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政府委員(
川島博君) せっかくお話が出たようでございますので、日本鋼管の扇島移転問題についていささかお時間を拝借してよろしゅうございますか。——御
案内のように、日本鋼管京浜製鉄所、これは明治の末年に創設されたものでありまして、創業以来約六十年間を
経過しようとしております。したがいまして、
工場は
増設に次ぐ
増設で満ぱいになっておるわけでございますけれ
ども、施設は老朽化、特に高炉施設の老朽化は建てかえをしないと商売にならぬという状態に達したわけでございます。そこで、日本鋼管当局は、当初、京浜
工場をスクラップ・ダウンして、遠隔地に立地することも考えたようでございます。しかし、遠隔地に適当な候補地がなく、また、現在日本鋼管は二万人の従業員をかかえております。また、関連企業に六万人おります。つまり、日本鋼管でめしを食っておる人間が八万人、家族を入れれば二十五万人があの
工場に依存しているわけでございます。この二十五万人の民族大移動をするということもたいへんでございます。そこで日本鋼管は、これは日本鋼管の現在埋め立てております扇島地区、これは
東京湾内でも一番地盤の悪いところであります。したがって、埋め立て工事も非常にむずかしい。対岸の鋸山を切りくずして、いまプッシャーパージで運んでいるわけなんです。これは締め固めましても、おそらく軟弱地盤でございますから、相当な工事費がかかるばかりでなく、将来大地震等が発生した場合には、かりにあそこに
工場施設が完成した暁には高炉が倒壊するというようなことも私は考えなければならないのではないかと思います。しかし、日本鋼管としては、そういったリスクをあえておかして、遠隔立地でなくて、地先海面にリプレースするということを、会社の最高
方針として決定したわけでございます。これに対しまして、横浜、川崎市当局は、再三折衝を重ねた末、確かに陸上の高炉をつぶして海上に新鋭高炉を二基建てる。現在粗鋼年産が六百万トンでございますが、これを新鋭二基に変える際に、五十万トンだけ多くしてほしい。六百五十万トンの設備能力のある新鋭高炉二基を
建設する。同時に製鋼
工場の一部も埋め立て地に移しましてやる。しかも、
昭和五十三年の完成時までには、亜硫酸ガスの最大着地濃度を〇・〇一二PPMまで下げるという会社は約束をさせられたわけでございます。したがいまして、公害対策に関する限り、この日本鋼管の扇島移転は確かにプラスになる面があろうと思います。しかし、私
どもはそれだけでは満足できません。したがいまして、実は一昨年私がまだ
首都圏整備委員会に着任早々でございましたが、この問題の相談を受けましたので、直ちに神奈川県当局、並びに横浜、川崎市当局、さらに日本鋼管の幹部も呼びまして、
注文をつけました。その
注文は、まあこの際施設のスクラップ・アンド・ビルドを現地でやるということで、諸般の事実が進行しておりますから、あえてそのこと自体には
反対いたしません。しかし、これ以上、京浜工業地帯の
過密を激化させないためには、現在の粗鋼生産能力六百万トンを六百五十万トンに上げることは認めるけれ
ども、それ以後の
増設は一切認めない。御
案内のように、百五十万坪埋め立てるわけでございますから、高炉はまだ二本でも三本でも立つ余地がございます。おそらく粗鋼生産能力で二千万トン程度の余地があるわけでございます。日本鋼管がはたしてそういう意図のもとにやっているかどうかわかりませんけれ
ども、その可能性はあるわけでございます。そこで、私は運輸省当局とも連絡の上、港湾
審議会委員という私の立場がありますから、その席をかりて圧力をかける以外に阻止する方法はないわけでございます。したがいまして、私は港湾
審議会で堂々と
意見を述べたわけでございますが、それは現有勢力以上に将来未来永劫にわたって生産能力を増強させないということ。それから、現在陸上施設が八十八万坪ございます。高炉は全部とりこわすわけでございます。製鋼
工場の一部もとり払うと相当な余裕地ができるはずでございます。これはあげて横浜市、川崎市当局に提供して、
都市再開発用地として活用させなさい。会社の都合でどうしても譲れないという場合には、会社の敷地として、内に樹林地、あるいは緑地、あるいは運動場等をつくって、従業員の福利厚生のために利用するとともに、余裕がある場合には横浜市民、川崎市民のために開放して、
環境改善のために役立たせてほしい、こういうことを申し入れました。会社は、全国の鋼管
工場からの製品の集積と配送のための流通基地にしたいので、そういう土地をお譲りする余裕はございませんと言っておりましたが、私は力強く説得を続けました、会社の幹部を何回も呼びまして。その結果全部私
どもの条件をのんでいただきました。最後に報告に見えました会社のある幹部は私に向かって申しました、
川島さんには負けました。