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中曽根国務大臣 日米
経済閣僚
会議は月曜日と火曜日の二日間にわたって行なわれました。主要な議題は日米間の通貨、通商問題、エネルギー問題等を中心にして議論が展開されました。
今回は、前回までのいろいろの例と比べてみますと、日米間の貿易バランスがかなり
改善をされ、また資本の自由化一〇〇%という政策が打ち出されており、特にコンピューター、ICの自由化の問題も当方が踏み切ったものでございますから、アメリカ側はこれを非常に高く評価いたしまして、従来のようなとげとげしい感じは非常に薄らいで、わりあいになごやかな雰囲気に終始したということであります。私は今度初めて出たものですから、いままでのことは知りませんが、いままで出た人の話ではそういうことでございました。
先方は、しかしこの貿易バランスの傾向がこれで定着したかどうか、また、疑わしいところがあるという
態度をまだ持しておりまして、引き続き貿易のアンバランスの解消のために、また自由化の継続的な努力のために日本側の努力を要請いたしました。
私は、大体最近一月−六月間の貿易の趨勢を見るというと、いままで大体二十五億
ドルくらいの対米黒字になるという
見通しであったけれ
ども、ことによると二十億
ドル前後あるいはそれを切るかもしれぬという
情勢に数字はなってきておる、この傾向は定着したものと
考える、もちろんわれわれは引き続いてこの貿易アンバランスの解消に向かっては努力をしておることでもあるし、さらに関税の引き下げ等についても各共通で今度はさらに前進させたい、そういう要望を述べまして、この問題に対するわがほうの見解を表明し、また引き続き私たちが貿易のアンバランス解消に努力していくという誠意を示したのであります。しかし他面、一面におきましてアメリカ側が今回突如として農産品について日本に対する供給打ち切り、ストップという措置をとったことは非常に心外であって、このために日本側はどれくらい迷惑を受けたか知れぬ、いままで、昨年以来アメリカ側は日本に対して農産物を買ってくれ買ってくれと貿易の
会議があればそのことを要請してきて、昨年は
わが国においては五億
ドルくらい思い切って食糧、飼料をさらにプラスして買ったはずである、本年もその
趣旨に沿っていろいろそういう努力をしようとしておったところ、突如手のひらを返すようにそういうような
態度に出るということは、アメリカの将来の貿易政策が重大変換をしたのかということを疑わせるような状態でもあるので、こういうことは厳に慎んでもらいたい、そして一応打ち切りとかストップした大豆その他についてはできるだけ早期にこれを解除して日本側に供給してもらいたい、そういうことを強く要請したところでございます。
なお、ガットの問題その他とも関係いたしましてアメリカ側は新
拡大通商法を国会で通そうとしておるようだけれ
ども、その中でわれわれが一番注目しておるのはガットの精神による自由無差別ということがそのまま実行されるかどうかということである、特に新通商法において課徴金問題とか輸入割り当てとか、あるいはことによると
輸出制限とか、そういうようなことで、ある国に対して、無差別に行なうという原理が失われて差別主義がとられるというようなことになると、これは非常に大きな
影響を国民感情の上にももたらすことになる、こういう問題については新通商法
運用上大いに注意してもらいたいと申しました。
それからもう
一つはセーフガードの問題でございます。このセーフガードの問題は、
加藤委員か一番御熱心な繊維問題とも関係しているところでございまして、この問題については、
加藤委員やあるいは関係業界の意見も十分聴取してありまして、この点も強く言ったところであります。
私は、四原則を掲げまして、セーフガードについて主権国家の名前において恣意的にこれを発動するというようなことは厳にやめなければいけない、客観的な基準がまずなければならない、それからセーフガードは国際的に
承認された客観的な基準によってそれが発動されて、それでそれが数カ国による国際的なフォーラムが
承認されなければならない、そういう客観的オーソリティーを持った第三機関による判定、そういうようなことを重要視して、一国が専断をもって行なわない、そういう点を非常に強く私たち主張いたしまして、セーフガードの問題という問題はこれからガットにかけて、また繊維交渉にかけて一番重要な問題になってくるというので、この際われわれの意見を申し上げておくといって四原則を強く主張しておきました。
それから南北問題等もございまして、私といたしましては、最近の変動相場制への移行に伴って南のほうからの
苦情が非常にふえておる、つまり
切り上げによって日本の品物、ドイツの品物が非常に割り高になる、そして
ドルに依存しておる南方の品物が安くたたかれる、またいろいろ借款やその他をしている場合のマルクや円に対する償還の
金額が高まってくる、その分だけ割り高になる、そういう点において南の発展途上国からわれわれに対して非常な不満が開陳されておる、アメリカもこれを
考えなければいけない、変動相場制ということになると、大体固定相場制という
考えが
基本にあって、一%とかあるいは〇・七%とかということも可能であるかもしれない、変動相場制ということになれば、これはプラスマイナス・ゼロになるということが頭の中にあるものでありますから、したがって基礎的収支を
海外援助まで含めてその上でゼロにするという構想でないとこの変動相場制下における南に対する援助というものは成り立たない、従来は固定相場制のもとに行なわれておったそういうような関係から、このままほっておくと南北の格差はますます激しくなる危険性がある、そしてそれを救済すべからざる状態が出てくる危険性がある、したがって南北問題という現下の最も大きな問題を処理する上においても、アメリカは非常に大きな責任を持っておる、それは
ドルを安定させることである、長期的に安定させて、そしてこの南北問題の乖離をさらに防ぐような積極的努力をすることを私たちはアメリカに特に要請したい、これは日本とアメリカとの関係に関係するのみならず、これからの問題である南北問題というものを
考えた上での先進工業国家としての日本の良心から発することばである、そういうことも強く言いました。
これに対して先方のボルカー次官は、非常に当惑したような顔をしておりまして、アメリカの
ドルが安くなればそれだけそれに依存しておった諸国の
輸出が増進されるというところもまた少しありますというようなことで、理屈に合わぬような理屈で返事をしておりましたが、ともかくこれは非常に胸にこたえたと思うのであります。
それからエネルギー問題につきましては、私は、消費国同盟に入らないということを言ったけれ
ども、それは現在の
国際情勢からすれば消費国同盟というようなことは対立と挑発的にとられる危険性がある、私は中近東に行った際に、対立的あるいは挑発的ととられるような危険性のある消費国同盟というものであれば日本は入る意思はないということを言ってきた、いまでもそういう
考えであるということを明言いたしまして、石油問題、エネルギー問題については、産油国が産油をふやしていくという
方向に政策的に環境づくりをすることは先進国にとって大事なことであって、それは工業による協力であるとか、そのほか諸般の政策でそういう環境づくりをわれわれ日米両国はともにやらなければいかぬ、そういう意味において、日米両先進国がエネルギー問題という共通の大問題を控えて国際協調を中心にしてこの問題を前進さしていくように私たちは要望したい、そういうことを強く言いました。
ロジャーズ国務
長官は、挑発的だととられるいわゆる消費国同盟的構想に対しては非常に警戒的で、われわれは産油国と対立する意思は毛頭ない、また対決とか挑発というような意思は毛頭ない、中曽根さんと全く同感であって、国際協調を中心にしてこの問題を解決しなければならぬとわれわれは確信しておるというようなことを繰り返しまして、ともかく産油国と対決することなくという前置詞をいつもつけて話をしておったような状態で、私らが中近東へ言ってきたことばは、ある意味においては先方にかなりの認識を深めさせた
効果があったのではないか、こういうように思いました。
それと同時に、シベリア開発の問題、それから濃縮ウランの共同工場の問題、それから日米間における資源、エネルギー問題に関する専門家の協議の問題等について具体的にある
程度話しまして、そういう問題については、前向きに相協調してやっていこう、シベリア開発については私から特にアメリカの参加をわれわれは強く希望する、あれだけの大きなプロジェクトというものはアメリカ、日本、ソ連、三国の協調によって進めるということが将来とも望ましいと思うと言って、アメリカの参加を強く要望しておいた次第でございます。
以上が概要でございます。