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大杉参考人 大杉でございます。
最初に、この
中島さんの
論文の論旨を簡単に申し上げたいと思いますが、これは、
原子力の過去の国内外の
事故経験から学んで今後の
事故防止に役立てよう、こういう趣旨で書かれたきわめて傾聴すべきものだと思っております。
今日、
科学者も国民も、
原子力安全問題に大きな心配や関心を抱いております。そういう心配をほんとうの
意味で取り除いて、健全な
原子力開発が進むように、しっかりとした
安全管理ができるようにということで、具体的提案までして主張しているものでございます。
特に二つの面が強調されておると思います。一つは、
事故例を記録、公開して流通させるということの必要性であろうと思います。このためアメリカのAECのWASH一一九二とか、あるいは「ニュークリアセーフティー」という雑誌、あるいはNSICのシステムといったものとわが国の現状とを比較いたしまして、わが国でも
原研あたりで
原子力安全情報センターを設けてはどうかというような具体的提案な
どもしております。
もう一点は、
事故における人的要因、たとえば教育訓練でありますとか、組織体制でありますとか、安全に関する考え方、自覚といったようなものでありますけれ
ども、こういうものの重要性を
指摘しております。この点で、イギリスのウインズケール
事故における徹底した体制までさかのぼった
調査と、わが国での
先ほどから例にあがっておりますJRR3
燃料破損事故のときの態度などを対比いたしまして、特に
技術的原因だけではなくて、体制上の原因までさかのぼった
事故調査の必要性といったものを
指摘している、こういった
論文であろうと思います。
次に、
処分に関する労働組合の態度でございますけれ
ども、
先ほど来
論文を
懲戒委員会にかけることはたいしたことじゃない、あるいは
処分の
程度問題だという御認識が出ておるわけでございますが、こういう感覚で
研究所が運営されておるということ自体が私
どもにとっては実に驚くべきことであります。しかも、
先ほど原先生も御
指摘ありましたが、「今後、このようなことのないよう
厳重注意する。」「このようなこと」というのはどういうことかわかりませんけれ
ども、何らかの禁止命令が出されておるわけであります。
論文に対して権力をもって処断したり禁止を命ずる、こういうことは
本質的に
科学技術、学問とは相いれないというふうに私は思います。−
山本先生のほうからいろいろと御
指摘があったわけですけれ
ども、直接的に一体どこが気に入らないのかという点は、私
ども、また
中島さんも
理事会から聞いていないわけであります。要求しておりますけれ
ども、今日現在まだいただいておりません。大体
論文内容に異論があるのなら、学問の場で、論議の場でやるべきことだということは申し上げておるとおりですけれ
ども、ですからこれはこの場で論議されるにふさわしいこととは思っておりません。しかし、
先ほど来あるいはこの前もそうでありますが、国会などで大まじめにどことどこが間違っておるというふうにがんばられますものですから、そうがんばられます以上、火の粉を振り払わなければならぬという気もいたしますが、一言だけ申し上げておきたい。
たとえば、JRR3
燃料破損問題を扱っておる
個所で、
脳腫瘍治療強行の結果
燃料の大
破損が生じたというのが間違っておるという
お話でございますけれ
ども、事実は
燃料破損続出の中で
脳腫瘍計画が進められて、大
破損が発見された後に
脳腫瘍治療照射を実施した、こういうのが事実であります。こういうのをあげ足とりというのじゃないかと私
ども思います。しかも
燃料破損の事実経過については、
論文のすぐ隣のところにきちんと日付入りで記載されておるわけです。しかもこの
事故例研究の各論に入る前置きにこう
中島さんは書いておられる。「
事故の忠実な
記述が目的ではなく、
事故から何を学ぶかについての筆者の所見であることをあらかじめ断っておきたい。」、こういう前置きで書いてございます。実にばかばかしいと言っては失礼かもしれませんけれ
ども、ほんとうにあげ足とりという感じをせざるを得ないわけです。
ほかの
指摘個所も、われわれがいま検討いたしましたところでは大体似たようなものと思っております。しかし、この点はいずれ学問の場で
科学的事実をもってはっきりさせるということにしていきたいと思いますので、ここではこれだけにとどめておきますけれ
ども、ただ言えることは、一部事実と相違したから云々で処罰されておるのではない、逆に、
中島さんを
処分するために一生懸命種をさがされた、こう判断せざるを得ないという感じを受けるわけであります。このことは
処分後二週間もたった今日、
論文のどこがいけないか催促しているにもかかわらず、まだいただいていない、きちんと
文書で書いてよこさない、それをいまおつくりになっているこういう状態、そういう状態そのものが証明しているのじゃないでしょうか。これでは
処分のための
処分だと見られても当然なんじゃないでしょうか。
どうしてこんな異常なことが
原研でまかり通るのかということ、過去の事例などでございますが、何度かこの国会でも問題とされましたように、枚挙のいとまがないほど安全軽視一三
原則軽視が重ねられてきておって、ついにこういう
論文に
処分をするというところまで立ち至ったわけであります。
若干の事例を申し上げたいと思いますが、昭和四十三年三月に
研究所が動力
試験炉にロックアウトをかけた事件はあまりにも有名であります。
研究所側は、電力会社からの意向があったということ、及び政府から人を減らせという意向があったというようなことから、当時五班三交代の勤務態様は四班三交代に変えるのだということで、一方的に業務命令で変更されました。しかもこれは労働協約に反して一方的にやりました。ですから、裁判の結果、昨年の十月
研究所側は完全に敗訴いたしました。しかし、ここで争われたのは、いわゆる労働条件の問題だけではないわけであります。労働組合が主張しておりましたのは、
原子炉の
安全運転を確保し、運転者あるいは
技術者の
技術向上という観点から見て、五班三交代という勤務態様を変更する必要はない、守っていく必要があるということを主張したのでありますけれ
ども、これが無視されたというのが事実であります。
さらに、
研究所が
原子炉のまわりにさくをめぐらし、監視小屋を建ててロックアウトという狂暴な手段に奔走していたときに、労働組合は何をしておったか。労働組合は、当時起きておりましたJPDRの圧力容器のひび割れの問題を取り上げまして、安全を守るための検討、
研究を進めておったわけです。
今日なお裁判が続いておるわけです。しかも昨年の夏以来、この
原子炉は配管のひび割れでもう十カ月もとまっているという状態でございます。所員多数がもう裁判を続けるのをやめてほしい、こういう希望をいたしましたけれ
ども、所側は、がんとして受け付けられないで控訴されました。控訴と同日付で労務担当の
理事がやめてしまわれるという異常もあったわけであります。
四十三年八月に再処理署名弾圧事件、これも国会で取り上げられております。こういうのが起きておりますが、これは地元の住民団体が、
動燃事業団の再処理工場の安全確保などを要求する東海村議会への請願署名を集めましたけれ
ども、その際日曜日に
原研住宅へも来たわけであります。
原研職員、家族の三百名余りが署名いたしました。この署名簿を
研究所当局は手に入れまして、署名した
職員一人一人を呼びつけまして、場合によっては自宅へ行って家族にまで、なぜあんたはこんな署名をしたのだと詰問したわけであります。さらに
理事長は、十一月一日付の
文書をもって、
動燃事業団に協力すべき
研究所の方針に反する者があったことは遺憾である、厳に軽率な行動を慎むよう
注意せられたい、こういう訓示を全所員にたれた。この事件は同年十二月の参議院法務
委員会で取り上げられまして、人権
局長は明瞭に請願権の侵害だと答えておられます。
この再処理問題でありますが、
原研ではこの再処理に関する
研究はこのころ打ち切られてしまったわけであります。膨大な放射能を放出する再処理工場に問題はないという態度をとり続けてこられたわけであります。労働組合は何をしておったか。われわれは独自に再処理工場の安全のために各種の検討、
研究を重ねてきたわけであります。幾つかの
論文や討議経過が発表されております。昭和四十七年一月には、「
原子力工業」という雑誌に再処理工場からの放射能放出をゼロにする必要がある、またそれが
技術的にもできるという建設的な
論文を、前の
委員長の舘野氏の名前で発表しております。これはたいへん大きな反響を呼びまして、ほかのいろいろな公害問題の社会情勢もありましたけれ
ども、
原子力委員長も、このような方向で努力するということを打ち出されたというふうに聞いております。
四十三年十一月から四十四年二月にかけまして、いまこの
論文で問題となっているJRR3の
燃料破損事故と
技術者の
処分問題が起きておるわけです。このときの経過については、
先ほど御質問ありましたので別に触れたいと思いますけれ
ども、とにかくこのときも、
研究所当局が
処分のための犯人さがし、
原子炉運転の強行にやっきとなっている中で、労働組合は一生懸命に
燃料破損の原因究明や体制上の問題を検討いたしておったわけです。そのためにたくさんのまた
論文集が出ております。ですから、
先ほど幾つかJRR3の問題で御
指摘になりました
個所につきましても、
技術的な
論文は私
どもたくさん持っております。
もう時間がありませんので簡単にいたしますけれ
ども、この数年来、各地の原発地元住民から
原子力安全問題で講演してほしいという依頼が労働組合に相次いできております。この前も町議会の議長から労働組合に説明してほしいという話がまいりました。こういう依頼がまいりますと、
研究所は何のかんのといってじゃまだてをするというような行為が出てくるわけです。たとえば
中島さんの例でありますけれ
ども、講師に呼ばれた当日に東京へ出張命令を出される、
理事長室に出張命令を出される、こういった事例があります。こういう事例はもう枚挙にいとまがないわけでありますが、たとえば、また
あとで別途詳しくあれしたいと思います。それから、四十六年十月には、北日本経済漁業学会というところからの発表依頼を差しとめた事例もあります。
それから昨年の十一月ですか、東海村の村議会から、
中島さんが
原子力安全問題で講演してほしいと頼まれました場合に、
研究所は、この人は適当でないといってお断わりになった。重ねての村議会からの要求で
出席いたしますと、その当日賃金がカットされる、こういう事件もありました。
この間
研究所は、軽水炉安全問題につきましては実証済みであって、安全問題であまりがたがた言ってもらっては困るというふうな姿勢であったと思います。つい二、三年前まで、いわゆるECCS問題がこんなになる前までは、軽水炉の冷却水破断
事故研究については早く打ち切ってもらいたいというような指示を
理事長みずから出されておったわけです。労働組合はその間どういう態度をとっていたか。
原子力開発は、三
原則を守り、公害を起こさないよう慎重に行なうという方針でやってきております。われわれは昨年末からことしにかけまして
研究を行ないまして、「軽水型発電炉をめぐる諸問題」という本をつくりました。
皆さんもお持ちになっておりますけれ
ども、こういう本でございます。一冊三百円です、実費ですけれ
ども。まだまだ充実させなければいけないものでありますけれ
ども、これは勤務時間外に
研究者が一生懸命がんばってつくったものです。労働組合がこういう
仕事をしなければならぬということはきわめて残念だと思いますが、本ができますと、
研究所の職制も争って買われる。
研究所当局も七十数冊を買われる、こういう状態でございます。
われわれのこういう安全への努力に対して、今回のような事件が出ましたということを、私は安全の問題への敵対だと見ないわけにはいかないわけです。安全を守ろうとする者、三
原則を守ろうとする者に対して、こういう弾圧に加えて不当な差別処遇というものもいろいろと重ねられております。
原研では労使紛争が多いということをしばしばいわれますけれ
ども、いま幾つかの事例をあげましたように、この紛争というのはわれわれは何一つ起こしたわけじゃないわけです。すべてどれもこれも
研究所当局のほうで引き起こされた事件、こういうことになっております。
国際的にも知られた、わが国の
原子力研究のセンターでもある
原研でこういう異常な状態が続いてはならぬ、抜本的に改善しなければいけないというふうに私
ども痛感しております。このままでは
原研は、その学術的、公共的使命は果たせなくなるおそれがある、そういうふうに考えております。結局、安全を最終的に保証いたしますのは、権力によるのではなくて、わが国の
科学技術者の持つ高度の
技術であろうと思います。抑圧するのではなくて、これを伸ばし育てるという保証をしていただきたい。そのためにも今回の
処分はぜひとも撤回して、伸び伸びと進取の気風に富んだ
研究所にしていただきたい、そういうふうに私はお願いするわけであります。
なお、最後の御質問にありました
事故例の報告状況でございますが、
先ほど来ありましたように、米国ではたとえば「ニュークリアセーフテティー」という雑誌が出ております。それからWASHというのが出ておりますが、この「ニュークリアセーフティー」というのは、日本で年間千八百五十円で入手できるわけです。これは年間六冊出るわけです。われわれ労働組合も、センター的なものをつくって交流制度をつくるようにということを、
研究所にも要求いたしております。これに対しては
研究所は、答える必要がないということで、これは断わっておられるというのが現在の状態であります。
若干例を申し上げますと、
原研での
事故報告というのは、JAERIメモになっておったりJAERIレポートになっておったりいろいろいたしますけれ
ども、全部がこういう公式の印刷物になっているというわけではありません。たとえば昭和四十三年に起きましたJRR2の制御台焼損
事故に関しては、これの
事故報告というのはいわゆる公式のレポートに登録されていないのではないかという気がいたします。あるいは廃棄物処理場建家内火災
事故、こういうものについてもレポートに載っていないのではないか。あるいは、これも四十七年に起きましたプルトニウムボックス内の火事、こういったものもレポート類になっていないのではないか。あるいは同じく四十七年に起きましたJRR4の火災
事故についても載っていないのではないか。この点はまだ
研究所でどういうふうに扱われるか知りませんけれ
ども、現在の状況では公式のレポートにはなっていないのではないかというふうに考えております。
以上です。