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渡邊(健)
政府委員 解雇制限が基準法で書かれておりますのは、
事業主の支配下において生じたところのいわゆる業務上の災害、疾病については
使用者が無過失責任を負うべきものだという
考えがあるわけでございますけれども、したがいましてそういう災害によって負傷または疾病にかかった
労働者に対しては、当該個別の
使用者が、その療養に必要な期間、あるいはそれが中止してから三十日間、それから三年以上たってなおらない場合には基準法上打ち切り補償という
制度がございますけれども、その間は解雇しない、
使用者の責任との
関係でそういう解雇制限が課せられております。
通勤災害は先ほど申しましたように、労務
提供と密接な
関係はございますけれども、
使用者のいわゆる支配下において発生した問題ではないわけでございます。したがって
使用者が無過失賠償責任を負う対象でもございませんので、これを業務災害と同一視して解雇制限を認める、こういうことは妥当でない、こういうふうに
考えるわけでございます。ただいま
先生が、通勤バス等で通勤すれば、そのバスが交通事故にあった場合に、それによって負傷すれば業務災害になるではないか、かえってめんどうを見ない
使用者が責任を負わないんだ、こういう点はどうだ、こういう御質問でございますけれども、確かにそういう点はあるわけでございます。ただ、この点は通勤ばかりではございませんで、たとえば会社の施設たる寄宿舎に入れておる。その寄宿舎の施設が十分でなくて。それが崩壊した、あるいはその施設の瑕疵のために
労働者がけがをしたという場合には、これはやはり施設に対する
使用者の責任、そこを
労働者に使わしておるという施設責任から、これは勤務時間外であっても業務上といたしております。その点は、たとえていえば全くのプライベートな下宿先で、階段なら階段の設備が悪かったためにけがをしたという場合、これは
使用者は、同じく家に帰って階段の事故にあったといたしましても、施設の責任はないわけでございます。業務上の責任を負わない。したがって、そういう方に対しては解雇制限ということもない、こういう問題もございまして、やはり
使用者の責任下において起きたものは
使用者が責任を負う。
使用者の管理下でないところで起きたもの、これについてまで責任を負わせるというのは、現行理論上からいってやはり無理があるのではないか、かように
考えているわけでございます。