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政府委員(
手塚良成君) この
法案のもとになりますといいますか、
最初に考えられました
昭和四十二年のときは、御承知の
英仏海峡におきまして、
トリー・キャニヨン号という
タンカーが
乗り揚げ海難事故を起こしまして、
英仏海峡が
油びたしになり、英国、
フランスともども軍隊を出してその排除につとめ、非常に
水産資源その他に大きな影響を及ぼした
事件がございます。で、
日本においてもそれに近い蓋然性を持っている、特に主要狭
水道というところには非常にそういう
海難のおそれがあるということで、あらかじめこれを予防しようということが一つの大きなきっかけとなりましてこれに取りついたというのがそもそもでございます。そういった
事態から、
最初にやはり問題になりましたのは、今日でもそうでございますが、いま先生御指摘の、
漁業との
調整、調和をどういうふうにとるか、端的に詰めますとその一点。しかも、それを法文的に申し上げますと、要するに、
漁船と
一般船との
避航関係ということになるかと思います。そういうことがずうっと続いて、その後の第二次案といいますか、
昭和四十四年の案の際も一、これはほとんど
最初の案と変わりない
状態まで進められまして、要するに、
内容的に見ますと、
一般船舶に対して、それが
航路を
航行しておる
状態の場合には、
漁船はこれを避航するという基本的な姿勢、
規定が原案として盛られておりました。そのことに対して、
漁業サイドにおきましては、それが致命的なことになる、
生活権を不当に奪うという事実になる。そういう
状態は、単に
補償というだけの問題ではなくて、もっと根本的な問題になるんだ、こういうようなこと。もちろん、その中には
補償云々というような議論も相当具体的になされたようでありますが、そういう姿で、従来日の目を見ないで、実は足かけ五
年間、今日のような
事態にまで立ち至ったというようなわけであります。今回、この
法案を御
審議願うに至る
過程におきましても、やはり端的に申し上げて、最大の問題になりましたのは同じ問題でございます。で、この間、私
どもは
漁業関係者との間にできるだけ意思の疎通をはかり、また今日の
交通の
実態をよく認識をしてもらい、また
漁業との間の
調整をどういうふうにするかということで、
関係業者の方と再三にわたってお
話し合いをいたしました。特に昨年の春からこの方熱心にやりまして、その間、
水産庁に御仲介を願いまして、この
沿岸漁業の本部であります全漁連、それから
関係の各県連の幹部の方々と、ずっと意見の交換をやってまいりました。さらに
法案の具体的な
内容につきましても、やはり昨年来三度にわたりまして
説明会を行なうというようなことも、私
ども入って、やったわけです。それ以外に、
水産庁におかれて熱心に
漁業の
専門家同士の
お話も行なわれるということがございました。その結果、
水産庁に
提出をされました
要望というものがございまして、それと私
どものとを突き合わせまして一案文の修正その他を行ないまして、今回御
審議を願っておるような部内的な
了解点に達したということでございます。こういった
要望なりお
話し合いの
過程におきまして、四十二年来の原案あるいはその後私
どものほうでつくりました原案というものも相当に修正をいたすことにいたしました。
若干、その
内容の御例示を申し上げますと、たとえば、当初この
法律の目的というものは、いまここに書いてございます
海上交通の安全ということのほかに「円滑化を図る」という文句がございました。これは、要するに、海面が非常に混雑をしておるというときに、その混雑を解消する。これはまことに、端的に申し上げますと、多数
漁船が出ておりますと、これは非常に、海面
交通はできなくはございませんけれ
ども、一種の混雑
状態でございますので、その混雑
状態を解消するというようなことも大きな目的であるというふうにいたしておりましたが、そういった面はこれを削除をいたすということにいたしました。
それから、
法律の
適用海域につきましても、
東京湾、
伊勢湾、
瀬戸内海の範囲全面ということを当初考えておりましたけれ
ども、やはり
漁業との
調整の
関係で、漁港区域あるいは
一般船舶の通常航海しないような
海域、こういうようなところはできるだけはずすということにいたしまして、やはり
漁業が従来どおりそういう面におきましては行ない得るようにいたす。
あるいはまた、
航路の中で一本釣りをやりますような停留
状態という船がやはり
一般の船の
航行とぶつかり合いますおそれがあります。その際に、従来は、停留をしている
漁船はその他
一般の
船舶を、まあ言うなれば、
巨大船以外のものも含めまして、避航しなさい、避航をするように、という
規定になっておりましたが、今回は、そういった停留船は
巨大船のみを避航する。それ以外の
一般内航で走っております数多くの五百
トンなり千
トンという船はその船のほうがそういった一本釣りの停留船を避ける、こういうような大原則をこの際きめることにいたしました。
あるいはまた、
巨大船が通りますと、その進行に伴う波が非常に立ちまして、
小型の
漁船等はその波のために転覆のおそれが出る。こういうことの
お話がございまして、それを
規制する意味におきまして、速度制限という
規定を新たにきめる。これを実行して忠実に運用したい、こういうような
規定を入れました。
あるいはまた、
航路をきめたからにはある程度当然かとも言えるかと思いますけれ
ども、
航路の
航行義務というものを
規定づけるということにいたしました。これは
航路の幅、長さを
一定いたしますけれ
ども、その中をまず大半のきめられた船は当然通る。それ以上岸に寄って走ったほうが便利だとか早いとかいうようなことがかりにあるような船も、そういうところを走ってはいけない。つまり、そこは一つの大きな漁場にもなり得るわけなんで、そういうところはまず漁場として使用しやすいように、
一般の船は
航路の
航行義務というものできめられた中を必ず走る、こういうようなことをきめました。
あるいはまた、危険物
——最近、
タンカーによる原油というのが一番数量的にも船の数が多うございますが、それ以外にも、
瀬戸内海で、新聞紙上にも出たことがありますけれ
ども、非常に特殊な薬品などを積んだ船が通りますが、そういうものを含めました「危険物積載船」というものの
規制といたしまして、それの
航行予定時刻の通報とか、また、その通報さした後における
規制とかいうような
規定を設ける。
あるいは、この中で
一定の地域におきます漁具の設置等につきましては、これは従来と何ら変わることがないように行ない得るようにする。私
どもはやはり
航路の近くに工作物が設置をされるというような
事態につきましては、許可というものにかからせたい。これは最近のシー・バース等の設置等もございまして、やはり工作物等が相当できますので、そういうものの一つの
規制を考えておりますが、やはり
漁業の漁具等の設置等につきまして一々そういうことをやりますのは、煩瑣でもありますし、
漁業の
一般的な支障にもなりますので、そういう面は極力
規定から除外をして、従来どおりできるようにする。
まあ、あげますと、まだございますけれ
ども、まだ
法律の中におきまして、いろいろ
要望に従って
調整をするというようなことをやりました。一、二の例をあげたわけでございます。こういうようなことによりまして、先ほど
お話し申し上げた、
関係漁業の
関係者あるいは
水産庁との意見の一致を見ました結果が本
法案ということになっております。
なお、おそらく先生もお考えだと思いますが、いま地方におきます
漁協等でやはり反対運動を展開しております面もあるわけでございます。これらにつきましては、いろんなこまかい特殊事情があるかと思いますが、一つにはこういった
内容修正等についての不徹底である、十分御理解を得られていないという、宣伝、PRが不足であるというような面も多分にあるかと反省をいたしておる次第でございます。大筋といたしまして、全漁連その他におきまして、基本的には、一応こういう
法案で御賛成を得ておるというふうに理解をいたしております。