○中村参考人 私が、ただいま御紹介いただきました中村でございます。
本日は、最近の
金融情勢並びに今後の銀行のあり方ということについて、全銀協会長として
意見を述べるようにということでございますが、御高承のとおり、全国銀行という範疇の中には、都市銀行や地方銀行といった普通銀行のほかに長期信用銀行や信託銀行も含まれておりますので、全銀協会長とはいいながら、本日は都市銀行に身を置く者という
立場から、日ごろ
考えております点についてお話をさせていただきたいと存じますので、この点御了承いただきたいと思います。
さて、初めに最近の
金融情勢と今後の展望についてでありますが、一昨年の秋以来停滞を余儀なくされておりました
わが国の
経済は、先般発表されました
経済白書にも明らかにされておりますとおり、昨年末をもって不況も底を打ち、本年に入りましてすでに回復過程に入りまして、昨今では、回復のテンポも次第に高まっているようでございます。
昨年夏のニクソン・ショック、その結果といたしまして、昨年の暮れには、
わが国未曽有の経験と申すべき円の切り上げという
事態を余儀なくされたのでありますが、それらの影響をさしあたり最小限にとどめて、予想より早く回復過程に入り得ましたのは、財政
金融政策の適切な運営のもとで、国民が不況の克服に真剣な努力を重ねた結果であると存ずる次第であります。
しかし、
経済が回復
段階に入ったとは申しますものの、いわゆる需給のアンバランスはなおかなりのものがあり、また国際収支面での不
均衡を早急に是正するためにも、今後の景気回復をさらに堅実なものとする必要があると
考えられます。
その一環として、先ごろは公定歩合の第六次引き下げをはじめとする金利水準の全般的な引き下げが
実施され、またこのたびは財政投融資計画の追加が行なわれました。今後もこのように財政
金融政策の運営が弾力的に行なわれますれば、遠からず
経済は本格的な上昇軌道に乗るものと確信いたしております。
しかしながら、
わが国経済の行くえをやや長期的に展望いたしますると、その前途は必ずしも楽観を許されるものではないと存じます。
その第一は、世界
経済に占めます
わが国の地位の上昇に伴って生じます
政治、
経済両面における国際的
義務、
責任の増大であります。
わが国の
経済の規模の大きさと
発展力の著しさは、世界
経済、国際通貨の両面に少なからぬ影響を及ぼすに至り、
わが国の
経済動向、したがってまた
わが国の財政
金融政策のあり方が、世界の注目と期待を集めるところとなっているのであります。
このような
事態に対処いたしまして、
政府はすでに種々の方策を打ち出してはおられますが、今後も国際協力を積極的に推進してこそ世界の信頼を得、今後の
わが国の新しい
発展に望ましい結果をもたらすものと
考えます。
第二の変貌は、これまでの設備投資、輸出リード型の
経済から国民福祉重視型
経済への転換と、それに伴って生じます
経済成長率の相対的な鈍化であります。
これまで、
わが国経済はいわゆる超高度な成長を続けてまいりましたが、世界の
経済発展と無
関係にひとり
わが国だけが高度成長を続けていくことはもはや許されず、
わが国経済も減速過程に入ることを余儀なくされましょう。そして成長の果実を国民福祉の充実に還元せよとの国民の要請がますます高まりますのも当然でございます。国民あっての国家であり企業であります以上これらの要請に
経済が傾斜いたしますのは必然の方向であると
考えます。
経済の成長鈍化は、その他の要因からも予想されます。たとえば技術革新のスピードの鈍化、人手不足の激化、資源の入手難、工場立地条件の悪化などがこれであります。
いずれにせよ、短期的な景気循環は別といたしますると、趨勢として
わが国経済は一〇%を大きく上回る
経済成長はあまり期待し得ず、その中で人間性豊かな福祉社会の実現に邁進してまいらねばならないと存ずるのであります。
こうした
経済の変貌の中において、
金融環境も大きな変化を見せてまいりました。特に昨年来
金融市場はかってない緩和
状態を現出いたしました。このため、都市銀行の貸し出し金利も急速に低下はいたしまして、平均約定金利もこの七月には六・六〇五%という戦後最低の水準にありまして、低下傾向はさらに進行いたしております。
ところでこのような
金融市場の緩和をもたらしましたのは、外貨の流入に伴って外為
会計からの巨額の資金が市中に供給されましたことが最大の要因でございますが、国内の企業の資金需要の鎮静化がこれに拍車をかけたかっこうになっております。もちろん、これまでの緩和は異常であり、これが長続きするとは
考えられません。すでに景気回復に伴って企業の資金需要も出てきておりますし、対外対策の
実施も含めまして、外為
会計の払い超額も大幅に縮少しております。したがいまして、季節的には逼迫することも十分予想されるのであります。しかしながら、やや長期的に見ますると、
日本列島改造に伴いますもろもろの資金需要がかなり予想されますものの、前述の
わが国経済の成長率鈍化を前提とする限り、過去におきますような大幅な資金不足が恒常的に続くとは予想されず、
金融市場の
正常化は引き続き進展するものと思われます。そして銀行の資金運用の対象は、法人部門が減少して、財政部門、海外、そして個人向けの比重が高まるものと予想されます。こうした動きは先進諸国の過去の歴史について見ても十分うかがえるところでございます。このような
経済、
金融環境の変化に対応いたしまして、銀行の役割り、あり方も当然変化してまいります。
そこで、次に銀行の今後のあり方について話を進めさせていただきます。
その第一は、
日本経済の国際化と銀行のあり方についてであります。
前に申し述べましたとおり、
日本経済の国際的な地位の上昇に伴いまして、
日本経済のいわゆる国際化が急務となってきております。
経済の国際化とは、企業を中心にもろもろの活動が地理的、人種的なかきねを越えて行なわれることであると
考えられます。現に企業はかなり以前からこのような方向に積極的に動き出しているのでありますが、今後
わが国が国際的な
均衡を維持しながら
発展してまいりますには、欧州あるいは
アメリカだけでなく、広く
発展途上国を含めた全世界に歩を進め、世界
経済の
発展に貢献することが必要だと
考えられます。こうした流れに沿って銀行も国際化の進展を急ぐべきことは言をまたないのであります。
その場合、銀行の役割りといたしましては、海外支店網の充実、あるいは国際投資銀行への参加等を含めまして、国内であると海外であるとを問わず、必要とされる
金融機能を一段と拡充し、もって企業の国際的な活動を円滑化することであると
考えております。それと同時にきわめて重要なことは、
わが国の
金融市場を国際的に孤立することのないよう市場の国際的水準へのレベルアップに協力することであります。ただし、これはひとり銀行のみの力でできるものではなく、まず
金融環境そのものをこれまでの半ば閉鎖的なものから開放的なものに移していかねばならないと存じます。それには金利メカニズムが一そう働くように金利の弾力化、自由化を進め、為替管理の方式も原則自由で有事規制の方向へできるだけ早く移行すべきだと存じます。またそのほかにも
金融に関するもろもろの
制度、
行政、慣行などを見直し、世界の
金融市場に対抗し得るよう
金融の
正常化を推進せねばならないと存じます。
もちろん、最近に至りまして対外投資の自由化、外貨集中
制度の廃止、ロンドンでのCD発行等漸次前向きな政策が打ち出されてまいっておりますが、資金の吸収、放出の両面において規制を一そう緩和し、
わが国の銀行が世界の銀行と対等の条件で競争しうる環境が整備されるよう期待いたしております。そうしてこそ、
わが国の銀行も、その有する機能を活用して、内外のニーズにこたえられることと
考える次第であります。
一方、
経済環境の変化に伴いまして銀行の国内面において果たすべき役割りも当然変化してまいります。
それは、
わが国の新しい
発展目標に沿いまして国民一人一人の生活基盤の上昇並びに国民の真の豊かさにつながります社会資本充実への貢献でございます。社会資本充実のためには、
政府金融機関等公共機関の果たすべき役割りは大きいのでありますが、すでに銀行は国民生活の向上という観点から、公共資本充実のための国債、政保債等いわゆる公共債の円滑なる消化はもとより、公共企業体に対する貸し出しなどを行なっておりますが、今後こうしたウエートが高まるのは前述したとおりでございます。
しかしながら、新時代を迎えての銀行の最大の責務は、国民大衆のあらゆる要請にこたえ、信頼を寄せられる銀行になることだと思います。銀行にとりまして国民の大切な財産である預貯金を安全かつ有利に保管することは重大な責務でございますが、同時に国民が利用しやすい貯蓄
手段の開発を鋭意心がけてまいらねばならないと
考えております。先般、景気動向並びに国際的な観点から、預貯金金利の引き下げが行なわれましたが消費者物価の上昇がなお続いている事情等にかんがみ、国民の貯蓄意欲をそこなわない方策の
実施が望ましいのであります。もちろん、その中心は地価対策をはじめとする強力な物価安定策の
実行でありますが、それとあわせてこの際、預貯金利子に対する課税の優遇がぜひとも必要だと信じております。
全国銀行協会連合会では、預貯金利子の源泉選択分離課税率二〇%の据え置きをはじめ、老齢者の預金利子の非課税、住宅貯蓄並びに住宅ローンについての
税制上の優遇等を強く
希望いたしており、これにつきましては近く
関係各方面にお願いに参上する所存でございますので、よろしくお願いいたします。
もちろん、貯蓄者に対する
配慮は私
ども銀行でも十分検討いたしており、
金融資産の多様化という国民大衆の要望にこたえて、貯蓄者にとってより有利な貯蓄
手段の開発につとめてまいりたいと存じております。
銀行の国民大衆に対する役割りは、貯蓄面についてだけではございません。今後は国民一人一人の生活水準の向上のためにいかにして安定した低利資金を提供するかが大きな責務となってまいります。すでに銀行は国民生活の向上という観点から、住宅
金融をはじめいわゆる消費者
金融の拡充につとめております。しかし、国民福祉の充実という点におきましては特に住宅
金融の質と量両面にわたる充実が必要だと
考えます。すでに銀行の住宅ローンは次第に定着しつつあり、また民間
金融機関の出資による住宅
金融会社の運営もようやく軌道に乗りつつあります。こうした
制度面の充実と同時に金利面でのサービスをさらに一そう進め、国民住宅の建設に積極的に貢献いたしてまいる所存でございます。こうした国民生活の実質的向上はひいては産業界の
発展にもつながり、バランスのとれた
経済発展の道を約束するものと思います。
ただ、銀行の大衆化を心がける場合に特に自戒すべきことは、
制度の整備と同時に銀行員の一人一人が顧客の
立場に思いをいたして、真に要請されるサービスを提供することだと
考えております。
以上述べましたような
経済、
金融環境の変貌に伴いまして、企業の経営環境はいよいよきびしさを増し、資金の提供者としての銀行に対する期待は一そう高まるものと思われます。また、国民の銀行に対する要請も多岐多様になることも必定といえましょう。その場合、銀行のあり方としては、預金者に対してはできるだけ高い利息を提供する半面、資金の需要者には低利な資金をいかにして安定的に供給するかであります。しかも国際化のもとでは海外の銀行との競争にもたえていかなければなりません。
こうした役割りを全うするには、銀行はこれまで以上に効率化、合理化を推進せねばなりません。かねてより銀行はコンピュータリゼーションを中心に鋭意効率化に努力してまいりましたが、明年四月以降、全国銀行内国為替
制度の稼働も予定しております。これによりまして全国の約七千の銀行店舗が、これには商工中金も入りますが、通信回線で結ばれまして、送金、取り立て等が最長の場合でも一時間以内に完了され、お客さまにとってもたいへんな便宜となるのであります。通常二、三分で決済をされる見
込みであります。これは全く画期的な全世界に例を見ない
制度でありまして、今後もこうした効率化に対する努力を続けてまいる所存でございます。
しかしながら、
金融機関サイドによる合理化の推進には限度があることは否定できません。したがいまして、
金融制度の改善を含めた効率化も
考えませんと、国際的な競争に立ち向かえないと思うのであります。たとえば欧米の銀行にならいまして、業務の多様化を進め、業務分野間のかきねを漸次低くしていくことも必要だと思います。こうした方向のもとに銀行相互間に適正な競争原理を導入して、民間の自主的な判断によります提携、合併等を進めて、
金融界全体の効率化を推進すべきだと存じます。
そうは申しましても、銀行は一般の企業に比べ一段とその公共性に思いをいたさねばなりませんし、信用機構の中枢でございます銀行界に無用の混乱を生ずるような
事態は、絶対避けなければなりません。また現在の
金融制度には歴史的、社会的背景が強く結びついているのでございます。したがいまして、これを単に
経済合理性とか効率化という理論的側面だけから軽々しく論ずるのも問題があるかと存じます。すなわち、
経済的、社会的背景の変化を十分に洞察し、タイミングに十分
配慮しつつ、弾力的にしかも着実に前進させていくことが必要だと
考える次第でございます。
以上をもちまして、私の公述を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。