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参考人(館
龍一郎君) 御紹介にあずかりました館でございます。私の
意見をごく簡単に申し上げたいと思います。
準備預金制度の
活用の
必要性につきましては、
金融制度調査会の「
準備預金制度の
活用に関する
答申」の中に、最近における内外
金融情勢の推移にかんがみ今後
金融政策の
有効性を確保するという観点から
準備預金制度の
活用をはかるべきであるといたしまして、具体的にその理由を四つあげておるわけでございますが、この四つの理由をさらに若干ふえんいたしまして、なぜ今日
準備預金制度の
活用が必要であると考えられるかという点についての私の見解を申し述べてみたいというように思います。
まず第一は、短期的にはともかくといたしまして、今後
為替管理が次第に緩和されざるを得ないというように思いますし、資本についてもますます自由化が進まざるを得ないというように考えられるわけでございます。そういう
状況のもとで、国内均衡を達成するための
金融政策というのを考えてみる、特に
金融政策の中でも
金利政策というのを考えてみますと、この
金利政策の
活用には、どうしてもある制約が加わってくることにならざるを得ないというように思われるわけでございます。
どういう点かと申しますと、従来のように、厳重な
為替管理が行なわれておるという場合には、国内のインフレ圧力を取り除くために、
金利を引き上げれば、それによって国内のインフレ圧力を取り除くということができたわけでございますが、先ほ
ども申しましたように、
為替管理が緩和され、資本の自由化が行なわれたという
状況のもとで、国内均衡達成のために
金利を引き上げますと、
短資が大量に
流入してきて、それが
金融引き締め政策の
効果を相殺してしまうということが起こるわけでございます。特に
金利が、国際
金利を離れて上昇するというような場合には、
短資が大量に
流入してきて、
効果が相殺されるという可能性が出てくるわけでございます。同じように、景気刺激のために低
金利政策をとりますと、
短資が大規模に
海外に流出していってしまって、その結果国内ではかえって
金融が逼迫するというような
状況が起こってくることになるわけです。
で、これは単に抽象的にそういう事態が考えられるだけではなくて、事実すでに西独などではそういう矛盾に悩んできておったわけでございます。つまり、このことを別の観点から申しますと、
為替管理が緩和され、資本の自由化が行なわれるという
状況のもとでは各国の
金利水準はどうしても国際
金利水準にさや寄せされざるを得ないという面があるわけであります。二国の
金利水準が、世界的な
金利水準と大幅に乖離するということはできないということになってくるわけであります。
金利政策についてはそういう制約が加わってくるということをこの際認識しておくことが重要であるというように思うわけであります。したがいまして、国内の均衡を達成維持していくためには、
金利政策以外の
金融調整
手段というのをどうしても整備しなければならないということになってくるわけであります。で、それが
金融制度調査会の
答申が、
金融政策の
手段の整備、多様化が必要であるというように述べていることの背景であるというように申してよろしいと思うわけであります。
で、そういう
金利政策にかわる
金融調整の
手段といたしまして、
準備預金制度の
活用ということが重視されるわけであります。ところで、こういう主張に対しましては、準備領金
制度のような量的な
金融政策も結局は
金利水準に
影響を与えるのであって、したがって、量的な
金融政策と、何といいますか、
金利政策との間には本質的な違いがないんではないかという反論が予想されるわけでございますが、しかし、実はこの
二つの間には違いがあるわけでございます。と申しますのは、もし
貸し付け資金市場が完全市場であるならば、
金利のほうで調整しても、量のほうで調整しても全く同じことになるわけでございますが、実際の
金融市場というのは、教科書の中で考えられているような完全市場ではありませんから、したがって、量的な
金融調整と
金利による調整とではその結果が違ってくるわけでございまして、したがって、この際必要なことは量的な
金融政策を整備していくということ、
金利にはあまり
影響を与えない形で
金融調整を行なっていく、量的
金融政策の
手段を整備していくということが望まれるというように思うわけでございます。第二は国内の
金融環境といいますか、
金融情勢が
変化してきておるということであります。
御承知のように、戦後の日本の
金融の重要な特徴の
一つはいわゆる過少流動性という
状況があったということでございます。つまり
企業は絶えずオーバーボローイングと呼ばれる
状態にあり、
銀行はオーバーローンという
状態にあって、恒常的に
銀行は
日本銀行から
借り入れを行なっておるという
状況にあったわけであります。そういう
状況のもとでは、
日本銀行の行ないます
貸し出し増加額
規制その他の直接的な
規制がきわめて有効に働くというように考えられます。事実窓口
規制、ポジション指導等の直接的な
規制が従来の日本の
金融政策の中心的な
手段であったというように言ってよろしいと思うわけであります。
ところで、こういう過少流動性という
状況が最近急速に
変化しつつあるわけでございます。お手元に提出されております
参考資料を見ていただきましても、
日本銀行からの
一般貸し出しというのは、急速に減少してきてほぼゼロという水準に近づきつつあるという
状態になっておるわけでございます。もちろん最近のような、ときとして
過剰流動性と呼ばれるような
状態が将来も継続するものであるかどうかという点については
意見が分かれております。しかし、従来のような民間
投資主導型の
経済から、財政主導型の
経済に
経済が変わっていくとするならば、そしてそういうように変わっていくことが望ましいというように思うわけでございますが、
経済が財政主導型に変わっていって、
成長通貨が
日本銀行の
オペレーションによって供給されるというようになっていけば、従来のように
銀行が恒常的に
日本銀行から
借り入れを行なっておるという
状況はなくなっていくというように考えてよろしいのではないかと思うわけであります。またそういう
状態が生じないということが望ましいというように考えるわけでございます。
で、
状況がいま申しましたように変わってきますと、
日本銀行の行なう
窓口指導というものの
効果は当然減退してくることになりますから、したがって、これにかわる
政策が必要になってくるわけであります。これにかわる
政策手段として、
金利政策を今日以上に
活用していくということは、それ自体望ましいことであるというように思いますが、しかし、先ほ
ども一申し述べましたように、
金利政策については国際的な制約が一方にあるということを考えますと、
金利政策以外のやはり
金融調整の
手段を整備しておかなければならないということに、この面からもなってくるというように思うわけでございます。これが第二の点であります。
それから第三は、
準備預金制度適用外の
金融機関の
貸し出しの量が最近急速に増大してきておる。これがしばしば
金融引き締め期に、
金融引き締め政策の
効果を弱める働きをしておるという問題があるわけでございます。したがって、これらの機関に対しても
準備預金制度を
適用する余地を開いておくということはこの際ぜひとも望まれる点ではないかというように考えるわけでございます。
非常に古い話になりますが、昔、英蘭
銀行の
制度改正が行なわれまして、ピール
銀行条例が制定されましたときに、人々は現金通貨だけをコントロールしておけばそれで十分
金融調整の
目的は達せられるというように考えた時期があったわけでございますが、しかし、そういう
制度を実際に採用し、
運営してみますと、現金通貨以外の
預金通貨であるとか手形というのがふえてきまして、それが
金融政策の
効果を弱めるという結果が出たということがよく知られておるわけであります。それと同じことでありまして、新しい
金融資産が次々に生み出されてまいりますと、従来のように現金
預金だけを調整していたのでは十分な
金融政策の
効果をあげていくことができないということになってきておるというように言ってよろしいかと思います。これが第三の点でございます。
それから最後に第四といたしまして、第一のところでも述べましたように、
為替管理が緩和され、資本の自由化が行なわれますと、当然浮動的な
短資の
流出入が活発になるということが予想され、これが国内
金融政策に対して撹乱的に作用する可能性が出てくるわけであります。したがって、そういう浮動的な
短資の
流出入が国内
経済に対して撹乱的な
影響を与えるのを遮断すると申しますか、中立化するというための
政策手段としても
準備預金制度を
活用していくことがぜひとも必要であるというように思うわけであります。
もちろんこの場合に、もう
一つの
手段として
為替管理を強化するという形で
短資に対応するということが考えられるわけでありますが、しかし、そういう直接的な調整
手段よりは、非
居住者預金に対する
準備率を引き上げるというような形でこの問題に対処していくほうが、対処のしかたとしてははるかにすぐれておるというように考えるわけでありまして、そういう
意味でぜひともこの
制度を採用すべきであるというように思うわけであります。
以上四つの点を申し上げましたが、要するに
政策手段が多様化されれば、それによっていろいろのポリシーミックス、いろいろの
政策手段の組み合わせを選んで、そして最もスムーズに
金融調整を行なっていくことができるようになるということが、この
準備預金制度の整備
活用ということの
一つのポイントであるというように申してよろしいと思います。
なお、以上とやや論点が離れますが、
信用創造能力という問題につきまして、まあ
対象金融機関、
対象勘定を拡大するという問題をめぐって、
銀行には
信用創造能力があるが、ほかの
金融機関には
信用創造能力がないという決定的な違いがあるのであるという主張がしばしばなされることがあります。しかし、これは誤りであるというように私は考えておるわけであります。
信用創造能力というのを通貨の創造という狭い
意味に限定すれば、確かに
銀行以外の
金融機関は
信用創造能力がないわけでありますが、しかし、どの
金融機関も何らかの
方法で
資金を集めて、それを
貸し出しなり、証券
投資に向けていくという点では全く同じ
役割りを果たしておるわけであります。そして、それによって一国全体の
資金のアベイラビリティーを高めていくという点では、どの
金融機関も違いがないわけでありまして、違いがあるといたしますと、どの点であるかというと、先ほ
ども申しましたように、
銀行は通貨を創造することができる、
預金通貨を創造することができるという点と、それから
資金のアベイラビリティーを高めるというように申しましたが、その
資金のアベイラビリティーを高める
程度に多少の違いがあるということでありまして、その本質には違いがないということを最後に申し添えまして私の
意見を終わることにしたいと思います。