○枝村
委員 いわゆるびしっとした結論めいてどうこうするという指針はないですけれ
ども、一定の
方向というものは明らかにされております。
そういう立場で、御存じだろうと思うのですけれ
ども、第一番目に吉田病院における不当入院の問題がありますね。これはどうも私のほうから一方的な説明に終わるようになりますけれ
ども、ひとつこれはぜひ明らかにしておかなければならぬと思いますから申し上げますが、これは奈良県の吉田病院に十四年来入院しておりましたある一人の
患者の退院
要求に端を発して明るみに出た問題です。
これで
指摘されるのは、長期にわたり不当に入院させておった、それから院外の作業の名のもとに不当な低賃金労働をさせた病院のあり方に疑念が持たれるという、こういう問題の内容なんですね。
委員会はそれについて調査、分析の結果、五つの項目にわたって問題点を
指摘しておるわけなんです。
その中で一番にあげられているのは、その
患者の入院は明らかに不当である、こういうことですね。これは
精神衛生法の第三十三条の同意入院のそういうところから見ていきますと、当然批判されねばならない問題に発展してくるわけなんです。
それから、同法の二十条に基づく保護義務者選任が、実はこの場合行なわれておらないわけなんです。そして、保護者の資格にもならないような人の同意によって入院させて、しかも長期の間自由の拘束が行なわれて、退院可能になっておるにもかかわらず、保護者でもない姉の意思で拘束を続けてきた。ねえさんとその
患者との間に、いろいろ複雑な事情はあったでしょう。あったでしょうけれ
ども、そういう同意を与えるような、親権者か何か知りませんけれ
ども、その資格のない人の
意見を優先的に聞いて、そうして長期にわたって拘束して、退院してもいいと院長は言いながらも、それの同意がないから退院させないということは
患者の人権を全く無視した行為である、こういうふうに同
委員会は結論づけておるわけなんです。
さらにこれを発展さしていけば、どこにもいえることなんですけれ
ども、
精神衛生法そのものがそういう行為、いわゆる
患者の人権を無視しておる、そういう行為のささえになっておる。これをよりどころにして院長や病院側がそういう人権無視の行為を公然と行なっておるようになっておる。そういう結論づけたような
一つの集約をしておるわけです。そうなると、やはりただ病院のことだから、そうして病院内部の事件だから、
厚生省行政当局は関係ないというわけにはいかなくなるわけなんです。これが吉田病院の実態なんです。
二番目は佐藤神経科病院の問題があります。これは名古屋に存在する病院なんですけれ
ども、これは無資格の人が
診療を取り扱っておる。そしてその結果、それに基因したかどうかわかりませんけれ
ども、児童が死亡した事件、そしてそのほかに一部の人たちが横暴な
患者と結託して病棟を支配して、他の
患者をリンチさせるような事件が起きた。もう
一つは、
結核に罹患した
患者が確定診断のつくのがおそいために、診断がついてから旬日を待たずにおなくなりになるというような事件がございました。これは明らかに身体的
合併症に対する予防、
医療がこういう
精神病院の中には非常に不完全である、不十分であるということを暴露したと思うのです。しかもこの病院では一斉検診なんかというものは全然やっていない。こういうことがこの事件のあらましなんです。
この問題に対して、同
委員会は次のように
指摘しているのです。
これは結局は
医師不足、
看護婦不足が招いた
一つの問題だというのです。これはやはり健保の
審議の中でいままで各
委員が十分
質問し、討議した問題です。ここにもこういう問題となって、悲劇となってあらわれてきておるわけなんですね。だからこれも
厚生省としても十分
考えていかなければならぬ問題です。それからこの病院では
患者がいい
治療を受ける権利を十分認められておらないということになっている。いわゆる無資格者によって
診療を受けた。
患者によって病棟が支配されて、不十分な施設の中で日常
生活をおくらなければならぬという、こういう貧しさが出ておるということを見ますと、これは
医療行政全般の問題として今後
考えねばならぬことだ、こういう
指摘をこの
委員会はしておるのでありまして、全く私は正しい
指摘だと思っております。
三番目は「中村病院問題と福岡の
精神医療措置優先の
精神医療の現実」についてという調査分析の結果が報告されております。
この事件の概要は、一人の青年が何か暴行を働いたということで、強制的に福岡の中村病院に措置入院させられた。これは前に
精神病院に入っておったということが理由かもしれない。そして一週間あとですか、結局死んで退院させられたという事件です。調べてみましたら、からだには数十カ所の傷あとがあり、その他いろいろなところに暴行やその他を受けた犯跡が残っておる。だから
家族が警察に訴えて、そうしていま訴訟問題になって、裁判ざたになっておるという問題なんですね。
これなんかを
委員会が調査をしてみますと、福岡全体のことを調べておりましたが、この中村病院というところは、非常にずさんな措置入院というものが当然のように行なわれておるということが明らかにされた。どうして死んだかというのは、裁判のさなかでありますから、ここでは明らかにできませんけれ
ども、いろいろ調査の段階で、隣におったある
患者は、その死んだ人がせっかんを受け、リンチを受けておったという報告をしておるわけですね。そういうところから見ますと、これはまたたいへんな事件だというように見えるわけです。
それから四番目に富士山麓病院における暴動発生事件というもの、これはまたたいへんなことなんですね。これは、
患者二十九名が病棟を占領して
医師一名に暴行を働いて、そしてそれをひっつかまえて保護室に閉じ込めて、そして他に
看護者二名を別の保護室に閉じ込めて
治療の改善を
要求する、こういう暴動なんです。
これに対して
委員会の
指摘は、まず第一に職員の
患者に対する
態度ないしは人権意識の問題が一番先にあるわけであります。この暴行そのものは決してよいことではないけれ
ども、その原因は一体どこにあるか、それを調べてみたら、いま言ったことがまず第一に
指摘をされる。人権がかなり侵害されておった。そこの病院長は研究モルモットのために
患者を取り扱っておるという、そういう方針がすみずみまで行き渡っておるために、それが日常のいろいろな、
患者をなおすという名目のために
治療を施されるために、その不満が爆発して、特にアルコール中毒者ですから、そういう暴動へ発展しておるとするならば、これはたいへんな人権の問題として取り上げなければならぬ、こういうように
指摘をしております。
それからもう
一つは、アヤメ病院といって、東京で起こった事件ですけれ
ども、これは
患者三人が脱院しようとしたその際に、そこの
看護婦さんの口をふさいで、さるぐつわをはめた。そして逃げて、その結果
看護婦さんがおなくなりになった、こういう事件です。これもいま裁判にかかっておりますけれ
ども、その原因も、いろいろ
治療の方法とか、措置されておる間のいろいろな事情が彼らをしてそうさせたという原因もあるという
指摘をされております。
いずれにしても、こういう、単に五つでありますけれ
ども、これは他山の石として
考えなくてはならぬのは、今日の
精神病院の中における問題が非常に大きくクローズアップされてきたのに対して、病院側
自体が、おれたちは
患者を単になおすために
治療する、働いておるんだという、そこには人権を尊重するという感覚なんというものは必然的に長い習慣の中になくなっていっておるのではないか。先ほど言ったような、やはり一人の人間として、これを見ていかなければならぬという内部からの自己批判、自己反省を求めながら、同時に、そうさせておるもろもろの今日の政治、
行政、
医療体制などに対してメスを加える必要があるという、こういう
方向になってきたのでありまして、私は、たいへんいいことだと思います。
そこで、その
委員会がこれらの実態を調査研究したものの一応結論として
方向づけたのが四つあげられております。
その
一つは、まず第一に
医療の姿勢なんです。先ほど言いましたように、
精神病院、
精神医療というものは、特殊な
患者でありますから、公共の福祉という立場で、人権尊重をその次にするという、そういう立場で「社会防衛優先」ということばが使われているのですけれ
ども、その
精神衛生法そのものが、やはりそういう骨子でできておる、そういう
体制や、「低
医療費政策など
患者不在の
医療を安易に受け入れてしまい、時により、逆にこれらの
体制や政策を都合よく利用すらしてしまっている
医療の姿勢。これは
医療の長い歴史の中で培われたものであるが、この
医療の姿勢の中には、
患者のためという理由のもとに、実は
患者不在の
医療を無反省に行ってしまう流れがあり、事例の処々にそれがうかがえた。」これは私が先ほど言ったような、そういうのを第一に指導して結論づけております。
それから二番目に、
精神衛生法の
体制について
指摘をいたしております。「
精神医療における
医療優先の姿勢に表裏一体となり、社会防衛偏重を正当化し、
患者個人の立場を保証しなかったのは
精神衛生法
体制であり、この
体制が
患者の人権を奪うことに
医療側の抵抗感を失わしめる大きな原動力となっている。」こういうのを二番目に
指摘しております。
それから第三番目に、
患者も巻き込む搾取の
体制ということについて
指摘しております。「
医療とくにその中における
精神医療への蔑視による
精神病院の貧困は、
患者、病院職員、病院経営者がお互いに生きる権利を主張し合い、弱い立場である病院職員、そして最も弱いものとして
患者が搾取され、その正当な権利を失っている。」
まだありますけれ
ども、四つの中の三つのこういう重要な
指摘が、五つの病院を調査した結果、そして分析した結果、一定の結論として出されておるわけなんですけれ
ども、これはたいへん貴重な、これからの提起だと私は思っております。
このような、いわゆる病院のあり方について、いまこの報告書に基づいて私は言ったのですが、このあり方について、
厚生省として
基本的なこれに対する姿勢について、先ほどちょっと伺いましたけれ
ども、もう一ぺんお伺いしておきたいと思います。