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中山参考人 中山でございます。
本日ここで申し上げますことは、先ほど
委員長から御指名がありましたように、
物価安定政策会議の
議長という資格が
中心のように思われますので、まず、そのような
意味で、何がいままで行なわれたかということからお話を申し上げたいと思います。
物価安定政策会議の前身になりますものは、御
承知のように第一次の
物価問題懇談会、第二次の
物価問題懇談会、それから次に
物価安定推進会議、この
三つの
過程を経まして、そして現在の
物価安定政策会議というのが、四十四年の五月に成立いたしまして今日に至っております。第一次
物価問題懇談会ができましたのは
昭和三十八年九月でございますから、現在の
物価安定政策会議まで、すでに十カ年を経ているわけでございます。
その間に、第一次の
物懇では十四回の
会議をいたしまして、三十八年十二月までに、当面の
物価対策についてという包括的な報告を行なっております。第二回の
物価問題懇談会は、四十一年の一月から同じ年の十二月まで一カ年間十七回の
会議をいたしまして、十一の
提案を行なっております。次の
物価安定推進会議といいますのは、
昭和四十二年二月から四十四年五月まで約二カ年続いたものでございますが、十一回の会合をいたしまして十一の
提案をしております。
現在の、四十四年五月に出発いたしました
物価安定政策会議は、今日までに約十件の
提案を行なっておりますが、これは
総合部会という全体の
会議のほかに、第一から第四までの
調査部会を持っております。そして、そのほかにさらに特別の
部会というのを持っておりまして、全部で五つの
部会をもって
運営されておりますが、第一
調査部会は
生鮮食料を
中心とする
部会、第二の
調査部会は特に
工業製品、寡占問題その他を取り扱う
部会、第三の
調査部会は
財政金融の
部会、第四の
部会は
国際部会という
名前で特に
輸入政策その他を取り上げております。それから最後に、
特別部会と申しますのは、たとえば最近の例では、酒でありますとか新聞でありますとか、そういう
値上げが発表されましたときには、即時にその当事者から事情を聞いて、できるならばその
値上げを延期してもらったり、あるいは
抑制してもらうということを
勧告している。もちろん権限は、特に法律的にはあるわけではございませんけれ
ども、そういう
会議を通じて
勧告をしているというような
部会でございます。
こういう
部会でそれぞれ
提案されました、あるいは審議されました事項をここで
一つ一つお話しするのは、非常にたくさんの時間を必要といたしますし、また皆さんの御
趣旨にも合わないと思いますので、それを省略いたしまして、全体で何をしたかということを大づかみに申し上げたいと思います。
三つのことがいろいろな
提案の中に含まれておるのでございますが、そのうちの第一は、一口に申しますと
生産性の
向上ということでございます。たとえば第一次の
物価問題懇談会で、
農業、
中小企業のような
生産性の
向上が急速にははかりがたいところ、そのところでできるだけひとつ
資金を豊富にし、それから技術的な開発を援助して、
値上げをしなくても
生産拡大ができるような、そういう
部門にこれをしっかり育てていただくようにという
勧告をしております。それから同じような時期に
都市交通、
国鉄などの問題に対しましても、これは
生産性向上という
名前ではございませんが、
合理化という
名前で同じような
趣旨の
勧告をしております。
それから、第二の大きな柱は
競争原理の貫徹ということでございまして、これは、たとえば再
販売価格のあの規定をもう一度洗い直しまして、そうして必要でないものにそういう
再販価格というような
独占価格を保障することはできるだけやめてもらいたい、それから特に
再販価格と結びついておりますリベートの非常な悪用については、それを避けるようにしてもらいたいというようなことを
勧告しておりますし、それから大
企業の
競争阻害要因というのをできるだけ防ぐようにしてほしい、同時に、その逆の面で
消費者行政を強力に行なってほしい、こういう
勧告をしております。それから、直接に
競争を
効果あらしめるための
流通過程の
合理化、たとえば
中央青果市場の改善というような形でたくさん問題がございますが、
流通過程を円滑にすることによって
競争の
効果が十分に出るようにしてもらいたい、こういうことを
勧告しております。これが第二の大きな柱。
第三の柱は
財政と
金融でございまして、どういうことをいたしましても、やはり金がたくさん出過ぎるということになりますと、
物価騰貴を防ぐことはなかなかむずかしくなりますので、そのときどきの
景気状況に応じてではございますけれ
ども、
財政規模が
経済成長率を上回って大きくなるようなことはできるだけ避けてほしい、あるいは
金融の場合におきましても、できるだけ
過剰流動性が生じないような
配慮をしてほしいというようなことを、大きな柱として
勧告しております。
要するに、第一には、そもそも物を生産する場合の能率をあげるということ、これがやはり
経済的には
需要供給の法則からいきましても非常に重要なことでございますので、その点に焦点を当てる。第二には、せっかくそういうことができましても、
流通過程が十分に円滑に動かないようになっておりますと、その
効果が出ませんので、
効果の出るように
流通過程を、特に
日本の場合には整備する必要があるということ。第三には、そういうことをいたしましても、源泉になります
資金が不当に膨張することになりますと、どうも
物価騰貴を避けることができないという
意味で、できるだけそちらの
配慮をしていくということが第三の柱。こういうことで、ずっとこの仕事を続けてまいりました。
私は、今日でも、ただいま申し上げました
三つの柱の
意味というものは、そのまま存在しておるのでございまして、根本的には少しも変わっていないと思います。ただ、この十年の間にいろいろな
変化がございまして、その
変化の中の最も大きなものを申し上げますと、
一つは、だんだんに
物価を安定する、あるいは
物価騰貴を
抑制するための必要度というのが増加してきた、
緊急度がだんだんに増加してきたということ。
これは、この十年間のいろいろな
勧告をずっと並べて見ておりますと、
最初の間には、
農業とか
中小企業とか、そういう
生活物資の中に入ってくるものの
生産性を上げることが大切だということを言っておるのでございますけれ
ども、やがてだんだんそれを言わなくなってしまった。言わなくなったというのはことばが非常に悪いのでございますけれ
ども、間に合わなくなった。重要には違いないけれ
どももっと緊急なものがだんだん出てきたということで、そういう
基本対策というのが残念ながらだんだん
あとのほうにいって、緊急やむを得ない
対策が目の前に出てくるということになりました。そのきっかけをつくりましたのが、私は
土地価格の問題であると思うのでございます。これが出てまいりますと、目の前の最も大きな問題が土地問題ということになりますと、どうも落ちついて基本的な
農業や
中小企業の
生産性向上をはかっているということが、何かこう手ぬるいような感じが出てきたということ。したがいまして、そこから出てまいりますいろいろな
要求の中で特に今日の問題との関連で重要に思われますことは、
公共料金をはじめ大
企業料金その他を
ストップせよという
要求が出てくるわけでございます。
今日、そういう
公共料金につきましての同じような議論が出ておることを私も
承知しておるのでございますけれ
ども、実はこれが出てまいりましたのは、十年ではございませんけれ
ども、八年ぐらい前を振り返りますと、同じような
状況が出ております。
昭和四十二年の一月に、
佐藤内閣のもとで第一回の大きな
選挙があったのでございますが、そのときの
スローガンというのをずっと振り返って調べてみますと、まず第一に主婦連が、
佐藤総理に対して、諸
物価一年間
ストップという
要求を突きつけております。それから社会党は、
公共料金の
値上げ阻止、
独占価格の
引き下げという
スローガンを
選挙のときに使っておられます。それから民社党は、一年間
公共料金ストップ、こういう
要求を掲げておられます。共産党は、
独占価格と
公共料金引き下げという同じような
スローガンでございますが、これを掲げておられます。公明党は、
管理価格の
引き下げと
公共料金引き上げ反対、こういう二つの
スローガンを掲げておられます。
これは
昭和四十一年でございますから、いまを去ること七年前なんでございますけれ
ども、同じような
要求が出ているということは、実は三十八年ごろからスタートしたこういう
物価安定の
会議におきまして、だんだん
緊急度というのがそういうところに集中してきている、つまり
物価騰貴の勢いというのが非常に急速に進んでいるということを証明しているのではないかと思うのでございます。
ついででございますけれ
ども、そのときの
政府のほうの
お答えというのが、今日とは少し違うのでございますけれ
ども、よく似ておるのでございます。
政府の
物価対策という中に、第一は、
消費者米価は当分据え置く。それから第二は、
国鉄、たばこ、
電信電話は四十二年度中
料金を
引き上げない。これはちょっと今日とは違っておりますけれ
ども、大体同じような
趣旨でございましょう。それから第三に、
公共料金を、いきなり
ストップすることはできないけれ
ども、経営の
合理化と
低利資金の貸し付けによって、原則として四十二年中は
引き上げないつもりである、こういう
お答えをされております。
この
状況をあわせて申し上げますのは、決して私が政治的な問題に関心を持っているのではございませんので、
物価問題としてこのような
緊急事態に属するような
提案のしかたが、すでに七年前に起こっているということを申し上げたいためでございます。
それで、そういうような形で
物価安定に対する
緊急度が強くなってきたということが
一つの特徴でございますが、第二のもう
一つの大きな特徴は、国際関係というほうで非常な
変化が起こったということでございます。
この国際
情勢における
変化は、簡単に申しますと、ドルの基本的な力というのがだんだんにあぶなくなってきたということ。これはもうここ数年来、いろんな
事態を重ねて今日まで来たのでございますけれ
ども、ニクソン・ショックに至るまでにすでにたびたびそのような危機を繰り返して、だんだんにドルの体制が弱まってきた。そのことが、具体的に申しますと、
アメリカの赤字をドルでまかなってそれを世界に振りまいたということなのでございまして、これは非常に簡単な表現でございますが、要するに、
アメリカの赤字を補給するためのドルで世界がインフレになったというような言い方をしても、私はそんなに間違いではないのじゃないかと思うのでございます。
とにかく世界じゅうがインフレになった、こういう
事態は非常に珍しいのでございまして、もちろん大きなインフレーションをわれわれは近代、つまり二十世紀の中で経験をしておるのでございますけれ
ども、第一次大戦の
あとの大インフレーションでも、あるいは第二次大戦の後の
日本のインフレーションでも、実はみな局地的なものでございます。一国あるいは一地域の問題であって、世界じゅうがくつわを並べてインフレーションに入っている状態というのは非常に珍しいのじゃないかという気がするのでございますが、不幸にして、IMFを支持しておりましたドル体制というものが、内容的にそのように
変化してまいりました結果、世界の先進諸国がくつわを並べてインフレの中で生活をするということになったのでございます。
しかし、別に悪いことがないということも言えるかもしれません。インフレの中で成長しているのです。成長の割合というのは、実質面に直しましても、つまりインフレのこういう上積みをとって勘定しましても、正確にはできませんけれ
ども、大ざっぱな計算では、戦前の成長率の倍ぐらいの成長率が、戦後にはどの国にも出ておるのでございます。そういう成長率のほうを考えますと、インフレはむしろ付加的なもののように見えるのでありますけれ
ども、しかし、現にインフレの中でどの国も成長をしているということ、
日本もそのとおりなんでございます。
そういう世界インフレの中にわれわれがいるということ自体が、これが第一には、
輸入をずいぶんたくさんしても——普通ならば、そういう
物資の
輸入の
効果というのは
物価の
引き下げに非常に大きな役割りをするはずなんでございます。ところが、
輸入する
物資の値段がその外国で上がっておるものでございますから、せっかく
輸入の量を多くいたしましても、あまり
消費者物価の
引き下げには
効果をあらわさないというような妙な
事態が起こってまいりました。これが
一つ非常に困った
事態なのでございます。
第二には、これはまた今日の政策に非常に
影響があると思うのでございますけれ
ども、インフレの中で成長している同じような国の中で、
日本だけがインフレをとめて多少の不
景気を覚悟するということが非常にむずかしくなった。ほかの国は安定しておりまして、
日本だけがインフレで困っているというような状態の場合には、よその国はちゃんとしているではないかということを言いますと、
日本のいままでの例では、それはたいへんだというので、わりあいに早くインフレ
対策というのが実ることになるはずなんでございますけれ
ども、不幸にしてよその国もインフレの中で成長している、
日本もそうかもしれないけれ
ども、なぜ
日本だけが一番先に不
景気をしょってこの問題を処置しなければならないか、ここに非常な迷いがあるわけであります。
これは非常に問題を簡単にして申し上げておりますので、同じ不
景気といいましても、リセッション程度のものもございますれば、その他の大きな問題もございますので、一括しては申し上げられませんけれ
ども、とにかくどっかで先にそういう見本をつくっていただくと一番都合がいいのでありますけれ
ども、見本がありませんと、
日本だけがなぜ先がけて不
景気にならざるを得ないか、不
景気を覚悟しなければならないか、インフレもきらいなんですけれ
ども、国民全体として不
景気もきらいなんで、どちらが一体大切かということを判断することが実は非常にむずかしい。そのことが私は、大蔵省にせよ、あるいはそのもっともとにあります
政府全体にせよ、あるいは
金融政策を担当されている
日本銀行にせよ、そういう政策機関が具体的な政策をおとりになる場合に、最も判断に苦しまれている点ではなかろうかと思うのであります。もしもそのような苦闘が、何といいますか、そのために政策の時期を誤るというようなことがあったといたしますれば、それは私は、
日本の直面している非常に不幸な困難な状態だと申し上げるほかにはないのでございます。これが第二の大きな
変化。
つまり、いままで
物懇以来十年間やってまいりました
物価安定政策の柱をずっと考えてまいりますと、いつの間にか
緊急度が、目の前の緊急の問題にだんだん移っていったということ、そういうことを助長して、しかも思い切ったインフレ
対策がとれなかった
一つの大きな理由は、世界じゅうがインフレの中で成長しているという事実、この二つにあるのではないかと思うのでございます。
それでは、一体いまどうしたらいいのか、これが最後の第四番目の問題になるわけでございますが、私は、やはりどうも個別的
物価対策、たとえば米をどうするかとか、運賃をどうするかとか、牛乳をどうするかとか、酒をどうするかとかいうような個別的
物価対策は非常に重要でございますけれ
ども、残念ながらいまの状態というのは、個別的
物価対策よりももっと根本的な
対策をとらざるを得ないところにいっているのではなかろうか。もし、個別的
物価対策の中で最も重要なものは何かといわれますれば、むろん土地問題でございますけれ
ども、私は土地に関しては、この
勧告の中にもうたっておりますけれ
ども、単に公有地を増加するとか、あるいは土地に付随して起こりましたそういう利益の還元というような問題のほかに、もう少し、現在すでに考えられております土地
対策を強力に推進することが必要ではないかと思うのでございますが、それを除いてと申しますか、それを一方に置いて考えますと、いまの
物価対策というのはどうしてももっと一般的な、通貨、
財政、そういう政策に向かわざるを得ないのではなかろうか。
先ほど総裁は、総
需要対策というのが当面の一番大きな問題であるということをおっしゃいましたが、確かに現在の
日本が直面しておりますインフレギャップというものを押えていきますためには、やはり総
需要が完全雇用にちょうど当たる所得水準を越えている部分を何とかして押えていくという
対策をとらざるを得ない。もっとも、完全雇用に対応する所得水準というのがはっきりきまっておればいいのでございますけれ
ども、これは理論的にも実際的にも、そう簡単にはきまらない。したがって、その間にいろいろな迷いもあるわけでございますけれ
ども、いずれにしても長年の経験で、この辺までいったら総
需要のほうが、最も基本的な完全雇用に対応する所得水準、これはまあ一番実質的に伸びられる水準の最高のものですけれ
ども、それを越えているか越えていないかという判断は、いろいろな民間の投資
状況、あるいは在庫投資の
動き方、あるいは
日本の
財政のあり方、あるいは外国貿易における黒字の消長、そういうところで大体わかるものでございますから、その
意味から申しますと、私は、現在の
日本の
物価情勢というのは依然として大きな超過
需要、総
需要の過大というところにあるのじゃないかと思いますので、その点については、やはり大きな決断を持って
引き締め的な政策を行なわなければなるまいと思っております。
一番心配されておりますことは、これがこのごろよくいわれますようにオーバーキル、つまり
景気を冷やし過ぎるのではないかということなんでございますが、その判断というのは、これはやってみなければ、どの辺がオーバーキルになるかということはわからないのでありまして、私は、それをおそれて何もしないということでは、今日の
物価騰勢というのはなかなかおさまらないということになるのではないかと思うのであります。
それと同時に、また先ほどの問題に返るようでございますが、
公共料金以下の、そういう
政府の関与する力の範囲内の
物価を即時
ストップせよという
要求をどう考えるかという問題でございますが、私は正直に申しまして、そういう時期が来ないことを望みたいのであります。と申しますのは、
公共料金オール
ストップという考え方は、これはぎりぎりのところなんでありまして、ですから問題は、現在の
物価情勢というのをそういうぎりぎりのところと考えるか、それともなおかつ若干の余裕がある——余裕というと悪いのでありますけれ
ども、なおそこまでいかなくても、総合
対策でもって乗り切ることができる状態にあるかどうかという、判断の相違になるわけであります。
実は、
公共料金の一部の
ストップにつきましては、
物懇の時代に
政府にわれわれが
勧告をいたしたことがございまして、そして事実それが行なわれました。行なわれましたが、その結果は必ずしもよくなかったのであります。その翌年に、押えた
公共料金が倍以上に上がったということはないのでございますけれ
ども、それにしても、翌年には必ず
公共料金の
値上げを認めざるを得なかった。そういうことを繰り返しております間に、
公共料金ストップというものは、もしそれだけでもって安心してしまって、それ以外の、先ほど申し上げましたような三本の柱というようなものがほんとうに実行されません場合には、実は
効果が逆になる。つまりサービスの低下というようなことになる危険もあるのであります。
そういうことを考えますと、簡単に申しますと、これは最後の手段ではないか。いま最後の手段を使うときになっているのか、それともそこまでいかなくても何かできるのかというところで、一番基本的な問題の悩みがあるのではないかと思うのでございますけれ
ども、そういうどちらの道かを考える場合に、私は、オーバーキルをおそれないで思い切った
財政金融政策をとっていただきたい。そうした後に初めてどちらかという選択が正式にできるのではないだろうか。もし、それも何にもしないで、まだ将来
物価はたぶん安定するだろうというようなことでおりますれば、不幸なことでございますけれ
ども、
公共料金ストップというようなそういうラジカルな、そしてせっぱ詰まった政策が唯一の政策にならないとも限らない。そして、それは必ずしも成功の可能性があるとは私は考えないのでございます。
これだけを申し上げまして、終わります。