○山口鶴男君 日本社会党を代表し、
昭和四十五
年度地方財政白書に関し、佐藤総理並びに
関係大臣に対して質問を行ないます。
昭和四十六、四十七
年度の
地方財政が戦後最大の危機に直面していることは、何人も否定し得ないでありましょう。今回、
政府の発表された
地方財政白書の最後の項、「最近の
地方財政の傾向と課題」においてすら、「
昭和四十五年後半以降の
景気後退に加えて、四十六年八月に発表されたアメリカの新
経済政策を契機とする
国際経済環境の著しい変化に伴い、
景気は再び
低迷傾向を強めることとなり、
地方財政も、従来と著しく異なる局面を迎えることとなった。」「四十六
年度および四十七
年度の
地方財政においては、税収の伸び悩み等による
歳入の伸びの鈍化と
景気の刺激および
社会資本の
整備の促進を図るための
建設事業の拡大等による
歳出の増加とがあいまって、多額の
財源不足が見込まれるにいたった」と告白しているではありませんか。
戦後、
地方財政は、三たび深刻な危機を
経験いたしました。第一は、
地方自治体が軒並み赤字団体に転落し、ついに
地方財政債権促進特別措置法を
制定せざるを得ない羽目に立ち至った
昭和二十八年、二十九
年度の時期であり、第二は、佐藤内閣成立面後の
昭和四十年不況によって、
政府が国の予算において初めて公債発行に踏み切った
昭和四十年、四十一
年度の時期であり、第三が
昭和四十六年、四十七
年度の今回であります。
佐藤総理、ある雑誌によれば、財界の一部から貧乏神ではないかとうわさされているのを御存じですか。佐藤総理が登場した直後、深刻な不況が到来し、いま、七年有半、最長不倒距離といわれる長期政権を維持しながら、内外
政策の完全な失敗から、世界最高の円切り上げを押しつけられ、戦後最大な
経済危機を現出し、そのあまりに長かった政権の座を去らんといたしております。不況を伴って登場し、不況の最中に去る、まさに、財界のうわさむべなるかなと言べきかもしれません。(
拍手)
ところで、
昭和四十六
年度の
地方財政は、国税三税の落ち込みによる
地方交付税の減少、法人
事業税を中心とする
地方税の減収、国の
景気浮揚対策のための
公共事業の
地方負担の増加など、三重の責め苦に呻吟いたしております。
政府は一応五千三十一億円の
地方財政対策を講じたものの、その対策はきわめて不十分なものであり、
地方自治体の多くは、一千億円もの減収補てん債によって、からくも
収支のつじつまを合わせる始末だったではありませんか。
昭和四十七
年度の
地方財政は、当初一兆円の
財源不足が見込まれたのでありますが、
政府の講じた措置は、臨時
地方特例交付金一千五十億円、交付税特別会計における借り入れ千六百億円、臨時沖繩特別交付金三百六十五億円、
地方債の増額四千九百八億円など、八千億円の措置にとどまったばかりでなく、そのうち、一千六百億円と四千九百八億円の合計六千五百八億円は、名目はともかく、
地方自治体の借金ではありませんか。
政府は、国も
昭和四十七
年度は一兆九千五百億円の公債を発行している借金
財政だというかもしれません。しかし、
地方財政は、国が公債発行を行なう以前から、
地方債という名の借金を押しつけられているのであります。現に、
地方財政白書によれば、
昭和四十五
年度末の
普通会計における
地方債の現在高は二兆九千七百七十七億円の巨額に達しているのであります。その後、
昭和四十六
年度は元金返済を控除して七千億円の増加、
昭和四十七
年度は同じく七千二百億円の増加が見込まれ、本
年度末の
地方財政の現債高は、実に四兆五千億円となることは確実といわなければなりません。
しかも、利子の安い
政府資金の割合は年々低下をいたしております。
昭和四十
年度現債高のうち、
政府資金の割合が七〇%であったのに、
昭和四十五
年度のそれは五七%に低下をいたしているのであります。そして、市中銀行からの借り入れなど質の悪い公募債、縁故債の割合が増大していることを注目しなければなりません。
昭和四十七
年度の財投計画五兆六千三百五十億円のうち、資金運用部資金が七五%を占めているにかかわらず、
地方債計画では、その割合はわずか五六%にすぎないではありませんか。
佐藤総理、あなたは、
昭和三十九年総理に就任するにあたり、人間尊重と社会開発を
国民に公約をされました。
地方自治法第二条を引くまでもなく、
地域住民の
生命、健康、福祉を守る責務は
地方自治体にあります。社会開発、すなわち
公害対策、住宅、下水道、都市公園、ごみ処理などのための
公共事業の遂行者は
地方自治体であることは言うまでもないのであります。しかも、佐藤総理は、七〇年代は内政の年と言われました。国は
法律を
制定し、
各種の予算を計上するけれども、実際に
事業を執行するのは
地方自治体であることは明らかではありませんか。
現に、
地方財政白書によれば、
昭和四十五
年度において
租税として徴収された額十一兆五千二百六十一億円のうち、国税は七兆七千七百五十四億円であるのに対し、
地方税は三兆七千五百七億円にすぎません。その比率は六八対三二という
状況であります。一方、国と
地方との純計
歳出額は十四兆一千九百八十一億円であって、最終支出者としての国は四兆五千九十四億円、
地方は九兆六千八百八十七億円であって、その比率は国が三二、
地方が六八となっており、
租税の徴収比率と最終支出者の比率とは、実にみごとに逆転をいたしておるのであります。
さらにその
内容を分析いたしますと、
昭和四十五
年度における国と
地方の純計
歳出規模目的別分類によれば、
地方は、
国土開発費の七九%、学校教育費の八七%、衛生費の九一%、住宅費の九九%、失業対策費の九九%、民生費の五六%、
商工費の六七%、農林水産費の三二%を支出しており、
国民生活に
関係する
事業の執行において、
地方自治体の果たす役割りがきわめて大なるものがあることを明確に示しているのであります。
佐藤総理、あなたが、人間尊重、社会開発、七〇年代は内政の年という
ことばを口にされた以上、それを着実に実行する
地方自治体をして
事業を執行し得る力、
財政力を付与しなければならないではありませんか。
具体的には、第一に、
租税の徴収の比率と最終支出者との比率が完全に逆転しているという、
わが国の誤った現状を是正すること、
租税徴収の比率を六八対三二から、せめて、五〇対五〇にするために、国と
地方との税源再
配分を断行すべきであります。
第二に、税源再
配分を完全に実行に移すためには若干の時日を必要とするかもしれません。とするならば、
昭和四十一
年度以降六年間にわたって押えてきた
地方交付税率三二%を、少なくとも三五%以上に引き上げるべきであります。(
拍手)と同時に、
建設公債とはいうものの、実質は
歳入欠陥を補てんするための赤字公債について、その額に交付
税率を乗じた額を特例交付金として一般会計より交付税特別会計に繰り入れる措置をとるべきであります。
第三に、郵便貯金、厚生年金、
国民年金など、
庶民の貯蓄や積み立て金によって占められている資金運用部資金については、
地方自治体の一般会計債、準公営企業債、公営企業債に対して優先的に振り向ける制度を確立すべきであります。
以上三点について、佐藤総理の
基本的な見解を求める次第です。同時に、大蔵、自治両
大臣の見解を求めるものであります。
次に、
地方公営企業に関して、問題点を指摘をいたします。
国の予算編成のたびに、三K赤字という
ことばが繰り返されてきました。国鉄会計、食管会計、健保会計の三つであります。現に、第六十八通常国会の現存の焦点は、国鉄運賃法
改正、国鉄
財政再建促進特別措置法
改正であり、健康保険法
改正であることは、衆目の一致するところであります。さらにまた、近く開かれる米価審議会の結論は、本
年度の補正の大きな要因となることは必至でありましょう。これらはきわめて重大な
政治課題であることはもちろんでありますが、忘れてならないのは、
地方公営企業の危機であります。
昭和四十一年、
地方公営企業法
改正によって、
財政面からの再建措置を講じたものの、かえって赤字額は増加の一途をたどり、
財政再建は完全に失敗をいたしたのであります。
地方財政白書によれば、
昭和四十五
年度の上下水道
事業、
交通事業、
病院事業など、
地方公営企業の単
年度純損失額は五百七十五億円であり、単
年度欠損金比率は七%、累積欠損金は実に二千三百六十三億円の巨額に達しているのであります。
特に
交通事業においては、
昭和四十五
年度末、七十九
事業のうち、純損失を生じた
事業数は三分の二に当たる五十四、純損失額は三百四十九億円となっており、累積欠損金は千六百七億円に達しているのであります。全国をカバーする国鉄の累積欠損金が
昭和四十五
年度末五千六百億円であることから見て、公営
交通の経常の危機は国鉄のそれを上回ると言っても過言ではないでありましょう。
国鉄会計の赤字が、
交通革命の進行、特にモータリゼーション、過疎、過密の激化などによってもたらされたと同様に、公営
交通もその例外ではありません。
すでに欧米各国においては、大都心に
交通行政の権限を付与する、都市の高速鉄道に対して、大幅な助成を行なう、
交通一元化を断行する、専用レーン、優先レーンを大幅に
実施するなどの具体的措置を行なっているのであります。しかるに、
わが国においては、総合
交通閣僚
会議において、「総合
交通体系について」という作文ができた程度ではありませんか。
地方公営企業、特に危機に立つ公営
交通の再建にどのようにして取り組むか、佐藤総理並びに自治、大蔵両
大臣の所信を求めるものであります。
さて、七〇年代は内政の年といわれながら、佐藤内閣の
地方行
財政に対する施策は貧困をきわめてきました。その結果どうでしょう。全国四十七都道府県中、
東京、大阪、京都、沖繩など、革新知事が続々と誕生し、六百有余の市のうち大阪、横浜、京都、川崎、仙台など、大都市の市長は人部分革新の勝利のうちに終わりました。ことしに入ってからの市長
選挙において、保守対革新の勝負は三対十で圧倒的に革新の側が勝利をいたしているではありませんか。伊勢市、橿原市においても有史以来初めて革新の市長が出現するなど、いまや全国の革新市長は百二十名の多数を数えるに至ったのであります。
佐藤総理の七年有半の長期政権の間、
地方財政の危機は深まるばかりでありました。しかし、住民のための自治を求める住民運動、
市民運動の力は、わずか一九%という史上最低の佐藤内閣の支持率の低下に反比例して高まるばかりであり、その結果、住民本位の自治体、革新自治体を増大させたのであります。佐藤総理長く居すわって革新自治体をふやすというべきでありましょう。佐藤総理の率直な感想をお伺いをいたしまして、質問を終わります。(
拍手)
〔内閣
総理大臣佐藤榮作君
登壇〕