運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1973-09-12 第71回国会 衆議院 外務委員会 第35号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年九月十二日(水曜日)     午後三時十一分開議  出席委員    委員長 藤井 勝志君    理事 石井  一君 理事 西銘 順治君    理事 岡田 春夫君 理事 堂森 芳夫君       小林 正巳君    國場 幸昌君       林  義郎君    深谷 隆司君       藤波 孝生君    宮澤 喜一君       川崎 寛治君    河上 民雄君       柴田 睦夫君    山田 太郎君       永末 英一君  出席政府委員         警察庁警備局長 山本 鎮彦君         外務政務次官  水野  清君         外務省アジア局         長       高島 益郎君         外務省経済協力         局長      御巫 清尚君         外務省条約局長 松永 信雄君  委員外出席者         法務省入国管理         局資格審査課長 吉田  茂君         外務委員会調査         室長      亀倉 四郎君     ————————————— 委員の異動 九月十二日  辞任         補欠選任   木村 俊夫君     藤波 孝生君   竹内 黎一君     林  義郎君   原 健三郎君     國場 幸昌君   渡部 一郎君     山田 太郎君 同日  辞任         補欠選任   國場 幸昌君     原 健三郎君   林  義郎君     竹内 黎一君   藤波 孝生君     木村 俊夫君   山田 太郎君     渡部 一郎君     ————————————— 本日の会議に付した案件  国際情勢に関する件      ————◇—————
  2. 藤井勝志

    藤井委員長 これより会議を開きます。  国際情勢に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。堂森芳夫君。
  3. 堂森芳夫

    堂森委員 まず、外務政務次官にお尋ねをいたしますが、本日の各新聞紙が一斉に報道しておるのでありますが、金大中事件を早く解決するために何か元外交官、まあ私の推察するところでは、金山大使じゃないかと思うのですが、何か政府非公式特使としてソウルに派遣をして朴大統領早期解決のための話し合いをさせるのだというような意味記事が載っておりますが、これは間違いないのですか。
  4. 水野清

    水野政府委員 金山大使特使というような記事けさ新聞に出ておりましたことは、私も承知をしておりますが、政府としてはそういうことを考えておりません。現在、後宮大使がこの衝に当たっておられまして、それで十分であるというふうに考えております。
  5. 堂森芳夫

    堂森委員 そうしますと、金山大使ソウルに行くということは政府も知っておるのでございますか。全然知らぬのでございますか。
  6. 水野清

    水野政府委員 先ごろ行っておられましたが、現在は行っておりませんし、これから行くかどうかということはわかっておりません。もしそういうことがありましても、これは完全に個人的な行動でございます。
  7. 堂森芳夫

    堂森委員 そうすると、金山大使朴大統領と非常に懇意であるというようなことで、個人として行ったとしても政府とは何も関係ない、こういうことでございますか。もう一ぺん確かめておきたいと思います。
  8. 水野清

    水野政府委員 堂森先生お話しのとおり、政府として特使とかその他何らかの形で働きかけるというようなことは考えておりません。
  9. 堂森芳夫

    堂森委員 私は金山という人を個人的にもよく知っておりまするし、りっぱな方でもあるし、それはそれとしまして、私は、日本はある意味では、今度の金大中事件は、被害者ですね。私は、やっぱり向こうから来るのが当然でありまして、わが政府から特使を派遣するというようなことは、やっぱり主客転倒である、これは非常に不合理だと思います。政務次官どうお考えでございますか。
  10. 水野清

    水野政府委員 いまの先生の御趣旨はごもっともでございます。そういう趣旨からも金山大使特使に出すとか、そういうようなことは考えていないわけでございます。
  11. 堂森芳夫

    堂森委員 また同じように各新聞は、わが国政府はこの事件を早く解決しなければならぬ、こういう立場で、きのうは外務省の、まあ首脳会議と、こういっておりますが、これはあるいは書き方はいろいろあると思うのですが、大臣以下関係責任者人たちが集まって相談をした。そして大平外務大臣国連総会に出席するために出かける。これは大体二十三日である。それまでにどうしても解決をしよう、こういうような基本的な方針をきめて積極的に乗り出すんだ、こういうふうなことが書いてありますが、そのような方針が、大平外務大臣を中心として方針がきめられたのでございますか、御答弁を願いたい、こう思います。
  12. 水野清

    水野政府委員 昨日、外務大臣の部屋で会議をやったことは事実でございますが、そこで、特に外務大臣国連総会へ二十三日に出発いたしますが、それまでに解決をしなくちゃいかぬと、そういうような方針を出したわけではございません。ただ、これまでの情勢の把握であるとか、あるいは現状の認識であるとか、こういったことを絶えずやっておるわけでございまして、別に、たまたまきのうやったことが新聞紙上に報ぜられたわけで、必ずしもきのうに限ったことではない、こういうことでございます。それから二十三日の外相国連総会出席のための出発を控えて、二十三日までに解決をしなくちゃいかぬということも協議はしておりません。ただこの問題は、日韓両国のこれまでの関係考慮に入れまして、なるべく早くこじらせないようにして解決はしたい、かようには思っております。しかしまた、解決を急ぐあまり、つまらない妥協やごまかしもやりたくはない、こういう考え方でございます。
  13. 堂森芳夫

    堂森委員 実際問題として、国連総会が始まりますと、外務大臣、もちろん日本外務大臣も行く。それから韓国外務大臣が出かける。いわばこの二つの国の外交的に関連した事件というものは、衝に当たる責任者が国にいなくなってくる。しかもわが国は、さらにヨーロッパその他の外遊がずっと続くわけです。そして総理、あるいはこれについて外務大臣も一緒に外国へ旅行する。こういうようなことが続いていくとしますと、これはやはり事件早期解決をする上にとっては、私は、国内に総理外務大臣がおる場合とは、解決がついていい条件にはなっていかない、これは言えると思うのですね。これは後ほどまたいろいろ聞きますが、私がうわさで聞いておるところでは、きょう、韓国金外務大臣ですか、国連総会に出席するために羽田に立ち寄っていくということ、そして日本政府と何か接触をするのではないかというようなうわさも聞いておるのですが、そういうようなことはないのでございますか、あり得るのですか、これも承っておきたいと思います。
  14. 水野清

    水野政府委員 韓国金外相が、国連総会出席のために、これは航空機の都合で羽田に立ち寄るということは聞いておりますが、外務省としてこれと接触するあるいは交渉するということは、現在全く考えておりません。
  15. 堂森芳夫

    堂森委員 しかし私は、水野政務次官に重ねてお尋ねするのですが、たとえば、後ほど警察庁局長も来ておられますからお尋ねしますが、すでに金大中氏をグランドパレスホテルから運び去った車ももうあらわれて、そしてはっきりしてきた。これは韓国領事館員の所有の車であった、こういうこともきょう新聞に大きく報道されております。その事実もあとから聞きますが、それから、金東雲という一等書記官関係しておったというようなことも、これはやはりしっかりした確信がなかったら、警察庁もそういうことを外交交渉として、金東雲氏の出頭を求めるということはあり得ないことでありますから、このままにしてずるずるいった場合には、私はたいへんな困難な事態が生まれてくるということも予想されると思うのです。どうしてもだんだん迅速に解決していかないときには、やはり確固たる態度をもって外交的な措置というようなものをとっていかなければならぬ事態も私は予想されると思うのであります。そういう仮定の質問でありますから、それは答えられぬとおっしゃるかもしれませんが、アジア局長もおられまするしあれでありますが、どういう態度でそういう場合には臨んでいかれるのであるか。ずるずると待つんでございますか、その点はいかがでございますか。
  16. 水野清

    水野政府委員 この事件が、御承知のように、日本警察庁捜査がだんだんと進展してきている、客観的にいろいろな事実が出てきているということは、事実でございます。それに基づいて政府韓国側に、先生の御指摘のような金大中氏の原状回復であるとか、あるいは梁一東氏外一名の捜査協力であるとか、こういうことを求めております。これは終始いろいろな機会を通じてやっているわけでございまして、事態がどうなるか、あるいはその結束、韓国にどういう決意を表明するかということについては、もう少し時間を見ながら結論を出していきたい。しかし、同時に、先ほど申し上げましたように、日本警察当局捜査の結果出てまいりましたことをごまかしをいたしましたり、あるいは国民を偽るというようなことも考えていないわけでございます。政府態度は、いろいろ一般には変化があったように、あるいはうしろ向きになったようにも言われておりますが、実は最初から終始一貫した態度でやっております。ただ、相手のあることでございますから、そうこっちが強気ばかりでものを言って、それが屈折して相手側に受け取られるということも、これはまあ考慮に入れながらものを言っている、こういう態度でございます。
  17. 堂森芳夫

    堂森委員 私はあなたの答弁には非常な不満でありまして、納得できませんが、アジア局長にお尋ねいたしますが、この金東雲氏の任意出頭を求めた交渉外務省はされましたですね。そしてこれはソウル後宮大使に訓令を出されたと思います。そして六日に金外相ソウル後宮大使が会っておるわけですね。そのときのいろいろの会見の模様について、もちろんこれは報告が来ておると思うのでありますが、できるだけ詳しく御答弁を願いたいと思います。私が聞きたいことは、当時の新聞報道で、韓国外務大臣という政府の閣僚がかなりきびしい調子で、金東雲氏の出頭を求めた後宮大使の申し入れに対して、日本政府態度を非難するようなことばをもって後宮大使と会談をした、こういうような報道が当時なされておったのでありますが、この辺の後宮大使からの報告はどのような内容でございますか、御答弁願いたい、こう思うのです。
  18. 高島益郎

    高島政府委員 駐日韓国大使館金東雲一等書記官任意出頭要請につきましては、警察当局捜査の結果、同書記官本件に関与しているという疑いが濃いということで、ぜひ本人任意出頭を求めて、本人からいろいろ事情を聴取したいということでございましたので、この要請を受けまして、まず法眼外務次官から李大使に対しまして、そのような任意出頭要請をいたしました。同時にまた、ソウルにおきまして、後宮大使から先方金外務部長官に対しまして、同様な要請をいたしました。それに対しまして金外務部長官のほうから——まず、李大使のほうからは即座に、任意出頭要請には応じられません。特に理由といたしましては、外交慣例によりということでございましたけれども、任意出頭要請には応じられないということで即答がございました。しかし、私のほうといたしましては、その即答だけでは満足いたしませんで、さらに先ほど申しましたとおり、ソウルにおきまして、後宮大使を通じて先方外務部長官に同様の要請をいたしました。これに対しまして金外務部長官から後刻、韓国政府といたしまして、金東雲一等書記官の件について調査したところ、本人はこの事件に関与しておらない。同時に、したがってまた、外交慣例によりということは李大使の場合と同じですけれども、そういう理由によって招請にも応じられませんという回答がございました。  それで、先ほど先生が御質問になりました、日本政府に対して非難めいたことを金外務部長官がその際言われたというお話でございまするけれども、日本政府本件出頭要請について非難したというふうに私どもは受け取っておりません。ただ、事前に後宮大使を通じて、韓国大使館の館員が本件に関与しているという捜査結果が出ているということにつきまして予告はしてございましたけれども、金東雲一等書記官という名前は特に予告しておりませんので、いきなり金東雲一等書記官任意出頭要請するということを言ったことについて非常に驚きまして、そういう見地から多少不満の気持ちをあらわしたということは承知しておりますけれども、日本政府に対してこの点について非難をしたというふうには私ども受け取っておりません。
  19. 堂森芳夫

    堂森委員 そうすると、アジア局長、こうですか、突如金東雲という名前を出して外交官任意出頭を求めたということに対して、向こうは非常な不満の意を表した、こういうことでございますか。
  20. 高島益郎

    高島政府委員 私の記憶ではそういうように受け取っております。
  21. 堂森芳夫

    堂森委員 警備局長おられますね。この前の、先週のこの委員会で私の党の岡田春夫議員があなたに質問しておるのであります。そして金大中氏を拉致した車についての捜査はどうなっておるか、こういう質疑が行なわれました。そうすると、あなたはいまたくさんの車が対象の車としていろいろ、対象といいますか、調べなければならぬ車がたくさんあるので、それらの車をいろいろ調査していかないと、急にはこの車というめどをつけていくこともできません。こういうような答弁でありました。しかし、きょうの新聞を見てみますと、ある新聞等によりますと、韓国領事館員私有車である。それはプレートナンバーもきちんと合っているというような記事が大きく書かれておるということでありますが、この辺の調査をされましてわかってきた事実等について少しく詳しく御答弁を願いたい、こう思います。
  22. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  拉致されたホテルで大体の時間帯の合う時間で出庫をした車の数が三十台ぐらいある。それの捜査をいろいろ進めておるというお話を申し上げました。そのうち十九台が事件関係ないということがわかったわけでありまして、あと十一台が残っておるという現状でございます。しかし、一台について番号が下四けたしかメモしてないので、一台を調べるにしても、場合によっては二百台、百数十台調べなければならぬということで、非常に時間がかかるということを申し上げておったわけですが、いまお話がありましたけさ新聞に出た車、これはそういう中でいま残っている十一台の中の手配の番号であることは事実です。2077というのがあるわけですが、だからこの2077が百数十台あるということで、いま一台、一台捜査員が当たっている現状でございますが、そのうちで品川55も2077という車は韓国の横浜の総領事館の副領事劉永福さんという方が使っていた車であるということが判明したわけでございます。ただこの車が下四けただけなものですから、品川55も2077が当日そこにいたかどうかということはまだそこまで捜査が進んでおらないわけでございますので、この車が劉永福さんが使っていた車がここにいたということを断定するのはまだ早い時期でございまして、これはこれからの捜査にかかっているわけでございまして、極端なことを言いますと、百数十台の車全部をきちっと捜査しないと、この車がそこにいたということにはならないわけでございます。この車種は日産スカイラインで、色はシルバーグレーというようなことまでわかって、いま鋭意この車自体が当日そこから出庫をしたかどうか、これの捜査をしている状況でございます。  それから出庫のメモによりますと、時間が十三時十九分に出ているという記録で出ているわけでございます。したがって、これまでの捜査では大体一時半過ぎに金大中さんは連れ去られたということになっておりますので、時間的にはやや合わない面が出てきておるわけでございますが、そういう時間の食い違い、それからさっき申し上げました車全体のナンバーからの判断、こういうものを正確にきちっとやらないと直ちにこの車がその犯行に使われたものであるかどうか、これを断定するのは早過ぎるという状況でございます。
  23. 堂森芳夫

    堂森委員 しかし、プレートナンバー品川55も2077というのは一台しかないんでしょう。このプレートナンバーの車がグランドパレスの車庫に入っておったということはわかっておるんじゃないですか。
  24. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 2077の車が一時十九分に出たということしかわからないわけです。その車がいたかどうかこれから捜査しなければわからないわけです。
  25. 堂森芳夫

    堂森委員 これは私、新聞記事で見るより知る方法がないのですから……。  東京のある修理工場韓国大使館員であるということを言って、この車を持ってきてプレートナンバーもかえたいのだと言ったという、これは新聞記事ですよ、そういうことが書かれておった。それからまた、このプレートナンバーの車が廃車にしようという何か手続みたいなものを申し込んできておるというようなこともわれわれ聞いておるのですが、そういうことは警察庁のほうでわかっておるのでございますか。
  26. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  その点はっきりいたしませんので、いま警視庁のほうでその点も捜査しているという報告をさっき私出るときに受けておりますので、まだそうであるというふうに申し上げる段階ではないと思います。
  27. 堂森芳夫

    堂森委員 それから大津のインターチェンジであそこの職員が見た車と新聞に書いてあるこの車とは大体似ておるのですか、いかがですか。
  28. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 道路公団職員の方が提報してくだすった内容は、車の種類からいいますと何か外国の車だ、外車だと言っておられますね。左ハンドルだ、色は何かクリーム色だ、こう言っておられるわけで、これはさっき申しましたように、日産スカイラインというのですか、ですから、日本の車である、ただ色シルバーグレーということですから、やや似ているということで、その点もこれから調査していきたいということでございます。
  29. 堂森芳夫

    堂森委員 そうすると、警察庁としてはまだはっきりと車の確認はできていない、こういう判断をしていいのですか。将来これは必ず確認される、これはむずかしいかもしれませんが、されるであろうという確信を持ってやっておられるのでございますか。この点、むずかしいかもしれませんが。
  30. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 これは捜査段階で関連あるかないかはっきりできると思います。
  31. 堂森芳夫

    堂森委員 それから、私、一つの独立国家ならば主権というものを持っておる、これはあなたとそういうことを議論しようというわけではないのですが、主権を持っておる、はっきりと主権が守られておる国であれば、領土内の統治権というものが必ずその国にはっきりと確立していなければならぬことは当然です。同時にそこに住んでいる国民基本的人権というものが尊重されなければならぬこともこれは当然であります。  そこで金大中氏のように外国の人といえどもやっぱり日本人と同じようにその人の基本的人権は尊重されなければならぬということは当然だと思うのです。そこで金大中氏は亡命者ではないかもしれませんが、わが国亡命者を受け入れるということになっていない国であるといわれておるのであります。そうでありますが、警察当局としては金大中氏に対して、私は、これは結果論でありますけれども、警察がもっと何か警戒の手を差し伸べて彼を守ってやっておればああいうような事件は起きなかったかもしらぬ、こう思うのでありますが、警察当局金大中氏に対してどんなふうな警戒の手を差し伸べておったのか、いやそれは全然していなかったのか、どういうことでございましょうか。
  32. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 今回七月十日に入国されて、銀座の第一ホテルに投宿されたという事実は私たち知っておりました。われわれとしては、金大中さんについて特異な情報身辺について危険があるというような情報は、あれば具体的な警護ということもするはずでございましたけれども、そういう具体的な情報もない。それから御本人からも特に身辺警護を頼むというようなお話もない、それからいろいろな関係、たとえば外務省あるいは法務省入管当局から具体的な危険な立場にあるとかそういうような通報もないというような状況判断して、われわれとしては特別に警戒する必要はないというように思ったために、特殊な警戒はしなかったわけであります。これはいまから考えれば、そういう判断が甘かったということでああいうような事件が起きた、これは非常に残念である、こういうふうに考えております。
  33. 堂森芳夫

    堂森委員 そうしますと、たとえば金大中氏だけではないわけですが、そういう情報が入った外国人日本人の場合もある、そして本人からの要請がないという場合には、警戒というものは何もしないというのが従来からの日本警察態度でございますか。
  34. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 普通の場合はそういう外務省その他から、外国人の場合は、こういうあれがあるから警戒してやってくれということで、御本人に話して、御本人了解を得て、プライバシーの問題もありますので、警護人をぴたりとつけますので個人的な自由がなくなるということもありますから、本人了解を得てつけるのがこれまでの例でありますが、そういうような具体的な要請があってつけなかった、本人が拒否した、こういうような例はございません。要請があれば全部つけるし、本人了解を得てやっているということでございます。
  35. 堂森芳夫

    堂森委員 私は、やはり警察当局金大中氏のような人に当然のごとく警戒の手を何か差し伸べてあげるということが必要だったと思うのです。この点、過ぎ去ってからどうこう責任を追及する、そういう意味でいま言っておるわけじゃないのですが、私はやはりわが国明治政府以来伝統的に、海外からの政治的な意味で国に入ってきた人たちに対して、わりあい冷淡な態度をとってきたという歴史があると思うのです、日本の場合。いろいろな人が来た場合に、それはやはり日本政府はもっと主権というものを厳然と守っていくという、そういうき然たる態度をとるならば、外国から来たそういう人たちに対してもそういう事件が起きないような予防工作というものを講じる意味でも、やはり警戒の手を差し伸べてあげるべきだ、こう思うのでありますが、反省を促していきたいと思います。  そこで、これはきのう地方行政委員会で、わが国におる韓国外交官領事官員等も含めて、これはあなたのほうも調査できておると思いますが、政府の発表によれば、十三名でございますかそのうちの八名はすでに帰国、日本に再入国する手続もとらずに行っておる。現在までわかっておるのは十三名でございますか、これをまた聞いておきたいと思います。
  36. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 昨日地方行政委員会で、法務省入国管理当局からそのように報告がなされておるのは承知いたしております。
  37. 堂森芳夫

    堂森委員 これらの十三名の人たちの中には、あなたのほうが調査対象とするような人たちが全然いないのか、いるのか。名前を一々具体的に言えといってもこれは言えないと思うのですが、あるのでございますか、これもあわせて承っておきたいと思います。
  38. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 名前は確かに具体的に言えませんけれども、わずか十三名でございますので、その中にあるとかないとか申し上げますと、かなり捜査上困る点がございますので、その点はごかんべんいただきたいと思うわけであります。
  39. 堂森芳夫

    堂森委員 そこで外務省お尋ねしますが、このように十三名の人がこういうような情勢の中で、何といいますか姿を消すごとく、風のごとく国を去っていくというような状況を一体どうお考えでございますか。政務次官、ひとつ副大臣ですから、外務省としてのお考えをお伺いしたいと思います。
  40. 水野清

    水野政府委員 まことに異常なことだというふうには受け取っております。
  41. 堂森芳夫

    堂森委員 それではこういうような姿は、韓国政府関係職員がこの事件関係しておるという容疑を深めておるというふうに判断されますか、いかがでございますか、深めていないという判断でございますか。
  42. 水野清

    水野政府委員 この事件は、先ほど申し上げましたように、金東雲氏の指紋が出たという、普通ならば容易でない一つの事実が出てきたわけでございます。あるいは先ほど御指示のような、ちょっと異様に思えるような外交官の異動があったということも事実でございます。ただこういうことが、すぐ日本主権を侵して韓国外交官金大中氏をさらっていったというような判断をするには、もう少し時間をかしていただきたい。  もちろん外務省としては、先ほどアジア局長が申し上げましたように、これまでのそういった事実も踏まえて捜査協力という形で、あるいは金大中氏の原状回復という形で、在日大使館あるいはソウルにおける後宮大使から金外相を通じての捜査協力要請ということをやっておりますけれども、主権が即侵された、さらば次の手段はどうかというところまで踏み切るにもう少し時間をかしていただきたい、こう思っておるわけでございます。
  43. 堂森芳夫

    堂森委員 再入国の手続をとらずに本国に帰った外交官は、もうそれで日本に帰ってくるということはないというふうに外務省は断定しておるわけでございますか。
  44. 高島益郎

    高島政府委員 通常大使館員あるいは領事館員日本を正式に去って帰国するという場合には、当然韓国政府側から日本外務省に対しまして連絡があるわけでございますので、そうでない限りはやはり大使館員としての身分あるいは領事館員としての身分は、まだ依然として残っておるというふうに考えておりますので、再入国の可能性は全くないというふうには、必ずしもとれないんじゃないかと思います。再入国の許可を事前にとって帰らなければ帰れないというものでもございませんし、またあらためて向こうでビザをとって帰るということも可能でございますので、少なくとも私たちといたしましてはそういう帰国の場合には、正式に帰ってしまう場合には届け出があるはずでございます。まだわれわれはそういう届け出を受けておりません。
  45. 堂森芳夫

    堂森委員 そうすると、外交官としての常識からいえば、再入国の手続をとって帰るか、あるいは届け出をして向こうへ帰るか、無断でしかも外交官——領事館の職員外交官でないかもしれません、あるいは大使館等の運転手とか、そういう人たち外交官でないでしょうが、とにかくそういう外交官がそういう手続をとらずに帰っていく、これは正常なんでございますか、異常なんでございますか。
  46. 高島益郎

    高島政府委員 私、韓国外交官の通常のそういう出入国について実際どういうふうにやってきたかということについての実情は詳しくは存じませんですけれども、やはり通常の例としましてはおそらく再入国の許可を事前にとった上で一時帰国をするというのが普通だろうと思います。
  47. 堂森芳夫

    堂森委員 それでは時間がありませんのでもう終わらなければいけませんが、やはり何と答弁されましょうとも十三名の人が続いて風のごとくどんどん帰っていく、しかも何ら通告もないというような姿は、ますます政府関係職員関係しておるということに対する容疑といいますか疑いを深めていくということはこれは否定し得ないところであります。まあこれ以上答弁を求めようとはしません。  最後に政務次官にお尋ねいたしますが、この間、私参議院の金大中事件の緊急質問を聞きにいっておったのです。そうしますと私の党の田君が質問しておった。田中総理大臣は、朴政権というのはあれは自由と民主主義を守ろうとする政権である、こう言っておるのですね。しかし今日近代国家になろうとする国で憲法に民主主義や自由をいわぬ国はないですよ。しかし朴政権の国家保安法とか反共法というものは、これはあなた、とても民主主義国にはあり得ない法律を持った国でしょう。ちょうど戦前のわが国の治安維持法と同じですね。そんな政府わが国総理大臣が国会で民主主義と自由を守ることを国是とした政権であるというようなことを答弁されるのを私は一体何という総理大臣だと思って腹立たしい思いをして聞いておったのですが、政務次官どうお考えになりますか。これは常識論でありますから。
  48. 水野清

    水野政府委員 田中総理答弁趣旨はこういうことだと思います。韓国は現在の憲法の前文で、自由民主的基本秩序をより強固にする新しい民主共和国を建設する、こういうふうに憲法の前文にうたい上げております。これを田中総理は紹介をしたということであろうと思います。
  49. 堂森芳夫

    堂森委員 もう時間がありませんから……。それは朴政権を自由と民主主義を守る政権だというそういう答弁をされる田中総理の非常識さには私は驚いたのですが、まあそれをいま水野さんに答弁せいというのは無理ですから、これをもって終わりたいと思います。
  50. 藤井勝志

    藤井委員長 河上民雄君。
  51. 河上民雄

    ○河上委員 いま堂森委員からお話がありましたように、金大中事件政府のほうでもちょっと行き詰まりにぶつかっているような印象を受けるわけですが、外務政務次官政府はこの事件が起こって以来真相を究明することがまず大事だ、慎重に当たるべきだということを言ってこられたわけですけれども、その前提として韓国側の協力ということを強調してこられました。その結果として今日こういうような事態外交官の指紋が一致したというような、おそらく日本の外交史上前例のないような、事実を突きつけてもなお解決しないというようなこういうような事態になっているわけです。かつて同じような事件にぶつかった西ドイツ政府が初めから外交的な態度で非常に強い姿勢で臨んであの問題を解決したというのと比較いたしまして、このような事態を迎えたのは、事件発生以来日本外務省がとってきたその態度といいますかアプローチの方法、姿勢に少なからざる原因があったのではないか、そういう反省をお感じにならないだろうか。また国民も、いま、結局日韓両国政府があいまいの形のうちに収拾するのではないかという疑い、いら立ち、不安を日に日に週を重ねるとともに高めているわけですけれども、そういう国民の不安に対して政府はどうお答えになるか、それをまず初めに伺いたいと思います。
  52. 水野清

    水野政府委員 この金大中事件が起こりましてから政府のとった態度はマスコミではいろいろな形で伝えられておりましょうが、先ほど堂森先生にも申し上げましたとおり終始一貫しております。その第一は、まず日本警察当局捜査を土台としてこの問題を取り扱っていく、こういうことでございます。この日本捜査当局の捜査の結果、いま御指摘のありましたように金東雲一等書記官の指紋が犯行現場に発見されたということも事実でございます。この事実を踏まえて韓国側日本警察当局捜査協力要請しているわけであります。もし先生が御指摘のように、この事件をたとえば日韓の間であるいは一般紙上で伝えられるように日韓米、アメリカも含めて三国であいまいに処理をしようとしますならば、この指紋の発見というような重大な事実を政府が発表するはずがないわけであります。これは、政府が発表したということは決してこの問題をあいまいに処理していこうという考えがないということを私は証明していると思っております。しかし同時にこの事件の進展は問題を飛躍して考えられない外交問題であります。金東雲氏の指紋が発見されたということをすなわち金東雲氏が犯人であるということに決定づけることには私はまだ時期尚早ではないであろうか、むしろそういう意味もあって金東雲氏にも出頭を求めて捜査の協力を依頼をしているわけであります。もちろんその依頼は韓国政府側から断わられたわけでございますが、だからといってこの事件を私どもは壁に突き当たったというふうにも思っておりません。注意深く最初の方針どおり韓国側に機会をなるべく多くつくってその機会ごとに要請をしていく。私は、韓国政府もこの国際情勢の中で英知をもって事態判断して捜査に協力をしていただくという事態がくるであろうということを信じております。
  53. 河上民雄

    ○河上委員 先日、日本新聞でも報道せられましたが、金大中事件について韓国新聞、朝鮮日報が社説を発表しました。あの社説は、いま韓国政府間レベルではあらわれておりませんけれども、韓国の良識ある人々の間にある心情というものが非常によく出ているように思うのです。あの社説を読まれて、いまこの問題に当面しておられる外務政務次官としてどういう感想を持たれたか。私はやはりああいう勇気ある社説の中で訴えられております真の意味にこたえる必要があろうと思うのです。外務当局者はあの社説をどんな気持ちで読んだかをお聞かせいただきたいと思います。
  54. 水野清

    水野政府委員 韓国の朝鮮日報のその社説を私は手元に持っておりません、先般一度読むことは読みましたけれども。記憶に間違いがあるといけませんが、ともかくこの事件を大所高所から処理すべきだというような内容であったというふうに記憶をしております。いまの、表面から見れば金大中事件の非常に息詰まるような情勢の中でそういう社説を掲げられたことは、私は確かに勇気のあることだというふうに感じております。
  55. 河上民雄

    ○河上委員 先ほど外務政務次官は、非常に強い確信に基づいて金東雲書記官出頭を求めたというようなお話でございましたが、先般来の論議の中で、また政府答弁の中で、これが主権侵犯であるかどうかということについては、公権力の介在ということがあるのかないのかという点にしぼられているようでございます。常識的に見て、事件の当初条約局長答弁されました主権侵犯の構成要件から見ますと、公権力の介在はもうだれの目にも明らかだというふうに思うのでございますが、重ねて、その公権力の介在というものについて政府はどういうふうに考えておられるか伺いたいと思います。
  56. 松永信雄

    ○松永政府委員 国際法上の主権侵害の問題でございますので、これは国と国との間の関係ということになるかと存じます。その場合に、ある国の行為が他国の主権を侵害したということでございますから、そこで、その行為というのは国の機関による行為である、その国の機関による行為が国の行為であると断定されるためには、公権力の行使ということが必要要件であろう、こう考えておるわけでございます。
  57. 河上民雄

    ○河上委員 公権力の行使というのはどういう要件から成り立っていますか。
  58. 松永信雄

    ○松永政府委員 公権力の行使とは何かということになりますと、一般的な定義といたしましては、法令に基づく権限による職務行為である、それが中心的なものになる、こう考えております。
  59. 河上民雄

    ○河上委員 その場合には当然、国の法律ないしは法規に基づいて特別な権限を与えられているスタッフというものがいて、そこに命令とか指示が行なわれた、そういうものを意味しているわけですか。
  60. 松永信雄

    ○松永政府委員 法令によって権限が与えられているということは必要要件だと存じますが、上級機関であるか、下級機関であるか、あるいはその命令関係があったかないかということは関係がないと考えております。
  61. 河上民雄

    ○河上委員 そういたしますと、命令というのは上級機関からあると思うのですけれども、上級機関からの命令がなくても、いわば職務行為が行なわれたら、それは公権力の行使である、こういうふうに考えられるわけですね。
  62. 松永信雄

    ○松永政府委員 そのように考えております。
  63. 河上民雄

    ○河上委員 スタッフの命令で、たとえばスタッフが一人ないし二人で、それを助けるために多数の民間人が雇われるとか、あるいは国家に対する忠誠心に訴えて動員するとか、そういうような場合も、これは公権力の行使と考えられるわけですか。
  64. 松永信雄

    ○松永政府委員 その場合には、その私人と申しますか、民間人でございますか、その間に委嘱関係というものがあると私は考えます。その場合には、その私人による行為は、すなわちやはり国の行為であると考えざるを得ないと思います。
  65. 河上民雄

    ○河上委員 その場合、上役は知らなくても、これは無過失責任に当たるような——上級機関の者が知らなくて下級機関の者がかってにやった場合でも、上役には責任が生ずるというように考えられますか。
  66. 松永信雄

    ○松永政府委員 その場合に、その下級機関の行為がその職務の範囲内でなければならないという前提はございますけれども、いま御指摘がございましたような場合には、上級機関がそれを知らなかったあるいは命令をしてなかったということは、それが公権力の行使であることを何ら妨げないと私は思います。
  67. 河上民雄

    ○河上委員 それでは、そのスタッフが痴情あるいは酒の上で殺人を犯すとか暴行をした、あるいは交通事故で人をはねて殺したとかけがをさした、こういうような場合はもちろん職務行為とは全く関係ない、こういうふうに判断されるわけですね。
  68. 松永信雄

    ○松永政府委員 いまおあげになりましたような例の場合には、それはまさしく職務行為ではないと私は考えます。
  69. 河上民雄

    ○河上委員 今回のように、大統領の政治的なライバルと目されるような人物で他国におる人物を組織的に連れ去るというようなことは、痴情とか、そういう全くプライベートな行為であるとは断定できないと思うのですね。非常にパブリックな行為であるというふうに考えてよろしいわけですか。
  70. 松永信雄

    ○松永政府委員 私的な行為であると断定することは、現在の段階ではできないと私は思います。しかし、同様に、公的行為であるということも、現在の、私どもが持っております材料と申しますか状況のもとでは断定できないということであろうかと存じます。
  71. 河上民雄

    ○河上委員 公的か私的かという区別でなく、非常に政治的な行為であるというふうには考えられるわけですか。
  72. 松永信雄

    ○松永政府委員 私どもが現在持っております材料からしますと、それが政治的なものであるという可能性はあると思いますけれども、それであると断定できますかどうか、その点は私は自信を持たないわけでございます。
  73. 河上民雄

    ○河上委員 これは仮定になるかもしれませんが、韓国政府が国際世論を考慮して、KCIAないしは外交官がこれに介在しておる、しかし、これは全く命令ないしは指示に基づかざる個人的な判断でやったことだというようなことで、その人物を韓国側の法規に照らして規律違反ということで処断するというような場合がかりにあったといたしますと、そういう場合においても、日本政府としてはこれは主権侵犯であるということで、侵犯されたことに対して権利の回復をはかられるかどうか。
  74. 松永信雄

    ○松永政府委員 全く職務あるいは権限と離れまして個人的な動機、理由によってその行為が行なわれた、そのこと自体が韓国において規律違反を問われて処断をされたという場合には、その行為についても、連行行為と考えまして、連行行為自体についても、韓国の国家的な責任というものは発生しないと思います。したがいましてその主権侵害の問題はその場合には出てまいらないと考えております。
  75. 河上民雄

    ○河上委員 それじゃKCIAというものの職務というものは、スタッフの職務行為というものの中には今回の連行のようなことは含まれておるのですかどうですか。一般論としてです。この時期にこういう人を連行することはいいか悪いか、そういうのは政府なり何なりの指示があったかなかったかということはまた別問題ですけれども、一般的に海外においてKCIAのスタッフはこういう連行行為をやる権限を持っておるのかどうかですね、またむしろやらなければいかぬのかどうか。
  76. 松永信雄

    ○松永政府委員 これは韓国の法律になりますから、韓国の法律につきましての有権的と申しますか、断定的な解釈を私どもとしては下す立場にないわけでございます。しかし一応韓国の中央情報部法という法律を見ますと、中央情報部の職員は非常に多くの、この法律に掲げられておりますところの犯罪につきまして犯罪の捜査を行なう、あるいはその犯罪に関連しまして司法警察職員あるいは警備警察職員としての権限を与えられておるというふうに私ども解釈しております。
  77. 河上民雄

    ○河上委員 韓国国内だけではなくて海外においてもそれは認められておるのですか。
  78. 松永信雄

    ○松永政府委員 その法律自身を見ます限りは地域的な限界、限定はないようでございます。
  79. 河上民雄

    ○河上委員 そういたしますと、今回の金東雲氏が、遺留指紋まで一致しているわけですから名前をあげてもよいと思うのですけれども、金東雲氏がKCIAのメンバーであるといたしました場合には、少なくともその韓国の中央情報部の規律からいいますと、今回の場合は一般的には職務行為と、この時点でこれをやるべきかどうということは、これは命令であったかなかったかということはまた別問題でありますけれども、一般的な職務行為である、むしろ忠実な職務行為であるということになるわけですか。
  80. 松永信雄

    ○松永政府委員 これは仮定の問題としてお答えすることを御了承いただきたいと思います。かりに金東雲一等書記官が中央情報部の職員であったとすれば、彼の職務権限に先ほど申し上げましたようなことがございますから、今回の事件に彼が直接的な形で参加したということを前提に考えれば、それは彼の職務行為であると考えざるを得ないと思います。
  81. 河上民雄

    ○河上委員 この事件発生以来当委員会でも論議されてまいりましたことですが、今回の事件は、わが国の法域の中で合法的に滞在を許された外国人が不法な手段で国外に意思に反して強制連行された事件である。とすれば、これは主権の問題といたしまして、当然この事件の究明は第一義的に日本政府にあるという点は大平外務大臣も承認されたところでございます。特にこの在留外国人ですね、合法的に滞在を許された在留外国人の生命の安全、それから人権を保護することは日本政府の義務じゃないかと思うのです。先ほど条約局長も認められましたように、今回の事件がかりにKCIAのスタッフによって行なわれたとすれば、KCIAの立場からいえばこれはむしろ当然の職務行為であるということになったとすれば、一方には日本の憲法に基づく日本主権と、そして日本国民並びに日本国内に合法的に滞在を許された外国人の人命、人権の保護を第一義とする日本政府立場というものは、ここに完全に衝突すると思うのです。したがって、もし日本政府がここで合法的に滞在を許可した外国人の生命及び人権、自由というものを保護する任務を怠るといたしますと、在留外国人というものは一日として安心してここに滞在できないということになるんじゃないでしょうか。
  82. 松永信雄

    ○松永政府委員 御質問趣旨、私必ずしもはっきりと理解できないのでありますけれども、かりに大使館の者がこの種の職務行為と申しますか、権限を持っていたといたしましても、それを行使して日本主権を侵害することを日本は認めておらないわけでございます。ですから、そういう状態が出てきますれば、まさしくそれは主権侵害の問題として国と国との間でこの責任を追及するということになるのだろうと存じます。わが国といたしましては、日本において合法的に滞在をされている外国人の生活の安定なり保護ということについては、内外人平等無差別の原則に従って相当なる水準の保護を与えてきていると考えてきておるわけでございまして、したがってわが国で在日の外国人に対して保護を怠っているという状態はないんじゃないかと、こう考えております。
  83. 河上民雄

    ○河上委員 現実には金大中氏は連れ去られておるわけです。そしてこれを回復する手段としては、きめ手としては、公権力の介在、公権力の行使があったかなかったか、あったという認定が必要である。その公権力の行使というものは、連れ去るということそのものは必ずしも公権力の行使、主権侵犯にはならないで、命令があったかなかったかで初めて主権侵犯が起こるという論理になりますと、日本主権を守ることは非常に困難であるばかりでなく、在日外国人は安心して日本に住むことはできないと思うのです。合法的に滞在を許可してないならともかくとして、許可している場合に。したがって、もし合法的に滞在しておる外国人の生命の安全と人権あるいは自由を守るためには、市民的自由を守るためには、KCIAが定めているような職務行為そのものが日本の国内で行なわれることを排除しない限り、具体的な命令があったかなかったかということをよりどころにしている限りは保障できないのじゃないか、そういう職務行為一般を排除しなければ彼らの安全を維持することはできないのじゃないか、論理的にはそうなると思うのです。いかがでしょうか。
  84. 松永信雄

    ○松永政府委員 先ほど申し上げましたように、命令関係があったかないかということは関係ないと私は思うのです。命令があったから公権力の行使があるんで、命令がなかったからそうでないということはないと思います。  そこでKCIAの職務行為、実は私も職務行為の内容を知悉しているわけではございませんので、すべて日本で禁止されるべきであるかどうか、これは私はいま直ちにそうだとは申し上げられないと思うのです。しかし、この中には先ほど申し上げましたように、たとえば犯罪の捜査というのがあるわけでございます。こういう捜査活動を外国の官憲が日本の中で行なうということは認めておらないわけです、同意を与えていないわけですから、そういう捜査活動をやればそれはまさしく主権の侵害という問題になってくるわけであります。その点につきましては、私どもはKCIAの職員日本でその職務行為を行なうことを明示的に禁止するという必要はないのだろうと思っております。
  85. 河上民雄

    ○河上委員 すでに外交官が関与していることは明らかになっているわけですね。問題は、いま私どもから言えば、ここでもう主権侵犯の事実は明らかだと思うわけですけれども、しかし、おたくのほうで、それにはもう一つ具体的な公権力の意思が加わっていたかどうかということがないと主権侵犯にならぬとおっしゃるから、私はそういう設問をしたわけです。ですから現実に金大中氏が連れ去られて、しかも組織的に連れ去られて、その中に外交官が関与していることは事実であるとすれば、これだけで十分主権侵犯を断定すべき段階ではないかと思うわけです。もしそうでなく、もう一つ何か公権力の責任ある意思がそこへ加わっておったという条件を必要とするならば、在日韓国人の、あるいはその他の在留外国人の安全と人権を保障することができないのではないかということを私は申し上げているわけです。いかがでございます。
  86. 松永信雄

    ○松永政府委員 大使館の館員の行為がその職務行為を離れて今回のような事件を起こした場合、それが韓国に対して責任を追及し得なければ日本では外国人は安心して生活できないじゃないか、こういう御趣旨質問かと私は了解するわけでございますが、現時点、捜査の結果明らかになりました大使館員の関与ということを前提にして考えました場合に、私は韓国の国際的責任というものはすでに発生はしていると考えております。
  87. 河上民雄

    ○河上委員 いまの条約局長お話でみますと、金東雲氏がKCIAでなければ本来の職務からはずれた行為になると、もしKCIAのスタッフであれば、これは当然の職務行為であるということになってしまうような気がするのですけれどもね。
  88. 松永信雄

    ○松永政府委員 御質問が実はKCIAという韓国中央情報部という観点からの御質問でしたのでそういうふうにお答えいたしましたけれども、それじゃそれ以外には公権力の行使はあり得ないかといえば、そうではないと思います。やはりそれは権限のある政治機関からの命令なり委嘱なり関係が出てきますれば、そこはやはり公権力の行使という要素が出てくると思います。
  89. 河上民雄

    ○河上委員 これでやめますけれども、政務次官金大中氏の再来日は依然として強く要求しておられますか。
  90. 水野清

    水野政府委員 金大中氏の原状回復という形で——この原状回復というのはきわめて正確に言えば、連れ去られたホテルにいたときの状態に戻るということじゃないかと思いますが、強く要求をしております。それから金大中氏が連れ去られた前後に一緒におられました梁一東氏それから金、二人の捜査協力というものも要求をしております。——ちょっと言い間違えましたが、金大中氏の場合の来日は原状回復でなくて捜査協力という形で要求をしております。  それから先ほど来先生の条約局長とのお話で問題点を追及しておられましたが、このことにもありますように、金東雲一等書記官の指紋があったということは一つの現実な、厳正な事実でございまして、これが韓国外交官であり、この事件に関与したと思われるような疑いは濃いわけであります。しかし、重ねて申し上げますが、金東雲氏のやったことが公的な行為であるか私的な行為であるかということを判定するのにもう少し時間をかしていただきたい。それがはっきりしなければ、先生の御質問の御趣旨主権侵害という問題を立証しがたいのじゃないか、私はこう思うわけでございます。
  91. 河上民雄

    ○河上委員 今回の事件は、一つは主権侵害の問題であり、もう一つは金大中氏の人権、生命の安全の問題だと思うのです。それを保護することができるかどうかということは、ある意味日本の政治道徳がそこで問われていると思うのです。いま政務次官は、再来日を要求する根拠として捜査協力ということだけ言われましたけれども、これはやはり合法的に滞在を許されている外国人の人権を保護できるかどうかという点から要求すべきじゃないかと思うのですね。その辺からすでに出発が間違っているような——間違ってはいませんけれども、少しずれているような気がするのです。その点を少し、もう一度態度を変えていただかないとこの問題は解決しないと思うのです。  そこで、私は二つのことをお尋ねしまた要求したいと思うのですけれども、まず第一に、いま金大中氏が韓国におられますが、その生命の安全ですね、再来日まで金大中氏の生命の安全を保障する責任韓国政府に確約させているかどうか。たとえば俗に言う殺し屋みたいな者が来て何か起こす、不測の事態を起こすというようなことにならないようにしなければならないと思うのです。  もう一つは、再来日については無条件であるべきである。たとえば十日後にまた帰るとか、捜査協力ということであれば十日でもいいというような話になります。しかし人権を守るということになりますれば、これは再来日で、先ほどお話がありましたように、八月八日お昼ごろまでの、事件発生までの状態に戻すということが前提になると思うんですね。いま政務次官答弁をちょっと修正されたようでございますけれども、それは非常に大事なことだと思うのです。
  92. 水野清

    水野政府委員 私は原状回復と申し上げましたが、日本政府の要求の態度捜査協力でございます。ただ、いま先生の御質問ございましたし、人権問題という、身の安全ということに触れましたが、韓国側はこの日本側の要求の際に付帯的に向こうから言ってきたことでございますが、別件で、別件というのは韓国の法律でどういう法律が当てはまるかわかりませんが、金大中氏を何かほかの事件の犯人として逮捕するということはしないということを日本政府に申し出てきております。さらに、後宮大使が面接をしておりますし、そういう限りにおいて金大中氏の生命の安全ということは、国際世論あるいは日本国内の世論、こういうものがある限り守られていくだろう、こういうふうに信じております。
  93. 河上民雄

    ○河上委員 再来日には無条件で交渉しておられますか。
  94. 水野清

    水野政府委員 無条件で交渉しております。
  95. 河上民雄

    ○河上委員 かなり確かな筋から伝えられておりますことですが、金大中氏は、ああいう事件を経験し、また強制連行という事件を経験し、またその後事実上の軟禁状態に置かれておるために、健庫状態が非常に悪くなっているとも伝えられておるわけです。そこで、もし再来日ということになりました場合には、夫人の同行を認められる、政府としてそういうことを考慮、要求せられるか。夫人の同行を認めるように働きかけるべきではないかと思うのですが、その点政府態度はいかがでございますか。
  96. 水野清

    水野政府委員 日本側が捜査協力金大中氏を日本に戻してほしいという主張をしておるのに対して、向こうはまだできない、こういっている段階です。ですから、金大中氏の奥さんをその際に一緒に連れてくるとか、実はそういうような話し合いに入っていないわけであります。私はさっき無条件と申し上げましたが、条件について、まだ話し合いが具体的に行なわれていないわけでございます。ちょっと私の申し上げたことが違っておりました。訂正します。
  97. 河上民雄

    ○河上委員 ちょっと確認のために申しますが、交渉に入る政府態度としては無条件であるかどうかですね。無条件を願っておるかどうか。
  98. 松永信雄

    ○松永政府委員 先般もお答え申し上げたことがございますけれども、捜査のために必要だから、再来日を強く要請するということで、いま再来日という要求を非常に前面に強く出しているわけでございます。この条件については、何ら話し合いと申しますか、交渉は行なわれていないというのが現状であることは、ただいま政務次官からお答えになられたとおりでございます。  そこで、再来日ということが具体的に話し合いになった場合に、条件についてはどうするかというお話がございましたので、捜査のために必要な再来日ということでございますから、捜査の目的が十分達成されるための条件が絶対に必要だ、したがって、捜査の目的を妨げるような条件が出てきますれば、それは絶対に受けられないということだろうと存じます。その場合に、先ほど御質問がございました、十日たったら韓国に帰るというような条件がつけば、それが心理的な圧力になって、自由な供述が得られないということにもなる場合があるのじゃないかと考えております。ですから、そういう場合は、もちろん捜査当局のお考えを私ども尊重しなければなりませんけれども、十分な捜査が行なわれるための条件が絶対に必要だ、こう考えているわけであります。
  99. 河上民雄

    ○河上委員 金大中氏が韓国を出国するときは、まだ国会議員で、公用旅券であったはずなのでありますが、その後十月十七日の、戒厳令がしかれて、国会議員の資格を剥奪されたそのあとは、日本に入ってくるときには赤十字の国際委員会の身分証明書で入ってきたというようなことを聞いておるわけでございますけれども、それは事実でございますか。
  100. 吉田茂

    ○吉田説明員 七月十日にアメリカから入国した際は、三月二十五日に出国する際の再入国許可書と、それから赤十字国際委員会の渡航文書を持って入国しております。
  101. 河上民雄

    ○河上委員 それに対して日本政府は法務大臣の特別な許可で滞在を許したわけでございますね。
  102. 吉田茂

    ○吉田説明員 法務大臣の特別の許可である、出入国管理令第四条一項十六号の許可を与えております。
  103. 河上民雄

    ○河上委員 そういたしますと、赤十字国際委員会の身分証明書を付せられた人物を受け入れて、そしてこういうような事件が起きたわけですが、こういう場合に日本政府としては国際赤十字に対して何らかの連絡とか、あるいは国際赤十字を通じてこういうような問題を取り扱うとか、少なくとも連絡をしておるかどうか。
  104. 吉田茂

    ○吉田説明員 法務省としましては連絡いたしておりません。
  105. 河上民雄

    ○河上委員 外務省としてはこういう問題についてどうお考えですか。
  106. 高島益郎

    高島政府委員 赤十字国際委員会との関係につきましては、ただいま法務省のほうから御答弁がありましたとおり、旅券にかわる文書として認められた一つの国際文書でございますので、その扱いをいたしておりますけれども、この関係で赤十字国際委員会日本政府金大中事件につきまして、特別に通報するというような措置はとっておりません。
  107. 河上民雄

    ○河上委員 すでに時間が参りましたので、私はこの辺で終わりたいと思いますけれども、先ほど来政府の御答弁で明らかなように、金大中氏の再来日についても、終始一貫捜査のためということでやっておられまして、金大中氏の人権というか、在留外国人の生命の安全と人権、自由というものを守るという姿勢がいささか弱いような気がいたします。先ほど私が申しました朝鮮日報の社説でも、韓国側韓国側として、この事件を、韓国の道徳の存亡のときであるというふうなことを強く訴えておるわけでありますけれども、同じようなことは日本についてもいえるのではないか、私はそう思うのです。ひとつこの問題いよいよ非常にきびしい情勢になっておりますが、私はそういう点を肝に命じてやっていただきたい、こういうことを希望いたしまして私の質問を終わります。
  108. 藤井勝志

    藤井委員長 柴田睦夫君。
  109. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 昨日の法務委員会ですが、条約局長は、一般論としてですけれども、私人の行為であっても国の条件によっては国際違法行為が成立し、政府機関の構成員の行為であれば国が無過失責任を負担するという趣旨のことを述べておられました。そして政府は、金東雲が出現してから、この事件については韓国政府責任があるということを言っておりますけれども、この責任というのは、国際違法行為についての責任意味するわけでしょうか。
  110. 松永信雄

    ○松永政府委員 現在の状況のもとで、韓国の国際的な責任というものがいかなるものであるかということは、まだ断定できないと考えております。
  111. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 きのう言われた一般論としての責任は、これは国際違法行為の責任ということでしょうか。
  112. 松永信雄

    ○松永政府委員 国の機関、ことに大使館の館員が不法行為を行なったということについては、御承知のように外交官は接受国において法令を尊重すべき義務があるわけでございます。したがいまして、国には外交官を十分に監督指導するという責任があるわけでございまして、その指導的あるいは監督的な責任を怠ったということについて、韓国は当然日本に対して国際的な責任を負う、こう考えております。
  113. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 この金東雲一等書記官につきまして、先日の本会議において江崎自治大臣答弁されたんですけれども、その中では、「犯行現場に残された指紋と同書記官の指紋が一致した」。二番目に、「事件発生と同時刻、現場のホテルのエレベーターの中で、金大中氏が「助けてくれ」と叫んだ時、同氏を取り囲んだグループの中に同書記官がいるのを目撃した人がいた」それから三番目に、「現場に残されたリュックサックを売った店の少年店員が、リュックを買った二人連れのうちの一人が同書記官であることを十数枚の顔写真の中から、ためらうことなく指摘した」、この三点が裏づけであるという趣旨答弁を江崎自治大臣が本会議でなさっております。この江崎自治大臣が述べられた点が、これは確実なものとして述べられたわけなんですけれども、これだけそろっておれば、金東雲一等書記官がこの犯罪に加担したということは、これは当然認めてしかるべきものではないでしょうか。
  114. 松永信雄

    ○松永政府委員 どういう証拠がそろえば犯罪の容疑の立証の材料として十分であるかという点は、私どもは捜査当局の御判断にまつしかないわけでございますが、捜査当局の判断によれば、いまあげられましたような証拠、それだけそろえばその容疑はきわめて強いということであるということでございますので、私どももそのとおりに承知しております。
  115. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 犯罪の容疑というのは、結局は、刑事事件の場合のことであって、私がここで問題にするのは、外交上の処置をする上においての判断の問題であるわけです。ですから、被疑者にしろ被告人にしろ、刑事事件の上においてはまだ容疑者ということなんですけれども、外交上判断する場合は、外交を扱う者の常識として、これは、この事件関係したということが、犯罪の容疑者であるということとは別に判断することが当然できると思うのです。聞いておりますと、この刑事事件の関連である容疑者というものを、この外交上の問題に取り入れてきて、この金東雲が犯人の一人であるということを決定しようとはしないということは、刑事事件のほうに引きずり込まれているのではないか、こう思うのですが、その点、政務次官のお考えはいかがでしょうか。
  116. 水野清

    水野政府委員 この金東雲氏の事件は——事件といいますか、今回の指紋の検出であるとか、そういったことは、いま条約局長が申し上げましたように、この事件金東雲氏が関与していたという容疑が強いということはいえるわけでございます。しかし、御承知のようにそのために日本政府としては金東雲氏の取り調べに応じてもらうように出頭要請をしております。しかしこれに対して金東雲氏は、御承知のように外交官でありますから、この出頭に応じなくてもいいという、向こう外交官の特権を持っております。そこで、この事件がいまぶつかったままである、こういう事態にあるわけでありまして、個人の犯罪の場合でも、こういう問題、この人が犯人であると断定して逮捕するかどうかということは、非常に人権上重大なことでございますが、これは外交官であります。国家と国家の間の問題にも波及するわけでありますから、個人の問題と同じように、私は慎重に、こちらの主張に問題点があるかないかということを踏みしめて交渉すべきであるということは、当然のことだろうと思います。そういう意味で、私どもは決して手ぬかりもしておりませんし、ごまかしもやっておりません。
  117. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 ちょっと質問に対する答弁と少し食い違っていると思うのですけれども、私が聞いておりますのは、この問題を外交関係として処理する場合において、これが主権の侵害になるとか、あるいは国際違法行為になるとかいうことは、これは外務当局が判断しなければならない、こう思うわけなんです。ですから犯罪上の捜査はもちろん参考にされることはあっても、やはり独立した判断がなさるべきであるということを考えてみた場合に、現場に指紋が残っている。そして目撃者もいる。リュックサックを買ったということを見た人もいる。こういう場合において、この金東雲がこの行為を担当したということを否定するように見なければならないような疑問がまだ何か残っているかということなんですが、どうですか。
  118. 水野清

    水野政府委員 この金東雲書記官が、さっき申し上げましたように犯人であるかどうかという判断をするには、あくまでも慎重でありたい。慎重でありたいと申し上げるのは、決してうしろ向きであるということではないわけです。金東雲氏が犯人であるという断定ができなければ、主権が侵害されたという問題は、次の問題でございます。一歩前へ進まないわけですから……。その意味において主権が侵害されたかどうかということを判断し、断定して、それに伴う外交的な措置をとるにはもう少し時間をかしていただきたい、こう申し上げているわけであります。
  119. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 現在、日本で調べた資料によって外交上の判断をする場合に、金東雲関係したということを当然認められるように十分になっているのではないか。十分でないというならば、どういう点にまだ疑問がある、関係してない、疑いがあるということを言われるのか、こういうことなんです。
  120. 水野清

    水野政府委員 先ほど河上委員の条約局長に対する御質問にもございましたが、金東雲氏の指紋が出たということだけで、金東雲氏が公的な意味においてこの行動を起こしたかどうかという認定をするには私はまだ不十分だというふうに判断できるわけです。私的にやったということもいえないわけでありますが、公的な立場韓国の公務員として何か指示を受けてやったとか、あるいはその他の目的で公人としてやったということを認定するには私はまだ不十分だ、ひいては、金東雲氏の行為であると断定できないわけでありますから、主権の侵害が行なわれたかどうかという判断に至るには、もう少し私は諸般の事情もあわせて考えたい、こういうことでございます。
  121. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 私が本件主権侵害になると思う根拠についてはもうたびたび繰り返しております。きょうはそのことはもう抜きにして聞いているのは、金東雲が公人としてであれ私人としてであれ、ともかくこの犯行に公人、私人、この場合、この質問においては問わないことにしますけれども、この犯行の加担者であるということは外交処理の上において判断すべきではないかということなんです。これはもう私が見てもこの犯行に加担したものであるということは間違いないと思いますし、多くの人がやはりそう思うと思うのです。それを外務省だけがなお犯行に加担したかどうかがまだ疑問であるという態度をとっておられるのじゃないか、こう思うので聞いているわけなんです。
  122. 水野清

    水野政府委員 先ほど来、堂森委員あるいは河上委員の御質問の中にもございましたように、金東雲氏の指紋が出たということはこの事件関係していた容疑が非常に強いということは認定できるわけでございます。しかしだからといって、(柴田(睦)委員「目撃者もある」と呼ぶ)もちろんそうでございます。しかし、もう一つそこを飛躍して、金東雲氏が公的な立場でやったという証明をして初めて私は外交的な処理、判断が出てくるということになると思います。そのためにわれわれは、外務省としては韓国政府金東雲氏の出頭要請して、本人からもそれについての事情を聞きたい。韓国政府関係ないと、こう言っておりますけれども、私どもは韓国政府関係ないという通報をそのまま受け取っておりません。韓国政府判断判断として、日本政府判断として金東雲氏に出てきていただきたい、そうしてこれこれの容疑事実がいろいろあるから、これはどうだ、これはどうだという取り調べをしたい、外交官ではあるが出頭要請をしている。こういうわけであります。その過程でいま直ちに犯人である、主権が侵害された、だから韓国に対して何らか外交的措置をとるというには、私は時期的にまだいささか早いのではないか、こういうことを申し上げているわけです。
  123. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 主権侵害だとか、公的に関係したということになると、私と見解が違うということがいままでの委員会でわかっておりますので、きょうはなるべく外務省のほうの言われることを前提にして聞いているのですけれども、公的に関係し、公権力が作用したということになれば主権侵害だ、そうでなければ主権侵害にならないということなんですけれども、公人が私的にでも関係した場合には、これは主権侵害のことは見解の相違がありますけれども、国際不法行為にはなるということは一番最初にその前提でお聞きしたわけなんですけれども、国際不法行為になるということから、しいて公的に関係したということを判断する前にも、公的か私的かわからぬけれども、関係したということは認められるのじゃないか、こういうことを聞いているわけなんです。
  124. 水野清

    水野政府委員 先ほど申し上げましたように、公的か私的かはわからないけれども、金東雲書記官がこの事件に関与した容疑は非常に強いというふうには私どもは判断をしております。しかし、やったということと、容疑が強いということに、私はまだ差があろうかと思います。
  125. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 その差ですね、容疑とやったということ、容疑がやったということに高まるにはこれからどんなものが材料としてそろえばいいのかまず、それをお伺いします。
  126. 水野清

    水野政府委員 一つは、金東雲氏が出頭して日本側の官憲の取り調べに応じて、認めてもらえればこれは一番いいわけなんです。もう一つは、これは外交官でございますから、たとえそうであっても拒否し続けることができるわけでございます。これは日本の今度の事件だけでなくて、諸外国で似たようないろんな事件が起こっております。そういう場合にでも、そういう事件はたびたび起こっております。もしあくまでも日本官憲の取り調べに応じないときには、私は日本警察当局の取り調べがさらに進むということを期待しているわけであります。
  127. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 金東雲の取り調べのことについて聞くわけなんですけれども、その前に一つ、金東雲は現在韓国に戻っている。これは何のために戻ったのか、そのことは調べてあるのですか。
  128. 高島益郎

    高島政府委員 金東雲書記官がどういう目的で本国に帰っているかという点についてはわかりません。
  129. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 その点は調査はしたんですか。調査したけれどもわからないという意味なんですか。全然そのままに放置してあるということなんですか。
  130. 高島益郎

    高島政府委員 たてまえ上まだ韓国外交官でございますし、日本に駐在する外交官でございますし、それが一時帰国するということは全く自由でございますので、私のほうで特にその点について調査をいたしておりません。
  131. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 金東雲の取り調べということを言われますけれども、現在韓国側は拒否している。それから外交特権もある。さらに任意出頭ということで被疑者としての調べをする場合は黙秘権もあるというようなことから見れば、本人の供述を得るということは期待することができない。その場合に、金東雲が犯罪に加担したかどうかということを調べる場合に、何かほかに手段を考えているわけですか。
  132. 水野清

    水野政府委員 私どもは捜査当局でございませんから、どういう手段がある、こういう手段があるということは申し上げられません。ただ、日本捜査当局の捜査はいろんな角度から現在も続けられておりますし、たとえば金東雲氏の指紋の問題一つにしましても、われわれの考えられなかったような面からこういう捜査の結果が出てきたわけでありますから、今後とも私は、この判断をするにつきましては捜査当局の捜査の結果に依存したい、こういうふうに思っております。
  133. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 結局金東雲を調べることはできないということになれば、もうこの事件は発生して一カ月以上たっているわけなんですけれども、なかなか事の真相が明らかにされない。捜査中である、努力しているということは言われるけれども、現実には外交処理の上においても何ら見るべき成果があげられていないということになると、やはりこれがいわゆる迷宮入り、うやむやにされるということをどうしても心配しなければならないと思うわけです。  もう一つ、金東雲がKCIAの要員である、こういわれておりますけれども、この点については韓国政府に外交の立場から問い合わせをするとかその他の方法で調べているかどうか。特にKCIAの要員であるということになれば、非常に公権力としての作用をしたという疑いも濃厚になってくるわけなんですから、当然もう一般的にいわれておりますKCIAとの関係、これなども外務省が積極的に調査しなければならないと思うのですが、この点の調査はしておりますか。
  134. 高島益郎

    高島政府委員 国会のほうのいろいろの御要望もございまして、私ども駐日韓国大使館員の中にKCIAの要員がいるかどうか、いる場合にはどういう人がそうかという点につきましていろいろ調査をしたいと思って努力しておるわけでございます。特にこの点につきましては韓国政府にも直接尋ねたこともございます。しかし、韓国政府といたしましてはKCIAの元職員日本に来る場合は、完全にKCIAをやめて外交官として採用されて外交官の身分で来るわけでございますので、そういう者について確認をするわけにはいかないということでございますので、私どももそういう正式な手段によっては駐日韓国大使館員の中にKCIA職員がいるかどうか、いる場合にどういう人かという点については全く確認の方法がございません。ですから、それ以外の方法で、直接の方法でない方法で何とか探るということしか実はないわけでございます。
  135. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 その探るなり、あるいは直接金東雲という一等書記官の身分を聞くという方法もあろうかと思うのですけれども、その金東雲についてはその点の調べはしているわけですか。
  136. 高島益郎

    高島政府委員 私どもの調べているところでは金東雲氏は従前日本新聞記者として滞在しており、その後大使館職員になったという一応の経歴は承知しておりますけれども、それ以外に韓国政府内でKCIAと何らかの関係があるかないかという点については全くわかりません。
  137. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 わからないというのは金東雲について調査を頼んだことがあるけれどもわからないというのか、自分たちが内偵したところではわからないということか、お伺いします。
  138. 高島益郎

    高島政府委員 私ども韓国政府に聞いた限りではそういうことは一切説明いたしません。またそれ以外の方法による調査は私のほうでなくて警察のほうでやっておりますので、そちらのほうにお聞きいただきたいと思います。
  139. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 それから真相究明ということをいわれますけれども、これはもう二週間以上前に韓国側に十点の資料要求をされた。そして出された資料が非常に不十分である、韓国捜査協力について遺憾であるという趣旨の発言などもなされておりますけれども、それから相当の期間がたったわけですけれども、韓国側からの政府が求めた資料はその後追加するなりして出されているかどうか、お伺いします。
  140. 高島益郎

    高島政府委員 日にちは覚えておりませんが、金大中外二人の供述の内容につきましての要旨が参りました。これが最後でございまして、それ以後はございません。またこの供述の内容につきましては、わがほうの捜査当局の捜査の参考上非常に有益であったという点は警察のほうから伺っております。
  141. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 供述の要旨ではなくて、供述全体を求めたのではなかったでしょうか。供述全体についてその後要求するということはしているのでしょうか。
  142. 高島益郎

    高島政府委員 私どもこれは全部警察のほうの要請に応じてやっておるのでございまして、供述調書そのものを求めるということは警察のほうの習慣としてしないたてまえになっているそうでございまして、調書そのものでなくて、調書の内容ということでございます。
  143. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 調書の内容というのが要旨であったと思うわけなんですけれども、調書そのものはもちろん出せないでしょうけれども、その写しなり、書いてある内容の全般を出すように、そういう要求をその後、これは外務の窓口を通すわけでしょうから、それはなさっているでしょうか。
  144. 高島益郎

    高島政府委員 十項目の要請をして、その後その要請内容をあらためて要請するということはいたしておりません。したがって、最初の申し入れどおりでございます。
  145. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 その後要請しないというのは要請の必要がなくなったということなんでしょうか、あきらめたということなんでしょうか。
  146. 高島益郎

    高島政府委員 いや、そういうことでは決してございませんで、要請しているものについて依然として引き続き要請するというのがわがほうの態度であります。
  147. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 引き続き要請していると言われますけれども、まだ来ないから早く出してくれ、そういう形で要求しているのですか。
  148. 高島益郎

    高島政府委員 そのとおりです。
  149. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 ちょっといまの答弁は……。
  150. 高島益郎

    高島政府委員 そのとおりでございます。
  151. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 そうすると、繰り返し要請するということなんでしょうけれども、何回くらいあれから繰り返されておりますか。
  152. 高島益郎

    高島政府委員 数は覚えておりません。
  153. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 数を覚えていないと言われますが、それははっきりした数はわからないかもしれないけれども、それからそんなに長い期間がたっているわけではないし、何回くらいということは言えるのじゃないですか。
  154. 高島益郎

    高島政府委員 もし御必要ならば調べて御返答いたします。
  155. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 金大中氏の来日については、これもやはり繰り返し要請しているのですか、その点はどうなんでしょうか。
  156. 水野清

    水野政府委員 先ほど堂森委員や河上委員に申し上げましたように、東京において外務省と駐日韓国大使と、ソウルにおいて日本後宮大使韓国外務大臣という二つの経路をとりまして何べんでも要請をしております。
  157. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 その要請に対する韓国側態度捜査中だから出せない、最初はそういう回答でしたけれども、その回答は全く変わりのない状態で続いているのでしょうか。幾らか変わってきたでしょうか。
  158. 水野清

    水野政府委員 韓国側態度は変化をしておりません。全く同じ拒否の回答でございます。
  159. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 そうすると、政府がいつも言われる真相を究明することが前提だ、こう言われますけれども、なかなかその真相の究明の足取りが進まない。その間に在日領事館員などは十三名も帰ってしまう。ぐずぐずしているといよいよ真相究明ができなくなる。ですから一般には、これは迷宮入りになってしまうのじゃないか、むしろその方向に行かせようとしているのじゃないかと言う者さえいるくらいなんです。ですから、政務次官は先ほど、もう少し時間をかしてもらいたい、こういうことをおっしゃいましたけれども、きょう新聞のを見まして、国連総会前に決着をつけたいとか、特使を派遣するとか、そういう話が出ていまして、いよいよ本格的にやるのかという感じもしないわけではなかったのですけれども、現実にはそういうこともないようです。  それでは、今国会が九月二十七日までということになっておりますが、それまでに外務省判断が前進する、確定の方向に進んでいく、そういう見通しは立てられるのでしょうか、それをお伺いします。
  160. 水野清

    水野政府委員 大平外務大臣が二十三日に国連総会出席のために出発をされます。それまでに解決をつけるであろうというのは、私は外部の一種の予想であろうと思います。確かに大平外務大臣がおられるほうがおられないときよりはこの問題に対して判断が早いということはあろうかと思いますが、それでは大平大臣が出発されたあと迷宮入りになるということでは決してないと私は思っております。先ほど申し上げましたように、外務省としてはこの問題は終始一貫して韓国に、現在ある条件を必要で十分なことばで、捜査協力という形で要求をしております。この問題を解決しないと迷宮入りであろうかとかいろいろなお話がありますが、迷宮入りになってしまうとも私どもは思っておりません。いつまでということ自体が、私はむしろ問題がかえって派生していくのではなかろうかと思います。  また、国会が閉会になるのを待っているのじゃないかというようないまのお話でございましたが、国会が閉会になりましても閉会中の審査もございますし、外務委員会を随時開いていただいて、そこで国民の前に御答弁申し上げるという機会は幾らでもあろうかと私は思います。  いまの柴田先生の御質問全体を受けますと、これは誤解かもしれませんが、日本政府がこの問題を適当にとうかいしよう、あるいは国民の目をごまかしていこうというような態度をとっているのではないかというお疑いのようでございますが、決してそういうつもりはございません。そういうつもりがあれば最初から、たとえば警察当局捜査の結果というものを堂々と公表するはずがないわけでございます。そういう点はよく御認識をいただきたいと思います。
  161. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 迷宮入りをさせないという決心だ、こう言われます。それはそれでいいわけなんですけれども、そのような確固たる態度をとるということであれば、ともかく資料の要求にしろ再来日の要求にしろ、またこの金東雲を調べる問題にしろ、もっと積極的な態度、強い態度が必要であると思いますので、そのことを申し上げて終わります。
  162. 藤井勝志

    藤井委員長 次回は来たる十九日水曜日午前十一時理事会、午前十一時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後五時十五分散会