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参考人(
斉藤吉平君) 私、
全日本海員組合の
中央執行委員をいたしております
斉藤でございます。船を運航する乗り組み員の
立場から、
海上交通安全法について申し述べさしていただきたいというように考えます。
この
海上交通安全法の
制定につきましては、私
ども、海上の安全を守る重要な項目であるといたしまして、数年前からわれわれの運動方針の中の重要なポイントを占めて運動を継続してまいったものでございまして、これは原則的にすみやかに成立されるよう強く望んでいるものでございます。
なぜ私
どもはこの
海上交通安全法を強く望んでいるかということにつきまして、大きく分けまして二つほど
問題点があろうかと思います。
第一は、いままで一般社会におきましても、海は広いものという概念でとらえられておりました。確かに海は広うございまして、われわれ船を運航する者にとりましては、一隻対一隻という
関係でとらえれば、たとえば衝突予防という問題等は、いままで
解決ができていたものでございます。しかし、最近、御存じのように、
船舶の数が激増をしている。で、その激増した船がさらに
大型化、
高速化をしているということは、相対的に数をさらにふやしているということにも相なろうかと思いますけれ
ども、海はもう広いということではなくして、海ははなはだ狭くなったということが現実であろうかと思います。で、その狭い海の中でどうわれわれは安全な
航行を確保するかということになるわけでございますが、そこにはもう一定の
ルールをしくしか方法はないということでございまして、すでにヨーロッパ等では、ドーバー海峡等で始められておりますいわゆる分離
航路方式——行き会いということをなくして一方の流れにするという
考え方、これをすみやかに導入することによって
交通の安全をはからなければならないということで私
ども意見の一致をしていたわけでございます。
で、昔は、大洋を
航行いたしまして
日本に帰ってまいりますと、瀬戸内海に入りますとほっとしたものでございます。それは、非常に静かな海で風光明媚であるということで、瀬戸内海はほんとうにのんびりと航海ができました。ところが、最近は逆でございまして、瀬戸内海に入るとほんとうの航海のむずかしさが来る。船は
高速化しておりますから、たくさんの船の中を見張りを続けながら、それを避けながら
航行をする、そして安全を保つということでございまして、いま、船を運航する乗り組み員の
立場からは神経のぎりぎりの限界であるというような苦情等も私
どもに上がってきておりまして、これ以上この問題は放置はできないというところに差し迫っているというように私
ども考えられます。
第二の問題は、海難の社会化ということでございます。以前は、海難といいますのは乗り組み員の命の問題あるいは
船舶の喪失の問題ということだけにつながっておりました。しかし、御高承のとおり、
危険物の大量輸送、たとえば原油を運びます
タンカーというようなもので大量に運んでまいりますと、それは、海難を起こした場合に、ただ単にその乗り組み員並びに船の問題だけではなくって、たとえば、あふれ出た、あるいはこぼれ出た油というものが沿岸に流れつくといったような問題等を考えますと、これは社会に非常に大きな問題を及ぼすということで、これは単に船乗りだけの問題ではなくなってきたということ、あるいは現在、道路の延長であるといわれておりますカーフェリー、これには、長距離等におきましては二千名までの大量の不
特定多数の人が乗りまして
航行しているわけでございますが、これが二十ノット以上のスピードで走るということで、もし、これに何か災害等が
発生したと考えますと、非常に多数の人に悲惨な情景が出てくるということでございまして、いろいろ、それらの点から、海難というのは、単に海上だけの問題ではなくって、一般社会とのつながりにおいて非常に大きく社会化をしたというふうに私
ども言えるかと思います。その意味におきまして、それらの大きな責任というのが船乗りの肩にかかってきております。船員自身ではこれは負い切れるものではない。ただ単に船だけで考えて
解決をしようということだけでなくって、これは全
日本、あるいは国全体として考えるべき範疇に入ってきたと。その意味におきましても、どうしても海難というものは防止をしていかなくちゃならない。その一つの具体的な方法としまして海上に一つの
ルールを設定をする。
ルールを設定することによって
航行の安全を確保するというこの
法案の
趣旨というものは、先ほど申し上げましたように、私
ども非常に渇望しておる点でございまして、早急に成立を望んでいる点でございます。
これらの
海上交通法を設定をしていただくにあたりまして、私
ども必ずしもこれが
全国的に満足すべき
内容であるというふうには考えておりませんので、これらに対しまして、私
ども、以下、これらの点についてはこのように
要望したいという点等も持っておりますので、それをつけ加えさしていただきたいと思います。
この
海上交通安全法をうまく運営をするというために欠かせない一つの条項がございます。それは環境の整備ということに尽きるかと思います。たとえば、
航路の整備。浅瀬等々があります。浅瀬を除去して
航路を満足に通行できるような整備の方法、あるいは
航路の標識——そこが
航路であるということを示す標識あるいはそこが水路の曲がりかどであるということを示すいわゆる
航路標識の完備といった問題。それから、船に与えていきますところの情報の問題。さらに
航行を管理する問題等々、非常にあろうかと思いますが、それらを含めましての環境の整備ということ、これは非常に欠くべからざる問題でございまして、私
どもは、まず、この
海上交通法がスムーズに進行するためには、この環境整備ということに国の
施策の焦点を当てていただきたいというように考えております。
さらに、陸上の道路と比較するまでもございませんけれ
ども、
航路というものは、ただ単に自然にあるものだけを
航路とするというのではなくって、もっと積極的に
航路自体の開発ということまでも国として大いに乗り出していただきたいというように私
ども考えているところでございます。
それから第二番目の問題は、この
海上交通安全法は、いわゆる
警察法規といわれる陸上の
交通法と並んで、取り締まり的な意味が非常に強化されております。うしろのほうにもありますように、罰則が非常に強く出てきているわけでございますが、私
ども、この
交通安全というのを確保する意味におきましては、罰則でもって
指導をする、罰則でもってこの
実施をするということは必ずしも妥当ではない。むしろ、行政
指導というところにポイントを置きまして、罰則というのはむしろないにこしたことはないと、ないほうがよろしいというようにも考えているわけでございます。これは、陸上の道路におきましても、道路の
交通安全ということを
指導する場合に行政
指導が非常に効果をあげておりまして、罰則そのものは必ずしも効果をあげていない点等々もございます。特に、海上における
交通といいますのは、ただ単に本人の意思だけできまるものではございませんで、海象、気象その他自然の要素がたくさんにかたまって来るものでございまして、その意味におきましても、何といっても、第一に必要なのは
指導である、行政
指導であるという点を強調いたしたいというように考えます。
それから第三番目には、この中には、さらに具体的
海域等におきまして、航法の設定ということが、将来、省令その他によって行なわれようかというように考えられるわけでございますが、航法の決定にあたりましては、やはり地元の
方々、特に船を運航する方、あるいは海事
関係者の地元
意見というのを十分に参酌していただいて、民主的にこれをきめるということをぜひ実行していただきたいというように考えます。と申しますのは、この航法、これは
日本の沿岸には
外国船がたくさんに参りまして、
日本の沿岸そのものは、むしろこれは国際
航路であるというふうに考えられるわけですが、その意味におきましては、
外国船員にもだれにもわかるように、簡単明瞭である、しかも単純であるということが当然原則であろうかと思います。しかし、その中で、現在まですでにこの
海上交通安全法の成立が待ち切れずに、みずからの中で自主的に航法をきめているといったこと等々もございまして、それがすでに身についた、慣習化したというように考えられるところもございます。そういう点につきましては、それらの慣習化された点というのは、これは重く見ていただきまして、身についたものは大事にする、そのことが、航法自身を安全にするということの一つの原則ともなろうかと思いますので、新たに航法等を設定する場合には、地元の御
意見というものを十分に尊重されて決定をしていっていただきたい。少なくとも、押しつけというようなことはぜひ避けていただきたいというように感ずるわけでございます。
それからその次の問題先ほ
どもういろいろ御
意見が出ておりましたけれ
ども、沿岸漁船員の
生活、これは私
どもにとりましても重要な問題でございます。同じ、海に
生活するということはもちろんでございますが、私
ども組合にとりましても、汽船の乗り組み員、漁船の乗り組み員、ともに傘下にある組合でございますが、
生活を奪われるということは、組合にとりましても、重大なことでございます。この
海上交通安全法が
制定されることによりまして、
生活のかてを失うということは、これは絶対許すことはできない問題でございまして、私
どもは、これはこの法規とは別に、別の角度から国として十分な保障、十分な
生活を見るという点についての
配慮ということをぜひお願いを申し上げたいというふうに考えます。
以上の点を、私
ども、この
施行するにあたりましてぜひお願いしたいと思うわけでございますが、さらに、附帯的に申し上げたい点がございます。
それは、第一は、
巨大船の問題でございます。私
どもの
考え方では、
巨大船ということが、野方図に巨大化されていくことを許してはならないというように考えております。
巨大船というものが、経済ということだけを中心にいままで伸びてきているように考えられますが、これはあらためて安全という見地から見直していかなければならないというように考えます。
巨大船、先ほど申し上げました
大型タンカー等で代表されますけれ
ども、こういう大型船が、たとえば東京湾、伊勢湾あるいは瀬戸内海といった閉塞されました海面に入るということ、これも私
どもはぜひ今後
規制をしていかなければならない。といいますのは、もし、それに
事故が出た場合、たとえば新潟沖のジュリアナ号事件で、六千ないし七千トンの油が流れ出たということがいわれます。あれは、
日本海の流れによりまして拡散をされたわけでございますが、もし、あれと同じことが東京湾の中で起きたら、しかも、東京湾の中に入ります船は、現在二十六、七万トンまで入っているわけでございまして、こういう船に災害があった場合に、この東京湾のまわりに二千万の人口が
生活をしているということから考えますと、これは取り返しのつかない災害をもたらすという点を考えまして、これらの
巨大船というものにつきましては、安全という面からさらにお考えをいただきまして、大型の
規制、あるいはタンクの大きさの
規制、さらに閉塞された海面への入航の
制限というものを合わせ、含め、この
交通安全法と一緒に、ぜひお考えをお願いをしたいというように考えます。
もう一点、港の問題がございます。現在、
日本の海岸はこれはほとんど港になるのではないかと思われるほど港の新設が行なわれております。これも私
どもの見地からいいますと、経済ということを主にした考えで、安全という面から、さらに港のつくり方について再考されていないというように考えられます。地域の開発等々、これはたいへん必要なことかとも思いますけれ
ども、その港ができ上がった結果として海上の
交通にどういう変化があるかというような点につきましても、いままで私
ども考慮されたということを聞いておりません。これもやはり国という全体的な
立場から、港の新設と申しますか、新築と申しますか、それらにつきましても、安全の
立場からさらにあわせて御
配慮をぜひお願いすべきことであるというように考えております。
最後に、この点は私
どもさらに強調をしておかなければならないと思いますのは、先ほ
ども申し上げました大型カーフェリーの安全ということでございます。現在、二千人程度まで、物見遊山の婦人を中心とするようなお客を乗せまして二十ノット以上で走り回っておりますが、これがもし何かがありました場合に、この人命千名を単位とするような大災害を防ぐということについて、設備の点、あるいは乗り組み員の訓練の点、いろいろな点におきまして必ずしも安心すべきところに至っておりません。これは
発生をいたしましたら、これはほんとうに手のつけようのない大災害になるということでございまして、このカーフェリーの安全対策等々につきましても、
海上交通安全法が
施行の成立と同時に、その点も合わせ、含めて御検討をぜひお願いをしたいというように考えます。
たいへんざっぱくで、散らばった
意見等になった点、申しわけなく思いますが、一応私の
意見として閉じさせていただきます。