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渡部(一)
委員 国連の常任
理事国になることは、総理のお考えになるほどいい政策ではございませんですよ。それはあとでがっちりまた私申し上げるチャンスがあったら申し上げたいと思います。
それから、時間がありませんから、総理に
アメリカ外交についての、行かれるときに一つだけ注意していただきたいことがあるのです。それは、総理は大胆に行かれるおつもりでしょうが、
アメリカというのは世論の国だということです。したがって、世論形成が十分慎重に行なわれた後に政治家の行動があります。ですから、大東亜戦争、いわゆる太平洋戦争の勃発時期において、
日本を最初に第一撃させるのに十分な配慮が行なわれたことも事実だし、また今度のベトナム戦争終結にあたっても、
外交機密文書が漏れることによって国民に周知されて、初めてやめることができるようになった、やめろという方角に進み始めたのは御承知のとおりでございます。そうすると、今度の場合、
日本の田中総理が行くにあたりまして、
日本政府のいままでやってきたことに対しては、非常に強烈な反感というものがあるように思います。私は向こうへ行って見せてもらいましたけれども、
アメリカの国旗が地下鉄の中に飾られておったそうでありまして、その下にメイド・イン・ジャパンと大きな字で彫られていたり、そうかと思うと「貴方の
政府が
日本に職場を輸出している」という広告が、女性衣服組合の手で、ニューヨークの地下鉄の中に出ております。こういうキャンペーンが徹底的に行なわれております。それは単純に見ますと、佐藤・ニクソン共同コミュニケによって、
日本側が、
アメリカとの間の貿易の不均衡は、これは均衡を保つより直すというふうに
約束しているところから始まっているわけであります。したがって、それは向こうが、それが正しいかどうかではなくて、
約束を守るか守ってないかの次元でものをいっているわけであります。だから裏切り者という形であります。そこへ田中総理はしばしば、ドラスチックな変化を好まない旨、そういう急激に何か言ってもらわなくても、両三年の間に何とかなるのだという
説明を続けられました。それはどういうふうに向こうに映っているかというと、要するに裏切り者であり、要するに仕事をしない無能な人であり、要するに
日本というのはどうしようもない、奇怪なうすら笑いをする人物の集合体としか見えない。したがって、今度どういうようになるかというと、田中総理はおそらく、貿易不均衡が少し回復されたというので喜び勇んで行かれるだろうと思います。しかし、実際向こうはそういう目で迎えてくれるか、何だかよくわからない人が来たという感じになると思うのです。それはどういうふうにわからないかというと、ずけずけ申し上げますけれども、こういう経過もありました。ぼくはある
アメリカ銀行の幹部に会いました。そうしたら、そのときに彼らが言うのには、
日本側はこう
説明する、
政府の首脳部に会うと、財界が言うことを聞かないで困っているのだと言う。財界に会うと、労働組合がだめなんだと言う。労働組合に会うとまた政治家がだめなんだ、そういうふうにどこかで非常に困っているんだという
説明をする。どうなら変わるのかというと、結局は強大なる圧力がほしいのだという
説明になる。われわれはコナリー式の圧力をかけることは好まないが、圧力をかけてほしいというならいつでも外圧をかける用意がある。田中総理が来たときに十分差し上げましょう、こういう
発言をしておった。こういう圧力がかかってくるだろうと私は思います。したがって、政治家同士、ニクソンと会うだけでお話をしようと思って行かれると、問題の半分しか理解しないことになる。
アメリカの世論に対抗して、
アメリカの悪意ある世論に取り囲まれて、それを引き回すことができなければ、総理はほかの交渉もあまりできなくなるところに追い込まれる可能性がきわめて高い。私は、時間で、縮めて言いましたから過激な言い方になっています。しかし、総理に早くわかっていただきたいと思って言うのです。総理、十分気をつけないと、
アメリカ政府との交渉で意外な面が出てくる。総理、こういう点はどうお考えになりますか。