○田口
委員 まず私は、討論に先立って一言申し上げます。
本二十八日、
田中総理の出席を求め、生活法案といわれる健保
改正案について、さらに審議を尽くすことを約束していたにもかかわらず、出席を見ないことは、自民党の背信行為であり、総理の、国民生活なかんずく医療問題に対する熱意の欠如を示すものとして、はなはだ遺憾であります。(拍手)
ただいま議題となりました
健康保険法等の一部を
改正する
法律案及び橋本
委員外四名
提出の修正案につきまして、私は、日本社会党を代表し、遺憾ながら反対の討論を行なうものであります。
現在、医療
保険や、医療制度の運営に対して、利用する国民の側からの不満の声がきわめて強いことは、天下周知の事実であります。
たとえば、待ち時間三時間、診察三分といわれる
状態は依然として解消されず、僻地はもちろんのこと、住宅団地等における夜間、日曜日の無医
状態や、救急医療体制の不徹底は、心を寒からしめるものがあります。
また、不幸にして入院すれば、医療費のほかに、一日五百円から最高一万三百円までの差額ベッド代、それに付添看護料、冷暖房料等が公然と徴収されています。
看護婦の不足は慢性的であり、患者が患者を見るという患者の不満と、一方で看護婦の過酷な労働条件は、一向に解決されていないのであります。
さらにまた、総医療費の四〇数%を占める薬剤の問題があります。たくさん投薬しなければもうからない診療
報酬の仕組みに、数多くの良心的な医師は悩み苦しみ、使い切れないほどの薬剤を前に患者はおっかなびっくりしています。
このように、医療を利用する国民の不満、不安に加えて、難病・奇病がふえております。水銀、PCB等化学物質による環境汚染、健康被害は、文字どおり日本列島をおおっているのであります。
このきびしい事態に、
健康保険法等の一部
改正案はこたえていないのであります。いや、避けて通ろうとしているのであります。
ここに私
ども日本社会党が、本案に反対する第一の
理由があるのであります。
すでに御承知のように、本年二月十六日、社会保障制度審議会は、厚生大臣の諮問にこたえて、次のように明快に、しかも鋭く指摘しています。
すなわち、「今日の医療
保険の混乱の根本原因は、国民皆
保険の前提条件である医療機関、診療
報酬その他医療に関する諸々の体制の整備を怠ったことにある」として、今日の医療諸制度に深くメスを加えることを強調しているのであります。
そしてまた、「
政府管掌健康
保険の
財政の安定は、収入面の
措置とあわせて支出面の対策があってはじめて完全になる」ことが自明の理であるにもかかわらず、「今回諮問された案は、従来たびたび示されたものと同じく、単に
保険財政における総支出と総収入のつじつまあわせの程度以上に、ほとんど出てはいない。このような消極的な姿勢では、
財政収支そのものも一両年のうちに均衡を失することとなるであろう。
政府は、具体的に年次計画をたて、医療
保険の抜本的改革の早期実現に、決断と実行を示すべきである」と迫っているのであります。
このことは、わが党もまた、
昭和四十年以後、常に主張してきたところであります。
その結果、佐藤前総理大臣と、なくなった斎藤厚生大臣も、抜本改革について約束されたことは、周知の事実であります。にもかかわらず、現
田中内閣は、その約束を守らないのであります。逃げ腰なのであります。
今回の
改正案は、昨年までのそれと同工異曲とはいえ、若干の
給付改善、定率
国庫補助等、一定の前進は認めます。ところが、
給付改善を行なうことを
理由に、
保険料の
引き上げ、弾力条項を設けること等をあわせて提案しているのであります。ころんでも、ただでは起きないとは、まさにこのことをいうのでありましょうが、これでは国民はたまったものではありません。
今回を含めてすでに八回、この国会で政管健保を審議するわけでありますが、そのつど
財政再建がうたい文句とされてきたにもかかわらず、累積
赤字はすでに三千億。今回これをたな上げし、
保険料率の
引き上げをもって、はたして恒久的に
財政安定が可能であるという自信があるのかどうか、はなはだ危惧の念を抱くのであります。
いまさら言うまでもなく、政管健保の構成は、中小零細
企業と、そこに働く
労働者、家族がほとんどであり、低賃金、劣悪なる労働条件、そして比較的高年齢者が多いことは、御承知のところであります。ですから、
赤字の出るのはあたりまえであります。傷病にかかりやすい職場環境、経済的に苦しい被
保険者を多くかかえているのでありますから、いまの制度のもとでは、
赤字が出て当然といえるのであります。
言うならば、政管健保は
赤字基調なのであります。現に齋藤厚生大臣は、年間予想される
赤字は、
定額約二百億の補助をつぎ込んだとしても、一千億は出ると言っているのであります。それだけではありません。弾力条項と関連して、厚生
保険特別会計法の一部
改正案が、同時に上程されていることに、注目しなければなりません。
いままでは、政管健保に
赤字が出れば、必要に応じて借り入れられるという規定を、
赤字が出たら、
保険料を
引き上げて、しかも一年以内に返済できる範囲内だけしか借り入れができないというのであります。これでは、弾力条項の発動にあたって、いかに厚生大臣が、社会
保険審議会の同意を得てと言ってはみても、
赤字基調の政管健保は当然に
赤字が出る。しかも借金に限度がある。これではいやおうなしに
保険料を
引き上げざるを得ないのであります。
さらに問題は、診療
報酬の支払い遅延、果ては停止という事態が生ずるおそれがあるということであります。こうなりますと、弾力条項ではなくて、
保険料引き上げ必然条項であります。政管健保の独立採算制であります。
このように見てまいりますと、本案は
給付改善であると大々的に宣伝しているものの、単なる収支のつじつま合わせであり、今日の医療荒廃に対する
政府みずからの責任に目をつむり、被
保険者と
保険医や、医療従事者の犠牲によって
赤字を解消しようとする、
財政対策にほかなりません。
私
ども日本社会党は、国民の生命と暮らしを守る立場から、このような小手先の
改正案は、断じて認めるわけにはまいりません。
自他ともに予測される医療需要の増加、医学・薬学の進歩による医療費の増高を考えるとき、ただ単に健保
財政の均衡にのみとらわれて、被
保険者からの
保険料増徴だけでは対応できません。いまこそ医療供給体制も含めて抜本
改正を行なうべきであります。このことは、積年の健保
改正論議から、
政府自身、問題の所在を十分に把握しているはずであります。
環境汚染・健康破壊のカメレオンと酷評されている日本国民の生命と暮らしを守るために、
田中内閣の一枚看板である決断と実行は、抜本
改正にこそ示すべきであります。国民を不安におとしいれている今日の傷病の増加は、社会的要因によるものであり、高度経済成長に狂奔した大
企業と国の責任であります。
今日、福祉問題についても利害相反し、いわゆる福祉ギャップのあることは否定いたしません。否定できない
現実であるだけに、このギャップを埋めるためのコンセンサスを得る努力と場所が必要であります。その場所は、言うまでもなく国会であり、私
ども国
会議員に、その努力と責務が与えられているのであります。
この観点に立って私
ども日本社会党は、高額医療費問題差額ベッド、付添看護料の解消、無医地区の解消と、救急医療体制の確立、家族
給付率の本人並み
引き上げ、
保険料労使
負担を三対七とする、公的医療機関、なかんずく自治体病院の明確な位置づけ等を主張し、真剣かつ慎重に審議に参加したのであります。それを受けて、いわゆる橋本私案として、若干の修正の話も出てきたことは、御承知のとおりであります。
もちろん、私
どもは、修正案の中身については、いままで申し述べてきたことに照らして、今日の荒廃した医療の根幹に全く触れていないことから、大いに不満であります。ただしかし、当面の
合意点を見出そうとするその態度に、一定の
評価を与えるにやぶさかでありません。
同時にまた、先般二十二日、理不尽にも強行採決すべしという外圧に抗して、審議を継続した
社会労働委員会の態度は、議会制民主主義を守り、国民の負託にまじめに取り組んだものとして、敬意を表するものであります。
このように、
保険あって医療なしという今日の
状態を解決するために、私
どもは全力を傾注したにもかかわらず、依然として、
政府の態度は逃げ腰であります。その場しのぎに終始して、全くやる気がないのであります。
私は、かかる無為無策、優柔不断な
政府の態度に対して、国民の名において猛省を促し、
政府提案並びに修正案に対して国民の名において猛省を促し、反対討論を終わります。(拍手)