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参考人(
竹内直一君)
竹内でございます。
今回の
割賦販売法の
改正、これは
消費者保護を
目的とした
改正であるといわれておりますが、私
たちは、なぜこういう
法制が必要かという点について、
消費者の
立場から一言申し上げたいのですが、御承知のように、
民法は
契約自由の
原則であると、
契約の
当事者が自由の
意思で
契約を結んだものはこれは必ず守るべきだと、それについての
ルールが
民法の
規定でございますけれども、
消費者とそれからプロである
業者との
契約、これは
民法でいう対等の力を持った
契約当事者の
契約上の
ルールというものを機械的に当てはめますと、どうしても経済的な強者である
企業、それと
知識も持たない
消費者との間にずいぶん力の差がございますから、
民法の
規定によって
処理をいたしますと、どうしてもしろうとである
消費者が負けてしまう。そういうことでもって、いままで
消費者対
企業の
トラブルがずいぶんふえてまいったわけです。特に、それが
割賦販売という
取引形式において顕著に最近あらわれてきた。中でも非常に、いわゆる
猛烈商法といわれている
外資系の
割賦業者、あるいは
訪問販売業者といったものがあらゆる手を使って
消費者から金をふんだくるというシステムで私
たちのふところをねらうようになってきた。そういうような状況で、
消費者保護のための
取引規制の
法制の整備が必要だということになってきたと思います。そういう
趣旨で、今回の
割賦販売法の
改正は
消費者保護のために一歩
前進ということで私
たちは評価をしたいのですけれども、しかし、
問題点はあることはございます。
その点について、お話を申し上げたいと思うんですが、私
たち消費者が
保護されるため、
契約上の
トラブルから守られるために、まず
予防措置が一つございます。それから、
契約を結んだ後
消費者が
被害を受けた場合の
救済措置、まあこの二つに大きく分けることができるかと思います。そういう
意味で、今回の
割賦販売法の
改正の中の四条の三、
契約の
申し込みの
撤回の
規定ですね、
クーリングオフの
規定、これは一種の
予防措置だと思います。卑近なたとえを申しますと、
縁台将棋で私
たちが
将棋のこまを置いたと、そうして相手方がまだ次の手を打たない前に、ちょいと待ってくれというわけでそれを引き揚げる。それに似た
考えの
制度だと思いますが、そういった
契約の
申し込みの
撤回、これは
消費者保護のために非常にけっこうな
制度だと思うんですが、残念ながら、この
法案で盛られておる、
申し込みが
撤回できると告げられた日から四日という
日にちですね、これがいかにも短過ぎるんではないかという
感じを持つわけです。これがあまりのんべんだらりといたしますと、
取引の安全を害する、
業者にとってははなはだ迷惑だと、これは当然なのですけれども、一方、私
たち消費者の
立場からいたしますと、四日というのは短過ぎる。といいますのは、これは
書面でやるんだという
規定になっておりますけれども、
一般の
消費者の方はものを書くということを非常におっくうがるものです。それから、たとえば御主人が出張している、そういった場合に、この四日ではカバーできない場合がかなり出てくるんじゃないか。ですから、幾ら短くても八日ぐらいは
最小限度なくてはいけないんではないかというように思います。
それから次に、今回の
改正案では、クリーングオフの
規定を適用しない商品の指定がある。政令でもってこれを適用しないものを指定することができるという
規定がございますけれども、これについて先般、
衆議院の
連合審査の席上で
通産大臣が、
自動車はこれからはずすんだという発言をなさっているわけです。で、これは私
たちは新聞で承知したんですけれども、
自動車業界が非常にこういう
制度を適用されると迷惑だということで、猛烈な反対をしたというニュースを得ているんですけれども、もし
自動車がはずされますと、たとえば
ピアノ、そういったものが、
自動車も
ピアノも大体同じじゃないか、
契約を結ぶまでに何回か折衝が重ねられるものだというような主張をされまして、
自動車を突破口にして
ピアノもそうだと、次から次にいろんなものが入ってまいりますと、このせっかくの
クーリングオフの
制度が骨抜きになってしまうのではないか。その点を非常に心配するものです。ですから、むしろこの
規定にありますように、
交渉が相当長期にわたり行なわれることが通常の
取引方法であるものというような
規定が入っておりますけれども、はたして
自動車の
契約についてこういうことがいわれるのかどうかという点を問題にしなくてはいけないんだろうと思います。
たとえば、非常に若い人が
自動車だって
衝動買いをすることはあり得るんです。そうして、おやじに言ったら、そんな金はやらないぞと言って、それじゃキャンセルだということもあり得るわけです。そんなことは例外的であるという場合であっても、やはりそういう場合に救えるような
規定でなくてはいけないんではないか。もし、そういう相当長期間に折衝していながら
最後のど
たんばになってキャンセルするような買い手は、
専門の
セールスマンであれば見抜けるはずだと思うんです。そういういわば
業者からすれば不まじめな
消費者、そういった
人たちを見分けるほどの
鑑識力がない
セールスマンというのはこれは失格ではないか。ですから、この
規定はそういう力のない
セールスマンを
保護する
規定になってしまうのではないかという
意味で、こういう
規定はなくてもいいんではないか。少なくとも
消費者保護ということを言う限りにおいては、これは必要ない
規定ではないかというように
考えます。
それから二番目に、今度は
契約をした
あとで
被害にかかったという場合に、この
法律はどのような力を発揮できるかという問題に入りますが、そういう点で冒頭に申し上げましたように、最初から
消費者をだますことを
目的とした
商法、これは私
たちが取り扱った例の
英語の
百科事典のブリタニカ、ああいった式の
商法に対してはこの
法律は残念ながらきわめて無力であると申し上げざるを得ないのです。といいますことは、大体ああいう大学の
教授でもなかなか読むのにむずかしいといった
英語の
百科事典を
一般の商売人の方や、農家の方や、あるいは職人の家庭に、小さい子供さんの
英語の勉強に役立つというようなことで売り込んで、現物が着いて初めてこれはだまされたということに気がつきまして、解約をしたいということを会社に申し出をしましても、やはりそれは
本社にかけ合ってくれ、
本社にまた電話いたしますと、いやそれは末端の
営業所で扱うからそちらへかけ合ってくれというようなことで、あちこちたらい回しされているうちにどんどんと
日にちが
経過いたしまして、あれは月々の
手形支払いですから、
手形の
期限がくるたびに泣く泣く金を払いつつ、解約したい、解約したいということで話しているうちにどんどんと日時が
経過する、そして何かの都合で
支払いがストップいたしますと、すぐ
弁護士が乗り出してくるわけです。
弁護士の名前で
請求書が来る。それがだんだんときびしい表現になりまして、
裁判するぞと、事実
裁判をするわけです。それも、
東京の人はまだいいのですが、九州の人、あるいは北海道の人でも全部
東京の
裁判所で
裁判をやっちまう。ですから、それは大体
欠席裁判です。そして、判決がありますと
残金は
即時払いだ、もうこれは
期限の利益を失うということで、
残金が十万円であっても十五万円であっても
即時に払え。そういうものは払う余裕がございませんからそのままにしておきますと、今度は差し押えして、それから強制執行——強制執行というのは、私
たち子供のころによく家財道具を表にほうり出されているのを見たことがございますけれども、いまの日本でそういうことはもう全然ないのだと思っておりましたが、現にあるわけです。主人が病気で寝ているのに、家財道具を全部古道具屋に売り飛ばす、非常に非人道的なことを平気でやっているわけです。そういうことで、すべて
契約に違反したから当然の
権利だということで、
弁護士が全面的に活動してそういうところまでやってしまう、非常に私
たちの
立場からいたしますとめちゃくちゃなんですね。そして、これはだまされた
契約なんだから、
民法の九十六条によりますと詐欺による
契約だから、これは取り消すことができるという条項がございますが、取り消すのだと言いましても今度は
業者のほうは、かりにだまされたということであっても、その後一度、二度割賦金を払っているじゃないか、払い込んでいるじゃないかということになれば、それはその債務の一部または全部の履行ということで、
民法第百二十五条によれば追認したことになるのだ、法定追認だというようなことで本人は追認したことになるのだから、
法律上は金を返す義務はないのだというようなへ理屈をこねましてがんばっておるわけです。私
たちは、多数の
被害者が
業者と折衝をしておるのを横で見ておりますと、いま申し上げましたようなへ理屈でもってがんばってくる。確かにいまの
民法を機械的に適用すればそういうことが三百代言式に通るのかもしれません。しかし、私
たちはこの
契約全体を見た場合に、何といってもこれは信義誠実の
原則に反しますし、
権利の乱用ではないかという
感じを強く持つのですけれども、残念ながらこれくらいの、二十万くらいの小額の係争事件では
弁護士さんが本気でやってくれないわけです。そういうことのために
消費者は泣き寝入りをしているというのが実態です。そのためにこれはもう自殺未遂が出たり、それからこれを苦にして非常に重い病気になったり、それから離婚にまでいったというのもございますし、月々の
支払いのたんびに夫婦げんかが絶えない、これはもうそういうような形の悲劇が続出しているわけなんです。ですから、私
たちはこういう
事態をよく見まして、いまの
民法の
規定を
消費者保護のためにフルに活用して
消費者保護の
目的が達せられるという法理論ができるものならば、それを明確にしていただきたいということなのです。これは私
たちしろうとではわかりません、
専門家によって十分に
検討をしていただきたいということです。その結果、もしそれがどうしてもいまの
民法では救済ができないのだ、カバーができないということがはっきりいたしますならば、これはやはり
消費者保護の観点からいまの
民法の
契約法規を修正をした特別
立法をしていただきたいということなんです。
次に、これは今度の
割賦販売法の
改正案第四条についての問題ですが、
契約条項の基準を
通産大臣がおきめになるという
規定があるわけですが、実は、いま私が申し上げたことを
契約書の中にそれを具体的に書くように指導していただきたいということです。
その第一点は、まず
セールスマンが適当なことを言ってだますわけなんですけれども、よく
消費者の人が苦情を会社に言ってまいりますと、会社では、そういう指導は一切しておりません、それは
セールスマンがかってに言ったことですから責任は持てませんと、その
セールスマンは首を切りましたからというようなことで責任のがれをするわけです。ところが、やはり
消費者にとっては、
セールスマンというのは会社を代表しておるものである、これは当然なんです。ですから
契約書に、
セールスマンの行為については一切の責任は会社が負いますということをはっきり書かしておく。これは書かなくても
法律的には
セールスマンは責任を負わなくちゃいけないのだろうと思いますが、それをはっきり
契約書に書かせる。次には、詐欺に基づく
契約である場合はいつでも無条件に代金を返しますと、言いかえれば、先ほど申し上げた法定追認というようなことを援用しない、無条件に取り消し及びそれに伴う賠償ですね、代金を返すということに応ずるということを
契約ではっきり書かせる。それから、代金
支払い請求訴訟の訴訟を提起する
裁判所ですね、これを、一部の
百科事典の
割賦業者のように
東京の地方
裁判所だと最初からきめてしまう、そういう
消費者にとって不利な特約条項は一切書かせない。その他
消費者に不利な条項、いろいろございます。たとえば
自動車の場合に、現品を受け取る場合に欠陥がないということで判こをついたならば
あとで文句は言いませんというような特約をさせる。それから
債権の取り立ての場合ですね、
一定の手続に従って請求をするまでもなく直ちに差し押えができるとか、そういった特約条項をやっているのがあるのですけれども、そういうことは一切やらせないというような
趣旨で
契約書の基準をつくっていただきたいということです。それから、つけ加えるならば、強制執行の
規制も
法律に入れていただきたい。これは
アメリカにその例があると聞いているんですが、先ほど申しましたように、これはもう
権利の乱用だと思いますが、家財道具をすぐ押えて、それを売り飛ばしてしまうというような非人道的なやり方は、これは
規制をしていただきたいということです。
それから次に、
法律の厳正を保つために
取り締まりを厳重にしていただきたいということを申し上げたいんです。これは言うまでもなく、先ほど申しましたように、大体が詐欺を
目的としたような
取引、こういったものに対しては非常にきびしい制裁が行なわれないことには、幾ら法規だけが整備されても、これは絵にかいたもちのようになってしまうんではないかということです。で、
業者がいろいろ不都合なことをやる、そういったような場合に、監督官庁が容赦なくそれを告発をする。それから、不都合なことをやっている事実があるならば、それを
一般の
消費者に絶えず公表する。そういうことによって
消費者の注意を喚起するというようなことをぜひやっていただきたいということです。この
外資系の
割賦業者の
取引については、
通産省は過去二度にわたってきびしい通達を出しておいでになるんですけれども、大体が詐欺を
目的とした
業者というのは、そういう通達が出ましても最初から守る
意思がない。これははっきりと私
たちのところへ言ってきておるんですが、自分
たちはもうこういうやり方をしないと食っていけないんだ、
通産省の通達をまじめに守っていれば、もうめしのくい上げだということをはっきり言っているわけなんです。だから、通達を出したからそれでいいんだというようないままでのお役所仕事では非常に困るということなんです。ですから刑事訴訟法では、そういう違法の事実がわかったならば告発せよという
規定があるわけなんで、監督官庁もそういう
法律上の義務を十分に守っていただきたいということが一つ。
それから、これはこの
割賦販売法の所管官庁である
通産省だけでなくて、こういった詐欺
商法には必ず
不当表示防止法違反、これが付随しているわけですが、私
たちは、同時に
公正取引委員会に不当
表示ということでブリタニカにしても何にしても申告をしているんですけれども、
公正取引委員会のほうではあまり積極的にこういった面での
取り締まりをやっていただけない、非常に私
たちは不満に思っておるわけです。だから、そういった点についても
消費者保護のために
公正取引委員会はもっと積極的に動いていただきたいということを希望したいわけです。
それから、そういう
取り締まりと並行いたしまして、個々の
トラブル、苦情
処理ですね、これについてお役所のほうがもっと積極的に介入をしていただきたい。まあいままでは民事事件というのは役所はノータッチなんだと。これは中央はもちろんですが、地方の最近できました
消費者センター、ああいったところで苦情
処理の窓口がございますけれども、そういうところへこういう問題を持ち込みましても、それは話し合ってくれ、あなたが判をついたんだから、あなたにも責任があるんだから、それは両者の話し合いでやってくれ、あるいは
弁護士さんに頼んでやってもらうべきだというようなことでノータッチなんです。まあそれは行政というものは中立なので、どちらにも肩を持つわけにいかないということをおっしゃるんですけれども、
法律でもって
消費者保護のためにハンディキャップをつけるというような
法制までができるならば、行政の
運用においても
消費者のほうに肩を持つ、弱い
消費者の味方になるというのがほんとうの
意味での公平な行政のあり方ではないかというように
考えるわけで、いままではそういうものにノータッチであるといいましても、これからは
消費者保護のために積極的に、こういう個々の苦情
処理については介入をしていただきたい。まあ私
たちがいま
関係をしておるブリタニカの苦情
処理につきましても、私
たちはおととしブリタニカを詐欺罪でもって告発をしたわけですけれども、去年の十月、不起訴処分になりました。不起訴処分になったとたんに
業者のほうは急に高姿勢になりまして、もう検察庁は詐欺ではないという
判断をしたんだから代金は返さない、そういうような態度に出てきておるわけです。で、
被害者のほうは非常にいま困っておるわけです。こういった点について、もっと役所は積極的に、ほんとうの
意味での公平な
措置は何なのかということを
判断をしていただいて、
業者のほうを指導していただきたいということを強く希望するわけです。
それから終わりに、今回は
割賦販売法の
改正ですけれども、私
たちがいろいろ苦情を受け付けて
感じますことは、いわゆる訪問販売ですね、割賦でない訪問販売。たとえばお化粧品、それからけさの新聞に出ておりますが、
アメリカ輸入の洗剤というやつ、あれはみんな訪問販売です。訪問販売ですが、
割賦販売でないのでこの
法律の
規制からはずれておるわけです。そういった
消費者のふところを家庭にまで入り込んでねらう、そういった
商法を
規制する法規がぜひ必要だ。これは
割賦販売法に準じた
考えでもって法的な
規制が必要ではないかというように
考えるわけで、これは訪問販売ばかりでなくて通信販売、そういったものも入るかと思いますが、そういう特殊の販売形態のものについて
消費者保護の観点からぜひ
規制の法規をつくっていただきたいということをお願いをしたいわけです。
それから
最後に、今回の国会で
消費者保護のための
立法が、おもなものが
割賦販売法の
改正案、それから景表法の
改正案、それから食品衛生法の
改正案、こういったものが出ておりまして、私
たちは、
消費者の
立場から言えばそれぞれ十分ではないにしても、
消費者保護ということを看板にして法
改正がなされようとしている。ですから、問題はありますけれども一歩
前進という
意味で、こういった
関係の
法律案はぜひ一日も早く通していただきたい。そうして私
たちがなお望んでおることは、次の機会にぜひそれを
実現していただきたいということをお願いをいたします。
それからもう一つは、繰り返しますけれども、こういった
法律ができましても、
あとは結局のところ行政官庁のほうの法の
運用次第、この
法律が生きるも死ぬるもその
運用次第という
意味におきまして、監督官庁がこの
法律の
目的、
趣旨を十分にくみ取られて、いま私が申し上げたことを必ず実行していただくように、特にお願いをしておきます。
以上です。