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公述人(
鈴木幸夫君)
鈴木でございます。
四十七年度の
予算案に関連いたしまして、特に物価問題について話していただきたいというような御注文でございましたので、きょうはその物価対策を中心といたしまして若干私見を述べてみたいと思っております。きょう申し上げますことは、今度の
予算の中で物価対策の関連する
予算というものが大体どのくらいあって、それがどういう効果を発揮するかといったような
予算上の問題よりも、むしろ今度の
予算の編成に関連いたしまして、その
背景になっております
政府並びに自民党の物価問題に対する取り組み方についての若干の私なりの
意見と、それから、単に
政府与党サイドだけではなくて、野党側の
先生方におかれましても、あるいはもっと広くマスコミを含めました国民一般の側からも、この物価問題に対して、まあいろいろ異なった
意見があるわけですけれども、その
意見の
認識といいますか、
状況認識について、それぞれ問題があるように私も思いますので、まあ、その全体をひっくるめまして、今日の
予算をめぐる物価対策のあり方について若干
意見を述べてみたいと、こういうことでございます。
その前に、私なりに今日の物価の
状況についての基本的な見方ということを、時間がございませんから、かいつまんで申し上げたいと思いますが、今日、先ほども
下村先生もおそらく御指摘になったと思いますが、国民
経済の
需要と供給とのギャップというものは、人によって見方はいろいろございますけれども、数兆円から——まあ
下村さんのように十兆円以上ということを
主張されている方もいらっしゃいますけれども、相当大幅な開きがある。こういう
状況のもとでは、少なくとも卸売り価格というものは、ここ当分よほど
財政金融政策の面で積極的な手が打たれない限りにおいては、卸売り価格というものは、そう大幅に上がるものではない。そういう意味においては、今日一般的にいいますと、
日本の場合は
需要面からの
インフレのファクター——要因というものは大きくないと。そういう面で
インフレ要因というものは非常に少ないんだというふうに
認識していいんじゃないかと思うわけでございます。ただ、卸売り価格の中身を取り上げてみましても、最近のようにカルテルといったような形で、いわゆる製品価格を下げ渋る、むしろ積極的に上げるというふうな、そういう動きが各業種ごとに強まっていると、その辺に
一つの問題があるんじゃなかろうかと、さらに今度は、卸売り価格だけじゃなくて、もっと一般的な国民生活に密着している
消費者価格につきましては、これは卸売り価格と違いまして、
生産性と賃金とのギャップというものがだんだん目立ってまいりました。特に流通とか、農業その他のいわゆる
生産性の低い分野というところにおいては、これは御承知のように、なかなか
生産性を上げるといっても簡単に上げることはむずかしいということもございます。そういう意味で、こういったような部門についてはいわゆるコスト
インフレ的な要素、つまり、賃金の上昇が
生産性の上昇を上回るというようなかっこうでの価格の上昇というものがかなり一般化している。もちろん野菜のように需給関係によって変動するものもいろいろございますけれども、根っこにあるものはそういったような問題があると、したがって、
消費者価格の問題について議論するとなれば、どうしても流通部門を含めました構造的な
政策というものを積極的に展開していかなきゃいけない、こういうことになるわけでございますが、その点についての問題がいま一番大きな問題として出てくるであろうということに考えておるわけでございます。
そこで、きょうの話は、最初に申し上げた卸売り価格をめぐるカルテルの問題についての若干の私の見方と、それから
消費者価格につきまして、特に最近問題のありますのは、いまの流通なりあるいはその生産構造の合理化の問題と関連いたしますけれども、円の
切り上げをやったにもかかわらず
輸入したものの価格が下がっていない、こういう
状況でございますが、なぜそういうようなことが起こっているのかということについての問題点を少し指摘したいということと、さらにもう
一つの問題は、
消費者価格に公共料金の引き上げという問題がどういうふうに影響しているか、しかも、公共料金の問題につきましては、上げ方の問題——それから、その上げ方の問題と申しますのは、いわゆるタイミングあるいはその方法論としての問題と、それから公共料金自体の今後のあり方ということについてどういうふうに考えたらいいかという問題と二つあるかと思いますが、その点についてお話してみたいというふうに考えるわけでございます。
で、話の順序はちょっと入れ違いになって申しわけないのですが、最初にやはり公共料金の問題について申し上げてみたいと思います。公共料金の問題につきましては、まず第一に今度の
予算編成にからんで指摘しなきゃなりませんことは、これは皆さん方の多くも御指摘になっていることだと思いますけれども、何と申しましてもやはり、公共料金の個別の料金を上げることの是非はともかくといたしまして、一ぺんに何もこうかためて一斉に二割も三割も上げるというふうなやり方自体が非常におかしいんじゃないか。これは私は公共料金の引き上げ自体に反対しているんじゃないんですけれども、いかにもこういうやり方というのは、実際にそれが
消費者物価指数に与える影響というものは、
経済企画庁が言っているように〇・九%ぐらいにとどまるかもしれませんけれども、私はもっと多いと思いますけれども、かりにその
程度にとどまるといたしましても、政治の姿勢として、やり方としてはやはりまずいんじゃないか。非常に心理的な悪いフラストレーションを国民全体に与える。むしろ公共料金問題について言いたいことは、これまで何回も一年ストップというふうなことを繰り返し行なわれてこられたわけでございますが、そういうことのやり方自体に問題がある。さらにもっと突っ込んでいえば、公共料金はいつも上げちゃいけないんだというふうな
考え方にあまりにこだわり過ぎていられるために一もちろん皆さん方いろいろ選挙区とも御関係もおありでしょうし、あまりそんなことを言うとまたいろいろあとで差しさわりがあるかもしれませんけれども、どうも上げるべきものをタイミングを逸しやすいということに問題があるんではないか。私は、必要であれば、漸次、随時、タイミングを見はからってやはり上げていく必要がある、一ぺんに二割も三割も上げるんじゃなくて、二%でも三%でもいいからタイミングを見はからって上げていく、そして全体として一挙に物価指数なり国民生活に大きな影響を与えるようなことのないような上げ方が必要ではなかろうか。それは国民ももちろんそういうことについて十分理解してもらわなければいけませんけれども、
先生方のお立場からもそういう点はよくよくひとつお考え願いたいということでございます。
で、まあそういうことについてあまりくどくど申し上げたくはございませんけれども、
経済企画庁の言い分からすれば、ちょうど四十六年度に上った
消費者物価の上昇の影響が四十七年度に影響してくる分というのは大体三%くらいあると、今度の場合はまあ一・五ないし二・三%と言っておりますが、せいぜい二%そこそこであろうと、したがって、
政府の物価見通しでいけば五・三%ということになっているんだから、少なくとも三%以上の三・幾らかの余裕があるんだ、その余裕の分の中で公共料金の問題を考えていく場合には、公共料金がかりに〇・九%上がったとしてもその中に十分吸収できるので、五・三%の見通しは変えることはないのだ、こういう言い方をしているわけでございます。いわゆるげたのはき方の問題になってくるわけでございます。ところが、三・七、八%と言われておりますけれども、その
程度のゆとりのある分と申しましても、これは四十六年度の年度末——三月いっぱいまでに
消費者価格の面でかなり上がっている部分もございますので、げたの部分がかなり少なくなっている面もあろうかと思います。これは厳密に私は統計資料を持っているわけじゃございませんけれども、そういう問題がございます。そこで、余裕も若干少なくなっているという問題もございますが、同時に、公共料金というのは、単にそれ自体の直接、間接の効果だけじゃなくて、それがもたらす心理的な影響というものが、いろいろ国民全体の物価に対するマインドと申しますか、そういうものを非常にゆがめてくる、そういうこともいろいろ考えてみますと、とても〇・九%ぐらいの影響じゃおさまらないだろう。したがいまして、ことしの
消費者価格というものは、生鮮食料品なんかで若干のまあ変動はあるかもしれませんけれども、六%に近い上昇を見るんではなかろうかというふうに私は考えております。しかし、その問題は一応別といたしましても、先ほど申し上げましたように、この公共料金の問題については、まずそのタイミングを逸しないということが必要である。私は公共料金一般の問題につきましては、こういうふうに考えているわけでございます。これは
先生方の中にもおそらくそういうお考えの方もいらっしゃると思いますが、基本的には公共料金というのはそれは安いほうがいいわけで、特に公共料金を上げないで、できるだけ国鉄なりあるいはその他の公共企業体のみずからの合理化努力というものを大いにやってもらうということからいえば、料金はなるべく上げないで合理化に追い込むというやり方は非常に重要なねらいであると思いますけれども、しかし、
現実にもう公共企業体の多くが合理化だけではもうやっていけないという面が非常に多い。それはもう財政で見るかあるいは料金で見るか。あるいは財政で見る場合でも、それを一般会計で見るか。あるいは一般会計で見る場合でも、それを税金で見るのか、公債で見るのか。そういったような議論まで含めましていろいろ考えてみなきゃならないわけでございますけれども、私は、そういう点が非常にいままであいまいであった。で、公共料金の引き上げについてのはっきりした
政策上の基準というものが何らありませんで、そのときそのときの財源事情の中で、しかも、そのときそのときの国会の内部での与野党の力関係だとか、
政府内部でのそれぞれの思惑といったようなものがからみまして、そして場当たり的に、あるときには料金を上げてみたり、あるときは財政で負担するとか、あるときはもうほおかぶりして全然何も手もつけないとかいうふうなことをやってきたわけで、こういう点をもう少し、もっと合理的にひとつ検討していただかなきゃならないんではないかというふうに考えるわけでございます。国鉄の総裁が、もうことしの職員の退職金を払えない、青い顔をして大蔵省に飛んでいくというふうなことになって初めて国鉄の再建問題がやっと与野党含めて本格的な議論を展開するようになった。そうでもならないと、なかなか思うように手がつけられないというふうな問題がございます。これはいろいろ
政府のトップの方々にも反省していただかなきゃならない問題だと思います。まあ、公共料金問題については、一般的にそう考えるわけですが、なるべく上げないに越したことはない。一部の学者の中には、公共料金は安いに越したことはないんで、むしろあれはどんどん低くしていったほうがいいんだと、こういう
考え方がございます。私は、さっき一等最初に申し上げましたように、それは公共料金を抑制していくことは、公共企業体の合理化努力をプッシュしていくという意味においては必要な
措置だと思いますけれども、もうすでに今日ではその限界に来ているというふうに考えるわけでございます。そこで、どういうふうに公共料金の問題を考えたらいいかということでございますけれども、今日社会資本が足りない、道路関係、鉄道その他を含めまして、そういうものが、国民的ないわゆる社会的な
需要というものに対して供給が足りないわけでございます。で、
需要が非常に強くて供給が足りない場合においては、これはある
程度公共料金を上げていかなければならない。なぜならば、その供給をふやすためには財政面で相当な財源
措置が必要であるわけでございますから、その財源
措置については料金で負担するか、税金でやるか、公債でやるかという問題はございますけれども、いずれにしても、相当
程度国民が負担しなきゃならないということであるわけでございます。そういう面からすれば、私は、いまの
状況では大多数の公共企業関係の問題というのは供給不足に問題があるんだというふうに考えております。もちろん、供給が十分あって、そして
需要とのバランスがどちらかというと比較的とれていて、場合によったら供給が多目のものもあるというふうなことであるならば、これはむしろ公共料金は
政策的に控え目に押えていくということは必要だと思いますけれども、今日、大多数の公共企業関係の問題について考えればむしろ逆であろうと、したがって、私は、その公共料金の引き上げについてはどちらかというと比較的寛容な立場をとっているわけでございます。で、むしろ先ほど申し上げましたように、一年間ストップをして押えてしまうというようなことは、これは、私も関係しております物価安定
政策会議が第三調査部会で提言案をまとめておりますけれども、それにも指摘しておりますけれども、資源配分というものをゆがめていくとか、あるいは国民の便利さというものを阻害するというふうな問題が出てまいりますので、むしろ積極的にそういう面は考え直していかなければいけないんじゃないかというふうに私は考えるわけでございます。
さらに、時間がございませんから、あまり公共料金ばかりやっておれませんけれども、もう一言だけつけ加えさせていただければ、要するに、利用者負担ということは私は原則的に大賛成ですが、その利用者負担のあり方については、たとえば土地の値上がりによる開発上の利益というもの、これは必ずしもそういう利益が実際に交通事業なんかをやっている事業主体にうまく還元されていない面もいろいろございます。したがって、これはやはり固定資産税の評価額に対する付加税を取るとか、あるいは地価が上昇した分以外については事業所税的なものを新しく考えるとか、あるいは一般的に見て都市交通税的なものを考えるとか、何らかそういうかっこうで開発利益というものの還元をはかっていくと、そうすればおのずからこの交通企業そのものが利用者に対して料金の面で負担させる部分がある
程度軽減されることもできるんじゃなかろうか。これは詳しく説明しないとちょっとまた誤解を受けるかもしれませんが、そういう問題がございます。したがって、そういう開発利益の還元のしかたについてもいろいろ
先生方にくふうしていただかなければならないんじゃないか。単にもう開発利益の還元についてはいろいろそれはむずかしいんだということでそこで話がとまってしまったり、しかも、そうかといって料金を上げるとなると、それは国民生活に及ぼす影響が大きいからそれはやめてくれと。では、一般会計のほうで金を出すといって、では財源が足りないから公債を出すということになると、また公債についてはこれは
インフレになるから困るとか、どうも話が途中でみんなとまっている。よく
政府の今日の
政策については決断がないとか、あるいは
政策の斉合性がないということをいろいろおっしゃるわけで、私もそうだと思っておりますけれども、しかし、野党の方々の場合におきましても、そういう点についてもっとコンシステンシーのあるポリシーをどんどん積極的に提案していただかないと、私どもは第三者の立場からいたしまして、はっきり申し上げて、どっちもどっちじゃなかろうかというふうな感じもするわけでございます。きょうはちょっと言いにくことを一言申し上げましたけれども、これは決して私は特に他意あってきょうそういうことを申し上げているわけではございません。
それから次に——公共料金問題については、これは時間がございませんから、これではしょらせていただきますが——
輸入問題と
国内の
消費者価格の問題でございます。これはかねがね私どもも円の
切り上げ、つまり
為替レートの
切り上げをやれば、おのずから
輸入する物の値段は、
ドル建ての
輸入価格が下がってまいりますから、したがって、
国内の
消費者物価の安定に役に立つであろうという、いわゆる
経済原論的な面からは
為替レートの引き上げというのは効果があるんだというふうに考えていたわけでございます。これは昨年、近代
経済学者の方々が提言をされた中にもそういうことはうたってある。しかしながら、今日、相当大幅な、去年のスミソニアン会議でもって一六・八八%という
切り上げが行なわれ、しかも、今日実勢の
レートは三百八円を大幅に上回るような
状態で実質的な
切り上げ幅が大きくなっているにもかかわらず、なぜ下がらないのか。確かに太平洋を越えて
日本沿岸の横浜や神戸に着くその港までは値段は下がっているわけでございます。ところが、一たび本土に上陸いたしますと、変な言い方ですけれども、寄ってたかって中間
段階でもってむしってしまう。——まあむしると言うとちょっと……。どうも私は新聞記者ですからことばが悪くて申しわけございません。——まあ、いろいろ、これは何も流通業界の方々だけではなくて、各種の事業団、公団といったようなたぐいの、いわゆる畜産物だとか農産物関係のそういったような公共機関までがいろいろ手数料をお取りになる。まあ、取るのはかまわないにしても、あまりにも何
段階かいろいろな流通経路が複雑に分かれているためによけいな手数料が取られて、そこへ持ってきて
消費者のほうは、一般的にワイシャツとかそういったようなものは安くなっておりますけれども、高級のウイスキーだとかそういったようなものについてはこれは高いのがあたりまえだというふうな、高くなければお歳暮にもおもしろくないというふうなこともありまして、そういう両面から、
消費者のそういうところに業界の方も便乗しているし、一方、業界の方々はそういう既得権をそういう形で擁護しておられる。しかも、
政府は自分も共犯者の一人としてその中に参画しているということでございまして、それは下がらないのがあたりまえだと。で、関税の問題、
自由化の問題、これももちろんやらなければいけません。同時に、
輸入をふやすためには、何と申しましても
国内需要の
拡大ということが先決問題であることもこれも言うまでもございません。しかしながら、同時に、やはりその流通機構の問題をもっと根本的に考え直す。同時に
消費者の側にもそういう面での反省が必要だというふうに私は考えるわけでございます。特に先ほど申し上げた一部の
輸入製品については——香水だとかウイスキーなんかについては、
輸入業者がいわゆる特約代理店というような形で非常に固定化しております。新規参入はございません。これはやはりこれまでの行政当局の許認可の姿勢にも問題があっただろうと私は思うんですが、その辺は詳しい事情は私はわかりませんけれども、そういう形で非常に固定しておる。で、一般的に業者の新規参入さえ認めれば
輸入製品の価格は下がってくるだろうということはいわれておりますが、しかし、いま問題なのは横の問題だけではなくて、横の競争関係だけではなくて、縦の系列化ということの中に、さらにそこの中に非常に競争制限的なものがいろいろ入ってきているわけでございます。したがって、そういうふうな問題を根本から取り組んでいかなければいけない。しかも、そういう点については公正取引
委員会あたりも実情をまだよく調べておりません。やっと追跡調査などを企画庁と一緒になってお始めになっておられるようですけれども、十分データがない。私ども実はその辺について、あまり疑問ばかり申し上げて、はっきりこういう
状況になってるという具体的な数字なり何なりというものを持っておりませんので議論が非常にしにくいわけでございますが、しかし、そういうことが
国内の価格を下げ渋っている最大の原因になっているということは、それはもう間違いないわけで、独禁法の立場からももう一度そういう点を見直す余地があるんではなかろうかというふうに私どもは考えるわけでございます。そういったようなことで、この
消費者価格の問題についてはそれ以外に流通機構なりあるいは農業なりその他の生産構造の抜本的な構造的なてこ入れをやっていかなければいけない、こういう問題があるわけでございますが、時間がございませんので、最後に今後の物価について特に
先生方にひとつお考えになっていただきたいという点を五つ、六つ、ちょっと指摘さしていただきたいと思うわけでございます。
第一は、まあ、これは
景気政策とかあるいは構造改善とかいうこととはまた別な問題でございますけれども、今後公害問題に対して企業はいろいろ自分で
設備をつくっていかなきゃいけない。そのために相当費用がかかってまいります。社会的な費用、つまりソシアル・コストというものがいろいろかかってくるわけでございますけれども、そういうものを十分に企業が負担した場合には、おそらくそれは価格にある
程度転嫁せざるを得ないという問題になってまいります。私は基本的にはこれは企業が自分の合理化努力によって吸収すべきものであるというふうに考えておりますけれども、そうは申しましても、なかなかそう簡単にいくものではない。たとえばこの前のOECDの環境
委員会でもヨーロッパの自動車業界の連中が陳情資料をまとめまして発表いたしましたけれども、詳しい数字はこれは通産省から私がちょっとお借りしてきただけの話で、きょうはむしろ通産省に聞いていただいたほうがいいと思いますけれども、製品価格が一〇%ないし二〇%ぐらいやはり上がらざるを得ないということを言っているわけでございます。これはいわゆる
アメリカのマスキー法案の基準に従って——このマスキー法案自体もまだ流動的に動いておりますので何とも申し上げられませんけれども——法案の基準を当初の基準どおりきびしく適用した場合には、少なくとも一〇%なり二〇%ぐらいの費用の
増加になって、それは企業では吸収できない。したがって製品価格に転嫁されるだろうということを言っておるわけでございます。——早口で速記者の方に申しわけないんですけれども、限られた時間でたくさんしゃべろうということで、ちょっとごかんべん願いたいのです。——で、そういう問題がございます。そこで私は考えるのですが、何もそれはヨーロッパの自動車業界が一方的に言っておることで、そのとおり受け売りをする必要はないのでございますけれども、しかし、これからいろいろソシアル・コストの問題というものを価格にどういうふうに織り込んでいくかという問題は非常に重要な問題になってメーカーの方々が共通に悩んでおられる。中にはいいかげんのメーカーがいて、ろくにそういう費用を負担しないで安売りをする。そういうメーカーに比べて正当な公害対策をやったメーカーが損をする、競争
条件で不利になるというふうな問題があるとするならば、これはやはり
政策的に何とか手を打っていかなければいけないと。そこでやはり通産省あたりでもはっきりしたそういう面での価格に転嫁し得る限度というものを、企業の
生産性とか、企業努力とか、あるいは
需要と供給との関係だとか、あるいは
国際競争力とか、いろいろな面から詰めた
一つのものさしというものをやはりつくってもらわなければいけないんじゃないかというふうに考えるわけでございますが、この点についてひとつ
先生方に御議論していただきたいということでございます。
第二番目は、何と申しましても、今後の物価問題の最大のガンは土地価格の問題でございます。これは非常に言いにくいことをここで言わなきゃなりませんけれども、今度の宅地課税の問題にいたしましても、これはどうも私どもは
先生方の御事情もいろいろよくわかるわけでございますけれども、せっかく建設省、自治省といったところが、それでなくても、いままでそれほど十分そういう面で手を打っていなかったような役所が、やっと本気になってやりかけて、そして都市計画と関連いたしまして市街化区域の農地の宅地並み課税ということをやろうとしたわけですね。しかも
政府もきめて、自民党でも総務会でおそらくおきめになったと思うんですけれども、それが与党のみならず野党まで加わりまして、御一緒になってザル法にされてしまった。その事情は私が申し上げるまてもございませんけれども、私はいろいろ、それは農業者の立場というものはわかりますけれども、しかし、最初の
段階においてたとえばA農地の場合、市街化区域に繰り入れてもらいたいと言っていたのは一体だれだったのか。そういう方々が農業関係の方に非常に多かったわけですね。土地価格が上がることを見越していた。ところが税金が上がるのにびっくりしたということで、それに皆さん方も——皆さん方じゃない、議員の多くの方々が、いろいろ、はっきり申し上げて、便乗されたと言ってはまた変な言い方になりますけれども、とうとうおかしなことになってしまったわけで——これは速記録で多少手直ししていただかなければいけませんけれども、その問題について事情はわかるんですけれども、しかし、いま土地問題について手をつけなければ、もう今後工場立地の問題からいっても、あるいは
日本の
消費者価格、卸売り価格、全体をひっくるめましても、
日本の
経済のコストというものは土地価格の安定なくしては安定的にはできません。特に最近の
消費者価格の上昇の背後には、国民一般が非常に土地問題について将来の先行き不安を持っているがゆえに、あわせて、買わぬでもいい土地を無理して買ってみたり——それ自体も非常にいまや負担の限度に来ておるわけでございますけれども——いろいろ問題があるわけです。変なフラストレーションを国民が起こしているというだけではなくて、企業の
国際競争力の面からいっても、こんなことをやっていたらもう必ず行き詰まってくる。そこで、やはり土地問題についてはひとつここで思い切った制度的な手を打っていただかなければなりませんし、そのためには公共用地の優先買い上げの問題も含めまして、ひとつ皆さん方の間で、ことしこそ土地制度についてひとつ手を打っていただきたい。具体的には非常にむずかしい問題がございますので、私もよくわかりませんけれども、ただ、いま
政府がやろうとしている漸進的な
措置については、これは個々にはいろいろ問題があるわけです。今度の新都市基盤整備法にしたって、あるいは公有地の
拡大の推進に関する法律案、ういう問題についても、手直し要求がいま出ておりますけれども、これだって筋書きからいえば、
政府がそういう漸進的な
政策をやろうとしているわけですから、抜本的な手がすぐに打てないとすれば、そういう漸進的な手をできるだけ育てていくということで
先生方に御協力願わなければこれはどうにもならない。そういうことさえできなければ、もう土地問題というものはいつまでたっても解決されないのじゃないかというふうに考えるわけでございます。
それから三番目に申し上げたいことは、これは
日本の企業全体につながる問題でございますけれども、その
アメリカもすでに賃金の上昇が
生産性の上昇を上回るということで、スタグフレーション的な構造というものがもう定着してしまっている。したがって、こういう
状況に一ぺんなってしまえば、とてもそれは所得
政策だとかなんとかいろいろ言ってみたところで、これは非常にむずかしいわけでございます。で、
日本はどうかと申しますと、先ほど申し上げましたように、卸売り価格の面では、幸いなことにいまのところは、まあまだまだコスト
インフレ的な要素は強くないわけでございますが、おそらく遠くない将来、だんだんと
アメリカ型の
経済に近づいてくる。その場合に、いかにして
生産性を上げていくかという問題と、一方に、やはり賃金の問題については、単に賃金だけじゃなくて、企業の配当から利子からすべてをひっくるめた、やっぱり幅の広いインカムズポリシーというものをやはり再検討していかなければいけない。そういう問題について、いまのうちから与野党含めまして、あるいは労使双方含めましていろいろ議論を冷静に進めていかざるを得ないのじゃないかと思いますが、その点についても、ひとついまのうちからやっておいてちょうどいいんじゃなかろうかという感じがいたします。
それから四番目の問題は、これはまたちょっと物価の問題としては、やや先ほどの話と若干食い違うかもしれませんけれども、最近まあ情報関係のコストというもの、あるいは情報関係の商品の価値というものについていろいろ問題がございます。特に、商品なんかについて、まあ御婦人の方の場合はよくおわかりだと思いますけれども、たとえばファッションといったようなものについては、その素材である繊維、繊維の着物とか洋服といったそのものそれ自体は、もう物的なコストというものは、それはどう計算してみたところで、それほどそう大きく食い違いはないようですけれども、それに加えられるアイデアだとかいわゆる情報的なもの、そういったようなものの価値というものが正当にやはり評価されるかされないかという問題がございます。で、これはまあ新聞代の問題を言ったら、ちょっとまたさしさわりがあるのですが、私は
日本の新聞は、代金はまだ安いほうだと思っております。しかしその話はきょういたしません、これは速記録で削っていただきますけれども。情報についての価値というものは、これはやはり相当に評価しなきゃならないと、よく同じ商品のように見えても相当そこに、単に加工労賃だけではなくて、アイデアとかそういうものがあって、それが
消費者の
需要がそれに非常に強くついてくるということであるならば、それは値段が上がってもいいわけでございます。物的
生産性はもちろん上げなければならない、構造改善もやらなければいけない、しかし、商品の値段というものを考える場合には、そういう要素もあるのだと、だから場合によってはたとえば中小企業対策を論ずる場合にも、何でも値上げしてはいけないということではなくて、ある場合には
消費者の
需要にマッチしたものであって、しかも創意くふうが生かされたものであるならば、それはコスト計算を離れた面からそういう情報価値を加味したかっこうで値段が上がってもいいし、そういう値を上げてもいいような品物をどんどんつくって十分それが売れていくというようなことをやるのが、むしろ情報化
時代の新しいまあ商業者なり、メーカーの行き方の
一つでもある、それがすべてじゃございませんけれどもある。そういう面もありますので、つまり情報の価値というものについての評価ということについて、いろいろまたこれを御議論願いたいということでございます。
それからさらに、あまりたくさん言いますとまた時間がございませんで、あと二、三分で済まさしていただきますが、五番目に申し上げたいことは、まあ今国会でも例の機密保持の問題でいろいろ議論が出たわけでございます。きょうはもちろんそんな話は、これはいろいろなさしさわりがございますから触れるつもりはございませんけれども、外交機密とかいろいろな国家機密とかいうことについては、いろいろな問題がございますけれども、私はきょう指摘したいのは、今後公害問題につきましても、あるいは物価の価格の形成のプロセスを取り上げる場合におきましても、もちろん企業機密というものはある
程度尊重しなければなりませんけれども、しかし、その公害問題については、何と申しましてもやはり一番情報をたくさん持っているのは企業でございます。同時にまた、そういう企業を監督している
政府でございます。
政府と企業が、公害なりあるいは物価の、値段の形成されるプロセスというものについて、やはり原価計算まで出せということを言っているのじゃないけれども、そういう出し得る
程度まではできるだけ国民に知らせる。いままで何か、通産省なり農林省なり厚生省なりその他の官庁にもいろいろ問題がございますけれども、役所の側では、一応企業機密だとか行政機密ということを理由にいたしまして、当然国民に出していいようなデータまでも出さなかったという問題がございます。そのかわりこっちはあまり聞きたくもなくても、まあ発表だ、発表だといって、出先の新聞記者を縛りつけるような発表過剰のような現象さえ一方にあるわけでございますけれども、どうもその辺が
ほんとうに国民生活のために役に立つ資料であるならば積極的に出すという思慮が足りないんじゃないか。で、私は、これからの物価
政策の
一つの柱の中に、国民に物価形成の姿というものを十分理解させていくためには、そういう正確な情報を知らせる義務が
政府にも企業にもある。その点をひとつ国会といたしましてもいろいろ議論していただかなければならないというふうに考えるわけでございます。具体的にはいろいろ問題がございますけれども、一般論としてはそういうことが言えるのじゃなかろうか。私は、最近の、まあ公害問題に限りません、いろいろな企業の社会的費用というものを考える場合に、先ほど申し上げたように、社会的費用をどの
程度まで製品価格に転嫁し得るかどうかという議論は、
消費者もやはり当然そういう議論に参画していいわけでございます。そのためにはやはり資料をどんどん提供してもらわなければならぬということで、そういう面からもいやおうなしにそういう範囲内での情報の提供の場が広がってこざるを得ないというふうに考えるわけでございます。
そういったようなことで、いろいろ問題点をあまり体系的でもなく申し上げたわけでございますが、最後に二百だけ結論的に申し上げれば、何と申しましても物価対策については、やはり
経済の合理性、合目的性というものを十分
認識した上で、理屈に合ったポリシーというものをやはり進めていかなければならない。もちろんいろいろ政治的な事情によってそう簡単に割り切れない部分はございますけれども、できるだけ大筋を踏み違えないようにやってもらいたいということでございます。それをやるにはもちろん国会全体の物価に対する御十分な御理解ということも必要でございますけれども、同時に、何と申しましてもやはり執行者である
政府、特にトップレベルの方々がもっと勇気と決断を持っていただかなければならないということでございますが、その点については、非常に私どもは今日まで不満に思っておるということでございます。
どうも長々とつまらぬ話をありがとうございました。(拍手)