べておられますし、また、秋には物価上昇は半分に下がるというふうに言われておるのですね。しかし、われわれ労働者としては、これは乱暴な発言ではないかというふうに考えております。こういうような発言をそのままに許しておくわけにはいかないと思います。したがいまして、国会は、この委員会物価問題等に関する特別委員会ということでありますので、先ほど委員長参考人を呼ばれた趣旨説明でわかったのでありますが、ぜひひとつ、現在の物価上昇状況というものを国民にどういうように説明されるのか、すみやかに明らかにしていただきたいと思うのです。われわれは、現状はスパイラルに進行していると見ざるを得ないのであります。これが一つの要請であります。  物価の問題は、もちろん上昇の底には、前の方々もおっしゃったように、海外物価上昇影響があることは当然であります。このことは、日本から見ますれば与えられた条件でありまして、自由化をした以上避けることはできないかと思います。また、そのうちの一部は日本の買い占めによってつり上げられたのも事実ではないかと思います。  しかし、国内要因について見ますと、物価上昇の最大の責任は、田中総理の列島改造論ブームにあったことは明らかではないかと思います。これが全国の地価を上昇させ、大企業の投機その他をささえたのであります。地価は資産の価格であって、フローの消費者物価そのものではありませんが、地価騰貴は、いまの日本では一切の物価を底上げさせる機能を持っていることは、否定できないのではないかと思います。現状では、地価は上がることはあっても絶対に下がらないと思います。一切の生産、流通、消費は、土地価格を基準に動かざるを得ないのではないかと思います。  二番目の責任は、佐々木総裁帰られたようですが、日銀と政府金融政策にあると思います。日本金融政策は、ニクソン・ショック後も依然として輸出第一主義、円の防衛を基本方針として堅持をされてきました。また、総選挙を控えた田中内閣の膨張的な財政政策を支持されました。これらの結果、今日、対前年比二八%というような異常な通貨膨張、過剰流動性をもたらしたのであります。  最近のヨーロッパの常識では、流動性のターゲット、目標は、望ましい実質成長率プラス許容できる消費者物価上昇であるといわれています。たとえば、一〇%の成長率で四%の物価上昇が許容されるとすれば、通貨の増加率は一四%で押えるということであります。  このような金融政策の常識からすれば、日銀は昨年及び本年の目標成長率を何%と見たのか、また、許容される消費者物価上昇を何%と見たのか、この際やはりぜひ明らかにしてもらいたい、それをお尋ねしたいと思います。  三番目の責任者は通産省であると指摘いたします。四十五年不況のときには、弱体な産業に対してではなくて、日本の基幹産業で不況カルテルの結成を進めました。このために、三割から五割の操短という不況の時期に、価格はかえってつり上げられたのであります。そして、その価格をベースとして、現在の好況期に独占の価格支配力とそのつり上げはさらに強化をされています。  このような通産省の不況下の行政指導を、物価との関連で、この委員会は通産省の責任をぜひ追及してもらいたいと私は思います。  さらに加えまして、先週発効された買占め投機防止法でも、通産省は基幹産業の業種を、不況カルテルの対象であったという理由だけで適用除外を行なっておるように、私は記憶しております。買占め防止法は緊急対策の一環であるのでありますから、通産省は、不況カルテルと買占め防止法の二段がまえで物価上昇をもたらした責任者ということが言えるのではないかと思います。  次に、政府のインフレ的な経済財政政策、それに日銀のインフレ支持的な金融政策、通産省の基幹産業保護政策、この三本の柱にささえられて日本の大企業は、インフレ的な利潤増大の機会に恵まれて土地の買い占め、消費財を中心とする商品の買い占めと投機、株式投機に明け暮れたと言えるのではないかと思います。そして、これが価格引き上げの連鎖反応を引き起こしたのであると私たちは指摘いたします。  国民が一〇%をこえる所得の転嫁とかあるいは価値の減少に脅かされているときに、長者番付の八割は土地成金で占められていたわけです。また、史上空前といわれた三月期の好決算の主たる要因は、土地の売却益、株式操作、価格上げの三つであったと各新聞は伝えているのであります。このように、やはり現在のインフレは明らかに利潤インフレだと私たちは思います。  この利潤インフレの底には、池田内閣、佐藤内閣以来、一貫して続けられてきました非独占部門、つまり農業中小企業、流通部門等々に対する構造政策の貧困の結果が、これらの部門のコスト増大になってあらわれていることもまた、前の方から指摘されたように、明らかであります。  以上のようなインフレの諸要因に加えまして、最近公共料金の一斉引き上げが始まっています。国鉄料金あるいは電気、ガス、バス料金等の引き上げがそれでありますが、政府消費者米価の据え置きを決定されたことは賛成であります。公共料金政府が直接コントロールできる唯一の価格でありますから、これらの一斉引き上げ政府が認めたということが、国民に与える心理的な影響というのはたいへんに大きいものがあると思います。政府はこの段階に至ってもなお、物価抑制よりも政府系の諸企業とか公益の諸企業の利潤や独立採算を重視しているということを国民に示しております。  これらすべての原因が総合されますれば、現在の物価上昇はお互いに波及し合って、スパイラルを起こすのはもう当然だと私たちは思います。  そこで、物価上昇のスパイラルは異常な事態であります。異常な事態にはやはり緊急対策が必要であります。したがいまして、いま必要とされる物価対策は、緊急対策と長期構造的な物価対策の両面が必要であるということは申し上げるまでもないことであります。  私は、ここでは時間の関係もありますので、緊急対策の幾つかについて意見を申し上げたいと思います。  その第一は、公共料金の一定期間のストップであります。赤字、黒字を問わず、一切の公共料金値上げをとめなければ、国民の信頼感を取り戻すことはできないのであります。政府物価対策を本気でやろうとしていることには受け取られない、こういう事情もありますから、この公共料金ストップの問題について、やはり態度を明らかにすることが必要だと思っております。  公益事業の経営問題は、さらに時間をかけて、そのあり方等を含めまして根本的な検討を加うべきだということを付言しておきます。  第二には、前の参考人の方もお触れになりましたが、土地の所有及び利用を大幅に規制すべきであるということです。この抜本的な土地政策の転換をやらなければ、日本物価水準は安定への展望を持つことはできないと思います。言うまでもなく土地政策の転換は、伝統的な経済のあり方から見ますれば、基本的な原理の変革でありますが、これなくしてはやはり展望を持ち得ないと思います。  このような根本的な政策の変革こそが緊急政策の意味を持つものでありまして、効果の少ないものは、緊急政策としての意味もまた少ないと思います。今日、国民の大多数は地価の上昇の被害者であります。国民のための物価安定策は、軍事基地あるいは法人所有土地、一定規模以上の大土地所有について、その所有と利用を物価安定の見地から規制すべきであると主張いたします。  第三は、大企業に対する規制の強化であります。すでに申し上げましたように、金融引き締めは一般的な引き締めではなくて、大企業過剰流動性を吸収するという性格を持たせるべきであろうと思います。したがいまして、七月以降の金融引き締めは、消費者金融中小企業金融、公害対策金融等々の優遇と大企業引き締めを何らかの手段で区別すべきだろうと私どもは主張いたします。  また、大企業のキャピタルゲインといいますか、土地なり株式の売買益、これに対する重税を課すべきであるという主張をいたします。これはまた、過剰流動性吸収の一つの手段でもあると思います。同様に、この際、法人税率を四〇%以上に引き上げるべきであります。さらに、投機買占め防止法の拡張適用と公正取引委員会の機能の抜本的な強化によって、たとえば一九三〇年代ですか、アメリカにあのキーフォーバー委員会がありましたが、これをこえるていの権限を持って主要企業価格ビヘービアを全面的かつ恒常的に調査すべきであると主張いたします。  最後に、所得政策について見解を述べておきたいと思うのですが、いま申し上げましたように、われわれは現在のインフレを利潤インフレと見ております。それなのに、物価安定を理由に利潤を押えず、賃金を押えようとする所得政策は、絶対に認められません。  田中総理の発言によれば、賃上げ分の半分を無税国債で支払うということがありましたが、このような考え方はナンセンスもはなはだしいのじゃないか。なぜかといいますと、過剰流動性は労働者側にではなく、企業や大土地所有者の側にあるからであります。それゆえ、最近の西ドイツの例を申し上げれば、安定国債は、労働者に買えとは言っていないのです。西ドイツの場合も、過剰流動性は銀行の手の届かない大企業の中にあり、それを凍結する目的で発行されたものだというふうにわれわれは聞いておるのであります。日銀は、こうした事情をよく調べて、もっと政府に直言すべきであると思います。  さらに、所得政策反対どころか、インフレの促進のもとでは低所得者層の所得保護こそが必要なのであります一本年の労働白書にも指摘しておりますように、昨年からのインフレによりまして、階層別の資産所得格差はたいへんに拡大をしております。その意味で、やはりインフレは反福祉的なのであります。したがいまして、福祉という視点からは、老齢年金は即時賃金スライド制を導入すべきであると主張いたします。これも年金制度の抜本的な改革でありますが、こういう基本的なものこそが緊急を要するのであります。同様に、生活保護基準なり失業対策事業関係労働者の賃金も、賃金にスライドさすべきであります。さらに、全産業一律最低賃金制を制定して未組織労働者の所得を保障すべきであると主張いたします。同時に、やはり勤労所得税の一兆円減税は、ぜひ低所得者を中心にして行なうべきである。  以上、若干の点について具体的意見を申し述べました。
  10. 山中吾郎

    山中委員長 ありがとうございました。  次に、天池参考人にお願いいたします。
  11. 天池清次

    天池参考人 物価問題は、国民の重要な関心事であります。しかし、その関心は、それぞれ立場が違っているわけでありまして、政策的な立場もあるでしょうし、あるいはみずから生活の犠牲を受ける、そういう立場もあるわけであります。われわれ労働者は、この物価上昇の犠牲を最もこうむる立場にある、こういう立場にあることを、まず皆さん方に御了承を願っておきたいと思います。  そして、現在の物価上昇の現象の中で特に土地の高騰あるいは建築費の高騰、こういうものが完全に現在の労働者のマイホームの夢を打ちくだいている。あるいはこれほど生活が困窮をし、物価は何とかならないかという非常に強い願望があるにかかわらず、いまの政治あるいは経済というものが、そういう労働者や国民的な願望というものに直接こたえるような、そういう状態になっていないというのが現実であります。これはまさに国民不在といいますか、そういうものに対するふんまんというものがかなり労働者の中にいま充満をしている、こういう点も非常に重要な点ではないかと思います。  それから、いま申し上げましたような立場でありますから、特にこの物価対策、もっと根本的にいえばインフレ対策をどうするかという点は、労働組合の立場からいたしましてもきわめて重要な問題であります。私ども同盟といたしましても、この問題のより抜本的な対策をどうするかということについて、現在鋭意検討を進めておる段階でございます。したがって、きょう申し上げますのは、従来断片的に物価問題について主張しておりましたものを羅列的に申し上げるということになるわけでございますので、その点は、あらかじめひとつ御承知おき願いたいと思います。  現在の物価上昇の原因は、もちろん単純なものではございません。私ども考えます第一の理由は、投機というものが非常に物価上昇せしめておる。この投機をもたらした原因は、言うまでもなく過剰流動性の問題であり、特に土地の高騰をもたらしたのは現在の田中内閣の不用意な日本列島改造論である、このように考えているわけであります。  過剰流動性の問題には二つの性格があるのではないかと思っております。一つは貿易の黒字、国際収支の黒字によって生ずる金融緩慢という現象、これはいわゆる金融引き締め政策によってある程度カバーをすることができるのではないかと思いますが、もう一つの性格は、現在日本の製造業の中においても、いわゆる流動資産の中に占めます有価証券あるいは投資に回しておる部分が非常に増大をしているということで、これは日本経済の成長の度合い、物価上昇の度合い、そういうものに比べて、はるかに資産構成の中でウエートを占めているということであります。このことはやはり過剰流動性の恒久的な様相を持つものではないか。アメリカの短期流動資産が二千六百億ドルあるとかいわれておりますけれども、こういう流動性を持つものが、要するに国境を問わず高い利潤を求めてさまよい歩く。そういうものと同じような本質を持つ可能性がこの恒久的な過剰流動性を形づくっている。そういうものの中から生ずる危険性というものを、私は大いに皆さん方に関心を持っていただきたいと思います。     〔委員長退席、井岡委員長代理着席〕  それから第二は、寡占価格の問題であろうと思います。不況のときに不況カルテルが行なわれる、そういう不況カルテルの中に物価上昇が行なわれる。つまり不況カルテルの温存という問題が、非常に寡占価格というものを重要な問題にせしめているのではないかと思います。また、現在の経済における寡占的な行為というものがかなり普遍化してまいりまして、安易に価格引き上げる、また引き上げ価格は容易に下がらない、こういうムードをつくり出しているのではないかと思います。私は、物価上昇の中に便乗値上げというものは非常に重要な問題だと思うのでありますけれども、このようなムードがやはり便乗値上げをさらに誘発せしめているのではないだろうか、このように考えます。  それから第三の問題は、当面の問題からいえば部分的な需給の不均衡であります。国内的には公共投資拡大、それに伴う建設資材の不足でありますとか、あるいは生鮮食料品の需給の不均衡の問題でありますとか、そういう点が現在の物価を著しく押し上げておる。     〔井岡委員長代理退席、委員長着席〕 また、国際的にも一時的な構造的な問題もありますけれども、農産物の不足に伴う構造的な問題というものはきわめて重要なものがあるのではないか。こういうような部分的ないしは構造的な国際的に見る不均衡の問題、こういう点が非常に物価上昇の大きな原因をなしておる。  第四番目が輸入インフレの問題でありまして、これは皆さん方から指摘されたとおりであります。このような点が、このほかにもあると思いますけれども、現在の物価上昇の非常に大きな原因をなしているのではないか、かように考えます。  それから、いまの物価上昇については、はたしてコストインフレであるかどうかという問題がございますが、最近一連の急速な物価上昇の事情をごらんになればわかりますように、ことしは賃金上昇も、非常に大幅な上昇をいたしました。平均で一万五千円、二〇%程度の上昇を遂げたのでありますけれども、しかし物価は、明らかに先行的に行なわれている。昨年の秋ごろから各種物価卸売物価にしても消費者物価にしても、かなり上昇の気配がきわめて顕著でございますから、その賃金上昇との因果関係につきましては、そのように私どもは理解をいたしております。現在の日本経済の中で賃金問題というのは、これからもかなり重要になることと思いますが、現在の状況はコストインフレではない、かように判断をいたします。  また、大幅賃金値上げという問題は、今後もかなり継続をする可能性が十分にある。それはそれなりの背景があるわけであります。一つは、いまの問題になっております消費者物価上昇、それによる生活の圧迫といろ問題があり、第二に、労働力の需給関係というものが、現在でもなおかつ求人倍率が非常に高い。わが国の賃金構造からいいますならばいわゆる年功序列型賃金でありますが、労働力の需給関係は特に若年労働力において逼迫をいたしておりますから、初任給がどうしても急速に高まる。こういうような影響もあずかって大きな力になっているのであります。  それから、今後の日本経済の成長率が、ことしあたりは非常に高いことが予想されるわけでありますけれども、もっと安定的な成長というものを私どもの立場でも考えておりますが、それにしても現在の労働分配率というものは、諸外国に比べて非常に低い。これは今後の貿易関係などでも非常に重要な問題をかもし出すのでありますし、また労働者の立場から正当な分配を要求していく上でも重要な関心を持っているわけであります。  ことし、私ども同盟の立場からの賃金要求は、この分配率の拡大を急速に高めるということを重要な目標にいたしました。現在日本の労働分配率は三二・二%ですか、それに対してアメリカあたりは四六%、西独がたしか三九・二%程度ではなかったかと思いますけれども、そのように労働分配率が他の国と比べて非常に低いという問題は、今後われわれが賃金闘争をやっていく上に、やはり非常に重要な視点になるわけであります。  それから次の問題は、現在、やはり社会保障とかあるいは住宅政策というものが非常におくれておる。そういうものをどうカバーしていくかということになりますと、賃金をできるだけ上げて、そして自分でみずから身を守るという方向をいま捨てるわけにはいかないわけでありますから、そういうような環境、背景というものは、大幅賃上げというものを今後さらにわれわれが行なっていかなければならない背景である、かように考えます。大幅賃上げというのは、いま申し上げましたような物価の問題がやや平静化する、あるいは社会保障などという問題がより充実をしてくる、こういうことになれば、賃上げの率というものも安定的な方向に向かう、これはきわめて当然なことであろうと思うのであります。  以上、コストプッシュの問題、あるいはわれわれが考えております大幅賃上げを今後継続する場合の背景の問題について申し上げました。  それで、われわれの考えとしてどういうような対策をとっていくべきかということでありますが、まず注意すべき問題は、いまの物価対策で、個人消費の抑制ということを政府の政策の中でも非常に重点にしておられるようであります。確かに個人消費は大幅に伸びているわけでありますが、大幅に伸びておる理由があるわけでありまして、その根本的な理由を解決せずに個人消費を抑制しようとしても、なかなかできるものではありません。理由とは何か。現在のインフレがどんどん高進をしていく、早く買っておかないと損をするぞというようなムードが、いま非常に大きく漂っているということであります。こういう状態を放置しておいて、何か個人消費の増大がインフレの根本であるというような見解であるといたしますならば、それはまさに本末転倒のことではないか。  それから、この対策に総需要引き締めるという政策をかなり提唱されているわけであります。われわれも、ある程度公共投資の一時的な繰り延べなど需要抑制をすべき必要性を、全然認めないわけではありません。しかし、いまの状態で総需要というものを強力に引き締めた場合には、わが国の場合でも若干経験があるのでありますけれども、不況になったら物価は下がるかというと、いわゆるスタグフレーションという現象がかなり顕著にあらわれてくるのではないか。それを越えてまで極端な引き締めというものがはたしてできるのかどうか。そういうことを考えてみると、総需要抑制の政策というものはある程度限度のある問題という認識の上に立って、対策を樹立する必要があるのではないか。  それからもう一つ、また別の面で、これはやや政治論にわたるようなものでありますけれども、先ほど国民不在、労働者不在の政治経済の状態だという国民の認識があると申し上げましたが、それに関連をして、いまの政治経済体制に対する不信というものをどのように取り戻すかという心がまえを強力に固める必要があるのではないか。これは非常にむずかしい問題だと思うのでありますけれども、この信頼がなければなかなかその政策の遂行の効果というものも期待できないわけで、私は、いま国民が重要な関心を持っておるものを  一つ一つ大胆にやっていくという中から、こういう信頼関係を取り戻すことが可能になるのではなかろうか、かように考えます。  それから、いまの物価対策を進めていく場合に、いずれにしても現在の自由主義経済体制というものに対して、より大幅な公共的な規制というものがどうしても必要になってくるのではないか。私は、現在の経済体制が純粋な自由主義経済とは思っておりません。ある程度混合体制的な要素を多分に含んだものだと思っておりますが、しかし、より大幅に大胆に公共的な規制というものを行なうという考え方がなければ、いまの物価というもののいわゆる抜本的な対策といわれるようなものはなかなかできがたいのではなかろうか、かように思います。  それからもう一つは、いわゆる広い意味における国際協力の問題でありまして、世界的なインフレの状態、また日本が貿易立国で生きていかなければならないという立場からいえば、国際協力こそ非常に重要であるし、そういう国際的な視野から物価をどのように安定していくかという協力が必要なのではなかろうか。  こういうような大きな心がまえやら前提の上に立ちまして、当面まず第一に、寡占価格の排除というものにもう少し力を入れていただきたい。これはどのような方法で行なうのか。独禁法の強化という問題もあるでありましょう。いまの陣容をもっと強化して行政に力を入れるという方法もあるでありましょう。いずれにしても寡占価格の排除というものが重要な対策一つになります。  それから、先ほど言及いたしました過剰流動性対策、これは吸収の度合いというものに注意をする必要がある。私は、金融政策のもっときめのこまかい点からいえば、使用についてのチェックをもう少しできないものかと思うのであります。投機に回るのか、生産に回るのか、金の色分けはできないという言いわけをよく聞くのでありますけれども、そんなことを言っていたのでは、正しい意味過剰流動性対策はできない。  第三に、地価対策の徹底という問題であります。この問題は、要するに私的利用権の大幅な制限というものを私は行なうべきではないかと思います。それからもう一つは、取引の制限というものを大胆に行なうべきではないか。この問題は、もちろん物価の元凶的な意味を持っているのみならず、いま日本の国で非常に問題になっております環境問題にも非常に重要な関係を持つものでありますから、そういう意味では大胆な地価対策が必要である。  四番目に、投機の排除というものを徹底して行なう。今度法律ができましたけれども、この運用がはたして十分なものであるかどうか。先ほど申し上げましたように、公共的な規制というものをもう少し大胆に行なうということでなければ、なかなかこの投機の排除というものはできがたいのではないかと思います。そういうような意味を含めて、投機の排除というものをひとつこの際積極的にやっていただきたい。  それから五番目に、公共料金の一時的な凍結が必要であります。もちろんこの問題は、恒久的に凍結をするということになりますと、より日本経済全体のあり方というものとの関係で考えなければならないわけで、現在の状態の上で考えてまいりますならば、一時的な凍結のあとには、国民が納得できるような物価対策というものが確立をされていかなければならないのではないかと思います。そういう強力な物価対策が確立するまでの間やはり凍結をしていくということは、いまの物価上昇のムードというものを一時鎮静せしめて、今後の投薬というものをかなり効果的にせしめるという役割りを果たすのではなかろうか、かように考えます。  先ほど申し上げましたように、羅列的に申し上げまして、体系的な話になっておりませんけれども、以上申し上げまして、同盟の意見といたしたいと思います。
  12. 山中吾郎

    山中委員長 これにて参考人からの御意見の開陳は終わりました。  それぞれの立場から貴重なる御意見をいただき、厚く御礼を申し上げます。     —————————————
  13. 山中吾郎

    山中委員長 それでは、これから引き続き若干の時間懇談に入ることにいたしたいと思います。      ————◇—————     〔午後二時五十一分懇談に入る〕     〔午後三時二十四分懇談を終わる〕      ————◇—————
  14. 山中吾郎

    山中委員長 これにて懇談は終わります。  本日は、参考人各位には、お忙しいところ長時間にわたり御出席をいただき、貴重な御意見をお述べくださいまして、まことにありがとうございました。ここに、委員会を代表して厚く御礼申し上げます。  本日は、これにて散会いたします。     午後三時二十五分散会