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前田参考人 御指摘のとおりでありまして、最初に、いわゆる世俗的な
意味での赤字
予算が組まれたのは、あの年度に沖繩が返ってくる、沖繩と関連して特別法ができ上がりまして、
NHKが沖繩
放送協会の債権債務を継承し、同時に、本土並みの
放送を開始するという義務を負わされておりました。これに関する限り、約八億の赤字という世俗的な形での赤字が出たわけでありますけれ
ども、これは、その後御承知のように沖繩でも中波はすでに二波建設を終わり、今年度中にはFM
放送も始まります。それから離島を除いては一応
テレビについても二波の準備はできております。さらに
カラー放送は、御承知のように昨年の秋の末から開始されておる。地理的
状況によって阻害される
部分以外はすべて本土並みになっているわけであります。しかもわれわれが受け継いだ沖繩
放送協会の収支決算は、赤字を受け継いでいるわけであります。そういう
意味でお
考えいただけば、実はこれが本格的な赤字であるかどうかということについては
内容的に
一つの問題があり、われわれが
公共放送として、沖繩に関する特別法及び
放送法に基づいて敢然としてその義務を果たすという
方向で計算された
数字であるということをまず御
理解いただきたいと思うのです。
それでたびたび申し上げておると思いますが、五年前の時点で
NHKは聴視料を調整いたしました。世俗的にいえば改定でございます。そのしかたはどうであったかといえば、
ラジオ料金を無料といたしまして、白黒
テレビを値下げいたしました。そして当時必ずしも前途さだかでなかった
カラー料金について、特別に百五十円を付加するという形をとったわけであります。総合してお
考えくだされば、これは値上げでなくて値下げでございます。しかもこれは五年前のことですが、その後
NHKは聴視料の改定をお願いいたしておりません。にもかかわらず、実際の
経済社会の情勢はどうかといえば、公共料金において過去の計算ではおおよそ平均して二〇%強、一般物価において三〇%強の値上がりでございます。毎年これが続いている。にもかかわらず、
NHKは過去五年間料金の調整については、
郵政大臣にも当
委員会にもお願い申し上げておりません。このことは、われわれの経営が
昭和三十五年の第一次長期計画以来、今日あるを見越しながら、いろいろな施設、
方向を決定した結果にほかならないと私は自負いたしております。
たとえば、今日
NHKは国内
放送で五つの波を駆使して、一日の
放送延べ時間は九十一時間半でございます。しかも一週間の全国の地方
番組、ステーションブレークを含めての
番組の数は二万三千本にのぼっております。これらの経営を通じて過去五年間
NHKが値上げに踏み切らなかったということは、少なくとも第一次、第二次、第三次、第四次の長期計画の中ですでにそういうことを予見しながら、
公共放送としての財政計画のある種の責任は果たしてきたと私は自負いたしております。
その中で一番大きな問題は、全国の
放送会館の整備とその最終形態としての
放送センターの建設完了、これに先がけていわゆる全
世界でも最初の
NHKシステムの機械化に踏み切ったことでございます。第一次五カ年計画のときの機械化と総人員という
考え方は、五カ年間を経過して五百名前後の誤差はございましたが、今日依然として一万六千五百の職員数をもって、全国二万三千の
番組を制作し、一日九十一時間半の
放送を行なっているという事実に御留意をいただきたいと思うのです。たまたまこれは計画的に
放送センターを完成することによって、新しい設備と機械化を中心にして全国網の
放送を集約化するということでございまして、大きな建物をつくって楽しんでいるという
意味とは全く異なるものでございます。これの完成によりまして、たまたまその裏側に財源を
考えていた内幸町の
放送会館と土地の売却が、一般にその
内容を分析していただく
機会がなく、単に非常な高値で売ったじゃないかという御叱責を受けたわけでありますが、しかし同時に、この基金によって三百十六億を必要とした最終的な中心機能の集約の形としての
放送センターは、簡単に言って無料でできたわけでございます。このことはわれわれが数次の長期計画を通じてすでに計画していたことをそのとおり実行したにほかならないのでありまして、私
どもとしては将来の財政計画が聴視者の負担に及ぼす
影響を慎重に
考えながら、いかなる
事態においてもできるだけ聴視者には迷惑をかけないという方針をとった結果でございます。
ただ御発言の中で、今後どうなるかという問題が指摘されているわけでございますが、これを
NHKを中心として
考えますと、かなり苦しいですけれ
ども、少なくとも今後三年間は聴視料の調整はお願いしない。そのために、ただいま申し上げた売却代金を基礎として、いわゆる経営安定基金というものを三カ年計画で使うというたてまえを明らかにして、今年度
予算の御審議をいただいたわけであります。このことは、過去十五年間、私の陰に隠れてじみちに私に
協力してくれた
小野副
会長が
会長となられても、この原則に変化はないものと私は確信いたしております。このような環境の中で、壁頭に申し上げたように、今後の
NHKの一番大事な
時代に経営の責任を負ってくださる方は
小野副
会長以外にないという確信を私は持ったわけでありまして、このことが今日新
会長として実現されているという事実から見て、私はただいま申し上げたような基本方針は、苦しいけれ
ども変えることはないであろうということを申し上げられると思います。
ただその以後において、ただいまは
NHKを中心として申し上げたわけでありますが、
民放各社の年間収入が合計して三千億をこえているということは、今日に始まった問題ではございません。ここ数年来
NHKの総収入は、
民間放送の総収入の三分の一であるということは明らかな事実でございます。にもかかわらず、われわれは
番組センターに三億円を提供し、各地の共同建設の場合にわれわれは三分の二の建設資金を出して今日に至っております。このことは私は別に
民放さんに対しておかしいじゃないかという
意味で申し上げているのではありませんが、われわれの本来業務のほかに、われわれとしては
日本の
放送事業の
発展のために、そのような金をも非常に切り詰められた
予算の中で支出しているのだということを御
理解いただきたいと思うわけであります。
私はその時期がいつ来るか、三年後であるかどうかは別として、ただいままで伺っておりますと、たとえば受像機の
台数の問題あるいは一日に延べ聴視者の各位が
テレビを利用される時間数の問題、その中での
民放と
NHKとの割合の
問題等の質疑応答を伺っておりましたが、私はたびたび当
委員会での御
質問に答えて申し上げたことを記憶しておりますが、
日本がこのように
テレビが普及したという原因は、私は二つあると思うのです。第一には、
日本の社会
生活の底辺がきわめて浅い。先進国家に比べても、社会文化と個人の
立場というものはまだまだ
発展途上にある国とほぼ同じ形態を持っている。したがって、
テレビによる
生活、これが中心になると同時に、もう
一つは、
日本は
世界的に、いわゆる基礎教育の普及
発展している国であります。したがって、あらゆる社会事象について
関心を持つというのが
日本の
国民性の
一つの特徴でございます。この二つのゆえから
世界的に見て、
日本における
テレビの普及発達は、特殊の環境の中でつちかわれてきたものであるという私の見解をたびたび申し述べた記憶を持っております。今日以後の、それでは
日本社会というものはどういうふうになるか。もうすでに大きな問題を含んでおりますけれ
ども、たとえば、社会
生活もかなり多角的なものになると思います。長年のわれわれの
放送文化研究所、あるいはその後独立させた世論
調査所の
調査を長年にわたって御
検討いただけば、
民放といわず、
NHKといわず、いわゆる
日本の
視聴者の方々が平均して
テレビに接触する時間が、長い目で見て非常に減ってきているということは事実であります。このことから、将来
NHKはどうあるべきか、あるいは
民放と
NHKの
関係をどうすべきかという新たな手がかりを発見することになるだろうと私は確信いたしておるわけであります。しかし、今後の予測については、私はこれ以上述べて、もし
NHKを誤解されても困りますので、新しい
会長の自由手腕にゆだねたいというのが私の
気持ちでございます。