○渡部通子君 私は、公明党を代表いたしまして、ただにいま
趣旨説明のありました
国民年金法等の一部を
改正する
法律案について、総理大臣並びに関係者大臣の所信をお尋ねしたいと思います。
人口の
老齢化現象がきわめて顕著になりつつある現在、老後の生活保障に価する
年金制度を完備することは、重大にしてかつ緊要な政治課題であることはもはや論をまちません。今日、
国民の零細な所得から集めた膏血ともいうべき年金積み立て金は、約七兆円にも達しようとしております。ところが、このばく大な積み立て金を大企業の設備投資や産業基盤の公共投資に利用して、
国民への
福祉還元をなおざりにしてきた歴代自民党内閣のいわゆる産業優先主義は、すでにさまざまな弊害を
国民生活の至るところに露呈し、もはや、その政治姿勢はすみやかな転換を余儀なくされております。
御承知のように、わが国における老後の生活というものは、長い長い間、いわゆる家族制度の美風のもとで、当然のように、子供たちによる親族間の私的扶養に維持されてきたのでした。それが、戦後、民法の改定に伴い、家の崩壊と個人主義の台頭、核家族化の進行によって老人の孤立は増長し、しばしば悲劇的な事例を見聞きする昨今でございます。つまり、現代の老人は、家族制度の消滅で子供からも見放され、ならば、その責任を負うべき国の厚生政策にも冷たくあしらわれて、路頭に迷っているというのが現状でございます。老人の家出がふえている、自殺も多い、そして病苦と孤独感が二大動機であるといわれるこの老人を取り巻く生活環境を、総理はどうごらんになりましょうか。もはや、私的扶養や個人の責任のみでは老後の生活は守れないのです。
加えて、
昭和三十年以降の経済の高度成長は、工業化、都市化を
促進し、一方、出生率の低下と平均寿命の伸長が同時に発生して、人口の
老齢化を決定づけております。したがって、老後の生活保障はもはや私的扶養の域を越えて、
社会的にこれを扶養する
年金制度にたよらざるを得ないことは、明々白々ではございませんか。すなわち、総人口に占める六十五歳以上の人口の比率が八%から一八%になるのに、欧米諸国では五十数年から二世紀近くの年月を経ているのに対し、わが国ではわずかに四十年で
老齢化社会を迎える深刻な実情にあることは、御承知のとおりでございます。一方、六十五歳以上の老齢人口は、
昭和四十七年度末の推定によると七百八十万人、
昭和九十年には一千四百が人と、急増の一途をたどっております。稼働人口十人で三人の老人を扶養する割合になるのです。まさに老後の生活保障に値する
年金制度の
拡充強化は焦眉の急なのであります。
しかるに、
年金制度に対する
政府の姿勢はといえば、一応その形だけは整えたものの、小手先のみの
改正に終始し、実質的
内容はきわめて貧弱であるといわねばなりません。たとえば、
政府が金科玉条のごとくPRした夫婦二万円年金も、任意加入の所得比例を含めて、いまから士五年先に受け取る金額のことなのです。また、老齢
福祉年金についても、本
改正案において、ことしの十月から千円アップの三千三百円にはなりますが、いかに
経過的、補完的
措置といえども、一日わずか百十円にしかすぎない涙金でございます。今日の物価高の時代に一日百十円では、たばこ銭にすぎないといわれてもいたし方がございませんでしょう。これで、はたして老後の生活保障ははかれると総理はお考えなのでしょうか。
そこで、総理並びに厚生大臣にお伺いをいたします。
急激な
老齢化社会を迎えるにあたって、老人
対策に対する基本的認識をどうお持ちなのか、また、今後どのように総合的、計画的に老人
対策を推進される決意がおありなのか、その所信をまず伺いたい。
さらに、老人
対策のかなめをなす
年金制度の
拡充強化についての長期ビジョンを明らかにしていただきたいのでございます。
第二に、新経済
社会発展計画における
年金制度の長期ビジョンの
策定の問題でございます。
今日、年金積み立て金は約七兆円にものぼりますが、その使途について種々な批判と検討が加えられているときに、なぜ新経済
社会発展計画の中に盛り込まなかったのか、御
説明願いたいと思うのです。長期安定化した年金財政の確立こそ、年金のかなめであり、必要不可欠の条件だと思います。したがって、新経済
社会発展計画の中に、長期安定のための年金財政計画及び財政方式について、明確なビジョンを打ち出すべきだと考えるのですが、総理の見解をお伺いしたいと思います。
第三に、財政方式の再検討についてですが、わが国
年金制度の最大の欠陥は、制度の未成熟にあるといわれております。その要因は、一つには、
国民皆年金体制の発足がおくれたために、
国民年金ではわずかに十一年を
経過したにすぎず、昨年の四月にようやく十年年金が開始されたという実情で、諸外国に比べて、その歴史がきわめて浅いという致命的欠陥を持っていることです。
二番目に、年金受給者と年金額がきわめて低いということです。すなわち、年金の中心的存在である拠出制
公的年金の受給権者数は九十三万九千人であり、老齢人口のわずか七%にしかすぎないのであります。ちなみに、四十五年度における西欧各国の年金受給者の比率を見るならば、スウェーデン一〇〇%、イギリス八四・二%、アメリカ八二・六%、西独五二・五%、これと比較して、あまりにもわが国
年金制度が貧弱であり、未成熟であるかは一目瞭然のことでございます。
三番目に、一定の被保険者期間を経ないと年金が支給されない現行
年金制度の積み立て方式にこそ最大の要因があり、その積み立て方式のままで
年金制度の成熟化を持つことはもはや許されず、現在生活に逼迫している老人に、直ちに標準生活を維持し得る年金を支給してこそ、実効ある
年金制度と言えるのではないでしょうか。
現存の老人たちは、いわば、今日日本の繁栄を築き上げた陰の貢献者だと思います。すなわち、いまのお年寄りは、その楽しかるべき青春時代を戦火の混乱のまっただ中で生き、戦後はきびしい食糧衷情と荒廃した
社会情勢のもとで、わが身を顧みず、両親と子供をかかえて過酷な環境にうちかってきた人々ばかりです。しかるに、余生を楽しむべき老後になると、都市化、核家族化、さらに物価高といった
社会的変動の波にさらされ、経済的、精神的不安は、なおもきびしくおおいかぶさっている実情でございます。
一方、年金財政の積み立て方式によって、機構的に戦後の国家再建のために大きく寄与し、年金保険料の集約による積み立て金で、大企業の設備投資や産業基盤の公共投資に利用するなど、今日の驚異的な高度経済成長国家を築き上げたのも、現存の老人たちの汗と涙の結晶が下ささえであることを忘れてはなりません。
ところが、その老人たちへの見返りは、何と物価の高騰及び公害では、あまりにも悲劇でございます。
総理は、あの
沖繩の学童疎開で避難した対馬丸事件を御存じでございましょう。あのおり、生き残った数少ない児童、いまは成長して、先日テレビで
沖繩の現状を訴えておりました。六十代七十代の老人は、子供を失い、戦いと貧苦に耐えて生きてきた、これらの老人をこそ
復帰にあたってはあたたかく迎えてほしいという訴えであります。この涙ながらの声を、総理はぜひともしかと受けとめていただきたいと存じます。たびたび総理が口にされる「
福祉なくして成長なし」、これを真にうたうのならば、発展途上に見られる積み立て方式から、現在困っている人々にいますぐ年金を支給する賦課方式への転換をはからずして、私は、
福祉なくして成長なしとは断じ言えないと訴えるのでございます。総理並びに大蔵大臣の御見解を伺います。(
拍手)
第四に、重要なことは、国の責任のもとに、
老後生活の保障を、個人や家族ではなく、世代間相互扶助の精神に基づく賦課方式の採用ということでございます。したがって、私は、
国民の共同連帯による世代間相互扶助の精神に基づき、老後の生活の安定のために、最低生活保障年金二十四万円、
月額二万円を支給することを主張いたします。
この実現の方途は次のとおりです。
すなわち、四十七年度におい厚生年金、
国民年金の保険料収入が一兆二千三百五十一億円、積み立て金からの利子収入四千四百二十八億円、国庫負担金一千三十六億円、合計一兆七千八百十五億円の単年度収入が見込まれ、かりに四十八年度において六十五歳以上の老人に一人
月額二万円を支給しても、最大で一兆六千四百十六億円で、即時実現を見、しかも、一千三百九億円が年金原資に繰り込まれていくのでございます。したがって、財政硬直化を招くことなく、
政府がやる気にさえなるならば、即刻実現できるのでございますが、大蔵大臣、厚生大臣の具体的見解を伺いたいのであります。(
拍手)
さらに、稼働時の生活水準維持のために所得比例年金を加味し、より豊かな
年金制度にしたいと思います。現行の
年金制度が老後の所得保障の名のもとに、ともすればあいまいになりがちな年金の性格を生活保障部分と所得保障部分とに明確に位置づけた画期的な改革案であると主張いたします。
また、現行の
年金制度に魅力のない点は、スライド制のあり方にあると思います。年金はその実質的価値を維持してこそ老後の生活保障にふさわしい年金となるのでございますが、現行の厚生年金及び園長年金は、五年ごとに財政再計算をする政策スライドになっております。これでは今日の物価高に対応できないのは当然です。二年ごとに定額部分は物価に、比例部分は賃金に自動スライドさせるべきだと主張するものでございますが、大蔵大臣、厚生大臣の見解をお伺いしたいと思います。
第五に、老齢
福祉年金の引き上げと年齢の繰り上げについてお尋ねします。
昨年七月二十四日、
国民年金
審議会
福祉年金小
委員会の「結社
年金制度の
改善について、」の中間
報告の中で、老齢
福祉年金の具体的水準を現在の時点で現行額の倍額に引き上げ、
昭和五十年ころには厚生年金、拠出制
国民年金が現行の倍近くに増額される見込みなので、老齢
福祉年金もそれに対応して引き上げること等を指摘していることは御承知のとおりです。
そこで、厚生大臣にお尋ねいたしますが、
昭和五十年にピークを迎えて、その後減少していく老齢
福祉年金に対して、今後どのような
改善計画がおありなのか、その目標を具体的にお示しいただきたいと存じます。
最後に、制度発足の当時任意加入の
対象にもならず、皆年金体制から漏れてしまった現存の六十六歳から七十歳未満の年金の谷間に埋没する約二百万人の老後の生活保障について、具体的な
対策を示していただきたいと存じます。
以上、数点にわたりお尋ねいたしました。
いま、外は春らんまん過ぎてあたたかな初夏の陽光が輝いております。今日の日本のお年寄りの暮らしに一体いつ春がやってくるのか、総理以下関係大臣の具体的であたたかな答弁を心からお願いして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕