○大出委員 これは基本問題ですから、意見が小坂さんと違っても、はっきりさせておきたいのです。物価上昇の理論的に
考えて根本ですから申し上げたい。
昭和三十六年以後十年間で、ほとんど五ないし六%物価が上がってきているわけですね。これは三十五年以前を調べてみますとおおむね横ばい。落ち込んでいるときもある。だからこの十年間、五ないし六%上がり続けた。だから
国民の側からすれば、三十五年の一万円というのは五千円に満たない、こういう認識を持つのはあたりまえであります。
そこで、なぜ一体こういうことになるかという基本です。つまり、
日本の
企業の自己資金と借り入れ資金の
比率、ここらあたりに非常に大きな根本的な
原因が
一つある。簡単に公定歩合を変えないとおっしゃるけれども、一次、二次、三次、四次、五次、六次と、六次までやったのだから、簡単に変えたじゃないですか。一次から始まって六回やった。六次のときは、預金金利まで、五分七厘五毛の一年定期の、一般の
国民の貯金をする貯金金利まで、五七五を五二五に下げた。そういうことまでやって動かした。これはやはり
日本の
企業の一番基本的なところから出てくる
政策なんですから、そこに問題がある。
そこで、大蔵省などもおいでになるので、少し承りたいのですが、四十六年は六・一%
消費者物価は上がっているはずであります。まだ七年度の問題がいじれるところまで資料がそろっておりません。だから、四十六年度を
基準に申し上げておきたいのでありますが、そのときに
日本の
企業の総資本額がどのくらいあって、その中身の自己資本
比率と負債の
比率がどのくらいになっているかおわかりでございますか。——時間がおそくなって恐縮でございますから、私のほうで申し上げます。これは私が大蔵省その他で調べたのですから間違いありませんが、
昭和四十六年の
日本の
企業の資本の総額が百六十五兆五千六百八十億円、このうちで自己資本二十六兆一千三百四十億円、借り入れ金、つまり負債が百三十九兆四千三百四十億円。だから、これを
比率に直しますと、百六十五兆五千六百八十億円なる総資本額を一〇〇とすると、自己資本の二十六兆一千三百四十億円は、その二五・八%に当たります。借り入れ資本の百三十九兆四千三百四十億円は七四・二%に当たります。つまり自己資本二五・八%、借り入れ金七四・二%という
比率になる。これを諸外国と比較をいたしますと、資本構成の国際比較という統計がございますが、これによりますと、イギリスで自己資本が四五・一%、借り入れ資本が五四・九%、
アメリカで自己資本が六一・九%、借り入れ資本が三八・一%、西ドイツで自己資本が七八・七%、借り入れ資本がわずかに二一・三%です。
日本は自己資本が二五・八%、借り入れ資本が七四・二%、全く西ドイツあたりとは逆です。そうすると、この借金
政策、つまり大型自転車操業を
日本の
企業はやっていることになる。借金をこれだけかかえておりますと、何とかしなければならぬことになる。ここに
日本経済の基本的な問題の
一つが存在する。
そこでもう
一つ、これも大蔵省ですが、四十七年三月末の
国民の貯金総額、よく貯蓄をする
国民といわれる
日本人の貯蓄総額を調べてみましたら、総計五十八兆五千億ございます。内訳は、銀行に二十九兆四千億円、郵便局に九兆五千億円、生命保険に六兆二千億円。農協さまには驚いたのですが、農協が何と十三兆四千億円も持っている。昔何とやらいま農協というのも無理もないと思うのですけれども。端数整理をいたしますと五十八兆五千億円になります。これが
国民の貯蓄総額であります。それで四十六年一年間の
消費者物価上昇が六・一%だとすると、五十八兆五千億円の
国民の貯蓄総額、この金は六・一%減価したことになる、よけい出さなければ買えないのだから。そうすると、五十八兆五千億円の六・一%というのは三兆五千六百八十億円になります。一億の
国民で割りますと、一年間一人当たり三万五千円ばかり、正式にいえば三万五千六百八十円貯蓄が減価した、価値が下がった。逆に損をしたことになる、よけい出さなければ買えないのだから。
数字は正直です。
ところが、五十八兆五千億円からどの
程度大きな
企業に貸し出されているか、これを調べてみましたが、五十八兆五千億円の
国民総貯金額から三十五兆円の金が
企業に貸し出されている。つまり三十五兆円、
企業の借金です。そうすると、三十五兆円は
企業の借金ですけれども、これは自己資本
比率が少ないから貸りているのはあたりまえでありますが、借金は金でございますだけに、これも六・一%減価したことになる。そうすると、三十五兆円の借金の六・一%は二兆一千億円ですから、
企業の借金は二兆一千億円軽くなったことになる。金の価値のあるときに借りて、価値のないときに返すのですから、あたりまえです。
国民は全体で三兆五千六百八十億円減価したということで、貨幣価値が下がって損をしたのだけれども、
企業のほうは二兆一千億円得をしたことになる、借金の価値が減ったのだから。言いかえれば、
国民の財産を
企業のほうに手つかずに移しかえた結果である。つまり、インフレ
政策というものはそういう性格を持っているのではないか、端的にそう
考えるわけであります。
そうすると、
日本の
企業の性格、つまり
経済の根本原理からいって、インフレ
政策をどうしてもとらざるを得ない。だから結果的に、私のおります横浜の高島町には有名な三菱造船所、三菱ドックがありますが、あれは戦後資本金二十億円で始めた会社です。いま一千億円をはるかにこえました。二十億円の資本金で始めて一千億円をこえたのだが、戦後ずっとあそこにつとめている六千名からの従業員の
生活はといったら、いまも戦後と
一つも変わってない。相変わらず奥さんは内職をしている。やりくり算段をしている。つまりここに
一つの現象があると私は思っているのです。
だからそういう
意味では、
企業を含めて
福祉経済ということばを使われますけれども、そちらのほうに制度が変わってこなければ、いまの社会体制自体がもたないところにくる、こういう気が私はするのです。そういう
意味で、特にできる物価対策というものはおやりをいただかなければならぬ。基本はここにある。つまり
経済企画庁は
経済の基本となる
経済計画をお立てになるのですから、そういう
意味で、やはりどうしても、少しというよりは大きく角度を変えた、四十八年度はできてしまいましたが、
経済見通しと
経済運営の基本的な態度をおきめになる必要がありはせぬかという気が私はする。そうしないと基本的な物価対策は進まない。つまり、局をつくることよりも
姿勢の問題だと申し上げたいのは、そこなんです。そこらのところを、意見は違うかもしれませんけれども、
数字というのはこれは厳粛なもので、あくまでも正直でございますから、そういう
意味で、最後にあわせて物価対策というものについて、どういうふうにこれからお進めになるかという点での御決意のほど等を承っておきたいのであります。