○中沢伊登子君 私は、
国民が深い関心を持って見詰めております
健康保険法改正案について、民社党を代表いたしまして、
佐藤総理をはじめ、
関係大臣に質問をいたします。
〔
議長退席、副
議長着席〕
そもそも、このたびの
健保改正案は、政管
健保の
財政立て直しをねらいとするものでありますが、政管
健保の
財政に
赤字が生じ始めたのは
昭和三十七年でありました。そのときの
赤字額は十六億円であったと記憶いたします。その後、年を重ねるごとに
赤字は雪だるま式に増大を続け、十年を経た今日では千三百億円にもなるといわれます。この原因について
総理は、三月十七日の
衆議院において、わが党の田畑議員の質問に答えられて、「この
財政危機は、いままでいろいろ
財政対策を行なってきたが、十分な効果があがっていなかったからだ」と述懐されました。
国民は、
政府の
責任者から論評を聞きたいのではなくて、今後の対策を、そして、それに取り組む決意と姿勢をつかみ取りたいのであります。
そこで、
総理にお伺いいたしますが、あなたが述懐されるように、これまでの
財政対策が効を奏しなかったのはなぜですか。そして、その反省が今回の
法案のどこに、どのように組み込まれているのですか。
医療費支出が
保険料収入を上回ったから、
赤字が生じたから、だから
保険料を引き
上げて収入をふやすという、単純な算術計算に基づく対策がこの
法案の柱であるように、私には受け取れるのです。それは、
総理がつい先日、述懐された「十分の効果をあげ得なかった」、その対策の繰り返しではないのですか。私どもは、
昭和三十七年以来、そのような
責任転嫁対策では、根本的な
解決にならないと御忠告申し
上げてきたのでありますが、いかがですか。
総理の御見解と、今後の見通しを伺いたいと存じます。
医療は、人間の生命に結びついた
措置でありますから、幸いに、医学界の進歩、開発に即応して、高度化されたものが
給付さるべきであります。低い所得水準の人々に対する
医療だからといって、その所得のワク内で処理するということは許されないものであります。特に、中小企業の従業員を対象とした政管
健保は、組合
健保に比して三つのマイナス要因を持っていることが常識として指摘されています。一つは所得水準の低さ、一つは労働環境の悪さ、一つは年齢構成の老齢化であります。このような構造的なマイナス要因は、政管
健保の被
保険者の
責任ではありません。私は、政管
健保の
赤字問題の本質は、低賃金の反映であるととらえてしかるべきものだと思います。
昭和四十六年三月現在での
標準報酬の差を見てみますと、組合
健保の平均六万一千九百十五円に比して、政管
健保のそれは、四万九千九百六十円であって、その差は実に一万一千九百五十五円であります。政管
健保をして、組合
健保と同じ条件での
財政運営を可能ならしめるためには、この賃金格差を埋めてやることが根本でなければなりません。そのためにこそ、
財政援助をしているのでしょう。だのに、
赤字が生じたら、
保険料を高くして始末すべきだとする議論が、
財政当局を支配しております。元来、
保険という
技術は、
医療保障の手段として使われているのでありまして、究極の目的は、所得水準の低いグループにも、最適の
医療を
保障することにあるのであります。
保険原則を貫くことによって、
医療保障を後退させる結果を生じさせるような、手段と目的とがひっくり返ってしまうような道をとってはならないのであります。
大蔵大臣の御見解を伺いたいと思います。
次に、一部
負担に関して、
厚生大臣の見解をお伺いいたします。
医療費の増加に対処するには、受診をコントロールするために、一部
負担が必要だとする見解があります。それは、受診をコントロールしなければならないほどに、被
保険者が
医療を受け過ぎるという認識を前提としています。受診率は、
患者側の判断に依存して変動する要素を持っていますが、だからといって、好き好んで、時間をつぶして、むだな医者通いをする被
保険者がいるというのでしょうか。受診のコントロールによって、受診率が低下することは、それだけ早期受診の機会が失われることを意味します。それは、ときとして症状を重くし、かえって
医療費を増大させる
もとにもなり、さらには、死亡の原因ともなるおそれがあります。ですから、一部
負担は本来好ましいものではないのです。やむを得ずそれを取るときは、必要な受診を阻害しない限度を常に考慮することが必要であります。一部
負担のゆえに、受診できない人々が多くなった結果、所得の低い人たちと同じように拠出した
保険料を使って、一部
負担を苦にしない豊かな人たちだけが利用することになっては、
医療保険本来の目的を見失うことになってしまいます。
また、薬価一部
負担の不合理は、
昭和四十二年に
実施してみて実証済みです。
投薬は
医師側が決定する
医療内容の問題であって、
患者は
医師の
投薬を拒むことができない
性格のものでありますのに、
患者側からブレーキをかけて抑制効果を望むのは少し的がはずれているという理論的な欠陥があります。そして、いたずらに受診を抑制するだけに終わってしまうのであります。不適正な
医療、
投薬の状況があるのならば、むしろ
医師側に対して、科学的妥当性を持たない
医療を
チェックし、排除する
制度をつくることのほうが、より緊急の課題なのではないでしょうか。
先日も、公害病認定
患者に対して、
投薬された薬を全部飲んだら死んでしまうほどの処方が出されているという、おそるべき事実が学界で指摘され、人々をおそれおののかせました。そこで、薬価一部
負担にかえて、
医療行為の有効性、科学性に関する評価をさらにきびしくする
制度をつくるべきであると考えますが、いかがでしょうか、お答えをお願いします。
いずれにしても、今回の
健保改正で、
保険料の引き
上げ、
標準報酬における上下限の引き
上げ、
ボーナスに対する
特別保険料の設定等、一部
負担の引き
上げという重要な柱は、そのいずれもが利用者
負担の
原則で貫かれているもので、例によって例のごとく、
赤字の原因が利用者の過剰な
医療需要にあるという認識の上に立って、受益者
負担の財源対策のみを優先していることは明らかな事実であります。これは一方的なもののとらえ方であり、
医療需要が多面化し高級化すれば、
医療給付がふえることは避けられないことでありますし、そのゆえに、むだがあるのなら、当然努力して、むだをなくすべきであります。現に、
赤字を出さない組合
健保は、そのために疾病の予防、
健康管理を含めて
医療費のむだの排除につとめ、よって
支出の節減、
合理化に大きな成果をあげています。その意味から、
政府、
管理責任者として、全くその努力を払わず、怠慢によって生じた
赤字を利用者にしわ寄せさせることは本末転倒であります。したがって
政府も、当然、行政努力等によってむだの
医療費を排除すべきだと考えますが、この点について
政府はどう考えられますか、また、いかなる努力を行なおうとしているか、具体的に示していただきたいと思います。
なお、今日までの
累積赤字を当初たな
上げにするはずでありましたのに、たな
上げが廃止されましたが、これでは、幾ら経営を
改善する努力をしても、そのかいもなく、
赤字がふえることになり、遠からずまたパンクすることになりますが、一体どうするつもりでございますか、当然
政府の
責任で始末をすべきですが、その決意がおありですか、
総理、
大蔵大臣にお伺いいたします。
最後に、
医師の養成対策について、文部、厚生両大臣に伺います。
昨年は大阪刑務所をめぐる不正入試事件がありましたが、摘発された二十数名の不正入学者のうち、九五%が医科系の学生でありましたのに驚かされました。その驚きがさめないのに、ことしは早々に浪速医科大学というまぼろしの計画に乗って、二十一億円という膨大な入学予約金がむだ金になりそうだという事実を突きつけられ、世間をあ然とさせました。最近——
医師の養成のためには一ころ五百万円の入学金が必要だと言われておりましたが、いつの間にか七百万円になり、最近では一千万円が相場だとさえうわさされておりますが、大臣はお聞き及びでしょうか。これでは国家的医術資源として優秀な子供がいても、庶民、サラリーマンの子弟では意欲があっても
医師にはなれません。現在公私立の医大がありますが、門戸は狭いし、これで今後、
医師養成が事足りると思われますか。一体、
医師の養成はお金が要素なのか、実力が要素なのかを疑わせるに至っています。生命を託することになる
医師のことだけに、人々の不安は大きなものがあります。なぜ医学部にこういうことが起こるのでしょうか。一体、原因はどこにあるとお考えでございますか、お答えをいただきたい。
私どもは、
医療担当者の養成は、公の
責任において遂行されることを前々から要請してまいりました。さらに、病院という
医療施設の整備を公の
責任で、計画的に行なうべきであるということも強調してまいりました。少なくとも、
国民のだれもがいつかは利用する可能性のある社会資本的なものは、私益の対象からはずして、公費でまかなっていくべきであることも主張してまいりました。今回
提出される関連
法案の中には、
医療担当者の養成、
医療施設の整備の
必要性はうたわれておりますが、それがだれの
責任において行なわれるのかには触れられていないようであります。
医療施設の整備が私人の
責任にゆだねられて、しかも世襲財産として受け継がれ、しかもそこで
医療に当たる要員の養成までが私人の
責任に放置されている限り、なお、またその費用を私人がかせぐ
医療費の中から捻出しなければならない状況が続く限り、明朗な日本の
医療の前途は開けていかないと思いますが、明快なお答えを伺わせていただいて、私の質問を終わりますが、本日の質問に対し、各党が三名もの婦人を立てたことは、
国民の健康に対し、また、たび重なる
赤字対策の
健保の
改正に対し、なみなみならない関心と熱意と怒りのあらわれであることを、
政府も十二分に肝に銘じていただくよう強く要望して、私の質問を終わらせていただきます。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕