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高木(文)
政府委員 事業所得者の問題がいろいろありまして、その中で
一つの流れは、いま御
指摘になりましたように、
事業所得者のその所得は勤労のたまものである。お店をやっておられて、物を売ったりつくったりという場合に、これはまさに
労働のたまものである。したがって、この勤労性所得の
性格を持つ
事業所得について何らかの形でその勤労性を認めよという主張がある。これが
一つの流れであります。それからもう
一つの全く別の流れとしては、個人
事業所得者の中で法人経営でやる場合と個人経営でやる場合とで税法上の
扱いが違い過ぎるので、しいて商法の規定による法人方式でなくても税法上法人
扱いしてもらってもいいではないかという主張の流れがございます。前の流れのほうの
事業所得における勤労性を認めよという問題については、これは実は私
どもといたしましては非常にむずかしい御要求であるというか、御要請であるというか、
扱いにくい問題なのでございます。御存じのように、
所得税は利子所得、配当所得、不動産所得、
給与所得等十種類の所得に分かれておりまして、十種類の所得ごとに
経費の
計算方式その他がきまっておるわけでございます。その
所得税の中で、いわば十種類のものの中で一番中心的なもの、あるいはもとをなすものが
事業所得でございます。その意味は
事業所得というのは資産からなるところの所得と
労働からなるところの所得が分離不可能だ。お店があって、そこで事業をして所得があがってくるという場合に、そのお店の資産、いろいろの意味での資産、固定資産なりたな卸資産なりの資産、そういうものから生まれてくるものと、その方の
労働自身から生まれてくるものと、それが合体して所得が発生してくるところに
事業所得の特色がございます。その
事業所得の特色こそ
考え方として
所得税の中心をなすものであります。したがって、
事業所得を二つに分解して、勤労性所得と資産性所得とに分解せよということになりますと、実は現在の
所得税法のものの
考え方といいますか、組み立て方が全
部分解をしてくることになりますので、非常に長期の問題といいますか、全く発想を変えた
考え方としては
考えられないわけではないといえるかもしれませんけれ
ども、この
事業所得を二つに分解して勤労性
部分と資産性
部分に分けるという
考え方をとれということは、
所得税を全面的に組み立て直しませんと、なかなかできないものではないかというふうに私
どもは
考えるわけでございます。
ところが、一方の商法の規定による法人でなくても税法上だけは法人と同じような
扱いにしてはどうかという
考え方につきましても、これはいろいろと問題があるわけでございます。いろいろと問題があるわけでございますが、こっちのほうは全く実現不可能だということではございませんし、まあ町でお店を並べて二軒の八百屋さんなら八百屋さんがあって、片っ方が個人組織で片っ方が法人組織だという場合に、片っ方が個人組織の場合の租税
負担と、片っ方が法人組織の場合の租税
負担とは、家族の方のところまでは専従者
控除ということである
程度バランスがとれていくわけでございますけれ
ども、経営者御本人の税
負担についてはバランスがとれなくなってくる。片っ方の累進税率構造と、片っ方の比例税率構造との
関係で、バランスがとれなくなってくる。そのあたりについては非常に複雑な規定にはなりますけれ
ども、それを自分は税法上だけは法人にしてくれということならば、それはまあ、かなりむずかしい問題でありますけれ
ども、やってできないことはない。そこで、そもそも青色申告
制度というのは、スタートが、単に税が軽くなるということが目的でなくて、経理の内容を明確にすることが目的であり、経理の内容を明確にするということの
一つの主眼は、いわばお店の勘定と個人の勘定といいますか奥の勘定とを分離する点にあり、青色申告
制度の本来の意味はそこにあるということをだんだん突き詰めていきますと、それの分離が可能であるならば、商法上の法人でなくても、税法上の法人といいますか、そういう形で処理をすることも不可能ではない。しかし、それはいろいろ問題があることでございますので、
所得税法そのものを直すということではなくして、政策的に臨時的にやるという意味もあり、
特別措置法上の手段としてこういう道を開く。それで、五年間なら五年間ということをいま予定して御審議をお願いいたしておるわけでございますが、その間やってみて、それがうまくいけば、またそれに応じていろいろ
考えていったらいいのではないかということにしたわけでございまして、今回の事業主報酬
制度の
考え方は、ただいま御
指摘のような
考え方と入り口のところで若干違いまして、勤労性所得についての配慮ということは
考えておりませんで、事業形態によるところの法人、個人の差異を解消しようというところから出たものでございます。