○塩出啓典君 私は、公明党を代表して、ただいま
議題となりました
昭和四十七年度
補正予算三案に
反対の
討論を行なうものであります。
反対理由の第一は、
国民大衆の期待を全く裏切った
予算だからであります。
田中内閣は、発足以来、歴代保守党内閣がとり続けてきたもろもろの
政策を批判し、
国民福祉優先の
政策に
転換することを公約してきました。したがって、本
補正予算は、今日までの
高度成長と生産輸出第一主義の
経済運営を改め、
国民生活の安定をはかるものでなくてはなりません。すなわち、
社会保障関係費や年金の増額をはじめ、四十七年度当初
予算で見送られた
所得税減税の実施、
生活環境
改善のための
社会資本整備等が行なわれるべきであります。しかるに、今回の
補正では、こうした福祉
関係の
予算は
社会福祉施設にほんの申しわけ程度行なわれただけで、
国民の期待を完全に裏切っております。
田中総理の最初の施政方針演説の、「豊かな
国民生活を
実現するため、欠くことのできないものは、
社会保障の
充実であります。このため、今日までの
経済成長の成果を思い切って
国民福祉の面に振り向けなければなりません」との演説は、実に言葉のみに終わっております。この一事をもってしても、
田中内閣が、従来の保守党の
政策の
軌道修正は言うべくして実行できないことは明らかであります。
反対理由の第二は、時期はずれの
大型補正予算が
インフレの危険を高めるとともに、
政府のいう
国際収支の
黒字調整にも役立たないからであります。
政府の四十七年度の当初
経済見通しのGNP
成長率は七・二%で、今回の改定で九・五%に引き上げられ、民間研究機関や銀行の発表では一〇%成長が確実視されております。こうした時点でなぜ五千三百億円をこえる
公共事業費の
追加補正を行ない、
景気を刺激するのが理解できません。
最近の
卸売り物価の
動向は、日銀総裁の警告を待つまでもなく、八、九、十と三カ月、棒上げの状態であり、しかもその中で鉄鋼と木材の値上がりが大きなウエートを占めておるのでありまして、
公共事業の
拡大がこれらの価格を一そう押し上げることは間違いありません。さらに、日銀券の月別平均発行残高は、ここ数カ月一七・八%と高い増発が続いておりますし、ことに十月は二〇・八%と
昭和三十六年以来実に十一年来の
増加率となっております。これから年末に向かっての資金需要や来年の
景気上昇気配等を考えますと、日銀券の一そうの増発が続くものと見なくてはなりません。さらにまた、
経済企画庁の
景気警告指標は、過熱警戒を告げる一歩手前の二・九となっております。このように
景気は着実な自立上昇
軌道に乗り、
物価や通貨に警戒すべき要因が出てきているときに、
大型補正を組み
財政面から需要を
拡大することは、
インフレの危険があることは明らかであります。
政府は、本
補正の
公共事業費
拡大を
国際収支改善策であると言っており、
予算委員会で総理は、本年度中に五億ドル、来年度まで含めると合計十七億ドルの
黒字解消に役立つと
説明されましたが、それなら四十七年度当初
予算で二兆一千五百億円という膨大な
公共事業費
予算を計上し、伸び率二九%と四十年代最高の増額をしながら、百億ドルの
貿易収支の
黒字発生が確実といわれているのはどうしたわけでしょうか。本
予算と
補正予算の
公共事業費に質的な違いがあるとでもいうのでしょうか。このような不明瞭な
政府の
姿勢こそ、今日の
国際収支問題を生んだ大きな原因であるといえましょう。こうした無定見な
政府のもとでは、円の再
切り上げはおろか、再々
切り上げも起こる可能性があることを強く警告します。
反対理由の第三は、
歳入に計上された公債金収入三千六百億円と
租税収入二千八百億円についてであります。
まず、巨額な公債発行が
公共事業費
予算の財源調達手段として使われている
現状を認めることはできません。四十七年度の公債はすでに当初
予算で一兆九千五百億円、依存率一七%と相当多額に発行されておるのであります。その上、今回の
補正で
追加されることにより、発行額は二兆三千百億円、依存率一九%とはね上がっております。四十一年度に本格的な国債発行が始められてから四十六年度までの発行済み額が三兆一千八百億円でありますから、四十七年度は一年間で過去六年間の発行額の約六〇%の国債が発行されるのでありまして、これは容易ならざる事態であります。さらに、戦時はともかく、平時にこれほど高い公債依存率の国は
日本以外にありません。今後の国債費負担等を含めて考えたとき、こうした国債の安易な増発を承認するわけにはまいりません。
昭和四十七年度の税の
自然増収を、法人税と相続税に限って二千八百二十億円を計上しておりますが、
経済の
動向、
租税の収納状況等より判断して、その他の税も相当多額の
年度内自然増収が出ることは確実であります。
政府が故意に
年度内自然増収を過小見積もりをしていることは、
年度内減税の
国民的要求を回避することと、
国民の納め過ぎた税金を行
政府が意図する方向に自由に使おうとするねらいがあるとしか思われません。こうした四十七年度
補正の
歳入予算に対しては
反対するものであります。
最後に、今
国会の論議を通じて明らかになった
田中内閣の外交、防衛、
経済政策について、重大な警告をしておきます。
国民の支持を完全に失った
佐藤内閣が引退し、「
政治の
流れを変える」とのキャッチフレーズが登場した
田中内閣の
政治姿勢は、
政治資金規正法一つをとってみても、言を左右にして改めようとせず、いままでの延長以外の何ものでもないと断言せざるを得ません。
外交、防衛
政策では、
アジアの
緊張緩和の方向に逆行し、
アジアの諸国の不安を高めております。すなわち、三次防を倍増した四兆六千三百億円の四次防を決定し、量的な
拡大をはかるばかりでなく、質的に格段の違いがある攻撃的
兵器の
装備を推進しようとしているのであります。
さらに、今年八月のハワイ会談では、
安保条約の
効果的運用の
確保を約束し、その実行ということで、
車両制限令を違法、不当な論理を用いて改悪し、
相模補給廠の戦車を南ベトナムに送り、米国の
ベトナム戦争に加担し、また、
台風避難を口実にしたB52戦略爆撃機の
沖繩飛来を無条件に認めるなど、米国追随の
姿勢を強めております。
わが国の将来にとって憂慮すべきことであり、
田中内閣に猛省を促したいのであります。
次に
経済政策に一音触れるならば、
国民福祉を優先すると口では言いながら、実態は
産業優先、大
企業優先の
経済運営を行なおうとしております。鉄鋼の不況カルテルを、需要がふえ、価格は上昇し、増産指示を通産省が出しておるという状態のもとでも、カルテルを是認し、鉄鋼価格の高位安定をねらい、大
企業の利益擁護をはかっております。
また、
土地の投機や買い占めに対する規制も、すでに議論は出尽くしており、ただ、
政府の
決断だけが残された問題なのであります。わが党の調査によっても、大手不動
産業者や商社を中心にした
土地買い占めが神奈川県の全面積を上回る約二十五万ヘクタールに及んでいるのでありまして、これは金もうけと投機の手段に
土地が使われていることを証明しております。こうした実態が明らかになっても、
政府は何一つ有効な手を打とうとはしません。
田中内閣のうたい文句の「
決断と実行」は、まさに看板に偽りありと断言します。
列島改造論で、田中総理は、福祉は天から降ってこないと主張し、
経済の
高度成長が必要であると主張していますが、
佐藤内閣でも、
政治末期には、「福祉なくして成長なし」と言わざるを得なかったのであります。しかるに、田中総理の
列島改造は、「成長なくして福祉なし」と、まさに歴史の歯車を逆転させようとするもので、ここに
田中内閣の間違った
経済政策の出発点があることを強く指摘して、私の
反対討論を終わります。(
拍手)
—————————————