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国務大臣(
大石武一君) ただいま議題となりました
自然環境保全法案について、その提案の理由を御説明申し上げます。
わが国は、戦後すでに四分の一世紀を
経過し、今日世界に類を見ない経済成長を遂げ、国民の物質的、経済的水準も飛躍的に向上したことは周知のとおりであります。しかしながら、その間ややもすると経済的利益が優先し、自然がもともと持っていた復元力あるいは浄化力を越えた無秩序な開発行為により、わが国の良好な自然環境が随所で破壊されるなど、
人間環境の悪化が急速に進行しております。
人間が
人間らしい健康で文化的な生活を享受するためには、単に経済的な豊かさのみならず、すぐれた自然環境を確保し、これとの交流をはかっていくことが不可欠であることは申すまでもありません。日本独自の繊細ですぐれた文化は、四季おりおりに移り変わる自然との交流によってつちかわれてきたのでありまして、このようなことを考えあわせますとき、今日急速に進行している自然環境の破壊をこのまま放置することはもはや許されるものではなく、これを阻止し、自然環境の保全をはかってまいりますことは、現下の緊急かつ重大な国民的課題であります。
現在、
自然保護関連の
法律といたしましては、自然公園法、首都圏近郊緑地保全法等がありますが、前者は傑出した自然の風景地をその
保護対象とし、また、後者は首都圏の近郊整備地帯における近郊緑地の保全をその
保護対象としている等その対象が限定されており、急速かつ全国的に進行しつつある自然環境の破壊を未然に防止する
制度としては不十分であると言わざるを得ないのが現状でありまして、これらの
事態に対処し、自然環境の適正な保全を総合的に推進するためには、新たな法制を整備する必要がきわめて強いのであります。このような観点に立って、今回、自然環境の保全の基本理念その他、自然環境の保全に関し基本となる事項を定めますとともに、自然公園法その他の自然環境の保全を目的とする
法律と相まって、自然環境の適正な保全を総合的に推進するための
自然環境保全法案を提案いたした次第であります。
以下、この
法律案の内容についてその概要を御説明申し上げます。
第一に、自然環境の保全は、自然環境が
人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであることにかんがみ、広く国民がその恵沢を享受するとともに、将来の国民に自然環境を継承することができるよう適正に行なわれるべきものであるとの自然環境の保全の基本理念を定めるほか、国、地方公共団体、事業者等の責務を明らかにいたしております。さらに、これらとあわせて、国は、自然環境の保全をはかるための基本方針を定め、総合的な自然環境の保全
行政を推進することといたしております。
第二に、
環境庁長官は、人の活動によって影響を受けることなく原生の状態を維持している土地のうち、一定の地域を原生自然
環境保全地域として指定いたしますとともに、この地域における建築物その他の工作物の設置をはじめとして、落枝・落葉を採取する行為に至るまで、自然環境を破壊するおそれのある行為を広く取り上げ、これらの行為を原則として禁止し、人為が加えられることによって原生の自然環境が破壊されることのないようきびしく規制をするとともに、特に必要のある地域については、その地域への立ち入りについても制限を加えることといたしております。
第三に、
環境庁長官は、高山性植生または亜高山性植生やすぐれた天然林が相当
部分を占める森林の区域など良好な自然環境を有する地域を自然
環境保全地域として指定しますとともに、この地域の自然環境を保全するための規制または施策に関する保全計画を策定し、この保全計画に基づいて、自然
環境保全地域内に、特別地区または海中特別地区を設け、これらの地区内で行なわれる建築物その他の工作物の設置や土地の形質の変更等一定の行為については、
環境庁長官の許可を受けなければならないものといたしております。さらに特別地区内における特定の野生動植物の
保護のために特に必要があると認められるときは、野生動植物
保護地区を指定し、その地区内における野生動植物の捕獲または採取について制限を加えることとしております。
第四に、都道府県は、国が指定した自然
環境保全地域に準ずる土地の区域で、当該区域の自然環境を保全することが特に必要なものを都道府県自然
環境保全地域として指定することができるようにするとともに、この地域内においては国の特別地区、野生動植物
保護地区の規制の範囲内で、当該地域の自然環境を保全するために必要な規制を加えることができることとし、現在多数の道県において制定済みの
自然保護条例の法的根拠を明確にすることにより、国及び都道府県が相協力して自然環境の保全を総合的にはかることができるよう
措置いたした次第であります。
このほか、
政府がすみやかに良好な都市環境を確保するために必要な自然環境の保全の
制度を整備すべき旨の規定を設けるとともに、自然
環境保全審議会の設置等について、規定いたしております。
以上が、この
法律案を提出する理由でありますが、何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
なお、
自然保護取締官による注意命令等の権限の執行、自然
環境保全のための事業に要する経費に充てるための地方債についての配慮等に関して、
衆議院で
修正が行なわれております。