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山中国務大臣 これは私もあの教書を見て、ずいぶんはっきりものを言うものだな——率直に言って表現はまずいと思うのですよ。われわれは端的に言えばどうかつみたいな表現にも受け取れますし、あるいはまた、少なくとも相当な決意を示したのだというふうに、いい
意味で表現もできるでしょう。
ただこれを、
日本に向かって言ったのではなくて、教書として場合によっては
世界に向けて姿勢を述べたのであるということに私は着目しました。これは私が考えていることですが、
防衛問題というものはすでに外交、経済あらゆる分野にからんできつつあるというふうに、
日本の立場からいえるのではないかと思います。また
アメリカとしては、逆に経済の問題が窮迫をして、そして先般行なわれましたヨーロッパにおける、私どもからいえば共同謀議みたいな通貨の合議が行なわれたときに、
アメリカはすっ飛んで行きました。そのときに
日本は呼ばれなかった。しかし
アメリカはおそらくドルのたれ流しや威信の低下というものの大きな要因の
一つに、一番直近な例をとれば、
日本との間に四十二億ドルの赤字があるのだというようなことも言っているに違いありません。
こういうようなことを背景として考えますと、それらを踏まえてからませる意図ではなくとも、
アメリカ自身がからまざるを得ないような環境があって、しかもそれを全
世界の人々に見られ、あるいは全
世界に大統領の決意を述べたと思われてもしかたのない、オープンな文書の中にそれを載せてもいい
世界的な環境が、
日本を除いてできつつあるのではないかという気が私はいたします。
そういうことを考えますと、
アメリカ側においては、そう強い意見ではありませんが、日米安保条約というものは、
アメリカが
日本にのみ一方的な義務を負い、
日本は
アメリカに対して負う義務があまりにも少ないということに対する不満がぶつぶつくすぶっていたことは御
承知のとおりでございますけれども、そろそろそれがマンスフィールド上院議員あたりの口では表に出てきましたし、それらのこともあって、
日本に対して従来の安保体制というものに対して何か
考え方を変えてくることがあり得るのではないかという予測も、私たちとしては一応立てておかなければなりませんが、具体的にはそのような動きは全くない。むしろその後あらわれましたエバリー
代表等を中心とする経済
会議等において表明せられた、あるいはインガソル駐日大使等のその後の講演内容等において顕著な変化の見られたことは、
日本の
アメリカに対する貿易の、
日本側からいうならば黒字が、昨年の四十二億ドルに比べて異常な低下を示しつつあり、その
傾向は今後も顕著な改善となって、
アメリカのためには好ましい
傾向として進みつつある。このことを踏まえて、その後の論調はきわめて両国間においてトーンダウンしている、穏やかになっているということが、私はまた一方において言えると思います。現実にも、あるいはまた形式の上でも、それらのことが
日本に対して具体的に、両国の安保体制について言及されていたあと、接触、あるいはまた呼びかけ、
検討、そういうものは全くありません。むしろ
アメリカは、第二の点としてあげられましたように、
アメリカのベトナム戦以後の中華人民共和国及び
ソ連邦というものと、考えられなかった改善が持たれましたために、軍事的には、第二次大戦以降できわめて明白であった
東西の冷戦という両極の問題から、多極化された構造の中に極東も据えて考えつつあるに違いない。
また一方において、
アメリカ国民の意思あるいは納税者の意思、あるいは上院等において、ベトナム、カンボジア等の経費についての議論に見られますように、
アメリカ自身の軍事費というものに対する自動制御と申しますか、相当なうしろ向きの国民の要望にこたえるような
政策を出さざるを得ないところに
アメリカは来ているのではないか。
そう考えますと、その両面、すなわち納税者の負担、議会のそれを反映した声、そういうものにだんだんこたえていく体制を
アメリカはとることになるだろう。関東周辺の基地の集約化もその端的なあらわれの
一つと言ってもいいかと思いますし、また、今後沖繩の基地について積極的に
努力をしたいと思いますが、それに対応する
アメリカ側の柔軟な現時点における姿勢から見ても、やはり新しい質的なものが
アメリカ自身も要請されているのではないか。しかし、本来の日米安保の持つべき
機能というものがそこなわれるようなことは、少なくとも
アメリカも考えていませんし、
日本も予想しなくてもいい状態にあることは間違いないと考えます。