○
森谷参考人 初めにお断わりしておきますけれ
ども、特に、日光の自然を守る会としまして、私
たちは一党一派に偏せず、自然保護についてでしたら、たとえば自民党でも、社会党でも、共産党でも、公明党でも、民社党でも、何党にでも出かけていってお話をして手伝いをしていただくという
立場をとっておりますので、その点あらかじめはっきりさせておきます。
それで、先ほどひものついた封筒に資料をお配りしておきましたけれ
ども、ここに一番最初に要点を書いてありますから、それに従って申し述べていきます。
まず第一番目ですが、諸外国と日本の自然保護についての考え方が非常にかけ離れている点についてあらためて
認識していただきたいと思います。というのは、(1)に書いてありますように、ハワイなんかで、戦争中かと思いますが、防空監視所をつくろうとしたところが、
自然保護団体の反対にあいまして引っ込めたという例もあります。英国でも同じような例があります。特にまだ耳新しいことは、その下の段にありますように、オリンピックよりも自然保護だ。去年の秋のころですが、これは資料1の新聞のプリントがそこにありますけれ
ども、コロラド州のデンバー市民、税金の
むだ使いと自然保護という
立場で冬季オリンピックを返上したということですね。それに引きかえて日本の場合どうでしょうか。去年は、たった二日間の競技のために六億三千万円をかけてコースと施設をつくりました。そして、破壊した
森林を復旧するために一億六千八百万円を計上しております。ところが、去年の春の
段階でそのうち何をやったかといいますと、スタートハウスを撤去しただけである。この点については、私は朝日新聞の「声」欄に投書しまして環境庁の返答を聞こうと思ったのですが、新聞の投書は出ましたけれ
ども、環境庁の返答はいまだにいただいておりません。スタートハウスを撤去してその後何をやったか、さっぱり聞いておりません。こういう
状態ですね。自然保護あるいは
森林保護という
立場はまるっきり欧米人と違う。はなはだ残念に思うのです。
二番目としまして、開発途上国の自然保護です。文明の程度は日本よりはるかに低い——と言ってはおこられるかもしれませんけれ
ども、たとえばアフリカのある国の大臣が日光に来まして、そのときに栃木県の観光課長、現在の観光課長ですが、案内したそうです。これは去年だと思います。そうしたところが、一体この日光
国立公園にどういう動物が何頭いるかということを聞かれたそうです。全然答えることができないで非常に恥ずかしい思いをしたということをじかに観光課長からお聞きしております。
それから、先週じゅうずっとNHKで夜の七時半から「アジアの自然」というのを放送しておりまして、インド、それからスリランカ——セイロンですね、それからジャワの自然保護のフィルムをやっておりましたけれ
ども、ああいう開発途上国においてすら、
国立公園の研究あるいは保護ということにかけては日本よりもはるかに先進国ですね。セイロンなんというのは非常に狭い国でありますけれ
ども、完全に立ち入り禁止にしておるのですね。ところが、日本の
国立公園はどうでしょうか。先ほど述べたとおりで、日光地区でさえも、どの動物が何頭いるかすら全然わかっておりません。
それから三番目に、もう
一つ非常に残念に思いますのは、これは毎日の新聞をごらんになるとわかりますけれ
ども——中央新聞です。
国立公園地内にあるということを看板にしまして別荘地の売り出しが盛んに出ております。これは外国人が聞いたらほんとうにびっくりするに違いないですね。
国立公園というのは、自然を保護して、大事に——そういう別荘地の切り売りのための
国立公園ではないはずですからね。ですから、私は前から言っておるのですけれ
ども、どうしても買い上げを国で規制できないようなところでしたら、あるいは町中に近いようなところでしたら、これは
国立公園の中からいっそのことはずしてしまう。それから、どうしても必要なところであったらば、国で買い上げて国有地にして、絶対に切り売りをしないようにしてもらいたいということをこの際諸
先生方に訴えたいと思います。
それから大きな項目で二番目ですが、
森林破壊については先ほど
田村参考人からも話がありましたけれ
ども、主として山岳道路による
森林破壊、しかも
国立公園地内、あるいは国有林関係についてお話しますと、これは日光那須地区については、資料の2及び3に出ております。たとえば、資料2の赤マルでしるしをつけてあるところを開いていただきますと、これは日光市役所の公表してない文書をわれわれこっそり手に入れましてそれを複写したのですが、このとおり日光地区でもし自動車道路がつくられた場合にどうなるかということです。それを一体日光市長が考えているのかどうかですね。考えてないようです、これは開発組の市長ですから。
それからもう
一つは、資料3のほうにあります裏男体
林道です。これは二年ほど前から計画されておりまして、われわれがそのころから反対を始めたもので、いまだに表面に出てこないのです。県を通じて環境庁や
林野庁に、あるいは運輸省にも計画が出るらしいのですが、まだ県の
段階に出てきておりません。反対が相当早くから進んでいるもので、出しにくいらしいのです。
ここで特にわれわれが問題にしたいのは、男体山の東側千八百メートル近くを通りますから、これは当然亜高山帯でありまして、富士スバルラインで見るように、非常に
森林破壊がはなはだしくなります。それと同時に、この資料3の地図の、荒沢と書いてあるところのちょっと上、これは日光の清滝のすぐ裏です。ここはシカの越冬地でありまして、ことしの一月二十五日にNHKの総合テレビで、朝七時二十五分からだと思いましたけれ
ども、十五分間、ここのところを放送しました。ほんとうに野生
状態のシカで、
一つの画面で百頭余りの群れが日本で簡単に見られるところはここぐらいじゃないかと思います。農工大学の
先生たちがここで特にシカについて詳しくやっております。しかし、どれだけの面積に何頭のシカがいるか、それすらいまだにわかっておりません。私、営林署や、それから
林野庁に言っているのです。ひとつ、ここの日光地区のシカの越冬をせっかく農工大学の
先生方が調べているのですから、
国立公園のそういう動物の生息のモデル地区にしてくれないか、そういうふうに、アフリカの
国立公園の人に聞かれても恥ずかしくないような答えができるようにやってくれということを申し上げているのですが、いまだに実現しないのは非常に残念です。これもひとつこの
委員会に取り上げていただいて、そういうふうに開発途上国の
国立公園行政でさえも見習うべきところがたくさんあります、ぜひやっていただきたいのです。
それで、なぜ山岳道路をつくりたがるかと申しますと、まあ、あまりはっきり言いますと差しさわりがありますけれ
ども、大体県の道路公社でやっているのが多いのですね。ところが、道路公社の社長といいますか、一番親玉が知事さんが多いのですね。そして、国有林ですから買収費が要らないわけです。そういうところの道路をつくる名目としまして——私、これは栃木県の知事にもはっきり聞いています。老人や子供が楽に
国立公園を
利用できるようにということが
一つの名目になっています。これはとんでもない言いわけですね。去年八が岳に行きまして、五歳と七歳の兄弟が親子連れで登っているのを見ましたし、それから日本で二番目に高い北岳、ここでは去年の夏やはり八歳の坊やがおかあちゃんに連れられて登っているのを見ました。ことしは白馬岳で子供に会うたびに親に年を聞きましたけれ
ども、一番最低のが六歳です、女と男ですが。これはことし四人に会いました。白馬は非常に簡単に登れるようですけれ
ども、最後に会ったのは、登りですと小屋から小屋までの間六時間くらいかかるのです、そこを六歳の坊やが登っています。それから大雪湲を登っても、まあ早い人はかなり早く行きますけれ
ども、子供でしたら四時間はかかりますね、それですらちゃんと登っています。老人や子供に行けるようにというのは、これはもうほんとうに山を知らない人に対する言いわけにすぎないのですね。日本じゅうの山で、五歳程度の坊やでしたら行けないところはありません。
それから二番目が、過疎対策として山岳道路をつくるとよく言います。ところが、これも、たとえば福島県の会津の只見の黒谷というところまで私の家のところから百五十八キロあります。ことしの四月十八日に行きましたけれ
ども、百五十八キロ、いま車で五時間で行きます。ほとんど舗装道路になりました。以前ですとこれはたっぷり六時間かかりました。で、非常におもしろいことを聞きましたのは、黒谷の出身の人が福島につとめておりまして、車の籍を只見の町に置いてあるのだそうです。土曜、日曜になりますと、五時間くらいですから簡単に帰れるのです。なぜこの只見に車の籍を置いておくかといいますと、税金が安いのだそうです。冬の間、半分車が使えないので、ちょうど福島あたりとの税金の差が半分だそうです。そういうふうになりまして、過疎対策にならないのです。奥会津地方では、道路をよくしたためにどんどん若者がいなくなっている。いま申し上げたように土曜、日曜に若者が帰ればいいのですから。
それからもう
一つ、六月の下旬に
山形県の月山に行きましたけれ
ども——私は月山のふもとの生まれでして、十五歳になりますと月山に登ったものです。そのころは途中まで電車あるいはバスで行きまして、志津というところがありますが、そこまで乗りものに乗っていって、それから途中から歩いてまる一日でそこまで行って泊まったのです。ところ、この間行って驚いたのは、
山形から全部舗装道路になりまして、
山形から五十五キロですね、車で一時間半です。ですから、私の生まれたところからですと三十キロぐらいでしょうか、それが、まる一日かかって行ったところが、いまでは
山形まで車ですから、通勤距離ですね。
そうしてもう
一つそこで驚いたのは、旅館の前に鉄筋コンクリートの二階建ての分教場があるのです。ところが、学校の生徒が現在わずかに四人だそうです。そのうちの三人が
先生のお子さんだということを聞いて、これは道路をよくしても過疎対策にはならないということをつくづく
感じました。過疎対策だけについては、道路はかえって逆効果を来たしている。むしろ、何か産業を興すとか、若い人を落ちつかせるための別な対策を考えなくちゃいけないということをつくづく
感じております。
第三番目が、車の過密対策として、たとえばこれは日光あたりで市長がはっきり言っております。いま、第二いろは坂ができて登り専用になりましたけれ
ども、シーズンになりますと二万台上の車が来て非常に混雑する。それで第二いろは坂的なものを裏男体
林道を拡幅してやるんだということを言っています。
それから駐車場の駐車能力が、日光の場合、もう現在でシーズン中では手一ぱいですね。それで駐車場を兼ねて男体山の裏を通す道路が必要であるということを言っています。これも道路をつくるほうの側の言いわけにすぎないですね。
御
承知のように、東京でもそうですし、地方の都市でもそうですが、狭い道を舗装しますと、大通りからわざわざ裏通りを通るようになって、非常に
住民が迷惑しておりますが、山の場合に、迷惑するのは山そのもの、自然そのものなんです。悪いことに、日本人は自動車に乗ると人格が変わるんですね。それでシャクナゲを引っこ抜いてみたり、たばこの吸いがらは捨てる、ジュースのかんは捨てる、至るところ、そういう例はもう具体的にあげるまでもありません。ですから、どうしても必要な道路であれば、前の大石環境庁長官がおっしゃったように、高いところはトンネルにすべきだということを私ここで申し上げたいと思います。特に、半年間も雪に埋まって使えないような道路はつくるべきじゃない、トンネルにすべきであるということですね。
第三番目として、そのように山が混雑する、たとえば北岳の場合、去年は二泊しましたけれ
ども、頂上のすぐ下の二千九百メートルのところに小屋が二つあるのですが、私
たち泊まったところは、畳二枚分のところに六人寝かされました。それでも足らないので、土間にござ敷いて五人です。それが二晩続きました。北岳の場合に、バスの終点からわれわれの足で五時間かかるのです。ところが、そういうところでさえもそれほどの過密
状態ですね。八ガ岳の場合では、昔から、山小屋の山といわれているほど山小屋がたくさんあるのですけれ
ども、去年行って驚いたのは、コマクサの群生地として特別保護地域に指定をしておった根石岳というところの中に山小屋ができているのです。そしてそこの地域はコマクサが去年は一本もありません。ですから、これは自家用車だけではないですけれ
ども、自家用車をまず制限しなくちゃならないじゃないかということをつくづく
感じます。たとえば自家用車で一人ないし二人乗っていくのと、バスで五、六十人乗っていくのとじゃ、これはもう交通の便から考えても、駐車場の能率から考えても、はるかに違いますから、この点は、たとえばアメリカやカナダの
国立公園にならって、公園の入り口までは自家用車で行っても、それから先はバスで行って、それからあるところ以上はバスも入れないというように、早く海外の
国立公園にならってもらいたいということをわれわれは二年ほど前から
林野庁あるいは環境庁に訴えております。上高地なんかでもことしはそういう動きがあるようですね。一方通行にするとか、車の制限をするとか、これはぜひ考えていただかなくてはならない問題であります。
三番目、特にきょう皆さんに
お願いしたいのは、緊急に守らなければならない
森林として——ついこの間の朝日新聞の日曜版に屋久島がカラーで載っておりましたけれ
ども、屋久島は、御存じのとおり、最近、屋久杉を守る会なんかできておりまして、だいぶ取り上げられておりますけれ
ども、和歌山県東牟婁郡大塔山の一帯の大杉谷です。これは資料4にありますように、ことしの三月二十四日、朝日新聞の「声」欄に私、投書しました。
原生林と書きましたけれ
ども、これは、一般の人にわかりやすいように
原生林と書いたので、実は
原生林ではありませんで、天然林です。七十年ほど前に
伐採して炭焼きをやった形跡があるのですけれ
ども、非常に原生に近い
森林であります。
森林が非常に複雑である例としては、資料6で、千葉大学の沼田
先生が書いておられます。「知られていない山」として出ておりますが、この大杉谷は、尾根筋で海抜が七百から八百くらいのところなんです。ところが、
ブナの下にシャクナゲがあったり、この辺の関東地方あたりにある木の姿と非常に違った育ち方をしているのですね。一言で申しますと、四千ミリからの雨量のために、木がわれ先に上へ上へと伸びようと思って、関東地方ですとくねくねと曲がって伸びる木が、向こうでは一直線に二十メートルぐらい伸びる。そういう
森林ですね。沼田
先生もいっておられますように、温帯多雨林——熱帯多雨林に対して温帯多雨林と名づけたほうがいい。この沼田
先生の論文のおしまいの一六二ページにありますように、国有林なるがゆえに長く維持されてきたものが、最近は国有林なるがゆえに行政的見地から拡大
造林で
伐採されようとしております。
この温帯多雨林は、四国にも九州にもなく、わずかにこの和歌山県の南部にだけ残された林です。資料5にその場所が示してあります。大杉谷は大体三百ヘクタールですが、そのうちの二百何十ヘクタールは来年度から
伐採計画に入って、現場の人に聞きますと、この資料5の右側、赤いマルで大杉谷を囲ってありますが、ここに自動車道路がすでに入っておるそうです。この北に接する黒蔵谷のほうは大阪営林局で
伐採予定はないそうです。これが約三百ヘクタールです。この八月に
林野庁の指導部計画課長補佐に会いまして、これを残してくれということを言いましたのですが、大杉谷はあくまでも切る計画である、そのかわりに、下に横線で引っぱってあります「植林」と書いてあるところの東側に中小屋谷と書いてありますが、この沿線を約二百ヘクタール残すんだということを言っております。細長く残すのですね。これはあまり意味がないので、黒蔵谷と一緒に大杉谷をひっくるめて、広い面積、約八百ヘクタールですが、これを全部残すようにひとつ皆さんにぜひ働いていただきたいと思います。学術的に非常に貴重なところです。
林野庁なんかの話でも、屋久島の場合ですと、労務者が三千人ですか、それの失業対策的な意味もある。それから大杉谷の場合でも、
林野庁で課長補佐の方がはっきり言っていました。
地元の人が、働く場所を得るためにこれを
伐採さしてくれということを言ってきているそうですが、
地元の労務者対策で貴重な
森林を切るということは——石炭でも鉄でもそうですけれ
ども、炭鉱がなくなれば、労務者がそこにいなくなるのはあたりまえです。屋久島の場合には、いつかは屋久島の杉がなくなるんだから、労務者も、それがいま来てもしかたがないということをようやく納得しているそうです。大杉谷の場合でも、そういう目先の対策だけでなくて、国家百年の大計としてぜひ守っていただきたいと思います。
おしまいになりましたけれ
ども、ゴルフ場の問題です。これは資料7にあげてありますが、右上のほうですね。ゴルフ場は現在
全国で六百八十あるそうです。ことしの五月二十六、七日の
山形県羽黒山の
全国自然保護大会のときには、法政大学の
先生がゴルフ場について非常に詳しく調べてきまして、そのときの報告では六百八十一ということでした。栃木県の場合は、下の切り抜きのように、既設のゴルフ場が十五、現在六十三の新設事業が進んでおって、
全国一だそうです。そして、この切り抜きの下の段のまん中ごろですが、七月十日現在でゴルフ場用地は九千百二十ヘクタールで、県土の一・四二%に達するそうです。栃木県の方針としては、県土の一%まではしかたがないだろうという方針だったそうですけれ
ども、現在まで規制のしようがなかったんですね。それでどんどんふえているんです。
ところが、最近の様子としては、ゴルフ場はこれ以上ふやしてもだめじゃないかということを業者のほうでも感づいておるそうです。それはボーリングと同じように共倒れの傾向になってきているのです。県
当局、特に観光課の話を聞いてみますと、現在ゴルフ場である場合はまあまあなんですが、ゴルフ場が共倒れになった場合はどうなるかということですね。それと、先ほどの
全国自然保護大会での報告によりますと、ゴルフ場は一体自然かどうかということでだいぶ討論をやりましたのですが、自然ではないということです。先ほどの
田村参考人の話でも、ゴルフ場はいわゆる緑の砂漠ですね。そういう考えの方が多いようです。緑があっても、非常に短い緑ですから。これが草原ですと、酸素補給としては非常に重要なんですけれ
どもね。
森林の次に草原が大きいのですが、ゴルフ場の場合には草原までも至らないのです。ですから、ほんとうの自然ではない。現に
鉄砲水が至るところで報告されております。
そういうわけで、現在あるゴルフ場でもそういう災害の原因になっております。しかも部落に近いところでそういうことがたびたび起きております。それから湖、沼なんかも埋め立ててゴルフ場にしているところがありまして、問題になっております。そして、先ほど申しましたように、ゴルフ場のあと、工場になるか、住宅地になるか、栃木県の場合には特にその点で心配しているようです。
以上、簡単で、だいぶはしょりましたので、おわかりにくかったかと思いますが、要点だけお話ししておきます。
そのほかにたくさん自然保護についての印刷物がありますから、あとで、もしお手すきの方は読んでいただきたいと思います。
どうもありがとうございました。