○
須原昭二君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま
提案説明のありました
健康保険法等の一部を
改正する
法律案について、
佐藤総理並びに
関係大臣に
お尋ねをいたすものであります。
今
法案は、いわゆる
累積赤字を処理しようとする単なる
財政対策にすぎないものであります。
言うに及ばず、
医療保険制度は、
保険の原理を軸とした公共的な機構であって、
給付と
保険料のバランスをはかるという
保険財政の
収支の問題がまず表面に出てきますが、しかし、その根底には、
国民の
医療需要の
実態を考慮して、
医療とは何か、
保険とは何か、
保険と
保障との
関係はいかにあるべきか、という基本的な
問題点が常に追求されなければならないのであります。しかるに、
政府は、今回が初めてというならばいざ知らず、ここ十年間、幾たびか
帳じり合わせという算術上の問題として受けとめ、同時に解決すべき懸案の
医療保険制度の
抜本改正などは、常にお茶をにごし、手をつけなかったのはいかなる理由によるものか、ばく大な
赤字を累積させてきた
政府の
責任をどのように感じておられるのか、まず冒頭に
お尋ねをいたしたいと思うのであります。(
拍手)
今回、その反省のないままに、
政府は、あつかましくも、再び累積した
赤字をこの際きれいに清算した上で、
抜本改正など
医療制度の改革は、四十八年度から順次軌道に乗せていくと言われておりますが、
総理、あなたが
内閣を組織されて以来、ときあるごとに、
医療保険の
抜本改正、
医療保障制度の充実を
国民の前に公約されてきたことは、よもやお忘れにならないことでありましょう。残念なことに、事、
医療についての七年半にわたる
佐藤内閣の考課表は、全く点の
つけようのない白紙の答案であったと言っても、決して過言ではないと思うのであります。
しかも、
総理の公約は、もはやあなたの在任中にはとうてい
実現不可能な段階にあります。すなわち、あなたが四十八年度まで
総理の座にあるということは、いまや一億
国民だれ一人として考えていないのであります。
総理の
政治責任はことのほか重大であります。直ちに
責任をとって退陣を明らかにされることが、憲政の常道と言わざるを得ないのであります。この際、今
法案をいさぎよく撤回され、新政権のもと、当然、同一線上で討議すべき
健保関連三
法案をそろえて再提案されることが、最も
責任ある行
政府の態度であると思うのでありますが、
総理の所信をあえて
お尋ねをいたすものであります。(
拍手)
第二には、
赤字の
実態についてであります。
去る四十二年八月、
特例法を強行採決された当時、
政府は、なお単年度において三百二十億の
赤字が出ると言いました。しかし、
決算の結果においては、わずかに五十八億であります。四十三年度では、当初百四億の
赤字見込みに対して、実際には、これまたわずかに二十四億円、四十四年度は、当初九十一億円に対して五十六億円、いずれも、当初の
赤字の
見込みに対してきわめて激減をいたしておるのであります。このたび、
政府は、四十七年度末には、
赤字は三千億以上に達すると予告をいたしておりますが、これら過去の実績から見ると、今回の
政府の
赤字見込み額は、
過大見積もりであり、
過大宣伝であると言わざるを得ないのでありますが、その疑念をはらす明確なる御答弁をいただきたいと思うのであります。
また、四十六年度末には、二千百九十四億円の
赤字になると言っておられますが、その中には、
固定資産の
部分、あるいは
保険料の未徴収の分、計四百二十八億円が入っておるのであります。これは当然
赤字に算入すべきものではないのでありまして、これこそごまかしであると言わざるを得ないのであります。いかがでありましょうか。
さらに、
累積赤字の大
部分は、
国庫からの
借り入れ金の
利子の分が大半であります。たとえば、四十三年度の
赤字二十四億円に対して、
累積赤字の
利子六十四億円、四十四年度の
赤字五十六億円に対して、
累積赤字の
利子は七十六億円と、
利子相当部分が実際の
累積赤字の大半を示しておるというこの事実であります。
政府は、二千億円のこの
赤字をたな上げをする、これは画期的なことであると、従来、自画自賛されてきましたが、管理、運営の
責任が
政府にある以上、
政府の
責任で処理をすることは当然のことであると言わなければならないのであります。しかも、いま
厚生大臣からお話がございましたように、
衆議院において
国庫負担が一〇%に
修正されるや、二千億円の
累積赤字のたな上げは削除するということであります。全く、私は、これはすりかえではないかと言わざるを得ないのでありますが、いかがでありましょう。
第三は、国の
補助と
国民の
負担についてであります。
現在、国保に対する国の
補助率は、総
医療費の四五%であります。これを
健保のように
給付費に対する
補助率に換算をすると、一〇%に相当するのであります。したがって、
健保に
国保並みの
補助を出すとすれば、
健保には二分の一の
事業者の
負担がないのでありまするから、これを加算すると、実に一二%の
国庫負担が必要となってくるのであります。しかるに、
政府の原案はわずかに五%、
衆議院の
修正が七%ないし一〇%といたしましても、なお
国保並みに達していないことはしかと銘記をしていただかなければならないのであります。とりわけ、
老齢者やあるいは低
所得者の多い
健保の構成の
実態を考えるときに、わが党が主張いたしてまいりました二〇%まで上げていくという努力は、
政府として当然の責務であると言わなければならないのであります。にもかかわらず、国の
負担は、この四年間据え置かれたままであります。その間、
国民の
負担は、それに比して五〇%もふえておるのであります。その上、今回の大幅な
保険料の
値上げで、
勤労者がせっかくかちえたことしのベースアップの分は、
保険料の
値上げによって完全に帳消しにされたと言っても過言ではないと思うのであります。さらに、
ボーナス分まで
保険料をかけるというが、
ボーナスというものは、企業の
期末利潤と違っておるのであります。
勤労者にとっては、いわば
生活必需投資の性格を持っておるということを忘れてはなりません。これに
特別保険料をかけるということは、全く言語道断と言わざるを得ないのであります。明らかに総
報酬制への第一歩として、私たちは断じて認めるわけにはまいりません。これこそ、「
保険あって
保障なし」ということばを完全に裏づけたものであると言わざるを得ないのであります。
はたして
政府は、あくまで個人の
責任の原理、
相互扶助の原則をどこまでも固守されていく方針なのか、この際明らかにされたいと思うと同時に、特に、
国民には、皆
保険として
保険加入を強制しておきながら、
医療を受けられないところでも、現に過酷なる、過大なる
保険料が集められておるという事実であります。すなわち、
医師に見捨てられたところのいわゆる無
医地区が全国に三千近くあり、その後さらに増加の一途をたどっております。そこに住む約百万の
国民は、常に生命の危機におびえておるという
実態を
御存じでありましょう。まさに「
保険あって
医療なし」、これほど
割り高な
保険料がどこの世界にあるでありましょう。
さきに
政府は、「福祉なくして成長なし」、「
人間尊重の政治の
実現」という名言を吐かれました。これがもし真意とするならば、国の施策の中で、
国民の健康の確保を最優先に取り上げ、そのための財源は優先的に配分するということが、まず確認されなければならない必須の条件であると言わなければならないと思うのであります。
国民の命、
国民の健康を守るべき国の
責任と、その姿勢について、
総理並びに
大蔵大臣、
厚生大臣に
お尋ねいたしたいと思うのであります。
第四は、
支出の
合理化についてであります。
いま、
わが国の
医療は、多くの患者を短時間でみる、いわゆる三分
診療によって、
医療の質は
医療の量にかわりつつあります。量が多いだけに、
診療報酬支払基金の
チェックは、ほとんど無審査にひとしく、しかも、
技術料が安いという
医師の
免罪感もあって、
濃厚医療や
過剰投薬による
点数かせぎが横行している事実であります。現に、政管
健保における
本人一件当たりの
平均点数が、家族のそれに比べて約一・六倍であります。約二百点以上の開きがあるという事実を
御存じでしょう。このことは、
本人が十割
給付だから、
点数を上げるために必要以上の
検査、必要以上の注射、必要以上の投薬をしても、
本人のふところは痛まないとする
濃厚医療のあらわれと言わなければなりません。いかがでしょう。特に、
薬価基準と
実勢価格とのはなはだしい差益、薬を使えば使うほどもうかるという
薬価点数システム、さらに、
アリナミンの例にあるごとく、
アリナミンの
請求額がその
生産額を上回っているというこの
実態、この
代替請求の
実態など……。英国では一三%といわれる薬代が、
わが国では世界に類例のない四四・八%の高率、
保険医療費の約半分近くが薬代というのは、だれが見ても薬の使い過ぎであると言わなければならないと思うのであります。かかる薬の
大量投与が、一方では薬の副作用を呼び、現に
キノホルム、サリドマイド、コラルジルに見られるような
医原性疾患を発生させ、
病気をなおすべき治療が、かえって新しい
病気を生み出すという矛盾をいまさらけ出しているのであります。一刻も早く、無限に営利を追求できる
現物給付、出来高払い
制度を改め、
医師など
医療担当者の
技術を適正に再評価するとともに、
技術料中心の
診療報酬体系と
調剤報酬体系の二本立てのもと、
チェック技術としての
医薬分業を強力に促進し、少なくとも、薬の多少で利益を得るような
薬価点数システムを廃止し、
独占薬価を抑制するなど、
収入面をはかる前に、まず
支出面の改革が先決の問題であると言わなければならないと思うのであります。
なお、今日の
治療偏重の
医療を
予防先行の
医療に置きかえ、自然に病をなおす、すなわち
自然治癒力の発揚、
健康管理の重視という施策が、
医療経済の上から見ても、最も
支出を
合理化する道であると思うのでありまするが、はたして
厚生大臣は、これらの課題についてどのように対処されようとされておりますか、
お尋ねをいたしたいと思うのであります。
最後に、
医療保険の
限界と、その
守備範囲についてであります。
いま、
国民の多くが一番心配していることは、百歩譲ってこの
法案を認めても、
赤字の解消は、今回もまた一時的であって、長期の
安定策でないという現実は事実であります。そもそも、
医療保険というものは、
失業保険や
年金保険と違って、
保険の
サイドに乗らない本質を見のがしてはならないと思うのであります。すなわち、
医療保険の
拠出サイドでは、
保険料の
納付期間、
負担額のいかんによって
受給資格を押えることはできないものであります。一方、
給付の
サイドでは、
病気の発生を認定するにあたって
客観性が乏しく、被
保険者の主観的な判断で
診療を受け、
給付が始まり、
医療行為が開始されなければ判定ができないものであります。特に、
医療保険は、
病気を完全になおすという
医療の
完遂性という性格を受けて、
受給期間を制限すべきでないし、
給付の
内容についても、患者の病状に応じて
保険関係上、第三者である
医師が主体的に判断して決定するものであるからであります。したがって、
医療保険といっても、厳然として
保険としての
限界が存在するわけでありまして、これを忘れて、ただ
保険だから
収支の均衡、
収支相等の原則に立って
保険財政を維持しようとしても、事の解決にはなり得ないということなのであります。この点、
政府は、
医療保険の、
保険としての
限界をどのように考えておられるのか、
お尋ねいたしたいと存じます。
さらに、現在の
現物給付の場合、あまり
保険経済の
収支の面ばかりを強調しますと、往々にして、
制限診療におちいりやすく、もし
制限診療して
給付の
内容を落とすと、それまでせっかく
給付した
経済効果をゼロにしてしまう。ここに
医療の
特殊性があるのであります。そして
保険のワクに閉じ込めないときに、初めてわれわれが願望するところの
医療保障というものが必要となってくるのであります。しかるに
政府は、
医療保障を忘れ、ただ
保険財政の維持のみに狂奔しているところに、
政府の
医療政策の根本的な立ちおくれを痛感するものであります。
保険経済を守る道は、現に西欧諸国が
実施しておるように、
医療保険の
守備範囲を限定することであります。西欧諸国では、比較的経費のかからない一般医の段階の
医療を、
保険が受け持つ範囲として、費用のかさむ病院
医療やあるいは不採算
医療、
保険のベースに乗らない難病、奇病などはその対象外として、しかも、病院
医療の固有の機能を考えて、公費
負担、無償とされているのであります。このように、
わが国でも、
医療保険の
守備範囲に限度を設け、限度以上のものは公費
医療にするという努力、言いかえるならば、
医療保険から
医療保障へといった積極的な努力がどうしても必要な段階にあるのであります。しかるに、
政府は、
保険であって
保険になり得ない
制度をそのままにし、かつ変わりつつある
国民の疾病構造の変化に目をつぶり、
病気になるのは個人の
責任だ、
赤字になるのは医者にかかり過ぎるのだ、として、その
責任を
国民に転嫁し、
国民の
負担で
赤字を埋めようとする考え方は、まさに
保障を忘れた無
責任政府の態度として、断じて許すわけにはまいらないのであります。はたして社会
保障の充実に全力をあげると言った
政府のスローガンは、どこへ消えてしまったのでありましょう。はたして
人間尊重の政治と言った証左は、今日、どこにあるでありましょう。この際、
医療保険のあるべき姿、
医療保障への将来について、
政府はどのような理念と構想を持ち、どのような段取りで推進されようとしておるのか。
総理、
厚生大臣、この際は、抽象論でなく、はっきりと御明示をいただきたいと思うのであります。
総理、佐藤政権の寿命はもはや時間の問題です。間もなく終わりを告げようとしております。特に
医療保険の問題は、あなたが
総理に就任当初からの課題です。いま、その根本的な解決をもなされないまま、きょう、この日を迎えておるのであります。有言不実行、しかも、多くの
国民の声に耳を傾けず、おそるべき
医療の荒廃をそのままにし、このたびのような悪法を最後に、
国民に混乱と不安を残したまま政権の座を去られるあなたのうしろ姿を見るときに、何といってもむなしい限りと言わざるを得ないのであります。
総理、「立つ鳥跡を濁さず」、このことばは、いま、あなたのためにあると言っても過言ではないと思うのであります。この国会が、
佐藤内閣にとって残された最後の、ただ一つの機会です。重ねて
佐藤総理の虚心な態度と勇気ある決意を心から期待いたしながら、私の質問を終わる次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君登壇、
拍手〕