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1973-09-07 第71回国会 衆議院 外務委員会 第34号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十八年九月七日(金曜日)     午前十時三十七分開議  出席委員    委員長 藤井 勝志君    理事 石井  一君 理事 鯨岡 兵輔君    理事 小坂徳三郎君 理事 西銘 順治君    理事 福永 一臣君 理事 岡田 春夫君    理事 堂森 芳夫君       石原慎太郎君    加藤 紘一君       小林 正巳君    深谷 隆司君       河上 民雄君    三宅 正一君       柴田 睦夫君    沖本 泰幸君       渡部 一郎君  出席国務大臣         外 務 大 臣 大平 正芳君  出席政府委員         内閣官房長官 山下 元利君         警察庁警備局長 山本 鎮彦君         外務政務次官  水野  清君         外務省アジア局         長       高島 益郎君         外務省アメリカ         局長      大河原良雄君         外務省経済協力         局長      御巫 清尚君         外務省条約局長 松永 信雄君  委員外出席者         外務委員会調査         室長      亀倉 四郎君     ――――――――――――― 委員の異動 九月七日  辞任         補欠選任   大久保直彦君     沖本 泰幸君     ――――――――――――― 九月三日  世界連邦建設の決議に関する請願(宇野宗佑君  紹介)(第一〇〇一六号)  同(山田久就君紹介)(第一〇〇一七号)  同(坊秀男紹介)(第一〇〇八四号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 九月五日  日朝国交正常化促進に関する陳情書外一件  (第六五六号)  ソ連極東貿易事務所北海道支所設置に関する  陳情書(第六五七  号)  南北朝鮮の統一支持に関する陳情書  (第六五八号)  第三次国連海洋法会議に関する陳情書  (第六五九号) は本委員会参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  国際情勢に関する件      ――――◇―――――
  2. 藤井勝志

    藤井委員長 これより会議を開きます。  国際情勢に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。石井一君。
  3. 石井一

    石井委員 外務大臣金大中事件で非常に一つ局面に来ております日韓関係にたいへん苦慮されておるお姿、また国会答弁では非常に慎重でございますけれども、現実にはかなりき然たる態度外交交渉に臨んでおられるお姿に接しまして、私、その御苦労に対しまして謝意を表したい、こういうふうに考えるものでありますが、御承知のように、一昨日、昨日、金書記官事件関連をしておるということ、さらに任意出頭韓国側が拒否したということ、これは国家主権にもかかわる重要な局面に来ておると考えるわけでございますけれども、この新しい局面に対して大臣はどういう新しい決意で臨まれようとしておるのか、まずこの点基本的な考え方をひとつお述べいただきたいと思うのでございます。
  4. 大平正芳

    大平国務大臣 本件日韓両国にとりましてまことに不幸な事件でありまして、しかし事件が起こりました以上は、これに公正な解決をもたらさなければならぬと思います。そのためには、まず事件真相究明するということが第一の任務であろうと思うのであります。今日までそういう方向で努力をしてまいったわけでございまして、今後も努力を続けてまいって、解明された事実を踏まえて両国民納得がいく、国際的にも納得がいく公正な解決というものをはかっていかなければならぬと考えております。政府の基本的な考え方はそういうことでございます。  その事件究明過程におきまして、いま御指摘の人物本件関係しておる嫌疑が濃厚であるというゆえをもちまして、捜査当局から任意出頭を求めていただきたいという要請を受けたわけでございまして、そのように先方にお伝えいたしたのでございますけれども、先方はこれに応諾しがたいという反応でございます。たいへん仰せのようにむずかしい局面を迎えておると思うのでございますが、しかし所定の方針どおり真相解明を行なってまいるという努力を今後とも精力的に続けていきたいと考えております。
  5. 石井一

    石井委員 政府の基本的な態度を、今後もさらに努力を続けられるという点でございますが、昨日あたりの官房長官の談話にあったように思うのでございますが、しかしそれかといっていつまでも並行線をたどるわけにいかないし、やはり真相究明というのにあまり長いこと時間がかかっても困るというのが政府考え方であるというふうに受けとめていいのか。あるいはやはり真相究明というものにはかなりの時間がかかるんだ、しかしかなりの時間がかかってもいたし方ないんだ、こういう消極的な考え方なのか。この辺は政府統一見解といいますか、考え方が多少ズレがあるというふうに考えるわけでございますが、外務大臣はこの点どのようにお考えになっておりますか。
  6. 大平正芳

    大平国務大臣 申すまでもなく早期究明早期解決ということが望ましいわけでございます。けれども、事柄を急ぐために、解決を急ぐあまりに解明をおろそかにするということは、両国民納得するところではないと私は思うのでございます。したがって、鋭意努力はいたしますけれども、真相究明をおろそかにするというようなことはいけないことと私は考えております。
  7. 石井一

    石井委員 それじゃ、そこで警察庁政府委員のほうから捜査進捗状況について数点お伺いをさせていただきます。  まず最初に、この金東雲氏の指紋一致を確認されたのはいつの時点であったか、またそれを直ちに外務省に通報されたのかどうか、依頼をされたのかどうか、この時間関係をまずひとつ教えていただきたいと思います。
  8. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  指紋の判明した時点はきわめて近い時期でございまして、直ちに外務省のほうに連絡いたしました。
  9. 石井一

    石井委員 指紋が検出されたということで、これは真犯人と申しますか、事件関連があったというふうにそれのみできめ得るのか、それ以外の傍証があったのかどうかという点が一点。さらに、その指紋というものはこういう犯罪の場合にはもう絶対的な一つのきめ手というふうに技術上警察立場としては考えられるのかどうか、この点と、この二点をひとつお答えいただきたいと思います。
  10. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  指紋以外にその他の状況的な事実はあるかというお話でございますが、これは一連の過程において、捜査過程、積み重ねにおいて金東雲書記官名前が次第にはっきりと浮かび上がってきたということ、それから証人が出てまいりまして、エレベーターの中で金大中氏が連れ去られていくという状況を見て、その犯人とおぼしき者の中におった人物金東雲一等書記官に間違いない。これはまあ写真ではっきり示したわけでございまして、さらにその金大中氏と判断される人が、殺される、助けてくれというように大声をもってエレベーターの中で叫んだ。これがソウルのほうからこちらへ送られてまいりました金大中氏の陳述要旨の中にも、エレベーターの中で日本の若い男女に会ってそういうように助けを求めたということとは、まあ男女関係がはっきりいたしませんといいますか、違っておりますけれども、そういう状況としてはほぼ同じであるというふうに認定される状況もある。  まあそういう傍証的な、状況的な事実も出ておりますし、あわせて指紋のことでございますが、やはり指紋というものは犯罪捜査上非常に重要な事実になるわけであって、これが一致しているということになりますと、犯罪関係があるというふうに断定して差しつかえないというふうにわれわれは考えております。
  11. 石井一

    石井委員 警察当局被害者なり事件関係者というものに直接尋問をできない立場の中でここまでの捜査をやられたということは、私はやはり警察当局の面目を施されたという、非常に努力をされたという点を非常に高く評価しておるわけでございます。  そうすると、金書記官の次に、そのエレベーターの中には数名いたわけですし、その部屋の中にも数名いたわけですが、同じような方法で捜査線上に上がっておる人物、そうしてもう少し時間をかければ、これと同じような形で世間に公表できるというそういう形での捜査かなり今日進んでおる、こういうふうに理解していいんでございますか。
  12. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  エレベーターの中にはまあ三人の犯人がいたということになりますし、当日ホテル部屋から金大中氏が出たときに、金大中氏の陳述要旨によれば、三人ずつ分かれて六人の者が襲いかかってきた、こういうことになっておりますので、金東雲氏を除いたほかの数名に対しての捜査は鋭意続行中でございますが、現在の捜査段階においてその氏名を明らかにするとか、どういう人物であったかということをまだ報告する段階には至っておりません。
  13. 石井一

    石井委員 車の割り出しというのに非常に時間がかかっておる、たった三十台ぐらいでありますが、この辺からいわゆる逃亡のルートその他でもう少し具体的なものが出ないのか、この辺はいかがですか。
  14. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  三十台ぐらいの車がなぜ早くわからないかという御質問でございますが、実はホテルの車庫の記録は、下四けたの数字しか書いてないわけでございまして、前段のプレートにある「練馬55は」とか、こういうような記号は全然記録してないわけでございます。したがって、下四けたの該当番号は、場合によっては二百数十台ある。少なくとも百数十台ぐらいある。したがって、三十台かける大体二百台ぐらいを、すなわち六千台ぐらいをさがさなければ全貌がわからない。そして一台のものに到達いたしましても、運転手がそこに行ってないと言った場合、ただそれを信ずるわけにいきませんので、それをつぶすという形のかなり時間のかかる捜査が一台一台について、これまで数千台について行なわれているという状況で、時間がかなり経過しているわけでございますが、現在三十台のうち十七台までは事件関係がないというふうに判明いたしております。十三台の中についても、かなり部分関係ないということがわかっておりますので、これは時間をかければ、遠からずこの全体は判明すると思いますが、したがって車種、色、そういうものはまだいまのところはっきりいたしておらないのは非常に残念だと思っております。
  15. 石井一

    石井委員 他の三名の犯人指紋というものは検出されておるわけですか。
  16. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  これは捜査上非常に重要な問題なので、いまの段階ではまだお答えするに至っておらないわけでございます。
  17. 石井一

    石井委員 それでは金書記官事件発生後比較的早いうちにその指紋が検出されておるというのに、日本を離れるのを黙って見ておったのではないか、こういう点が指摘されるのじゃないかと思うのですが、この点に対するあなたのほうの御見解はいかがですか。
  18. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  私の最初答弁が不十分でございまして、誤解されたようでまことに遺憾でございますが、近いというのは、本事件が発表される、要するに外務省に対して任意出頭方本人に伝えるようにと言った九月五日でございますか、これにきわめて近い時期にわかったということでございまして、犯行に近い時期ということではございません。したがってそれまで、すなわち大体八月じゅうはそういう指紋一致という点までまだ行っていなかったということでございます。
  19. 石井一

    石井委員 金書記官のことが、出国した後であったにいたしましても、かなり前にわかっておったのに、外務省に通報したのがそういう九月四日だとか五日だとかいう、それはやはりある程度の政治的配慮というものがあって、その間に少し時間のギャップというものがあったんだ、こういうふうなことが指摘されたり、あるいは第二点は、金書記官がもう日本にいないということがわかっておるから、それを知っておってこういう任意出頭を求めたんだ、こういうふうな非難がありますが、この辺に対する抗弁はいかがですか。
  20. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  指紋を検出して一致したというその日にもうすぐに外務省のほうに連絡をいたしておりまして、その間、時間的にちゅうちょしたとか間隔があったということは全然ございません。また、金書記官がすでに出国していたことをわかりながら任意出頭をかけたんじゃないか、こういう御質問がございましたけれども、そういう事実については、出国しているかしていないか、この点捜査過程でははっきりしておらなかったという状況でございましたが、外務省に照会いたしますと、外交官の名簿には現在においても本人が記載されているということでございましたので、そのように依頼をお願いしたわけでございます。
  21. 石井一

    石井委員 金東雲氏に対する任意出頭が拒否された、非常に遺憾なことですが、数日前に家族も帰ってしまっておる、こういう現状のようですが、そうすると、これは警察当局どう見られますか。家族も帰ってしまっておるんだから、金東雲氏は永久に帰ってこない、こういう意図というふうにお考えになりますか。この点はいかがですか。
  22. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  家族の方もきのう引き揚げており、韓国政府の話によると、金書記官ソウルにおるというようなお話でございますので、現在においてはわれわれとしては直接調べる手がかりがないわけでございますが、永久に帰ってこないかということになりますと、これはどうなりますか、本人の意思もあり、将来の問題でありますので、ちょっとはっきりお答えできないわけでございます。
  23. 石井一

    石井委員 日本警察韓国警察の間に何かなれ合い的な面がないだろうか、その間に何らかの連絡その他というふうなものがあるのか、それとも全く日本警察というものはそういう非難が当たるのではなく、孤独の状態の中で独自の捜査をやっておるのか、この点はいかがですか。
  24. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  本件について申し上げますと、これまで再三にわたって外交ルートを通じまして韓国政府すなわち具体的には韓国警察当局に対して、この事件関係ある、参考になる捜査情報提報を求めてきたわけでございますが、なかなか具体的にわれわれの参考になるような資料は送られてきておらなかったわけですが、ある時期に至ってさっきお話し申し上げましたような関係三氏の陳述要旨が送られてまいり、それから船の関係でやや詳しいデータが参りました。その中には若干参考になるものがございますが、全体として見た場合、非常に捜査にプラスになるようなものは残念ながらなかったという状況でございます。しかしわれわれとしては、実際それだけの韓国警察との接触だけでございまして、あるいは警察独自で、警察同士で何か連絡したとかあるいは向こうのほうから連絡があったとかそういうような事実はございませんで、本件はやはり重大な問題でありますので、どこまでも国際的に外交ルートを通じてきちっとした形で、捜査当局同士いわば犯罪の真実の追及に協力したいという姿勢であったわけでございますが、残念ながら向こうからの返事、内容提報はきわめて貧弱なものであったというのがすべての事実でございます。
  25. 石井一

    石井委員 神戸の新聞によりますと、神戸領事館員の安氏を近く出頭を求めて事情を聴取する、  こういうふうなことがいわれておるわけでございますが、外交特権のない安氏、これを出頭を求める見通しなのか、この点はいかがですか。
  26. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  安氏の件については、金大中さんの陳述要旨の中に、安の家へ行けというような話がされておった、そしてその家へ行ったというようなのがございますので、そういう意味関西地方の安という家を捜査する必要があるわけです。解明する必要があるわけです。そういう意味で安というのはということでいろいろ調べていきますと、その幾つかの中の一人にいまの安さんという名前が浮かんできただけであって、まだ現在の段階では安さんを呼んで具体的にその間の事情を聞くというだけの材料をまだこちらには整えておりません。
  27. 石井一

    石井委員 内容の問題について最後でございますが、こういう韓国の準政府機関員が総指揮をとっておるというふうなことがいわれておるわけでございまして、これはまことに重大な点だと思うのでございますが、その本人はもう日本にいないということのようでございますけれども、どういう性格の機関であり、韓国政府のどういう系統に属するものなのか、本人でなくその機関について判明しておる事実があればひとつお知らせいただきたいと思います。
  28. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  御質問の準政府機関云々については、現在われわれが捜査している段階ではそういうものは捜査線上に出てきておりません。
  29. 石井一

    石井委員 そこで、真相究明がもう少し進まなければいけないという問題になるのだと思いますが、いわゆるわが国に対する主権侵犯、侵害という問題が、これは非常に重要な問題なのでありますけれども、この点に対して警察庁はどういう見解を持っておられますか。現在までの捜査を総合し、韓国の正式な外交官事件関係をしておった、しかも警察当局判断としてはこの人がまぎれもなくその行為に参画しておったということは間違いないという確証も持っておられる。ここで主権侵犯ということに対してどういう御見解を持っておられるか、いかがですか。
  30. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  金一等書記官がこの事件関係していた、関与していたと疑うに足りるかなりの証拠を集めて、その結果出頭要求を求めたわけでございますが、まだその本人から詳しい事情を聞けないという段階においてまた事件全貌が判明しないという段階においては、明確にこれだけの事実をもって法律的といいますか、国際法上の主権侵犯されたといえるかどうか、この点はわれわれまだはっきりした見解を持っておらないわけでございまして、事件がもう少しはっきりした形で解明されないと、その点について明快な見解を述べる段階にならない、このように考えております。
  31. 石井一

    石井委員 そうしますと、被害者なり加害者なり何らかの関係者と直接面接をした後に、そこを確認しない限り主権侵犯という断定はできない、こういうことになるのですか。
  32. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  まあほんとうから言いますと、金東雲書記官、どういう意図でどういう指示を受けてどういう目的でこういうことをしたか、事件全貌がわからないと、ちょっといまのお話、御質問にはお答えできない点もあるし、またそういう問題については主管といいますか外交的な判断といいますか、主管官庁の御意見も十分参照していかなければいけない。そういう方面にわれわれの捜査の経緯をしさいに御報告して検討いただかなければならない問題だ、このように考えております。
  33. 石井一

    石井委員 まあ現時点ではそういうお答えしかいたしかたがないのかもわかりませんが、ただ常識的に事件の推移を見ておりますと、なかなか韓国側日本側と両方の合意というものが達せられないし、こちらの要望というものが向こうへ通らない。こういうような形でどんどん進んでいきますと、日本側は黒だと断定をした。しかし韓国側が無関係だということをいまのようなままで主張すると並行線をたどっていく。その結果は、被疑者とかそこらに話し合いをすることができないという条件下ではわが国わが国捜査状況というものを基礎にして、韓国主権侵犯の事実というものがあったかどうかということをわが国のほうが決定せざるを得ないという羽目になってくるんじゃないか、私はそう思うのですが、この点いかがですか、あなたの御見解は。
  34. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 われわれのほうでそういう捜査が完全といいますか、非常に進捗すればそういう問題について外務省のほうに具体的に内容連絡するということで判断をしていただかなければならないというふうに考えております。どこまでもそれはわれわれの主体的な立場できめられる問題だとは思いますが、もう少しさっき申し上げましたような捜査過程が、結果が明確にならないとはっきりしないんじゃないか、こういうふうに考えております。
  35. 石井一

    石井委員 外務大臣、きのう参議院の委員会でも御答弁になっておるようでございますが、わが国主権というものが侵犯されたというふうに大臣はお考えになりますか、この点はいかがでございますか。われわれの先ほどからの議論ということをも踏まえられまして、この点について現時点における大臣の御見解を一応ただしておきたいと思います。
  36. 大平正芳

    大平国務大臣 金書記官は申すまでもなく外交官リストに載った方であります。で、その方に対して、本件に関与しておる嫌疑が濃厚であるというゆえんをもって任意出頭を求めて、しかもそれが拒否されておるというのがいまの時点なんでございます。  石井さんのお尋ねは、主権にかかわる問題についてのお尋ねでございますけれども、主権侵犯という問題は、わが国の法域の中におきましてわが国の同意なく他国の公権力が行使されたということを主権侵犯ということと私は理解いたしておるのでございますが、一体この金という方を通じて韓国公権力が働いたのか働かないのかという点が、先ほど警備局長からも御答弁がありましたようにまだわからないわけでございますので、これを主権侵犯だなんていう断定は私はできないと思います。
  37. 石井一

    石井委員 現段階ではそういうお答えでありましょうが、やはり公の外交官が関与しておるという事実、まあそのほかいろいろの観点から考えましても、これは非常に可能性が強くなってきておるということは、私は指摘できると思うのでございますが、その点はもう少し真相究明ということを待たざるを得ないということにいたしまして、基本的に対韓政策は変えない、こういうことをたびたび外務大臣おっしゃっております。私もたとえば国交断絶だとか経済援助の打ち切りだとかというところまで言う議論は、非常にそれは行き過ぎではないかという個人的な見解は持っておりますが、少なくとも基本的政策は変えないにしても、変更もあり得る重大な事件である、こういう御認識はしておられますか。
  38. 大平正芳

    大平国務大臣 まあ事件の全体の究明から申しますと、究明が始まりまして一人の人物捜査線上に出ておるという段階でございます。いわば捜査過程にあるわけです。今日その局面はたいへんむずかしい局面に立っておると私は思いますけれども、捜査過程であることに間違いはないわけでございますので、こういう段階で対韓政策変更というようなことを考えることは軽率であろうと考えております。  しからば、この事件はそういうことを結果するようなことになるのではないかという石井さんの憂慮でございますが、そういうことにならないように何とか公正な解決をもたらしたいものといま念願をいたしております。
  39. 石井一

    石井委員 その念願どおりなりますと非常にけっこうなんですが、なかなか事態は深刻な状態に入っておる、私はそういわざるを得ないと思うのでございますが、私の主張はやはり韓国側がこの期に及んで良識ある態度でこのことの処理に当たってもらいたい、こういうことでございまして、それをしないと日韓関係というのはもっと悪くなってくる。友好関係事件と混同するということは非常に問題がある。やはりそこには筋を通すという姿勢が要るのだ。そうでなければ、相互信頼なり主権尊重という立場両国がこれまで以上の親密な関係ができない。こういう問題との混同を避けるべきで、私は世論に背を向けずに筋を通していただきたい、こういう感じがしてなりません。私はこれを強い要望事項として申し上げまして、私のきょうの質問を終わりたいと思います。
  40. 藤井勝志

  41. 岡田春夫

    岡田(春)委員 若干御質問いたしますが、ただいまも石井委員の御質問の中にもありましたように、金溶植外務大臣の昨日の声明によると、金東雲一等書記官事件関係がない、そういう理由のもとに出頭を拒否した。日本捜査当局の発表とこの見解はまっ向から対立をするという結果になってしまったわけです。こういうような場合においては、場合によっては重大な国際問題が発生する可能性がある。それだけに日本捜査当局が発表するに至られたその経過というものが非常に重要なことであって、やはり公式の機会にはっきりした見解をまず第一に述べられることが必要であると私は考えます。先ほども断片的に石井委員に対して御答弁がございましたが、この機会に捜査当局から、金書記官に対するこのような見解を明らかにした経過をもう少しはっきり——先ほどお話しのようなエレベーターにおける二人の証言あるいは指紋その他の問題についても、公式な見解としてこの場合においてまず第一に御発表を願いたいと思います。
  42. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  本件発生以来あらゆる角度から、非常に困難な条件のもとに着実な捜査を積み重ねてまいりました。その過程において金東雲一等書記官という者がクローズアップされてきて、だんだんはっきりした形で出てまいってきたわけでございますが、そうしているうちに、エレベーターの中で、金大中氏が連れ去られるその同行者の中に金東雲一等書記官がおるという形の証言を得たわけでございます。  その証言の信憑性でございますが、これについては二人の男子の方がおるわけでございまして、この身分その他については御本人のたっての希望であって、それを明らかにすることができないのは残念でございますが、十分信憑力を持った方でありまして、その方が克明に前後の事情について証言をなさっておるわけです。  それで具体的に一つ申し上げますれば、三階のエレベーターから一階におりる際に、たまたま入っていったところ、エレベーターの奥のほうに金大中氏をはさんで四人の者がおった。そしておりていく途中で、「殺される、助けてくれ」と、一番奥にいた金大中氏が叫んだ。そのまわりにいた二人の者が金大中氏の口をふさいだというような状況でございまして、その前にいた男が、結局その証人にこちらのたくさんの写真を示した中から、迷うことなく、ほんとうに純真に、純粋に、この男であるといって差し示した写真が金東雲一等書記官の写真でございまして、長年の捜査に当たる者のこれまでの経験、捜査の技術、そういうものからいって、この証言の信憑性には確信を持っているということでございます。  さらに捜査を進めているうちに、捜査過程でわれわれの入手した金東雲氏の指紋、これはなかなか入手できなかったわけでございますが、いろいろな方法を通じて確実な筋から入手した金東雲氏の指紋を、犯行の行なわれた二二一〇号室に残されておった遺留指紋との対象、これをしさいに徹底的にやりまして、指紋の最高の権威の者が、これは絶対に間違いない、こういう形で立証をいたしております。  そういうことでわれわれは、この金東雲氏がこの犯行の現場におったし、そして犯行に参画した、こういうことについて確信を持つに至ったので、この点外務省のほうに連絡して、本人任意出頭を求めた、こういう経緯でございます。
  43. 岡田春夫

    岡田(春)委員 若干それに関連して伺ってまいりますが、先ほど二人の日本人の証言、こういう話があって、お名前は明らかにされない、これはやむを得ないと思いますが、この二人は、たまたま別々の人が偶然にエレベーターに乗られたのか、それとも友人同士で一緒に乗られたのか、こういう関係等についても、これは証言の場合においてやはり相当重要な意味があろうと思いますが、こういう点も明らかにしていただきたい。
  44. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  その二人の方は、いわば知人といいますか、お互いに知っておった仲でありまして、そのホテルの、あるところで待ち合わせておって、そして一緒になって食事のために下におりたということでございます。
  45. 岡田春夫

    岡田(春)委員 この二人の人の関係ははっきりした根拠に立っておる。それからもう一つは、指紋の問題についても確証を持っている、こういうお話であるわけですから、韓国側見解と正面切っていま対立をしている。こういうことになってまいりました場合に、今後の捜査の問題についてはいろいろ問題があろうと思います。そういう点についてはこれからいろいろ伺うとして、金東雲という一等書記官、この人の身柄の問題について、KCIAとの関係はどのようになっているのか、これについて捜査当局はどういう調査をされておりますか。
  46. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  その関係についても鋭意現在捜査中でございますが、現在の段階では申し上げる段階に至っておらないわけでございます。
  47. 岡田春夫

    岡田(春)委員 KCIAの関係の人が相当日本国内にいる。こういう話はずいぶん流れているわけですが、捜査当局として独自な立場からKCIAについての調査は進めておられるのですか、そこら辺の経過はどうなっていますか。
  48. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 KCIAの実態というものはほんとうのこといってわかりません。それでいろいろとこういう問題について一般的な話がありますが、われわれとしてはそういう話とか予断とかに基づいてでなくて、どこまでも実態を究明するという形で現在調査中でございます。
  49. 岡田春夫

    岡田(春)委員 調査中ということになりますと、これまた伺うことができないわけですが、しかし相当数の人がKCIAに関係しているというように判断される場合がある。たとえば神戸の領事館の某領事の場合などは、西独の例の誘拐事件の場合にそれに関与をした一人である。こういう点から見るとKCIAとはっきり関係がある、こういうように見ざるを得ないと思うのです。こういう点などについては当然お調べになっておられるだろうと思いますが、これらの点はいかがですか。
  50. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  いまのような御指摘の点も含めて、十分調査を続けていきたいというふうに考えております。
  51. 岡田春夫

    岡田(春)委員 この委員会でも河上委員が二回にわたってKCIAの実態を明らかにしろ、また参議院においても同様の質問があるわけです。これに対して政府側は答弁をしておりますが、しかしその答弁を聞いているとまさにナンセンスなんです。韓国の大使館に問い合わしたら、この程度しかわかりません。韓国の大使館にこれを聞いてわかるわけはないじゃありませんか。こういう問題は外務当局にたよってそういう調査をするよりも、捜査当局が独自な調査をする以外にないと思う。西ドイツの場合においても、そういう事例によってあの点が明らかになってきている。捜査当局としてはKCIAの問題についてもっと明確な捜査を今後ともお続けになって明らかにされるお考えがあるのかどうか、こういう点重ねて念を押しておきたいと思います。
  52. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 先ほどお答え申し上げましたとおり、そういう問題についてこれからも徹底して調査を進めていきたいとかように考えております。
  53. 岡田春夫

    岡田(春)委員 そこでもう少し話を進めてまいりますが、多数の捜査対象の中から金一等書記官が有力容疑者として浮かんだ、これが今日の経過です。しかしこれは出頭に応じておらない。しかし先ほど質問等を聞いておりますと、それ以降においても金一等書記官以外の捜査も進めている。そこで同書記官と同じような有力容疑者が数名、しかもその人の中には書記官と大体同じような地位、あるいはまたそれに準ずるような地位、こういうような有力容疑者がホシとして現在捜査当局の主力がそこに注がれているというように、関係方面ではすでにこれは定説にまでなっている。  私はこの機会にやはり山本局長にはっきりお答えをいただいたほうがいいと思うのだが、金書記官の場合には白であるというような、こういう向こうからの回答があった。そういう場合に、国際的な責任からいってもやはり捜査の経過を差しつかえない限りもう少しお話をいただくことがいま必要ではないか。捜査上これはどうしても困るという点はあったにしても、それ以外の点ではもう少しはっきりお話を願いたい。有力な容疑者として数名の点にしぼっているのかどうなのか、こういう点を含めて、ひとつ率直に御答弁をいただきたいと思う。
  54. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  残念ながら、捜査中でございまして、具体的に答弁できる段階ではございません。
  55. 岡田春夫

    岡田(春)委員 しかし、私のいまの質問は、具体的な氏名をあげろとか具体的にどうしろとか、そういうことを私は要求しているんじゃない。捜査の中で重要な点はいまこういうところまで来ています、大体何人ぐらいにしぼられますというぐらいのことの御答弁はあっても、これは捜査上問題があるとは思われない。私はあえて氏名を出してくれとは言っておらない。こういう点をもう少し率直にお答えをいただくことが、捜査の国際的な責任からいっても私は必要だと思う。そういう点をひとつもう一度お伺いいたしますが、お答えをいただきたいと思います。
  56. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  現場における被疑者と思われる者は、金大中氏を拉致したと思われる者は六名であるということに一応なっております。そのうち一名の者が金東雲だというふうにわれわれ考えております。あと五名の者は少なくともおったということで、これの捜査は現場という関係でいろいろな目撃者とかあるいはホテル関係者、あるいは車庫のそういう管理者、そういう者を通じて何とかこの五名の者の特定をしようという努力をいたしておるわけでございますが、まだ氏名を発表したりあるいは地位を発表したり、そういう段階まで捜査が進んでおらないわけでございます。  それからあと、安の家とかそれから大阪のほうの関係とかあるいは船の関係、それは犯人として関係した者はかなりの人数になると思いますが、現在の段階ではそれがはっきり何人であり、どの程度輪郭がしぼられてきているかということは、やはり捜査の具体的なヒントを与えることにもなりますので、いましばらく御猶予いただきたい、このように考えております。
  57. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それでは、金大中氏を拉致して運んだ、こういうルートの問題等についても現在調査をされておられますか、どうですか。
  58. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  それは基本的な捜査として最初から一生懸命やっているところでございますが、残念ながら、先ほど石井委員の御質問お答えしましたようなことで、まだ車の特定には至っておりませんが、かなりしぼられてきているということは言えると思います。  それからルートとしては、やはり金大中氏の陳述要旨にありますように——それしかないわけでございますが、東名高速を下ったということしか材料はございません。それから最初金大中さんがソウルで語ったという中に、大阪とかそういう地名が出ております。徳山とか徳島とか、それで海岸から何かモーターボートに乗っていった、それで船に乗り移っていったというようなことを唯一の手がかりにして、その他、目撃者とか、そういう情報を提供してくるのもございますので、そういうものを取りまぜて、何とかこの経路を究明したい、車、モーターボート、船、こういうものを特定したい、こういう努力を続けておる段階でございます。
  59. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それに関連してもうちょっと伺いますが、五時間乗せられたということを基礎にして捜査をしておられることが、いわゆるルート解明の点の主力になっておりますか。あるいは五時間ではないということを基礎にしてやっておられるのか。こういう点が一つ。  それから、それに使われました車の問題。そういう車についてもどういうような捜査をされておりますか。こういう点を伺いたいと思います。
  60. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  時間としては金大中さんの陳述要旨には、五、六時間高速道路を走った、こういうことでございますので、一応それは捜査の基準として考えております。ただしかし、これが絶対とは考えておりません。何となれば、時計を見ていったわけでもないようでございますし、それから目隠しをして外も見えなかった、こういう状況でございますから、それだけによって捜査しているというのは行き過ぎじゃないか。いろいろな状況考えながらやっておるということでございます。  車のほうもまた、ちょっとどういう車種であるとか——まあ大きな車だというようなことを言っておりますので、これは唯一の手がかりでございますが、それじゃそれが具体的にどういう車だとかいうふうには、まだ判定する材料を入手しておりません。
  61. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それではその点もう一度伺ってまいりますが、五、六時間で先ほど金大中氏の言った大津、京都、徳島、こういう名前が出ているとするならば、当然考えられるのは関西地方であるというような、そういう考え方が主になっておりますか、どうですか。
  62. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  一応そういうような推定になるわけでございますが、ただ、ほかの港へ、それはたとえば名古屋とかあるいはほかへ行かなかったというあれもないわけでございますので、あるいは飛行機からというようなこともあわせて考えて、全国的な港、飛行場、こういうものは最初から手配をいたしておりましたし、現在もそういう線でそういう情報があれば、そういう形の捜査も捨てていないというふうに申し上げて差しつかえないと思います。
  63. 岡田春夫

    岡田(春)委員 たとえば米軍の基地を使ったというような場合には、これは捜査できますか。
  64. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  もし米軍の基地を使ったというきわめて具体的、信憑性のある情報なり何なり入れば、その点について米軍に照会すれば、米軍としてはその間の資料なり事実関係なりは協力してくれるものと考えておりますが、現在そのような具体的な資料を要求するような捜査段階ではないというふうに思っております。
  65. 岡田春夫

    岡田(春)委員 拉致の際に使われた車は大型の車である。これが指紋照合に関連してくるのじゃないかと思うのだが、指紋の照合の場合に、金東雲氏の車というものが相当その場合に関連をしているように私は聞いている。ガレージの関係その他の問題、あるいはガレージの領収証の関係、そういう関係からいうと、相当車の車種というのははっきりしてきているように考えられるが、この点はいかがですか。
  66. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  車の関係はいまおっしゃるとおりでございまして、そういう中から指紋というような具体的な確たる証拠のとれる可能性を持った対象でございますので、車の関係は、先ほど申し上げましたように、鋭意捜査中でございますし、また、金書記官の使っていた車についてもいろいろと捜査をしておりますが、その点はこの段階でまだはっきりした形でお答えできる状況ではございません。
  67. 岡田春夫

    岡田(春)委員 金東雲氏の車ですね、この車は事件の当日どこにあったのですか。
  68. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 その経緯は私こまかくまだ承知いたしておりませんが、捜査当局のほうでは十分その関係は調べているというふうに聞いております。
  69. 岡田春夫

    岡田(春)委員 この車が非常に問題だろうと思うのですが、車のナンバーその他は現在おわかりになっていますか。
  70. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 それは捜査本部では承知いたしておるはずでございます。
  71. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それはあとでお知らせをいただきたいと思います。
  72. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 承知いたしました。
  73. 岡田春夫

    岡田(春)委員 局長にばかり伺っておりましても、時間の関係もありますから、少し外務大臣にあとは伺ってまいりたいと思います。またその関係の中で局長にも伺いたいと思います。  外交特権の問題が盛んに言われておりますが、金書記官の場合は、今度の事件外交特権の問題ではない。なぜなら本人はすでに駐剳国である日本から離れておるという問題。日本にいるならば外交特権の問題があるけれども、きのうの金外務大臣答弁というのは、外交特権に基づいて答弁したんではない、声明したんではない。しかし、昨日私は参議院の外務委員会答弁を聞いておったのですが、条約局長答弁を聞くと、刑事問題で外交特権の放棄は国際的にほとんど希有といっていい、こういう答弁をはっきりしておられる。この期において、外交特権関連のあるようないわゆる外交使節ですね、外交使節が有力容疑者となったような場合にもおそらく今度の金東雲氏の場合を考えた場合において、外交特権を行使して出頭を拒否するだろうと思う。これは常識としてわかっているじゃないか。そうすれば、私は今日の捜査というのは重大な壁にぶつかったといわざるを得ないのだと思う。今後において外交使節の関係の問題が出た場合においても、こういう点についてはもう壁で、出てこない、出頭は拒否される。金東雲氏の場合にも出頭を拒否している。こういう場合に、真相究明ということをおっしゃるが、大平さん、このあとどうやって真相究明をするのですか。有力な容疑者は全部壁で押えられる。それ以外にどうやって真相究明をするのですか。まず第一点は、外務大臣にこの点を伺いたい。
  74. 大平正芳

    大平国務大臣 本件は仰せのように日韓両国にまたがる事件でございまして、捜査上、御指摘のように制約があることはいなめないことと思っております。しかし、本件の公正な解決を期する上におきましては、何といたしましても事件究明はしてまいらなければならぬわけでございまして、多くの制約がございますけれども、これに対しまして鋭意先方の御協力を得て究明につとめなければならぬと考えておるわけでございます。何とならば、本件の公正な解決、そして日韓友好関係の維持ということはわが国の念願であるばかりでなく、韓国においても共通の願望であろうと拝察するわけでございまして、何としても御協力を願いながら真相究明に当たるという以外に分別はないわけでございます。
  75. 岡田春夫

    岡田(春)委員 あなたはたいへんその点こだわっておられますが、韓国側の資料の提出のその内容金東雲問題の出頭拒否、こういう点を考えた場合において、日韓協力に基づく真相究明というのはもはや今日の段階では水泡に帰したと見て間違いない。あなたはこれ以外にまだ方法があるというお話をなさるけれども、どうやるのですか。しかも、本人が手の届かない向こうにおって、そして被害者加害者もそのように手の届かないところにおって、そして真相究明するなどと言っても、これはもうから念仏としか言いようがないじゃありませんか。私たちは、やはりここで金大中問題というのは原点に戻らなければだめだと思うのです。原点に戻るというのはどういうことか。この間河上委員から質問があったときにも、あなたははっきり答えているじゃないか。今度の事件の第一次責任は日本側にある。第一次責任を明らかにするには、まず本人の身柄が日本に、原状に回復されることが先決じゃないか。真相究明究明などと言っておったら捜査は全部壁にぶつかって、事件は迷宮入りすることはほとんど明確になってきている。こういうときに原点に戻って、原状の回復の問題、すなわち八月の八日以前の段階金大中氏を置くということから出発しなければ、問題の考え方をそこに立てなければ私は問題の解決はできないと思う。外務大臣、こういう点について、真相究明究明と言っていたずらに時間を延ばしているというようなことはわれわれ国民としては許されない。この点をはっきりもう一度お答えをいただきたいと思う。
  76. 大平正芳

    大平国務大臣 先ほど石井委員にもお答え申し上げましたとおり、事件解明して、その解明の上に立って公正な解決をはからなければならぬ、これが筋道だろうと思うのであります。解明につきまして、これが早い解明が望ましいことは当然でございまするが、これを急ぐあまり事件解明を怠るということであってはならないと考えております。しかし、解明の途上におきまして御指摘のようにいろいろの制約が出てきたということも私は否定しないのでありまするけれども、これを克服しながら解明を続けてまいらなければならぬのじゃないかと考えておるわけでございます。ここで解明というものに一応終止符を打ちまして、岡田さんの言う本格的な解決に手を染めるという考えは私は持っておりません。
  77. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それは永久にお持ちにならないということですか。
  78. 大平正芳

    大平国務大臣 いま解明が、先ほど申しましたように過程にあるわけでございまして、私はもっともっとわれわれが努力する必要があると考えております。
  79. 岡田春夫

    岡田(春)委員 あなたは解明とおっしゃるが、日韓の協力でそれが解明できると思いますか。今日このような形で、幾つかの日本側から提示した問題についてはすげなく断わられているじゃないか。これで、真相究明を日韓との話し合いで解明できると思いますか。このままの事態で、話し合いで解明できる確信がおありならば、ここで確信があるとお話しいただきたい。できないならばできないで、一刻も早く問題を解決しなければならないじゃありませんか。きょうの新聞を見ると、金大中氏の弟まで連行されるというようなゆゆしい事態が刻一刻迫っているじゃありませんか。真相究明究明と言って時間をじんぜんと延ばしておって解明ができると思いますか。確信があるのですか。この点はっきりしてもらいたい。
  80. 大平正芳

    大平国務大臣 解明の途上におきまして非常にむずかしい局面に立っておることはいなめないということは先ほど答弁申し上げたとおりでございます。そこで、私の申し上げておるのは、困難でございまするし、いろいろ制約がありまするけれども、なおいま努力するのがわれわれの任務じゃないかと考えておるわけでございまして、そういうことを御答弁申し上げているわけでございまして、解明についておまえは確信を持っておるかということでございますが、私は神さまじゃございませんから、確信というようなオーバーなことを申し上げる自信はないわけでございますけれども、私が申し上げられることは、鋭意解明につとめるというのがいま当面われわれがなすべきことじゃないか。それにはいろいろ制約があるが、先方の協力——いままで決して満足すべきものでないことはあなたの御指摘のとおりでございますけれども、なおこの上にもこの上に努力を続けていくというのが、いま私どもの姿勢でございます。
  81. 岡田春夫

    岡田(春)委員 それじゃ、私納得できません。  その解明を続けるというのは、限度はいつまでなんですか。そういう点は、大体どういう状況になったらわれわれとしては基本的な態度を変えるのだ、こういうことのお話があってもいいと思うのです。国民だってこの問題を重大な関心を持って見ている。いましばらく解明に時間をかせなどと言われたってわれわれ納得できない。限界はいつだ、どういう条件のもとには変えるのだ、こういう点をはっきりお話しいただきたい。
  82. 大平正芳

    大平国務大臣 いま鋭意解明努力中でございますと答える以上に、どういう時点になればこういうふうに切りかえてこうするというような考えをいま私は持っておりません。
  83. 岡田春夫

    岡田(春)委員 そういう考え方を持っておらないという、こういう答弁、こういう態度では、われわれは納得できないです。大臣、いいですか、国民が感じているのは、あなたのそのようなぬるま湯的な態度に対して批判を持っているのだ。これは日本国民ばかりじゃありませんよ。世界がいま問い返しているのですよ、日本に。一体どういう措置をとるのだろう、こう見ているのですよ。しかも、私ここで言いたいのは、あなたばかりじゃない、日本政府が非常にあいまいな態度をとっているというこの問題、これが今回の事件一つの特色だと思うのです。特色だということは、私はここであえて言うが、朴政権との関係ということだけしか考えておらない。あえて韓国国民の問題については考えておらない。朴政権とのいままでの関係をどうしたら維持するのだという問題だけで問題を見ている。断固たる態度がとれないというのは、朴政権に対して、とれないようないろいろな関係があるからなんだ。いままでの経済的な援助の問題、こういう点からいってもとれないでしょう。経済援助に対して根本的な再検討をしろ、対韓政策の基本政策を見直せ、こういう意見が出ているのに、こういう点については限界というものを考えておらない、いままでどおりずるずるべったりに続けていこうというのが外務大臣の方針ですか。こういう点はもっとはっきりしていただかないと、このようなあいまいな態度に対して国民は了解をいたしません。外務大臣、この点をもう一度はっきりしていただきたい。このままでは捜査の壁にぶつかって迷宮入りだ。しかも、金大中日本に戻すというこの原点の問題についても、これはあいまいに終わってしまうでしょう。私はここではっきり言っておく。このままの姿勢が続くならば、そういう状態にならざるを得ないだろうと思う。あなたはこういう点について確信を持ってお話しになりますか。もう一度伺っておきたい。
  84. 大平正芳

    大平国務大臣 政府態度があいまいであるという御批判でございますが、私はあいまいであっちゃならぬと思うわけでございまして、事件究明を通じて公正な解決をはかって、両国民納得がいくような解決をはからなければいかぬということを基本の方針といたしまして鋭意努力いたしておるわけでございまして、それは掛け値なくそのように御理解をいただきたいと思うのであります。  それから第二に、対韓政策につきましていろいろな論議が本件を契機として起こっていることは私もよく承知いたしておるわけでございます。ただいまの段階で、しかし、変改を加えるかというと、そういうことはいたしません。いまわれわれの任務は、解明にいろいろな制約がありましても、もっともっと努力をしてまいるのが国民に対するわれわれの責任ではないかと考えております。
  85. 岡田春夫

    岡田(春)委員 主権侵害の問題についても若干触れる必要がある。先ほど石井君の答弁関連しても、公権力が作用したかどうかという問題が主権侵害の問題になるかどうかの一つの分かれ目である、こういう意味答弁をされた。これは私おかしいと思う。外交特権を与えられておる外交使節、外交特権によって保障されている外交使節というのは、国を代表してその国の公的権力の行使、国家権力の行使、これを保障されていることなんだ。そういう意味で特別な権限が与えられている。それを保障しているのが外交特権なんだ。その外交特権を与えられている外交使節に対して、公的権力というものが行使されたかどうか、これによって相手国の主権侵害になるかどうかを判断するというように公的権力の限定を狭くあれして、外交特権は与えながら公的権力の作用というものに対して狭く限定するという場合には、これは主権のじゅうりんというものは野放しになってしまうじゃないか。こういう解釈自体が、しかし、問題なんです。この間渡部委員質問に答えて松永条約局長、言っているじゃないか。外交機関の者で私人の行為であっても、これはその政府が責任を負うべきであるとまで言っているじゃないか。なぜこういうことを、公的機能というものを及ぼしているかどうかということを中心にして主権侵害の判断をするというような考え方を狭く解釈されるんですか。私はこういう解釈、間違いだと思う。公的機能というものが外交特権によって全体が保障されているじゃないか。外交使節というものは、私人の行為であろうと、公人の行為であろうと、すべてはそれは国家機関のいわゆる権能の行使として見るべきである。その限りにおいては主権の侵害は明らかじゃありませんか。どうしてこういう解釈が出てくるんですか、外務大臣。——いや、外務大臣に伺いましよう。外務大臣がさっき答弁しているんだから。条約局長はあとで答えてください、補足するんなら。
  86. 大平正芳

    大平国務大臣 主権の侵害という問題につきましては、先ほども御答弁申し上げましたとおり、わが国におきまして、わが国の同意がないまま他国の公権力が行使される状態を私は主権侵害というものと理解いたしておるわけでございます。で、本件がそれに該当するかどうかという問題でございますが、確かに御指摘のように、問題の人物は大使館に籍を置く外交官であるということは御指摘のとおりでございますが、それだけの事実をつかまえまして、公権力との間柄が十分解明されないうちに、これは主権の侵害であると断案を下すことは私は無理であろうと思うわけでございまして、先ほど答弁申し上げたとおりの私は見解を持っております。
  87. 岡田春夫

    岡田(春)委員 特に秘密機関のある今日、容疑があるときに、公権力の行使があったかどうか、相手国に聞いてそれでわかるなんというような甘い事態だと思いますか。そんな事態じゃないじゃありませんか。たとえばそうであっても、きのうの金溶植答弁によってはっきりしているじゃないか。そういう関係はないと答えることはわかっておりますよ。あなた、そういう場合に公的権力の関係などというものをせんさくするということは、要するに主権侵害ではないという前提に立ってあなたは問題を進めようとしているんですよ。秘密機関関連している場合において、そうしてきのうの答弁を見たって、この点は関係しております、公的権力の命令に基づいてやりましたなんて、韓国政府がいつ言いますか。そんなこと言わないことはわかり切っているじゃありませんか。そういうことをあなたは基準にされるというところに問題がある。大体、大使館員というものが行動をした場合は、それがすべて公的機関公権力の機能としてやっているんだと断定すべきですよ。そういう解釈をしないで、それをことさら狭く解釈するようなことは主権の侵害に目をつぶる、こういうことを意味していると思うのです。もう一度伺いたいと思うのです。
  88. 松永信雄

    ○松永政府委員 大使館の館員が今回の事件に直接的な形で関与しておるということを前提にいたしまして考えました場合に、それは大使館員の行為、行動でございますから、その所属するところの韓国自体が責任を負うべきであるということは当然のことであろうと存じます。  ただ、それが直ちに主権の侵害に結びつくかどうかということは断定し得ないのではないかと存じます。何となれば、大使館員の行為あるいは行動がすべて公権力の行使であるかといえば、そうではないと言わざるを得ないんじゃないか。その行為、行動がその大使館員の私的な利益を追求するためのものということもあり得るわけでございまして、したがって大使館員の行動であるから直ちにそれが公権力の行使である、権限に基づく行動であるというふうには断定できないのではないかというふうに考えております。
  89. 岡田春夫

    岡田(春)委員 条約局長のその答弁だっておかしい。あなたウィーン条約を基礎にして言っているじゃありませんか。ウィーン条約の前文にはっきり書いてあるじゃないか、「個人に利益を与えることにあるのではなく、」云々と。外交特権の問題は、個人の利益の問題は、当然これは認められない。私人としての行動を無制限に許すなんていうことは書いてないですよ。しかも今度の場合に、私人の利益としてそれが行なわれたなんていうことは判断できるようなものじゃないです。どうですか。金大中氏をなぜあのような事態に追い詰めたのか。まさにこれは政治事件じゃないですか。明らかに反朴運動をやっておったという問題ではないか。これは個人の利益によってこんなことをやったんじゃありませんよ。明らかに政治問題であり、公的問題ですよ。こういう判断をするならば、主権の侵害であるということは明らかじゃありませんか。外務大臣、もう一度御答弁願います。条約局長には先ほど補足的な答弁を許しただけですよ。大臣、責任負って答弁してください。
  90. 大平正芳

    大平国務大臣 主権の侵害ということにつきまして私の見解を求められれば、何回お聞きいただきましても、私が先ほど答弁申し上げましたような理解を私はいたしております。
  91. 岡田春夫

    岡田(春)委員 もし主権の侵害が明らかになったような場合には、外交措置としてはどういう措置をおとりになるのですか。
  92. 大平正芳

    大平国務大臣 そういう仮定の御設問でございますが、わが国としては、そういう場合におきましては、国際的な典例に従いましてなすべき措置をしなければならぬことは当然と思います。
  93. 岡田春夫

    岡田(春)委員 山下副長官お見えですが、きょうの新聞を見ると二階堂長官は、もう一定の時期において国際的な措置というものをとらなければならない時期になってきている、こういう意味の発言をしておられる。しかも外務省に指示をしてあるといっておるが、こういう点はどういうことになっているんですか。外務省に指示をしてあるというのはけさの新聞だけではありませんよ。前回もそのように言っているんですよ。こういう点はどうなっています。
  94. 山下元利

    ○山下(元)政府委員 ただいまお話しになっております問題につきましては、先ほど外務大臣お答えになっているとおりでございます。ただ、二階堂官房長官が指示したかどうかという報道につきましては、まあ報道をされておりますけれども、具体的にどのような指示があったかということについては私も承知いたしておりませんし、またこれにつきましては、政府としての見解は、先ほど外務大臣からるるお話しになったとおりであると考えております。
  95. 岡田春夫

    岡田(春)委員 指示はあったんですか、ないんですか。
  96. 大平正芳

    大平国務大臣 本件につきましては、重大な事件でございますので、内閣はもとよりでございますけれども、関係方面と非常に緊密な不断の連絡、打ち合わせをしながらやっておるわけでございまして、政府部内におきまして意見の違いがあるわけではございません。新聞発表におきまして二階堂長官がどのように言われたかは私も一々つまびらかにいたしておりませんけれども、指示するとか指示しないとかいうような筋合いのものというよりは、終始緊密な連絡、打ち合わせの上でやっておると御承知を願いたいと思います。
  97. 岡田春夫

    岡田(春)委員 金大中事件が起こった背景、この点は外務大臣もいろいろお考えになっているだろうと思うが、私は、その背景の基礎になっているのは、今日の朴政権の軍事的な独裁的な性格が基礎になっている、しかもそれに結びついている田中内閣をはじめとする日本政府のいままでの政策並びに日本の独占、こういうことが一つの背景になっていると思う。  私はここに雑誌を持っているんだが、ある韓国人が書いている。はっきりいっていますよ。日本の対韓政策は、このままでいくならば南北朝鮮の統一ではなくて南北の分断を固定化し、「一つの朝鮮、一つ日本」を目ざすものである。「一つ日本」というのは今日の韓国のことをいう。「一つの朝鮮」というのは北朝鮮のことをいう。「一つの朝鮮、一つ日本」を目ざすものである。そしてかつての朝鮮総督府」ではなくて「朴韓国総督府」をつくるものだといっている。このような実体になっている。  ここで私は、いままでの日本の対韓政策、特に経済援助政策、これについて根本的な反省がなければならないと思う。今日の韓国に対する投資、海外援助、経済援助、これらが朴政権を安定させる、軍事独裁政権を安定させると同時に、日本の独占と韓国の一部の大資本家の利益のためになっている。そのために国民は逆に不幸な立場になっている。この現実を見落としてはならないんだ。  こういう背景のもとに、金大中氏が朴政権の政策を批判したことによってこのような事件が起こっているんではないか。とすれば田中内閣、大平さんの場合においても全くこの問題に、その背景に責任がないとはいえない。私はここで対韓政策、特に経済政策を根本的に再検討すべきだと思う。過去の反省に基づいてこの点を再検討すべきだと思うが、あなたはこの点はどう思われますか。
  98. 大平正芳

    大平国務大臣 対韓経済協力政策ばかりでなく、対韓政策全体が過去の反省の上に立って樹立され、展開されなければならないと私は考えております。朝鮮半島の命運は朝鮮半島に住まわれる方々の判断で、もくろみで行なわれるものでございまして、日本が過去におけるように朝鮮半島に対して何らかの形において支配をもくろむというようなものであっては絶対いけないと考えておるわけでございます。お互いにそういう反省の上に立って両国は対等平等の立場で公正な関係を続けていくべきではないかと思っておるのであります。仰せのとおり、暗い過去の反省の上に立ってやらなければならぬと私はそう考えております。現実に展開されておりまする対韓政策、それから対韓経済援助政策も含めまして、これにはいろいろな批判もあることも私は承知いたしておるのでありまするけれども、私ども岡田さんが御指摘のように特定の政権のためにやるという考え方を持ってやっておるわけではないのであります。かの国の政権はかの国の方々が選んだ政権でございまして、もとより私どもは最高の礼儀をもって対処しなければならぬと考えておるわけでございますけれども、その特定の政権のためにああしなければならぬ、こうしなければならぬと考えるほど日本政府は間違ったことはしていないと私は考えておるのであります。韓国の方々のおためになるためにわが国としてはできるだけのお手伝いは頼むところなくお手伝いをする。そのためにこれだけのことをしておるんだからこういうことを期待するというようなことがあってはいけないのでありまして、いまの経済協力政策、したがって、ひもつきというようなことでなくて、精神の上においても、形の上におきましても、あくまでアンタイイングでなければならぬ。そして先進諸国といたしましてはやはりこれは一つの国際的な義務であるという観点に立ってやっていかなければならぬし、私どももそう心得て実行いたしておるわけでございます。そういう意味で展開いたしておるわけでございまして、特定の政権のためにやっておるという御理解がございますならば、それはひとつ御訂正をいただきたいと思います。
  99. 岡田春夫

    岡田(春)委員 ことしの二月に発表されたアメリカ上院の外交委員会報告、これにはこう書いてある。「韓国の場合、朴大統領はすでに彼の求める権力を掌握した。彼を排除するためには彼自身の合意、死、あるいは革命しかないだろう。彼の個人支配に反対しようとする人は非合法手段によって彼の排除を求める以外には実質的に選択の余地はあるまい。」と断定している。今日の朴政権の実態というのはこれじゃありませんか。大平さん、あなたは今日の朴政権の実態はどういう政権であるというようにお考えになっていますか。しかも新聞報道を見るときに、今日韓国の内部において全く暗い、一言でいうなら暗黒の政治が行なわれているのが現実だ。この事実をお認めになりますか、どうなんですか。もう一度伺いますが、朴政権の性格は何か。今日韓国に行なわれている政治は暗い暗黒の政治であると思うかどうなのか、こういう点を伺いたい。
  100. 大平正芳

    大平国務大臣 韓国ばかりでなく、日本以外の国々の政権は、それぞれの国、国民が選んだ政府であると承知いたしておるわけでございまして、それに対しまして政治学的な論評はいろいろ加えられるのかもしれませんけれども、私の立場で政治論評をやるということは慎みたいと思います。
  101. 岡田春夫

    岡田(春)委員 国連総会近いです。しかし、今日の朴政権の性格から見たら、加盟問題が出ているけれども、国連憲章の精神に沿っているのかどうか非常に疑問である。特に今度の金大中事件を通じて、国際世論から見るならば、韓国にとって非常に不利な状態があらわれている。私はここで外務大臣に思い出してもらいたい。日本のいままで国連、その関係機関に対してとってきた態度、常に国際世論から一歩おくれているというか、逆にむしろ逆行しているというか、中国代表権の問題見てごらんなさい、敗れたじゃありませんか。WHOの決議の問題見てごらんなさい、敗れたじゃありませんか。今度の国連総会であなたが提案をしようとしている南北の同時加盟問題、これなかなか成功できませんよ、あなた。中国の代表権問題やWHOの問題の日本にとって苦い教訓というのをもう一度はっきりここでかみしめるべきだと思う。あなたはここで南北同時加盟論の提案国になるなどというのは再検討なさい。もう一度検討し直す必要があります。もしあえてあなた方が提案国などになった場合に、また日本の恥を世界にさらすという危険性がある。こういう点責任を持って再検討してもらいたい。この点はどうですか。
  102. 大平正芳

    大平国務大臣 韓国の、朝鮮半島の平和、安定あるいは自主的な統一というようなことは、私どもばかりでなく、世界でも大きな関心事であると思います。国連におきまして朝鮮問題が、朝鮮半島の平和、安定というような立場から取り上げられるという段階におきまして、国連のメンバーといたしまして、わが国はどういうことを主張——どういう決議案に賛成するかどうかということはわが国がきめるべき問題と思うのであります。過去の国連におきまして、わが国の国連政策がすべて成功したわけではございません。特定の決議が採択されるかどうかという問題は国連の管轄でございまして、日本の力量をもっていかんともしがたいことでございます。けれども、日本といたしましては朝鮮半島の平和とかあるいは安定とかということを、そして自主的な統一というようなことをこいねがう立場に立って、現実的にこの時点でどういう決議案というものを考えていくかということは、当然、岡田さんであっても私であっても考えなければいかぬことであろうと思うのでございまして、それの成否は国連がきめることでございまして、私どもその成否を的確に予測することはできないわけでございますが、私どもはそういう観点から今度の朝鮮問題に対する国連討議についての対案をいろいろ考えておる段階なんでございまして、岡田さんの御意見は御意見として十分拝聴しておきますが、われわれ外務省といたしまして、責任当局の立場からは、われわれとしても最善の検討を加えて対処することが国民的な責任であろうと考えております。
  103. 岡田春夫

    岡田(春)委員 いまの御答弁は、そうすると、南北の同時加盟論の提案国になるということはきめておらないというように理解してもよろしいのですか。
  104. 大平正芳

    大平国務大臣 いまいろいろ検討をいたしておる段階でございます。
  105. 岡田春夫

    岡田(春)委員 提案国になる場合もあるわけですね。
  106. 大平正芳

    大平国務大臣 そういう場合も考えられます。
  107. 岡田春夫

    岡田(春)委員 提案国になることは、ぜひともこれについては再検討を願いたい。強く要望いたしておきます。  時間がありませんので最後に申し上げますが、今日の韓国の朴軍事政権、しかもそのもとにあるCIA、CICその他の秘密警察機構、そのもとにおいて暗黒政治が行なわれているというのはもう疑いのない事実である。この金大中事件の直接の被害者というのは金大中氏であることは間違いありません。しかし、ほんとうの意味での被害者はだれなんだ。金大中が朴政権に対する反対の意見をはっきりと述べた、そのもとにおいて犠牲になっている国民がほんとうの意味での犠牲者なんだ。朴政権の抑圧のもとに、貧困のもとに悩んでいるこの国民がほんとうの犠牲者であるということを忘れちゃならないと思うのです。私は大平さんにもう一度言いたい。大平さんにしても私にしても、かつての同時代、若いころの時代に私たちは暗黒の政治の経験を受けているじゃないですか。もしあなたが隣国に対し友好ということを考えるならば、私たちはあの暗黒の政治のもとに苦しんできたこの経験を再び繰り返さしてはならないということが、われわれの世代の責任じゃありませんか。あなたはどうですか。私たちはかつて東条のもとにおいてどういう苦しみを受けたか。その苦しみを考えた場合に、いま朴のもとに韓国国民がどれほど苦しんでいるのか、これを考えた場合に、このような暗黒の政治を許すということについて手をかすようなことがあっては絶対にならないし、私はこのような時代が解決できるような方向に努力することがわれわれの世代の責任じゃないか。外務大臣だってその点をとっくり胸に当てて考えてもらいたい。私はここで発言しているのはこの問題なんだ。われわれの世代の責任をあなたはどういうように感じるんだ。隣国の国民に対して、この苦しみを解決するために、あなたは金大中の問題は原点に戻して解決をなさい。朴政権に対して政権同士の野合、結託、そして政権だけを援助するような態度はおやめなさい。それを基本政策だなんて言っているのは再検討なさい。国連の総会に同時加盟論だなどということでごまかしの態度をとるようなことはおやめなさい。こういう点を私は強く外務大臣に望んでおきたいと思う。われわれの世代の責任について一体どう考えるのか。これは最後の質問です。
  108. 大平正芳

    大平国務大臣 韓国の命運は韓国の方々がだれよりも考えられておることと思うのでございます。私が外務大臣として考えねばならぬことは、過去の深い反省の上に立って、日韓両国関係はどうあるべきかということを鋭意考えてまいらなければならぬのでございまして、韓国の内政に対しまして云々することは遠慮したいと思いますけれども、日韓関係は、これから過去のあやまちを繰り返すことなく、公正な対等、平等の関係を何としても築き上げていかなければならぬではないかと私は考えております。
  109. 岡田春夫

    岡田(春)委員 もうこれで私は終わりますが、あなたは暗黒の政治に対するわれわれの世代の責任というのをほんとうに考えてもらいたい。これは党派を離れての問題だ。ほんとうにこの点を強くあなたに要求をして、私は質問を終わります。
  110. 藤井勝志

    藤井委員長 柴田睦夫君。
  111. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 金大中事件に関して、その後金東雲一等書記官がこの事件に関与したことが明白になって、そのほかもありますが、それらもあわせて、わが国主権の侵害がもう否定できない、そういう事情にあると思うのですけれども、政府はいまなお日本主権侵犯についてこれを認めようともしないし、その回復に対して断固たる処置をとろうともしていない、このことは非常に遺憾に思うのですが、それを前提として、なお若干の質問をいたします。  この主権侵犯になるということについて、これが国家公権力の作用があったかどうか、こういうことが基準になると説明があったのですけれども、この公権力の作用の具体的な内容、すなわちこの金東雲にだれが命令すれば公権力の作用と判断できると考えているか、このことをお伺いします。
  112. 松永信雄

    ○松永政府委員 公権力の行使ということが主権の侵害があったかどうかということにつながる重要な問題点であるということを申し上げておりますのは、主権の侵害ということは国と国との間において発生する問題でございますから、ある行為が主権の侵害であるかどうかということを判定いたします場合に、それはやはり国の行為であるかどうかということが重要なきめ手になるということでございます。  ただいま御質問がありました金大中連行事件における大使館員の行為、これがどこの命令によって行なわれたかどうかということについては、私どもは確定的な材料は持っておらないわけでございます。まさしく、実はその点がはっきりしてまいりますれば、主権の侵害があったかどうかということが判定できるというふうに考えておるわけでございます。
  113. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 それでは、その公権力の作用があったかどうかということについては、どういうことを調査するのですか。
  114. 松永信雄

    ○松永政府委員 その点につきましては、今後の韓国政府との連絡、協議あるいは話し合いと申しますか、その過程において明らかになってくる場合があるかと存じます。また、こちらのほうの捜査の進展の状況いかんによりまして、そういう特定の事実関係が出てまいりまして、それによって推定されるというような場合も考えられるかと存じます。
  115. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 いま韓国から金東雲の来日を求めた、それに対して拒否されているということなんですけれども、韓国との話し合いで、この公権力の作用があったかどうかということを調べていく、そういう見通しはあるのですか。
  116. 松永信雄

    ○松永政府委員 その点の見通しというお尋ねでございますが、見通しといたしましては、私ども現在の段階においては何とも申し上げられないというふうにお答えせざるを得ないと存じます。
  117. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 韓国のほうは、政府機関は一切関与していないということを、きのうの段階においても言っている。そして金東雲書記官の来日も拒否するという態度なんですけれども、日本のほうで、刑事事件捜査をしたい、あるいは本件主権侵犯になるかどうかを調査するということで調べたい、そういう人を一切調べることができないという場合にはどうするのですか。
  118. 松永信雄

    ○松永政府委員 韓国政府は、大使館員の持っております外交特権を援用いたしまして、わがほうの任意出頭を要求を拒否している、これは最終的な拒否であるかどうかは別といたしまして、拒否しているというのが現在の段階だろうと思います。それで、国際法上は、その場合に外交特権の放棄を相手に義務づけるという手段はないわけでございますので、金書記官を強制的に日本側に、あるいはその捜査当局のいわゆる捜査権と申しますか、刑事裁判管轄権のもとに服せしめるという手段はないということでございます。
  119. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 そういうことになると、韓国のほうを直接日本が調べるわけにはいかないということで、結局、韓国判断を待つという結果になるのではありませんか。
  120. 松永信雄

    ○松永政府委員 韓国との間の話し合いで材料が出てきません限りは、わがほうの捜査状況の結果を待たざるを得ないということであろうかと存じます。
  121. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 この金大中事件は、その事件全貌が概略明らかになった段階で、すなわち、日本において、ホテルから拉致して、自動車で関西方面に運ぶ、そして関西方面に隠れ家がある、そしてモーターボートに乗せて、それから大型船に乗せる、そして戒厳令下の南朝鮮に上陸して、韓国でこの金大中氏の身柄を抑留する、そして数日してソウルにあらわれる、そのあとも韓国のほうで軟禁状態に置いておく、また調べもする、こういう事実があった上に、今度は、この拉致行為に韓国政府を代表する外交官関係しているということが明らかになっているわけなんですけれども、この刑事事件捜査、刑事事件で有罪の裁判を受ける証拠集めということとは別に、外交上の判断というのは、外交官関係し、そしていま言いましたような事実があるということから見れば、当然これは国家権力の作用がある、その具体的な内容についてはなおわからないと言われるかもしれませんけれども、国家権力の作用があるということを認めることは、もう外交的な判断としては、これは常識ではないでしょうか。
  122. 松永信雄

    ○松永政府委員 大使館員の直接的な関与ということを前提にいたして考えました場合に、直ちにそこで国家の公権力の行使があったというふうに断定することはできないと思っております。ただ、その行為自体につきまして、韓国政府が責任を免れることはできないというふうに考えております。
  123. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 大使館員の関与ということだけではなくて、韓国に上陸してからの金大中氏の韓国政府の取り扱い方、しかも戒厳令下で夜間外出禁止令が出ている韓国において金大中氏を運んでいくということがありましたし、それから日本を出国し、そうしてそういう韓国に上陸する、そういう客観的な事実も合わした場合に、単に大使館員が関与したということでなくて、それらの事実を考えられば当然、日本主権侵犯されているという前提で行動すべきではないか、こういうことなんです。
  124. 松永信雄

    ○松永政府委員 法律的には、理論的な可能性といたしまして、主権の侵害が行なわれたかもしれない、その可能性があるということは申し上げられると思います。ただ、現在までの状況におきまして、私どもが承知しております状況、材料から判断いたしまして、主権の侵害があったと断定することはできないというのが私どもの考え方でございます。
  125. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 いま主権の侵害があったかもしれないということを考え状況にある、こういうことを言われましたけれども、そうなれば主権侵犯の事実をさらに調べるということであろうと思いますけれども、これからどういう点を調べようとするのか、このことを伺います。
  126. 松永信雄

    ○松永政府委員 その点につきましては、先ほど申し上げましたように、今後の韓国との話し合いの状況及びわがほうの捜査当局における捜査の進展を待つほかないと存じます。
  127. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 だから具体的には何を調べるか、この金東雲にだれが指示したか、そういうことを調べるのかどうかと、具体的なことを聞いているのです。
  128. 松永信雄

    ○松永政府委員 最も端的な場合と申しますか、はっきりした明確な形になりますのは、韓国政府自身がそのことを認めるということであろうと存じます。そうでない場合に、じゃ、具体的にどういうことを調査するのかというお尋ねでございますが、これは結局、捜査状況いかんによるのではないか。ですから、私どものほうで具体的にこれこれというふうには申し上げられないのじゃないかと思います。
  129. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 ということは、日本外務省とすれば、一方は韓国の返事を待つ、一方は捜査にまかせるということで、これだけ国民が関心を持っておりますこの主権侵犯の問題について積極的にどういう解明をしていこうか、こういう態度はないということになるわけですか。
  130. 松永信雄

    ○松永政府委員 御質問の趣旨が私必ずしも正確に把握しているかどうか自信がございませんけれども、私どもといたしまして、ただ待っているというつもりはございませんで、韓国との話し合いの状況あるいはその捜査の進め方が、なるべくすみやかに結論あるいはその結論に至らないまでも、有力な材料というものが出てくることを非常に強く期待しているわけでございます。
  131. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 と言われますけれども、韓国政府のほうは政府機関が関与したことはないといって捜査にも応じようとはしていない。日本捜査のほうは、金東雲日本に呼ばなければ解明が進まないという状況にあるわけなんですけれども、外務省としてこの国民の世論にこたえて積極的にこの主権侵犯の事実を解明していく方針、具体的にこういう点をこれから調べるんだ、どうしてもこの点だけは明らかにさせるんだという具体的な方針は持っていないわけですか。
  132. 高島益郎

    ○高島政府委員 先ほどから大臣のほうでお答えしておりますとおり、今回の事件関係いたしまして私どもが基本方針としておりますのは真相解明をできるだけ急ぐということでございまして、その過程におきましていま先生のお尋ねのような問題が起きた場合には、それに応じまして適正な措置を講ずるということでございます。
  133. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 いま来日がすべて拒否されているという段階において、どうしたら来日させられるか、この点についてはどういう措置をとるか、この点については考えがあるんですか。
  134. 高島益郎

    ○高島政府委員 これも条約局長からお答えがあったと思いまするけれども、外交官でございまするので、これを強制的に日本に連れてくるという方法はございません。
  135. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 話を伺っておりますと、結局外務省とすればこの主権侵犯の事実は解明中という段階で、それを進んで解明していって、積極的に解明していこうという態度はうかがわれない、こう判断するわけで非常に遺憾に思うわけなんですが、もう一つ金大中氏の再来日、このことについては現在どういうことになっておりますか。
  136. 高島益郎

    ○高島政府委員 事件の当初から、政府といたしましては、捜査の必要上金大中氏及びあとの二人の再来日が必要であるということを再三再四繰り返し要請いたしておりまして、現状では先方韓国側捜査が終わらないので要請に応ずることはできないと申しております。これが現状でございます。
  137. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 韓国側金大中氏に対する捜査、これはもう一カ月近く終わらないといわれているんですけれども、そういう長い時日がほんとうにかかるのか、ほんとうに捜査金大中氏を韓国に置いておく必要があるのか、そういう点については調べているんですか。
  138. 高島益郎

    ○高島政府委員 韓国側本件関係いたしましてどのような捜査をしているかという点については、私ども全部を承知しておりません。
  139. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 結局何もわかっていないということであるし、そしてこの金大中氏が日本に行きたいという希望を持っているということはこの前言われましたが、その後も韓国捜査中といえばそれに対して対応ができない、こういう結果になっていると思うのです。それで金大中氏が日本に来たい、行ってもいいと言っている場合に、そして捜査上どうしても韓国に置いておかなければならない状況にはなくなっているという場合に、この日本への再来日に応じない、すなわち朴政権のほうで日本に行かせないということは、日本にはこの人を調べる権利があるわけですから、これもまた日本主権侵害になると考えるのですが、どうなんですか。
  140. 松永信雄

    ○松永政府委員 現段階、現状におきましては、金大中氏の再来日の要請に対しまして先方が応じてくれない限り、金大中氏を日本側に連れてきて、捜査と申しますか、調査することは実行できないわけでございます。このこと自体が主権の侵害につながるとはちょっと考えられないと存じます。
  141. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 日本は刑事事件捜査させる権利があり、これは日本において発生した事件ですから当然捜査する権利があるわけで、その場合に金大中氏を調べる必要がある、そして金大中氏も日本に来たいと言っている、こういう場合に、韓国政府日本への出国を正当な理由もないのに拒否する、こういう場合は日本捜査に応じさせまいとして拒否するということであれば、これは主権の侵害になるのではないですか。
  142. 松永信雄

    ○松永政府委員 韓国日本の要請に応じないということ自体は、実はたいへん遺憾なことであると存じているわけです。しかし、それが応じないから日本主権を侵害するということにはならないと存じます。
  143. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 時間が参りましたが、この金大中氏の事件について、結局公権力の作用があったかどうかが明らかにならなければ主権侵犯とはいえないということで、いま国際常識的にもこの事件主権侵犯である、こういわれている中で、日本政府が国際常識に反して消極的な態度をとっているわけです。これはやはりその根源には日本の対韓政策というものがありますし、この対韓政策の根源は、いま日本政府が朴政権の維持、延命をはからなければならないということが基本になっていると思うのです。朴政権の性格については、この事件を通じて日本国民の間にも広く知られましたし、先ほど岡田議員から言われておりましたけれども、ああいう政権に対して日本が協力関係を緊密に持っているということがこの事件の根源になっていると思うわけです。ですから、私はやはりこの対韓援助の打ち切りだとか、あるいは根源にさかのぼれば韓国が朝鮮半島における唯一、合法の政府であるということを前提にした日韓基本条約あるいは一九六九年の日米共同声明の中での日韓の運命共同体というような条項、これらのものは撤廃して、ほんとうに朝鮮人民との友好関係になるような外交関係を打ち立てていかなければならないということを申し上げたいと思います。  終わります。
  144. 藤井勝志

    藤井委員長 渡部一郎君。
  145. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 先ほどからの金大中事件に関するさまざまな応答を拝見しておりまして、私は政府のこれからとるべき対策というものについてしぼってお伺いをしたいと思います。  さきの当委員会の質疑の途中、条約局長は私の質問に対しましてこう答えられた。それは犯人が公人である場合、それが公的な命令によるかどうかは別とした、すなわち、公人の私的行為としての犯罪が確定した場合も韓国側に責任がある旨発言をされました。その点は昨日の答弁でも私は変わっていないと思います。で、公人の私的行為としての犯罪が確定した場合に、やはりそれは広義の主権侵害ということに当然なり得る。であるからこそ韓国に責任があるという御発言になったと思いますが、いかがですか。
  146. 松永信雄

    ○松永政府委員 公人でありますところの大使館員が何らかの行為を行なった。それが私的なものであったか、あるいはその職務上のものであったかということを別といたしまして、その行為についてその所属するところの韓国政府が責任をとるべきであるということは前にも申し上げましたし、現在でもその考え方は全く変わっておりません。ただその場合に主権の侵害にすぐつながるかどうかという点でございますけれども、国際法上、主権の侵害ということは国と国との間の問題になるわけでございます。したがいまして、ある特定の行為についてそれが国の行為であるということが前提になるわけでございまして、したがいまして、その公人の全く私的な行為をもって国の行為であると断定することはできないのじゃないか、こう考えておるわけでございます。
  147. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 そういたしますと、国の行為であるかどうかという点からまいりますと、私は次のように議論が次に展開できると思います。それは少なくとも外交特権によってカバーされている人がその特権を利用しながら、別のことばで言えばその隠れみのを着ながら私的な重大な犯罪を行なったとすれば、それについて韓国側が処罰する姿勢を示されるならば、まさに私的行為としてそれは認められる、私的行為としての範疇に属するだろうと思います。しかし、韓国側がそれをかばう段階においては、韓国主権の侵害行為というものを犯す形になりはしないか、当然そういう結論になるのではないかと思いますが、いかがですか。
  148. 松永信雄

    ○松永政府委員 館員の場合すべてが公的な行為というふうには断定できないだろうと存じます、個人的な行為もあるわけでございますから。ただ、ただいま御指摘がありましたような状況が今後はっきりしてまいりますれば、それはやはり公的な行為であるということの推定の一つの補足的な材料にはなるかと存じます。
  149. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 そうすると、今度はその対抗措置を私は伺わなければならぬわけであります。  では犯罪が確定した場合、いま非常に疑いが濃いわけでございますが、犯罪が確定した場合にそれが少なくとも韓国政府の職員であるという形でこれがきまったといたします。その場合、日本側はあくまでも韓国側がそれに対して拒否を続けていた場合にどういう対抗処置をとられるのか。新聞の報道によればしかるべき対抗措置をとる旨外務省当局は説明をされているようでありますが、どういう措置をとられるのか、それを御説明いただきたいと思います。
  150. 松永信雄

    ○松永政府委員 現在私どもから見ますると、問題の核心はまさしく公権力の行使、権限に基づく行為であったかどうかということが実は非常に大きな問題でございます。で、その結果いかんによりましてその後の措置というものは非常に大きく変わってくるのじゃないか、こう考えておるわけでございます。したがいまして、なお状況を見きわめると申しますか、事態がはっきりする段階まで待ちまして、その時点において状況を十分考慮の上措置を決定すべきではないかと存じております。
  151. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 もう一回戻しますが、そうすると、個人的行為だといたしましても、その犯人の行為を韓国側がかばう場合においては日本国に対する重大な主権の侵害になると、私はそう理解すべきだと思いますが、いかがですか。
  152. 松永信雄

    ○松永政府委員 そのことだけで実は主権の侵害になると断定できますかどうか、正直のところ私はあまり自信を持ちません。そうでないという立場もあり得るのではないかと存じます。
  153. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 主権の侵害になり得るという非常にソフトな言い方をなさいましたけれども、それはなるのが当然であって、そこまで遠慮深い態度を示されますと、外務省韓国外務省の間は何かよからぬお取引があるのではないかという印象を押えられません。それはもう普通の状況ではちょっとあり得ないくらいふにゃふにゃしたやり方だからです。どうしてそんなに遠慮なさるのか、この辺は大臣に御答弁していただくしかない。もうほんとうに外務大臣韓国側日韓関係を破壊しないように苦心惨たんしておられることは御自分もお認めになるとおりであります。それと同時に、どうしてこれほど韓国側に対して主権の侵害という立場から交渉することをためらっておられるかについても一線の捜査員たちが新聞を通してふんまんを述べているようでありますし、私たちもふしぎに思うところであります。どうしてそんなに慎重でおありになるのか、ひとつ明確にお話をいただきたいと思います。
  154. 大平正芳

    大平国務大臣 申し上げられることを留保いたしまして申し上げないというのではないのです。  つまり、いまの事件究明にあたりまして、問題の人物がこの事件に関与していたかどうかさえまだ日韓両国の間には、岡田さんも御指摘のとおり、大きな対立がある状況なんです。したがって、本件はそれがまず済んで、そしてその次にいま条約局長とのやりとりのように、一体公権力の行使が見られるかどうかというような点がその次の問題になるわけでございますが、そういう最初の問題からいま壁にぶつかっておるのが現状なんでございまして、慎重だから、弱っておるというのじゃないので、事実がそうなんでございます。私ども願いとするところは、真実は一つなんでございますから、これを何とか双方で虚心たんかいに究明していくということでありたいと思っておるのでございますが、遺憾ながらそういう事態ではいまないわけでございます。何とも大きな壁にぶつかって非常にむずかしい局面に逢着しているということは、先ほど私が告白申し上げたとおりでございます。  しかしこの問題は、公正な解決をしなければならぬと思いまするし、日韓友好関係というものは何とか維持しなければならぬということにおきましては、私も、韓国当局もお考えのことと思うのでございますので、いま条約局長からもお話し申しましたように、しんぼう強く先方政府と話し合いをしていかなければならぬと思っておるわけでございます。外交関係、根本はお互いの信頼関係がないと、いかに切歯扼腕いたしましても打開できないわけでございますので、私ども、お互いのおつき合いにおきましては、やはり礼儀をもちまして信頼をこわさないようにやらなければいかぬと思っておるだけに、気負い立って間違ったことを言うとかいうことがないように、そういう意味で、慎重にやっておるわけでございますので、その点はひとつ御了承をいただきたいと思います。
  155. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 全然御了承できないですね、その話は。  警備局長にお伺いしますが、私、直接お伺いするのでありますが、韓国側が、いま韓国に逃げていった金東雲氏ら何名かの容疑者及び初めの事件関係者三名等を日本警察の取り調べに協力をさせる形をとれば、犯人はことごとくを確定することは可能であると自信を持っておられますか。
  156. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  そういう被疑者なり参考人が日本に来ても、やはりその方の協力の態度あるいは記憶力、そういうものにかなり影響されるわけですが、現在、われわれの手持ちの材料をもっていろいろな、たとえば言いのがれとかあるいは否定する、そういうものをくずしていけば、必ず真相に達する可能性が出てくる、こういうふうに信じておるわけでございます。
  157. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 そうすると、いま捜査の最大の妨害になっているのは、要するに日本外務省態度が問題になっておるのか、それから韓国政府側の態度が問題になっておるのか。一番捜査の妨害になっているのは何なんですか。
  158. 山本鎮彦

    山本(鎮)政府委員 お答えいたします。  妨害になっているとおっしゃったわけですが、これまでわれわれは、外務省を通じて関係三氏のこちらへの来日、それから今度は、金東雲氏の出頭外交ルートを通じて依頼をしておるわけでございまして、その結果、まだそれが実現しないということは非常に残念でございますが、それは結局、いまのところ、われわれはそういう外交交渉過程韓国政府がそれに応じないためであるというふうに考えております。
  159. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 いま仰せになりましたように、韓国政府側の協力のないことこそ問題である、私はそう思います。  それと同時に、最初から金大中氏を、日本国内に踏み込んできて引きずっていった者こそがけしからぬのであって、そしてそれが韓国人であることは、韓国首相が当方の捜査が進むか進まないかの段階韓国人であると言明して、謝罪をされました。一体どうして韓国人だとその時点韓国政府はわかったのか、調べもしないうちによくもそうわかるものであって、それがわかっただけではなくて、それに対して謝罪をするということは、これはただごとではない。ほんとうを言えば、あの時点ではわかっていなかったはずなんですから。もしその時点韓国政府側が、すでに犯人韓国人だとわかっていたとすれば、当然その時点で、日本政府にも外務省にも警察庁にもその辺のお知らせばあったはずであります。外務大臣はその辺を全部ふところにのみ込みつつ御答弁をなさったに違いない、こう考えるのが私は正しかろうと思います。そうでなかったとしたら、韓国首相のほうが、韓国人であることを認めながらその名前を言わないで、外務大臣日本政府のほうをほんろうし抜いて今日まで来たかということになりましょう。これはどちらであったのですか。私たちは、その辺大きな疑問をもって大平外務大臣を見詰めているわけであります。御答弁をいただきたい。
  160. 大平正芳

    大平国務大臣 韓国の金首相は、総理や私に寄せられたお手紙で、本件韓国人が関係しておるようだということ、そして日本国民に迷惑をかけておるということに対して、とりあえず遺憾の意を表明されたわけでございまして、捜査韓国におきましても進んで継続中であると私は思います。  今日までわが国に寄せられた協力ぶりでございますが、渡部さんのように協力がないというわけではないのです。今日まで御協力をいただいておる面もありますけれども、必ずしも十分でないというのが正確でごございます。そして今後協力しないとは言うていないわけでございますのでその点につきまして協力しないと断定されないように、私どもこれからしんぼう強く折衝を続けまして、解明にできるだけつとめてまいるという態度で終始したいということは、先ほどから申し上げておるとおりでございます。
  161. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 ともかくこの問題に対しては韓国側の重大な失点でありますし、これに対して言うべきことを言うという形でなければ、韓国側日本国内において韓国の気に入らないことを言う人を片っ端からつかまえては本国に連行するというシステムが一般化でもしようものなら、日本国憲法の規定しております言論の自由、思想の自由が放棄されるばかりか、日本国権の重大な侵害になることは明らかです。この問題はどうしても片づけなければ日本国憲法を守り得ない問題であるという立場から御理解をいただかなければいけないと存します。  もう一つは、韓国人だからというので韓国政府だけを同様の問題で文句を言うというのは筋違いだと思う。日本政府は、いままでかかる類似事件がそれ以外の諸国、特にアメリカをはじめとする諸国から引き起こされた場合、必ずしもこれほどは戦われなかった。問題にもされなかった。ここにもまた重大な問題があると私は思います。これもひとつ十分御反省をいただかなければいけないのではないか。私は、時間がありませんので、そこまできょうはもう話を延ばせられませんけれども、ひとつお考えをいただきたい、こう思っているわけであります。いかがでありますか。
  162. 大平正芳

    大平国務大臣 この事件は申すまでもなく日本国内で敢行された事件でございます。そしてまさに不法行為でございますので、これは何としても解明いたしまして公正な解決をはかることが、この種の事件を全体として予防する上から申しましても、非常に大事なことだと思うのであります。政府は、そういう考え方で、捜査当局をはじめといたしまして鋭意努力中でございまして、仰せのようにこの公正な解決をはかるべく最善を尽くしてまいりたいと思います。
  163. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 私は日中航空協定の問題でお伺いしたいのでありますが、もう時間がございませんから、私の伺いたいことを全部申し上げます。  まず日中航空協定の交渉の進行状況はいかになっているか。それから日中貿易協定の締結は近いと伺っておりますが、当委員会では報告されたことがございませんので、それについての詳細を承りたい。それから日中航空協定については、新聞の報道されるところにはいろいろございますけれども、当委員会に対しては外務省は何ひとつお話しになっていませんので、ちょっと詳しく御説明をいただきたい。特に空港の発着、台湾機と中国本土機との発着場の分離案というものを政府は当初持っておられ、そうして交渉を続けられた旨伺っているわけでありますが、新聞の報ずるところでは、同時駐機でもいい旨中国側が返事をしたとなっています。またその際、台湾機についている国の標識、旗についてはこれを取り除くよう先方が要請しておると報じられております。こうした中国側の述べられている条件のどれが問題点になっており、どれについて交渉中なのであるか、お話を承りたいと存じます。そして、それと同時に、日台航空協定の破棄の確認をせよと中国側が迫っている旨でありますが、これはすでに日中国交正常化と同時に破棄されたものと私は思っているわけでありますが、どういうお考えでありますか。また日中航空協定は、今後の見通しあるいは交渉の見通し等はどのようになっておりますか。  こうしたことについて、私はきちんと御報告を承りたいと存じます。まずよろしくお願いいたします。
  164. 大平正芳

    大平国務大臣 日中間の航空協定をはじめ実務協定につきまして御関心をいただき、御心配をちょうだいいたしておることに感謝いたします。ただ、すべての問題がそうでありますように、外交案件につきまして、交渉中の案件につきまして申し上げるということは、外交交渉に当たりましての信義上慎まなければならないことでございます。そういう制約を持っておる私といたしまして、可能な限りお答えを、必ずしも御満足がいかないかもしれませんけれども申し上げることをお許しいただきたいと思います。  日中航空協定につきましては、両方の案が去年、ことしにかけまして提示されまして、予備折衝が二回にわたって行なわれたことは御案内のとおりでございまして、この双方の提示された提示済みの案そのものにつきましては、若干の未消化の問題がございますけれども、越えがたい困難があるとは考えておりません。したがって、日中航空協定自体につきましての展望自体は、私はそんなに心配いたしていないのであります。問題は日台路線、これは日中航空協定に基づく路線ではないわけでございますので、しかも日台間の航空需要は依然大きいものがあるわけでございまして、これをどのように日中航空協定の締結と並行いたしまして処置すべきかということが、協定上の問題というよりは事実上の問題として私どもが苦心をいたしておるところでございます。これにつきましては、国内外のいろいろの考え方というようなものもできるだけ私どもは聴取いたして、実際的かつ筋の通った解決をもたらさなければいかぬと、いませっかく苦心をいたしておるところでございまして、できるだけ早く結論に達しなければいかぬと思っておる次第でございます。  通商協定につきましては、先般最終的な交渉が東京で行なわれまして、大筋の合意を見ておるわけでございまして、これをいまから外交ルートを通じましてかんなをかけて仕上げていく仕事が残っておるわけでございまして、これもできるだけ早く急ぎたいと考えております。
  165. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 交渉中案件について述べることは信義上慎むべきだとおっしゃるのに、新聞社に対しては平然としゃべり、当委員会に何も言わぬのはどういうわけでしょう。私はそれは納得できないのです。それで国民としては知る義務があるわけでありまして、必ずしも秘密交渉が必要なばかりではないと私は思う。少なくとも問題点の幾つかは国民に知ってもらうべき問題であろうと私は思います。しかも貿易協定なんかのごときについては、ほとんど国民に知られてもそうたいした問題になる部分は含んでいないと存じます。それも当委員会には何ひとつ御説明がない。航空協定なんかについては全くわからない。そうして航空協定がいたずらに引き延ばされていることが日中関係の新たな発展にとってだんだんとマイナス条件になりつつあることは、私たちのような人間にとってもわかってくることであるし、最近中国を訪問されている何人かの政治家、貿易マンに対しても、中国側はるるそれに対して見解を述べておられるところであります。それは日本国内に伝わっているわけであります。ところが日本政府はだんまりで何も言わない、決断もしないただただ黙っている、ときどき新聞記者の一人か二人を呼ばれてこっそり耳打ちをする、そういうやり方でお話しになるのだったら当委員会の審議はできないではないか、私ははなはだ不満に思うわけです。これは委員会軽視といいましょうか、どうも最近の御姿勢はあまりよからぬものがあるのではないか。金大中事件で夢中で、そっちに神経が回らなかったとおっしゃるんなら私は納得できます。それなら納得できるのです。無理もない、御苦労であろうと、それを評価するにやぶさかでない。しかし大事な案件、何も言わないで黙って通り過ぎよう、これはいけないんじゃないかと思います。私はもう少し御説明をいただかなければ、いまお話しの中では、航空協定交渉は予備折衝を二回やったのみ、未消化の点がある、越えがたいものではないというだけです、わかったのは。外務大臣、いかに何でも少し少な過ぎませんでしょうか、当委員会に対する御報告が。これはあまりにもちょっぴりです。これはもう少し何かお話をいただいてもよろしいんじゃないかと思いますが、いかがですか。
  166. 大平正芳

    大平国務大臣 航空協定、通商協定、これは国会管轄の案件でございまして、国会で御承認いただかなければ発効しないわけでございまして、国会で十分御審議をいただく案件でございまして、政府がかってにやるわけじゃございません。私が申し上げているのは、外交案件というものは、交渉の途次におきましてはお互いに内容についておしゃべりするのは慎もうという双方の信義によって交渉が成り立っておると承知しておるわけでございまして、私はどんなに言われましても、やっぱりこの信義は守っていかなければいかぬと考えております。  新聞の記事でございますが、私は新聞に責任を持つわけにはまいりません。新聞に対しまして、私並びに私の監督下にある者が不用意に漏らしたというようなことでありましたならば厳重な処断をいたしたいと思うのでございます。
  167. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 それは私は逆だと思うのです。国民の知る権利というものを代表して新聞記者がかせいでいる場合にそれを処断するという姿勢でいかれますならば、それは前国会で問題点になった数々の問題点をもう一回復活するものであります。私が申し上げておるのは、新聞記事になる程度の信義でありますならば、これはもう一回考え直して国民に明瞭な意見を、情報を与えつつやるのが正しかろうと私は申し上げているわけであります。したがって、私は何もかも政府がやっていることを全部しゃべれと言っているわけではございません。そして、当委員会でしゃべろと言っているわけでもありません。理事会というやり方もあるし、ある意味国民のある部分に対して意見を問いながら行なうということもでき得ると申し上げているわけであります。しかしこの交渉の——日中国交正常化ができたにもかかわらず航空協定ができない。中国側の非常な熱意から見て今後の日中関係は非常に問題になるのではないかという心配を国民が強く抱いているときであります。その心配があるがゆえに私はこの問題に関しては強く申し上げているわけです。ほかの交渉一々私はいま取り上げてはおりません。その事情を察していただかれてもう少し国民に知らせつつ——全部を知らせるわけはできないとしても、国民にはかりつつ、日中国交正常化の方向は進んでいるんだと安心してもらえるだけの方向性というものを、このむずかしいときでありますがゆえによけい必要ではないか、私はこう思っているわけであります。
  168. 大平正芳

    大平国務大臣 私が申し上げた趣旨はこうなんです。新聞に対して政府の意見として漏らしたというような、かってに漏らしたというようなものがあったら処断をせなならぬ。そのいうふらちな役人がいては困ると思うのです。問題は、新聞についていまあなたが言われておるのは、新聞がいろいろかぎ出してこられて、いろいろ推測を書かれたりすることなんです。そういうことは私は責任は負えないと言っておるにすぎないわけでございまして、それは政府がそのようにしておるわけじゃないのでございまして、あなた方に知らせないのに新聞にこっそりささやいておるということでは決してないわけなんでございまして、日本の新聞、きょうも大ぜいお見えになっておるようでございますけれどもたいへんな情報網がおありになって情報収集に鋭意つとめられておるようでございまして、新聞は新聞として自由を持たれてそして観測記事をお書きになっておるようでございまして、それについて私はどうも手のつけようがない。ただ政府が国会あるいは当委員会の皆さんに申し上げるべきことを、政府がまずこっそりと新聞に漏らしておるというようなものは許せないということを申し上げておるわけでございます。  それから第二に、交渉中のことでございまして信義をとうとばなければいかぬということでございますが、公の委員会で申し上げるか秘密理事会で説明するか、何かいろいろ方法はあるじゃないかということでございますが、私はどういう案件によらず御相談申し上げるべきことは、政府としての考えがほぼ固まりますとそういう機会を持つこともあろうか、お願いすることもあろうかと考えておりますけれども、まだ皆さんに御相談を申し上げるまでの段階に至っていないのであります。
  169. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 時間が延びていますからこれで終わりにいたしますが、私が航空協定にこだわりますのは、当外務委員会理事が近々に中国側を訪問いたすわけであります。そのときに少なくとも外務委員会理事、個人の資格でありましょうとも外務委員長も行かれるわけであります。それが日中航空協定について何も知らないでぽかんと行く、向こうは周恩来級の大物が出てきていきなり会う。藤井さんはどうお考えですかなんて委員長が聞かれる。委員長は何も知りません、わかりません、二回やっただけでその後乗り越えられないものではないと外務大臣が言っております、さようならといって帰ってこれるか。こんなみっともない外務委員会理事の諸君を中国側に派遣なさるのかと考えるだに、私は知らせない方針というものがどれぐらいすごいものになるか。向こうから見れば外務委員会理事などというものは、大平さんと同じように毎日外交問題について十分討議をしてわかっておる人々であるとして遇するのですし、そうでなかったら外務委員会理事は中国に行って魚釣りして帰ってくるしかない。私はそういう秘密外交のやり方が、結局は日本外交にとってはなはだしいマイナスになる可能性がある。このあと中国の派遣の問題につき当理事会で協議することになっておるわけでありますからもうやめますけれども、その席上でももう少ししかるべき御説明をちゃんといただきたい。知らしむべからずよらしむべし、まことにクラシックな徳川幕府の外交方針で行かれるおつもりなのかとまで私は言いたくなるわけです。まさかそんなおつもりのあるような方ではないと私は信じております。ですからもう少し何とかしませんと、こういう諸懸案事項が外交問題で積み上がっておる時期、まさにいま日本外交にとっては非常に問題点の多い時期だと思うのです。ある意味で冷戦時代とは全く違う時期、このときは適切にみんなに知ってもらうということが日本国のこれからの外交にとって大事であるという立場から要請を申し上げたわけでありまして、今後十分その点御考慮を賜わりたい、これだけ申しまして私の質問を終わります。
  170. 藤井勝志

    藤井委員長 次回は、来たる十二日水曜日午後二時三十分理事会、午後三時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後一時十七分散会