○石川次夫君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、今回
提出されました
中小企業白書について質問をいたします。
由書によれば、昨年の
中小企業の
経常は、あらゆる指標に
不況と
円切り上げによる苦悩のほどがなまなましくあらわれております。昨年は、前年に比し、
生産は一・五%しかふえません。前年の伸びの一二・七%から大きく後退をいたしております。昨年においても、六・一%の
生産増をいたしました大
企業に比べましても著しく低く、一方、在庫は一七・六%もふえておるわけであります。
輸出に占める割合におきましても、全体の五〇%といわれておりましたのは遠い昔でございまして、年々五%程度下がっており、現在は三五%を占めておるにすぎません。軽工業の分野におきましては、明らかに絶対額においても減少の傾向を示しております。
さらに、設備投資は、
中小企業におきましては本年度実に一八・八%も減少することが予想をされておるわけであります。
この中にあってわずかな救いは、倒産が比較的少なかったことでありますけれども、これは
政府の
施策によるというよりは、超
金融緩和によるものでありまして、情勢が
変化をすれば大量の倒産をもたらす要因をますます強く内包しておるといっても過言ではありません。しかし、今日までよくこの困難な条件下に耐え抜いてきた
中小企業者の努力、バイタリティーというものには驚嘆に位するものがございます。
しかし、目下、
日本経済の当面する最大の
課題であり、特に
中小企業の最大の関心事は、円の再
切り上げがあるかどうかということであります。重ねて円の
切り上げがあれば、いかなる
施策をもっていたしましても、大
企業はともかくといたしまして、輸出地場
産業、また、下請
企業は壊滅的な打撃をこうむることは火を見るよりも明らかであります。しかるに、すでに商社の間におきましては、二百六十円あるいは二百八十円というようなことで成約を始めておるところがあるということを伝え聞きますと、まことに慨嘆にたえないのであります。
円再
切り上げの
対策といたしましては、オーダリーマーケティングが確立をざれなければなりません。それより、基本的には、
福祉行政に転換をはかりまして、民生
向上、低
賃金打破を実現をさせなければならないことはすでに定説でございます。しかし、同時に、外貨活用策を積極的に
推進をしなければならないことも当然であります。
これらの
対策につきましては、目下のところ、
政府において全く支離滅裂でございまして、あたかも統制力を失った佐藤
内閣の末期的症状を如実に示しておるものといわなければなりません。(
拍手)
通産大臣は、さきに私の質問に答えまして、商工委員会において、第二外為会計を
創設をして外貨活用を積極的に行なう、そしてそのための法案を早急に
提出をすると言明をいたしました。
外貨活用のあり方は、
金融政策との調整、手続問題などで、特に海外資源の備蓄、
開発との関連で行なうということにいたしますと、非常な困難が伴う事情はよく理解できます。しかし、通産大臣が、円の再
切り上げは絶対阻止をするという意思表示とあわせて積極的な方針を示そうといたしましたことは評価をいたしたいと思うのでありますけれども、その後一向大蔵省との話し合いは進捗を見ませんで、現在では、輸銀預託というような形に後退したかに見えておるわけであります。また、公定歩合引き下げも、国内的に
影響するところが大きいことではございますけれども、この点についても、佐藤
内閣の
施策がはなはだ不明確であります。さきの
円切り上げの
影響が徐々に出始めて、先行きの成約は減少しつつあるという事実はあるにいたしましても、種々の点で、まだまだ
円切り上げについての楽観はできないのが現実であります。どうあっても円の両
切り上げを阻止することが、佐藤
内閣に課せられた内政上の最後の
課題といってもよいのではないかと思います。佐藤
総理、大蔵大臣、通産大臣に、それぞれこの具体策についての所信を伺いたいと思うのであります。
また、スミソニアン
会議が終わって、日米経済戦争は一年間休戦だということが伝えられたにもかかわらず、突如としてアメリカ側はダンピング
防止法の名目で輸入制限、関税引き上げの挙に出ようといたしておりますことは、ガットの精神をじゅうりんするものとして許すわけにはまいりません。そもそもアメリカにおきましては、国際綱領よりも国内法が優先をし、ダンピングの判定資料も秘密にするなどということは、全くの不信行為といわなければなりません。これによって陶器など、
中小企業に関連があるものも大きく
影響を受けることになるわけであります。
外務大臣は、世界の世論に反してベトナム北爆を支持するかのごとき卑屈な態度を捨てて、アメリカとのイコールパートナーをもって自任するものであるならば、犬の遠ぼえの形ではなくて、堂々とその根拠を明確にさせ、その態度の是正を求めなければならぬと思うのであります。また、アメリカは、大統領選挙に備えてなりふりかまわず
景気浮揚、失業
対策に狂奔し、異常な金利引き下げなど、ドルの
強化策を怠って世界の通貨体制を動揺させている点、基軸通貨の上にあぐらをかいて、ドルは黒字国の責任で補えとするその態度につきましても、堂々と、強くその反省を求むるべきであります。この点、
総理、外務両大臣に所信を伺いたいと存じます。(
拍手)
次に、
中小企業白書では、
中小企業の二重
構造を認めながら、そこに視点をとどめることなしに、
人間尊重、
知識集約化の、将来のあるべき姿を示すことに重点が置かれております。確かにこれは一つの見識でございましょう。しかし、ここには明らかに飛躍があります。
中小企業の事業数は九九・三%、従業員数は実に七七・二%で、二千七百万人を占めておる。納税額も、法人税中三六・六%にも及んでいるにもかかわらず、予算の面で見るとわずかに六百九十七億円、全一般会計予算の〇・六%にすぎません。たとえば、就業者数七百万人足らずの農林予算が、食管会計を含むとはいいながら、実に一兆三千億円にもなるのに比べてみましてもあまりにも少なくて、その冷遇ぶりには、全国の
中小企業ともども、大きな怒りを禁ずることができないのであります。(
拍手)
今年度のこの予算は、全予算の二一・八%伸びておりますけれども、
中小企業は二〇・四%とこれを下回っておる。財投も、全体として三二・六%伸びておりますけれども、わずかに二二・二%増にすぎないのであります。このような
施策のもとでは、どのように将来のビジョンが示されても、しょせんバラ色の幻想にすぎないと思わざるを得ないのであります。
よく
政府は、二重
構造が解消された一つの証左として、給与の
格差の縮小をあげてきておりましたけれども、
中小企業白書の統計は、ここ十年近く六二ないし六三%に停滞をいたしております。さらに、
付加価値生産性も大
企業に比して五〇%足らずとされておりまして、これまた数年来改善のあとは見えておりません。そして、
付加価値生産性が低くても、給与だけは上げなければならないという
中小企業の苦境が数字の上にもにじみ出ておるわけであります。このことに重点を置いて具体的な解消をはかる態度が見られないことは、まことに残念であります。
大
企業中心の政治、経済の支配下における底辺としての
中小企業として見ることよりも、
中小企業の持つバイタリティー、
適応能力というものを高く評価する見方から将来の展望を示そうとすることは、本質的、本来的な問題から目をそらすことになるわけであります。われわれは、この
白書の示す華麗とも言える変身に幻惑をされるわけにはまいりません。
基本的な問題としては、やはり
中小企業問題は、大
企業に密着するうらみのある通産省とは別個に、各省にまたがる問題でもあるし、三千万人近くもの就業者数を擁しておるということでもあるし、いかに
政府が二重行政になるから必要がないと強調しようとも、われわれといたしましては、
中小企業省を設けなければ
中小企業の抜本策は成り立ち得ないことを繰り返し主張しないわけにはまいりません。
また、豊富な人材、技術力にものをいわせて、あらゆるこまかい
製品にまで進出をしようとする大
企業から
中小企業を守るためには、どうしても
生産分野の画定をすべきであるというのがわが党の年来の主張であります。このことは、経済活動の自由の原則にもとるとの見解もありますけれども、
中小企業の
生産物の六割は、日常生活に関係の深い消費財であることを考えなければなりませんし、また、大
企業による管理価格、寡占価格による物価上昇から
国民生活を守るためにも断行すべきであると考えておりますけれども、通産大臣の所信を伺いたいと思うのであります。
また、
円切り上げ、
不況の中で大
企業のしわ寄せを受けて苦吟をしておる下請
企業は製造業の半数をこえておりますけれども、その
実態は、一カ月以下の受注残しか持っていない
企業がその五割以上を占めておる。また、単価の低下の幅が一〇%以上というのが
企業の四割以上も占めておるわけであります。これでは賃上げどころではないのです。昨年下請
企業振興法は制定されましたものの、その予算はまことに少なくて、予期されたように運用もきわめて不活発な現状であります。これらに対し、きめこまかく下請
企業の多い地方ごとに
中小企業対策のための
機関を設けて、大
企業に対しては、単価や支払い方法についてその是正を求める一方、
中小企業に対して、複雑多岐にわたっていて実に理解の困難な
中小企業機関や、あるいはまた
金融の利用について周知徹底をはかるなどのことをきめこまかく行なうべきであります。このことなくしては、
中小企業はいつまでも不均衡、不平等な底辺にあえがなければならないと思いますけれども、この点をどう認識をされ、また将来これらをどう考えていくかについて、通産大臣の所信を伺いたいと思うのであります。
この苦しい下請や
中小企業に働く
労働者も、ひとしく人間らしい生活を求めております。この要望にこたえることなくして、将来の
企業の発展は望めません。
週休二日制を
実施しておる
中小企業はわずか五%にすぎないことを
白書は示しておりますけれども、世界から日本に求められておりますところのオーダリーマーケティングの重要な一環として、また
白書のいう
人間尊重の具体策として、当然週休二日制は
実施をされなければならぬと思うのであります。しかし、現実には
生産が下がり、売り上げが低下をするということで、
実施はきわめて困難でありましょう。この実現を目ざして、何らかの展望があるのかどうか、
白書では触れておりませんけれども、いかなる対案を用意されているか、その条件をいかにしてつくるか等について、通産大臣並びに労働大臣の所信を伺いたいと思うのであります。
今後の
白書の結語ともいうべき点は、端的にいって
事業転換をはかれという点に重点が置かれており、その
方向は
知識集約化であります。そして住宅
産業、情報
産業、
公害防止機器、省力
産業などへの転身を求めておるのであります。しかし、これらはいずれも高度の技術を必要とするものであります。高等教育を受けた技術者のほとんどが大
企業に集中をし、その転換をはかるための技術を持ち合わせておらないというのが
実態であります。
たとえば、知識集約
産業の代表としてのコンピュータリゼーションについていいますと、大
企業では、一
企業でもってオンラインシステム実現のためには実に教十億円も費やしておるということもまれではないのであります。しかるに、この
近代化の波におくれをとらない体制を
中小企業に指導する予算としては、実にわずか三千三百万円しか計上されておりません。これでは
知識集約化どころか、
時代の進歩についてはいけないのではありませんか。一体これで
知識集約化がはかれるとお考えになっておるのかどうか、通産大臣にお伺いをしたいと思うのであります。
最後に、一つの提案をしたいと思うのです。
それは、今度の
白書が示しておりますテーマの中で、
人間尊重、
知識集約化のすべてにわたって具体案を示すということはきわめて困難でありましょうけれども、
人間尊重の中で、たとえば具体的にいま申し上げた週休二日制の実現、たとえば
知識集約化の中でコンピュータリゼーションを
中小企業に対してどの程度実現をさせるかというような具体的な目標を立てて、そのための中期計画を立ててみてはどうでしょうか。それなら
白書は単なるスローガンではないということの裏打ちを示すことになるのではないでしょうか。それすらできないということになれば、やはり
白書は単なる作文であるということにならないでしょうか、通産大臣の所見を伺いたいと思うのであります。
その他、
中小企業白書について言うべき点は多々ありますけれども、時間の制約で触れられないことがまことに残念であります。
総じていえば、
不況対策と
構造対策の調整をどうはかるかの具体性に欠けております。また、転換をはかるにしても、どこへどうしてというような疑問に対して答えていない点は致命的な欠陥といえるでありましょう。そして、
中小企業の持つバイタリティーと
適応性をたたえることで将来の
方向づけを示すということだけでは、地に足のつかない幻想になり終わる危険性が多分にあるわけでございます。
問題点の整理が行き届き、
方向性を示したという点については評価をするのにやぶさかではありませんけれども、冷厳な
中小企業の
実態をもっと鋭く、もっとあたたかく見詰めて、具体的な立案を急がれるように特に要望をいたしまして私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕