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1973-06-06 第71回国会 衆議院 公害対策並びに環境保全特別委員会 第24号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年六月六日(水曜日)     午前十時四分開議  出席委員    委員長 佐野 憲治君    理事 菅波  茂君 理事 登坂重次郎君    理事 林  義郎君 理事 小林 信一君    理事 島本 虎三君 理事 中島 武敏君       小澤 太郎君    大石 千八君       田中  覚君    戸井田三郎君       村田敬次郎君    阿部未喜男君       岩垂寿喜男君    土井たか子君       岡本 富夫君    小宮 武喜君  出席政府委員         環境政務次官  坂本三十次君         通商産業省公害         保安局参事官  田中 芳秋君  委員外出席者         参  考  人         (熊本大学教         授)      武内 忠男君         参  考  人         (東京歯科大学         教授)     上田 喜一君         参  考  人         (横浜国立大学         教授)     松野 武雄君         参  考  人         (東京大学教         授)      白木 博次君         参  考  人         (新潟大学教         授)      椿  忠雄君         参  考  人         (東京工業大学         助手)     加藤 邦興君         参  考  人         (久留米大学教         授)      山口 誠哉君     ————————————— 本日の会議に付した案件  公害対策並びに環境保全に関する件(第三水俣  病問題)      ————◇—————
  2. 佐野憲治

    佐野委員長 これより会議を開きます。  公害対策並びに環境保全に関する件、特に第三水俣病問題について調査を進めます。  本日お招きいたしました参考人は、熊本大学教授武内忠男君、東京歯科大学教授上田喜一君、横浜国立大学教授松野武雄君、東京大学教授白木博次君、新潟大学教授椿忠雄君、東京工業大学助手加藤邦興君、久留米大学教授山口誠哉君、以上七名の方々であります。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ、また遠路にかかわらず本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。  本委員会といたしましては、水俣病問題につきましては鋭意取り組んでまいったところでありますが、再びくり返すことがないと思われておりましたこの病気が、有明海沿岸に第三の水俣病として発生いたしましたことは大きな驚きであり、企業の無責任さと行政当局の責任はきびしく責められなければなりません。  本問題の研究調査に当たられた関係者各位に心から敬意を表するとともに、本日は水俣病問題につきましてわが国の権威である皆さん方の英知を拝聴して、その対策に万全を期したいと存じます。  どうぞよろしくお願いいたします。  なお、参考人の御都合により、武内参考人上田参考人松野参考人からまず御意見を承り、続いて以上の参考人に対し質疑を行なうことといたします。また、休憩後において白木参考人椿参考人加藤参考人山口参考人から御意見を承り、続いて質疑を行ないます。  なお、議事の整理上御意見の開陳はおのおの二十分程度といたしまして、あと委員質疑にお答えいただくようお願い申し上げます。  それでは、武内参考人からお願いいたします。
  3. 武内忠男

    武内参考人 ただいま御紹介にあずかりました武内でございます。  今回、私どもが二年間にわたりまして水俣病の第二次の研究調査をいたしました、それによって報告を申し上げた次第であります。  私どもがこの研究を始めたゆえんのものは、第一次の研究におきまして水俣湾地区周辺水俣病が発生しておりまして、それが急性及び亜急性の経過をとって、一応昭和三十五年で発症がとまったのではないかということで、その後のものは、当時発生したものが後遺症として残っておる。そういう患者さんが多数まだ発見されずに健康被害のもとに非常に苦しんでおるというようなことを承っておりました。また四十三年の公害法ができまして、いろいろの問題で隠れておりました患者さんたちがみずから申し出たりあるいは周囲からのすすめで健康調査を受けるという機運ができまして、そして私どもは、まあ調査ができるという判断のもとに研究班が発足したわけであります。  そしてそれは昭和三十六年四月から正式に開始されております。調査の途中におきまして多数の患者が発見されたのでありますけれども、その際に私どもは、最も濃厚な汚染地区として水俣湾の中の一部の村落すなわち湯堂、出月それから月浦というところを選びました。それから、現地そのもの汚染はありませんけれども汚染された魚をとっておりますところの御所浦、対岸の島であります御所浦を第二の調査地区といたしました。そして水俣湾関係のある八代海以外のこれとほとんど関係がないと見られております有明湾沿岸であります有明町を対象地区として選んだのであります。その際に水俣湾地区では、従来のその急性発症後遺症の者もたくさんおりましたけれども、三十五年以後もなお四十年以後四十七年までにわたりまして発症者がおるということがわかったのであります。これは私どもは非常に重大なことだ、もう済んだと思っておった患者さんが再び出つつあるということは、何か原因があるはずだ。それから御所浦のほうも調べてみますと、四十年以後にもぼつぼつ出ております。そういうことで、急性症状後遺症のものと、それから慢性発症者患者が見られてきたわけであります。その間に私どもは、なくなった方の剖検例を検討しております。それによって、それらの患者さんの過去のものと慢性発症をしておる者との相違が、すなわち病変相違というよりも全体像からの相違がだんだんわかってきたのであります。  他方有明地区では、初めは患者がないのではないかという考えもありましたのですけれども、第一年度で二十九名の人が神経症状類似症状を訴えておるということがわかりまして、それについて第二年度精査をしたわけであります。この精査専門神経科以外の眼科、耳鼻科、小児科、そういう各専門領域の人が参加しまして、最も疑わしい者は二十四名大学ヘマイクロバスで運びまして、そして精査したわけであります。  有明の問題が重要でありますので話をしぼりますと、この二十四名の中から、いわゆる水俣でわれわれが明らかにしました症状のうちで、ハンター・ラッセル三主徴というのがあります。これは構音障害視野狭窄運動失調、この三つでありますが、これにさらに難聴、これは後迷路性難聴といいまして、中耳や内耳以上の、内耳のほかのそれよりも上の後迷路性難聴というのがありますが、その難聴、それから大脳の広範囲の神経細胞間引き脱落がありますので、知能障害があらわれるわけです。この二つをさらに加えて、最も一般的に知られておる知覚障害、これは最も初期にあらわれるわけですけれども、それがずっと続いて残っております、この知覚障害、この六つの症状が主要な症状として取り上げられまして、それに付随するいろいろの、三十数項目の症状について分析しております。その結果、それが、私ども水俣地区で見ておりますところの水俣病症状と全く区別ができないのであります。そういう患者が、千百数十名のうちに五名ほどおります。それから構音障害だけが見られないという患者が三名おりまして、合計八名が、私ども審査会におきまして水俣病だと診断しておるものと全く区別ができないのであります。あとの二名が疑わしいという結果となりました。  したがいまして、これが水俣病と全く同じ症状でありますけれどもメチル水銀の影響を受けておるかどうかということは十分検討されなければならないのであります。しかしながら、私どもの今度の調査におきましては、それの追及が十分なされておりません。ただ、過去のデータで報告されたものがありますし、また私が有明でない宇土剖検例を二例持っておりまして、この二例は胎児性水俣病区別できない病変を持っております。また、宇土の先端にあります三角町の老人は、これは両方とも別の病気でなくなっておりますけれども、解剖いたしますと全く水俣病と同じ病変を持っておるのであります。そしてその脳の水銀をはかってみますと、私ども水俣地区で剖検いたしました胎児性水俣病の脳の水銀値よりも少し高目に出て、〇・九PPMを示しております。それから老人のほうの脳は、水俣地区で、あるいはその周辺水俣病として診断されて長いこと経過した人の、すなわち後遺症として残った人の脳の水銀値と同じであります。それは〇・〇七PPMを示しております。そういうことから、私どもは前の剖検例と今回の剖検例比較しまして、全く水俣病と同じだと判断せざるを得なかったわけであります。  なお、それは一体どうしてきたかということになりますけれども水俣地区原因は、皆さん御存じのようにメチル水銀によるものであります。そして湾内魚介類メチル水銀量は、現在〇・一から〇・五PPM湿重量、その範囲の水銀量を示しております。そういう水銀量は私どもは非常に汚染が強いと見ておりまして、現在の暫定基準では、日本では総水銀で一PPMということになっております。ところが、総水銀の一PPMの中のメチル水銀は、現地水俣の魚では〇・四から〇・六PPMメチル水銀を含んでおります。すなわち、平均約半分がメチル水銀だと見られる。そうしますと、〇・五PPMメチル水銀値であれば、これは従来いわれておる発症量に達するには、湾内の魚を二キロ食べると発症するということになります。ところが、普通危険値あるいは最大無効量といいますか、危険な値になるところは十分の一と見まして二百グラム、二百グラム以上食べると危険域に達する状況ではないかというふうに判断されたわけであります。  ところが、現地には患者がまだ出つつあるということになりますと、これはあるいは発症量にもつながるかもしれない。もちろん昭和三十初頭に大量汚染を受けておりますので、それに加重するということもあり得ますけれども、少なくとも現在その量をとっておれば発症し得るということになりますと、もっと低い値でも危険だという判断が私どもに起こったわけです。  その周囲八代海、すなわち水俣港湾の沖あるいは御所浦の漁場になっておるところ付近では、〇・アルファPPMのものもありますけれども、普通〇・〇アルファか〇・〇〇アルファPPMを示しております。しかし〇・〇アルファPPMのものがかなり多いものですから、少し汚染されておるという考えを持っております。八代沖のほうになりますと、〇・〇〇アルファPPMのものが多くなりますが、それは全く安全だと見ております。  それから有明に入りますと、〇・アルファのものがありますけれども、おもに〇・〇アルファあるいは〇・〇〇アルファPPMを示すメチル水銀——これはすべてメチル水銀です、そういうものがありますので、現在も私ども汚染があると見ております。しかしながら、それを二百グラム食べる程度では危険値に達しないという判断をしております。そういうことから、現在の有明魚介類では発症するはずがありませんので、これは過去のメチル水銀汚染に基因しているのではないか、剖検例からもそれが考えられますので、おそらく過去の汚染が根本的な原因になっているのであろうというふうにいまのところ判断しております。  それから宇土周辺健康調査はまだしておりませんけれども剖検例に二例あるとするならば、それと同じ条件で汚染を受けた方がまだいるのではないか。そうすれば、その中から幾人かの患者さんが出るかもしれないという予想は成り立ちます。しかし、これはあくまで予想でありますので、はっきりここで申し上げることはできないかもしれません。  ところが、有明沿岸患者さんは、普通の人が見たら患者さんと見えない、違うのではないかという考えの人がおります。しかし、私どもはさっき申しましたように、大学十分専門領域の人が精査したものについての総合判断であります。そしてその患者さんたちは非常に軽症か、あるいは老人病の加わった中等症の軽いほうの側の症例ばかりだと判断しております。それと全く同じものは水俣地区にもおりまして、そういう方々は従来患者として取り扱われておりませんでした。しかし、現在はそういう方々もすべて患者として認定されつつあるわけであります。それは、現在の水俣湾及びその周辺及び有明におけるメチル水銀中毒症の分布、あり方であります。そういうことから、私どもは、それに対するいろいろの——まだ現在起こっておりますので、その水銀を体外へ出してやる必要がある。すなわち発病をまだ予防する必要がある。また発病しつつある人に対しては、発病初期治療を必要とするということで、メチル水銀の生体内の代謝といいますか動きを追求してまいりました。メチル水銀は、食べものの中のたん白質にあるアミノ酸でシステインというものがありますが、このシステインメチル水綿がくっつきましてメチル水銀システインという物質になりますと、腸管から吸収が非常に容易になります。吸収されたメチル水銀システイン血液じゅうを回ります。また肝臓に一応門脈を通して入りますので、その大部分は胆汁として腸管内に再び排せつされます。しかし、それはまた腸管から吸収されていわゆる腸管循環という一つの排せつされにくい経路をつくります。他方血液中に入りましたメチル水銀システインは、脳の中に非常に入りやすいわけであります。したがいまして、微量に流れる——これは主として血清の中にあるものですけれども血清中にあるメチル水観システインが脳に入る。また赤血球に非常に大量に、九〇%以上が赤血球にくっつくのでありますけれども、これは脳内には吸収されません。しかし、赤血球生存期間が百三十日前後でありますので、赤血球が脾臓で破壊され、再び放出されましたメチル水銀血液じゅうを回って血液内にあるシステインプールのシステインと結びついて再びメチル水銀システインになって脳に入るというような長期の体内残留を示すわけであります。また、メチル水銀はそういうふうにして脳にも沈着しますが、これはじん臓肝臓に比べますと、非常にオーダーの違った少ない量であります。じん臓肝臓には大量に蓄積しますけれども、そこの細胞の、初期には一時機能を押える程度の蓄積をします。しかし細胞は立ち直りを示して障害を受けません。すなわち機能的障害は受けません。ところが神経細胞は、それによって破壊されます。この破壊が大脳及び小脳の小型の神経細胞に主としてあらわれまして、そしてその量が少なければ間引き脱落になりますし、量が多ければ神経細胞の全脱落を起こすわけであります。したがって、重症者大脳室全体がやられますし、小脳の室もやられますために、いわゆる植物人間という生きているだけの、すなわち脳からいえば間脳と脳幹の残った、そこはあまりおかされませんので、そこの残った植物人間として生き得るわけであります。さらに重症のものはなくなります。しかし、それから軽症までの間の広い幅があります。それは重症者ほど山の高いところにありますし、軽症者は山のすそ野に広がって健康者へつながるわけです。そういう障害の中で、有明海方々のある位置はすそのほうに近い、そういう形のものだと私ども判断しております。  それにしても早くその水銀を出さなければなりませんので、腸管循環を断つ薬をいま見つけ出しつつあります。もちろん使えるものもあると思います。それから脳内の水銀を早く出す化学物質三つほど見つけておりますけれども、これはすべて動物実験の段階でありますので、将来早く人間に使うようにしようと思っていま検討を続けておるわけであります。したがいまして、予防と治療についてのかなりの明るい見通しができたと私どもは見ております。  そのほか、私は水俣病審査会の会長をしておりますので、どれが水俣病であるかということを判断するいわゆる診断基準が必要になってくるわけでありますけれども、これは今回の研究によりまして著しく進歩しました。それは自覚症状だけでなくて、他覚的な症状によってどのように水俣病を診断するかということが詳細に調べられております。そして、それは機械等を使ってもある程度表現できるようになりました。従来の診断基準よりもはるかに正確になっております。  以上のようなことが、今度私どもの二年間にわたる研究班で明らかにした主要な事実ではないかと思います。もちろん、ことに学問的なこまかい点になりますと、まだ多々ありますけれども、ここでは省略させていただきます。そういう状態でありますので、今後どうするかという問題がありますけれども、私なりの考えはあります。しかし、これは私の二年間にわたって実施してきましたデータそのものではありませんし、それを基礎とした判断でありますので、ここで申し上げるのはどうかと思いますので、皆さんの質問があればお答えしたいと思います。
  4. 佐野憲治

    佐野委員長 どうもありがとうございました。  次に、上田参考人
  5. 上田喜一

    上田参考人 上田でございます。  ただいま武内教授がお話しになりました第三の水俣病というものは、先生のお考えどおり私も過去の汚染原因だと思います。現在の有明湾のお魚では、ほかと比べましてとうてい発病するようなレベルではないと思います。  それで、昭和四十一年に私どもは、水俣と同じ硫酸水銀にアセチレンを吹き込みましてアセトアルデヒドをつくるという工場が当時日本じゅうで五つ動いておりましたうちの二つ調査する機会がございました。そのうち一つ工場は、反応塔でできた粗製アセトアルデヒドを洗います水を蒸留廃水と申しますが、その中に副産物としてできるメチル水銀を計算いたしますと、大体一日に〇・五キロつくっていたという勘定になります。もう一つ工場のほうは大体〇・三、四キロくらいをつくっていた勘定になります。皆さまもう御承知のとおり、メチル水銀があのプロセスでできることは確実なことでございますけれども、私ども調査いたしましたときは、すでに新潟事件あとでありますから、いろいろな排水処理施設をつけ加えておりますので、排水口からはメチル水銀を証明することはできませんでした。しかしその前にこれらの一部が川に出ていたおそれがありますので、お魚を調査いたしましたけれども一つ工場は小さい川を経て直接日本海に洋いでおりますために、海でとれますお魚にそれほど水銀の高いものを見つけることはできませんでした。   〔委員長退席小林(信)委員長代理着席〕  もう一つ工場のほうは、川が小さくて浅くて食べられるようなお魚を捕獲することができませんでしたので、お魚のデータがございません。当時はそれでやんでしまっております。したがって、住民の毛髪の検査もこのときはしておりませんでした。ただそのとき気がつきましたことは、これらの沈でん池のどろを定期的にくみ上げまして天日でかわかしております。その乾燥した沈でん地の汚泥の中に一〇ないし二〇PPMメチル水銀がそのまま残っております。総水銀は一〇〇〇から二五〇〇PPMくらいございます。これらを捨てるに捨てられず、たいていの工場は構内に積んでおるわけでございます。これに暴風雨とか洪水で出水がございましたとき、またこれが川の中に流れ込むであろうという心配があると痛感いたしました。その後それらをどう処分されましたか、つまびらかでありませんが、水俣ではこういうようなものに塩素を吹き込んで一度無機水銀にこわしてしまってからの処理というのを熊本大学が、考案されたということを聞いております。  こういうふうに同じような工場日本じゅうに五つとか七つとかありましても、その水銀が出てきます水域が大きな広い水域あるいは急流の川というようなところですと、あまり事故が起こりませんで、有明湾とか水俣とか瀬戸内海とかいう内海あるいは湾、そういうところが一番注意すべきものだろうと思います。  その次、富山県の高岡市を流れている小矢部川を調査したことがでございますが、これはたまたまここに水銀を電極といたしまして食塩を分解してソーダ塩素をつくるいわゆるソーダ工場二つと、塩化ビニールをつくる工場一つと、三つ水銀関係工場がありまして、川の底質つまりどろの中に有機水銀があったということで問題になったわけでございます。ここを四十三年の六月に調査いたしますと、ウグイは総水銀で〇・五から〇・七PPMメチル水銀で〇・二PPMというような現在の水俣湾と同じぐらいのレベル状態でございまして、ことにナマズ、と申しましてもこれは三十センチぐらいの大きいナマズですが、それは一PPM、その六〇%から七〇%がメチル水銀というような汚染度でございました。  それで富山県はちょうどこの中流に漁業組合がございまして、また川魚料理店があるということで、多食者三十名ぐらい、ほんとうは何百人をいたしましたのですが、非常にお魚を多食する者だけを私ども引き受けまして、毛髪を検査いたしますと、最高が二六PPM、最低でも一四PPMぐらい、つまりこれぐらいの程度のお魚を多食すると、まあ多食というのは二百グラムか三百グラムを食べる人と思いますが、頭の毛にこれぐらいの水銀がたまる。そうしてその毛の中の六五%はメチル水銀でありました。  その後、厚生省は全国的な河川の調査をして、それをいま環境庁が受け継いでおられますが、いま日本で一番水銀あるいはメチル水銀がお魚に高い川と申しますと、やはり奈良県の芳野川と北海道の無加川という二つで、平均して一PPM前後、これはウグイあるいはフナがおる川でございます。実は、どちらもこれは、奈良県のは大和鉱山という水銀鉱山北海道のはイトムカと申します水銀鉱山、そこを水源地といたしまして流れております川で、結局これは人工汚染と申しますよりは、地層無機水銀が溶け出しましてもそれが多い場合には川のお魚はそれをメチルとしてため込んでおるということだと思います。アメリカでもFDAに聞きましたところそういう例はありまして、カルフォルニアの山の中の湖で五PPMというお魚がとれたことがあるということで、やはり地層性水銀ということもあり得ることを認めておりました。その他は神通川の一支流で、これまた五、六PPMから一〇PPMのお魚がおりまして、それをずっと追及しておりますが、これは御存じ水銀消毒剤でありますチメロサール人工汚染でありまして、たまっているのがメチル水銀でありませんでチメロサールの成分でありますエチル水銀だというところが非常に特異なところだと思います。しかしこれはいま中止して五年目ぐらいで著しく低下いたしまして、アユは安全期に達しておりますが大きなウグイはまだ相当高いものがございます。いろいろの川や海のお魚の分析値をごらんになりますときに、十センチとか十五センチのお魚は汚染地区でも非常に小さい水銀しか持っておりませんで、比較になりません。やはり二十センチ、三十センチという大きな、ある意味では年を越した二歳とか三歳のお魚が非常に高い水銀を持っておりまして、それら同士を比べませんと比較にならぬと思います。  その次にいたしました水銀をたくさんとる人としては、御承知のようにマグロの漁船員でございます。私どもの担当いたしましたところだけを申し上げますと、五十八名の漁船員のうち毛髪平均は一九・九PPMで、その六三%がメチル水銀、つまり平均して一二・七ぐらいでございました。そのうち十三名は二五PPM以上の総水銀を持っておりまして、最高は四五・七PPMメチルとしては三三・七というような高いものを持っておる。神戸大学の喜田村教授の担当されましたほうには六五というようなPPMの高い人も二人ぐらいありまして、マグロ漁船員の人たちのマグロの摂取量は一日百五十から三百グラム、マグロは〇・五か〇・六PPM、おさしみにするマグロですとその程度。それを六カ月毎日食べた人ですが、どうしても傾向として三十歳、四十歳の年齢の高い漁夫で、十年から二十年漁船員としてやっている人、こういう者に高いという傾向は確かだと思います。  それからアメリカでビフテキのかわりにカジキステーキを体重がふえないために愛用している御婦人連二十幾名の中に、毛髪中に四〇PPMをこす人が二人いま報告されております。カジキは一PPMぐらい水銀がございますけれども、毎日カジキというわけではありませんで、カジキとマグロとまぜておりますので、ほんとうの摂取量はちょっと明らかでありませんが、少なくともこういう天然のお魚を食べても四〇PPMぐらいになるということがわかります。  次に、この五月の日本衛生学会に東京都の衛生研究所が発表されました、かなり多数の東京都民の毛髪中の平均は四・五五であって、三多摩地方で四・七、大島は島ですから、少しお魚を多く食べるところで五・四、それからお魚を取り扱うような、非常にお魚を食べる習慣のある人の毛髪平均として一九PPMというように明らかに差が出ているようでありまして、男性と女性では男のほうが一・八倍ぐらい多いということで、やはりこれはお魚を食べる量に比例しているのだと思います。  こういうことを考えますと、有明湾以外にも——かつての有明湾がどれくらいの高さであったかわかりませんけれどもメチル水銀をたくさんとっているという人が、商売上でありますとかあるいは趣味であろうとも幾らかある。この人たちの精密検診ということが非常に役に立つのでございますけれども、マグロ船員に関しては残念ながら数名簡単なのがやられただけで、前から私としてはこの人たちの精密検診をぜひやっていただきたいと言っておりますし、椿教授もそれを希望されておられますけれども、この人たちは船から一月上がりますとまた船に乗ってしまうというわけでなかなかつかみにくい人たちなんで、いま進んでおらないようでありますけれども、国家として、やはり本人のためにも、また学問上にも、このくらい常用する人はどういう変化があるかということを知るためにも非常に貴重な資料だと思います。東京都のほうは都の衛生局で着々と非常に水銀の多い人の精密検診はやっておられるようで、いずれ結果が出るのではないかと思います。  許容量に関しましては、メチル水銀に許容量ということはありませんが、言いかえますと、摂取しても安全であろうという量に関しましては、いま厚生省で委員会みたいなものをつくってやっておりますから、きょうは何も申し上げませんけれども、私自身の考えとしては、二つに分けて考えるべきだと思います。  それは汚染地区、たとえば水俣湾その他さっき申し上げましたような地区で、どのお魚にもそろって水銀が高いという地区の人、それからマグロ漁船員のように毎日食べるお魚に必ず高い水銀があるという職業的に暴露をされておる人、こういう人と一般国民とは分けて考えるべきだと思います。たとえば、いまある日にマグロを食べたといたしましても、一週間あるいは一月をならしますと、その量はたいしたことではないわけです。WHOや何かも、一週間にどれだけ食べたというような概念をいま入れつつあるわけで、何PPM以上のお魚は売ってはいけないという規制はかえって日本国民の食生活を乱すのではないかと思います。そうでなくて、汚染地区にはそういうことを引いていいけれども日本全体に対しては、もっと教育的な、各人が自覚するというようなやり方で十分やれるのではないかと思います。教育が進んだ国ならそれで十分やれるので、たとえばイギリスはそういう方針をとっておると思います。  さて、問題の残りますのは、妊娠している人、あるいは授乳している人、あるいは小さい子供に対する許容量をどうするかということ、これは武内先生もおっしゃるように、もう少し真剣に考えなくてはいけない。WHOでもそういう考えなんですが、さてそれをどこに引いたらいいかということは、もう少々データが集まりませんと申し上げられないと思います。  私の申し上げたいことはこれでおしまいにいたします。どうもありがとうございました。
  6. 小林信一

    小林(信)委員長代理 どうもありがとうございました。  次に、松野参考人にお願いいたします。
  7. 松野武雄

    松野参考人 ただいま御紹介にあずかりました横浜国立大学松野でございます。  私は工学部のほうにずっとおりまして、つい最近新しい環境科学研究センターというのができまして、そちらのほうにかわったばかりでございますけれども水銀問題に関しまして、特に私の専門は応用化学、その中でも電気化学という方面をやっておりましたので、先ほどもちょっと出ておりましたけれども、いわゆる水銀を使います食塩電解法というのが現在ございまして、その水銀の廃水、あるいはどろ、あるいは大気へ飛ぶやつ、そういうような、いわゆる無機水銀ではございますけれども、そういうものが今回のいわゆる有機水銀の事件に何らかの関係があるのではないか、そういうような意味合いにおいて、本日私が参考人として呼ばれたのではないかというように考えております。  そういう次第でございますので、私は生化学的のこととかあるいは医学的のこととかいうことにはほとんど知識はございませんが、一応いま申し上げましたような趣旨から、水銀法の食塩電解につきましてはここ数年来研究をしておりますので、その概要を一応申し上げまして、さらに必要がございましたら御質問を受けて、わかることはお答えしたいと存じております。  食塩の電解法には、御承知のように水銀を使わない隔膜法という方式と、それから水銀を使いますいわゆる水銀法という方式がございまして、戦前はその比率が隔膜法のほうが日本でも多かったのですが、戦後ドイツの技術とかあるいはアメリカの技術とかいうものが入りまして、急激にキャパンティーも大きくなりましたし、水銀のほうが非常にきれいな苛性ソーダができる。そういうようなことでどんどん水銀法の占める比率が大きくなりまして、現在、日本では水銀法の比率が、生産量とキャパシティーとはちょっと違いますけれども、四十七年の苛性ソーダの総生産量が大体三百万トンといわれておりますが、そのうちの約九五%が水銀法を使っている。残りの五%が隔膜法でやっておる、そういう現状でございます。  例の水俣病が起こりまして、それから昭和三十九年から四十年にかけましていわゆる第二の水俣病、阿賀野川の事件がございまして、それから約十年足らずで今回の武内先生あたりの御調査によりまして第三水俣病が発生したということは、まことに遺憾に存じますが、結局どういうことが今後なされるべきかということなんですが、一つは、やはり汚染源が一体どこなのか、それから汚染源から汚染される経路が一体どういうことになったのか、この点については、まだ相当論議があるのではないか、そういうように考えております。  それからもう一つは、先ほどの食塩電解から出てまいりますような水銀、いわゆる無機水銀でございますが、それが有機化するその機構、これもピュアな、非常に純粋の系のものでやりますと、これは生化学的にもすでにスウェーデンでも発表されておりますし、それからアメリカのウッド教授あたりもそういうことを申しておりますし、いわゆる嫌気性の条件さえ整えば、無機水銀が有機化するということもあり得ると思います。それから、たとえば無機水銀と酢酸とかアセトアルデヒドとかある種のアルコールとかそういうものがたまたま廃水の中でまざる、そういうようなことで、いわゆるケミカルリアクションによっても可能性があるかと考えます。したがいまして、無機水銀であるから即安全とは言えないということは一つございますが、無機水銀そのものが全部有機化するのだ、この考え方もまた極端に走っているのではないか、私どもはそういうように考えております。  話がちょっと変わりますが、ここ数年来、私どもでやりました研究は、結局いろいろな基礎的なデータがわからなければ最終的なことはなかなか言えないのだ、そういう点で特に食塩電解の中の水銀法の工場にしぼりまして、大体電解槽の中では一体どうなっているのだ、水銀の形だとか挙動、それから御承知のように水銀法では約一五%ぐらい食塩が分解して、それが再びいわゆる戻り塩水としてぐるっと回ってくるわけです。途中で塩を飽和して、さらにまたもとの電槽へと循環して入れているわけですが、その場合に電槽の中ではメチル水銀は精製しない、これは私どもの実験で見つけております。逆に申しますと、実験室的に小型の電解槽をつくりまして、その中に一PPMくらいのメチル水銀を入れます。そうしますと、三十分くらいで完全に——もっと早いかもしれませんが、いわゆる非常にナッセントな塩素あるいは塩素ガスがどんどん出て酸化状態にございますので、かりにできたとしてもこわれている、おそらくできない。それから戻り塩水として出まして、いわゆる食塩を再飽和いたします。その食塩の中にカルシウム、マグネシウムみたいなものがありますので、アルカリを加えてアルカリ精製をしてきれいなブラインを取りますが、そのときに炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムのいわゆる沈でん物ができますが、それに一緒にひっかかって水銀の化合物が落ちる、その水銀の形態が一体どういう状態なのかということが従来わかっておりませんでしたが、私どものところでいろいろ調べました結果、これは工場の種類とかどういう電槽を使っているとか、それからあとで再飽和いたします原塩の種類、たとえば非常にきれいなオーストラリアだとかメキシコの塩を使うとか、あるいは逆に中共のような不純な塩を使いますと、そこで沈でんする量がふえるわけです。その条件によってもいろいろ違いますけれども、大体金属状の水銀と一価の水銀とそれから二価の水銀、これはおもに酸化水銀だと思いますが、こういうものが出て、これがいわゆるマッドとかスラッジとか言っておりますけれども、それを現在では、ある工場では堆積している、それからあるところではこれをコンクリートに固めて海洋投棄をしよう、これも御承知のようにあと数年でおそらく海洋投棄は不可能になるであろう、そうしますと埋め立てをするか、あるいは何らかの方法でまた水銀を回収するか、この辺にまだ技術的な問題が幾つか残っていると思います。結局そのどろの処置、いわゆるマッドの処置なんですが、これについては現在いろいろなところでも研究がされておりますが、いわゆる工場の広い敷地の中に堆積しておく、これが従来いろいろやられておりましたが、いわゆる微量物的にもしかりにいくとすれば、相当長期間にわたって堆積する、ということは、その堆積物の中に嫌気性の条件が出まして、あるいはそこで有機化することがあるかもしれない、これは私はっきりわからないのですが、そういうことも一応の学問的な立場からの考えとして全然できないとは言えない、そういうような感じがいたします。  それから廃水のほうは、現在いろいろな処理をいたしまして、いわゆるクローズドシステムで外へ、水銀は基準値以下にして放流している、その放流されました廃水が、たまたま上流か下流かわかりませんが、ある特定の妙な、たとえばいろいろな有機物と接触したときに、そこでまたケミカルにできる可能性も考えられないことはありません。しかしこの点についてもはっきりしたことはまだわかっていない、そういう状態でございまして、いわゆる無機水銀の有機化ということは、いろいろな説はございますけれども、特に必要なことは、いわゆる純粋の、たとえば実験室でやります昇汞にある種のバクテリアを作用させる、そういうような非常に純粋な系ですと、単純によく結果がわかりますけれども、これがどろとして堆積したり、あるいは廃水として川とか海に放流されましたときに、それから先どういうものと接触をするか、あるいは何か物に吸着するか、その辺のことについては、どうも研究が不十分であるのではないか、そういうように考えております。  今回の第三水俣病の発見に関しまして、たいへん残念なできごとではございますけれども、これ以上はもう再度起こしてはならない、そのためには多くの方々の御協力によってここでひとつ徹底的な調査あるいは今後の対策をどういうように進むべきか、そういうようなことを衆知を集めて研究していくべきだと私は考えております。  簡単でございますけれども、一応そういうことでございます。
  8. 小林信一

    小林(信)委員長代理 どうもありがとうございました。  引き続きまして、参考人に対する質疑の申し出がありますので、順次これを許します。菅波茂君。
  9. 菅波茂

    ○菅波委員 私は、きょうは特別に武内先生の熊本大学の医学部で「十年後の水俣病研究」というのをなさいましたそのレポートを実は拝見して非常に貴重な文献だと思うわけですが、その中で二、三お聞きしたいことがあるわけです。特に武内さんにお願いしたいと思います。  この研究を、何か三年のやつを二年で、二年を一年分でやってしまった、たいへん忙しかったと思うし、たいへんな努力であったと思うのですけれども、まずそういう研究に対して私は心から敬意を表するわけです。  さて、その先生の序文の一ページの中で、たとえば今後残された問題として研究地域以外の汚染区域をどのようにするか、それから水俣病患者治療を改善していく、あるいは新しい治療法、先ほどの先生の御意見の中にも、そういうような脳から遊離するような研究をしたというお話もあった、非常に心強いお話だったわけです。それから、これからの汚染、新しい発生をいかに予防していくか、こういうようないろいろな問題、もちろん医学的な問題があります。それから研究所内でもいろいろ問題があると思うのです。そういうようないまのこの状態の中で、たとえば研究所内の問題とかあるいはいまの医学的な問題で、先生が何らかの形で援助などと、こう書いてあります。したがって、研究者としての先生は、研究上あるいは医学研究上でもいいわけですけれども、あるいは行政上何か必要と思われる、つまり対策でありますが、そういうものがいまおありだったら、時間があまりない、十分くらいのものですから、簡略に申し述べていただきたい。
  10. 武内忠男

    武内参考人 御質問のポイントが私に十分わからなかったのですけれども、今後どうしていくかという、私ども大学内での研究者の立場をどうするかということが一つと、それからもう一つはそとでの対策に対して私どもがどういうように考えておるか、その二つの点でしょうか。——ども学内で研究する場合に、大学では学生教育とそれに付随するところの研究あるいは研究者の好みによる研究があって、それらが日常行なわれておるのが大学の中の一つの仕事だと思います。私ども大学ではそれにさらに水俣病という非常に社会的に重要な問題がありますので、これに取り組んでいるわけであります。したがいまして、やるわれわれにとりましては非常に時間の制約があります。もちろんそれに全力を集中したいのでありますけれども、いろいろな条件がありまして現在それが十分できるというわけではありません。特に水俣病に関する研究におきましては、研究業務とそれから検診業務と二つにわけて考えなければならないと思います。私どもがこの二年間にやりましたのは、将来健康被害をどういうふうにするか、それは健康被害患者さんたちをどういうふうにするかということを医学の面で健康調査をしていくという基本をつくりたい、この基本をつくるというのが一つ研究であるわけです。それができあがればそれを応用する側、すなわちこれは行政の側でいいと思います。すなわち県の医療行政の立場から一斉検診とかあるいは被害者の発見だとかいうのは、もう研究の部門に入らないと思います。しかしそのほかに不明な点を解明するのがわれわれの研究業務だというふうに私ども考えております。したがって、研究業務と検診業務とを今後は二つにわけてやっていかないととても手に負えないということです。検診業務は、これは私どもが二年間やったものをモデルにしてそれを十分活用できればその方法がそのまま生きると思います。ところが研究になりますと、これはいろいろ研究所内のあるいは大学内でのやり方によりまして、結局不明な点を解明するというところに集中していきますので、どうしても切りがないわけです。次々に不明な点が起こってきます。それを解明するために私どもはどうしても研究班が必要だし、またそれに必要な経費を必要とするわけです。だからその研究費の援助を仰ぎたいということ述べてあるわけです。  それから検診のほうは、これは私ども審査会で非常に苦労して水俣周辺の第一次の場合の水俣病患者さんたちを発見しつつあるわけですけれども、たまたま今度有明患者さんが見つかりましたので、そうしますと、有明海沿岸がかって汚染された、それによって影響を受けた人があるかもしれないということになりますと、これはかなりばく大な健康調査ということになりますので、私どものいまやっておる研究班内での仕事としてはとてもやれないということです。したがって、これは何かほかの方法で、すなわち行政の面からの健康調査が必要だというふうに私は考えております。それをどうするかが非常に検討されなければなりません。しかしそれはあまり長く検討しておったら問題でありますので、早急にその方法を見出して直ちに実施するというような形をとっていただきたいと思っております。  それから、私ども研究者として非常に遺憾といいますか、常に私どもは圧迫感があります。これは何か目に見えない圧迫感でありまして、研究に携わっておる人はその圧迫感に耐えかねて研究をやめるあるいは研究に取りつかないという状況が現在でもあるわけです。私ども研究班の中の人たちは非常に苦労して、そういう何か目に見えない力を常に心配しながら、私自身も非常に心配しながらやらざるを得ない。  今度の場合でも私どもは、日本全国の漁民の方が最初に被害を受けますので、漁民の健康被害をなくしようという努力のもとにやったわけでありますけれども、この報告が発表されますと、まず漁民の方は魚が売れないということで非常な脅威を感じて、そしてそのはね返りが私どもにまで影響を及ぼすわけです。すなわち、漁民の方々を救おうとすることが漁民の生活を圧迫するという、まことに私どもの理解できない矛盾がそこに発生しております。これはおそらく漁民の方は魚が売れないということ、それは直ちに生活に関連しますので、その脅威のほうがむしろ先に来るわけです。目に見えない公害による被害ということは、水俣現地を知っておる人はすぐにこれはいけないと思いますけれども、その実情をよく知らない人は、将来自分に襲ってくるかもしれない被害についてはむしろよそごとと思いまして、あすの生活のほうを重要視するわけです。  したがって、これに対してどうするかということは私自身のいい考えはありませんけれども、少なくとももし、漁民の方々がとった魚介類を一般の人が買わないわけですから、一時的にでも公の機関がかりにそれを買い上げておいて冷凍し、冷凍した魚をメチル水銀をチェックして、そうして汚染が基準以下であればあるいは人体に健康被害を起こすような量でなければそれを売ればいい。そして売った金で漁民の方を補ってやれば、多少安くなっても生活が可能だと思います。何かそういう手当てをしない限りは、常に新しい水俣病あるいはPCBとかそういう問題が起こるたびに漁民の方は拒否反応を示し、それが社会問題として取り上げられてくる、それを繰り返すのではないかというふうに思いますので、私はここで強くお願いしたいのは、そういう問題が起きた場合に、まず漁民の生活を助ける方法を考えていただきたいと思います。そうすれば漁民の方はその脅威がなくなり、また将来公害問題が起こっても、われわれの研究にも十分協力して、そうして住民の方々の健康を保つ方向へ正しい反応をするのではないかと思います。現在の反応を私は正しいと思っておりません。誤った反応だと思っております。それをぜひお願いしたいと思っております。  なお、先ほど申し上げましたときに落としましたのは、水銀が体内に残るというのは、人間の場合は、日本にそういうメチル水銀を出すような工場が何カ所かありまして、その周辺ではメチル水銀が過去から現在にかけて高いわけですから、そこの住民の方々の生体内における臓器水銀は少し高い。それに汚染がさらに加重されますと生体内における水銀の蓄積が長く続く、すなわち生物学的半減期が非常に長くなるわけです。従来の七十日よりもそれの約三倍にまで生物学的半減期が延長しますので、微量の、前に言いました水俣湾程度水銀があれば、それによって従来の考えよりも早く発病するとか、あるいは従来の量よりも少なくても発病する条件があり得るということが考えられますので、少なくとも私は、水俣湾と同じメチル水銀量を示す魚介類が証明される地域では、健康調査をしまして、そして住民の方々の健康を守ってやる、もし障害されておる方々があれば、早くそれを医療にのせて治療をすべきだというふうに考えております。  以上です。
  11. 小林信一

    小林(信)委員長代理 ちょっと速記をやめてください。   〔速記中止〕
  12. 小林信一

    小林(信)委員長代理 それでは速記を始めてください。
  13. 菅波茂

    ○菅波委員 いまの武内先生のお話の中にも、水銀の生物学的な半減期というお話が出たわけですけれども、前の喜田村先生のものと非常に数字が違っておるわけですが、そのデータを先生の場合にはまたもっと専門的に突っ込んでいくという考え方はおありかどうか、それだけお伺いいたします。
  14. 武内忠男

    武内参考人 専門的に突っ込むという意味がはっきりわかりませんけれども、私はやはり人体例で一ぺん出してみたいと思ったわけです。ところが、人体例の場合は動物実験と違いまして、条件がむずかしいわけなんです。自分で条件を設定するわけにいきません。したがいまして、数学的処理ができると思われる症例についての、すなわち初期のものに重点を置き、二年五カ月のものまでは一応数学的処理ができるのじゃないかという数学者のアドバイスがありましたので、それに従って計算してもらったわけなんです。そういうことから出したわけです。
  15. 小林信一

    小林(信)委員長代理 島本虎三君。
  16. 島本虎三

    ○島本委員 武内先生と上田先生にお伺いしたいと思います。  ただいまのいろいろな報告、ほんとうに肝に銘じて聞きました。その中で熊本大学の第二次水俣病研究班の長としていろいろ検討なさいました武内教授は、メチル水銀の〇・五PPM、これが魚介類に微量でも摂取されると、一年以上これを食べると水俣病症状の危険性がある、こういうようなことでございました。したがって、長期微量摂取の危険ライン、これは不明であっても、それ以下は安全という意味ではない、こういうような御報告があったと思います。上田先生のほうでは、これは特定の場所は別にして、長期であってもそれはもうたいして気にせぬでもいいのだ、毎日でなければいいのじゃなかろうかと、こういうようにも受け取れたわけであります。何かそこがちょっと違っているように思いましたが、私の質問もへたくそでありまするけれども、その辺を国民の前に解明してもらいたいと思うわけであります。
  17. 武内忠男

    武内参考人 魚介類すべてに〇・五PPM湿重量でメチル水銀があれば、それは非常に発症し得る段階ではないかと私は見ております。   〔小林(信)委員長代理退席、委員長着席〕  ところが、一般的には〇・〇〇アルファPPMというような魚もありまして、平均すると非常に低くなってくるわけです。そういう場合は危険値以下だということでありまして、私は自分のいままでの研究を基盤にし、またWHOその他の基準を勘案しまして、現在一PPM日本暫定基準ですから、これを一けた下げたらいいだろうということを言っておるわけです。それは私としてはまだ根拠があると見ておりますけれども……。
  18. 上田喜一

    上田参考人 いま武内教授のお話しになりましたように、私の申し上げましたのも、毎日〇・五あるいは少し譲りまして〇・三PPMでも、毎日食べるお魚すべてにそれくらい入っておれば、これは相当危険と考えなければいけないと思います。ところが、いま外海のお魚でありましたら、カツラとかブリとかマグロ以外の白い肉の魚は〇・〇幾つという問題になりませんような水銀でございますから、その中のメチルはまたその三分の一ぐらいというわけですから、そういうものをとっておるところに一週に一度か二度マグロが入る、こういうようなことでも、からだの中の蓄積というのはやはり一週間ならした数で十分考えてよろしいのだと思います。WHOもそういうふうに考えております。
  19. 島本虎三

    ○島本委員 次に、私は武内教授にお伺いいたしたいと思います。  それは最近新聞でも御承知のように、敦賀湾の魚介類のPCB並びと有機水銀の汚濁、それと琵琶湖の汚染、それとあわせて新潟、福井、兵庫、山口の岩国、別府、それから京都というふうにして、方々汚染が検出されておるわけであります。そうなりますと、PCBや有機水銀というようなものが多いようでございますが、現在病気におかされている人、これはもちろん最高治療もしなければなりませんし、それも早く開発しなければならないと思いますが、その間に、まさに次の世代の人のほうが心配されるのではないか。脳神経がおかされたままでは、先ほど御説明のありましたように、植物的生存を余儀なくされる人しか生まれてこないということになると、これはまさに重大なことであります。これは遺伝的なものもあるかどうか。  それとあわせて、これに対する排出の効能を持つ薬も発見されつつあるということでありますけれども、これはいつごろまでのめどでございましょうか。その点もひとつお伺いさせていただきます。
  20. 武内忠男

    武内参考人 ただいまの質問には三つの点があったと思います。  第一の、順序は違いますけれども、遺伝と関係があるかどうかということについては、私どもも非常に関心を持っておりまして、生物学的なスウェーデンの学派の検討によりますと、たとえばショウジョウバエだとかタマネギの球根というようなものの細胞については、確かに突然変異が起こっておるようです。しかし私ども水俣地区水俣病患者及びその周辺の人たちを検討しましても、現在遺伝に影響を及ぼすような被害は出ておりません。また胎児の場合、胎盤ができる胎芽性の場合と、胎盤ができたあと胎児性のものを見てみますと、胎児性が主としてあらわれております。私どもは胎芽性のほうはまだ見出しておりません。しかし、ないという意味ではなくて、まだ見出していないという段階ではないかと思っております。  それから第二に、将来胎児なんかに影響を及ぼすということになりますと、水銀は現在ある水銀でも非常に危険ではないかという御質問だと思いますが、私はやはり魚介類をとる場合には主として漁業に携わる人たち、すなわち魚を食べる人たちと一般家庭の人たちと、それから妊産婦とは——主として妊婦ですけれども、妊婦は別個に観点を置いて魚のとり方に注意をしなければならないというふうに思っております。したがって、基準をきめてもその基準は一般の人に対するものか、あるいは妊婦に対するものか、老人発病しやすいですから、老人に対するものか、そういうことの規定がまた必要ではないかというふうな考えを持っております。  それからもう一つの第三の御質問で、島本先生の一番先に言われた御質問は魚の何だったでしたか、遺伝と胎児とかそういうものに及ぼすものと、もう一つは……。
  21. 島本虎三

    ○島本委員 治療方法の開発がいつごろできるか。
  22. 武内忠男

    武内参考人 治療の問題ですけれども、これはもう起こってしまった人は、神経細胞は再生できませんので、リハビリテーション以外にないと思います。また、それがなおらないからといって放置はできないので、特に研究班の立津教授研究によりますと、やはり神経細胞障害されて後遺症のある人でもアフターケアを十分してやらないと、合併症その他のことで健康被害がますます強くなるというふうにいわれておりますので、やはりそういう治療がどうしても一つは必要だと思いますけれども、現在水銀を早く出してやるというその薬は、人間に使う場合は副作用ということがありますので、動物実験段階では可能であっても、人間に使う場合には十分副作用の検討をした後でないと使えません。したがって、これをどの程度までするかということは、いまやっておるわけですけれども、そう長くかからないうちに出したいというふうに考えております。その薬は脳作用の賦活剤にもなるという物質もありますので、案外副作用なしに考えられる物質かもしれません。もし、それが可能であれば、そう長くないうちに使えるのではないかということも考えております。
  23. 島本虎三

    ○島本委員 これで終わりたいと思いますが、最後にやはり武内先生、第三の水俣病、これが発表以後、国民もまた関係漁民も相当混乱におちいっておるようであります。しかし、それは事実なのでありますから、真実の前には先生はこれを敢然としておやりになっておると思います。あらゆる方面からの脅迫もあるのではないかと思われます。同時に、いまマスキー法のマスキーさんが来ておられますが、マスキーさんでさえも、脅迫や圧迫があったということを言っておるのであります。そういうような立場から、先生もこの問題と大いに取り組んで敢然とやってもらいたいということであります。こういうようなことがあったかどうか一言聞かせてください。  それと同時に、同じような状態汚染されておるところは、有明湾や不知火やこの辺だけではなかろうと思います。方々水銀を使っておるところもあるようであります。北海道の鉱山にまである始末でございます。無加湾まであるわけでありますから、こういうふうにしてみますと、方々にこういういうような被害があるのではないかと思います。先生は日本全国で何カ所くらい危険地域だと考えておられるのでありましょうか。これは簡単でよろしゅうございますから、一言答弁をお願いいたします。
  24. 武内忠男

    武内参考人 私は、医学の一教授でありますので、その任務を全うしたいと思いまして、私は、専門が病理学ですから、病理学に運び込まれる遺体の中にそういう病変が出ておりますと、やはりどうしても研究しなければならないというような立場で研究をしております。したがいまして、事実を学会に報告するということは、私どもの任務の一つですから、これは今後も遂行したいと思っております。ただ目に見えない圧迫と言いましたけれども、それはたとえば今度の場合でも、漁民の方が生活できない、魚が売れないということになりますと直ちに響いてくる、そういう意味での圧迫でありまして、これはどうにもならない、やはり解決がむずかしい問題で、今後も続くと思いますけれども、しかし、それは私ども医学をやる医師としてどうしても健康被害を受けた患者さんたちを健康に戻す、そういう精神は失いたくない、それに立脚して私どもはやらざるを得ないというふうに考えているわけです。  それから、先ほどちょっと一つ質問にお答えするのを落としたのは、水銀量の問題があったと思いますけれども、これは平均値が〇・一PPM以上という意味でありまして、〇・一PPMのものがあったらという意味ではありません。それだけです。
  25. 島本虎三

    ○島本委員 ありがとうございました。
  26. 佐野憲治

    佐野委員長 中島武敏君。
  27. 中島武敏

    ○中島委員 武内先生たちの今回の研究報告に対して深い敬意を表します。また同時に、たいへんな圧迫感と戦っておられるというお話を聞いて非常にわかる気がいたします。私ども現地調査を行ない、ほんとうにいまのお話を聞いてわかる気がするわけです。そうしてこの問題は、やはり漁民の補償の問題というようなことを考えなければならない問題でありますから、当然原因者あるいはまた行政の側が責任を持って解決しなければならない、そういう問題だと思っております。そういう上に立って武内先生に三点御質問をいたしたいと思います。  一つは、熊本県の沢田知事が先般通達を出されました。「熊本県の魚介類の安全性について」という通達でございますが、この中で現在の有明海八代海魚介類は、水俣湾と恋路島付近の一部を除いて危険値に達しておらないので安全である、こういうふうに言っておられるわけであります。そこでほんとうに安全だというふうに言い切れるものなのかどうかということであります。  それから、これに関連してもう一つは、水俣湾魚介類汚染については毒年調査が行なわれておりますけれども有明海調査、これは非常に私ども不十分だと思っておりますが、先生のほうでは、これまでの調査で十分だというふうにお考えになっていらっしゃるのかどうかということについてお尋ねしたいと思うのです。以上が第一の質問です。  第二の点は、県のいままで実施してきました一斉検診のやり方の問題点ですね。これは具体的にどういうところに問題点があったのか、そしてまた、これを改善していくためには、どのようにすればよろしいとお考えになっていらっしゃるかということについてお尋ねいたしたいと思います。  それから第三の尋ねたい点は、たいへん御苦労なさって熊大研究班調査研究を進めていらっしゃるのですけれども、これに対して、政府や県のこれについての予算措置、これは実は予算だけの問題ではないということを重々承知した上でお尋ねするわけですが、予算措置の問題について、第一次研究班に対してどのような予算措置がとられたか、また第二次の今回の研究班に対してどのような予算措置がとられているか、そしてまた、これに関連して先生方のほうでこれからどういう点を研究しなければならないというふうになっていらっしゃり、そしてまた、それに対して研究費はどれくらい必要とされるかということについてお尋ねしたいと思うのです。  以上三点をお伺いいたします。
  28. 武内忠男

    武内参考人 第一の御質問ですけれども有明海水銀汚染が、現在安全宣言にしていいかどうかという問題だと思いますけれども、これは先ほど申し上げましたように、最高は〇・アルファがありますし、〇・〇アルファ、それから〇・〇〇アルファという程度があるわけです。少なくとも〇・アルファPPMメチル水銀のある魚が少数の中の一匹でもおれば、やはり汚染がある、ことに〇・〇アルファのものがあれば、やはり汚染が残っているというふうに見ていいと思います。しかし全体の数から見まして、〇・〇アルファと〇・〇〇アルファが多ければ、二百グラムぐらい食べても危険ではないということであります。それは量の問題もありますので二百グラムぐらい食べては危険値に達しないというふうに言っておるのでありまして、私は一度も安全だということは言っておりません。  それから一斉検診の問題点でありますけれども、これは地域によって非常に違ってくると思います。たとえば鹿児島県が今度一年間一斉検診をやりました。非常に受診率がよくて九七%の受診率があるわけです。そして一年間に全部それを二次検診、三次検診まで持っていきまして、その中から先般四十名の水俣病患者が認定されたわけです。ですから非常に地域によってはやりやすいところがあって、私ども研究班でつくったアンケート用紙とか、そういうものを十分使ってでもそれができるわけです。ところが拒否反応の強い住民のおられる地域ではどうしてもそれができないということなんです。そうしますと、その第一次のアンケート調査でも、六十数%というように低くなる。私どもが一番困ったのは、第三次検診でもどうしても出てこられない方もおりますし、あるいは他地域へ仕事に行きまして、そして出てこられない方、その他のいろいろな事情がありまして、非常にいろいろな困難があります。だから私は、やはり住民の方の協力以外にこれはない、幾ら行政の人がたたいてもだめだし、研究者が飛び回ってもできませんし、一にかかって住民の方の考え方によるというふうに言えるのじゃないかと——思います。  それから、第三の予算措置ですけれども、第一次の水俣病研究班でよく皆さんいわれますけれども、それは第一次というものははっきりしないわけです。たとえば文部省からもらったり、あるいは厚生省からもらったり、あるいは米国のNIHからもらって、その研究班はそれぞれメンバーもかわっておりますし、だからそれらをひっくるめて第一次の研究班というような形で呼んでおるわけです。したがって、そのときのそれぞれの——非常にわれわれは不満だったんですけれども、少額の研究費はいただいております。それから文部省からも毎年何らかの形で、水俣病研究班としてではなくて、各講座の教授に対して、講座が水俣病研究をやる、その部面に申請をしましてもらった金はあります。しかしながら、それはいつも不足状態ということです。それから私、第二次をつくりましたのは、これは二年間ですけれども、この間は主として県から研究費を仰いでおります。一年度は三百六十万円、二年度は一千万円です。千三百六十万円で実施したわけですけれども、これは決して足りたわけではありません。だから研究者はポケットマネーでかなり補っております。そういうことです。  それから、今後研究にどれだけ金が要るかということは、現在環境庁でメチル水銀中毒症に関する研究班を組織して、全国的にこれを実施するという構想のもとに一昨日話し合いをしました。しかしまだ金額はわかっておりません。しかし環境庁には五百万しかないそうです。環境庁が公害に対して、れれわれに充てられる金は五百万しかない。だからこれで全国のメチル水銀中毒、それから新潟の水俣病、とてもできないと思いますので、環境庁の方は少なくともそれを一けた上げて要求してみようといっております。しかし、私はそれでも足らないと思います。一けた上げても足らないと思います。
  29. 中島武敏

    ○中島委員 ありがとうございました。  一つだけ松野先生にお伺いいたします。  先ほどのお話では、食塩電解法で隔膜法と水銀法がある、そして日本の場合には九五%が水銀法であり、五%が隔膜法だ、こういうお話でございました。これは日本の場合にそうなのですが、諸外国ですね、たとえばアメリカとかイギリスとかフランスとかイタリアとか、いわゆる高度に発達した資本主義国、こういう国々でははたしてやはり日本のように水銀法を多用しているものであるかどうか。もし数値的にも、あるいは数値的にはっきりしませんでしたら概略でけっこうでありますが、お知らせいただきたいと思います。
  30. 松野武雄

    松野参考人 お答えいたします。  ヨーロッパでは現在大体七、三の比で、七が水銀法でございます。それからアメリカは、これは歴史的に隔膜法から発達いたしまして、特に有名なフッカーという会社もございますが、現在逆にアメリカでは隔膜法のほうが七五%くらい、水銀が二五%くらい、大体そういう状態で、日本は、先ほどもちょっと申し上げましたが、戦前はいわゆる隔膜のほうが多かったのです。それが戦後、特にドイツのPBリポートというのがございますが、そういうもので特に狭い地域でございますから、できるだけ床面積の効率をあげたい、狭い面積でたくさんつくりたい、そういうようなことから水銀法をどんどん採用いたしまして、現在が九五対五、そういうように変遷をしたと思います。
  31. 中島武敏

    ○中島委員 ありがとうございました。終わります。
  32. 佐野憲治

    佐野委員長 岡本富夫君。
  33. 岡本富夫

    ○岡本委員 参考人皆さんにはたいへんきょうは御苦労さまでございます。  最初にお聞きしたいことは武内先生に、現在の有明患者皆さん、私ども調査いたしましたときには案外元気なようであったのですけれども、このまま推移いたしますと、ほっておきますと水俣病になってしまうのかどうか、これを一つ聞きたいのです。  それからもう一つは、喜田村学説によりますと生態学的の半減期が七十日、先生は二百三十日くらいかかるのではないかというような学説でありますから、したがって、水銀の許容基準というものがいま食品衛生法でできておりますけれども、これの見直し、これはやらなければならないのではないか。それにつきまして武内教授から御意見を承りたい。  それから上田先生から、これについて妊婦や幼児あるいはお年寄りの方と一般の人とは違うんだというような話でありましたけれども、これは一般の方でも病人の方がいらっしゃるし、また一人一人の肉体には差異がございましょうから、やはり最低限度というものをきめなければならないのではないか。最高限度ですか、そういうようなきめ方にしなければならないのではないか。これに対する御意見を承りたいです。  それから松野先生に水銀の測定法ですね、これが現在はジチゾンの比色法になっておりますが、これでは非常に不安定であるということで、原子吸光法、これが正確である、しかしまだ日本での工業規格には原子吸光法が出ていないということで、私はジチゾン比色法では非常に差異があるのではないか。この点に対する御意見。  最後に武内教授にもう一ぺんお聞きしたいのですが、私どもが倉敷、瀬戸内海沿岸工場調査に行きましたときに、従業員の尿中から五十ないし百ガンマの水銀が出ておるのです。これは普通の日本人の平均の五倍から十倍ということでありますが、こういう人たちが将来こういうような水俣病になるのではないかと非常に心配なのですが、これについての御研究がございましたらひとつお知らせをいただきたい、以上四点でございます。
  34. 武内忠男

    武内参考人 第一の水俣病と同じ症状を呈する現在の有明海患者さんが比較的元気であるけれども、将来重症になる可能性があるかどうかということだと思いますけれども、現在は非常に軽症なんです。したがって、一般の人が見たらちょっとわからないくらいのものでありますけれども、しかし症状はやはりはっきりあります。私は加齢性の発病だとか、椿先生は遅発性の発病というようなことをいわれておりますのは、水銀の蓄積によって徐々に悪くなるものがあるわけです。したがって、悪くならないとはいえないということなんですけれども、一般に胎児と老人がまずかかりやすいという条件がありますので、老化とともに進むというようなかっこうになりまして、老人の場合は。そういうことで、どの程度まで重くなるかはまだ何ともいえません。しかし立津教授の今度の研究班の成績によりますと、水俣地区でも御所浦地区でも、症状は固定している人もありますけれども、悪化する人がかなり、半数以上おります。したがって、そういうのから見ると、ないとはいえないということです。  それから第二の半減期の問題ですけれども、これは喜田村先生やスウェーデン学派が出しておりますのは動物実験及び人間に、自分に注射しまして、三人の人に注射して、そしてそれが減っていくぐあいを見て出した実験的なものでありますので、非常に正確度からいえば正しいというふうにも考えられます。しかし人間例というのは水俣しかありませんので、私ども人間例も十分参考にしていただきたいということです。なおこの際スウェーデン及び喜田村さんの出したのは生体からの半減期、ことに血液とかそういうものからはかったものでの半減期でありますので、私の言いますのは障害されるのは神経系統が主体ですからだからそれをおかす脳の水銀値というのが一番重要だ、だからそれの半減期を出すべきだというふうに言っておるわけです。そろえてみると、やはりいままでよりも長くなるということは確実にいえるのではないかというふうに思っております。  それからもう一つは、尿中の水銀というのはこれは私どもの今度の研究班の一員である生化学の高橋教授が尿中の水銀ということについてやっております。普通メチル水銀クロライド、メチル塩化水銀は尿中に出ない。血液中に注射しても、投与しても、尿中に出ないのですね。それからメチル水銀システインそのものも出ない。尿中に出るのはメチル水銀アセチルシステインが出るのだ。だからかなり肝臓で代謝されたものが尿中に出てくるということで、だから尿中に出るということはその出ないものがまだからだの中にかなりあるんじゃないかということも考えられます。しかしその程度の量で発症するかどうかということはまだデータがないので何とも私は申し上げられません。しかし、出るということはいいことではないということだけはいえると思います。
  35. 松野武雄

    松野参考人 ただいまの水銀の測定法のことでございますが、確かにおっしゃいますようにジチゾン法というのは共存物質とかそういうもので、発色させて色を見るわけですが、非常に不正確といいますか、精度もプラスマイナス一〇%、なぜ現在原子吸光法ができてPPBオーダーまではかれるものを工業規格に入れないか、これは私はちょっとJISの委員でもございませんのでよくわかりませんが、精度的には原子吸光のほうがよろしい、そういうように考えております。それから特に有機水銀のほうは、御承知と思いますけれども、いわゆるガスクロを使いまして特にECDタイプという電子捕獲型のものを使って、それで非常に精度よくはかっているわけでございまして、いわゆるトータル水銀の場合と、それからまた有機水銀の場合と、こういうようにそれぞれ分けてはかっている。特にジチゾン法が現在いまだに現存している。この事実は私はあまりよくわかりません。それから一般的に最近は計器が非常に発達いたしまして、だれでもサンプルをぽっと入れるととにかくメーターが振れるわけです。ですから数値が出るのですけれども、ここで一番注意をいたしますことは、サンプリングがいかに正しいかということ、それから予備処理をちゃんとして、規定されたマニュアルといいますか、やり方に書いてある、忠実にやらないと、特に非常にふなれな人がやりますと高く出ます。この点は、最近は非常に計器が発達して、ぼっと入れればメーターがぽっと出ますから、これがほんとうに正しいかどうかということは、何回もよくやってその数値を公表していただかないと、妙なことが起こると思います。  以上でございます。
  36. 上田喜一

    上田参考人 いま御質問のございました非常に敏感な人たちあるいは非常に多食する人たちを対象としてもし魚の許容濃度をきめるといたしますと、おそらく〇・二PPMとか〇・三というきびしい数になると思います。スウェーデンでも問題になっておりますのですけれども日本ではことにこういう数字をとりましたら、皆さままずカツオ、ブリ、マグロ、そういうのを全部あきらめるという覚悟でやるなら、私はあまりお魚は好きではありませんから、私には困らないのですけれども日本国民のたん白資源としては非常に困ることがあるのじゃないかと思います。私自身の考えは、PCBのときもそうでございますけれども、ずけずけとこういうような地区のこういうお魚は悪い、量が多いのだから摂取量を気をつけろということを言えばよろしいのだと思うのです、日本のような知識の普及した国では。ただ、いま政府の一番もやもやしておりますのは、そういうお魚の名をはっきり言うことその他を非常にちゅうちょしておるように思いますけれども、私はそれをはっきり言って、そういう立場にある人は自分でそれをかげんすれば、そのほうが、そういう人たちを考慮したために国民全体がたん白資源の欠亡に巻き込まれるよりはずっといいんじゃないかというように考えるわけです。現にいま試算して平均の東京の人が食べている一日摂取のメチル量というのは、現在のWHOのきめております許容量の十分の一ぐらいしか実際は入っておらないのでございます。そういうことで、私あまりきびしくやることがほんとうに国全体として得かどうかと考えておる次第でございます。
  37. 佐野憲治

    佐野委員長 小宮武喜君。
  38. 小宮武喜

    ○小宮委員 武内先生に質問します。  今度の第三水俣病の犯人というのは、熊本県の宇土にある日本合成化学工業だということが大体判明しておりますけれども、それが第三水俣病が天草の有明町で発生したということで、同じ有明海に面しておる長崎の島原半島でもかなり不安にかられているわけです。したがいまして、先生が第三水俣と断定した根拠の中にも、やはり海流の関係をうたっておりますが、そうしますと、長崎県の島原半島にも第三水俣病の潜在患者がいると武内先生はお思いになっておられるかどうかという点がまず一点。  それからもう一つは、天草の水俣患者を見てみますと、年齢的には六十四歳とか七十一歳とかかなり高年齢の人がおるようですが、したがって、先ほどの供述の中にも、有明海の第三水俣は過去の汚染によるものだということがありましたので、そういった意味で、もし精密検査を行なうとすれば年齢的に見た場合に何歳以上ぐらいの人の精密検査を行なえばいいのか。それは、生まれた赤ちゃんから全部付近住民の精密検査を行なわなければならないのか、その点が一つと、それからもう一つは、いま長崎県の医師会でもいろいろ調査をしておるようですけれども、過去のデータ、お医者さんのカルテによってはいまのところ水俣病に該当する人はいないという報告が入っておりますが、いまのような状況から見て、ただ単に過去のカルテだけで水俣病患者ではないというように判断されるのが正しいかどうか、やはり一斉に精密検査を行なうべきではないかと私は考えるのですが、一応まず三点についてお聞きしたいと思うのです。
  39. 武内忠男

    武内参考人 長崎県側に海流が流れていくからそちらに患者さんがおるかどうかということですけれども、私ども水俣周辺八代海の海流、それから今度有明の海流を見ますと、海流の流れる方向とは無関係なんです。といいますのは、水俣の場合、水俣の湾外は北から南へ流れて鹿児島県の長島、獅子島へ海流がぶち当たるわけです。魚の死んだのはそちらへ流れていっているわけです。ところがそちら側のほうが患者はむしろ少なくて、上流の田浦とかその周辺のほうが多いのです。だから、海流とどろの汚染度そのものよりも魚のほうに問題があると思います。  それと同じように今度の有明の場合も、緑川河口から海流が逆行しておる。海流が北へ行っておるわけです。だから、その上流のほうに起こるのはあり得ないという反論があるわけです。ところが、それはどろとか水をはかればそうかもしれませんけれども、魚はむしろ逆の方向に、八代海の田浦みたいに逆の方向に抜けてもいいというあれがありますので、有明はそれと同じ起こり方をしておるというふうに見ていきますと、島原の場合はそこの漁民の方が有明町の人と、県が違いますから漁区は同じではないと思いますけれども、接触した漁区であれば、すなわち汚染された魚がそこにおるという条件があれば発症してもいいと思うのです。だから海流そのものとは無関係だということです。むしろ魚のほうに問題があるということです。  それから第二は、全住民を一斉検診するのはたいへんだ、医師その他の人数ではとてもできないということがありますので、私どもは、まず漁民の方を先に重点的にやったらいいのじゃないかという考えを述べたわけです。しかしそれでも多過ぎるということであれば、漁民のうちで五十歳以上とか、あるいは水俣病と関連のある先天性の脳性麻痺があるかどうかというようなことに重点を置いて調べても、一応の線が出てくるのじゃないかというふうに思っております。  それから第三は、これは第一と同じ問題があると思いますのでいいと思います。
  40. 小宮武喜

    ○小宮委員 それで、大体年齢的に六十歳とか七十歳とかなりますと、ただでさえ老人病でいろいろな神経症状なんか起こすわけですが、その場合に、精密検査をして水俣病患者と判定をする場合に、そういった一般の老人病との見分けといいますか区別といいますか、それをわれわれしろうとでわかるようにひとつ簡単に説明してください。
  41. 武内忠男

    武内参考人 これは老人病とは違います。といいますのは、老人になりますと脊椎症とか背骨の骨のほうの障害知覚障害とか、いろいろそういうものが出てきやすいわけです。ことに労働をした人は出てきやすいわけですね。そのほかに、わけのわからない神経痛だとかいろいろあります。そのほかの一般的老化現象があるわけです。しかし水俣病の場合はそういうのと違った、つまり知覚障害だとか失調というもの以外に、視野のほうに視野狭窄あるいは視野沈下というような症状が出てきまして、これは必ずしも老人に出るわけじゃないのです。もちろん老人で別の因子が働いた人には出る人もおりますけれども、しかしそれは鑑別ができるわけです。それから、難聴老人でも起きますけれども、特別な後迷路性難聴というのはやはり一つの参考になるわけです。そのほか、私たちが言っておる六つの症状のほかに、それに付随したサブシンプトムといいますか、それに付随したいろんな症状がたくさんあるわけですけれども、そういうものを拾い上げた上での判定でありまして、普通の老人病とはそういうところで十分鑑別ができると思います。
  42. 小宮武喜

    ○小宮委員 先ほど先生が、この研究に当たっておられて第三水俣病というものの発表あるいはそれ以前からいろんな無言の圧迫感を感ずるとか心配をするとかいろいろ言われておりましたけれども、ちょうど先生が天草の漁民代表と会われたとき、漁民代表の方々から有明海の魚は食べてだいじょうぶですかと聞かれた場合に、先生は現在のところ危険性はないというようなことを言われたわけですね。いまの時点では心配ない。そこでちょっとひっかかるのですが、現在のところ心配がないというのは、今後心配が起こるようなことになるのかどうか。その点、先ほど無言の圧迫もあるしいろんな心配もされて研究をやめられるという方も出ておるという中で、その与える影響があまりにも大きいものですから、そういうような意味で有明海の魚はだいじょうぶだと——これは失礼な話ですが、そういうようなことであれば特に心配しますので、いまの時点ではだいじょうぶというのが今後ともにわたってだいじょうぶだというように理解してよろしいですかどうかということがまず一点です。  それからもう一つは、水俣湾のヘドロの処理の問題ですが、この問題については先生の報告によりまして、いままでのしゅんせつ処理から締め切り処理に変わらざるを得ない、再検討を余儀なくされておるという問題について、その原因についてもいろいろ言われておりますけれども、先ほど松野先生ですか、無機水銀から有機水銀には全部が変わるわけではないのだということもちょっと言われておりましたので、いままでのヘドロの処理を締め切り処理に変えざるを得なくなったということについて若干御説明を願いたいと思うのです。  いまの二点を質問して終わります。
  43. 武内忠男

    武内参考人 第一は、現在の有明海の魚の汚染程度で絶対に安全かということだと思いますけれども、私は初めから安全ということばは使っていないということなんです。少し汚染があるので、二百グラムまでぐらい食べてもそれは危険値以下だから、一般の家庭の方々が食べるくらいでは病気にならないだろう——だろうがついておるわけです。どうしても心配な方は、週に魚の日をきめて食べたらいいだろうということを言っておるわけです。だから、〇・〇アルファ程度の微量な汚染が人体にどのように影響を及ぼすかということは、まだ実態はわからないと思います。暫定基準としてきめてあるのは急性発症した人たちのときの量できめておりますので、慢性発症の場合のことは考慮していないわけです。どの程度慢性発症が起こるかがまだわからない。私どもにもわかっておりません。したがって、そこのところはまだわからないと言うほかはないのじゃないかと思います。  それから第二のヘドロのことなんですけれども、これはあそこにあるのは硫化水銀が大部分なんですから、硫化水銀が直接有機化することはないということなんです。しかし、それが硫化水銀でなくなった場合、いろいろの条件でなくなり得るわけですが、もし酸化水銀であれば、あそこのヘドロのどろを使って実験してみても有機化するということなんです。したがって、これは藤木講師が実験したのですけれども、どうしても現地のヘドロを使ってビーカーでやってもメチル水銀がある条件ではできる。その条件が整えばできるということが、その底のどろを使ってあったものですから、だから大部分は有機化しないでしょうけれども、有機化する可能性が十分考えられるデータが出たものですから、やはりそれを外に出ないようにするということが重要になってきたわけです。そういうことなんです。
  44. 小宮武喜

    ○小宮委員 ありがとうございました。
  45. 佐野憲治

    佐野委員長 田中覚君。
  46. 田中覚

    田中(覚)委員 今回の第三水俣病の発見は、わが国の水質汚濁の問題に画期的な問題を投げられたものとして、私ども熊本大学の献身的な研究に対しまして心から敬意を表するものであります。  時間がございませんので、私はこの研究班の報告の中で武内先生がいっておられる次のことばを原点にいたしましてお伺いをいたしたいと思います。すなわち武内先生は、「現在の魚類メチル水銀含有量からの発症考えにくいが、疫学的調査から有明地区患者有機水銀中毒症とみうるとすれば、過去の発症と見るとしても、これは第二の新潟水俣病に次いで、第三の水俣病ということになり、その意義は重大である」、こういうふうに実はいっておられるわけであります。  そこで、「みうるとすれば」という前提をつけておられまして、この報告自体では必ずしも断定的な表現をとっておられないわけでありますけれども、その後あの周辺地域において二人の死亡者が発見されたということによりまして、過去における別個の汚染系統によるいわゆる第三水俣病をこれによって確認した、あるいはまた断定した、こういうふうに考えていいものかどうか。そういう観点から私は二つの側面からお伺いをいたしたいと思います。  その第一は、今回の研究班調査とその二人の死亡というものとの結びつきについてであります。  たいへんしろうとくさい質問でございますけれども、この二人の死亡は、新聞の報ずるところによりますと、小児の場合は昭和三十六年十月、それから老人の場合は昨年の十一月に死亡した、こういうことになっておりまして、小児の場合は十二年も前になくなっておるわけでございますが、このように、だいぶ前になくなられておる。その死亡当時に死亡診断というものがなされておるわけですね。これも新聞紙上で拝見いたしますと、小児の場合は脳性小児麻痺、若干ほかの病気もあるようでありますが、主たる病気は脳性小児麻痺。老人の場合は食道ガン。主たる死亡原因は食道ガン、こういうことになっておるわけであります。  脳性小児麻痺の場合は外形的に水俣病の病状と似たところがあるかとわれわれも思いますので、あるいは当時からこれは水俣病じゃなかったのかという疑いを持たれたかという感じもいたしますが、この老人の場合は普通、普通の人でも年をとれば脳細胞の萎縮はあるわけですね。そういうことでありますのに、死亡されたときに、この二人の死者の脳を解剖して、これが今日まで保存されておったというその間の事情ですね。武内先生は病理学の大家と承っておりますが、したがってその当時直接この患者を診断されておらないのじゃないかというふうにも思うわけであります。してみれば当時この患者を受け持っておられたお医者さんがあるいはこれは水俣病じゃないのかというような疑問も持たれて今日まで長い間研究保存をしてこられたのかというような感じがするわけですが、その辺のところの結びつきは一体どういうところにあるのか、これをひとつ伺いたいと思います。  それから時間がございませんので、お聞きしたいことだけちょっと簡単に申し上げます。こういうふうに死後何年もたってから、いまのように死亡の原因が変わるわけですね。これはわれわれ一般の者にとりましてはかなりショッキングな問題でございまして、医学上こういうことが一体しばしばあり得ることなのかどうか、そういったこともひとつ伺っておきたいと思います。  それからなお、このように長期間内臓あるいは脳などを保存されるわけですが、その間に一体あとからこういう精密な病理組織的な解明をされるのに何らの変化もないものかどうか。どれぐらい一体貯蔵できるものか、そんなことも参考にひとつ伺っておきたいと思います。  それからちょっとついでに伺いたいことだけ時間がございませんので申し上げます。それからこの水俣病であるということを結論づけられたその根拠でございますが、この御報告は専門的であるので私も十分理解したわけではございませんけれども、脳の中の水銀量とそれから脳細胞の病理組織的な所見といいますか、そういうものとどちらが一体きめ手になるものでしょうか。この水銀量というのはかなり幅があるようにも聞いておるわけでありますけれども、ほんとうにそれできめ手になるのかどうか、そういったこともひとつ専門的に伺っておきたいと思います。  それからもう一つは、メチル水銀の人体内部での蓄積とか排せつなどのメタボリズム、そのメカニズムについてはここで十分解明されておりまして、先ほどまた御説明もいただいたわけでございますけれども日本人は一般的に髪の毛に非常に水銀の含有量が多い。先般のあれのときにも白木教授からも伺いました一億国民全部が水銀汚染されているというようなお話も実は聞いたわけでございますが、一体日本人の髪の毛になぜ水銀がこのように多量に蓄積されるのか。その原因とそれからまたそのメカニズムというようなものが一体わかっているのかどうか。それからこれは同時にほかの脳だとか内臓などの水銀の蓄積量と一体どういう関係があるのか、これはかなり一般国民の関心事じゃなかろうかというような感じもいたしますので、それをひとつ伺いたいと思います。  なお、それにつきまして、農薬というものはあまり問題にならぬ、新聞のこの座談会等の皆さんの御発言を拝見いたしましても、今日の段階で農薬は問題にならぬということがいわれておりますが、全く問題にならないのかどうか。その辺のところも所見があれば伺いたいと思います。  第二の観点はもう一つあるので、これは安全基準の問題なんですが、これはひとついまのお答えをいただいてからお聞きしたいと思います。
  47. 武内忠男

    武内参考人 非常に錯綜した御質問ですから、ちょっとどこにポイントを置いてお答えしようかと思っていま頭の中で考えておるのですけれども、まず二例の剖検例が問題になりましたので、これは昭和三十六年に死亡された方のはその時点において一応十分精査したのです。だから、そのときの標本がちゃんとつくってあります。それから、もちろん脳を十年もとっておきますと、保存がよければ標本もいいのですが、保存が悪ければ、検査の材料にならなくなる場合もあります。しかし、私どもは、解剖した時点で所見を十分とってあります。その際に、この症例は胎児性水俣病の所見と全く同じであるので、メチル水銀中毒症として検討する必要があるとそのとき書いてある。ただしほかの病気にもありましたので、これは検討するということで私はとっておきました。それともう一つ宇土合成のそばでありますので頭にもありましたが、もしそのまま出せばまたいろいろの騒動が起こりますし、私自身もまだ、そのときは一例だけですから——常に一例だけの場合は判断が強いものですから持っておったわけです。それで頭にあったわけです。それからもう一例は昨年でありますけれども、これは食道ガンで入院しておりますので、やはり外科に入院しますとこまかい神経検査はしないのです。したがって、その所見をつかんでおりません。しかし、その病変は、私どもが従来調べております水俣病区別できません。そして、ああいう神経細胞障害のされ方というのは、いろいろの、たとえば有機鉛だとか、一酸化炭素だとか、硫化炭素とか、そのほかチオフェンだとか、いろいろありますけれども、しかし鑑別できると思います。私は少なくとも鑑別ができると思います。だから、その病変は、向こうに白木先生がおられますけれども白木先生でもこの病変だったらという所見があると思います。もちろんこの標本は白木先生にももう一ぺん見ていただきますけれども……。写真は見ていただきました。その点については、自分で間違いはないだろうというように考えております。  それから、いま非常に錯綜した御質問だったですから、順序が別になるかもしれませんけれども、農薬との関係ですね。農薬は、日本ではメチル水銀の含まれたもの、エチル水銀の含まれたもの、フェニル水銀のものというようないろいろの種類があると思います。しかし、日本で一番多く使われたのはフェニル水銀だと思いますが、フェニル水銀の大体四%がメチル水銀だというように私は聞いておりますので、たとえフェニル水銀をまいたにしても、メチル水銀が出た可能性はあるわけです。有明湾の場合は五つの大きな川が流れ込んでおります。筑後川、菊池川、白川、緑川、六角川ですか、この五つの農業地帯の川が一つの袋湾に流れ込んでおりますので、それがどういうふうになっているかは私はわかりません。ただ、これは、政府の側から、そこにまいた水銀の過去の量とそれからメチル水銀の含まれておる比率、そういうものを出せばどのくらい流れたかわかるんじゃないかと思います。それがすぐさま原因となるとすれば、日本国じゅうすべて水俣病でなければならぬということになりますけれども、そういうことは考えられませんので、有明湾の場合も水銀の下積み——下積みはしたかもしれませんけれども、少なくとも患者さんの発生の原因になったのは、その上積みをつくった、最もたくさん出した工場にあるのじゃないかというように私は思っております。  そのほかもう一つ、御質問のあった、日本人の髪の毛の水銀値が外国の場合よりも多いということは、一つには、さっき言いました農薬が長い間に十七年間ですか、まかれたということもあるでしょう。米からきたものもあるでしょう。それからもう一つは、日本の近海の魚は、上田先生も言われますように、かなり汚染された魚がありますね。日本人は非常に魚を多食する民族です。そういう二つの理由からあるいは多いのかもしれないというふうに考られておるわけで、私もそうだろうと思います。
  48. 佐野憲治

  49. 土井たか子

    ○土井委員 遠路はるばる、しかもたいへんお忙しい中を、武内先生をはじめ参考人の先生方、きょうはほんとうにありがとうございました。  時間が十分ということでございますから、武内先生に端的に四問続けてお尋ねをいたします。  一つは、今回の報告書によりますと、世上いわゆる第三水俣病の発見といわれておりますが、八人の水俣病区別できない方というのがございます。少なくとも今日ただいまの段階で先生は、この八人の方々については、もうすでに水俣病としての認定を申請する段階であるとお考えであるかどうか。そのことが一つであります。  二問目は、世上いわゆる第三の水俣といわれておるわけでありますが、同じような現象、第四の水俣、第五の水俣といわれるような状況が引き起こされるという可能性が今後あるかないか、あり得るとお考えでいらっしゃるかどうか、これが第二問であります。  三問日は、先ほど先生は、有明海魚介類についての安全宣言は早過ぎるという御趣旨のことを公にされました。いま、この魚介類については、全域について年に四回くらい調査をする、そうして調査の結果、だいじょうぶかということの確認をすることが必要最小限度の線であるとお考えになっていらっしゃるようですか、日本全国の海域の魚介類について、少なくとも年に四回くらいは調べた上で安全宣言を出すべきだというふうなお考えをお持ちになっていらっしゃらないかどうか、これが第三問であります。  最後に第四問、きょうは先生は、予防治療について、これについての研究はかなり進んでいるという御趣旨の御発言をなさいました。私は第一の水俣病で、現地に参りましていつも思うことは、最も悲惨なのは胎児性水俣患者さんであります。特に胎児性水俣患者さんをかかえた家族の方々であります。私はあの生きて枯れ葉のような胎児性水俣患者さんを見るにつけても、この胎児性水俣を発生させないような予防措置を講ずることができないものかということを深刻に考えるわけでありますが、きょう、予防や治療について研究がかなり進んだとおっしゃる先生にお尋ねするのは、胎児性水俣を発生させないような予防措置を講ずることははたしてできないことなのだろうかという質問であります。  以上四問、ひとつよろしくお願いを申し上げます。
  50. 武内忠男

    武内参考人 第一は、現在水俣病区別できない症状を持つ有明海患者さん八名を直ちに審査認定へ持っていくかどうかということですね。これは私、医者の立場としてはそうすべきだと思います。ただ、政治的ないろいろの操作ですか、規則とかいうのがありますので、それをどういうようにするか、私どもにはわかりませんが、患者は第一に救済すべきだということを私は考えております。  第二は、それと同じ条件のところがほかにもあるんじゃないかということなんですけれども、確かにチッソと同じ工場を持っていた地域がありますし、その周辺メチル水銀汚染された実績があるし、魚も水銀値が高いわけなんです。だから、第四、第五が出るというんじゃなくて、すでにその地域に同じ条件があればもうあったんではないか、だから、もし出ても、それはまた過去のものということになるだろうと思います。  第三は、安全宣言は早過ぎやしないか。これは私もたびたび申し上げましたように、私たち全然安全だということは言うておりません。したがって、それを言うためには、春夏秋冬一回ずつメチル水銀をチェックして、その上でこの魚は食べてもいいとか、あるいはどの程度まで食べてもいいという指示を与えるべきだということを申しておるわけです。  第四の予防治療について、これは何といっても汚染された魚を食べないことである。これが第一です。現在食べて、そうして水銀値が非常に高い、たとえば尿中とかあるいは毛髪とか、それが高ければ、その高い人に対してはそれを出すような操作をしなければならないわけです。しかし、何といっても汚染された魚を食べないようにするということが一番いいと思います。ただし、先ほど上田先生が言われましたように、日本人のたん白源は主として魚でありますので、これをどの程度まで食べるか、それが重要な問題でありまして、それをきめるべきだということです。全部食べてはいけないという意味ではありませんで、水銀汚染のない魚を食べること、もし微量の汚染でもあればそれをどの程度まで食べていいかという基準を出すべきだということを言っておるわけです。
  51. 土井たか子

    ○土井委員 ありがとうございました。——ちょっと、それじゃ一問だけ。  これはもう非常にプリミティブな問題なんでございますが、いただきました報告書の表題に、「十年後の水俣病に関する疫学的、臨床医学的ならびに病理学的研究」というふうに表題が書いてございますね。この十年後というのは、第一水俣が発生をして以後十年という意味であるか、今日からさらに十年後という意味であるか、この十年後というのがどうもはっきりしない方が多いようでありますから、この点、ひとつ先生にはっきりこの場でお教えいただいておいて、数字をはっきりさせておきたいと思います。
  52. 武内忠男

    武内参考人 これはワンディケードという意味であって、はっきりちょうど十年という意味じゃないのです。だから、昭和三十年前後に起こった水俣病から、私どもが調べ出したのが三十一年ですけれども、それからワンディケード過ぎた、すなわち昭和四十年以後に出た水俣病は一体どういうものかということを検討してみようという意味での十年であります。
  53. 土井たか子

    ○土井委員 ありがとうございました。
  54. 佐野憲治

    佐野委員長 林義郎君。
  55. 林義郎

    ○林(義)委員 時間がだいぶたっておりますから、先生のお時間の御都合もあるでしょうから、私も簡単にやります。  実は、武内先生にはいろいろとありますが、結論から言いますと、私は、非常に研究費が少なかったという点は非常な欠陥だろうと思うのです。いろいろとまだおやりにならなければならぬ点がたくさんあるだろうと思うのです。その辺はひとつお許しをいただきたいことは、私は、もう自民党を代表してお願いをしておきたいのです。  それで、武内先生のお話と別にして、松野先生にお尋ねをしたいのですが、さっきお話がありました中で、苛性ソーダをつくるときの水銀法ですね、隔膜法、こうありますが、水銀法であると空気として発散する場合もあるし、それから水として発散する場合もあるということですから、やはり疑わしきは罰するということであるならば、水銀法をやめちゃったほうがよろしいだろう、極端なことを申しますとこういうことだと思うのです。この前政府当局に聞きますと、何かどうしても水銀法の苛性ソーダでなければならないものがあるという、こういうふうな話でありますが、そういったものが一体これをどういうふうに先生お考えになりますか。水銀法であるところの非常にピュアーな苛性ソーダでなければできないものというのは一体どういったものがあって、それはどういった形で必要だろうか、こういうふうな点について御存じでございましたならばお答えをいただきたい。  それから委員長に申し上げたいのですが、関連してもう一つ田中委員から最後に質問をさせていただきたいと思いますのでお許しをいただきたいと思います。質問を一緒にしてお答えをいただければけっこうでございます。
  56. 田中覚

    田中(覚)委員 関連して簡単にもう一つだけ伺いたいと思います。  それは、蓄積水銀量の生物学的半減期につきまして従来七十日といわれておったのが、脳の場合には二百三十日である、一年半たっても三分の一しか減らないという新しい発見がなされておるわけでありますが、このことは水銀の長期にわたる微量摂取と発病との関係にこれは重大な影響のある点ではないかと実は思うわけでありまして、どのぐらいの実例についてこういう結論が出たのかよく存じませんけれども、これが定説になるということであれば、そのあとあと対策に及ぼす影響は非常に大きい。したがってこの点について、もう間違いないというのか、あるいはなお今後実例をもう少し多く求めて検討をしなければならないということになっておるのか、その辺のところをひとつ伺いたいと思います。  それに関連しまして。先ほど来安全基準の問題がいろいろ出ておりまして、安全宣言は早過ぎるというようなお話もあったり、いろいろいたしております。そうしてまたただいまは魚は食べないことがむしろ大切だというお話もございましたけれども、何しろ漁業は生業として広範に存在をしておるという現状から見まして、私どもはこの安全基準の考え方について先ほど上田先生もお話ございましたが、現在の基準というものは、要するに一般的な日本国民の魚類の摂取量というものを前提にして安全基準が出されているのじゃないかと思うわけです。大体百グラム以下であることは間違いないわけです。ところが漁民の場合はその三倍も四倍も摂取している。そこにやはり問題が実はあるわけでありますから、したがいまして、今後基準の問題につきましては、もちろん安全性を高める上におきまして検討は当然なさなければならないと私も思いますけれども、その際の考え方として、摂取量というものをやはり前提にしたものであるということをはっきりさせてもらいませんと、結局疑わしい魚は売れない、食べないということになってしまって、漁業者のこうむる被害というものははかり知れない問題が出てくるのじゃないのか、こういう感じが実はするわけです。そういう意味で、いまの基準でも、たとえばいまの平均的な摂取量を前提にすれば一体問題はないのかどうか。むしろそういう異常摂取者ともいうべき漁業者等のこういうリスクグループに対しまして特別な基準なりあるいはPRなり、対策が必要だといってしかるべきものなのかどうか、そういった点をひとつ伺わしていただければたいへんありがたい、こう思っておるわけです。
  57. 松野武雄

    松野参考人 ただいまの苛性ソーダの用途でございます。一応苛性ソーダの用途は無機工業薬品というのが一番多いんですけれども、特にその以外で多いのは、いわゆる人絹、スフ関係、ここでは結局隔膜法でつくりますと塩素イオン、食塩が少し残りますので、そういう点でできるだけ化繊用の一級というJISの規格がございますが、そういうもののほうがあと処理にいいというようなことで、慣習的にそういうところでは水銀法でやったほうが食塩分の含有量がずっと少ないものですから、それでいままでは水銀法でつくった苛性ソーダを要求しているわけです。それからものによりましては、たとえば石けんみたいなものでしたら、これは隔膜法であろうと、水銀法であろうと、それほど問題はない。どうしてこういう問題が発生するかといいますと、たとえば隔膜法でつくったものは、ただいま申し上げましたように、食塩が幾ぶん多いということと、それから実は色が少しついておりまして、その色消しをある程度やるんですが、結局なぜそういうことになるかというと、やはり苛性ソーダを受け入れるいわゆる消費する側の、いわゆる消費者は王さまだという何かことばがございますが、どうもそういうところできれいなものを、JISの一級に合格するのを持ってこい、そうしなければ値段をたたくぞというようないわゆる流通関係の需要と供給関係のいわゆる消費者王さま的な考えがあるのじゃないか。この点は苛性ソーダを原料にしていろいろつくる最終製品のことを考えまして、つくるほうもそうですが、むしろそれを受け入れる消費者側でそういう点の考え方の是正をする、そういうことが必要じゃないか、そういうように考えております。
  58. 武内忠男

    武内参考人 半減期のことなんですけれども、これはあくまで人間の場合ですね。だから人数をふやすということはもうできないわけなんです。現在解剖した例が三十七例あるわけですけれども、しかし最近のは汚染の魚をやはり大量に食べておるわけです。したがって、初期汚染にプラスされておるものですから参考にならないんです。だから、初期急性期、亜急性期の発症とその直後のものしか参考にならないわけです。それは十四例なのです。それを使って、そして参考にするほかないわけです。したがって、それを使ってやりますと、その当時はジチゾン法しかないわけです。だから、ジチゾン法で、これは喜田村教授がはかった数値をもとにしてやっておるわけです。ところが、今度原子吸光法ができまして、秋田の滝沢教授が、ぜひ自分にはからせてくれと言うので、私、全部のをとってあるものですから、はかってもらいました。それで見ますと、原子吸光法ではかった場合は、数値がすべてずっと高くなるわけです。ですから、むしろ私どもは低いもので出したけれども、今度は、その原子吸光法で出したのは、一昨日いただいたものですから、まだ半減期を出していないのです。だからまた変わってくると思います。だから、どちらをとるかということにまたなりまして、私は、メチル水銀あるいは総水銀の定量法そのものの基準、同じ原子吸光法でも、人によって同じ材料で多少ずつ成績が違うと思いますので、その基準をまずきめてからでないと、ほんとういうとできないのではないかというふうに思っております。  それから、日本人がとる魚介類の基準をきめる場合、その定量法の基準がまず問題になるわけですけれども、現在ある基準は少なくとも私は高いと思いますので、これはやはり改めるべきだと思います。ただ、どの程度までにするかは、いま検討中でどうなるかわかりません。しかし、少なくとも先ほどあなたが言われましたように、漁民とそれから一般消費者とは、確かに消費量が違います。私が水俣地区で調べたのによりますと、ことに網を張って働く人は、一日一キロぐらい食べます。全漁民の、今度の研究班でやりましたのは、一人当たり平均三百グラム毎日連用しております。したがって、それに従ってやるか、日本人の一般的な人たちの食べるのは八十グラムというふうにいわれておりますので、非常に差があるわけです。だから、それをどういうようにするかは今後の問題であって、やはり問題点だと思います。どのくらいの量を食べる場合はどの基準、どの量を食べる場合はどの基準いとうふうにつくればいいのですけれども、それは非常にむずかしいので、やはり一般国民に対する基準を出して、そして漁民の人はたくさん食べるので注意しなければいけない、そういうようなことでないときめようがないんじゃないかというふうに思っております。
  59. 佐野憲治

    佐野委員長 この際、午後一時まで休憩いたします。    午後零時三十三分休憩      ————◇—————    午後一時七分開議
  60. 佐野憲治

    佐野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  午前中に引き続き参考人から意見を聴取いたします。  それでは、白木参考人からお願いいたします。白木参考人
  61. 白木博次

    白木参考人 私は武内教授と同じように病理学者でございますが、その中で特に脳のあるいは神経のほうを研究しております神経病理学者というようなそういう立場にあるものでございますが、きょう午前中のいろいろお話を伺っておりまして、それから、四月の二十六日にやはり同じようなこの委員会が持たれて、そこでも私証人として出てきてしゃべったわけでございますが、きょうこれからまたどのような議論が展開されますかわかりませんが、私はやはりきょうの午前中と、この前ございましたような委員会二つの問題が同時に折衷されたものが真実の姿ではないのかというような感じがいたしますので、そういうような視点に立ってお話し申し上げたいと思います。  それから、まあ私、時間も短いことでございますので詳しくは申せませんが、つい最近、岩波の講座で現代都市政策という講座が出ておりますが、その中で市民の健康というのを私受け持っておりまして、それをやっと書いて書き送ったものがございます。これは数カ月あとに出ると思いますので、その中に水銀汚染についての詳しいデータを書いておりますので、また何かの参考にしていただけたらと思います。  私自身は、これから申し上げますことの中で、午前中のお話を伺っておりまして、第三水俣病も重要でございますけれども、あまり議論にならなかった、水俣地区それ自体の新しいどうも患者の発生があるという点がむしろ私は重要ではないのかと思っております。午前の議論にもございましたように、第三水俣病というのは、おそらく第二の水俣病であった新潟の水俣病と同じような時期に発生しているということでありますし、そうだとすれば、他の日本地区にも同じような工場があったわけでございますから、第四、第五の水俣病が発生してくる。——発生といいますか、もしやれば必ずその実態が把握できる。そういう可能性がある。  しかしそれよりもむしろ重要なことは、現在水俣湾の魚の水銀量は、メチル水銀にしまして、〇・一から〇・五PPMメチル水銀を持っておる。これはほかの海域の魚のメチル水銀に比べますと明らかに高いわけでありまして、おそらくマグロと同じぐらいの量を持っておる、そういうことだと思います。そして武内先生もすでに最初にお話しございましたように、私は数は忘れましたが、現在水俣地区慢性にじわじわと水俣病が非常に発生している。これはここ数年の新しい発生であるというようなお話がございました。水俣地区メチル水銀汚染の濃厚なところでございますから、初期汚染というのは特に沿岸の漁民には相当高いはずでありた。がしかしその当時は発病していなかったわけですけれども、やはり漁民というのは魚をよけい食べる。その魚自体が市販のマグロと同じぐらいのメチル水銀を持っておるとすると、初期の上積みにまた新しい汚染というものが起こって、それがだんだんと蓄積されていく、そして新しい発病が起こっている、こういうことではないのか。この点の議論があまりなかったわけでございます。  この問題がもう少しはっきりしなければならないということ、このことを、私この前にもお話ししましたような、日本のほとんどすべての国民のからだの中にメチル水銀がたまっているという事実とあわせて考えていかないといけないのではないのか、そういう気がいたしますと同時に、問題は水銀汚染だけではなくて、数日前もPCBが問題になっている。あるいはBHCあるいはカドミウム、これは四大公害汚染物質でありまして、日本は世界の百倍近くあるいはそれ以上の蓄積量を持っている、こういう事実であろうと思います。したがいまして、問題を水銀あるいはPCBあるいはカドミウムというふうにばらばらに考えて、そしてそれに技術論的に、またそういう現状を認めたままの中で魚をどれだけ食べたらいいとか、あるいはその魚の水銀の量で規制をしたらいいとかいうような考えではもう済まない問題がある。したがって、やはり本質的には、なぜこのような汚染が起こってきたのか、またこれ以上の汚染をとめるにはどうするのかという基本的な議論をいたしませんと、問題が技術論に終始してしまうということでは困る、私はそう思うわけでございます。それはしかしながら、科学者の立場を越えた一市民と申しますか、そういう立場の発言になることを私はあえてここで考えた上での発言でございます。  そこで、たとえばなぜ総市民があるいは一億の国民がメチル水銀を持ってしまったかということを少し考えてみないといけないわけでありまして、これはこの前も委員会でお話しいたしましたが、一つの元凶は水銀農薬そのものであります。これは過去十七年間にわたって六千七百トンの水銀農薬というものを人工肥料にまぜて、ヘリコプターあるいはスプレヤーを使って全国にまき散らしてきた。したがって、それは計算してみますと、過去十二年間一ヘクタール当たりに何グラムの水銀が蓄積しているかという計算がございますが、それは日本は七百三十グラム。欧米を見ますと、アメリカのデータはちょっとはっきりいたしませんが、ヨーロッパは一番高いのがオランダの九グラムであり、西ドイツは六グラムでございますから、したがって日本国土に蓄積しております水銀というものは百二十倍の蓄積を持っている、こういう事実でございます。水銀農薬はフェニル酢酸水銀でございますから、これは簡単に土の中で分解して無機水銀に変わり得るわけでありますけれども、先ほどの松野先生のお話もございましたように、土の中でメチル水銀に変わっていく、あるいはそれが川に流れ出しまして、海に行きまして、マグロの肝臓の中でメチル水銀に合成されるという事実はすでに東大の薬学の浮田教授によって明瞭に実証されている。そうなりますと、問題は、ただ単に過去にまきました水銀だけでなくて、現在各工場がたれ流しをしている、あるいは過去に蓄積しているおそらく水銀農薬よりももっと膨大な量の無機水銀も、事と次第によっては魚の中で、特にマグロの肝臓の中でメチル水銀に合成されている。それをわれわれが食べてわれわれのからだの中に現在メチル水銀としてたまってきているということになると思います。六、七年前のデータでは日本人の髪の毛の平均した水銀値は六・五PPMであって、最近の東京都の調べによりますと、全部平均してみないとわかりませんけれども、どうも七・五PPMに上がっているようにも思われます。つまり一PPMくらい増加しているのではないかということが考えられます。これは年齢によってみな違いますので、あるいは魚をたくさん食べるか食べないかによって違いますが、そういうものを全部平均したとしてそのようなことになっておって、そしてそのうちの半分がメチル水銀でございますから、約三PPMないしは三・五PPMくらいが一般市民が持っているメチル水銀である、こういうことになるわけであります。私自身の髪の毛も三、四年前に調べた段階では三PPMメチル水銀を持っております。おそらくここにいらっしゃいます皆さんも全部お持ちであろうというふうに考えるわけです。  したがって、そうなりますと、どれくらいのメチル水銀が髪の毛にふえあるいはからだの中にふえてきたならば水俣病になるのかどうかというような問題になってくるわけですが、そこはそう簡単にまだ結論は出ていないという段階であろうと思いますが、そういう意味で現在でも水俣地区の中に新しい患者が少しずつふえているということを、日本の縮図として私はこれを受け取りたいわけです。そしてそれが一体全国民についてどのように考えたらいいか、そういうポイントが非常に重要ではないか、こう思うわけです。  そこでもとへ戻りまして、なぜ一体外国の百倍あるいはそれ以上の汚染をしてきたかという問題に対して基本的にものを考えませんと、私は幾らワクの中で議論をしてみても始まらない、そういう気がしてならないわけです。そこでなぜ一体そのようなばかげた蓄積を起こしてきたかということを考えてみますと、水銀農薬について申しますと、これはやはり戦後の食糧政策と申しますか、それが問題になる。確かに農薬の使用というものは私は三期に分けて考えることができると思います。第一期は戦後の日本人が飢えのために死ぬか生きるかという時期であったと思います。したがってその時期は、毎年豊作を続けなければ日本人それ自体が飢え死にするわけでありますから、そこでしかたなしにかどうかわかりませんが、水銀農薬をまいてきた。ここでお断わりしておきますのは、外国では水銀農薬を使用する場合には種の消毒あるいは苗床の土の消毒だけにしか使っていないのでありまして、田畑に作物が育ってから、これを人工肥料にまぜてまくというような国は、日本以外には、まあアメリカの一部、それを除いてはどこもやっていない。つまり農薬というものは回り回って口に入ってくるものでございまするので、しかも、農薬というのは一種のやはり毒薬でございまするから、それを医薬並みに規制すべきであるという厳重な衛生思想が外国にはあったわけですが、日本はそれはなかったわけです。  第二期になりますと、これは日本のGNPが伸びていくという現象の中で、やはり農村のGNPは上げていくということで、まあおそらくそういう経済的な発想だけから短絡的に直結していった。つまり、第一期の時点で、そこで農薬の持つ国民の健康に対する一つのどういうデメリットを持つのかというようなことを考えた上で、そこで反省をした上で第二期に入らなかったというところが大きなポイントではないのか。それはそうとして、それが二期の状態で、そのときの大きな蓄積というものがまあ水銀、カドミウム、BHC、そしてPCBという世界に冠たる四大公害汚染というものの蓄積を来たした原因になっている。  それで、この四つのものは、まあカドミウムと水銀は、これは重金属でございますから絶対分解いたしません。PCBもBHCも、有機塩素でございますので、これは容易なことでは分解しない。おそらく今後数十年にわたって国土を汚染し続けていくであろうということが考えられるわけです。  第三期の農薬の乱用というものは、もっと私は事態は深刻だと思います。それは結局、工業生産が非常に進んでいく。その中で、農村の若手労働者というものが、人口が工業のほうに吸収されていく。したがって、農村には老人とかあちゃんという質、量的に低い労働人口しか残っていないということになります。そうしますと、当然その人たちは田の草を取り、堆肥を使っていくというようなそのような時間的な余裕もあるいは肉体的な余裕もないと思います。ですから、農薬を使わざるを得ないということになるわけでして、その証拠に、農薬の生産量は依然として上がっておりますし、反当たりの収穫も毎年上がっているということは、まさに農薬が使われているという確実な証拠でございます。しかし、その農薬を使っている労働の内容は質、量的に非常に低いものである。ことばをかえますと、工業生産が進み、工業汚染が進めば進むほど農薬汚染を引きずっていく、連動していくという、こういうような観点に立ってわれわれは考えなければならないわけであります。  このことが、幾ら魚の水銀量あるいは、BHC、あるいはPCBを規制しようと、この現実を何とかしない限りにおいてはどうにもならない、そういう時期にきている。つまり、食糧産業と工業産業というもののバランスがすでにくずれている。このことを復元しない限りにおいては、いまの問題は私は片づかないと思う。これは医者の立場を離れまして、国民の健康ということを考えてみた場合に一番基本的な問題ではないのかというふうに思わざるを得ません。そうして、その確実な証拠として、あらゆる国民が、水銀だけでなしにBHCあるいはPCBというものを、もともとからだの中にあってはいけない毒物をすでに持っているということであって、ただしかし、それが明瞭な健康崩壊という形で出ていないというだけの話である。私は、これに対しまして、専門用語として不顕性中毒ということばを使います。外にあらわれていない形の中毒、つまり水俣病はだれが見てもわかる、あるいは医学者の専門家が見ればわかる顕性中毒、それは氷山のごく一角にすぎないのであって、そうではなくて、その底辺をなしている、いわゆる臨床的にははっきりつかむことができないけれども、あってはならない毒物を持っているという意味での不顕性中毒というものが、ことばを大げさにいえば、一億総国民になっているというこの現実をわれわれはもっと基本的に考えない限りにおいては、ここでどんなにPCBだろうと、あるいは有機水銀だろうと、そういうものを各論的に議論していたのではどうにもならないのではないかという気がしてなりません。そうしてこの不顕性という意味は、いまの医学の力では確実に把握できないというだけのことであって、もし医学が進歩するならば、この不顕性中毒の状態においてすでに健康崩壊が起こっている可能性はあると思います。  そういう点を言いますと、もう少し極端なことばを使わしていただきますと、憲法二十五条に明確にうたっていることは、国民は健康にして最低限の文化的生活を送る権利があるということが規定されておりますけれども、この健康にしてということははたして守られているのか。すでに不顕性中毒という状態にある以上は、決してこれは健康とはいえない。非健康あるいは不健康、この状態におちいってきている。そうであるならば、憲法二十五条はすでに守られていない。どんなに文化的生活を送っておりましても、その一番基盤になっている健康にしてということが守られていないということの中に一番大きな公害の原点を求める以外には私はないと思うわけです。そうしてそれをどうしようということであれば、どのように魚の問題、それをどう食べたらいいかというような問題で片づく問題ではない、そう思うわけでして、しかもそれがどこに一番しわ寄せがくるかということは、もう再々議論になりましたように、われわれの次の世代、つまり胎児あるいはその遺伝的な問題、そこに必ずしわ寄せがいく。そのいい証拠が胎児性水俣病です。これは母親は発症していないあるいは症状が軽くても、生まれてきた子供はまさに重症心身障害、つまりひどい精薄とひどい脳性麻痺を合併したそういう子供たちであるという中でたくまざる人体実験がすでに行なわれている、そこに確実な証拠があるというふうに思うわけでございます。ですから、いまわれわれのからだにたまっている水銀は、これはわれわれ自身にとっては問題でなくても、次の世代というものに対してこれを保障するということはとうていできないということにならざるを得ないと思います。しかもそれが水銀だけではないわけです。何百、何千あるかもしれないそういう汚染物質というものを、一々そのような形で取り上げていたのでは、問題はどう考えても片づかないというふうに考えざるを得ないわけでありまして、しかもわれわれ現世代のおとなが次の世代を一方的に被害者に仕立てていく可能性があるとするならば、これはどう考えても、次の日本というものはあり得ないとしか私は思えないわけです。過密な飽和人口、狭い国土、これはどうにもならない条件がございますし、それともう一つは、天然資源というものが日本は非常に少ない。たった一つあるものは、われわれの頭脳しかないわけです。その頭脳というものがもしゃられたとしたら、一体われわれはどうやって今後生きていくのか。日本はもうその時点では完全に崩壊していると考えざるを得ないわけです。  そうして私はここでこういうことを申し上げますのは、まだそれに対する確実な証拠があがっていないからこそ、いまそれをやらなければならない。もしそのことを、確実に証拠があがってきてからでなければ自然科学者というのは発言できないとしたならば、その証拠があがった時点では、それは膨大な数量に達しているに違いないわけであります。そうなってからでは、もう時すでにおそいということをどうしても考えざるを得ないので、やるならいまだということしかございません。そういうことになりますと、私は午前中の議論は、やはりある限られたワクの中で、そういう現状を認めたワクの中で、どう対応したらいいかという議論がされてきたにすぎないというふうに理解いたしますが、その中で、最初に私が申しました、武内先生の水俣の中で現在新しい患者がぼつぼつ起こりつつあるというこの事実をもっと重視すべきだろう、そういうふうに考えます。  ちょうど時間になりましたので、これだけにいたします。
  62. 佐野憲治

    佐野委員長 ありがとうございました。  次に、椿参考人
  63. 椿忠雄

    椿参考人 私は、新潟水俣病というものの体験を通しまして、また、今回問題になりました第三の水俣病の背景を考えてみたいと思います。  私は、ちょうど昭和四十年新潟に赴任しましたときに、新潟の水俣病の発生に気がつきました。そうして当時私たちが検診をいたしまして、二十六名の患者を発見したわけです。しかしながら、これは決して中途はんぱな検診ではなくて、患者と申しますよりも、住民の一人一人に面接して検診をするというもので、私たちはほぼ完全な方法だというふうに自覚をしておりました。しかしながら、現在すでに三百名余りの患者が認定されております。そしてさらにその後、遅発性または進行性、さらにいま白木教授が言われましたような不顕性といったような問題も含めまして、いろいろな問題が広がってきたわけでございます。  さて、検診の方法が完全でなかったということをもう一回ここで反省してみることは、今後の問題に対処する上に必要だと思います。結局、われわれがいかに詳しく患者さんに面接して話を聞いても、それが真実をあらわしていない。たとえば患者さんがある理由をもって、魚を食べていても食べていないと答える。これはその後いろいろと調べますと、たいへんめんどうな事件に巻き込まれるのがいやだとか、あるいは魚が売れなくなるのが困るとか、そういった社会的背景のもとに、そういったような返事をなさる方もあります。また、患者がからだのしびれ、その他のいろいろな悪い点を感じておりましても、それを訴えないといったようなこともございます。こういうわけですから、われわれは、新しい患者を発見するという場合にはきわめて慎重に、かつ精密にやらなければならないということはわかります。すなわち定型的な患者があるならば、その陰には限りない、数多い非定型的、さらには問題になりましたような不顕性といったような問題も含めまして、汚染者があるということを考えなければならないと思います。すなわち第三の水俣病というのがもし定型例であるならば、さらに非定型例に着目すればかなりの問題が出てくるということもいえると思います。  さて、非定型例になりますときわめて診断が困難になります。これはほかの病気との鑑別診断がかなりむずかしくなります。先ほどのお話にも関係がありますけれども、全く健康と思われる国民が、もしやはり何らかの意味で多少の障害を受けているとするならば、健康者患者との間には全く一線を画し得ないものがあるということになってまいります。しかし、それではどこまでわれわれは見ていいかわからない、患者さんと認定していいかわからないという問題もありますし、この場合におきましてはわれわれは科学的なワクの中で、いま白木教授が言われたような限られた、縛られたワクの中でものを見ていくということをどうしてもせざるを得ないことになってまいります。  そういうわけで、われわれは軽症例の問題につきましては、かなり詳しい検査をすることによって発見する、しかもそれは、従来の定型例とはかなり違った形であるということも認めました。また後になって発生する遅発性水俣病というものが存在することも私たち発表いたしました。ところがここにも問題がありまして、われわれが水俣病の発生を発表しました昭和四十年、これは行政措置によって当時阿賀野川の魚は食べないようにというような指導がされたわけでございますけれども、結局これが十分に守られていなかったということもわれわれは認めなければなりません。これは漁民あるいは付近の人が食べていても、それを言わなかった場合もあります。また全く新聞やテレビも見ないという方がかなりおりまして、そういった事実の発生さえ知らなかったということもいわれます。そうしますと、今後たとえば魚に多少危険があるからたくさん食べるのをよしなさいといったようなことを、一片の訓示をもって出すことによっては、完全にそれを防ぐことはできないということも示されます。  また進行性の患者がある。これは先ほど白木教授の話の中にも出てまいりましたけれども、一般にこれは高齢者に多いわけです。当然先ほどのお話もありましたように老人病との鑑別が問題になります。しかしながら、これについて詳しいことは避けますけれども、確かに高齢になりますと水俣病であるという症状がはっきりしてくる、または悪くなるという例があります。しかしどこまでがその本来の水銀中毒であり、あるいはどこまでが水銀中毒によって老化が促進されたのか、あるいは完全に水銀中毒と老化とは別であって、それがたまたま合併したかということにつきましては、まだ完全な答えは出ておりません。しかし事実としては悪くなる患者があるということは確かであります。これに関連しましてわれわれは治療については全く無力でございます。初期には水銀の排せつということも可能でございますけれども、しかし、すでに古くなった患者さんが脳がこわれている。そのこわれた脳はなおらないということから考えても、当然それは治療の限界があるということを示しております。しかしわれわれは少なくとも進行をとめるということは努力をすべきである、あるいはそういった方法はまだ今後にも残されているのではないかというふうに考えますが、しかし現在どういった方法がいいかということにつきましては、われわれも解答を持っておりません。  さて、そのように軽い患者さんから不顕性の患者さんまで含めますと、一体どこまでが患者かという問題をもう一回考えてみたいと思います。  われわれはすべての人が確かに有機水銀によって汚染されております。しかし現在明らかに不顕性である——これは不顕性であるというのは要するに症状がないということですから、患者であるということにはならないわけですけれども、何らかの意味で悪い影響を与えているという可能性は否定できないわけです。しかし現在積極的にどういうものがあるということは証明されておりません。もちろん今回の第三の水俣病についても同じようなことが出てくるだろうと思いますけれども、しかし、これはいずれにしましても古い発生である、現在の問題ではない。現在の問題はむしろいまお話がありました、水俣病では新しい患者も発生しておるということでございますけれども有明海のほうでは現在では古い発生のみであるとおっしゃるのですから、これは私、問題はないと思いますが、しかしながら隠れていたこういったような水俣病がいまになって見つかったということは、やはり重視しなければならないと思います。当然第二の水俣病が起こったときにそういうことは予測されていながら、やはりわれわれはそれを見つけられなかったということになるとするならば、またほかの地域に同じようなことがあるということも、われわれの現在の程度の努力ではまだ発見してない可能性があるわけでございます。ですから先ほど私が申しましたように、十分な方法をもって患者さんをさがしてみてもやはり見つからなかったというわれわれの体験は、今度はもっと広く日本全国においてそれが当てはまるのではないかというふうに思うわけです。  ここで私は安全性の問題について考えてみたいと思います。現在水俣病が発生する、あるいは水銀によって神経がおかされるということに関しましては、新潟のデータがかなりいろいろなことを教えてくれております。すなわち水銀中毒の発生した場合の、人間のからだの中に入った最低の水銀の量は推定できる。これは髪の毛や血液の中の水銀の量から推定します。それによってこのくらいの水銀があればいわゆる顕性の水俣病が起こるであろうということが推定できる。それよりもはるかに低いレベル水銀を押えるということが最も合理的であろうというふうになりまして、たとえば十分の一という値を普通よくとられますけれども、こういった方法をとることが試みられまして、これがスウェーデンでもわれわれのデータを取り入れて一応現在のような基準ができております。しかし、これが微量の長期汚染になると、完全にこれでいいのだろうかと申しますと、それは決してそうはいえない。しかしこれについてはわれわれは現在わかっておりませんので何ともいえないと申すほかにありません。もちろん魚を食べない、あるいは水銀を全くとらないということが理想には違いありませんけれども、しかし先ほどからお話がありましたようにたん白源をなくすということは、やはりその意味のマイナスがあり、われわれは全く水銀をゼロにすることは不可能であろうということであります。しかしでき得れば少ないほうがいい。これは最低発症量という数を厳格な線を引いて言うことがむずかしい。むずかしいと申しますのは、要するに不顕性といったようなわからないものも含めますと非常にむずかしい問題でありますから、そういう意味では、低いほうに線を引いたほうが安全であろうということになりますが、これは私たちもいま現在わからないし、それを多少われわれも検討しております。多少と申しますのは、阿賀野川におきまして、魚をたくさん食べた人、食べない人、それから水銀量症状、その他いろいろなファクターを、これは神経系だけでなくて血圧とかそのほかいろいろなからだの全部の状態をチェックするということを試み始めております。そうしますと、これを長い目で見ますと、たとえば十年後、二十年後に、魚をたくさん食べた人のほうが何らかの意味で違ったものを持ってくる、あるいは次のゼネレーションに何か違ったことが起こるんじゃないかといったようなこともチェックできるわけで、これを試みておりますけれども、これはなかなかそう簡単にできる仕事じゃございませんし、現在われわれの限られた研究費と限られたスタッフではなかなかできない。それで、われわれの現在のところでは、死亡率からそれを推定するということをやっております。死亡率と申しますのは、水俣病の死亡率じゃなくて、その水銀の入った人、入らない人で何か病気にかかるものが違いがあるかどうかといったようなことをまずチェックする。それでもし違いがあれば、次の段階で今度は、患者さんの実際についてそれを長くフォローアップするということを試みたいわけですが、とにかく膨大な数の患者さんや住民を対象にしておりますもので、どこまでできるかということはまだ確言できませんけれども、幸いにしていま県その他自治体のほうで援助もしていただいておりますし、何とかできるだけのデータはほしいと思っております。  そして先ほどの基準の問題でございますが、新潟で一番低い水銀量が髪の毛にあったというのは、五〇PPMというのがスウェーデンのほうでとられた値です。これはジチゾン法でやっておりますし、現在の方法よりも、先ほど低く出るとか誤差があるとかいう問題がありますから、正確ではございません。それからまた、五〇PPMであったのが最高のときであったというわけでもないので、多少問題はありますけれども、私は大体そのくらいのところに線を引いても、いわゆる顕性の水俣病に関しては不合理ではないだろうというふうに思っておりますので、スウェーデンのとられた方法は決して間違ってはいなかったと思います。しかしながら、多少それより低い水銀のものをわれわれは見つけておりますし、それをとれば多少低くなりますけれども、しかしこれがもっと高い時期もあったということを考えますと、大体その辺に線を引いてもまあいいだろうというふうに思います。しかし、これで安全であるということを言うわけではございませんので、われわれはさらにさらに詳しい、先ほど申しましたような長い経過をもって観察してみてまいりたいと思います。そして、先ほどから話がありますように、次のジェネレーション、胎児への影響、そういったものを含めてものを見ていきたいというふうに思います。  安全基準につきましては、きょうおいでになりました参考人の先生方も一緒にやっておりますけれども、ただいま厚生省のほうから委託されて、われわれは安全基準を日本でもつくりたいという努力をいま一生懸命にやっておりますが、やはりある一定の基準はつくらなければならないだろう。それは、先ほどから問題になりましたような大きな魚、マグロやそのほかの大きな魚と小さい魚とは、明らかに水銀量が違うということも考えに入れてやはりものを考えなければならぬだろうと思います。現在私は、やはりマグロのほうが水銀が多いということが明らかでありますし、これを少量食べていれば水銀の少ない魚をたくさん食べたと同じことでありまして問題ないのですが、これをたくさん食べるというところに一番問題がある。そしてそこでは、多少水銀量がもう新潟の患者さんに近い方がおられるわけでありますから、この辺を十分にチェックする必要があるだろうというふうに思っております。もちろん、マグロという魚は先ほどお話がありましたように、われわれはたくさん食べる魚ではないわけで、決して一般の方々がすぐにこれによって危険があるというわけではありませんけれども、マグロ作業に従事する方々がたくさん食べるということは、まず第一にチェックすべき点だろうというふうに思います。そしてそれを背景にしまして、われわれはそのほかの小さい魚のレベル考えてみなければならないと思います。これは技術的な問題に終始いたしますけれども、しかしこういったような問題をわれわれが具体的に考えない限り、やはり国民全体の健康を具体的にどうやって守るかということができないわけでございますから、私たちはそれについていまあらゆる努力をしたいというふうに思っているわけでございます。  第三の水俣病ということだけを取り上げますと、私は現在ではこの問題自身は、古いものでありますから、そう問題にはならないと思いますけれども、しかしこういったようなことが次に第四、第五、あるいはマグロの汚染を通して新しい患者の発生になるということを最もおそれ、しかもそれを早く何とか、最近のことばを使いますと、予防しなければならないというふうに思うわけでございます。  大体私の申し上げたいことはこれだけでございます。
  64. 佐野憲治

    佐野委員長 どうもありがとうございました。  次に、加藤参考人
  65. 加藤邦興

    加藤参考人 加藤でございます。ちょっとからだの調子が悪いのでお聞き取りにくいかと思いますけれども、ごかんべん願います。  私は、医学者ではありませんし、きょうここへ出て話をせいということも多分、いわゆる学者の話ということではありますけれども、もっとどろくさい話をしろという趣旨に私理解をしております。  それで、現在、第三の水俣病という問題が起こってから、どういうふうにしていくことが望ましいかということについての私の考えを少し述べさせていただきたいと思います。  それで、私たちの仲間では、この三年ほど、これには熊大の第二次研究班の方もおられますし、新潟大学の方もおられますが、単に医学的な面からだけではなくて、もっと広く水俣病問題を研究する必要があるということで研究を続けてきたわけです。その中で、その経験から見て、今回の問題でまず第一に考えなければいけないのは、現地の住民、特に漁民の生活というものであります。現在、有明町に限らず、有明海周辺の漁業というのが相当に大きな経済的な打撃を受けております。これに対しては、武内先生も、安全だと言ったことはないというのですけれども、県などは安全だということで、何とか魚が売れるようにということをしております。しかし、第一の水俣病の実例から見られますように、こうした問題が起こった場合に、早晩漁業全体が壊滅していく。その中で漁民が食っていくにも困るという状態に落ち込むことは私は見えている問題ではないかと思います。したがって、まず第一に、漁民の経済的な補償という問題をやはり考えていただきたい。これについては、たとえば第一の水俣病問題が起こったときにも、すぐさま漁獲禁止ということが議論されているわけです。しかしその議事録を見ますと、県の企業対策委員会の議事録ですけれども、漁獲禁止をやるとその補償をやらなければいけない、その補償をやるのは非常に多額の費用が要るので、漁獲禁止については見合わせるという趣旨のことが議事録にさえ載っているわけです。現在そういうふうな角度から問題が処理されるとは思いませんけれども、この問題については早急に検討いただきたいというふうに思います。  それで、この第三の水俣病問題がわかりまして、一番最初に私が感じたことは、これでどういうふうに国の政治といいますか、行政が変わってくれるのかしらというふうに思っておったわけですけれども、その後通産省等から発表されました、たとえば各工場での水銀の消耗量というのを見ますと、全く数字として信用できない数字が出てきているのです。これは各工場から報告された数字をそのまま通産省としては出されたんだと思いますけれども、チッソと昭和電工については、やや低目だと思いますが、それほど非常識な数字ではありません。それ以外の工場については、かなり非常識な数字が出ております。その根拠として考えられることは、水銀の回収装置をつけているのではないかというようなことが、新聞報道に通産省の側からの発言としてちょっと出ていたようですけれども、チッソで実際にやりました空気中にどのくらい、水の中にどのくらいということの実測値というものがだいぶ前に報告があるわけですけれども、それを見ますと、大体チッソの場合で空気中に出ていく水銀の量は四〇%ぐらい、排水中に入る水銀量が五五%ぐらいというのが実測値で出ております。その空気中に出ていく部分というのはかなり押え込むことができる数とは思いますけれども、水の中に出ていく水銀の部分について押え込む具体的なうまい方法は現在までないわけでございます。したがって、チッソの数字の半分ぐらいまでは下げることは可能でしょうけれども、それ以上に下がっているとすれば、少なくとも常識的に見てどうなっておるのかということを早急に明らかにして、疑いがあればきちんと調査をするというようなことをしていただきたい。塩化ビニールの工場についても水銀汚染が問題になったことはないというふうにいっておられるようでありますけれども、私たちの仲間で調べたデータによりましても、たとえば名古屋の三井東圧の周辺の川で大江川と申しますけれども、そこの底質では、たとえば二五〇PPMぐらいの水銀が検出されるということがすでにことしの三月に発表もしてあるわけです。したがいまして、そういう点から見てかなり大量の水銀が流されている。一般にいわれているよりははるかに多い量の水銀が流されているはずですけれども、その実態もどうもまだつかめていただけてないのではないかというふうに思わざるを得ません。  それから先ほど白木先生が、現在水俣周辺患者が依然として出続けているということはたいへんな問題であるというふうに言われましたけれども、その点で現在の水俣港に堆積しているどべ、ヘドロですが、これの処理という問題についていろいろ意見があるように聞いております。しかし意見があるのは、それはそれとして、たとえばこれを仮締め切りをするということが早急に必要だろうと思っておるわけです。現在水俣の漁協は自主規制をやっておるわけですけれども周辺の漁協の人たちは、そんなことしたってあそこを通って魚が泳いでくるじゃないかということをいっておられるわけです。したがいまして、方法としてはいろいろ考えられるかと思いますけれども水俣港が使えなくなるという問題はありますが、問題の重要性からすれば仮締め切りをする。完全な仮締め切りでなくても、たとえば防潜網のようなことをやるということになるのかもしれませんけれども、そういう措置をして、その上で埋め立てをするのか、しゅんせつをするのか、そういう議論をすべきであるというふうに私は考えております。  それから、話が体系的でなくて恐縮ですが、この水俣病問題のもう一つの問題としては、研究体制の問題があるだろうというふうに思います。先ほど武内先生はかなり控え目にいろいろな方面の圧力について述べられたわけですが、私たちのグルーブにも熊大の若手の方が入っておられますけれども、学内でもああいうめんどうくさいことはいいかげんに切り上げたらどうかという声が相当強いわけです。有明、不知火一帯のこの水俣病問題の調査、さらに瀬戸内海にも広がるかもしれませんが、そういうところの調査というのを熊本大学というところにいわば全く預けてしまって、国としてはどのくらい金を出せばいいかというだけの議論では、やはり私は困るだろうというふうに思います。先ごろ三木長官も世界的な研究センターをつくりたいということを言われたようでございますので、そういう方向をやはり追求せざるを得ないのではないだろうか。その際に、いままでの水俣病問題に取り組んでこられた方々が十分力をふるえるような形での研究センターというものをつくる必要があるだろうというふうに考えます。  大体、いま申し上げたことが私としては特に強調したい点でありますけれどもあと実際の現地の状況から見て、特に今後力を入れていかなければならない問題として治療の問題があると思います。この治療という問題については、一般的には、水俣病というのは脳の損傷であるから、これはなおらない病気であるということがずっと強調されてきています。しかし、確かにそういう意味ではなおらないと思いますけれども、私の知っておる患者でも、たとえば裁判を提起する。裁判をやることによって非常に多くの方々と接触する。その中で、胎児性のお子さんですけれども、ごく最近までことばとしては三つぐらいのことばしかしゃべれなかったお子さんが、全国の各地からいろいろな方々が見舞いに来られたり裁判の関係でいろんな人と接する。そういう中で非常に語彙がふえてきたということがあります。  はっきり申しまして、水俣病患者というのは、これは有明海周辺でも丁寧に調べていけばそういうことが判明すると思いますけれども、非常に長い期間幽閉状態にあるわけです。あのような幽閉状態のもとで、つまりそれが世間に知れれば一家の縁談がだめになるとか離縁になるとか、そういうことがまた現に起こってきたわけですから、できるだけ患者を隠し込もうというふうにしています。したがって、そのような幽閉状態のもとでは、おそらく健康人でも知能の発育というものは非常に阻害されるだろうと思うのですけれども、世間から切り離された形の中で、精神的にも肉体的にも本来持っている機能よりもさらに低くその発育が阻害されているという問題をやはり考えていただきたい。現在リハビリテーションセンターというものがありますけれども、ごく軽い症状患者さんであればあそこに入ることは可能ですけれども、たとえば一回の食事に二時間もかかるという胎児性のお子さんをあそこに入れた場合に、食事をさせてくださる方が一人に五人も六人もの子供を預かって、一人二時間ずつ食事をさせるなんということはとてもできないわけです。わずか一カ月の間に、あのやせたからだがさらに五キロも六キロもやせるということで、見るに見かねてリハビリテーションセンターから引き取るという形が現に水俣ではずっと続いているわけです。したがいまして、そういう面での国の対策というものを相当力を入れてやっていただきたいというふうに私は思います。  あと水俣港のどべの問題についての私の考え方ですけれども、これは水俣湾の中にわき水があるという問題があって、なかなか処理がむずかしいということはあると思います。現在、熊大の研究班でも明らかになりましたように、単にそのしゅんせつをやるということは、眠っている子を起こすようなものだということがありまして、埋め立てしかないのではないかということが非常に強くいわれておりますけれども、仮締め切りというものをきちんとした上で、一定面積の埋め立てはいずれにしてもやらなければならないと思いますけれども、全面積を埋め立てるというようなやり方でなくて方法があるのではないかというふうに私は考えております。こういった問題についても今後さらにいろいろな角度から検討していく必要があるだろう。  ですから、私として、ばらばらになりましたが、そういうふうな点について特に行政の側で御検討いただきたい。私としていますぐに考えてほしいということは、特に研究体制の問題であります。今回の最終報告書が出されたということで、熊大としてもいいかげんこの辺でやめてくれという声はかなり内部に強いと聞いております。ですから、ここでさらに、先ほど武内先生も言われましたけれども、金と人がこういう研究の上で十分使えるような体制を至急に考えていただきたい。私たちはそれを外からお手伝いするようなことしかやっておらないわけですけれども現地ではそういう大学に所属しない研究者がかなり熱心に地元で研究をやっておられます。住民の検診とか認定申請ということにもそういう方々がかなり診断をやっておられるわけで、そういう人たち研究者として十分に待遇するということ、これもやはり私としては考えてもらいたい問題だというふうに思います。  以上です。
  66. 佐野憲治

    佐野委員長 どうもありがとうございました。  次に山口参考人
  67. 山口誠哉

    山口参考人 私は久留米大学の医学部の山口と申します。  私の専門は公衆衛生学及び労働衛生学の中で特に中毒学が専門でございます。現在私がやっておりますことは、いろんな職場環境、それから一般環境、その中の有害物質がどういうふうな生体に影響を及ぼすか、そういうことの研究を主としてやっておるわけでございます。現在WHOの中に有害物質によるところの職場環境、一般環境の健康破壊に関する早期発見専門委員会というのがございますが、その委員をいたしております。水銀に関しての私のいままでの仕事はまず職場環境の水銀中毒、それから次いで一般環境における水銀の生体障害のモニタリング、そういうところから始まったわけでありまして、現在やっておりますことは無機水銀の有機化の問題、それから水銀を含む食物の摂取によるところの健康障害、そういうことをやっております。無機水銀の有機化につきましては、アメリカに「アカイブス・オブ・エンバイロンメンタル・ヘルス」という雑誌がありますが、これに出ておりますので、どうぞごらんいただきたいと思います。それから世界各国の人々の毛髪水銀の疫学的な比較研究をやっておりますが、これにつきましてはアメリカのもと「パブリックヘルスレポート」公衆衛生雑誌というのがありますけれども、現在少し名前が変わって「ヘスマヘルスレポート」という本がございます。これに載っておりますので、もし御必要であればコピーをお送りいたします。  それからさらに水銀を含みましたいろいろな魚をどれくらい食べてどうなるかというふうな実験、さらには健康な母親が水銀をとってどれくらい症状が出ない場合に子供がどうなるかというふうなこと、そういう仕事をやっております。  ところで、きょう私ここで話をさせていただくのは、おそらくいわゆる第三水俣病というものについてであろうと思いますが、これは水俣病というものがメチル水銀の異常流出によって、特に魚介類を通じて人間が摂取して発病したということは間違いないことだと私は思っております。  私、中毒学が専門でございますが、一般的に中毒学的にある物質によってある人が中毒になったということをいうためには二つの点が確立されねばなりません。  まず第一番目の点は、因果関係の確立ということであります。因果関係の確立というのは、ある物質が生体内に入った場合にどういう症状が出るか、言いかえますと、ある特定の症状を出したものはこういうふうな物質でもってそういう症状が起こるということが第一番であります。  第二番目がその因果関係を証明するに足る必要十分条件ということでございます。というのは、これを専門用語でいいますとドースレスポンス、反応量の関係ということでありまして、ある疾患が起こった場合、その患者さんがどれくらい物質を摂取して、それによってどういう症状が出てきたか、そういうドースレスポンス、量反応の問題ということになるわけであります。これをもっとわかりやすく言いますと、アルコール中毒で人が死ぬことはあるわけでありますけれども、晩酌一本程度では酔っぱらう程度で死なない。ところがウイスキーを三本くらい一ぺんに飲むと死ぬ場合がある。これがわかりやすくいうとドースレスポンスということであります。そういう中毒学的な一つの原則的な考え方があるわけでありますが、いわゆる第三水俣病について私の考えを申し上げたいと思います。  私は久留米大学でございまして、有明海に非常に近いところにあるわけでございます。帰ったらさっそく疫学調査に取りかからなければなりませんけれども、私昭和四十一年に経済企画庁の依頼の調査をやっておりまして水銀があるということを見つけ、それ以来有明海魚介類及び大牟田市の人々の健康調査を多少やりました。けれども、今度の有明町でございますか、ああいうふうな症状を持った人があるということは私ども想像しなかったわけでございます。  そこでああいう症例が報告されて、まず私ども学問的立場から系統立って考えてみたわけでありますが、有明町及び宇土で発見されました水俣病と同様の症状を持つ患者の人が、まず第一番目に私ども分類しなければいけないのは、これがメチル水銀中毒によるものであるか、または全然他の疾患で同様の症状を出すものであるか、こういうことを二つに分けなければいけないと思います。先ほどの因果関係ということからいいますと、それにほとんど同様であるということが私はいえると思います。  そこでこれはメチル水銀中毒であるというふうに考えますと、これはさらにまた二つに分けて考えられると思います。  第一番目は、このメチル水銀中毒、これは過去であれ現在であれ、それは問わないわけでありますけれども、これは水俣から来た魚を、いかなる経路にしろ、陸路にしろ水路にしろ来た魚を摂取して発病したものであるか、または有明海でとれた魚を摂取して発病したものであるか、この二つの点に分けていかなければならないと思います。そういたしますと、宇土で発見されたといういわゆる胎児性水俣病、それから老人でガンでなくなったという方々が問題になるわけでありますが、もしこれがメチル水銀中毒であるということになりますと、有明海産のものであるという疑いが非常に強くなるということでございます。と申しますのは、有明町だけではこれは私は何ともいえない。と申しますのは先ほど言った潮流の問題、つまり潮流の上にさかのぼるものは、水俣湾から泳ぎ出したものが不知火海から向こうのほうにさかのぼらないとも限らないわけでございます。しかし宇土で発見されたというものがメチル水銀中毒であるということになりますと、これは非常に重大な問題を含んでくるわけでございます。といいますのは、午前中の話にもありましたように有明海というのは袋状の海でございます。皆さんも御承知でしょうけれども、幾ら広いといってもやはり袋状のもので、そして潮流は時計の針と逆方向、これは長崎水試、有明水試それから京都大学の模型実験で一致して有明海の定常流は時計と逆方向に流れておるということを言っております。したがって、もしあのネックのところに汚染源があったといたしますと、これは有明海全体を回る可能性がある。もちろん魚はどう泳ごうと自由でございますから、上に行ったり下に行ったりすることもありましょうけれども、もしそういうふうな因果関係が食物連鎖とかまたはダイレクトに摂取する、そういうことを考えるならば、これは、問題は有明町であるとか宇土であるとかそういうところには限られてこないわけです。言いかえますと有明海全体の問題である、そういうふうに考えられてくるわけでございます。厳密な意味で中毒学的に因果関係及びそれに関する必要十分条件を立証するということになりますと、患者毛髪中の水銀でありますとかそれから不幸にしてなくなった方の臓器中の水銀でありますとか、そういうものを見つけ出さないと十分立証はできないわけでありますけれども、しかしもし汚染が過去のものであったということであれば、おそらく毛髪中の水銀は非常に下がっておる。現在の時点では、それを立証することは非常に困難ではなかろうか。そういたしますと、症状、つまり因果関係をあらわすような、そういうふうな見方から見るほかはないかもしれない、そういうことも考えられます。  そこで、今後それではどうしたらいいかということでありますが、これはもうすでに有明海を囲むいろいろな県で発足しておりますように、特に魚介類をたくさん食べる人たちの疫学調査を徹底してやる。その中からあやしい人をピックアップしていく。そしてそれが水俣病であるか、またメチル水銀中毒であるかというようなことを見つけ出していく以外にないと思うわけであります。そういうふうな汚染と、それから過去の汚染、これはなかなかわからないと思いますけれども、通産その他が、いろいろな工場における生産量それからそれに伴ういろいろなバイブロダクト、こういうものを計算していけばある程度は推測できるのではないかと思います。そういうものとの因果関係をずっと突き詰めていけばある程度のことはわかるはずだと私は考えておるわけでありますが、そういうものと患者との関係を見ていく。午前中言われましたように、特に有明海の漁民というものは現在非常に困っておるわけであります。  したがって、摂取許容量の設定ということも急がれるわけであります。アメリカ、カナダ、スウェーデンで決定されておりますが、私の考えではこれは必ずしも正しいとは思えない。なぜかと申しますと、これらの許容基準量は、非常にひどい水俣病それから発症当時の新潟水俣病、こういうデータをもとにしてスウェーデンで急遽つくられた基準であります。したがって、この基準というものは、すでに病気になった、または死にかけた、また、またはなくなった、そういう方のデータがもとになっておりますので、私どもが目安にしております最大安全量または最小中毒量というものは、こういう患者さんを見ただけではわからないのであります。したがって、そういう意味でほんとうに学問的に耐え得る最大安全量または最小中毒量というものを出していかないといけませんし、またその作業は急がざるを得ない、急がなければいけない、そういうふうに思うわけでございます。  私の陳述はこれで終わります。
  68. 佐野憲治

    佐野委員長 どうもありがとうございました。  以上で参考人意見聴取は終了いたしました。     —————————————
  69. 佐野憲治

    佐野委員長 引き続き参考人に対する質疑の申し出がありますので、順次これを許します。  なお、椿参考人は所用のために意見の陳述だけでお帰りいただいております。  それでは林義郎君。
  70. 林義郎

    ○林(義)委員 たいへんありがとうございました。今回の武内教授を中心とするところの「十年後の水俣病に関する疫学的、臨床医学的ならびに病理学的研究」というのは私はたいへんな論文だと思います。午前中来そのほうの質問をいろいろとしたわけでありますが、ただいまの先生方のお話につきまして若干お尋ねをしたいと思います。  山口先生は中毒のほうの専門家でいらっしゃいますから、先生にお尋ねしますが、こういうことになりますと、午前中にも話がありましたが、一つには急性の場合と慢性の中毒の場合とやはりいろいろと違ってくる問題だろうと思うのであります。おそらくこの慢性の問題というのを取り上げていかなければならない。髪に三PPMとかいろいろ入っているというようなことでありますし、これをこれから相当に詰めていかなければならない。魚をとるところの安全基準をつくる云々ということにいたしましても、ずっと話を聞いておりますと、現在の段階では絶対にこれだという数字はまだすぐには出てこないだろうと思うのであります。もう少しいろいろな研究もしていかなければならないと思います。  そういった点につきまして、中毒の話で、先ほど必要十分条件を満たすというお話がありましたけれども、そういったものをやはり学問的な体系として詰めていくことが一つの方法として必要である。詰めていくと同時に、一つの基準をつくって行政的にいろいろな措置をしていくということが必要だろうと思いますが、学問的に、これはだいじょうぶだというところまで相当詰めていくためには、どのような方々の協力とどういうふうな手法でやったならばこれから詰めていかれるだろうか、この辺についてお尋ねをいたします。
  71. 山口誠哉

    山口参考人 中毒学の立場から言いますと、急性中毒と慢性中毒とまたその中間に亜急性中毒というのがございます。それからまた水銀化合物にしても、有機と無機、有機の中にもアリル水銀とアルキル水銀とございまして、それぞれ三者全く毒性が異なると言ってもよろしいわけでございます。したがって、今回メチル水銀というものを取り扱う場合に、許容量を決定するという場合に、一体それを摂取をするのが有機なのか無機なのかということからまず詰めていく必要があろうかと思います。そうしますと、その意味での許容量の決定ということでは、まず化学、ケミストリーをやる方によるところの化学的性質、それからま加薬学者によるところの体内の代謝の問題、特に毛髪水銀の増加を見ておりますと、酢酸フェニル水銀とか無機水銀では毛髪水銀は増加いたしません。これは低級アルキル水銀が増加させるわけでございまして、そういうものも一つの評価の手段になるかと思います。そういうことからいいますと、これはやはり生化学者の協力が必要かと思います。それからまた、そういうものを評価する場合に、たとえば人種でありますとか年齢、性別、こういうものによるところの評価のしかたもそれぞれ違うわけであります。つまり人のサイド。そうしますと、やはりそういうふうな社会的またソシオエコノミックな点から見た公衆衛生学的な見方をする人も必要であろう、こういうふうに考えております。それから中毒が実際に起こったために病理変化が起こりますし、最近私どもは電子顕微鏡レベルで見たほうがもっと早くわかるのではないかということも考えておりますので病理組織科学者、そういう方の協力が必要であろうかと思います。
  72. 林義郎

    ○林(義)委員 いまのお話でございますが、やはり公害問題でありますから、化学者とそれから公衆衛生関係の方が入るのかもしれませんけれども、いろいろな環境状況の調査ということが必要だろうと思うのです。非常にしろうと的に、魚の中に入った水銀がまた魚から出てくるというようなものもあるだろうと思う。そういった点もこれはひとつ研究しなければいかぬのじゃないかという気がいたしますし、プランクトンから魚に入って魚から人体に入るというようなこともあるでしょうから、そういった点は一体学問的にあるのだろうかどうだろうか、私も寡聞にして知らないのでありますけれども、その辺お答えを願いたいと思います。
  73. 山口誠哉

    山口参考人 この問題に関しましては、去年の九月にアメリカのノースカロライナのチャペルヒルというところで、ICES招待シンポジウムがございました。ICESというのは大学環境問題研究委員会というものでありますが、私そこへ出席いたしましたが、そのときにアメリカのFDA、食品薬務局でございますとかそれからEPA、環境庁、こういう方の集まりで、魚の水銀の評価のしかたの討論会がございました。そのとき問題になったのは、たとえばマグロの中のメチル水銀は一体何%くらいあるのだろうかということが問題になりましたが、最初にスウェーデン、カナダで決定したときには、スウェーデンのレポートでは大体マグロの中の水銀は一〇〇%近いということで計算をしたわけでございます。ところがその後日本、アメリカ、その他で調べてみますと、大体六〇%から九〇%ぐらいだということでまずメチル水銀に焦点を合わせようということで、しかし、メチル水銀は測定方法が非常にむずかしいものですからトータル水銀でまずやって、そして異常量が出た場合にメチル水銀でやろう、そういうことをやっておるわけであります。  それから魚の中のメチル水銀がどこから来たかということでありますが、これは現在私が知る限りでは二つございます。一つは自然環境の中のいろいろな無機水銀がいろいろなプロセスでもって有機化をしてそれがマグロの肝臓であるとかそういうものに出る、つまりからだの中でつくられるという説と、もう一つは食物連鎖でございます。小さなプランクトンにメチル水銀がたまる、それが今度は——これは最初からメチル水銀でございます。プランクトンにたまり、小さな魚、それから中型、それからマグロみたいな大型捕食魚、これに終局的には蓄積していく。これは一つのその証拠といたしまして、鯨も海の中を泳ぐわけでございますが、シロナガスクジラ、つまりプランクトン、食物連鎖の最初のレベルを食物にしておる大型の動物のからだの中のメチル水銀が非常に少ないわけでございます。ところが、ゴンドウクジラみたいに非常にたくさんの魚を食べる鯨は、同じ鯨でも非常にたくさんのメチル水銀を含んでおります。それから北極のアザラシ、ああいうところにメチル水銀があるとは思えませんけれども、アザラシを調べますと、一〇、二〇PPMというようにざらにメチル水銀があります。ということは、相当なお魚を食べる。こういうことで現在のところでは私どもはそういうプリゲート、捕食性のものにたまって、終局的にはそれを人間が食べる、そういうふうな考え方でございます。
  74. 林義郎

    ○林(義)委員 白木先生、先ほどお話がございまして、私も非常に興味深く聞いておったのですが、いま山口先生からお話がありましたように、中毒というのはだんだんと、たとえば魚もプランクトン、小さな魚がだんだん大きな魚になっていく、こういうことというお話でありますが、そういった観点と、それからもう一つ、やはり農薬の問題という二つのことを先生おっしゃいました。  そこで、医学的にいって、水銀がだんだん人間のからだの中にたまってきて、外見ではなかなかわからない。だけれども、たまっているということはどうも事実らしい、こういう話でありますね。たとえば毛髪をとれば、検査をすれば非常に水銀がたまっているようである。そうすると、からだの中でどういうふうな形で水銀が悪い作用が働くのかというメカニズム、からだの中でのメカニズムですね、この辺につきましての研究というのはどのくらいまでいま進んでいるのでしょうか。いまの話を聞きますと、水銀というのは北極にも南極にもあります、こういうお話ですから、それでは何も食べられないという議論も実は逆にいったらできるわけです。どの程度まで、これから先は食べたら困る、あるいはこれだけの摂取をしたら困る、そのときに、摂取をした、それがすぐに影響するというようなのは、やはり体内の組織学とか病理学の関係から究明していかなければならない問題があるだろうと思うのです。その辺が、どこの辺までこうやっておって、どの辺がこれから究明しなければならない問題か、お答えいただきたいと思います。
  75. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  全文に対する御回答はとうていできないと思いますが、一つは農薬の水銀かあるいは魚の水銀かという問題ですが、これはやはりダブルにあると思いますけれども、いまのところはむしろ魚のほうのメチル水銀が問題である。それは去年、東京都の衛生研究所の出したデータがありますが、魚を多食する人——多食というのはどういう基準か、ちょっと私も聞いてはいないのですが、魚を多食する人とそれからそうでない人と分けてやってみますと、やはり多食するほうが三、四割高い。米は両方とも食べていると思いますので、そういう水銀農薬からくるというような問題というよりもむしろ魚をよけい食べるというほうが問題である。特にこれをまた年代層に分けて、それで魚をたくさん食べる人を十歳、二十歳、六十歳というふうに分けて見ていく。それから、そうでない人とを見ていきますと明らかに差があるのは、魚を多食する人は十代、二十代、六十代というふうにどんどんふえていくということです。一方では、それほど食べない人は老人でも若い人に比べてそれほど高くない。こういうことがデータで出ておりますから、やはり魚のほうがいま現在問題であるということだと思います。  それでは、毛の中の水銀だけで今後の健康をどう占うかというような問題は、これは簡単ではないのであって、ほんとうは血液の中の水銀が一番問題なんですが、これも東京都の衛生研究所の仕事を見ますと、血液毛髪水銀と同時に、これは全水銀としてはかってありまして、まだメチル水銀までいっておりませんけれども、大体平行関係にあるという数字が出ております。ですから血液の中の水銀と毛の中の水銀はある程度平行関係にあるということがいえると思います。それがどうして脳に入り、どのぐらいの量になったらおかすかというようなことについては、人間に関する限りは武内先生あるいは椿先生のところのものしかないであろう。動物実験的にはいろいろな詳しい検索はあると思いますが、これも午前中に問題になっておりましたが、生体の半減期というものは尿ではかったのではだめなんで、脳と肝臓じん臓、その他でみなそれぞれ半減期が違うわけです。脳の場合が半減期が非常に長い。ほかの肝臓とかすい臓とか何とかはもっと早く減っていく。それから尿で調べて、そしてその半減期だけではわからない。ですから、やはり脳の中の実際の量、それが一番問題になる。  もっとこまかなことを言いますといろいろ問題がございますけれども、その程度で一応打ち切らせていただきます。
  76. 林義郎

    ○林(義)委員 先ほどの話に返るわけですけれども武内先生の論文では脳の中の半減期というものが二百三十日、それから喜田村先生のものが、定説といわれておりましたのが七十日ですか、その辺が非常に違っているということでしょうけれども、もしもそれが同じもので二百三十日といい、七十日というと、これはたいへんなことだと思いますが、はかるところが違うとか、それからまた対象が違うとかいうことでしたら、私はある程度まで学問的にも一致点が見出されるだろうと思うのです。その一致点が見出されたところに基づいてそれを中心にして許容基準とか何とかいうものをきめていく。魚をどのくらい食べたらよろしいとか、どこまではよろしいとか、これから先はいかぬとか、こういう話が出てくるのだろうと思うのですけれども、大体そういった形で許容基準というものは、一応そこの問題は考えてよろしいのか。また、そのほかにいろいろなファクターを考えなければいけないのか。その辺はどうなんでしょう。
  77. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  やはり脳の半減期というものが一番問題である。有機水銀というものは、メチル水銀は脳に対して、神経作用に対して非常に毒性があるし、結局水俣病というものは脳の病気であるということがいわれている以上は、やはり半減期という問題、そこから算定してくる基準というものはそこを中心に置かなければならない。喜田村先生のデータも正しいし、それから武内先生のデータも正しい。  それから基準の問題は、先ほど申しましたように、午前中からも議論になっておりますように、一体おとなを対象にするのか、年寄りを対象にするのか、赤ん坊を対象にするのか、あるいはおなかの中にいる胎児を対象にするのか、それによってみな基準が違ってくるわけですね。要するに、胎児という場合には、胎児にたまる率はわれわれよりも高いわけです。これはもうはっきり、昭和四十一年に佐久の総合病院の若月先生のところのデータが出ておりますが、母親の髪の毛の水銀が八だといたしますと赤ん坊の髪の毛の水銀はそれより一・二倍ないし一・三倍多いというデータがちゃんとあがっております。そして胎盤に水銀が証明されますので、間違いなく胎盤を通って胎児にたまっておる。胎児にたまる率というのは、母親の量よりも常に多いわけですけれども、これはやノネレフというスウェーデンの学者の仕事がございますけれども、それで見ますと、母親が一〇PPMのときには赤ん坊の髪の毛のほうはそれよりも一、二割多いのですけれども、たとえば母親が四〇とか二〇とかいうふうになった場合にはその倍にはならないので、それの三倍、四倍、五倍というような方向で上がっていく、そういう推定値がみごとに出ております。したがって胎児のほうがたまる量が多いということはまず間違いない。それと同時に、発育期にある胎児というものは、まあわれわれよりも少ない量でおかされるという原則がございますので、絶対量が多くて、しかもやられやすいということであれば、当然胎児に対する影響が非常に大きいわけですから、したがって基準というものはおとなではだめである、こういうことになってしまいます。それならどれくらいであったらいいかということは実はだれもやっておらないわけであります。
  78. 林義郎

    ○林(義)委員 それでは中毒学のお立場の山口先生いかがでありましょうか。
  79. 山口誠哉

    山口参考人 お答えいたします。  いまの問題は、水銀化合物の種類によって考えないと、完全に誤りをおかすおそれがございます。と申しますのは、脳にたまるというのは脳血液関門というものがございますが、そこを通るか通らないかということでございますが、大体世間にはメチル水銀、つまり低級アルキル水銀ですね、これだけ通るといわれておりますが、そうではございませんで、水銀蒸気なんか恥はゼロと私ども言っております。これも非常に早く通るわけでございます。通りますがこれは早く出てしまう、つまり半減期が非常に短いわけでございます。ですから、職業性疾患で水銀蒸気を吸い込んで頭が非常に痛くなったり、それからかぜのような症状が出ますけれども、これは一種の脳水腫の状態、ところが早く出るからなおるわけです。ところがメチル水銀になりますと半減期が長くて、長い間その神経細胞にくっついているわけでございますから、神経障害が起こるということですが、先ほどお尋ねの半減期の問題、七十日か二百三十日かということになりますと、これは実験方法、計算方法が全然違いますので、その数字自体を比較するのは誤りでございます。と申しますのは、武内先生もおっしゃっておりましたが、いまなお水俣湾病気が出つつあるとかまたは摂取しておる、そういうことは、これはたった一回の投与でどれくらい減るかという実験と、毎日少しずつたまって、そしてそのあとどれくらい脳に残っておるかという結果は、比較にならないわけであります。つまり七十日か二百三十日かというのは実験根拠また計算根拠が違うわけでございますから、それは全然比較の問題にはなりません。  それから水銀農薬の問題でございますが、これは酢酸フェニル水銀でございまして、これに関しましては私どもの実験がございます。これはすでに発表されてございますので、もし御必要なら別冊を差し上げますが、酢酸フェニル水銀は胎盤をほとんど通過いたしません。メチル水銀だけ通過いたします。これも実証されております。
  80. 林義郎

    ○林(義)委員 最後のところ、先生ちょっと私しろうとなものですから、酢酸水銀有機水銀とはどう違うのか、もう少ししろうとわかりするような御説明をしていただくとありがたいのですが……。
  81. 山口誠哉

    山口参考人 酢酸フェニル水銀と申しますのは、前に稲のいもち病、これに使われておった水銀農薬の主成分でございます。これは水銀化合物の種類からいうと、アリル水銀というグループに入りまして、それで酢酸フェニルと水銀ですね。ところがアルキル水銀というのは、CH3HgCLというふうに非常に単純な形の水銀です。しかしどちらも有機水銀であるということは間違いないわけでありますが酢酸フェニル水銀のほうはからだの中に入ると非常に分解が早いわけであります。分解が早いということは無機水銀に近くなるということでございます。これに関しての実験はもう数限りなく——数限りなくと言っては何ですけれども、私の知っている範囲でも相当多数ございます。したがって酢酸フェニル水銀の作用はわりに無機水銀に近いということがいえると思います。おそらく皆さま御承知ないと思いますけれども、酢酸フェニル水銀はごく最近まで避妊薬に使われておりまして、相当のパーセンテージの含有量がございます。  以上でございます。
  82. 林義郎

    ○林(義)委員 そうしますとあれですか、逆にこういうことがいえるのですか。農薬による汚染の問題につきましては、むしろいま当面すぐに取り上げるべき問題ではなくて、むしろ魚あたりから入ってきた摂取の有機水銀のほうが問題は非常に多い。したがって農薬についていますぐに取り上げなくてもよろしいというのは、そこに根拠がある、こういうふうに考えてよろしゅうございますか。
  83. 山口誠哉

    山口参考人 もちろん酢酸フェニル水銀水銀を含有しておりますので、これを多量に摂取いたしますと無機水銀に近い中毒症状が出てまいります。つまり手がふるえたり、いろいろな器質の変化があったりいたしますので、多量に摂取するということは慎むべきであります。したがって水銀農薬としての使用が禁止されたというのはこれはけっこうなことでございますが、しかし、中毒学的にいいますとメチル水銀と完全に違います。酢酸フェニル水銀メチル水銀様中毒は出てまいりません。したがってもし水俣病を問題にする場合には、低級アルキル水銀を問題にすべきでありまして、低級アルキル水銀と申しますと、メチル及びエチルでございます。農薬で問題になるのは、種子の消毒に少量使われておる低級アルキル水銀、これが問題でありまして、酢酸フェニル水銀ではございません。
  84. 白木博次

    白木参考人 フェニル酢酸水銀は、私先ほど申しましたが、土の中で容易に無機水銀に分解する。しかし土の中でメチル水銀に合成される、そのことを考えていただかなければならないわけです。これはスウェーデンでそういう証明があります。土の中にはいろいろな嫌気性のバクテリアがございます。特にメタンガスをつくるバクテリアが、自分のからだの中にビタミンB12、それにメチル基のついたビタミンB12を持っておりまして、バクテリアの自衛作用として、フェニル酢酸水銀を分解して無機水銀に変わったものを、自分の持っているビタミンB12のメチル基とくっつけて、からだの外に追い出すわけです。ですからそれがメチル水銀になる。結局はフェニル酢酸水銀はバクテリアの作用を介してメチル水銀に変わるわけですね。それからもう一つは、これは東大の浮田先生のお仕事で、アメリカでも同じことをやってはっきり証明していることは、マグロの肝臓無機水銀とをまぜ合わせてやりますと、マグロの肝臓の中でメチル水銀が合成されるわけです。というのはマグロの肝臓の中におそらくビタミンB12、メチル基を持ったビタミンB12がございますので、そのメチル基と無機水銀とが結合してメチル水銀に変わる。しかもそのときの化学反応が問題なので、三十七度、PH七・〇、それから暗室という条件でございます。そうしますとわれわれの体温は三十七度でPHは七・〇で、われわれのからだの中は暗室でございますから、われわれのからだの中にもビタミンB12はたくさんございますので、ひょっとするとわれわれのからだの中で無機水銀メチル水銀に合成されるかもしれないわけです。このことは少し実験をなさった段階で浮田先生がガンでなくなられて、それはそのまま研究はとだえております。少しやられました研究では、どうも人間肝臓では無機水銀メチル化しないという結論になっておりますが、非常に少数例でありましてわかりません。ですからフェニル酢酸水銀それ自体はおそろしくなくても、土の中、マグロの肝臓の中、あるいは海底のどろの中、そういうところでメチル化された場合には問題です。ですからそういう意味ではマグロのからだの中のメチル水銀が多いというのは、そういう農薬からも、あるいは工業生産の水銀からも来た無機水銀一つのソースになっているかもしれないわけです。だから油断してはならぬということです。
  85. 林義郎

    ○林(義)委員 時間があれですが、いまお話を聞きましてもいろいろと学説があるようであります。私も専門家ではありませんし、どっちがどっちだとか、いろいろなことについて的確な判断をする能力は正直言って持っておりませんから、やはり私考えますのは、当委員会で環境庁に話をして、先ほど最初にお話し申し上げましたようにたくさんの人をいろいろ集めてやらなければこの問題というのは解決できない問題がまだたくさんあるように私は思うのであります。そういった研究グループというか、相当大がかりな研究というのをやることを私は委員長に提案をしておきたい。それを申し上げまして質問を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
  86. 佐野憲治

    佐野委員長 島本虎三君。
  87. 島本虎三

    ○島本委員 いろいろと貴重な御意見を拝聴いたしまして、ほんとに感謝にたえません。またおそくまでほんとに申しわけないと思います。  なお幼稚な質問かもしれませんですけれども、私ども自身がいろいろ公害の問題を取り上げましていつでも悩むのでありまして、この点この機会に縦横無尽にわれわれに教えてもらいたいし解明してもらいたい、こういうような立場からでございますので、あるいは行政の批判でけっこうです、国会議員としての私どものだらしなさをなじってもけっこうでありますから、どんどんとひとつお願いしたいと思う次第です。  有機水銀の問題についてのいろいろな質問がけさから行なわれました。また午後にわたりましてそれが行なわれておるわけであります。私としてはいまいろいろな御意見を拝聴して、まず白木参考人と山田参考人にお伺いしたいと思うのでございますけれども、やはり日本ではいま工場群のたれ流しによるところの過去の累積と、それから現在までも継続しておるという、こういうような一つのたれ流し現象による水銀の中毒、これがいま問題になっておりますところの第三水俣病に通じます。それと同時に、私どもは農薬の散布、これによる水銀がわれわれに与える影響、こういうようなものに対してわれわれは、過去はいたし方ないにしても、重大な脅威を持っているわけであります。それともう一つ加えて、休廃止鉱山が現在日本にも五千に余るものがあるのであります。稼働中のものはもちろんございます。そういうのを合わせると五千をこえる。こういうように、工場群のたれ流し、それと農薬散布によるところの影響、休廃止鉱山からの影響、これらが総合的にいまの日本をよごしているのじゃなかろうか。こういうようなことからして、水銀中毒という問題に対して異常なる関心を私ども持っているわけであります。  ただいま伺いまして、農薬の場合には、これは酢酸水銀によるもので、中毒の現象はそれぞれ違うようにも受け取れました、またこれも土の中へ入った場合には有機に変わって、これまたそういう現象もあり得るというふうに承ったものであります。まあこれらのものが日本をよごしているのは事実ですが、今後第三、第四、第五、第六と起きないようにわれわれ注意しなければならないわけでありますけれども、農薬と実際の工場群からのたれ流しの有機水銀は相乗作用を起こすものか、中毒作用として全然別なのかどうか。休廃止鉱山から、無加川に——北海道の北見に野村鉱業がございますが、そういうようなものからも相当量出ておりますが、まだ被害者は出ていないのであります。こういうようなものもおそろしいのであります。早く対策を加えなければならないのであります。これらを一つの与えるべき中毒現象として考えるべきか、これらは全部別々だというふうにして考えるべきか、あるいは相乗作用を起こすものであるとして考えるべきか、これはまことに幼稚でございますけれども、この点をひとつお教え願いたいのであります。どうぞよろしくお願いいたします。
  88. 白木博次

    白木参考人 その点は私最初に、私の陳述のときにごく概論的に触れたつもりではありますが、何しろ実態論的にいいますと、いわゆる四大公害汚染物質というものは外国に比べまして百倍以上の蓄積を持っている。四つは何かといいますと、水銀。その水銀というのは主として水銀農薬である。土の中にたまっておりますから。それからカドミウム、BHC、これはやはり農薬が主たるもので、あとPCBですね。PCBは、これはむしろ工場のほうであるということになると思うのです。それがいずれも外国の百倍以上であるということであります。  そうしますと、少なくともこの四つのものの組み合わせというものが一体どんなふうに人体に影響を及ぼすかということはせめてやらなければならぬ。しかしこの四つの順列組み合わせというものを考えますと、それだけでも、いまちょっと計算できませんが、非常な大きな数になるであろう、それをやるには水俣研究をやるためだけでもひいひい言っているのに、それの膨大な組み合わせをやっていくような能力はいまわれわれにはないと思います。したがって、わかっていない。  相乗作用ということそれ自体は、これはいろいろな薬理の原則がありまして、たとえば睡眠薬というものは、一種類の睡眠薬を飲むよりも二種類の睡眠薬をごく微量飲んだほうがむしろよくきく。これはもう相乗作用といわれております。逆に打ち消すものもあると思います。  そういうような意味では、A足すBが、まあ一〇PPMと一〇PPMは二〇PPMでなくて、一〇掛ける一〇ということ、一〇〇という効果を出すものが確かにあると思います。しかし私は専門家ではございませんので答えられませんが、そういう相乗作用というものはあり得るということです。そして現在こういうものを基磯的に研究しているところはどこもないんではないのか。またそういうものに対する研究体制というものもあまりにも貧弱であるということも言えるであろうということが一つ原則としてございます。  ですから、私は冒頭の陳述の中で——まあ島本さん遠慮なくおっしゃえと言われましたので、実は私いまから七年前に、やはり衆議院の水銀農薬を禁止すべきかどうかという委員会に呼ばれまして、そこで私は即刻禁止すべきだということをあの時点ですでに、これは国会で珍しいんですが、スライドを持ち込んで、そして水俣病患者の脳を写しながらしゃべったことがございます。しかし最後に私が申しましたことは、先ほど申しましたように、昭和四十一年の佐久の総合病院の若月先生のところで出ていたデータ、つまり赤ん坊の髪の毛のほうが母親よりも一・二倍から一・三倍多いという事実であって、これは無機水銀にせよ何にせよ、ともかく多いんだから、これはあぶない。これが何としても禁止すべきだということを言った最大の理由でございました。  しかしながらそのときに私の頭の中にあったのは、やはりまだ科学技術論的な考え方がございまして、何か無毒の農薬を開発すればいいんではないのか。たとえば抗生物質を開発すればそれでいいんではないかというような幼稚な考え方がございました。事実、その委員会の結論も非常に幼稚なものであったわけです。当時としてはそれでも画期的だったと思います。ちょっと読み上げてみますが、「農薬の残留毒性を速かに科学的に究明する」これが第一点。第二点、「残留毒性のない農薬をもって代替せしめるよう強力な行政指導を行なう」、第三点「残留毒性のない経済的な新農薬の開発研究を積極的に促進する」こういうことでございます。  残留毒性を調べるのはけっこうでございましよう。しかし無毒な農薬はあり得ないわけです。農薬である以上は毒性がある。経済的な新農薬を開発する、これも技術論でございます。しかしその時点で一体農薬の持つデメリット、特に国民の健康に対するデメリットをどう考えるんだ、そういう発想は私の頭の中にもあまりありませんでしたし、またここの委員会委員の方にもなかったのではないか。そのことがこういう結論になっている。それから七年たったいままた同じ愚を繰り返したくないというのが私の気持ちでございます。  ですから、いわゆるいま現在の汚染状況そのまま認めた上で、その中でどういうふうに対応するかというのはやはり技術論でございます。私はそれではいけないと思うわけです。なぜそのようなおろかなことをしてきたんだ、そういうものを基本的に考えてみなければならぬ。それは私先ほど陳述のときに申しましたように、農薬を使わなければどうにもならなくなってきたといういまの日本の追い詰められた状況が一体どうして起こったのか。つまり工業生産ばかりをやってきたために結局は農薬を使わざるを得なくなってきているという第一次産業と第二次産業のアンバランスが起こってしまっている。このことを私どもも、やはり国会の皆さんがほんとうに真剣に考えていただきたい。そうでない限り問題は片づかないわけです。  私はこういう委員会に呼ばれまして、実は非常に腹が立つわけです。結果をどうするかどうするか、あと始末をどうするのかということを医学と生物学者に求められているだけでは問題は片づかないわけです。問題はもっと原点にあるわけで、私はそういう意味では公衆衛生も予防医学もそういうものには対応できないと思うわけです。いま中毒論のいろいろな疫学あるいは学問的なものだけをやっていたのでは、ただ結果を受け取っているだけにすぎない。しかしそのもとの、起こってくるもとの根を絶たなければどうにもならないわけですね。そのことはまさに私は政治なり行政だと思うわけです。そのことをどう考えてもここで訴えたい。そうだとすれば最初に申しましたように、一億が総不顕性中毒になっている。これはもう憲法二十五条の「健康にして」というものが守られていないじゃないか。その原点に立って、これは科学者も努力いたしますけれども、国会の皆さんもそれから一般の国民もジャーナリズムも全部考えていただかなければならないわけです。私はやはり、どんなに文化的な生活をやっているように見えてもどんなに経済成長するように見えても、健康が阻害されて何になるか。一番の原点じゃないのでしょうか。  そこで、かってなことをおっしゃれと言われましたのであえて申しますと、国会でいまいろいろな議論が出て空転しておりますが、私は、そんなことをやっているひまがあるのかい。この前この委員会に来まして、東大の宇井さんが発言しておりましたが、一日に東京湾に流れ込んでいる無機水銀の量は二百キログラムではないか。一日、二日、一週間、十日と国会で空転しておられる間に東京湾の汚染はどんどん進んでいるわけです。そういうことを一体許しておいていいのか。これはおそらく野党も与党も両方とも責任があるのではないか、私はそういった点を、遠慮なしにおっしゃれと言われますのであえて申します。その辺はっきり考えていただいて問題をその原点に立って——これは党派も党略もないわけですね。ほんとうに国民の原点がやられている。そこをほんとうに考えていただきたい。そして、しかも私たちが加害者の立場で、次の世代を被害者に仕立てていくというような可能性が許されていいのか、そういう原点に立ってほんとうに真剣に考えていただきたい。かってなことを言えというのであえて申しますが、ほんとうに私はそういう気持ちでございます。
  89. 山口誠哉

    山口参考人 私は政治家でも哲学者でもございませんので、お尋ねになった件だけお答えします。  いろいろな工場からのたれ流しそれから農薬——これはもう禁止になりましたのでおそらく残っているものだと思いますが、これの有機化ですね。それが無機である場合にはたいしたことはございませんが、有機化した場合、またその可能性、これはいま非常にたくさんの説がございます。たとえばアメリカのケネディ及びウッド——ケネディ大統領じゃございませんけれども、連中がやった仕事でありますとか、それからメチルコバラミンというもの、それからスウェーデンのヤーレネフという人がやった実験、非常に微量ではございますが、確かに有機化しております。  それから私どももやりましたけれども、化学反応によって有機化することもあるわけでございますので、無機だからといって安心はできないということをまず申し上げておきたいと思います。それから相乗作用その他があるかどうかということでございますが、これは中毒学的にいいまして相乗、相加、また独立作用、そういうふうな作用がございます。水銀化合物も無機と有機は相乗作用はございません。ただし相加作用はあるかもしれないというのが現状でございます。しかしこれは攻撃のメカニズムが違いますので、またアタックする臓器が違いますので、そういう意味では独立であるといってもいいかもしれませんが、しかし相加と考えたほうがいいかと思います。  それから今度はそういうものをモニターする場合のことですが、ちょっと御紹介しておきますが、十年前、一九六三年に発足いたしまして一九六五年に完結いたしました、私もその委員でございましたが、世界十五カ国の人間の、これは普通の人の尿、血液の中の鉛、水銀、砒素、これの正常値の比較研究が完成しております。これはWHOのクロニクルとアカイブス・オブ・エンバイロンメンタル・ヘルス、「環境衛生」というアメリカの本に出ておりますのでひとつごらんください。  それからことし発足いたしました、私もその一員でございましてアジア支部長ということになっておりますが、世界二十五カ国で、これはソ連、中国を含めて班研究がいま発足しつつあります。これは特に日本がアジアの中心になれというのは、六五年に完結して報告いたしましたのが十年後にどうなっておるかというものを調べるのが目的でございます。特に日本もその主要メンバーになったのはどうしてかというと、日本人を調べておればだいじょうぶだ、日本人が病気になれば大体世界じゅう病気になるということでぜひ日本人も計らしてくれということでございます。これはアメリカのNIHがおそらく金を出します、それからWHOが援助するという形でいくと思いますが、私どももそういう研究をしておりますが、先ほど政治に対して何かということでもし言わしていただきますならば、私実はいまマグロの安全性についての実験を少しいたしておりますが、この研究費は、私の大学は私立でございますので乏しい金でやっておるわけでございますが、私の研究費はアメリカのデューク大学から二千ドルいただきました。それだけでございます。日本の政府からは、私のようなチンピラがあまりやらぬでもいいということでございましょうけれども、そういう基礎的な研究にもう少しお金を投じていただいたらもっと国民の健康の基礎的な調査ができるのではないかと思っています。何か起こるとぼっと金がきますけれども、何もないときにやっておるのでは、とてもじゃないですけれども、文部省へ出した書類はどこかのすみにいくというようなことでございまして、どうもこうもしようがございませんので、何とぞよろしくお願いいたします。
  90. 島本虎三

    ○島本委員 自由にして潤達な御意見、ありがとうございました。  なお、四月の二十六日にやはり皆さん意見を聴聞した会がここにあったわけであります。その際に、白木先生でありますけれども、公害そのものは現在よりも次の世代に及ぼす、これが心配なんだということばがいまだに脳裏を離れないわけであります。当然PCBだとかBHCや水銀、カドミウム、日本は世界の平均の百倍であるということも聞かされたり、また汚染物質の分解まで数十年必要だ、こういうような状態考えてみたりする場合には、やはり次の世代のことを考えて、その加害者になってはならないということは、私としては一つの肝に銘じておかなければならない公害を扱う者の態度だと思っておりました。同時に水銀汚染の実態、第三水俣病が発生して対策考える、こういうようなことが、いま五里霧中でありますが、一生懸命やっておるわけであります。第三水俣病の発見で水銀汚染予想外に大きい、広がっている。有明海沿岸、これは偶然であるにしてもほかにはまだまだ多い。それと同時に可能性のあるところを洗い直さなければならない。その際には何をもって安全とするかというようなこの基準もいつでも問いただされるわけであります。私どもはそういうような点からして、いま山口先生のほうには、許容基準と申しますか、最大安全量、最小中毒量ですか、こういうようなものに対してまだ十分ではないのだということを聞かされてあるのでありますが、やはりいま必要なのはここじゃないか、こう思っておるのであります。それと同時に私ども最近、今度は同じく白木先生にお伺いしたいのですが、水産庁のPCBの魚類に対する汚染調査の発表、それから行政の指導に乗り出したということがあったわけでございます。この調査と行政指導、この二つに対してはどういうふうに考えるかいままたお伺いしたいわけです。これからの問題ですから、たとえばPCBに対しては暫定許容基準の三PPMをこえるもの二割以上、こういうようなことのようであります。それがもと判定基準だとしたら、二割未満の水域の魚ということで安全だということになってしまうわけでありますが、いままでの水俣の様子は決してそうじゃありませんでしたが、この辺に対してやはり同じ基準を出しても、これじゃ心配基準ではなかろうかという疑念が当然浮かぶわけであります。この点に対してそれぞれから御高見を承りたいと思うわけであります。
  91. 白木博次

    白木参考人 私は、何度か繰り返して申してきましたので、少しこれまたすり違え議論になるかもしれないのですが、科学者としての安全性ということを問われておられ、それは最大限の努力をわれわれはしなければならない。ですが、私はやはり科学者の立場を越えてどうしても発言しなければこの問題は片づかないということも再々繰り返してきたわけなので、むしろ私からの皆さまに一つの課題と申しますか、私がいままでいろいろ汚染問題と市民の健康という問題を考えて、実は都市政策の中に最後の結論として七つ出しているわけですが、非常に簡単でございますので、ちょっと読み上げさしていただきたいと思うのです。(「あと何カ月くらいかかるのですか」と呼ぶ者あり)これはあと二カ月くらいたってからだと思います。(「五巻目ですか」と呼ぶ者あり)五巻目か六巻目じゃないかと思います。  「ここで、最後に、いくつかの事実と見透しを以下に列記するが、それをどう受けとめ、またそれにどう対応するかは、全「市民」の一人一人の問題であり、他人にその責任を転嫁してすむ問題とは思えない。」  第一点といたしまして、「総「市民」は、」私の言う市民というのは、私もしろうとでございますが、いまいわゆる広域行政区画と申しますか、都市圏の拡大が行なわれておりますね。それを交通網でどんどん結んでいくわけですから、私の観点に立ちますと、市民というのはいま現在日本の七、八割であろう。あとは過疎地帯の住民だ。そういう意味で総市民というものをそういう形でとらえております。「総「市民」は、多少にかかわらず、汚染物質によって、すでに複合的な不顕性中毒状態にあるか、その状態におちいりつつあるが、その状態は、今後、悪化することはあっても、改善する見透しは考えられない。」これはもう水銀が出た、それからPCBが出た、おそらくもうすぐBHCが出るでしょう。あるいはカドミウムが出ると思います。ですからおそらく複合汚染、あるいはそれはいまの日本の経済成長のあれから見まして改善する方向には向かわぬだろうということです。  第二点として、これは繰り返してまいりましたが、「したがって、憲法第二十五条は、すでに守られているとはいえない。」  第三点としまして、「蓄積性の高い四大汚染物質は、」水銀、カドミウム、BHC、PCBですが、これは「世界にその比をみないほど膨大な量に達している。したがって、そこから、決定的な健康崩壊が発展するとすれば、日本は、その時点で、公害突進国となるであろう。」先進国というのはあとから続いてくる国がある場合でありますが、どうも百倍以上ですと、あとから続いてくる国がないであろうから、まあ公害突進国となるであろう。これは間違いないと思います。  第四として、もっときびしい条件が「狭隘国土、過密的飽和人口、貧弱な天然資源という三大条件が、変りうる見込みはない。」これは日本の置かれている現実でございます。  第五点として、「現世代の「市民」は、汚染と公害に関して、被害者であると同時に、多少にかかわらず、また直接的、間接的に、加害者的役割をも演じている。」  第六として、「現世代の「市民」は、加害者階級の立場から、現在から将来にかけて、次世代の後継者を、被害者階級に仕立てていく可能性が大きい。」  第七点、「以上の実態に対応すべき医学と福祉の現実は、きわめて不満足である。」  第八点、これはどうもちょっとお耳が痛いかもしれませんが、「与党、野党をふくめて、国レベルの政治と行政の責任者達のこの側面に対する本質的な認識は稀薄にすぎる。」  ですからこの七点を踏まえませんと、公害問題は片づかない。国の政策も私の医学という立場あるいは国民の健康を守るという立場から見ればこの七点に尽きるのであって、それを基本に市民も国会の方々考えていただきたい、そういうようなお答えになってしまうのでございます。
  92. 山口誠哉

    山口参考人 御質問は、おそらく日本の現状に対する対策、それから基準のきめ方、そういうふうなことであろうと私理解したのですが、それでよろしゅうございましょうか。——これは、いま白木先生がおっしゃったように、日本がきれいな国であるということをだれも言う人はないだろうと思いますし、私ども国際学会に出たりいたしますと、必ずイタイイタイとか水俣とかそういう名前が各国の学者から出てくるわけでございます。そのたびに私ども小さくなっておるわけでございますが、そういうふうなものが出た土壌というものは、これはやはりわれわれすなおに受けとめて現時点での対策、これはもうすでにおそいようなことでもあるかもしれません。だからそういう意味でのいろいろな環境基準でありますとか、それから飲食物、そういうものの中の基準、これはやはりもっとシビアにきめていく必要があろうかと思います。そのためにはやはり先ほど私申したように、国際機関ではどんどんそういうふうな委員会、それからアメリカでもそうですけれども、そこでほんとうの学問的な根拠を持った基準をつくっておるわけでありますが、日本では私寡聞にしてそういうふうなものが設定されて活発に動いておるということは知りません。水俣病が発生したら急遽そのための委員会、第三が出ると急遽そのための委員会というものができて、そしてやっておって、いつの間にかまた消えてしまうというようなことでありまして、これではやはりいけないんではないかと思います。したがって、その辺やはり国の政策として、しっかりしたそういうふうな学問的提拠をまず立てて、そしてそのための作業を常時やるということで何かが起こってからやるということではなくて、したがって先ほど御質問におっしゃいました次世代、つまり遺伝性のたとえば催奇性でありますとか、それから発ガン性でありますとか、そういうことに対する薬物の作用またはそれの押え方、こういうことも研究する必要があると思います。これに対して私はやはり現在の政治体制が豊富であるとは絶対に私は言えないと思います。
  93. 島本虎三

    ○島本委員 質問していると、まことに時間が短いことを身をもって痛感したわけでありますが、最後に一つだけ御猶予を願います。  いまヘドロの処理と一緒にあわせてカーバイドのかすですか、無機水銀を含んでいるもの、こういうようなものが山積みになっており、あるいはまたそれを埋め立ててしまったり、あるいはまたいろいろやり方がいま考えられておるようであります。大部分埋め立てたらいいじゃないかという結論のようであります。いまもうチッソ水俣工場では埋め立てておるようであります。まだあれは日本合成ですか、こっちのほうではまだ野積みにしてある状態であります。こういうふうにしてみますと、これを埋め立てるということは安全であるということになるのでしょうかどうか。この点について、私どもは埋め立てたほうがいいとは思っていたのですが、またある場合には水銀や何かのある山へまた戻して、自然に戻したほうがいいんじゃないかという御意見もあるようであります。これは加藤先生にざっくばらんにお伺いして終わりにしたいと思うのであります。
  94. 加藤邦興

    加藤参考人 いまの話の中で、チッソの場合に、埋め立てておると言われたのですけれども、それはちょっと離れた百間港のことをさしておられるのでしょうか。  百間港の場合に、埋め立ててあるとは私いえないだろうと思うのですね。埋め立てる場合に重要な問題としては、下のほうへ抜けていくのか抜けていかないのかという問題があると思うのです。八幡プールの場合には、ただ要するに、昔海岸であったところにへいをつくりまして、その内側へためてあるというだけですから、形としては野積みとそれほど変わらないだろうと思います。あそこのプールの構造も、ちょっと理由わかりませんけれども工場の反対側のところは非常に酸性が強いらしくてセメントが非常に腐食していて、あの状態は、ぼくはかなり危険だろうというふうに思います。ですから、高潮などがあるとか、あるいは非常に大きな大雨があればくずれる可能性がかなり高い積み方をしている。そして梅雨期にはかなりの浸透水があそこから流れていて、その時期にはあの辺の海の状態がかなりきれいになります。きれいになるという意味は、たぶん海中の微生物が——調査していないからわかりませんけれども、相当死んで、水が澄んで、透明度がよくなるということだと思いますけれども、あのあたりがかなりきれいになりますので、全然漏れていないとはいえないだろうと思います。埋め立てをやる場合に——これからいずれにしても、しゅんせつするにしても何にしても、埋め立てなければいけないと思うのですけれども、底をしっかり固めた相当大きなきちんとしたプール、それをつくってその中へ入れるような形、あるいはまわりをきちんとためて、海岸ではなくて、チッソの場合でしたらば、こういうことを言うとおこられるかもしれませんが、いまあそこは硫酸工場あとを片づけて相当広い面積があいているので、あそこにきちんとした形で積み上げるというような対策が必要だろう。いずれにしても野積みの場合ですと、鉱山の場合でもズリが野積みになっているわけですけれども、その浸透水の量はかなりあります。ですから、その浸透水の対策をとらないでやりますと、埋め立てるにしても積み上げるにしても問題は大きいんじゃないかというふうに思っています。
  95. 島本虎三

    ○島本委員 ありがとうございました。
  96. 佐野憲治

    佐野委員長 中島武敏君。
  97. 中島武敏

    ○中島委員 きょうは先生方ほんとうにお忙しいところありがとうございます。  時間の関係もありますので、私まとめて先生方にお尋ねいたしたいと思うのです。それで最初に山口先生に三点お尋ねいたします。  先ほど、経済企画庁の委託調査も行なわれたというお話でございましたが、個別の問題ですけれども、三井東圧における水銀、特にアルキル水銀処理の問題についてお尋ねしたいと思うのですが、この三井東圧の水銀あるいはアルキル水銀処理はこれまでどのように行なわれてきたか、そしてまたその経過の中でどのような問題点があったかということについてお尋ねいたします。これは第一点です。  第二点は、大牟田川及び有明海における水銀汚染調査は、現在までやられているような調査で十分だとお考えになっていらっしゃるかどうかという点であります。  それから第三点は、大牟田川及びその地先海域の水銀量はどの程度というふうに推定されていらっしゃるかという問題であります。千葉県の旭硝子の地先海域では、百トンくらいあるというふうに予想されているということが新聞で報道されておりますので、この大牟田川及びその地先海域における推定をお尋ねいたしたいと思います。  それから白木先生にお尋ねしたいのですが、この水銀汚染につきましては、先ほどから先生のほうから、行政と、すぐれて政治の問題であるという御指摘がありまして、私もまさにそのとおりだと思っておりますが、その上に立ってなお尋ねいたしたい点は、日本における水銀汚染を防ぐ、同時にまた、これからこれをきれいにしていく、浄化していくというにあたって、抜本的にどのようにすればよいとお考えになっていらっしゃるかということをお尋ねいたします。これが第一です。  第二は、それと関連いたしますが、農薬だけではなくて水銀の排出という点に関しては、大気もまた水においても、禁止するべきではないかと私は思っているのですが、当然先生もそう思っていらっしゃるのじゃないかと思いますけれども、この点についてどうお考えになっていらっしゃるかということであります。これが第二点目です。  それから、加藤先生にお伺いいたします。  第一は、水銀使用工場における排水処理の問題点であります。そしてそれをどう改善していけばよいかということについてが第一点です。  それから第二点は、先ほど、政府のとっている態度はたいへん期待はずれだという意味の御発言がありましたが、政府、特に通産省の企業に対する指導上の問題点として先生が考えていらっしゃる問題点はどういうところにあるかということであります。  それから第三点は、第三水俣病の発生以来、水銀工場における水銀の使用と排出の量の問題が非常に関心を呼んでおりますけれども、一応発表された数字としては、アセトアルデヒドを製造している工場、塩化ビニールを製造している工場については発表されておりますが、苛性ソーダ工場については現在発表されていないわけですね。これについての推定をもしなさっていらっしゃるとすれば、どの程度というふうに推定されていらっしゃるかということについてであります。  それから第四点は、大気中に水銀を排出するという場合、実際にどういうふうな形でその水銀が排出されるものか、そしてまた、これを防ぐことはできるのかどうか、できるとすればどのような方法で防げばよろしいのかということであります。  それから、これは白木先生にもお尋ねした点ですが、第五点は、水銀の排出ということは禁止するべきではないのかというように思いますが、この点いかがお考えになるかということであります。  第六点、これは最後ですが、水俣湾の問題につきまして、埋め立て以外の方法を考えるべきだという御発言がありました。具体的にどのようにすればよいというふうに先生はお考えになっていらっしゃるかについてお尋ねいたしたいと思うのです。  なかなか、たいへん立ち入った質問ばかりで恐縮でございますが、ひとつ忌憚のない御意見を伺いたいと思うのです。
  98. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  水銀汚染を今後本質的にどうするかという点にからんで、水銀汚染だけでなくて、おそらくあらゆる公害物質汚染についてどうすべきかということだと思います。二つ分けて、いままでの汚染をどうするのか、それから今後の汚染をどうするのか、そんなふうに二つに分けてお答えすればいいのでははないかと思うのですが、いままでのものというのは、これは水銀というのは、無機水銀もまた有機化されるというようなことがございますから、メチル水銀を分解するバクテリアというものを大量生産すれば、土の中であるとかその他のものを無機に変えることができると思うのですが、無機に変えましても、それがメチルとくっつきやすい条件のいわゆる水銀イオンという形にしておきますと、またくっついてしまうだけですから、それだけではこと足りない。それで、私は化学者じゃないのでよくわからないのですけれども、その水銀イオンにS、硫黄基をくっつけると、これはもう簡単にはメチル水銀に変わらない、くっつきにくい条件になる。ですから、分解すると同時に、それをそういう形の化学式のものに変えておけば、少なくともメチル水銀には変わらない。無機水銀でしたら、まあ入ってもすぐ排せつされるという意味で、ある意味での対症療法であるということはいえるのではないか。これに対してどれぐらいの費用が——おそらく北海道から北九州の果てまで、そしてまた海は水俣だけではなくて東京湾から瀬戸内海全部そうでしょうから、一体どれくらいの費用がかかるのか私には想像もつかないわけですけれども、まあ一応そういう一つ対策があり得る。  それからあとは、もう魚だけの問題ではなくて水から何から全部規制すべきだとすれば、これは一つ水銀を使うような化学工業はほかのものにかえていく以外にはないのですけれども、ほかのものにかえても、またわけのわからぬものが出てくる可能性がある。そうだとすれば、今後一切たれ流しはやらないというクローズドシステムをやる以外にはないだろうと思うわけです。これはおそらく汚水処理だけではなくて、水資源も不足しているのですから、水についても何回も利用するというようなことをもう考えないといけないだろうと思うので、そういう抜本的な対策を講ずる以外にはないだろうと思います。そうしますと問題は、大企業なら自分の資本でできるかもしれないのですけれども、中小企業はどうするか。そんな費用はとうていないだろう。それに対して一体国なり地方自治体なりが思い切った投資をするか、しないか。するよりしようがないと思うのです。  それからもっと問題は、一般家庭が流しております洗剤その他の問題についても、第二次、第三次処理をするということに対してものすごい資本投資をしなければ、いままでの蓄積だけでもたいへんなものですから、今後絶対ふやしちゃいけないんだというきびしい覚悟でやる以外にはないだろう。テクノロジーアセスメントをやりましても、毎年毎年数百の新しい化学物質が出てくる以上は、これが人間のからだにとって害があるかないかということを知るためには——この前、公衆衛生院の次長の鈴木先生とお話しする機会がございましたが、WHOですね、進んだ外国の場合でも、四百のそういう新しい化学物質に対してまあせいぜい十くらいのテクノロジーアセスメントしかできないという発言がございました。まして日本のようにそういう基礎的なものを怠ってきて、いまさら少しぐらいの研究費をつぎ込んでもどうにもならない国では十もできないだろうと思うのですね。じゃあどうしたらいいのかということになりますと、やはりとどまるところを知らない開発、進歩ということが問題なんでありまして、それはとどめることができるのか、できないのかという問題になってしまわざるを得ないのではないのか。少なくとも私は医者でございますし、国民の健康というものに関しては、進歩をするなとは私は申しませんけれども、健康を守るという立場からいったならば、もういまはできるだけ保守的でなければならないと言うしか表現できないわけです。そういう原点に立って、無制限な経済成長とかあるいは開発というものを歯どめをする以外にはないだろう。私が一億総不顕性中毒ということを、少しどぎつい表現になりますけれども申し上げているのはそこでございます。健康に関してはいま一億みなが極度に保守的になるべき段階なんだ。私は昨年の七月にシドニーの学会に呼ばれまして、そのときに私に与えられたテーマは、日本の環境汚染が次の世代の奇形をつくっているかどうかということについてしゃべれということでございました。先ほど山口先生のお話もございました。外国は日本をそういう目で、モルモットという形で見ております。何か起こるのは日本がまっ先だろう。そこをわれわれが痛切に認識しなければならないということです。  まあ、そんなことになりますか。
  99. 加藤邦興

    加藤参考人 だいぶありましたので、順序は狂うかもしれませんが、申し上げます。   〔委員長退席小林(信)委員長代理着席〕  まず使用と排出の量の問題になりますが、アセトアルデヒド工場の場合には、この前も話があったかと思いますけれども、大体一九五五年ぐらいまでは一トンのアセトアルデヒドをつくるのに一キログラムぐらいの水銀を消耗する。その後だいぶよくなりまして大体〇・五ぐらいまでは下がったかもしれません。それが普通工学部なんかでやっております人間の常識ですから、アセトアルデヒドをトータルで大体五十万トンつくっていれば五百トンくらいの水銀を流したという計算に大ざっぱにはなるのですけれども、それの前後の幅で、その三分の一ぐらいまでは下がっていてもそれほどおかしいとははっきり言えないわけですけれども、それ以上低ければちょっとおかしいだろう。  先ほどもちょっと申し上げましたけれどもアセトアルデヒドをつくる場合に、水銀が出ていくコースは、触媒をつくるときに硝酸で酸化しますので、そのときに空気中に逃げていく分とあとは排水の中に溶け込んで出ていく分と、こうなります。これについてはほかにちゃんとした調査がないので一応チッソが出したデータを信頼するほかないと思いますけれども、それによりますと、空気中に出ていく分は大体四〇%から四五%ぐらいです。あとは水中に入っていくということになりますが、チッソの場合には酸化するやり方がかなりでたらめというと語弊がありますが、上にふたも何にもしない槽にドボンドボンと投げ込むようなやり方でやっていましたから、そこから空気中に相当出ていったということは考えられます。ですからそれに対してふたをきちんとするとか、あるいは換気のようなことをきちんとやるということをしていれば相当押えられるだろうということが考えられますが、水のほうは、アルデヒドの工程から流れる水の大体二分の一から場合によると四分の三ぐらいまではメチル水銀じゃないかという説があります。しかもメチル水銀の場合にはつかまえるうまい方法がありませんから、そういうことで考えますと大体全部流れていかざるを得ないわけです。したがいまして、そういう点でまず数値についてはちょっと信用できかねるんじゃないかということを先ほど申し上げたわけです。  そこで通産省の行政の問題点ということになりますが、たとえば今回の件でもそうなんですけれども、私たちがちょっとデータを繰ってみても、たとえばカーバイド工業会とか、酢酸の場合ですと酢友会というのがありますが、そういうふうな業界団体では工場別の生産量など非常にこまかくつかんでいて、過去にそういうデータを発表しておるわけですね。ところが通産省のほうは、三十三年はあったんだけれども三十四年はないんだとか、そういうことを言っておられるので、これは一体どういうことかしらん。通産省というのは、私のつき合っている限りではそんな気楽なお役所はないという印象をたいへん持っておりますので、やはり通産省は環境問題とのかかわりのようなことになるとかなりひるむのではないかというふうな感じがあります。  そこで、いろいろ考え方はあるかと思いますけれども、通産省というのはものをつくらせるお役所であると思いますが、そのつくらせ方にもいろいろあるということについて、やはりきちんと指導をしていく必要があるだろうと思います。  それで、先ほどから電解の問題がちょっと議論になりましたですけれども、電解の場合ですと、大体年間に使用している水銀の二%ぐらいがロスになって出るというのが常識です。試算しているかいないかというのは、私は試算しておりませんのでわかりませんが、年間二%の水銀がロスとして失われるということになりますと、あの電解槽で全体として何十トンという水銀をチャージしているはずですから、それの二%を年々かけていけばある程度の推定はできるだろうと思います。そういうことがはっきりわかっているのに通産省はずうっと許可してきた。  これは例が水俣関係でないので恐縮なんですけれども、実は東邦亜鉛の安中工場の問題のときに、私、通産省に出された認可申請の書類を計算したことがあるんですけれども、それで計算すると、昔の問題ですが大体月に十トンぐらいのオーダーでカドミウムが空に飛ぶような計算になる認可申請になっているわけですね。おまけにそれを通産省はあとから追認でもってオーケーを出したわけですね。それは東邦亜鉛が出した認可申請書を見ればだれでも計算できる計算なんですけれども、そういうものに対して、一応の形が整っているということだけで通産省がどんどん認可していくということが今後許されていいかどうかというあたりにかなり問題があるだろうというふうに思います。  それからあと、苛性ソーダ工場はいま申し上げましたように、大体電極に使っている量の年間で二%ぐらいが流出するというのがほぼ常識です。それは大体どの工場で何トンぐらい使っているのかということを調べて計算していただけばいいと思います。  ちょっとまた話がそれますが、そういう問題できょう私なんかが来ているということもかなり一つの象徴ではあるかと思うのですけれども、工学関係者でそういうものを調べる人が少ないわけです。私なんかが企業に行っていろいろ工場の中のそういう問題についてお尋ねするわけですが、大体私の経験からいいますと、住民と弁護士とお医者さんは工場の中に入ってもよろしい、しかし工学部のあなたは困るというふうな形でしばしば拒絶されるわけなんですね。私としては、ある工場で見たものをよその会社へ行ってあそこの会社はこんなうまいことをやっているぞというふうなことを言うつもりは毛頭ないわけで、環境問題とのかかわりだけで調べたいわけなんですけれども、どうしても工学関係者ですと大学人間でもなかなか企業の中に入れてもらえない、そういう点についてもなかなかチェックし切れないという問題があります。  それから水俣湾にたまっているどべをどうするかという問題があったと思うのですけれども、これについては埋め立てに反対であるということを私申し上げたわけではないんで、埋め立てをしなければならないかもしれない、しかし、埋め立てしかないという形でいますぐというほどほかのやり方について調べられていないではないか。私が考えている一つの案というのは明神から緑ケ鼻にかけてのいわゆる百間港という部分について埋め立てざるを得ないだろう、しかし、その場合の外側のどろがたいへん問題になるわけで、それについては仮締め切りをやって、仮締め切りをやった状態でしゅんせつすれば、不知火海全体の汚染が広がらない形でしゅんせつが可能なんじゃないか、あのままでしゅんせつをやったらとんでもないことになると思います。そういうふうな条件についていろいろとまだデータが不足しているわけで、いろいろなやり方があって、そのやり方についてはやはり現地の人の、特に漁民の声を聞いてやっていただきたい。その場合に、ただそういうやり方が今度またいろいろあるからということで、仮締め切りのようなことをいつまでもやらないでおくというのは、またこれもたいへんに問題があるだろう。  あとちょっと気楽にしゃべらせていただきたいと思うのですけれども、何かいろいろこまかな問題をずいぶんお尋ねになるのですが、まあ私に対してはあまりこまかな質問はないのですけれども、確かにいろいろ一から十まではっきりさせなければいけない問題があるかと思うのですけれども、私なんかのあちこち行ってみた経験、水俣に限らず、ほんとうは科学的に一から十までわかるなんということはないんですね。一から十までわかるということを待っていたらずいぶん時間がかかるのです。水銀に比べたらカドミウムの問題なんというのははるかに簡単にわかりますけれども、それでもまだまだわからない問題が一ぱいあります。ただ、わからないからといってこういうことに対する対策がなかなかとられないというのは、私としては非常に困ると思いますので、そういう点、土壌汚染防止法なんというのはかなり勇断だったという感じがあるのですけれども水銀汚染の問題でもああいう原状復元の考え方を取り入れてやっていただけるということにならないであろうかというふうに思います。
  100. 山口誠哉

    山口参考人 お答えいたします。  まず、第一番目の御質問ですが、経済企画庁の調査、それから三井東圧の水銀の件でございますね。これは昭和四十一年に依頼を受けまして、いろいろな物質を調べたわけですけれども、その当時あまり予期していなかったのですが、水銀がやはり排水の中に出ておるということでいろいろ調べましたところ、やはり電解工場の排水、それから染料系統、これは触媒に使っておったらしいのですけれども、それからの排水、それが一緒になって出ておるということがわかりました。それから、医者は工場の中に入れるそうですが、私どもなかなか入れませんで、ですけれども、まあとにかく調べた範囲、それからお聞きした範囲で、それからその当時大体使っておるのは無機水銀ですが、調べておるうちに、どうも有機もあるようだということでやったわけです。有機も、ガスクロマトグラフとけさ話が出ておったのですけれども、どうもりテンションタイムからも見るとメチルらしい、そこで何でメチルが出るかということでやり始めて、そして大体解明して第一回に発表したのが第六回労働衛生討論会で発表いたしました。その後これは非常にゆゆしき問題でもありますし、なぜ出るかということを詰めていきまして、どうも浄化に使ったカーバイドかす、これでもって有機化するということがわかったわけです。しかし、メチル水銀であるということ、これはガスクロマトグラフだけではだめなんで、どうしても純粋な結晶の形にして、融点だとかその他の赤外とか見ていく必要があるので、モデル実験をやって確定をいたしました。それでメチル水銀に間違いないということを突きとめたわけでありますけれども、聞くところによりますと、そのカーバイド処理はやめたということであります。これはおそらく通産省のほうがよく御存じだと思っておりますけれども、私どものほうにはそういうふうな生産プロセスであるとか生産量であるとかというようなことはほとんど入ってきておりません。  それから大牟田川の地先の調査であります。これはおそらく人体被害調査であるとか疫学調査であるとか、それから魚介類調査であろうと思いますが、そのことが起こりまして大体大牟田市が月に一回これは不定期に——定期にやりますとすぐわかりますから、不定期に採水をいたしまして私どものところに運んできております。一定地点の水を取りまして測定しております。幸いに水銀の流出は非常にドロップいたしまして、現在のところではほとんど心配はないような状態でありますが、過去のことはわかりません、実際のところ申しまして。  それから魚介類もその直後昭和四十二年から四十四年、五年くらいまででありましょうか、調べまして、トータル水銀及び無機水銀、これを大村のと比較しております。その当時は特にこれが異常汚染であるというようなデータは出ませんでした。現在の時点はよくわかりません。それから過去もよくわかりませんけれども、その調査時点におけるデータでございます。  それから疫学調査でありますが、これもそういうふうなことで、たとえば水俣病であるとかなんとか、そういう目では見ておりません。ただ大牟田の医師会に呼びかけまして、麻痺を起こしたとか、目が見えなくなったとかいう患者がいたら知らせてくれということで、これは大牟田市の依頼とそれからあとは私の身銭を切っての研究でありますけれども、スモン病様患者とそれからスラッジを捨てた付近の人たち四十九名の毛髪検査をやっております。目が見えなくなって、それから歩行困難を起こした方々毛髪は正常値でございました。その時点で調査を打ち切っております。それからスラッジ捨て場の付近の方々毛髪、これは一人三〇〇PPMというのが出まして、まことに驚いたわけですが、この人は私うちまで行きまして調べたのですけれども、これは薬事法違反の水銀しみ取りクリームを使っておりまして、髪からはメチル水銀は出ませんでした。トータル水銀として三〇〇PPM、びっくりしましたけれども、直ちにそのクリームの使用を中止させております。そういうことでございますが、今度のようなことが起こってみますと、そういう目で洗いざらいに点検したわけではございませんし、それからまた組織的にやったわけじゃございませんので、十分であるということは私は申し上げられません。  それから、第三の、地先における水銀のデポジットの量ですね。これは私ちょっと見当がつかないのです。と申しますのは、一つ水銀の横の分布とそれから一つは垂直分布というのがあります。それで、下のほうにいくと表面よりも濃い水銀がありますので、トータルの総量から類推しないとなかなか計算できないわけなんです。いま大体しゅんせつをしようかという話をしておりますのは三十万トンでございますが、一〇PPMといたしますと、やはり相当の、三キロか、そのくらいの水銀になるわけでございますが、これもやはり通産関係から、使用水銀量、それから消失した水銀量、捨てたスラッジの水銀量、それの差し引きと、それから蒸発を引いたもの、これから類推しないとちょっとわからないのではないかと思います。どうも不完全な答えで申しわけありません。
  101. 中島武敏

    ○中島委員 どうもありがとうございました。
  102. 小林信一

    小林(信)委員長代理 岡本富夫君。
  103. 岡本富夫

    ○岡本委員 たいへん長らく御苦労さまでございます。  そこで、まず白木先生にお聞きしたいのですが、先ほど貴重な御意見をいただきまして、さらに私どもも後代の人たちのためのことを考えなければならぬということで強く決意いたしました。そこで、農薬汚染された農地の改良ですね、これはいまの農地をそのままにしておいていいのか、まあ相当な費用もかかるということでありますけれども、といってそのままにしておくわけにいかないのではないかと思われるわけですが、そのことと、それからいま水産物で非常に魚介類でやかましゅういわれておりますけれども、農産物にはこういった被害を受けるような大きな汚染源が出たことはないのか、先生の御研究の中ではなかったのかどうか。ものの本によりますと、北海道で牧草を食べた乳牛ですか、これがたしか生殖機能が低下しているというようなお話も私読んだことがあるのですけれども、そういった面から、先生の御研究の結果をお知らせいただければ非常にありがたいと思います。まずそれだけひとつ先生からお願いします。
  104. 白木博次

    白木参考人 私は神経病理学なものですから、農地の汚染をどうしたら復元できるかというようなことは、ちょっと何とも言えないわけでありますが、おそらくさんざん農薬を使っておりますので、土はある意味ではもうやせているというようなことは感じますが、問題はそれを堆肥政策に切りかえていくのが私はほんとうだろうと思うのですけれども、それはそれだけでは片づかないので、やはり最初に私冒頭で陳述いたしましたように、農村人口ですね、これが老齢化し、かあちゃん農業になっているというものを復元するということを実際やらなければならない。ですから、結局工業産業と食糧産業のバランスをどうするのか、それをやらない限りにおいては問題は片づかない。それが片づくのだろうか。だから国会は、ほんとうに本腰を入れてやっていただきたい。これはまさに日本列島改造というのはそこだと思うのでございますが、これが工業産業を盛んにしていこうという方向ですから、農薬汚染を連動するわけですから、そこの問題がやはり国会の一番の焦点になってしかるべきであって、その問題から実際真剣に取り組んでいただきたいというような形でお答えする以外にはどうもないように思うのです。  それから第二点の農薬の健康被害という問題については、私よりも佐久の総合病院の若月先生の「農村医学」あるいは「農村医学会」、そういうところのいろいろなデータがたくさん出ておりますので、それを御参考にしていただきたいんですが、私は神経病理という立場で基礎的な実験をしたことがございます。フェニル酢酸水銀、これは水銀にアイソトープをラベルしまして、くっつけまして、そしてサルとかあるいはネズミに注射をする、そして神経系の中にどのように取り込まれていくか、あるいはまた胎児に移行するかどうかというような研究をやってきておりまして、これはことしの一月の「公害研究」に出ておりますが、先ほど山口先生のお話もありましたように、無機水銀は脳には入りませんし、入ってもすぐ出てしまう。メチル水銀は徐々に入ってきて、ずっと時間的に高くなっていく。妊娠した動物にやりますと、無機水銀は胎盤のところにはたくさんありますけれども、胎児にはほとんど入らない、少し入りますけれどもメチル水銀ですと、すっと入ってしまう。フェニル酢酸水銀は、端的にいいまして無機水銀とそれからメチル水銀のやや中間に位するけれども、どちらかというと無機水銀に近いというデータでございます。  ほかの農薬ですね、たとえばDDT、BHC、有機塩素糸のものをやはり同じような実験をやってみますと、いずれも母親の神経に対して簡単に入ってまいります。DDTそれからBHC——BHCでもアルファ、ベータ、ガンマとございますが、ベータ、ガンマについてやってみますと、ほとんど瞬間的に脳に入ります。が、しかし簡単に出ていきます。二十四時間たちますと、ほとんど脳には残っておりませんが、脂肪組織に残っているんですね。それからDDTも同じようなことでございます。DDTはこの場合に脳に入りますが、胎児にもわりと簡単に入っていきます。  それから、こわいのはアルファBHCでありまして、アルファBHCというのはあまり皆さんやっておられませんけれどもアルファというのは注射しますとやはり簡単に脳に入って、二十四時間たっても全然出ていきません。ところがアルファというのは、BHC農薬の中であまり問題になっていないのは、これは量が少ないからたいしたことはないだろうということになっているんですが、決してそうではございません。日本のBHCというのは、やはり安上がりにやるために、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、みんなまぜたものをばらまいておりますので、私はベータやガンマ以上に神経という立場から見ますと、アルファこそおそろしい。それは極度に幾ら量が少なくても、みんな神経系に利用されている、そんなふうに考えざるを得ないわけです。  それから有機燐ですね、パラチオンあるいは最近は低毒性の有機燐であるマラソン、これもやはりやりますと簡単に脳に入ってしまいます。両方とも、しかしわりと早く出ていきますが、パラチオンなどは肝臓に残っていく。それからいま盛んに使っていますマラソンというのは、これはわりと二十四時間たちますときれいになくなっていきますけれども、神経の場合にはどちらかという末梢の神経によく残る傾向がございます。ですから佐久の眼病というのは、視神経であるとかそういうところに問題があると思うのでございますが、有機燐ですね、これはわりと簡単に分解しますので、あまり問題になりませんが、DDTとかBHCですね、これは有機燐でPCBみたいなものでございますから、分解しないでいつまでも残っている。それが、四大公害汚染物質の中のBHCがそれでございます。それから水銀は、これは水銀農薬がおもでございましょう。PCB、これはアメリカのことを新聞でちょっと見たんですけれども、DDTが何か紫外線の影響でPCBに変わるというような記事が出ておったように思いますが、だから、まいたものがそのあとでかえって変な有毒物質に変わっていくというところがおそろしいのですねプェニル酢酸水銀メチル水銀に変わっていく可能性があるという、そういうことが実証されてきている。こんなわれわれ考えてもみなかったことが起こってきているのです。それで、私の立場でこういう仕事をやっておりまして、基礎的な実験でございますが、母親の脳に簡単に入るようなものは、同時に胎盤を通って胎児のほうに入っていくという一つの平衡関係があるように思われます。つまり脳血液関門というものと、胎盤胎児関門というのはよく似ている。そういうことになりますと、四大汚染物質の中の水銀、それからBHC、それからPCBも、これはカネミ油症のときに黒子が生まれていますので、どうも私自身はやっておりませんけれども、胎盤から胎児に移行するのではないか。私の専門である脳の立場からいいますと、四大汚染の中のどうも三つが神経毒である、こういうことを考えますので、私は次の世代はこわいということを申し上げていますのは、やはりある程度実験をしているから、データを持っているからでございます。そういう意味では、農薬というのは私はこわいと思います。だから最初申し上げましたように、農薬を医薬並みに扱ってこなかったという基本的な衛生思想のなさということですね。GNP一本で来たというところがいまここで問われなければならないことで、問題は農薬汚染だけではなくて、食品汚染ですね。あるいは食品の添加物、こういう問題はすべてみな同じように考えなければいけない、つまり口から入るものは薬よりもあるいは特殊な公害よりも、毎日国民が三度、三度食べなければならないその食品のほうがむしろ私はおそろしいという感じを持っております。お答えになったかどうかちょっとわかりませんが……。
  105. 岡本富夫

    ○岡本委員 もう一つ白木先生に、実は熊本県へ参りまして、知事さんあたりと懇談いたしますと、有明湾周辺健康調査、これをしたいんだけれども、非常に手が足らぬというわけですね。専門の、先生のような医科学的な先生もいない。熊大の方もいらっしゃるけれども、限定されている。ですから非常に人数が少ない中で、これを早くやれ、こういうことですから非常に困っている、こういうことなんですが、そこで、この水俣病に対する検査方法ですか、これとこれとこういう項目をやるんだというようなものが確立されておって、そしてそれを、そのやり方を熊大の先生方が教授すれば、普通の医者あるいは保健所員、こういう人たちができるかどうか、これがいまの対策で一番問題になっていると思うのですが、これについてひとつお伺いしたいと思います。
  106. 白木博次

    白木参考人 お答えいたします。  私、これ考えるときに、せめていま現在、九州にある四つの大学考えろと言いたいわけです。神経の専門家は、九大にいらっしゃいます神経内科の黒岩教授、それから最近鹿児島のほうに行かれた井形教授、これも東大出身で神経の専門で、現在鹿児島の水銀汚染の実態をやっておられます。長崎大学にはそれほど専門家はいらっしゃいませんけれども、そういうところにもそういう専門家がいらっしゃる。ですから、せめて九州地区の四大学の神経関係の人たち一つのチームをつくられ、そしてそれと同時にあの辺にいろいろな国立病院あるいは地方自治体の病院があると思うわけですね。それからもちろん開業医の方、その辺がチームづくりをしていまの問題に対応されなければいけない。それは全く不可能ではない。それに中央の方も加わってある程度やっていくというようなことは可能だと思います。ですけれども一つ一つ大学、あるいは国立病院あるいはその地方自治体の病院をごらんになればいかに貧弱なものであり、定員不足であるかということがおわかりになると思います。これは私、この前のこの委員会でも申し上げたのですけれども、アメリカあたりですと、一つのベッドに対して、医者を含めて六人の定員があります。あるいはヨーロッパでも、一つのベッドに対して二人ないし三人の医者、看護婦その他が配置されている。日本は東大が一番いいと言われながら、一ベッドに対して一・三八でございますが、公務員の首切りが行なわれておりますので、いまはむしろ減員しております。そのような実態の中で、物理的に考えてもいまのような問題が一体対応できるかどうか。ましてや地方自治体病院、これは公営企業法の中で独立採算をしいられているところでは、診療だけが精一ぱいであって、そういうチームづくりをできるというような体制になっていないと私は思うわけです。しかし国立病院にしましても地方自治体の病院にしましても、これは公的医療機関である以上は、当然不採算でやらなければならない。そうだとするならば、そこに十分な人員が配置されていなければ、いまのようなチームづくりもできない。開業医の方と熊本大学だけでどうしてできるのか。ですから私は先ほど都市政策の結論を申しましたが、その第六点として、いまのような公害病に対応できる医療体制ができていないということを申しましたのは、そういうような意味合いを含んでおります。これも結局もとをただせば環境汚染とかいう問題を考えるときに、日本人の考え方はまず外部環境しか考えていない。ストックホルムは人間環境会議でございます。ヒューマンエンバイロンメント、その会議であったわけですね。つまり人間というものが中心であって、そしてその外側に外部環境があるわけです。しかし日本の環境汚染とか破壊という問題は、まず外部環境が先に立って人間が忘れられている。発想がさかさまであるということを指摘せざるを得ない。そういう基本的な思想にやはりいまのような問題がつながっていると思うわけです。医療と福祉に対して惜しみなく、不採算的にものを投資してこなかったという現実がいまどうにもならないということの一つのあらわれになっているのです。ですからこの問題を早急にやるとしても、そう簡単にはいかないわけです。そういう意味では、私はにっちもさっちもいかなくなっている現状にあるということしか申し上げられません。
  107. 岡本富夫

    ○岡本委員 山口先生にちょっとお聞きしておきたいのですが、時間がもう二、三分しかありませんが、先生はこの有明湾のほうの問題におそらく少しは関係されたのではないかと思うのです。非常に程度の低い質問ですが、私ども調査に参りますと、魚介類、これについてははっきりしたけれども、ワカメとかノリとか、こういうものが向こうでつくられておるわけですが、これは販売先からそういうのは買えないというようなことでキャンセルになったということで、漁業組合皆さんが非常に心配しているわけですが、これについて先生は調査なさったことがあるかどうか、またこれが安全であるか、これをひとつお聞きしたいのです。  それから三井東圧にいきますと、最終の処理された水が〇・〇二PPM、これは排水に水銀が検出しないということでありましたけれども、たとえ〇・〇二PPM出ましても、この水銀が自然還元してなくなるのであればよろしいですけれども、これがどんどん蓄積されていくということになりますと、これはたとえ少しでも出してはいけないんじゃないかというような感じで帰ったわけです。この二点についてちょっとお聞きしたいと思います。
  108. 山口誠哉

    山口参考人 お答えいたします。  まず第一番目の有明湾のワカメとかノリですね。——魚介類は多少やっております。それからノリもやはりその当時からずいぶん問題になっておりまして、ノリ漁業、特に有明海、福岡県沿岸、佐賀県沿岸、長崎県、相当ノリ業者がおります。非常に心配して測定をいたしました。その時点ではほとんど検出されなかったわけです。と申しますのが、魚は少し大きいのですけれども、ノリは非常に季節的にばっと増殖してそしてつむものですから、わりに蓄積する時間が短いので、ほとんど検出されなかったのではないかと考えております。ただし、私どもの立場から言うと一〇〇%ということはちょっと申し上げかねますけれども、とにかく出た限りの数字では心配は要らなかった、その当時の検査結果では、ということでございます。  それから〇・〇二PPMという問題ですが、やはりこれは〇・〇二といっても数字が出ておるというのは、これは検出されたということですから、検出されてはいけないという下水排水排出基準というのがございますね、そういうことから言うと、〇・〇が幾つついておっても数字が出るというのはやっぱり違反であろうと思います。ただ検査方法が、従来のJISにある、けさもちょっと話に出ておりましたが、ジチゾン法というのがあります。これは検出の方法が非常に精度が悪うございまして、あるのに出なかったり、ないのに出たりする、そういう方法なんです。ところが最近開発されました方法はフレームレス、つまり冷却された蒸気の原子吸光法という方法でありまして、非常に感度が高いわけです。ですから、零が三つか四つぐらいついても平気で出るわけであります。それをトレースと見るのか、またはあったかなかったかと見るのか、それともこれはネグリジブルというのか、その辺が問題であろうと思いますけれども、とにかく数字が出るのはあったということでありますから、法解釈からいえばやっぱり出たといわざるを得ないのじゃないかと思います。ただ、これが有害かどうかというのはまた別問題でございますがね。そしてまた、これがずっと蓄積されていくとか、それからこの中にメチルがたくさんあるとかということになればまた全然話は別でございますけれども……。これぐらいでよろしゅうございますか。
  109. 岡本富夫

    ○岡本委員 どうもありがとうございました。
  110. 小林信一

    小林(信)委員長代理 田中覚君。
  111. 田中覚

    田中(覚)委員 もう時間がございませんので、簡単にお聞きいたしたいと思います。  先ほど来農薬使用の、ことに農薬の多用による危険性というものを詳細にお話しをいただきまして、体内の蓄積とかあるいは排せつ等のメカニズムについてもお話を伺ったわけでありますが、この農薬の問題は、農産物の立場に立って言えば、やっぱり最大の問題はお米の問題だというふうに受けとめていいのかどうか、その点をまず伺いたいと思います。白木先生、ひとつ……。
  112. 白木博次

    白木参考人 やはり一番皆さんが口にし、三度三度でもない人もいるかもしれませんが、口にするという意味では一番問題だと思います。それで、これもことしの一月の「公害研究」に若月先生のお仕事が出ておりますが、非常に意外なことは、四十七年度の調べで白米の平均水銀の量が測定されていますが、〇・一三PPMという数値があがっております。これは一九六五年にお調べになったデータです。ですから、一番水銀農薬が使われていたころですが、それが平均して〇・一四PPM、これに比べてほとんど減っていないということです。水銀農薬自体は、すでに禁止されたのがいまから三年半以上前になりますかしら。ですから、三年ちょっとたっているわけですから、当然減っていていいはずなんですけれども、ほとんど減っていない。そういう点を考えますと、一体これはどういうことなのか。若月先生のいろいろな分析では幾つかのこまかな点があげてありまして、私よく覚えておりませんけれども、依然として使用されているのではないかというのが一つ。それから、水銀というのは簡単に外へ出てまいりませんので、いつまでも残っているという可能性、それにしても三年以上たった時点ならもっと減っていていいはずなんですけれども、減っていないということ、これが私もショックでございます。若月先生も非常にびっくりしておられる。このことは一体どういう点につながるかといえば、やはりもう一つは、使用禁止後の回収がほんとうにされていたのかどうか、あるいはほんとうに農民が使用しないように行政指導をしているのかどうなのか、そういう点をどうしても考えてみざるを得ないということになりますと、やはり行政の立場の監視体制というのが、第三、第二の水俣病が発生したと同じような意味で、農林省あたりの問題あるいは農協の指導の問題、そういうところにからまっているのであって、私は一事が万事であるという感じを受けておるわけでございます。そういう意味ではたいへん問題であると思います。
  113. 田中覚

    田中(覚)委員 ただ酢酸フェニル水銀、これは農林省の実績などを見ましても一ころの一割以下ぐらいに減っているわけですね。それにもかかわらずいまお話しのように米に含まれておる水銀の量はあまり減っていない。これは一つには、土壌の中に蓄積されたものがそう簡単には解消しない、そういう点もあるんじゃないかというふうには思いますが、われわれがつかんでいるところでは、明らかに水銀の農薬の使用は激減をしているというふうに統計的には見ております。したがって、そういう点から見ると農産物に関して少なくとも現状より悪くなるということは水銀に関してはないんじゃないのかというように思うのですが、その点はどんなものでしょう。
  114. 白木博次

    白木参考人 現状より悪くなってはたいへん困ることであって、〇・一四が〇・一三で〇・〇一減ったというふうな見方もできるわけですね。ただ問題は、その減った分だけがわれわれの内部環境にふえてくる可能性もあるということです。つまり、私が先ほど人間環境ということが重要だということを申し上げたのは、外部環境汚染が内部環境汚染を起こしてくるのにタイミングのずれがある。そこに五年、十年あるいは二十年というような歳月を要するかもしれない。その点をわれわれは考えなければならない。外部環境が減ったからといって安心していますと、その分だけか、あるいはその分全部とは思いませんけれども、内部環境のふえという形で来る可能性がある。ですから、私たちは毎年毎年髪の毛の水銀をチェックしていかなければならない。一体今後どれだけふえ続けて、どこで頂点に達し、そして初めて減ってくるかという点について、われわれはもっと真剣に考えなければならない。この辺が、私は先ほど申しました人間から環境を見るという、そういうさか立ち発想といいますか、それがあたりまえなんですけれども、そうでないというところに問題が一つある。やはり問題は、人間を中心に考えていただきたい、そういうことを申し上げたい。  それから、パラチオンはずいぶん昔にもう禁止になっておりますが、去年の調べでございましたか、これは私の調べではございませんが、パラチオンを使用しておりますと小便の中にそれが分解してパラニトロフェノールという形で出てまいりますが、去年の調べで、農民たちの尿を調べますとパラニトロフェノールが出ております。ということは、やはりパラチオンを使っているということです。だからそれは禁止して済むものではないので、ほんとうに回収されたかどうか、ほんとうに使っていないかどうか、その監視体制の問題で、先ほどの工場水銀のたれ流しと同じように考えていただかないといけないということでございます。
  115. 田中覚

    田中(覚)委員 そのものずばり伺いたいのですが、いまの国民の食生活という点から見て、米か魚かというふうに問題をとらえると、先生のお見通しではどちらのほうにむしろ問題がより大きいというふうにお考えでございましょう。
  116. 白木博次

    白木参考人 お答えします。  水銀に関しては魚だと思いますですね。ところがBHCになってくるとまた話が少しずつ違ってくる。むしろ牛乳であるとかあるいは畜産のほうに問題があるかもしれない。まあ汚染物質によってそれぞれ違うのではないでしょうか。ですが、問題は(田中(覚)委員水銀に関しては」と呼ぶ)こと水銀に関しては魚のほうが大きいということは、私、先ほど申し上げたとおりでございます。
  117. 田中覚

    田中(覚)委員 もう一つだけ伺いたいのですが、先ほどのお話を伺っておりまして、前回も大体同趣旨のお話であったかと思いますが、要するに現在当面をしておる汚染の問題は、水銀だとかPCBだとか一つ一つ対策を取り上げるようなやり方ではとても解決できる段階のものじゃない。むしろ高度の政治問題だという趣旨のお話がございました。ことに次の世代に影響する重大な問題であるというようなお話でもありまして、実は私どももこれは現在の日本国民あるいは現在の日本の政治に対する重大な警告として深刻に受けとめておるわけです。ことに不顕性中毒というものは今後改善はされぬだろう、むしろますます公害突進国になるのではないかというようなお話もございましたので、したがってこの安全基準といいますか規制の基準といいますか、これは今後一そうきびしくして、その面での安全性を高めていくということがこれからの政治行政の一つの大きな問題だ、責任だというふうには実は考えておるわけですけれども、ただ現実に毎日国民が米や魚を食べておる。また魚にしても、沿岸漁業、遠洋漁業ことごとく毎日稼働しておるというような状況なものですから、そういう立場に立って、安心して毎日生活をし生業がやれるという条件を整えていくということも、これまた同時に政治に課せられた大きな責務ではないかというふうに私ども思うわけです。  そういう意味で、もちろん規制の安全基準というものは一そうきびしくしなければいかぬわけですけれども、ただその場合のきめ方ですね。私は午前中もちょっと申し上げて、どうもあまりはっきりしたお答えはいただけなかったのですが、たとえば有明海でとれる魚は安全か危険かといったふうに一般的にはすぐとられるのですね。沢田知事が安全宣言をやった。それはちょっと早計じゃないか、むしろ危険宣言をすべきじゃないかという意見もあるのですね。しかしそれはそういうふうに安全か危険かといって割り切るのではなくて、たとえば日本国民の通常の魚の摂取量を前提にすれば、有明海でとれる魚でもあるいは南氷洋でとれるマグロでも別に心配はない。しかし漁業者のように朝、昼、晩に魚を一般国民の数倍も食べておるというような摂取のしかたを前提にすれば、それは有明海の魚も危険である。何かその辺のところにもう少し幅のあるきめ方というか、あるいはそういうPRをする必要もあるんじゃないのか。私は決してそんな楽観的な、なまぬるいことを言おうとしているわけじゃないんですけれども、とにかく現実に毎日の国民の生活あるいは漁民等の毎日の生業というものを考えますと、政治はそういう面に対しても不安のないような状態をつくらなきゃいかぬじゃないか、そういう面からの先生さちの御理解と御協力というものがどうも必要じゃないか、こう思うんですが、その点はいかがでございましょう。
  118. 白木博次

    白木参考人 お話よくわかりますし、大体午前中上田先生がお話しになりました線あたりが現実の問題としてどう対応していくかということの一番あれになるんではないかというふうに思います。ただ上田先生もおっしゃったのは、胎児に対する影響とかそういうものは一切わかっていない。その辺を私は非常に深刻に受けとめるわけでございます。  それで、確かに国民が毎日食べなきゃいけないものに対して非常に大きな不安を抱かせてはいけないことも事実でございます。その辺でいわゆる妥協的と申しますか、あるいはその安全の閾値をある程度きめていくということも、私も毎日食べなきゃいけないので、その意味では私まことに賛成です。ですがそれだけに終わってしまう。あるいは基準をきめればそれにすべて合わせて、その基準の以下ならそれでいいんだというようなことで技術論的な問題だけにしてしまいますと、これは問題は決して片づいていない。  ですから私望みますのは、健康状態からいえばどう考えても私自身は非常に不安であると思うわけです。一般国民は不顕性というような問題についてはわかりませんから、したがってわれわれとしては、医者の立場からいえば非常に不安だ。そうだとするならば、なるほど基準的なものを出すのもけっこうだけれども、やはり政治の姿勢として、ほんとうに真剣にそれに対して取り組むんだという姿勢を前向きに示していただかなければ国民は不安だと思うわけです。私は国民の一人でございますが、先ほどかなりきびしいことを申しましたけれども、一体いま国会は空転していていいのかというようなことを申し上げたのはそういう意味でございます。それは与党も野党もそういうことでなければならない。そういうところが、やっぱり国民と遊離した形で国会が動いているというふうにどう考えても見えるわけですね。これは私だけでなくて、おそらく一般の国民はそう見ているんではないか。そんなときじゃないんだというふうに私は少なくとも医者の立場からいえば思うわけなんですね。だったらほんとに真剣に考えていただきたい。  たとえばさっき申したようにこれ以上蓄積汚染をしてはいけないんだ。そんならそれで完ぺきなクローズドシステムにする以外にないんだ。家庭の上下水道に対しても一次、二次、三次をやらなきゃいけないんだ。そういうことを早く国会で決議し、それを実践していく。まあ、おそらくそうすれば——その費用がどれくらいかかるか私わかりません。おそらく四次防、五次防、六次防、あるいは十次防までも投入しなければできないのかもしれない。しかしそれでも、それが一番の原点である以上はそれをやるんだという姿勢を与党も野党も示していただきたい。それならば一つの安全基準というものをきめて、いずれはちゃんとやってくれるんだと国民はみなそう思うわけでしょう。だったらそういう姿勢も同時に示していただかなければ、ただPPMをきめてそれでいいんだということには決してならない。それでは国民の不安は解消しない。少なくとも私の不安は解消いたしません。
  119. 田中覚

    田中(覚)委員 まだお聞きしたい点もございますが、時間の関係もございましてこれでとどめます。ありがとうございました。
  120. 小林信一

    小林(信)委員長代理 土井たか子君。
  121. 土井たか子

    ○土井委員 おそくまでたいへん恐縮でございますが、私二問お尋ねしたいと思います。一問は久留米大学山口教授にお願いをいたしたいと思います。あとの一問につきましても、山口先生のほうから続きまして何らかのお考えをお聞かせいただければけっこうだと存じます。  きょう、白木先生のほうから、工業生産が進めば進むほど水銀をまき散らすという現象を引きずって歩いているんだというふうなお話を伺いまして、私は全くそのとおりだというふうな感を深くして拝聴したわけでありますが、実は企業の水銀の毒性に対する認識、それからそれに対処するこれが手の打ち方、これが実はおおらかというかずさんというかのんきというか、一言で言うと全くなってないというのが私は現実の姿だと思うのであります。たとえば先ほどここで島本委員——たち熊本に参りまして、そして現地日本合成化学熊本工場にまで足を運んでいろいろと見聞をしたわけでありますが、そこに積んであったカーバイドの小山を見てまずびっくりしたわけであります。これなどは全く野方図としか言いようのないようなありさまでありまして、それについて私たちが質問をいたしましてもしかとしたお答えがないのであります。またこの企業内で、労働者で水銀中毒にかかって死んだ方がある。ただそれも、水銀中毒という病気の結果なくなられるより先に、非常に苦しくてどうにもたまらなくなって自殺をなすったということが事実らしゅうございますが、しかしここの職場の中で水銀中毒の患者が出たということは現実であって、聞いてみると企業はそれをよく承知している。しかもなおかつ、その企業に対しまして、一体いままでどれくらいの水銀の量を使って、どれくらいを回収して、どれくらいを流したということか知らしていただきたいと言うと、資料がないと言うわけであります。通産省さんのほうにお知らせをしているはずだから向こうで聞いていただきたいと、こうであります。しかもなお問い詰めますと、概算百十一トン八百六十四キロ使いました、そして回収したのは百六トン六百三十三キロくらいであります。それだから、まあまあ投棄をしてしまった、流してしまったというのは五トン二百三十一キロくらいじゃなかろうかと思っておりますというふうな答弁をいたします。これは昭和十九年から使いまして、四十年に実はもう水銀を使うことを取りやめておりますから、その間の概算でありますけれども、しかしそういう答えを私たちに聞かしてくだすった企業者の方が、同じ福岡の通産局の調査に対しては、二十一年間に大体水銀一トンくらい流したと思いますというふうな答えを出していらっしゃるんで、だいぶ数量の上で差があるのであります。どうもここのところはきめこまかにもう一つ突いてみると違った数字がまた出てくるかもしれませんけれども、私たちは実に解せない気持ちでこの数字をいまだに見詰めているわけであります。  こういうふうな現実からしますと——現地でも企業者の方をつかまえて、一体水銀の毒性についてどうお考えですかということを聞いても、そう確かなお答えができないくらいに、このことに対しては全くのんきというかおおらかというか、何とも言いようのないものであります。  で、学者でいらっしゃる先生方は、こういう企業者の姿勢とか企業者の認識という基本的な問題ということをやはり基本的に、根本的に問題にしないと、実は工業生産が進めば進むほど水銀をまき散らす現象というものを引きずって歩くというふうなことについても歯どめをきかすということはできないわけでありまして、企業者の姿勢というものは一体現実どうなのかというふうなあたりに学者としていかにコミットなすっているかという問題ですね。それから学界からどういうふうに企業者に対してものを申すかということをなすっているかということですね。そのあたりやはりお聞きしたいような気持ちで私はいま立ちました。これが一つであります。  あと一つは、山口先生、実は先日、五月二十二日であると思いますが、熊本大学水俣病研究班が、水俣湾の海底に眠る六十万トンというふうに一般にいわれております水銀のヘドロというのは、いつメチル水銀に変わるかわからないという研究結果を発表いたしておりますが、この問題につきまして、先生の御見解はどのようなものであるかということを、あらましでけっこうでありますから、ひとつお聞かせいただきたいと思うのでございます。  以上でございます。
  122. 山口誠哉

    山口参考人 簡単にお答えいたします。  まず第一番目の問題ですが、工業化が進んでくると、いろいろな有害物質、しかも毒性がわからないものがどんどん出てくるというのは、過去のいろいろな公害、災害、これが物語っておるわけでございます。したがって、水銀という一つの毒物が工業化によってまき散らされる、これはまさに厳然たる事実でございます。それからまたそういうものを通じて、水俣病にしろイタイイタイ病にしろすでに起きてきたということで、いまおっしゃった企業のそういう毒物に対する認識及びその規制に対する設備投資といいますか手当てといいますか、そういうのがなっていないとおっしゃることは、全くそのとおりだと私も思います。  と申しますのは、たとえば話を水銀メチル化ということにしぼって言いますと、たとえば水銀を含む廃液の処理、これに関する特許があるんです。これは含水銀廃液処理に関する特許ということで特許公告が出ておりますが、その中に含水銀廃液をカーバイドかすで処理すると排水の中の水銀が一PPM以下に下がる、そういう特許がございます。そのとおりにやってみますと、メチル水銀が出るわけです。そういう特許でもって廃液を処理して、その結果どうなるかということ、これは化学反応とか生産プロセスとかだけを見ておったのでは、人体被害というものは絶対に防げない。  それからもう一つ私申したいのは、企業の中にたくさんお医者さんがいらっしゃいますね。まあ水俣病で一番有名なのは細川先生、いわゆる産業医といわれる方でございます。私も労働衛生が専門でございますから、職業性疾患その他たくさん見ておりますが、企業がそういうふうな企業の中のお医者さんをいかに重視しておるかというと、ほとんど重視しておらないわけです。単に診療所のお医者さんで労働者がかぜひいたり腹下ししたときに行ってお薬をもらうというだけの診療所のお医者さん、これでは全く医学というものを企業が使っておらないと言っていいと思います。今度安全衛生法というものができましたが、それでどれくらい改善されるか、私ども見ておりますが、そういうふうなケミカル、化学万能であるとか、機械企業万能であるとか、そういうことではいまからの企業は成り立っていかないということは、水俣とかイタイイタイでどれだけ企業が損したかということで、私はいやというほど思い知ったんじゃないかと思いますけれども、まだまだ足りないのかもしれませんですね、お話を聞いてみると。  それから昭和四十四年に日本化学会で、ある人が水銀廃液の処理法ということに関する講演をしておりますが、その中に日本合成法及び日本ガス化学法特許という廃液処理の紹介があっております。これにもまだ何とカーバイドかすを使っております。これは私どもの仕事を見ていらっしゃれば明らかにわかっておるはずです。しかもそれをごらんになってないということは、いかに不勉強であるかといわざるを得ません。私どもはそういう方に対して知らせ得なかったという点、これは私どもの責任であると痛感しておりますけれども、少なくともその中で労働者がたくさん働いておる、しかも危険有害物質を取り扱っておるという立場にあれば、当然何らかの形で出版され公にされておるそういう文献は見るのが義務ではなかろうか、私はそう思います。たとえ私どもがそこに出向いてこうですよと教えなくても、当然見て注意すべきである、これが常識であり義務である、そういうふうに考えます。  それから排出量の問題でありますが、これは私どもは全然知り得ないわけです。たとえばノーハウとか企業内機密だとかそういうことで壁がございます。しかし少なくとも通産は知っておると私は思います。だからそういう原料の入荷、製品の出荷、それから類推していけば、これは当然化学反応または製造過程のプロであるならわかるはずです。だからそういう面でもし通産の報告と、それから皆さんがお知りになった数字と違うなら、どうして違うのか、これはやはり行政の場ではっきりさしていただきたいと思っております。  それから二番目の問題でありますが、六十万トンというヘドロのメチル化の問題でございますね。これはほんとにこれが無機水銀であり、またそれが硫化水銀であるということであれば、わりにステープルでございますが、ところが先ほどから話が出ております、まだ学界の定説ではありませんが、天然においての無機水銀の有機化というものは否定できないという発表が二、三出ております。また、反対の結果も出ています。たとえば去年アメリカの「サイエンス」という雑誌に出た報告では、これはウィスコンシン大学ですが、一千種類の細菌を調べてメチル化というものを調査したけれどもネガティブであったという報告もございます。ございますが、ポジティブの報告があるということは、これは有機化というものを否定することは学問的にできないわけでございます。だから、少なくとも千に一つでもポジティブだ、そういう有機化が起こったという報告がある限りは、これはやはり行政の場なりまたはそういうものを処理する場なり、またその立場の方々は、そういうことを念頭に入れて処理をすべきであるということでございます。  以上でございます。
  123. 白木博次

    白木参考人 山口参考人が全部お答えになったわけですが、一つ抜けていたのは、学者の責任のことをおっしゃったと思います。あるいは学界がなぜそういうことを言わないかというお話があって、そのお答えがなかったので私つけ加えたいのですが、これは非常に勇気の要ることでございます。  いま学界の中に、そのような空気のある学界というのはほとんどないのではないか。やはりそれが学界の決議としてそういう企業に対してものを言うというようなことは、まずあまり期待できないと思います。というのは、たとえば医学界の場合ですと、やはり医学というのは自然科学である、精密科学を目ざすべきであるというような考え方が非常に強いわけです。つまり因果関係がはっきりしなければものを言うべきではないというような考え方がございますが、しかしやはりそれでは私は足りない。医学というのは、自然科学的なものもそれはありますけれども、それと同時に、やはり非常に人間科学的な、どろくさい、どろどろしたものである。つまり境界領域とのからみ合いの多い問題、人間を扱う以上はそういうことだ、そういう意識はほとんど学界の中に定着はしていないわけです。ですから、自分のやったデータがどのような意味合いで社会とからみ合うかというようなことを、いまの段階で、そういう空気の中で発言した人たちが、まあこれは武内教授のことばをかりますと、どんなプレッシャーを受けるかということは、おそらくあまりおわかりにならないだろうと思います。しかもそれがどういう形でプレッシャーがかかってくるかといいますと、いろいろなことがございますが、たとえば研究費が打ち切られてくる。そういうことを言う学者に対しては研究費を出さないようにしてくるというような仕組みもあるように思われます。しかも、ぎゃあすか言わなきゃいかぬということになりますと、声を大にし、エネルギーをロスし、研究費はなくなっていくというようなことを考えますと、やはりスネークピットに入っていく学者が大部分であるということが、一つ無言のいわゆるプレッシャーと申しますか、そういうことがあり得る。その中で、それではジャーナリズムにあるのかあるいは国民の世論にあるのかということになりますと、これもあまり期待できません。やはりジャーナリズムはそのつどそういう問題を、水銀が出れば水銀、PCBが出ればPCB、それを執拗に、たんねんに追っかけていくような記者はおそらくあまり出世はしないであろうし、おそらく消えてしまうのではないのか。あらゆるところでそういう問題が私はあるように思えてならない。  それと同時に、ついでに、では土井議員に私は申したいのですが、一体国なりあるいは国民代表である国会議員の方々が、水俣病をどうお受けとめになっていらっしゃるか、企業だけの責任、おれは知らぬとは私は言わせない。たとえば今度の水俣裁判が勝利なき勝訴といわれておりますね。これはジャーナリズムは非常にうまい表現をされましたが、勝利なき勝訴というものの内容は何か、私は医学の立場だけを申しますと、やはりああいう社会復帰がほとんどできないあるいは全く不可能な胎児性水俣病はそのいい例でございます。それに対して一体国があるいは地方自治体がどのような対応をしてきたのか、企業の責任としてだけ問題が追及されておる。生活補償というものに対してチッソがこれを支払うでしょう。しかしチッソが倒れてなくなったならば、その生活補償はなくなるわけでありまして、結局は極端なことばを使えばチッソの飼い殺しになる、そのようなことを国がいままで放置しておったというのは一体どういうことなんだ、あるいは地方自治体がそれを放置しておいたのはどういうことなんだ、私たちはこういう社会復帰できない人たちを手厚く受けとめて、それを医療なり福祉の線に乗せていくというのは、これはまさに国の責任であり、地方自治体の責任ではないでしょうか。そのことは四大公害裁判において、どの裁判も取り上げてはいないあるいは裁判官もそういった点についてはあまり触れてはいないわけです。ですから私は、企業に金を出させてそこに病院をつくったとしても私は水俣病患者さんは入りたくないと思います。だからそれならそれで、やはり国なり地方自治体がきちっとしたものをそこにつくるということ、そうしてその場合に私は言いたいのですけれども水俣病だけの病院をつくるべきではないと思うのです。水俣であろうとあるいはスモンであろうと、そのほかのいろいろな神経病であろうと、その終末像が、社会復帰が極度に困難か、できない人たちを全体として受けとめる病院というものをつくらなければならない、その中に水俣病の病棟があるはずです。そういう形でしなければ決して患者さんは入ってこないと思います。  それと同時に、このような病院をつくっていく、病院だけを考えましてもものすごい不採算医療になるということを申し上げたい。いまできているリハビリテーション病院は、先ほど加藤さんのお話にございましたように、入れればかえって体重が減ってしまうような、そういう貧弱なものをやっておいて、それでやったような顔をしてほしくはない。むしろ入れたならば体重がふえるというような病院にするためには、一人の患者に対して二時間もかかる。ものすごい時間がかかるわけですから、やはり十分の人手と予算と施設をつくらなければならない。問題は、その病院だけつくったってだめです。やはり地域で対応していかなければならない。地域の中に患者がいること、家庭の中にいることが一番幸福なんですよ。ですからセンターだけつくっても決して問題は済まない。そのようなばく大な投資をしなければならない。それをいままで怠ってきたという、国と地方自治体の責任はものすごくあるわけですね。そういう問題が私は勝利なき勝訴だと思うのです。だったらその責任というものはやはり政治家の最高方々考えていただかないといけないのではないか、そう思います。
  124. 加藤邦興

    加藤参考人 私のところは工学部ですから、こういう問題がありますと、この前戒能先生なんかも来て話されたときに、おまえのところで悪いやつばかりつくるから日本はどうにもならぬじゃないかと言われるわけです。申しわけありませんとぼくがあやまっても何にもならないのですけれども、たとえばいまの大学の工学部の学生の普通の教育の状況というのを考えますと、企業にあの状態で入っていって、ある日突然裁判のようなところへ引きずり出されてめちゃめちゃにたたかれる。私なんかの立場から見れば、一緒にやった人間が卒業してそうなるわけですから、たいへん気の毒だということもありますけれども、たとえばヒューマンリレーションとかオペレーショナルリサーチみたいなことはどんどん工学部の普通のカリキュラムの中に入ってくるわけです。ところがいまこれだけ問題になってきても、環境問題についての講義というようなものは、たとえば大学の中に環境学科というものをつくったりあるいは安全工学科というものをつくったり、ある特定の学科でやるという形で処理されようとしているわけです。そうなりますと、確かにそこでは一定の研究はされると思うのですけれども、企業に入っていく大部分のエンジニアというものは全くそういうことについて意識のないままに卒業していって企業に入る。ですから企業の経営者の側によほどしっかりした姿勢がなければ、そういう一人一人の技術者に対して、おまえらの社会的責任だぞといってみても非常につらい問題であると思うのです。ところがいまの職業病の問題なんというものは戦前からずっと問題になっているわけですし、たとえばスフ工場の職業病なんというものは戦前からすごく問題になっているわけですけれども、繊維学科の中にそういうことを扱うようなところは一つもないわけで、化学工学科の中で安全問題をやっているところもほとんどないわけですね。たまにやっていても機械がこわれたら困るという意味の安全工学であって、人間に被害を及ぼすかどうかという形のものについては全然ないわけですね。私なんかの場合でも、学内でいろいろな形で学生とつき合っているわけですけれども、私が学内で話をするということで、学生がポスターを張ったりしますと、工学部長あたりが、うちはきみ、工業大学だよと、こう言うわけですね。こういうことをやってもらうとあまりうまくないじゃないかということを言うわけですね。これは二年ぐらい前で、さすがに最近はこういうことはなくなってきているわけですけれども。ですから、どこか一カ所でそういうことをやっているというようなことでなくて、あらゆるカリキュラムの中にそういうものが入っていかないと、とうていそういう形の、一人一人の人間に対して社会的責任を追及するという形の発言はやや酷ではないかというふうにいま秋思っております。   〔小林(信)委員長代理退席、委員長着席〕
  125. 土井たか子

    ○土井委員 あともう一問、熊本大学——さっきも質問しまして、山口先生にお答えをまだその部分はいただいていないと思うのです。いまずんずん病人さんが出つつある。水俣湾のヘドロの無機水銀メチル水銀に変化をするという可能性が十分にあるという、熊本大学の五月二十二日の調査結果の発表がございましたね。それについての御見解ということでございます。
  126. 山口誠哉

    山口参考人 先ほどその可能性について二、三申し上げたわけです。その中に熊大の発表も含めてお答えしたつもりでございますけれども、おそらくあれは硫化水銀であって、そして紫外線を当てたり したりしますと、HgSのSがはずれるのだろう。そうしますと地の二価のフリーのイオンになりますね。そうしますと、そこに酢酸基を持ったものがあった場合にくっついてくるわけです。それでどこからエネルギーが来るか別ですけれども、おそらくいろいろなバクテリアとかそれから屎尿処理のときに出るメチルコバラミンというビタミンB12だとか、そういうものがくっついて出る可能性はあります。これはこの前の衛生学会で私それを聞きましたのですけれども、いろいろなところでやはり追試をしたりして確認する必要はあろうかと思いますが、可能性としては考えられるということでございます。
  127. 土井たか子

    ○土井委員 終わります。ありがとうございました。
  128. 佐野憲治

    佐野委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人の各位には、御多用中のところ、長時間にわたり貴重な御意見を述べていただき、ありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。  次回は、来たる八日金曜日、午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後四時四十四分散会